Q13 Horm Front Gynecol 3(3)1996 A 13 GnRHは10個のアミノ酸からなり,その血中半減期は約2分です。 NativeなGnRHの6位のアミノ酸であるGlyをD型アミノ酸で置換すると酵素抵抗 性が増し,さらに10位のGlyに修飾を加えるか取り外したものでは,酵素抵抗性 が上昇すると同時に受容体結合力が増加します。血中での存在様式に関しても, アルブミンとの結合性が強いと排泄が遅延し,作用時間が延長します。これは GnRHの作用を増強させるために必要な化学構造の変化なのですが,このため に投与中止後も速やかな排卵の回復がみられないことがあります。 鼻腔内投与で知られる酢酸ブセレリンは,アルブミンとの結合性に関しては nativeなGnRHと同じ程度であり,種々のGnRHアゴニストのなかでも残存しにく く,調節性を回復しやすい薬剤です。一般的には60日以内に月経が再来し,排卵 も認められるようになってきます。それでも稀に回復に3ヵ月以上を要する症例も あります。しかし,鼻腔内投与での薬剤の吸収率は,せいぜい1∼5%といわれ ており,これは個人差が大きく,しかも風邪などによる鼻腔内の変化によって影響 を受けやすく,血中濃度を一定に保つことが難しくなります。そこで開発された のがデポ剤です。現在,皮下埋め込み型のものと,微粒懸濁型のものがあり,作 用時間が4週間のものがつくられています。血中濃度を一定に保つことが比較的 容易である反面,副作用とされている低エストロゲン症状の発生率が高く,それ が発生してもいったん投与したものは中止できず,調節性に劣る欠点があります。 このようなデポ剤の投与では,月経の再来が著しく遅延することがあります。しか し,投与終了後3ヵ月を経ても月経の再来が認められない場合でも,このまま自然 経過を観察して構いません。いずれ,卵巣の機能は回復してきます。投与終了後 速やかに排卵周期を回復させたい場合や月経の再来が認められない場合は,ま ずEPデポ剤やKaufmann療法によって消退出血を起こすことが必要となります。 消退出血後クエン酸クロミフェンなどの排卵誘発剤を使用すれば,通常排卵を起 こすことができます。hMG-hCG,FSH-hCGなどのゴナドトロピン療法は,特別な 症例を除いて必要ありませんが,クロミフェンで排卵が認められない場合は適応 となります。GnRHアゴニストによる治療終了後に排卵が回復したら,初回排卵で 妊娠してもいっこうに差し支えありません。 (吉村 典) 1
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