質疑応答 2016年4月 薬事情報センターに寄せられた質疑・応答の紹介(2016年4月) 【医薬品一般】 Q:スプレキュア TM(ブセレリン酢酸塩)の使用中止後、排卵回復までの期間は?(薬局) A:ブセレリン酢酸塩は性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)誘導体で、子宮内膜症等に使 用する。反復投与により下垂体のGnRH受容体を連続的に刺激し、受容体数を減少させ(ダ ウンレギュレーション)、ゴナドトロピン及び性ホルモンの産生、分泌を抑制することにより 排卵を抑制する。 (点鼻)基礎体温をフォローできた283例の調査。排卵回復率は累積例数で、中止後5週で 49.5%、8週で86.2%。全例で投与終了後に排卵を確認でき、卵巣機能は確実に回復。 (皮下注射)基礎体温が確認でき、排卵日が特定された47例の調査。排卵回復率は累積例数で、 中止後8週以内で78.7%、16週までで89.4%、24週までで100%。全例で中止後24週間以 内に排卵が回復。 Q:好酸球性副鼻腔炎の治療法は?(一般) A:好酸球性副鼻腔炎は、マクロライド少量療法や内視鏡下鼻副鼻腔手術(ESS)に抵抗性の再 発性・難治性副鼻腔炎で、指定難病のひとつである。病因は未解明だが、黄色ブドウ球菌の菌 体外毒素であるエンテロトキシン等の外的因子と、アラキドン酸代謝異常等の内的因子の関与 が示唆されている。 (臨床像) ①成人発症の両側性かつ多発性浮腫状の鼻茸、②鼻茸や副鼻腔粘膜に好酸球優位な炎症性細 胞浸潤、③嗅覚障害、④粘稠性分泌物(にかわ状、多数の好酸球)の貯留、⑤鼻アレルギー (Ⅰ型)の関与が少なく、IgE値(特異、非特異)はさまざま、⑥喘息(非アトピー)、 アスピリン不耐症、NSAIDsアレルギーに伴うことが多い、⑦血中好酸球の増多、血中・ 鼻粘膜ECP濃度が高値、⑧治療、特に手術治療に抵抗性、⑨ステロイド薬の全身投与が有 効(局所ステロイド薬は無効)。 (治療) 細菌やウイルス感染による急性増悪の膿性鼻汁には、アモキシシリンと気道粘液溶解薬を併 用する。感染が治まり、慢性期の第一選択薬は経口ステロイド、特に抗ヒスタミン薬との配 合剤(セレスタミンTM 等)が著効し、約1~2週間の内服で鼻茸は縮小する。嗅覚障害は内 服中に改善し、中止すると再燃する。経口ステロイドは継続的に使用できず、代替としてE SSを行うことが多い。術後は経口ステロイドとマクロライド少量投与、生理食塩水による 鼻洗浄を継続する。その後、経口ステロイドは漸減中止し、鼻噴霧用ステロイドへ移行する。 鼻茸は長期未受診やウイルス感染等で急激に大きくなり、難治性好酸球性副鼻腔炎では、術 後6年間で50%以上の再発を認める。 Q:悪液質(カヘキシア)とは何か?(薬局) A: 定義 併存疾患に起因し、脂肪の減少の有無にかかわらず、筋肉量の減少を伴う複雑な代 謝症候群で、特徴として体重減少がある。 原因 疾患 癌、慢性感染症(結核、HIV感染症等)、膠原病、慢性心不全、慢性腎障害、慢性 呼吸器疾患、慢性肝疾患、炎症性腸疾患等 診断 基準 (必須条件) 誘因となる原疾患の存在、12 ヶ月で5%以上の体重減少(もしくはBMI<20) (追加項目)5つのうち3つ以上該当の場合に確定 ①筋力低下 ②疲労 ③食思不振 ④筋肉量(除脂肪指数)の低下 ⑤検査値異常(Alb<3.2g/dL、Hb<12.0g/dL、CRP>0.5mg/dL) 【安全性情報】 Q:乳癌でアロマターゼ阻害薬服用患者の骨粗鬆症治療に、選択的エストロゲン受容体モジュレー ター(SERM)の投与は問題ないか?(薬局) A:アロマターゼ阻害薬の使用により骨密度が低下し、骨粗鬆症になると骨折リスクは上昇する。 アロマターゼ阻害薬のアナストロゾールと、SERMのタモキシフェンの併用試験で、有害事 象が増加し、さらにアナストロゾールの乳癌再発抑制効果の阻害が認められた。SERMは、 理論上アロマターゼ阻害薬との相互作用が懸念されるため、併用は推奨されない。アロマター ゼ阻害薬服用中の骨粗鬆症治療には、カルシウム・ビタミンDの補充、ビスホスホネート系薬、 デノスマブの投与が推奨されている。 Q:腎機能低下者の高尿酸血症へのアロプリノールとフェブキソスタットの使用法は?(薬局) A:腎機能が低下すると尿酸排泄が低下し、高尿酸血症の頻度は高まる。アロプリノールは腎排泄 型で、腎機能に応じた用量調節が必要である。フェブキソスタットは糞中・尿中にほぼ均等な 割合で排泄されるため、軽度から中等度の腎機能低下者でも用量の調節は不要だが、慢性腎臓 病(CKD)におけるエビデンスは不十分である。 薬剤 アロプリノール フェブキソスタ ット CCr(mL/mim) >50 10~50 <10 透析 (HD) 200~300mg 分2~3 50~100mg 分1 50mg 分1 100mg 週3回 毎HD後 1日1回10mgより開 始し、維持量20~40mg (最大1日60mg) 用量調節は不要。 AUCが腎機能軽度~重度低下群では48~76% 上昇するため、少量から慎重に投与する。 透析性なし。 Q:薬剤性PIE症候群とは?(薬局) A:PIE(pulmonary infiltration with blood eosinophilia)症候群は、胸部X線像上、浸潤影 を呈し末梢血中の好酸球増多をきたす症候群で、臨床診断的なものである。現在では、末梢血 に好酸球増多がない肺の好酸球浸潤性病変の存在が知られており、好酸球性肺炎という病理組 織所見を中心とした概念となっている。症状は、無症状から重症まで幅広く、一般に咳嗽、痰、 発熱、呼吸困難、喘鳴を呈することが多い。 薬剤性PIE症候群は、β-ラクタム系抗生物質、クラリスロマイシン、ミノサイクリン、カ ルバマゼピン、ダントロレン、クロモグリク酸ナトリウム、ペニシラミン、サラゾスルファピ リジン等による薬物アレルギーが原因となるが、実際に確定は難しい。発症機序は明らかでは ないが、Ⅰ、Ⅲ、Ⅳ型アレルギーの関与が示唆されている。 【その他】 Q:散剤を分包したときの誤差の範囲は?(薬局) A:重量誤差は、分包品の総重量から包装紙の重量を引いた値を実測値とし、実測値と散剤総重量 の理論値から計算した調製工程における散剤損失量の割合が2%以下とする。 分包重量偏差は、個々の包装紙込重量を秤量したとき、変動係数として6.1%以下が望ましい (分包した散剤の個包装込重量が、基準化された正規分布をするものとして、全体の分包散剤 の90%が平均重量値の100±10%に入る範囲は、変動係数で6.08%≒6.1%である)。TDMを 行っている薬剤等に関しては、薬剤個々について科学的根拠に基づいた最低限度の数値を設定 する必要がある(第13改訂 調剤指針 増補版 日本薬剤師会編より)。 Q:食事摂取基準(2015年版)では、コレステロールの摂取上限がなくなったのか?(薬局) A:コレステロールの摂取量は、直接血中総コレステロール値に反映されるわけではないため、コ レステロール値に関する基準(目標量)の設定が削除された。 (理由)食事性コレステロールは、体内で合成されるコレステロールの1/3~1/7 程度である。 コレステロールの摂取量に応じて末梢への補給が一定に保たれるように、肝臓での合成に フィードバック機構が働く。
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