熱力学第二法則 関連事項のまとめ

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熱力学第二法則 関連事項のまとめ
1.可逆と不可逆過程
可逆過程または可逆変化・・・周囲との相互作用により系が状態変化したとき,
系と周囲の状態を全て元に戻す過程が存在する.
例:等温状態での熱の相互作用,摩擦のないシリンダ・ピストン内ガス
の準静的な膨張・圧縮過程など
不可逆過程または不可逆変化・・・周囲との相互作用により系が状態変化したとき,
系と周囲の状態を全て元に戻す過程が存在しない.
例:摩擦を伴う運動,多成分の流体の混合,高温から低温への熱移動(伝
熱)
,気体の自由膨張,塑性変形など
2.熱力学第2法則
不可逆過程の存在を経験法則として表したもので,様々な表現方法がある.その 2 つを以下に示す.
何れの原理も表現は違うが全く同じ内容を表している.
★トムソンの原理(仕事側から第2法則を表現したもの)
ある温度の物体から熱を奪い,それをすべて 仕 事 に変えるのみで,それ以外に 何の変化
も残さないような装置を作ることは不可能である.
★クラウジウスの原理(熱側から第2法則を表現したもの)
低温物体から熱を取り,それを 高温物体 に移すのみで,それ以外に 何の変化 も残さないよう
な装置を作ることは不可能である.
トムソンの原理からクラウジウスの原理を導いてみる.(対偶による証明)
トムソンの原理を否定すると,物体から熱を奪い,(周囲に何ら変化を残さずに)全てを仕事に変え
ることができる装置が存在する.従って,低温物体から熱を奪い,その仕事を全て摩擦仕事として高温
物体の加熱に使うことができる.つまり,トムソンの原理を否定するとクラウジウスの原理も否定され
る.従って,トムソンの原理が正しければクラウジウスの原理も正しいことになる.
(証明終)
第 2 法則に反する装置のことを 第 2 種の永久機関 とよぶ.
言葉の定義
★ 熱 源
熱容量が無限大の理想的な閉じた系 熱の授受があっても系の温度は変化しない.
例 高温の燃焼ガス,海洋,大気など
★ 作動流体
熱機関やヒートポンプ内で,熱の授受や体積膨張によって仕事を発生する流体のこと.
例 空気,冷媒,燃焼ガス,
★ サイクル
系内の作動流体が周囲との間で,熱や仕事の相互作用によって状態変化をしながら再び
元の状態に戻る過程.pV 線図上でサイクルは閉曲線で表される.
過程の全て或いは一部が不可逆変化である場合,不可逆過程の定義から逆方向にサイ
クルを行わせるともとのサイクルと一致しない.これを不可逆サイクルと呼ぶ.これに
対して,過程の全てが可逆変化である場合には,もとのサイクルと一致する.これを可
逆サイクルと呼ぶ.
2
3.熱機関とヒートポンプ(冷凍機)
★ 熱機関
Heat Engine
高熱源から熱量 Q1 を受けて低熱源に熱量 Q2 を放出しながら継続して周囲に対して仕事 W を行う装
置.熱機関の 1 サイクルの状態変化は,pV 線図上の右回りの閉曲線で与えられる.閉曲線の面積が
1 サイクル当たり周囲に対して行う仕事量 W(>0)となる.
図1 HE と熱源間の熱・仕事のやりとり
図2 HE の pV 線図
★ ヒートポンプ(冷凍機)
周囲から仕事 W を受けて,低熱源から Q2 の熱量を奪って,高熱源に Q1 の熱をくみ上げる装置.熱
機関を逆方向に作動させたもの.低熱源からの吸熱(冷却)を目的とする場合が冷凍機,高熱源へ
の放熱(暖房)を目的とする場合をヒートポンプと使い分けられるが,いずれも同一の装置である.
ヒートポンプ(冷凍機)の 1 サイクルの状態変化は,pV 線図上の左回りの閉曲線で与えられる.閉
曲線の面積が 1 サイクル当たり周囲から受ける仕事量 W(<0)となる.
図3 HP と熱源間の熱・仕事のやりとり
図4
HP の pV 線図
★ 熱効率
熱機関の性能を評価する指標.高熱源から受ける熱量 Q1 をどれだけ多く正味の仕事量 W に変換で
きるかを表す.
1サイクル中に正味得られた仕事
1サイクル中に高熱源から受けた熱量
ただし,熱力学第1法則より, dQ
dW
W
Q1
Q1 Q2
Q1
,W
1
Q2
Q1
1
Q1 Q2
★ 動作係数
ヒートポンプ,冷凍機の性能を評価する指標.与えた仕事 W に対して,目的とする熱量 Q1(ヒー
トポンプ)または Q2(冷凍機)がどれだけ多く得られるかを表す.成績係数,COP ともいう.
冷凍機 r
Q2
W
Q2
Q1 Q2
ヒートポンプ h
Q1
W
Q1
Q1 Q2
1
Q1 / Q2 1
1
1 Q2 / Q1
ここでは,便宜上,仕事 W と熱量 Q の符号について,熱力学の約束ではなく矢印で示された向きを
正に取るので,第 1 法則の式と組み合わせるときには仕事と熱の正負の符号に注意しなければならない.
3
4.カルノーサイクル
カルノー(Carnot 仏)が 1824 年に提案した 2 本の等温線と 2 本の断熱線で構成されるサイクル.
カルノーは,熱から仕事への変換過程で不可逆が生じないように,等温の準静的過程で熱の授受を行う
ことを考えた.さらに,閉曲線でサイクルを構成するために等温変化に可逆断熱変化を組み合わせた.
カルノーサイクルは可逆サイクルである.
1→2
等温膨張過程(絶対温度 T1 の高熱源から熱量 Q1 を受ける)
2→3
断熱膨張過程
3→4
等温圧縮過程(絶対温度 T2 の低熱源に熱量 Q2 を捨てる)
4→1
断熱圧縮過程
図6カルノーサイクルの pV 線図
図5カルノーサイクルと熱源間の熱・仕事のやりとり
5.カルノーサイクルの性質
カルノーサイクルに対して熱力学第 2 法則を適用すると,以下に示されるカルノーサイクルについて
の重要な性質が導かれる.
★同一の高熱源と低熱源の間で作動する熱機関の中で,カルノー熱機関の熱効率が,最高である.
カルノー熱機関の熱効率 c より大きな熱効率
1 を有する熱機関 M(
1
1
>
が存在すると仮定する.
c)
可逆サイクルであるカルノーサイクルは逆向きに動作可能であるので,逆カルノーサイクル(カルノー
ヒートポンプ)を MC2 とする.
高熱源(絶対温度 T1)と低熱源(絶対温度 T2)との間で熱機
関 M1 が仕事 W を発生し,その仕事でヒートポンプ MC2 を運転
するとき,
仮定
1
c
(
1
) より,
hc
W
Q1
W
Q2 W
つまり,(Q2+W)- Q1 > 0 となる.
このとき,M1 と MC2 からなる系に注目すると,低熱源から高
熱源へ熱量(Q2+W)- Q1(> 0)が移動する以外,系は周囲に対し
て何も変化も残していない.この仮定は,クラウジウスの原理
により否定される結果,(Q2+W)- Q1 ≦ 0 すなわち,
が導かれ,カルノーサイクルの熱効率が最高となる.
1
≦
c
図7 M1 と Mc2 からなる系
★同一高熱源と低熱源の間で作動する可逆サイクルとカルノーサイクルの熱効率は,等しい.
右図に示されるように同一の高熱源と低熱源の間で熱機関 M1 とカルノーヒートポンプ MC2 が作動し
ているとする.M1 の熱効率を 1,MC2 を逆方向に作動させたカルノー熱機関の熱効率を
c2 とする.
4
i)
1<
c2
のとき
この場合,(Q2+W)- Q1 < 0 となる.この系が作動する間,熱
は高熱源から低熱源に移動し,それ以外の変化は何も起こらな
い.高温から低温への熱移動過程は,不可逆過程であるため,
この系は不可逆過程となる.MC2 は,可逆サイクルであるため,
M1が不可逆サイクルであることが分かる.不可逆サイクルの熱
効率は,カルノーサイクルの熱効率よりも低くなる.
ii )
1=
c2
のとき
この場合,(Q2+W)- Q1 = 0 となる.M1 と M C2 をそれぞれ逆
方向に運転すると,MC2 で得られた仕事でヒートポンプ M1 を運
転すると,高熱源から低熱源に移動した熱は,すべて低熱源か
ら高熱源に戻されており,それ以外の変化は何も生じていない 図8 可逆熱機関とカルノーHP の系
ことから,この系は可逆過程であることが分かる.つまり,M1
は可逆サイクルであり,その熱効率はカルノーサイクルの熱効率に等しい.
★ カルノーサイクルの熱効率は,作動流体の種類に依存しない.
同一の高熱源,低熱源の間でカルノー熱機関 MC1 とカルノー
ヒートポンプ MC2 を運転する.MC1,MC2 は,それぞれ作動流体
1 と作動流体 2 の異なる物質を用いている.
MC1,MC2 からなる系に対して,クラウジウスの原理を満足す
るためには,(Q2+W)- Q1 ≦ 0
すなわち,
c1
≦
c2
でなければならない.
一方,MC1,MC2 は,可逆サイクルなのでそれぞれ逆方向に作
動させると,前と同様に
c2
≦
c1
を満足しなければならない.
これより,2つの不等式を同時に満足するためには,
c1
=
c2.つまりカルノーサイクルの熱効率は,作動流体に依
存しないことが示される.さらに,可逆サイクルの熱効率は,カ
図9
カルノーHE と HP の系
ルノーサイクルの熱効率に等しいので,可逆サイクルの熱効率は,
作動流体の種類に依存しないことが分かる.
★カルノーサイクルが両熱源との間でやりとり行う熱量の比は,両熱源の温度だけの関数となる.
図に示されるように,温度 t1, t2, t3 の3つの熱源の間にカルノ
ー熱機関 MC1 と MC2,ヒートポンプ M3 が作動しているとする.
ただし,t1 > t2> t3 とする.
(小文字の t は,経験温度を示す)こ
のとき,
MC1 は,高熱源より Q1 の熱を受け,中熱源に Q2 の熱
を捨てて,W1 の仕事を発生する.
MC2 は,中熱源より Q2 の熱を受け,低熱源に Q3 の熱
を捨てて,W2 の仕事を発生する.
M3 は,仕事 W3 を得て,低熱源より Q3 の熱を受け,高
熱源に Q4 の熱を与える.
トムソンの原理より,MC1,MC2 および M3 からなる系は,
1つの高熱源から熱を受け取って仕事を発生することができな
図 10 3熱源間で作動する HE,HP
5
いので,W1 + W2 - W3 ≦ 0 を満たさなければならない.
W1 + W2 - W3 = (Q1-Q2) + (Q2-Q3) - (Q4-Q3) = Q1-Q4
より,
Q1-Q4 ≦ 0 を満たす必要がある.
次に,MC1,MC2,M3 をそれぞれ逆方向に作動させると,トムソンの原理を満足するためには,
W3 - W2 - W1 ≦ 0,つまり,Q4-Q1 ≦ 0 が成立しなければならない.
以上より,Q4 = Q1 のとき,両方の不等式を満足するので,両方向への作動が可能となる.つまり,こ
の系は可逆サイクルの過程で,M3 も可逆サイクルであることが分かる.
一方,不等号の成立はこの系が不可逆つまり,M3 が不可逆サイクルのときに対応する.例えば,M3
が不可逆ヒートポンプとして作動する時,周囲から系に与えられた仕事 -(W1 + W2 - W3) > 0 は,全て熱
に変換されて高熱源に与えているだけで,それ以外は,何も変化していない.(仕事から熱への変換過
程は不可逆過程)
次に,MC1,MC2,M3 すべてが可逆サイクル(Q4 = Q1)のとき,各サイクルの熱効率を考える.
ただし,カルノーサイクルの熱効率は,両熱源の温度だけに依存するので,カルノー関数 f (t1 , t2 ) を用
いて熱効率を表すと,以下のようになる.
c1
W1
Q1
Q1 Q2
Q1
1
Q2
Q1
1 f (t1 , t 2 )
c2
W2
Q2
Q2 Q3
Q2
1
Q3
Q2
1 f (t 2 , t3 )
Q4 Q3
Q4
1
Q3
Q1
1
W3
Q4
3
Q2 Q3
Q1 Q2
代数式
f (t1 , t3 )
Q3 の関係から,カルノー関数 f は, f (t , t ) f (t , t )
1 2
2 3
Q1
このような関係を f が満たすためには, f (t , t ) Q2
1 2
Q1
っている必要がある.まだ
(t 2 )
(t1 )
f (t1 , t3 ) となる.
のように,f が熱源温度の関数 の比にな
(t)の具体的な関数形は決まっていないが,温度 t に対してその値が決定で
きる.そして,両熱源との間で移動する熱量の比 Q2/Q1 を測ると上の関係式を使って,ある基準温度に
対する相対的な温度が決定できるので, のことを 熱力学的温度 目盛と呼ぶ.
6.2つの熱源の間で作動するサイクルに対する熱力学第 2 法則の数式表現
カルノーサイクルの熱効率は,作動流体の種類に依存しないので, (t)の値を作動流体が理想気体の
場合について求めても構わない.そこで,理想気体を作動流体とするカルノーサイクルの Q2/ Q1 を求め
ると,
準静的過程に対する熱力学第一法則(微分形)は,
dQ = dU + pdV
カルノーサイクルは熱源との熱の授受を等温過程で行うので,dU = 0
dQ = pdV
高熱源から受け取る熱量 Q1 は,
Q1
2
1
pdV
mRT1
2
1
dV
V
mRT1 log(V2 / V1 )
同様に,低熱源に捨てられる熱量 Q2 は,
Q2
2
1
pdV
mRT2
4
3
dV
V
mRT2 log(V3 / V4 )
6
さらに,可逆断熱変化の関係式 TV
Q2
Q1
(t 2 )
(t1 )
T2
T1
-1
= 一定より, V2 / V1 V3 / V4 の関係を代入すると,
(t1,t2 は経験温度,T1,T2 は絶対温度を表す)
が得られ,熱力学的温度目盛は絶対温度と完全に一致することが分かる.
熱量 Q の正負の符号を熱力学の定義に従って,温度 T1 の高熱源から受ける熱量 Q1 を Q1,温度 T2 の
低熱源へ捨てられる熱量 Q2 を-Q2 にそれぞれ書き換えると.上の関係式は次のようになる.
Q1
T1
Q2
T2
(可逆サイクルのとき)
0
一方,不可逆サイクルの熱効率 は可逆サイクルの効率
Q1 Q 2
Q1
1
T1
T2
より, Q1
T1
Q2
T2
c よりも低くなること(
c)から,
(不可逆サイクルのとき)となる.
0
以上をまとめると,2つの熱源と作用する任意のサイクルにおいて,熱力学第 2 法則は,
Q1
T1
Q2
T2
0
と書ける. ただし,等号,不等号はそれぞれ可逆,不可逆サイクルに対応する.
7.任意のサイクルに対する熱力学第 2 法則の数式表現
前節で示された2つの熱源と作用するサイクルに対する熱力学第 2 法則の数式表現を複数の熱源と作
用する n 個のサイクルへ拡張することを考える.
図に示されるような任意の可逆サイクルを n 個の可逆カルノーサイクルを重ねて近似する.重複する
i 番目のカルノーサイクルの可逆断熱膨張線と i+1 番目のカルノーサイクルの可逆断熱圧縮線は,過程が
進む方向がそれぞれ逆方向になるため打ち消し合う.
(i 番目のサイクルが可逆断熱膨張するときに発生
する仕事を利用して,i+1 番目のカルノーサイクルの可逆断熱圧縮が行われる)その結果,n 個のカルノ
ーサイクルは,2n 個の熱源(T1,T2,・・・,Tn,T1’,T2’,・・・Tn’)と熱をやりとりするサイクルを表す.各カ
ルノーサイクルに対して第 2 法則の式を書くと以下の
ようになる.
1 番目のカルノーサイクル
Q1
T1
Q1 '
T1 '
0
Qi
Ti
Qi '
Ti '
0
:
i 番目のカルノーサイクル
:
n 番目のカルノーサイクル
全てを足し合わせると,
n
i 1
Qi
Ti
Qi '
Ti '
Qn
Tn
Qn '
Tn '
0
0
となる.
ここで,Qi’= Qi+n (< 0 放熱),Ti’= Ti+n と記号を書き
換えると,
2n
i 1
Qi
Ti
0 となる.
また,n 個のサイクルの中に 1 つでも不可逆サイクル
図 12 任意のサイクルに対するカルノー近似
が含まれる場合には,
2n
i 1
Qi
Ti
0
となる.
以上より,任意のサイクルを近似する n 個のサイクルに対して,次式が成立する.ただし,等号と不
等号は,それぞれ可逆と不可逆サイクルに対応する.また,熱のやりとりを行う系の温度は熱源(周囲)
の温度と等しいとは限らない(可逆変化サイクルのときは,熱的平衡状態を保ちながら熱の授受が行わ
れるので,同じ温度となる)ので,Ti の代わりに Ti (e)と表記する.
7
2n
i
Qi
(e)
T
1 i
0
次に,任意のサイクルを近似する 2n 個の熱源の数を無限に増やすと,温度 Ti(e)は連続的に変化する温
度 T(e),熱源との間でやりとりする熱量 Qi は,微小量 dQ とおくことができる.そして,総和記号Σは,
1 サイクルの周回積分
に書き換えることができる.すなわち,
n→∞ のとき,
2n
i
Qi
( e)
1 Ti
dQ
0 ( e )
T
0
この式をクラウジウスの不等式と呼び,任意のサイクルに対する熱力学第 2 法則を不等式で表現したもの
である.ただし,等号は可逆サイクル,不等号は不可逆サイクルをそれぞれ表す.
8.エントロピー
任意の可逆サイクルに対するクラウジウスの不等式は,
dQ rev
T ( e)
(ただし,添字 rev は reversible(可逆)を示す.)
0
となる.すなわち,dQrev/T は
圧力,温度,体積,内部エネルギー,エンタルピーなどの熱的平衡状
態にある系の状態を定める状態量の性質を有することを意味する.
そこで,dQrev /T(e)を新しい状態量エントロピーS と定義する.つまり,
dS = dQrev /T(e)
[J/K]
また,系の質量 m でエントロピーS を除した 比エントロピ
ー をs=S/m
[J/(kgK)] と定義する.
次に,サイクルという制限をはずして,状態 1 から 2 への
任意の過程に対するエントロピーの変化(熱力学第 2 法則)
を考える.
図に示されるように状態1から状態2に至る不可逆過程 IR
(IRreversible:不可逆)と状態 2 から状態1に至る可逆過程 R
(Reversible:可逆)を考える.IR と R を組み合わせた過程は,
不可逆サイクルとなるので,クラウジウスの不等式より,
dQ
T (e)
dQ
IR T (e)
2
1
1
2
R
dQrev
T (e)
0
図 13 可逆と不可逆過程から成るサイクル
となる.
(全ての過程が可逆のときは,この周回積分は当然 = 0 となる)
ここで,1→R→2 は,可逆過程なので,
1
2
S2
S1
2
1
dQ
T (e)
dQrev
R T (e)
1
2
dS
R
(S2
S1 )
の関係を上式に代入すると,
(等号は,可逆サイクルのとき成立)
この式より,系の状態量であるエントロピーの変化は,
2
1
dQ
よりも大きい値を取ることが分かる.
T (e)
そこで,閉じた系の不可逆過程の度合いを評価する尺度としてエントロピー生成 Sgen を次のように定義
する.
8
S gen
(S 2 S1)
系のエントロピーの変化量
エントロピー生成量
(状態量)
( 状態量ではない)
2
1
dQ
T (e)
0
エントロピー輸送量(状態量でない)
ここで,Sgen は,系内で生じる不可逆過程(例えば,系内で温度勾配を伴って熱移動が生じる,流体
の粘性損失など)によるエントロピー生成,右辺第 1 項は系内のエントロピー(状態量)の変化,右辺
第2項は系と周囲との間の熱移動に伴うエントロピー輸送量をそれぞれ表す.右辺第 1 項は,状態量で
あるのに対して,第 2 項のエントロピー輸送量の積分は,1→2 の経路に沿って授受を行う熱量や授受を
行うときの温度変化 T(e)についての情報が必要であるため一般に不可逆過程に対する計算は困難となる.
なお,1→2 が可逆過程のとき,Sgen = 0 となるので,エントロピーの微分 dS は,dQ/T(e)と等しくなる.
dS=dQ/T(e) を経路上に沿って積分を行うとエントロピーの変化 S = S2 - S1 が具体的に計算できる.
また,周囲から系に熱が流入しているときは,エントロピー輸送項は正,流出しているときは負の値
をとるため,エントロピーの変化量 S = S2 - S1 は,正,0,負のいずれの値も成り得るのに対して,エ
ントロピー生成量 Sgen はつねに正か0しか取り得ないことに注意する必要がある.
★孤立系・断熱系のエントロピー変化
孤立系あるいは断熱系に対しては,周囲との間の熱のやりとりがないので dQ = 0 となり,
Sgen = S2 - S1≧0 となる.つまり,孤立系・断熱系で不可逆過程が生じるときは,常に状態量のエントロ
ピーが増大することがわかる.
また,系(system)と周囲(surrounding)の全体に対する系は,孤立系となるので,系と周囲のエントロ
ピーの変化量の和も増大する方向にしか変化が起こらないことがわかる.
(エントロピー増加の原理)
(S 2 S1 ) sys
(S 2 S1) sur
周囲のエントロピーの変化量
系のエントロピーの変化量
(状態量)
(状態量)
0
9
8.最大仕事と有効エネルギー
周囲と非平衡状態にある系(例えば,周囲温度と非平衡状態の系,周囲圧力と非平衡状態の系など)
は,周囲と接触させて放置すると,熱的,力学的に平衡状態に至るだけで何ら仕事を発生しない.
しかし,系と周囲の間で装置(例えば,熱機関など)を設置すると仕事を取り出すことができる.
最大仕事とは,周囲と非平衡状態にある系が周囲と平衡状態になるまでに外部に取り出すことが可能
な仕事の最大値を示し,エクセルギー(excergy)とも呼ばれる.最大仕事(エクセルギー)は,系が保有す
る全エネルギーのうち,仕事として取り出すことができるエネルギーの最大値を示すので,有効エネル
ギー(available energy, availability)とも呼ばれる.全エネルギーから有効エネルギーを差し引いた仕事
に変換できないエネルギーを無効エネルギー(anergy)と呼ぶ.最大仕事は,系が周囲と平衡状態に至る間
に発生するため,周囲条件によって相対的に決まる量である.大気を周囲とする場合,その基準温度 Ta
= 298.15 K (25℃),基準圧力 pa = 0.101325MPa (1atm)に定められる.
★熱源の熱を利用する系の最大仕事
温度 T の熱源からの熱を周囲温度 Ta のもとで利用するときの最大仕事は,熱源から受け取る熱量 Q
にカルノー効率をかけたものに等しい.
Wmax = Q (1 - Ta/T)
★閉じた系の最大仕事
閉じた系が周囲から熱量 Q を受け取って温度 Ta,圧力 Pa の周囲と平衡状態に至るときの最大仕事を
求める.添字1は初期状態,添字 a は周囲と平衡状態をそれぞれ表す.
閉じた系に対する熱力学第 1 法則
Q = (Ua-U1) + (W+Wa)
ただし,W は,系が外部に対して行う仕事から大気が行う仕事を差し引いた正味仕事,Wa は系がピ
ストンの裏側を大気圧で押す周囲に対して行う仕事で,この仕事は正味仕事には算入できないので系が
行う仕事を正味仕事 W と周囲に対して行う仕事 Wa に分けている.可逆変化のときは,Wa = pa (Va - V1)
となる.
一方,周囲から受け取る熱量 Q は,熱力学第 2 法則によって拘束を受ける.
系と周囲の全体(孤立系)に対する熱力学第 2 法則は
Sgen = (Sa - S1)sys + (Sa - S1)sur ≧ 0
周囲は大気温度 Ta で一定であるため,(Sa - S1)sur = -Q/Ta
(Sa - S1)sys ≧ Q/Ta
を代入すると.
つまり,Ta (Sa - S1)sys ≧ Q
これより,
W ≦ (U1 - U a) - Ta (S1 - Sa) + pa (V1 - V a) となり,
この不等式より最大仕事 Wmax は,過程が可逆的に行われたとき得られ,
Wmax =
(U1 - U a) - Ta (S1 - Sa) + pa (V1 - V a) となる.
さらに,等積変化の場合には,
Wmax =
(U1 - U a) - Ta (S1 - Sa) となる.
可逆過程における熱量 Q の移動は,周囲と平衡状態を保ちながら行う必要があるので,最大仕事は,
1)可逆断熱変化で周囲温度 Ta と等しい温度まで変化させる.2)可逆等温変化で,周囲圧力 pa と等
しくなるまで熱量 Q を移動させる.以上の経路のときのみ達成される.
10
★ 定常流れ系の最大仕事
流体の保有エネルギーのうち運動エネルギーと位置エネルギーを無視すると,定常流れ系に対する熱
力学第 1 法則の式は,
Q = (Ha - H1) + Wt
ただし,Wt は,工業仕事(絶対仕事から流れ仕事 pV を差し引いた正味仕事)
.
第 2 法則の拘束条件 Ta (Sa - S1)sys ≧ Q
より,
Wt ≦ (H1 - Ha) - Ta (S1 - Sa)
この不等式より最大仕事 Wmax, t は,過程が可逆的に行われたときに得られ,
Wmax,t = (H1 - Ha) - Ta (S1 - Sa)
となることが分かる.
ここで,可逆変化するときのエントロピーの変化は,
dS
dQ / T
(dH Vdp) / T と書ける.
理想気体に対しては,dH = mcpdT ,V = mRT/p となるので,
dS
m{c p ( dT / T ) R (dp / p)} を得る.この式を 1→a(周囲と平衡状態)まで積分すると,
Sa - S1 = m{cp log(Ta/T1) – R log(pa/p1)} となる.
【注意】 可逆過程における絶対仕事 W と工業仕事 Wt の区別
dW = p dV
dWt = dW – d(pV) = -Vdp ただし,pV は流れ仕事
流れ系における絶対仕事は,実際に利用できる工業仕事(正味仕事)と作動流体を流すために必要な
流れ仕事(この仕事は利用できない)に分けられる.このため,流れ系では,工業仕事を使う.
★ 有効エネルギーと無効エネルギー
カルノーサイクルの pV 線図と TS 線図を示す.カルノーサイクルは,高熱源(温度 T1)から熱量 Q =
T1 (S2-S1)を受け取るとき,その一部 Qav が仕事に変換され残りの Qunav = Ta (S2-S1)は低熱源(周囲温度
Ta)に捨てられる. Qunav は,常に周囲に捨てられる熱量であるので,無効エネルギーと呼ばれる.カ
ルノーサイクルが行う仕事は最大仕事 Wmax と等しいので Qav= Wmax となり,Qav は受け取った熱量の中
で仕事として有効に変換できる熱量を示すのでこれを有効エネルギーと呼ばれる.
カルノーサイクルの有効エネルギー
Qav = Q - Qunav = (T1 - Ta ) (S2 - S1)
無効エネルギー
Qunav = Ta (S2 - S1)
図 14 カルノーサイクルの PV 線図
図 15 カルノーサイクルの TS 線図
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★ 不可逆損失と有効エネルギー効率(エクセルギー効率)
既に述べたように最大仕事は,系が可逆変化を行ったとき得られる.最大仕事 Wmax と実際に得られ
た仕事 W との差 I =Wmax – W は状態変化中に生じた不可逆変化による損失を表すので,I を不可逆
損失(Irreversibility)と呼ぶ.
熱効率の定義では,系が受ける熱量 Q を基準にしている.Q の中で仕事に変換できない無効エネ
ルギーを含んでいるため,最大仕事を発生するカルノーサイクルにおいても1より小さい値となる.
そこで,有効エネルギーを分母にとった熱効率を有効エネルギー効率(エクセルギー効率)として
以下のように定義する.有効エネルギー効率は,熱機関の効率の悪さを定量的に評価する指標とな
る.
W / Qav
W / Wmax