「古典」を古文(原文)で学ぶ意義に関する研究 -古語指導における新た

「古典」を古文(原文)で学ぶ意義に関する研究
-古語指導における新たなパラダイムの構築に向けて-
学校教育専攻
学校臨床研究コース
藤田 泰夫
1 問題の所在と研究の目的・方法
高等学校における日々の授業の中で、何の疑
ら見る古典教育
・第 2 章 古典及び古文を学ぶ意義に関する考
念も持たずに「古典」の授業を行ってきた。し
察
かし、古典の学習について改めて振り返ると根
・第 3 章 「古典」を古文(原文)で学ぶ意義
本的な疑問に逢着する。そもそもなぜ古典を学
の措定及び高等学校における古語指
ぶのか。さらにいえば、現在使用することのな
導の新たなパラダイムの提案
い古語及び古文(原文)を学習する意義は何か
・終章
である。
3 研究の概要
「古典」の内容を学ぶことに関しては『学習
研究の成果と今後の課題
第 1 章では、
古典教育に関する考察を行った。
指導要領』を含め、ある程度明確な指針が示さ
まず『学習指導要領』における古典教育の通時
れている。学習者も漠然とその意義を感受して
的な流れを検証し、古典教育に関する国の指針
いるが、日常生活で使用しない古文(原文)や
を確認した。そこから、古典における内容の理
古語を学ぶ意義が見出せないでいる。仮に、古
解を重視した教育の方針が見出せた。
文(原文)や古語を学ぶ意義が、
「古典」の内容
次に、学習者の古典教育に対する意識の調査
理解を達成するための手段でしかいないのなら
分析を行った。上越教育大学の大学生及び大学
ば、あえて古文(原文)から学ぶ必要性は全く
院生を対象にした質問紙調査の実施である。そ
ない。内容の理解だけならば、古典の現代語訳
の調査結果から、学習者が古典を学ぶ必要性を
本、漫画、ドラマなどに依拠すればよい。
感じていながら、古文(原文)や古語理解への
したがって、
「古典」をあえて古文(原文)で
学ぶ意義を明示するのが本論文の主たる目的と
なる。加えて、古文や古語の有効な指導の提案
まで試みたい。
そのための方策として『学習指導要領』
、質問
抵抗感から、学びの意欲が低減されているとい
う傾向を分析できた。
第 2 章では、古典を学ぶ意義と古文を学ぶ意
義の両者について考察を加えた。
古典を学ぶ意義に関しては、過去の振り返り
紙調査、
本研究に関係する文献を総合的に扱い、
の重要さを明示した。国語教育に関するさまざ
分析及び検証を進めていく。
まな文献に、プラグマティズムや省察的実践な
2 論文の構成
どの哲学的な観点も取り入れて検証した。現在
・序章
は過去の堆積であり、過去を反省的に見ること
研究の主題と方法
・第 1 章 『学習指導要領』と学習者の視点か
で現在及び未来に活かすというのが古典を学ぶ
意義であると措定するに至った。
古文を学ぶ意義については、古文(原文)で
の学習と現代語訳での学習の相違点に焦点を絞
るのである。
「古典」を古文(原文)で学ぶ意義
について、以上のような定義づけを行った。
最後に、
「古典」を古文で学ぶ意義に基づき、
り、特徴を比較検討することで「古典」をあえ
古語指導の新しいパラダイムを提案した。具体
て古文で学ぶ意義を把握した。その意義として
的に 4 つの過程を設けた。
「古文との直接対話の原理」
と
「音読の有効性」
の 2 点を提言した。
第 1 は、読み聞かせによる古文指導である。
声の文化に属している古文テクストの特性を生
また、2 点に共通する要素として「ことば」
かした指導といえる。視覚(文字)を重視した
を取り上げ、
歴史的な考察を行った。
その結果、
指導から、聴覚(音)を重要視する指導への移
古文のテクスト(文章)が「話すように書かれ
行である。
たもの」
「声に出して読むことを目的としたもの」
である点に言及できた。
第 3 章では、
「ことば」の概念を精察すると
ともに、古語を学ぶ意義について措定した。ま
第 2 は、コンテクストからの想像による古語
指導である。既有知識と統語的スキーマを活用
した学習者主体の古語指導といえる。
第 3 は、
通時的な側面からの古語指導である。
た、ここまでの論考を総括して本論文のテーマ
現代語と古語の相違点について、認知言語学と
である「古典」を古文(原文)で学ぶ意義に関
構造言語学両面からの解明を試みる指導である。
して定義づけを行った。最後に、定義された意
第 4 は、共時的側面からの古語指導である。
義に基づき古語指導における新たなパラダイム
これは、構造言語学を援用した古語同士の比較
(枠組み)の提案を試みた。
検討である。従前の古語指導では最も軽視され
「ことば」の概念については暗黙知の理念、
ていた分野である。
構造言語学、認知言語学を援用し特徴を抽出し
第 2 段階から第 4 段階までの指導は、いずれ
た。その特徴とは、無意識性(慣習性)
、文化性
も辞書の表面的な意味を確認して完結していた
(分節性)
、身体性の 3 点である。これらから
従来の古語指導からの脱却を図ったものである。
古語が、当時の人びとの思考や文化などのさま
4 今後の課題
ざまな要素が充溢したものであるとし、その学
ぶ意義を示した。
「古典」を古文(原文)で学ぶ意義に関して
今後の課題は 2 点ある。1つは古語指導の新
たなパラダイムの実践である。今回の提案の実
践的検証を行う必要がある。
は、
「古典を学ぶ意義」
「古文を学ぶ意義」
「古文
もう1つは古語指導の体系化である。これま
テクストの特性」
「ことばの概念」
「古語を学ぶ
での古文指導において、文語文法の指導に関し
意義」を総括し意義を措定した。われわれは、
ては十分な体系化がなされていた。しかし、古
過去の振り返りの重要性から古典を学ぶ。それ
語指導に関しては、
単独の指導に終始している。
は、現代語訳による単なる情報としての学びで
大学入試で必要とされる 300 の重要古語につい
はなく、作者の思いと直接対話をするために古
ての体系化された指導を構築する必要がある。
文(原文)で学ぶのである。さらに、古文テク
ストの音読による古語の使用により「ことば」
を実感し、往時の人びとの思考や文化を直感す
指 導 小林 恵