Ⅳ.結果 1.糖尿病の疫学的見地から見た現状 糖尿病といえば、“贅沢病”というイメージがあり、一部の豊かな先進国だけの問題と思 われがちである。しかしながら、IDF(International Diabetes Federation 国際糖尿病連 合)によれば、全世界を通して糖尿病はすでに流行病といえるし、これからも成人間に発 生し続ける疾病であり、成人期の糖尿病はいまや先進工業国の疾病ではなく、開発途上国 の問題でもある3⁾。 経済的な指標の一つである、各国ごとの 1 人あたりの GDP を高いほうから順番に並べ、 1型糖尿病の有病率と成人糖尿病の有病率をそれぞれ示すと、1 型糖尿病については GDP の高い国に有病率が高く GDP の低い国に有病率が低い傾向が若干みられるものの、成人糖 尿病については、その傾向は見られない。図1および図3参照。 なお、本来、1 型糖尿病と 2 型糖尿病の有病率とすべきであるが、2 型糖尿病の有病率の 資料の入手不可能であったことと、世界の糖尿病患者の約 90%が 2 型糖尿病と推測されて いる⁴⁾ことから、IDF e―Atlas⁵⁾の成人糖尿病有病率のデータから 2 型糖尿病の有病率と ほぼ一致するものと推測した。 図1をもとに「1人当たりの GDP と 1 型糖尿病の有病率の散布図(図2)」を作成し、 最小二乗法により回帰直線を求めるとY=1.02505x+0.029648673、相関係数を求める と R2=0.4645 となり、図3をもとに「一人当たりの GDP と成人糖尿病有病率の散布図(図 4)」を作成し、回帰直線を求めるとY=0.000121x+3.978474 となり、相関係数は R2= 0.0771 となり、1 型糖尿病有病率と GDP の相関はある程度見られる傾向はあるものの、成 人糖尿病有病率と GDP についての相関は見られないと言える。 また、GDP のほかに1人当たりの 1 日の平均摂取カロリーを高い順に並べ、1型糖尿病 有病率と成人糖尿病有病率を示すと図5および図7となり、さらにこれらをもとに「1人 当たりの 1 日の平均のカロリーの摂取量と 1 型糖尿病有病率」、「1人当たりの 1 日の平均 のカロリーの摂取量と成人糖尿病有病率」の散布図(図6および図8)から回帰直線を求 めると、それぞれ、Y=0.00015x−0.29781、Y=0.002111x−1.47232 となり相関係数は、 それぞれ、R2=0.315、R2=0.1277 となり、1 型糖尿病の有病率とカロリーの摂取量の相 関はある程度見られる傾向が無いわけではないが、成人糖尿病有病率とカロリーの摂取量 についての相関は見られないといえる。 カロリー摂取量については、人種、年齢、性別、気候、労働条件、体格などの違いによ り必要量が異なり、また、具体的にどのような食物からどれだけの量のカロリーを摂取し ているかというさらに詳細な調査・分析により、糖尿病の有病率との関連を結論付けが必 要と考えるが、本研究では「治療費用と収入」という視点からの研究であるため、詳細に ついては、省くこととしたい。 6 GDP、カロリー摂取量と糖尿病有病率の関連を見ると、糖尿病は“贅沢病”であるとい う認識は誤りであり、また、幼児期の不十分な栄養摂取は2型糖尿病を引き起こす原因と なる⁶⁾とバングラデシュからの報告もあり、一部の先進国だけにおける問題ではないこと が伺える。 図1 GDP 各国一人あたりのGDPと1型糖尿病有病率 % 35000 30000 25000 20000 15000 10000 5000 ル ク セ オ ン ー ブ ス ル トラ グ リ ニ ド ア ュ フ イツ ー ラ ジ ン ー ス ス ラン ロ ド ベ サ バル ニ ウ バ ア ジ ド ア ス トリ ラ ニ 南ア ビア ダ フ ー リ ド カ ド コ バ ス コ コ タリ ロ カ ン ベ ビア パ リー ラ ズ グ フ アイ ウ ィジ ク ー エ ライ ク ナ ア ス ド キ リ ル ル ラン ギ カ ス タ ガ ン ー トー ナ ケ ゴ ウ ニア ガ ン マ ダ カ オ 0 1 0.9 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0 一人当たりのGDP(ドル) 1型糖尿病有病率(%) 出典:GDPについては、World Bank Economic Indicator⁷⁾。1 型糖尿病有病率につい ては、IDF e‐Atlas「Estimates of Type1 diabetes mellitus」。有病率の調査年については、 巻末資料「Data sources for the prevalence estimates of diabetes mellitus」参照。 図2 1型糖尿病有病率 (%) 一人当たりのGDP($)と1型糖尿病有病率(%) 1 y = 1E-05x + 0.0296 2 R = 0.4645 0.8 0.6 0.4 0.2 0 0 5000 10000 15000 20000 一人当たりのGDP($) 7 25000 30000 35000 図3 各国一人当たりのGDPと成人糖尿病有病率 GDP % 18 16 14 12 10 8 6 4 2 0 35000 30000 25000 20000 15000 10000 5000 ル ク セ ン ノ ルブ ル オ ウグ ー ェ ス ス ー ウ トリ ェ ア ー ニ デ ュ ン ー ジ 英国 ー イ ラン セ ス ン バ ラ エド トキ ー ル ッツ レ ギ ーン ア リ ン ドネ シャ 南ー ビ アス フ メキ リカ シ コ ル ガボ ー ン ブ マニ ル ア ガ ベ リア マ リー レ ズ ー ガ シア イ ア ペ ナ グ ル ア ー エ テマ ク ラ パ ア プ ド ア ニ エジ ル ュ ー プト コ ギ ン アル ニ ゴ 民 バ ニア 主 共 ア 和 バ ン トー国 グ コ ラ ゴ ン デ ゴ モ 共 シュ ザ 和 ン 国 ビ ー ク 0 一人当たりの GDP(ドル) 成人糖尿病有 病率(%) 出典:GDPについては、World Bank Economic Indicator。成人糖尿病有病率について は、IDF e‐Atlas「Prevalence estimates of diabetes mellitus」。有病率の調査年について は、巻末資料「Data sources for the prevalence estimates of diabetes mellitus」参照。 図4 一人あたりのGDP($)と成人糖尿病有病率(%) 成人糖尿病有病率 (%) 18 16 14 12 10 8 6 4 2 0 y = 0.0001x + 3.9785 R2 = 0.0771 0 5000 10000 15000 20000 一人当たりのGDP($) 8 25000 30000 35000 図5 一人当たりの一日の平均カロリー摂取量と1型糖尿病有病率 Kcal 4000 % 1 3500 0.9 0.8 3000 0.7 2500 0.6 2000 0.5 1500 0.4 0.3 1000 一人当た り一日の 平均カロ リー摂取 量 0.2 500 0.1 0 1型糖尿 病有病 率% ポ ル 米 国 トガ ベ ル ル ギ フ ー ラ ン ス デ トル ン コ マ ー ス ク ペ イ ン 英 国 フ スイ オ ィン ス ー ラ ス ンド トラ メ リア キ シ コ 韓 ブ 国 ラ マ ジ レ ル ー シ ア イ 南 ラ ア ン フ リ カ 日 本 タ イ イ ン ス ド ー ダ ン 0 出典:カロリー摂取量については、浜松誠二 東アジア共生のシナリオ 2002.3.8 http: //www.nihonkaigaku.org/ham/eacox/200prob/210envi/21food/indmfdmt/lndmfdmt.html ⁸⁾1 型糖尿病有病率については、IDF e-Atlas「Estimates of Type1 diabetes mellitus」。 有病率の調査年については、巻末資料「Data sources for the prevalence estimates of diabetes mellitus」参照 図6 1型糖尿病有病 率(%) 1 0.9 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0 -0.1 0 500 1日の摂取カロリーと1型糖尿病有病率 y = 0.0002x - 0.2994 R2 = 0.315 1000 1500 2000 2500 3000 1人1日あたりの平均摂取カロリー(Kcal) 9 3500 4000 図7 一人当たりの一日の平均カロリー摂取量と成人糖尿病有病率 Kcal % 16 3500 14 3000 12 2500 10 2000 8 1500 6 1000 4 500 2 0 0 一人当た り一日の 平均カロ リー摂取 量 成人糖尿 病有病 率% ポ 米 ル 国 トガ ベ ル ル ギ フ ー ラ ン ス デ トル ン コ マ ー ス ク ペ イ ン 英 国 フ スイ ィ オ ン ス ー ラ ス ン トラ ド リ メ ア キ シ コ 韓 ブ 国 ラ ジ ル イ 南 ラ ア ン フ リ カ 日 本 タ イ イ ン ス ド ー ダ ン 4000 出典:カロリー摂取量については、浜松誠二 東アジア共生のシナリオ 2002.3.8 http: //www.nihonkaigaku.org/ham/eacox/200prob/210envi/212food/indmfdmt/lndmfdmt.html 1 型糖尿病有病率については、IDF e-Atlas「Prevalence estimates of diabetes mellitus」。 有病率の調査年については、巻末資料「Data sources for the prevalence estimates of diabetes mellitus」参照 図8 成人糖尿病有病 率(%) 1日あたりの摂取カロリーと成人糖尿病有病率 18 16 14 12 10 y = 0.0021x - 1.4723 R2 = 0.1277 8 6 4 2 0 0 500 1000 1500 2000 2500 3000 1人1日あたりの平均カロリー摂取量(Kcal) 10 3500 4000 2.先進国の年間平均糖尿病治療費用と平均年収――日本と米国のケーススタディ ① 日本の年間平均糖尿病治療費用と平均年収 日本の平均的な糖尿病治療費については、1996 年における京都国立病院の診療報酬明 細書と資料からの割出では、月 1 回外来に定期通院している患者の年間医療費は、1 型糖 尿病で平均 41.2 万円(34,333 円/月)、 2 型糖尿病で平均 36.5 万円(30,416 円/月)⁹⁾となっ ている。 日本の平均的な糖尿病治療費が勤務者の平均年収に占める割合は、1 型糖尿病で 6.94% から 15.59%、2 型糖尿病で 6.14%から 14.69%となっている。全国民を対象とするいわゆ る国民皆保を原則とする日本では、勤務者の自己負担は 3 割で、保険料の支払い負担(所 属する健康保険組合や国民健康保険も自治体によって異なるが)を考慮しても収入の 1 割 前後と推定され、支払い可能な額と考えられる。図9、表 1 参照。 急速に高齢化進む日本の事情から、年金受給者の年間平均年金受給額に糖尿病年間治療 費が治療費が占める割合を見ると、厚生年金受給者で約 2 割、共済年金受給者で 3 割超と なるが、自己負担が 1 割(高額所得者は 2 割)であることを考慮すると 2 割から 3 割と推 定され、支払い可能な額と考えられる。図5、表1参照。 このほかにも様々な公的な治療費の補助制度がある。例えば、1 型糖尿病については、18 歳以下(一部の自治体では 20 歳以下)の患者の治療費は、全額公費負担であり患者の自己 負担はない。また、長期にわたる入院治療が必要となるケースや腎臓透析など重度の合併 症を伴い、平均的な糖尿病治療費を上回るケースであっても、健康保険(国民健康保険・ 社会保険)を利用した場合の自己負担が一定額を超える場合には、高額医療費が支給され る。高額医療費が支給されるのは、一つの保険証について、自己負担額が1ヶ月 6 万 3,600 円を超える場合で、市区町村民税非課税者または生活保護法の要保護者である低所得者に ついては、1 ヶ月 3 万 5,400 円を超える場合である。 しかしながら、患者および小児糖尿病専門医らからの聞き取り調査によれば、収入の1 割前後といえども患者にとって負担感を感じないとは言い切れず、また、糖尿病患者は、 不景気を背景とした、いわゆるリストラによる失業、就職難といった問題に健常者に比べ て直面することが多く、 “間接的な負担”を強いられている背景もある。 現在、デフレ経済下にあるといわれている日本であるが、医療費と教育費は年々上昇傾 向にあると言われており、「年収の1割程度」という額も決して負担でないとは言い切れな い現実がある。 11 図9 円 日本の勤務者及び年金受給者の平均年収と年間平均糖尿病治療費 7000000 6000000 5000000 4000000 平均年収(円) 3000000 2000000 1000000 金 融 ・保 険 業 (男 性 不 )0 動 .4 製 産 (男 3% 造 業 性 従 )0 事 .3 者 2% (男 卸 ・小 性 地 ) 売 4. 方 業 公 1% 、飲 務 員 食 2 店 鉱 (男 . 45 業 % 性 従 )2 事 .0 者 (男 サ 5% ー 性 ビ )0 ス .0 業 運 (女 2% 輸 卸 ・通 性 ・小 )2 信 .0 売 業 業 (女 1% 、飲 性 )0 食 .2 店 鉱 (女 1% 業 性 従 )0 事 .8 者 老 (女 4% 齢 性 厚 )0 生 年 .0 金 0% 受 給 者 4. 6% 0 1型糖尿病の 平均年間治療 費41.2万円 2型糖尿病患 者の年間平均 治療費用36.5 万円 出典:平均年収については、 「総務省統計局・統計研修所編 日本の統計 2003 」1⁰⁾。1型 糖尿病年間平均治療費、2 型糖尿病年間平均治療費は、大石まり子:第一線の糖尿病治療か ら見る医療経済.プラクティス 19(1):35 2002 12 11⁾ 日本の勤務者、年金受給者の平均年収と年間平均糖尿病治療費 職業 表1 1 型糖尿病の平均 2 型糖尿病患者の 人口に 平均年収 年間治療費 41.2 万 年間平均治療費用 占める (円) 円が年収に占める 36.5 万円が年収に 割合 割合(%) 占める割合(%) (%) 金融・保険業(男性) 5940000 6.94 6.14 0.43 電気・ガス・水道業(男性) 5496000 7.5 6.64 0.16 不動産(男性) 4860000 8.48 7.51 0.32 サービス業(男性) 4560000 9.04 8 2.38 製造業従事者(男性) 4464000 9.08 8.05 4.1 建設業従事者(男性) 4392000 9.23 8.18 1.33 地方公務員 4379000 9.38 8.31 2.45 国家公務員 4356000 9.41 8.34 0.36 4320000 9.54 8.45 2.05 運輸・通信業(男性) 4296000 9.59 8.5 1.62 鉱業従事者(男性) 4080000 10.1 8.95 0.02 電気・ガス・水道業(女性) 3624000 11.37 10.07 0.02 サービス業(女性) 3096000 13.31 11.79 2.01 金融・保険業(女性) 3060000 13.46 11.93 0.35 運輸・通信業(女性) 3024000 13.61 12.06 0.21 不動産(女性) 2844000 14.49 12.83 0.03 2736000 15.06 13.34 0.84 建設業従事者(女性) 2640000 15.61 13.83 0.19 鉱業従事者(女性) 2556000 16.12 14.28 0 製造業従事者(女性) 2484000 16.59 14.69 1.36 老齢厚生年金受給者 2146000 19.2 17.01 4.6 地方公務員等共済組合 1222000 33.72 29.87 0.01 卸・小売業、飲食店(男 性) 卸・小売業、飲食店(女 性) 出典:平均年収については、「総務省統計局・統計研修所編 日本の統計 2003 」1⁰⁾。1型 糖尿病年間平均治療費、2 型糖尿病年間平均治療費は、大石まり子:第一線の糖尿病治療か ら見る医療経済.プラクティス 19(1):35 2002 13 11⁾ ②米国の年間糖尿病治療費用と平均年収 米国は、OECD加盟国の中でも最も医療費の支出が多く、1998 年の資料によれば、総 医療費がGDPに占める割合は12.9%となっている12⁾。 米国の場合、日本と異なり、米国においては、全国民を対象とする公的医療保険制度は なく、約 4100 万人、人口の約15%を占める無保険者が存在すると推定されている。図 10参照。 一人当たりの年間平均糖尿病治療費用については、1996 年の調査では 1 万 1157 ドル (Wolfgang Gruber ら、馬場茂明訳:糖尿病・糖尿病ケアの経済学.医歯薬出版1998 p. 48)と推定されており、平均的な勤務者の年収の 3 割から 4 割超となっている。図11、 表2参照。 糖尿病患者の保険加入割合については、全保険種別で見ると約 9 割以上の患者は何らか の保険に加入している。図12、図13参照。しかしながら、メディケアなど保険の種類 によっては、処方箋薬の代金が保険給付の対象にならない(2006 年から処方箋薬の代金も 同保険給付対象となることが米上院にて可決。公費の投入を増加し、高齢者と制度を支え る企業の負担も軽減する内容となっている。2003 年 11 月 27 日付読売新聞)など日本の保 険と異なる点もあるため、単純な比較はできないものの、保険により、治療費の支払いは 可能と考えられる。 図10 米国の医療保険加入者数(万人) 無保険者, 4100, 14% 公的医療保 険・メディケア (高齢者・障害 者), 3900, 13% 公的医療保 険・メディケイド (低所得者), 3400, 11% 民間医療保険, 18800, 62% 出典:李啓充 ハーバード大学医学部助教授 2003 年 7 月 5 日講演資料13⁾ 14 「米国マネジドケアの失敗から何を学ぶか」 図11 米国の勤務者の平均年収と年間平均糖尿病治療費 34329 27609 平均年収(ドル) 年間平均的必要 インスリン価格 276ドル(IDF資 料) 注射器・測定器 など4332ドル (IDF資料) 建 設 業 従 事 者 製 造 業 従 事 者 26400 非 農 林 漁 業 従 事 者 40000 35000 30000 25000 ドル 20000 15000 10000 5000 0 糖尿病年間平均 治療費11157ド ル 出典:糖尿病年間治療費については、Wolfgang Gruber ら、馬場茂明訳:糖尿病・糖尿 病ケアの経済学.医歯薬出版1998p. 481⁴⁾。年間平均的インスリン必要価格、注射器・ 測定器の価格については、IDF e-Atlas の数字より、日本の 1 型糖尿病患者 A・B への聞き 取り調査から推定。平均年収については、総務省統計局・統計研修所編 世界の統計 2003 1⁵⁾から推測。 米国の勤務者の平均年収と年間平均糖尿病治療費 平均年 職種 収(ド ル) 年収に占める 糖尿病治療費 (11157 ドル)の 割合% 表2 年収に占める年 注射器・測 間平均的必要イ 定器など43 ンスリン価格 32ドル(IDF 276 ドル(IDF 資 資料)の割 料)の割合% 合% 非農林漁業従事者 26400 42.3 1 16.4 製造業従事者 27609 40.4 1 15.7 建設業従事者 34329 32.5 0.9 12.6 出典:糖尿病年間治療費については、Wolfgang Gruber ら、馬場茂明訳:糖尿病・糖尿病 ケアの経済学.医歯薬出版1998p. 481⁴⁾。年間平均的インスリン必要価格、注射器・ 測定器の価格については、IDF e-Atlas の数字より、日本の 1 型糖尿病患者 A・B への聞き 取り調査から推定。平均年収については、総務省統計局・統計研修所編 世界の統計 2003 1⁵⁾から推測。 15 図12 米国の糖尿病患者の保険別加入割合(65歳以上) % 120 100 80 60 40 20 0 98.9 98.8 98.8 95.3 94.2 94.7 70 68.8 69.2 14.8 15.7 15.4 2型糖尿 病(インス リン要) 2型糖尿 病(インス リン不要) 全糖尿病 患者 他 メ デ ィケ ア ・そ の 人 保 険 軍 民 間 保 険 ア デ ィケ メ 全 種 類 5.4 4.7 4.9 図13 米国の糖尿病患者の保険種類別加入割合(18歳∼64歳) 88.887.885.186.5 80.7 66.669.469.3 14.1 5.8 8.4 10.3 6.8 5 5.8 5.5 8.8 17.2 12.514.1 図8および図9の出典:Maureen メ デ ィケ ア ・そ の 他 民 間 保 険 デ ィケ ア 1型糖尿病 メ 全 種 類 100 80 60 40 20 0 軍 人 保 険 % 2型糖尿病(イ ンスリン要) 2型糖尿病(イ ンスリン不要) 全糖尿病患者 I Harris:Diabetes in America, 2nd Edition Table of Contents Section Ⅳ Economics Aspects of Diabetes Chapter 29 Health Insurance and Diabetes p.597 http://diabetes.niddk.nih.gov/dm/pubs/america/contents.htm1⁶⁾ 16 3.途上国の年間糖尿病治療費用と平均年収――フィリピン・インド・バングラデシュ・ タンザニアのケーススタディ ① フィリピンの年間糖尿病治療費用と平均年収 フィリピンの一般労働者の年間平均収入と年間平均糖尿病治療費については、聞き 取り調査から推定した(2003 年 8 月 25 日、IDF 会議場にてフィリピン人糖尿病患者 からの聞き取り及び 1998 年 1 月 2 日に筆者がマニラ首都圏にある宗教団体が主体とし て運営している病院訪問時に同病院に勤務する糖尿病専門医から聞き取った内容を電 話にて再確認す)。 インスリンを必要としない治療費は、食事療法を中心とした非薬剤治療で診療報酬 を中心とした費用で年間 123.6 ドル、インスリンを必要とする治療費は、診療報酬や インスリンのほかにも血糖測定機も含まれる。 インスリンを必要としない年間治療費については、平均的な労働者の年収の5.2% から 28.6%を占めている。図14、表3参照。税制や物価などの違いから、単純な比 較はできないが、年収の 1 割を超える医療費は、かなりの患者にとってかなりの負担 と考えられる。 インスリンを必要とする年間糖尿病治療費は、多くの平均的な労働者の収入を上回 る金額となり、公的な補助無しでは、もはや負担できない金額となっている。図14、 表3参照。図15からは、インスリンを必要とする糖尿病治療費は、約 2 割の世帯の 年収を上回り、年収の 1 割以下となる世帯数は全体の4%未満となっている。 聞き取り調査によれば、フィリピンでは、公的な医療保険が無く、民間保険会社へ の保険料の支払いを負担できるのは一部の富裕層に限られ、国民の大半は、全額自己 負担となることから、インスリンを必要とする糖尿病治療は不可能と結論付けられる。 前述の筆者が訪問した病院においては、低所得者のために無料で診療を行っている が、患者数があまりに多く対応しきれないため、ケトアシドーシスを起こし救急で運 ばれてくる重症者や合併症を持つ重症者を優先しなければならず、初期段階での適切 な治療ができず悪循環に陥っていることやインスリンを無料で提供するためには外国 の慈善団体からの寄付に頼らざるを得ない現状を述べていた(訪問時の聞き取り内容 を電話にて再確認す)。 以上のことから、フィリピンにおいて、低所得者層のための無料の医療施設(数は 聞き取り調査からは回答なし)は、存在するものの、その恩恵を被ることができる者 は、限られていると考えられる。 筆者が、フィリピン訪問時に 1 型糖尿病患者 3 人と話す機会を得、互いの国の治療 法を話し、血糖測定、インスリン注射とを実践しあったことがある。 フィリピンでは、インスリンそのものが品薄で外国の慈善団体からの寄付に頼らざ 17 るを得ず、大変貴重であることから日本、欧米諸国で主流となっているペン型注射器 は空打ちやシリンジを最後まで使い切らずに廃棄してしまうなど無駄が多いため使用 せず、旧来の注射器によりインスリン注入を行う。日本や欧米諸国では、使いきりの 注射器をまさに一回の使用で廃棄してしまうが、フィリピンにおいては、針が磨耗し 刺さらなくなるまで使用する。血糖測定器も日本で使われている機種より旧型のもの である点など、治療内容の質についても日本の 1 型糖尿病患者である筆者の眼から見 て、決して恵まれている状況とはいえないと感じた。2003 年 8 月のIDF会場にて、 そのうちの 1 人と再会し、聞き取り調査の運びとなったが、治療状況は当時と全く変 わっていないということを再確認した。 図14 フィリピンの一般労働者の年間平均収入と年間平均糖尿病治療費 ドル 一般労働者の平均 年収(最低レベル) 3000 2500 2000 1500 1000 500 0 出典:聞き取り調査より推定 18 都市部の飲食店勤務 者(人口の5%) 外国人家庭の子守り (人口の1%) 外国人家庭の掃除・洗 濯人(人口の1%) 外国人家庭の料理人 (人口の1%) 外国人家庭の運転手 (人口の1%) 都市部貿易会社勤務 (人口の0.1%) 一般労働者の平均 年収(最高レベル) フィリピンにおけるイ ンスリンを必要とする 年間平均糖尿病治 療費1123.8ドル フィリピンにおけるイ ンスリンを必要としな い年間平均糖尿病 治療費123.6ドル 図15 フィリピンの年間収入別世帯割合1994年 14 12 10 8 6 4 2 0 3 3 8 84 4. 6 . ド 7 69 6 ∼ ル 以 7 . 69 下 2 1 15 ∼ . 3. 11 2 ド 5 9 1 3. ル 53 ∼ 8. 1 5 8 ド 3 ル 5 1 92 ∼ 8. 3. 1 9 4 ド 2 ル 1 2 30 ∼ 3. 7. 2 3 0 ド 0 ル 7 3 07 ∼ 7. 6. 2 6 7 ド 9 ル 9 3 84 ∼ 2. 6. 3 8 2 ド 4 ル 2 5 76 ∼ 6. 1 5 9 7 ド . 9 61 2 ∼ 69 ル .2 5. 9 ド 6 4 ∼ 15 ル .3 1 92 3 ドル 1 92 0 . 7 3 0. 1 ド ル ド ル 以 上 % 1123.8ドル 出典:1994 Family Income and Expenditure Survey1⁷⁾ フィリピンの労働者の年間平均収入と年間糖尿病治療費が収入に占める割合 インスリンを必要とする糖尿病 職種 一般労働者の平 年間治療費が収入に占める割 均年収(ドル) 合1123.8ドルが年収に占め る割合% 都市部貿易会社勤務 (人口の0.1%) 外国人家庭の運転手 (人口の1%) 外国人家庭の料理人 (人口の1%) 外国人家庭の掃除・洗 濯人(人口の1%) 2000∼2400 表3 インスリンを必要と しない年間糖尿病 治療費123.6ド ルが年収に占める 割合% 46.8∼56.2 5.2∼6.2 1650∼2250 49.4∼68.1 5.5∼7.5 900∼1200 93.7∼124.9 10.3∼13.7 600∼900 124.9∼187.3 13.7∼20.6 600 187.3 20.6 432 260.1 28.6 外国人家庭の子守り (人口の1%) 都市部の飲食店勤務 者(人口の5%) 出典:聞き取り調査より推定 19 ② インドの年間糖尿病治療費用と平均年収 インドにおいては、宗教的にも民族的にも多様であり、賃金水準や物価において地 域差が大きいことから、国全体として結論を出すには難しさがあると考えられる。 インド中央部の地方都市ナグプール(Nagpur)周辺にて、貧しい 1 型糖尿病患者の ために無料の診療を行い、活動資金・インスリン・注射器・血糖測定機類については 先進国からの寄付を募って運営している団体「ドリームトラスト」を運営している医 師からの聞き取り調査をもとに推定した結果は、インスリンを必要とする治療費ドリ ームトラストの聞き取り調査結果の 180 ドルという最低ラインであっても、保険制度 が無く、全額自己負担となるため、いわゆる一般庶民にとって、インスリン治療は不 可能な域と考えられる。図16・17および表4・5参照。 同医師の話では、ナグプール地区の場合、カースト制度の影響が今なお根強く残っ ており、貧困層も多く、学童期の児童が 1 型糖尿病を発病した場合、親の収入だけで 治療費の支払いは負担しきれないため、学校を中退し、治療費用を稼ぐために自ら働 きに出なければならないということである。 また、インドの場合、男児を女児よりも優先して育てる伝統があり、女児が発病し た場合、貧しさから親が治療を放棄し、死に至るケースもあるという話である。 2型糖尿病について同医師の話では、地方都市であるナグプールにおいても、いわ ゆるファーストフードが伝統的な食事に取って代わりつつあり、菓子類が多く流入し、 宅地開発が進み子供たちの遊び場が奪われ運動不足になる結果、富裕層を中心に若年 で発病するケースが増えているということである。インドの大都市においては、状況 はさらに悪化しているという話であった。インドの大都市を中心に2型糖尿病有病率 が増加しているという記事が、IDF 機関紙 Diabetes Voice1⁸⁾ においても見られた。 その記事によれば、都市部の富裕層の有病率は約25%、貧困層の有病率は約13% ほどであり、貧困層は富裕層に比べ、欧米化した食事を摂取する機会が少なく、肉体 労働の機会が多いため有病率は少ないものの、治療機会に恵まれず後期合併症を引き 起こすケースは多いと書かれていた。 ドリームトラストの医師からの聞き取り調査とは別に、客観的なデータの一部とし て、財団法人海外職業訓練協会発表の製造業従事者の収入に IDF 発表の年間平均糖尿 病治療費 350 ドルが占める割合をみても電気関係従事者の20.4%から飲料・たば こ製品関係従事者の90.6%とかなりの負担と考えられる。図18および表6参照。 職種とは別に世帯別の年収という点で見ると、インドの場合、1997年の調査時 点で、1日 1 ドル未満の絶対貧困者が人口の44.2%、1日に1ドル以上2ドル未 満の貧困者数が人口の42.0%を占め、生存に必要な食料を手に入れるだけで精一 杯である状態の人口が84.2%を占めることとなる。図19参照。これらの貧困層 にとって、インスリンを必要としない年間平均糖尿病治療費70ドルといえども大き 20 な負担となり、インスリンが必要な年間平均治療費350ドルを負担することは不可 能であると考えられる。 図16 インドの勤務者の平均年収とドリームトラストを基準とした年間平均糖尿病治療費 1200 1069 ドル 1069 1000 平均年収(最高レベル 800 721 668 720 600 600 600 600 534 481 400 534 480 480 平均年収(最低レベル) 374 320 267 267 200 240 120 40 ドリームトラストを基準にし た年間平均治療費180ド ル(最低レベル) 師 庭 濯 洗 労 働 場 人 者 守 ラ 子 ー き ベ ア 働 雇 業 下 日 ドリームトラストを基準にし た年間平均治療費300ド ル(最高レベル) 設 現 農 ー パ ー 人 理 料 工 場 ・建 ハ ウ ス キ 運 転 手 0 出典:年収、年間糖尿病治療費とも聞き取り調査より推定 インドの労働者の年間平均収入に年間糖尿病治療費が占める割合 表4 年間平均治療費をドリームトラストからの聞き取り調査をもとにした場合 インスリンを必要とする年間平 職種 インスリンを必要とする年間平 平均年収 均糖尿病医療費 180 ドルが年 均糖尿病医療費 300 ドルが年 (ドル) 収に占める割合%(ドリームト 収に占める割合%(ドリームト ラスト) ラスト) 運転手 668∼1069 16.8∼26.9 28.1∼44.9 料理人 481∼1069 16.8∼37.4 28.1∼62.4 ハウスキーパー 320∼721 25.0∼56.3 41.6∼93.8 日雇 600∼720 25.0∼30.0 41.7∼50.0 農業下働き 600 前後 30.0∼ 50.0∼ ベアラー 267∼534 33.7∼67.4 56.2∼112.4 子守 374∼534 33.7∼48.1 56.2∼80.2 480 前後 37.5∼ 62.5∼ 洗濯人 120∼267 67.4∼150.0 112.3∼250.0 庭師 40∼240 75.0∼450.0 125.0∼750.0 工場・建設現場労働 者 出典:年収、年間糖尿病治療費とも聞き取り調査より推定 21 図17 インドの勤務者の平均年収とIDFのデータを基準とした年間平均糖尿病治療費 ドル 1200 1069 1069 1000 800 721 668 720 600 600 平均年収(最高レベル 600600 534 481 400 534 480480 374 320 267 267 200 平均年収(最低レベル) 240 120 40 庭 師 洗 濯 人 ー 場 ・建 子 設 守 現 場 労 働 者 ラ IDFのデータを基準にし たインスリンを必要とす る年間平均治療費350 ドル IDFのデータ基準にした インスリンを不要とする 年間平均治療費70ドル 工 ベ ア 日 雇 農 業 下 働 き ハ ウ ス キ ー パ ー 料 理 人 運 転 手 0 出典:年収については、聞き取り調査より推定。糖尿病年間治療費については、 Wolfgang Gruber ら、馬場茂明訳:糖尿病・糖尿病ケアの経済学.医歯薬出版199 8p.651⁹⁾。 インドの労働者の年間平均収入に年間糖尿病治療費が占める割合 表5 年間平均治療費を IDF の資料をもとにした場合 インスリンを必要とする年間平 職種 平均年収 インスリンを必要としない年間 均糖尿病治療費 350 ドルが年 平均糖尿病治療費 70 ドルが 収に占める割合%(IDF) 年収に占める割合%(IDF) 運転手 668∼1069 32.7∼52.4 6.5∼10.5 料理人 481∼1069 32.7∼72.8 6.5∼14.6 ハウスキーパー 320∼721 48.5∼109.4 9.7∼21.9 日雇 600∼720 48.6∼58.3 9.7∼11.7 農業下働き 600 前後 58.3∼ 11.7∼ ベアラー 267∼534 65.5∼131.1 13.1∼26.2 子守 374∼534 65.5∼93.6 13.1∼18.7 480 前後 72.9∼ 14.6∼ 洗濯人 120∼267 131.1∼291.7 26.2∼58.3 庭師 40∼240 145.8∼875.0 29.2∼175.0 工場・建設現場労働 者 出典:年収については、聞き取り調査より推定。糖尿病年間治療費については、 Wolfgang Gruber ら、馬場茂明訳:糖尿病・糖尿病ケアの経済学.医歯薬出版199 8p.651⁹⁾。 22 図18 インドの製造業従事者の平均年収と年間平均糖尿病治療費 ドル 木 、木 工 品 繊 維 製 品 (靴 下 以 外 の 衣 料品 ) 木綿繊維 ウ ー ル 、絹 、合 成 繊 維 金 属 製 品 ・部 品 (機 械 及 び 運 輸 機 器 を 除 く) 紙 、紙 製 品 、 印 刷 、出 版 ゴ ム ・プ ラ ス チ ッ ク ・石 油 ・ 石炭製品 卑 金 属 、合 金 電気 2000 1715.3 1699.8 1800 1599.2 1593.7 1540.3 1600 1280.4 1194.5 1400 1181.4 1068.8 1053.8 1200 953 839.7 797.7 1000 708.1 662.7 636.6 800 469.2 386.2 600 400 200 0 出典:製造業者従事者の平均年収については、財団法人海外職業訓練協会 1997∼98年平 均年収(ドル) インスリンを必 要とする年間 平均糖尿病治 療費用350ドル (IDF資料) インスリンを不 要とする年間 平均糖尿病治 療費用70ドル (IDF資料) インド http://www.ovta.or.jp/info/asia/india/oldhrddb/ind-s001.html 2⁰⁾ 糖尿病年間治療費については、Wolfgang Gruber ら、馬場茂明訳:糖尿病・糖尿病 ケアの経済学.医歯薬出版1998p.651⁹⁾。 23 インドの製造業従事者の平均年収に年間平均糖尿病治療費(IDF 資料)が占める割合 表6 業種 インスリンを必要とする年 インスリンを必要としない年 1997∼98 年平 間平均糖尿病治療費 350 間平均糖尿病治療費用 70 均年収(ドル) ドルが年収に占める割 ドルが年収に占める割合% 合%(IDF 資料) (IDF 資料) 電気 1715.3 20.4 4.1 運輸機器・部品 1699.8 20.6 4.1 卑金属、合金 1599.2 21.9 4.4 機械工具・部品 1593.7 22 4.4 1540.3 22.7 4.5 化学・化学製品 1280.4 27.3 5.5 紙、紙製品、印刷、出版 1194.5 29.3 5.8 その他製造業 1181.4 29.6 5.9 1068.8 32.7 6.5 1053.8 33.2 6.6 953 35.7 7.3 非金属鉱物製品 839.7 41.7 8.3 木綿繊維 797.7 43.9 8.8 皮革・革製品 708.1 49.4 9.9 662.7 52.8 10.6 食品製造 636.6 55 11 木、木工品 469.2 74.6 14.9 386.2 90.6 18.1 ゴム・プラスチック・石油・ 石炭製品 金属製品・部品(機械及 び運輸機器を除く) ジュート、麻、メスタ繊維 ウール、絹、合成繊維 繊維製品(靴下以外の衣 料品) 飲料、たばこ、たばこ製 品 出典:製造業者従事者の平均年収については、財団法人海外職業訓練協会 インド http://www.ovta.or.jp/info/asia/india/oldhrddb/ind-s001.html 2⁰⁾ 糖尿病年間治療費については、Wolfgang Gruber ら、馬場茂明訳:糖尿病・糖尿病 ケアの経済学.医歯薬出版1998p.651⁹⁾。 24 図19 インドの収入別人口構成割合 人口構成割合% 10.6 丸紅経済研究所 8 月 27 日21⁾、国際協力事業団 36 5ド ル 未 ル 73 0ド ル 36 5∼ 10 00 ド 73 0∼ ル 10 00 ド 満 3.2 出典:柴田明夫 ンド 44.2 42 以 上 % 50 40 30 20 10 0 副所長「インドの経済・産業について」2003 年 企画・評価部 22⁾から推定 25 平成 15 年 3 月 国別貧困情報 イ ③ バングラデシュの年間糖尿病治療費用と平均年収 バングラデシュの年間平均糖尿病治療費用は、年間 13 ドルと非常に小額である。 23⁾。図20参照。 IDF 会議会場における同国のブースでの同国糖尿病協会のスタッフからの聞き取 り調査(2003 年 8 月 29 日)によれば、同国においては、貧困層への糖尿病治療は 無料で行っており、十分な治療を受けられる環境下であるということであったが、 日本人の滞在経験者からの聞き取り調査では、無料の医療施設があったとしてもそ こへ行くためのバス代が支払えず治療を受けられない者が多いこと、また、あまり に患者数が多いため、結局、恩恵を被ることのできる人数は限られるとの回答があ り、疑問が残る結果となった。 また、同国の国家予算の 3 分の 2 以上は、外国からの援助に頼っており、公的医 療施設の運営も外国からの援助に頼らなければ、立ち行かない状態であるとのこと であった(日本人滞在経験者談)。 Hajera Mahtab,Minati Prabha Choudhury2⁴⁾によれば、同国では、男性優位社 会であり、女性が教育を受ける機会が限られ識字率が低く、経済的に自立すること が難しく、また、意思の決定権も無いことから、医師にかかることも父親や夫の同 意が無ければ不可能な状況下にある。その上、糖尿病と診断された女性は、家族か ら捨てられることが多いため、同国糖尿病協会の下部組織に頼りながら、治療を受 けつつ、経済的自立の道を模索しなければならない環境下に置かれているとしてい る。 Hajera らによれば、同国の女性は、食事にあたって、男性の残り物を食べなけれ ばならないということにも触れており、IDF が発表している年間平均糖尿病治療費 13 ドルが人口の約80%を占める農業・漁業従事者の年収の 2.7%を占めるに過ぎな いとしても、現実的には家計に占める食費に余裕があるとは考えられないことから、 大きな負担と考えるべきであろう。 26 図20 バングラデシュの一般労働者の平均年収と年間糖尿病治療費 480 100.8 一般労働者の平均年収 年間平均必要インスリン費 用127.2ドル(IDF発表の インスリン価格) 農・漁業の下働き (人口の約80%) 工場労働者・輪タク 運転手など(人口の 約20%) 600 500 400 ドル 300 200 100 0 年間必平均必要インスリン 費用240ドル(聞き取り) 年間平均糖尿病治療費13 ドル(IDF発表の数字) 出典:平均年収については、滞在経験者、バングラデシュ糖尿病協会スタッフから の聞き取り。糖尿病年間治療費については、Wolfgang Gruber ら、馬場茂明訳:糖 尿病・糖尿病ケアの経済学.医歯薬出版1998p.7923⁾。インスリン費用について は、IDF e-Atlas、バングラデシュ糖尿病協会スタッフからの聞き取り。 27 ④ タンザニアの年間糖尿病治療費用と平均年収 タンザニアの場合、一部の高級公務員を除き、糖尿病治療費用を負担することは 不可能と考えられる。図21および22参照。 賃金労働者は、全労働者の 8.6%程度に過ぎず、公務員の平均月収 10,000 シリン グ(約 12.2 ドル)は、主食のウガリ66Kg に相当するが、4 人家族が1ヵ月に消費 する主食であるウガリ80Kg を購入するにも困難な状態である(滞在経験者からの 聞き取り)。 同国糖尿病協会スタッフからの聞き取り調査(2003 年 8 月 26 日 IDF 会議会場タ ンザニアブースにて)よれば、IDF およびインスリンメーカー・Novo Nordisk 社の 協力により、2 名の専門医をインドへ研修に送り出すなど糖尿病治療事情は整ってき ているとのことである。しかしながら、インスリンの不足は解消に至らず、外国の 慈善団体からの寄付に頼らなければならない状態は続いているということである。 Altte Meyer2⁵⁾によれば、NovoNordisk 社の協力で、2003 年 3 月に同国で初とな る糖尿病専門病院が設置され無料で糖尿病治療を提供しており、さらに無料で治療 を提供する施設を年内に 4 施設設置するとのことである。しかしながら、地方では 冷蔵設備が不十分でインスリンの保管が困難な点、同国内に糖尿病専門医が 6 人し かいない点、人々の糖尿病に対する認識がほとんど無く重症化するまで気づかず治 療を受けない点を問題としてあげている。 このほかにも医師を始めとする医療スタッフたちが糖尿病を認識しておらず、違 う疾病と診断し、適切な糖尿病治療を施さなかったためにケトアシドーシスを引き 起こすケース、人々が糖尿病の症状である体重減少などから AIDS と診断されコミ ュニティや家族から阻害されることを恐れて治療を受けないケース、近代的な医療 を信用せず伝統的な民間療法に頼り合併症やケトアシドーシスを引き起こすケース も報告されている(滞在経験者、および IDF 会場タンザニアブースでの聞き取り) 同国の糖尿病患者は総人口 32 百万人に対し 30 万人から 35 万人と推定されており、 冷蔵庫の普及により人々がミネラルウォーターよりも安価な糖分を多く含む清涼飲 料水を好んで摂取するようになってきており、さらに糖尿病有病率を押し上げるこ とに繋がると懸念されている。 28 図21 ドル タンザニアの勤務者の平均年収と年間平均糖尿病治療費 平均年収 1800 2000 1800 1600 1400 1200 1000 800 600 400 200 0 インスリンが必要な年 間平均糖尿病治療費 229ドル 146 インスリン購入費15 5.7ドル 一般公務員(人口の 約4%) 一般賃金労働者(人 口の約4%) 教師、警察官など高 級公務員(人口の約 0.1%) 300 インスリンを必要とし ないな年間平均糖尿 病治療経費69ドル 経口血糖降下薬購入 費29ドル 出典:平均年収については、財団法人海外職業訓練協会 タンザニア http://www.ovta.or.jp/info/africa/tanzania/oldhrddb/tan-h003.html2⁶⁾、および滞在 経験者からの聞き取りより推定。糖尿病年間治療費については、Wolfgang Gruber ら、 馬場茂明訳:糖尿病・糖尿病ケアの経済学.医歯薬出版1998p.402⁷⁾ および Geoff Gill ら:Diabetes in Africa.FSG Communications Ltd.p205∼2082⁸⁾。 図22 タンザニアの年間収入別人口割合 60 50 50 40 % 30 人口割合 20 10 4 4 146ドル 300ドル 0 56ドル以下 0.1 1800ドル 出典:http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/kunibetu/gai/h09gai010.html 2⁹⁾ 第一章国別評価 タンザニア および滞在経験者からの聞き取り調査により推測 29
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