毎朝6時から大学隣接の広大な保安林を歩いています。

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文/佐藤彰芳 撮影/菅原 拓
毎朝6時から大学隣接の広
今年2月17日∼3月1日まで富士フォトサロン札幌で
「堀田清写真展
∼植物エネルギー」
を開催した堀田助教授の
「元気の素」
とは何か?
北海道医療大学薬学部生薬学 薬学博士
堀田 清助教授
ON
有機化学者から転身を図った
「自然大好き」の生薬学者へ
堀田清助教授の研究テーマは「未利用あるいは廃棄天然資
源の有効利用を目指した医薬資源開発」
。例えば、養殖の際に
廃棄されているコンブの仮根部分から生理活性物質の検出を
行う。また、得られた生理活性物質が微量な場合、有機合成
化学の手法で大量供給できる体制作りも視野に入れた研究だ。
「子どもの頃の夢は自然の中で暮らすこと。そんな私が生薬学
に戻ってきたのは10年ほど前」と堀田助教授は言う。
経歴はこうだ。北海道医療大学薬学部で学んだ薬用植物学、
漢方、生薬学に興味があったものの、北大大学院薬学部研究
科に進学、生薬学とは対極にある有機化学を5年間学ぶ。以降
10年半、助手として研究室に残り、有機化学の研究に打ち込
む。この間、米国ハーバード大学とコロラド州立大学に留学
し、有機化学の最先端である「微量で強い生理活性を有する
天然有機化合物の有機合成」に関する研究に打ち込んでいた。
「毎朝7時半に研究室に行き、夜中の12時過ぎの帰宅。長年
研究室に住んでいた(笑)
。しかし、35歳を過ぎたころからは
毎日歯茎から血を流し、痔にも悩まされ、年に二度は高熱を発
し、それを西洋薬で体をごまかす生活でした」
37歳で転機が訪れた。出身の北海道医療大学からの、有機
化学と全く分野の異なる生薬学の助教授への就任要請だ。
「有機化学の分野なら自信もあったけど、もう体も心もボロボ
ロでした。果たして今から一から出直せるのか、と最初は葛藤
がありましたが、これも神様からのプレゼントかなと思って」
北海道医療大学に戻った。以来10年間、薬用植物学、生薬学、
漢方を究める研究に邁進してきた。
「西洋薬を合成する有機化学を研究していた者がさらに漢方
まできちんと修めれば、薬とは何かが言えるんじゃないかと思
います。今の私の隠れテーマは、
『心のくすり』とは何か、です」
1958年、北海道日高支庁浦河町生ま
れ。北海道医療大学薬学部卒。北海道
大学大学院薬学研究科で博士号取得。
現在、北海道医療大学薬学部生薬学助
教授。北海道医療大学附属薬用植物園
元園長。堀田助教授の研究室はきれい
とは言えないが、じゅうたんが敷かれ、
居心地のいい空間を演出(?)
。山歩
き用のザックが無造作に置かれていた
012
Vol.02
大な保安林を歩いています。
OFF
オンとオフに境目はない
堀田助教授の
『心のくすり』
とは何か?
堀田助教授は4月∼11月までのほぼ毎朝6時には、大学に隣
接する広大な保安林(約153,000平方メートル)に足を踏み入
れる。
「毎朝6時に入り、8時には研究室に戻る生活。オンには
何の不都合もないでしょ」と笑う。さらに「夜遅くまで研究室
にいて、帰宅は真夜中」とも言うから、それって有機化学の研
究生活と変わらないのでは?と問えば、
「睡眠4時間の習慣は
そうそう変えられるものじゃない」と平然と答えた。
堀田助教授は9年前からこの保安林の植物調査を開始し、大
学事務局に約50ページに及ぶ報告書を提出した。その結果、
林野庁から散策路を設ける許可が下り、現在は全長約2キロの
散策路を有する北方系生態観察園として公開されるまでにな
った。
「路づくりで笹を刈るとさまざまな植物の芽が出てくる。遺伝
子が残せる環境になるまでの長い間、種は陽の当たらない笹の
中でじっと待っていた。笹しかなかった山がどんどん豊かな植
生をもった山に変わっていくことに大きな感動があります」
この感動こそ『心のくすり』であり、
「未使用天然資源物の
有効利用」の実践でもあった。
そして2年前、
「植物の写真を撮る!」と一念発起。そうと
決めたら、最高級のカメラ機材を購入した。この人は一度やり
始めたらとことんやらないと気が済まない性格らしい。
「写真の対象はすべて道端に咲く花で、そこには身近な出会い
と感動がありました。そんな花の写真を見て感動してもらえれ
ば、都会の人たちは元気になれます。そして私も、みなさんが
いい写真だと誉めてくれるので、図に乗ってどんどん撮っちゃ
う。目標はプロのフォトライター。これで私も元気になれます
から」と笑う。写真もまた『心のくすり』なのである。
堀田助教授の誌上フォトサロンは次のページをご覧ください。
「体の健康度は血圧を測るなど数値化
できますが、心の健康度を調べる術は
ありません。ただし、人間はその表情
をを見れば、心が健康かどうかが分か
る。漢方では『気』という概念が重要。
例えば、気を遣う、気が滅入る、気に
するなどの「気」がそうで、
『気』の量
が満タンになることが元気の意味。だ
から元気の単語のもとは、気を元に戻
すこと。私は植物エネルギーからどん
どん気をもらっているんです」と楽し
そうに語る堀田助教授
Vol.02
013
は
る
しうらさくら
1
2.
い の ち
朱利桜 朝日に映える生命の炎
[5/6 早朝6時48分]
北海道医療大学・北方系生態観察園
「雪解け後の朝早く、実生の若葉。燃え
るような赤で森1番の主役になっているわ
ずかな瞬間に出会えた」
2
かたくりひめ
片栗姫
[5/2 朝7時40分]
北海道医療大学・北方系生態観察園
「ある朝早く、森一番の、それはそれは
高貴なカタクリ姫が生まれました」
えぞのりゅうきんか
3
3.
蝦夷立金花 春一番の笑顔
[4/18 朝8時41分]
北海道医療大学・北方系生態観察園
「まだ雪が残る森の中で見つけた黄色い
一番花。僕も君を待ってたけど、君も…
…だね」
E Y E L A 誌 上 フォトサ ロ ン
堀田清写真展
1.
4.
植物エネルギー
「春夏秋冬」
な
つ
おおあまどころ
5.
4
大甘野老 緑光
[6/2 朝8時30分]
北海道医療大学・北方系生態観察園
「初夏、朝早く森を歩いて、ふと見上げ
ると森中で一番大きなオオアマドコロさ
んがいた」
あずきなし
5
小豆梨 深緑の底
[6/13 昼13時20分]
北海道医療大学・北方系生態観察園
「初夏。若葉生い茂る森の中は深い緑の
海の底のよう。いつもは高い木の枝に咲
く白い花を今年は目の前に見つけた」
しうらさくら
6
6.
014
Vol.02
朱利桜 緑の森に咲きほこる
[6/17 早朝7時15分]
北海道医療大学・北方系生態観察園
「新緑の頃。青い空、緑の中を入り込ん
でくる優しい光、そして満開の白い桜。
何も言葉はいらない」
おおあまどころ
7
大甘野老 黄色い秋
[9/26 朝7時41分]
北海道医療大学・北方系生態観察園
「秋の木漏れ日の光に映える、オオアマ
ドコロさんの優しい黄色。春から秋まで、
ず∼っと光を受け止めている葉っぱの色
がステキだった」
あずきなし
8
ひ か り
小豆梨 秋の陽光を受けて
[10/17 朝8時39分]
北海道医療大学・北方系生態観察園
「ゆっくりと深まっていく森の秋。陽だま
りの中で見つけたピカピカくん」
あ
き
7.
「植物から元気をもらっている」
という北海道医療大学薬学部助
教授の堀田清氏が、2月17日∼3月1日に富士フォトサロン札幌で
個展『植物エネルギー』
を開いた。その中から抜粋した誌上フォト
サロン。堀田氏は次のように言う。
「植物さんの小さいけれど大き
なエネルギーを感じていただければ幸せです。そして写真を見てく
ださる皆様に元気が伝わればいいなあ」
と。
生薬学の先生ならではの視点で
植物の写真を撮り続けている堀
田清氏。
「植物たちの元気な姿を撮りた
い。写真を撮りながら、自分も
植物たちに元気をもらっている
んですね」
8.
10.
おにくるみ
9
鬼胡桃 早春の陽
[3/3 朝8時50分]
北海道医療大学・北方系生態観察園
「カンジキ履いて残雪の中を歩いていた
ら、光の国へ向かって輝く春芽を見つけ
た」
10
けやまはん
き
毛山榛の木 大地のエネルギー
[2/11 朝8時35分]
北海道医療大学・北方系生態観察園
「青い空に流れる白い雲、枝に積もった
白い雪、凍える大気。ツルアジサイが巻
きついた森で一番大きなケヤマハンノキ」
ふ
ゆ
9.
Vol.02
015