3 思考活動を保障するユニバーサルデザインの授業づくりの実際 「みんなでつないでめざせタッチダウン ~フラッグフットボール~」 (第6学年) (1)育 成し たい「思考 力」と思考 に必要な要素 【 単 元 で 育 成 し た い 「思 考 力 」】 チー ムの作戦を ゲームの 状況 に応じて選 択する力 思考活動 知 識 攻撃の場面において「攻撃の回数」「守備をする相手の 能力」「チームの作戦のねらい」について知っている。 技 能 攻撃する際の「得点差」を捉える ことができる。 フラッグフットボールは,すべての攻撃がセットプレーから始まるため,作戦通りの状況 ( 攻 撃 位 置 ・相 手 の 守 備 位 置 ) か ら プ レ ー が 開 始 で き た り , 守 備 の 動 き も 予 想 で き た り す る こ とで,作戦が得点につながりやすい。その一方で,たくさんの作戦を考えるだけで満足した り,特定の子ばかりが攻撃する作戦を選んだりする等の課題がある。そのため,様々な作戦 を考えゲームの中で試し,そこから成功したものをチームの作戦として位置づけ,それらの 作戦の中 から,ゲ ーム の状況に応 じてより適 した作戦を選択 する本「 思考力」が必要となる。 この「思考力」を育成するには,上記「知識」や「技能」が必要になる。例えば,ゲーム に関する 情報 を知ってお くことで, 「 4回 目の 攻撃で 3点 差だ。」 「 相手の守備は 右側が強い。」 と , ゲ ー ム の 状 況 を 的 確 に 捉 え る こ と が で き ,「 だ か ら 4 点 を 取 る た め に も ,『 4 点 ね ら え る パス作戦 』を 選ぼう。」と,作 戦を選ぶこ とが 可能になる のである。 (2)本実践におけるユニバーサルデザインの授業づくりと詳細 授 業づ くり < 学習課題 の設 定 ・思 考様 式の位 置づけ> 実 践の詳細 学習課題を設定する際に,本時のゲームで用いる作 戦を決定しているか尋ねた。すると決定していないチ ームや変 更する可能性 があるとい うチ ームがあっ た。 その理 由を尋ねると 以下のよう な反 応が出され た。 C1:そ の時の攻撃回 数で作戦を 変更するから 。 C2:点 差によって作 戦が変わる から。 これらの反応を手がかりに学習課題を「作戦を選ん 【思考様式の位置づけ】 でゲームに生かそう」と設定し,作戦を選択すること を重要な 視点と位置づ けた。 ただ,手が かりもなく作 戦を選択する ことは難し い。 そこで,作戦を選ぶ際の手がかりとして,学習課題を 設 定 す る 際 に 出 さ れ た 反 応 か ら 「 相 手 の 守 備 」「 攻 撃 回 数 」「 得 点 差 」 を 導 き だ し , そ れ ら を 思 考 様 式 と し て 板 書上に位 置づけた。 --81- 81 - <「知識」・「技能」への働きかけ> ○ 想 定されたつ まずき 思考様式に着目しても,それらの内容が理解できな かったり,読み取れなかったりすれば,ゲームの状況 勝敗にこだわりすぎるために, を正確に捉えることができない。そこで,思考様式に ・ 状況を捉えることが難しい。 ・ 相手の守備に関係なく同じ作戦 ばかり使いたがる。 ○ 関する情 報に対して, 働きかけを 行う ことにした 。 まず,得点については,従来のように得点板をめく って合計得点を表すのではな く,1回の攻撃ごとに枠の中 働きか け 「 攻 撃 の 回 数 」 を 得 点 を 書 く 枠 に得点を 記録し( 全部 で4 枠), ・ の 数 で 示 し ,「 得 点 差 」 を 合 計 得 点 そ の 下 に 合 計 得 点 を ブ ロ ッ ク 分のブロックの差で視覚的に捉え で 表 し た 。 こ う す る こ とで , や す く し た (主①:イメージ化)。 【攻撃回数と得点差の確認】 「今,何回目の攻撃で得点差 は何点だ」と攻撃回数と得点の状況をつかむことがで きた。 しかし,次に何点とれば得点 【得点のイニング化】 差がどうなるかすぐに判断でき 得 点 差 が ど れ だ け で , あ と 何 点 ない子ど もがいると想 定された。 ・ とれば点差がどうなるか見通しを そこ で,ブロ ックの 4個分の長 も た せ る ( 補 ① : イメージ化)。 さ と 同 じ も の を 重 ね て 提 示 し , 【4点取った想定を確認】 4点取れば結果がどのようになるか想定できるように した。こうすることで,3点差であれば「あと4点取 ると逆転できる点差」であるということを捉えること ができた 。 【4点取った想定を提示】 ・ また,守備能力については, 「 守 備 能 力 」 に つ い て は , 顔 写 パスカッ トやフラッグ を取る等, 真の下に守備の記録をシールで表 うまく守備をすることができた し,シールが多い者には手を付け 回数を守備者の顔写真の下にシ 加 え て 能 力 の 高 さ を 際 立 た せ た (主 ー ル で 表 し た 。 さ ら に , 比 較 的 ②:イメージ化)。 シールが多い者には,写真の横 【守備者と能力の確認】 にブロックできる範囲を手で表し,守備能力の高さを 際立たせた。子どもたちは,誰がどこを守っていて, 攻撃しにくい方向としやすい方向があることを一目で 【守備能力のイメージ化】 捉えることができるよさに気付き,作戦を工夫してい く際に活 用していった( 教材・ 教具の価値 を共 有する)。 ○ 想 定されたつ まずき 次に,これまでは「おとり作戦」等,作戦の動きを ・ 作戦の動きが理解できない。 捉えて名前を付けておくことが多くあった。しかし動 ・ 作戦の目的が理解できない。 きは理解できているが,その意図を捉えることができ ○ ・ 働きか け ていない子どもは,作戦を選んだ根拠が説明できない 作 戦 名 に 「 動 き を 捉 え た も の 」 こ と が 考 え ら れ た 。 そ こ で 動 き の 作 戦 名 に 加 え て ,「 4 と 「 作 戦 の ね ら い 」 の 二 つ を 付 け , 点 を ね ら う 作 戦 」「 最 低 で も 2 点 作 戦 」 等 , そ の 作 戦 で それらを分けて,選択できるよう ねらう点数や目的を明確にし,動きの作戦名とつなげ に す る (主:分節・選択化)。 て捉える ことができる ようにした 。 --82- 82 - < 個々の考 えを 関わら せる場> 実際のゲームでは,攻撃した 作戦を選択してゲームを行った後, 後 に 選 ん だ 作 戦 の 有 効 性 に つ 選択が適切であったかどうかについて, い て ス テ ー ジ 上 か ら ゲ ー ム の ICT機 器 を 活 用 し て ゲ ー ム を 撮 影 し , そ 様 子 を 撮 影 し , そ の 様 子 を ICT の動画を手がかりにゲームを振り返る 機 器 を 用 い て 撮 影 し 振 り 返 っ 活動を設定した。 て い っ た 。 ゲ ー ム を 振 り 返 る 【 ICT機 器 で の 振 り 返 り 】 ことを通して,うまくいかなかった原因を「作戦の選 ペ ア の チ ー ム に ICT機 器 で ゲ ー ム を 撮 択 ミ ス 」 と 「 技 術 的 な 問 題 」 の 二 つ に 分 け て 捉 え る こ 影してもらい,その映像を基にうまく とができた。さらに,1・2回目の攻撃を終了した後 い か な か っ た 場 合 に は 原 因 が ど こ に あ に,3・4回 目の攻撃につ いて話し合う 場を設定し た。 ったのかを探っていった。 そして,次の攻撃はどうすればよい のかを話し合う活動を通して,学び合 いを活性化させようと試みた。 すると次 のような反応 が見られた 。 高 1 児 : 8 点 リ ー ド し て い る か ら, 確 実 に 1 点 ず つ 取 り にい く作戦でよい 。 高 2児:同点 だから,タッチダ ウンできるよ うにしたい。 高 3児:2点 負けているか ら4点をね らっていき たい。 低 2 児 : 最 低 で も 1 点 を 取 り た い。 ○ ○ さ ん は パ ス カ ッ トが うまいから反 対を攻める 作戦を選ぶ。。 これらの反応から,ゲームの状況を踏まえて作戦を 選ぼうと している姿が 見られた。 【ICT機器で撮影】 その成果はゲームの中でも発揮され,チーム全体が 一つの作戦を共有し,その作戦に向かって意図的な動 きを行うことができた。また,チームが勝つことがで き た 理 由 を 尋 ね る と ,「 4 回 目 の 攻 撃 で 一 番 自 信 の あ る 作 戦 を 選 ん で , み ん な が そ の 通 り 動 け た か ら 。」 と , 状 況に応じ た作戦を選ぶ 力を育成す るこ とにつなが った。 (3)成果と課題 ① 量的な検 証 本 実 践 の 前 後 で テ ス ト (12点 満 点 )を 行 い , 「思 考 力 」の 伸 び を 検 証 し た 。 そ の 結 果 , 平 均 点 で0.84点 の向 上が見られ た。この差に ついてt検定 を行 ったと ころ,〔 t(37)=4.95,P<.01〕で, 有意差が 見ら れた。この ことから, 本実践を通して 「思 考力」の 向上が図られ たと言える。 ② 考察 本実践 では,作戦を選 択する際に 必要な手だ てと して「攻撃 の回数」「 相手の 守備 能力」「得 点差」を位置づけ,それらに関する知識や技能に対して働きかけた。そうすることで,これ まで捉えにくかったゲームの状況を的確に捉えることができた。そして,チームの特徴に応 じた作戦 を選 ぶ「思考力 」の育成に つながったと考 えられる。 一方で,作戦を選ぶ際に,働きかけを用いなかったチームや,4回目の攻撃では選択する 作戦が限られていたチームもあった。働きかけの提示の仕方やタイミング,さらには,選択 する余地 があ るように作 戦を準備し ておく等,より細 かな視点までの 配慮が必要だ と感じた。 --83- 83 -
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