「みんなでつないでめざせタッチダウン ~フラッグフットボール~」(第6学年)

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思考活動を保障するユニバーサルデザインの授業づくりの実際
「みんなでつないでめざせタッチダウン
~フラッグフットボール~」 (第6学年)
(1)育 成し たい「思考 力」と思考 に必要な要素
【 単 元 で 育 成 し た い 「思 考 力 」】
チー ムの作戦を ゲームの 状況 に応じて選 択する力
思考活動
知 識
攻撃の場面において「攻撃の回数」「守備をする相手の
能力」「チームの作戦のねらい」について知っている。
技 能
攻撃する際の「得点差」を捉える
ことができる。
フラッグフットボールは,すべての攻撃がセットプレーから始まるため,作戦通りの状況
( 攻 撃 位 置 ・相 手 の 守 備 位 置 ) か ら プ レ ー が 開 始 で き た り , 守 備 の 動 き も 予 想 で き た り す る こ
とで,作戦が得点につながりやすい。その一方で,たくさんの作戦を考えるだけで満足した
り,特定の子ばかりが攻撃する作戦を選んだりする等の課題がある。そのため,様々な作戦
を考えゲームの中で試し,そこから成功したものをチームの作戦として位置づけ,それらの
作戦の中 から,ゲ ーム の状況に応 じてより適 した作戦を選択 する本「 思考力」が必要となる。
この「思考力」を育成するには,上記「知識」や「技能」が必要になる。例えば,ゲーム
に関する 情報 を知ってお くことで,
「 4回 目の 攻撃で 3点 差だ。」
「 相手の守備は 右側が強い。」
と , ゲ ー ム の 状 況 を 的 確 に 捉 え る こ と が で き ,「 だ か ら 4 点 を 取 る た め に も ,『 4 点 ね ら え る
パス作戦 』を 選ぼう。」と,作 戦を選ぶこ とが 可能になる のである。
(2)本実践におけるユニバーサルデザインの授業づくりと詳細
授 業づ くり
< 学習課題 の設 定
・思 考様 式の位 置づけ>
実 践の詳細
学習課題を設定する際に,本時のゲームで用いる作
戦を決定しているか尋ねた。すると決定していないチ
ームや変 更する可能性 があるとい うチ ームがあっ た。
その理 由を尋ねると 以下のよう な反 応が出され た。
C1:そ の時の攻撃回 数で作戦を 変更するから 。
C2:点 差によって作 戦が変わる から。
これらの反応を手がかりに学習課題を「作戦を選ん
【思考様式の位置づけ】
でゲームに生かそう」と設定し,作戦を選択すること
を重要な 視点と位置づ けた。
ただ,手が かりもなく作 戦を選択する ことは難し い。
そこで,作戦を選ぶ際の手がかりとして,学習課題を
設 定 す る 際 に 出 さ れ た 反 応 か ら 「 相 手 の 守 備 」「 攻 撃 回
数 」「 得 点 差 」 を 導 き だ し , そ れ ら を 思 考 様 式 と し て 板
書上に位 置づけた。
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<「知識」・「技能」への働きかけ>
○
想 定されたつ まずき
思考様式に着目しても,それらの内容が理解できな
かったり,読み取れなかったりすれば,ゲームの状況
勝敗にこだわりすぎるために, を正確に捉えることができない。そこで,思考様式に
・
状況を捉えることが難しい。
・
相手の守備に関係なく同じ作戦
ばかり使いたがる。
○
関する情 報に対して, 働きかけを 行う ことにした 。
まず,得点については,従来のように得点板をめく
って合計得点を表すのではな
く,1回の攻撃ごとに枠の中
働きか け
「 攻 撃 の 回 数 」 を 得 点 を 書 く 枠 に得点を 記録し( 全部 で4 枠),
・
の 数 で 示 し ,「 得 点 差 」 を 合 計 得 点 そ の 下 に 合 計 得 点 を ブ ロ ッ ク
分のブロックの差で視覚的に捉え で 表 し た 。 こ う す る こ とで ,
や す く し た (主①:イメージ化)。
【攻撃回数と得点差の確認】
「今,何回目の攻撃で得点差
は何点だ」と攻撃回数と得点の状況をつかむことがで
きた。
しかし,次に何点とれば得点
【得点のイニング化】
差がどうなるかすぐに判断でき
得 点 差 が ど れ だ け で , あ と 何 点 ない子ど もがいると想 定された。
・
とれば点差がどうなるか見通しを そこ で,ブロ ックの 4個分の長
も た せ る ( 補 ① : イメージ化)。
さ と 同 じ も の を 重 ね て 提 示 し , 【4点取った想定を確認】
4点取れば結果がどのようになるか想定できるように
した。こうすることで,3点差であれば「あと4点取
ると逆転できる点差」であるということを捉えること
ができた 。
【4点取った想定を提示】
・
また,守備能力については,
「 守 備 能 力 」 に つ い て は , 顔 写 パスカッ トやフラッグ を取る等,
真の下に守備の記録をシールで表 うまく守備をすることができた
し,シールが多い者には手を付け 回数を守備者の顔写真の下にシ
加 え て 能 力 の 高 さ を 際 立 た せ た (主 ー ル で 表 し た 。 さ ら に , 比 較 的
②:イメージ化)。
シールが多い者には,写真の横 【守備者と能力の確認】
にブロックできる範囲を手で表し,守備能力の高さを
際立たせた。子どもたちは,誰がどこを守っていて,
攻撃しにくい方向としやすい方向があることを一目で
【守備能力のイメージ化】
捉えることができるよさに気付き,作戦を工夫してい
く際に活 用していった( 教材・ 教具の価値 を共 有する)。
○
想 定されたつ まずき
次に,これまでは「おとり作戦」等,作戦の動きを
・
作戦の動きが理解できない。
捉えて名前を付けておくことが多くあった。しかし動
・
作戦の目的が理解できない。
きは理解できているが,その意図を捉えることができ
○
・
働きか け
ていない子どもは,作戦を選んだ根拠が説明できない
作 戦 名 に 「 動 き を 捉 え た も の 」 こ と が 考 え ら れ た 。 そ こ で 動 き の 作 戦 名 に 加 え て ,「 4
と 「 作 戦 の ね ら い 」 の 二 つ を 付 け , 点 を ね ら う 作 戦 」「 最 低 で も 2 点 作 戦 」 等 , そ の 作 戦 で
それらを分けて,選択できるよう ねらう点数や目的を明確にし,動きの作戦名とつなげ
に す る (主:分節・選択化)。
て捉える ことができる ようにした 。
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< 個々の考 えを 関わら せる場>
実際のゲームでは,攻撃した
作戦を選択してゲームを行った後, 後 に 選 ん だ 作 戦 の 有 効 性 に つ
選択が適切であったかどうかについて, い て ス テ ー ジ 上 か ら ゲ ー ム の
ICT機 器 を 活 用 し て ゲ ー ム を 撮 影 し , そ 様 子 を 撮 影 し , そ の 様 子 を ICT
の動画を手がかりにゲームを振り返る 機 器 を 用 い て 撮 影 し 振 り 返 っ
活動を設定した。
て い っ た 。 ゲ ー ム を 振 り 返 る 【 ICT機 器 で の 振 り 返 り 】
ことを通して,うまくいかなかった原因を「作戦の選
ペ ア の チ ー ム に ICT機 器 で ゲ ー ム を 撮 択 ミ ス 」 と 「 技 術 的 な 問 題 」 の 二 つ に 分 け て 捉 え る こ
影してもらい,その映像を基にうまく とができた。さらに,1・2回目の攻撃を終了した後
い か な か っ た 場 合 に は 原 因 が ど こ に あ に,3・4回 目の攻撃につ いて話し合う 場を設定し た。
ったのかを探っていった。
そして,次の攻撃はどうすればよい
のかを話し合う活動を通して,学び合
いを活性化させようと試みた。
すると次 のような反応 が見られた 。
高 1 児 : 8 点 リ ー ド し て い る か ら, 確 実 に 1 点 ず つ 取 り
にい く作戦でよい 。
高 2児:同点 だから,タッチダ ウンできるよ うにしたい。
高 3児:2点 負けているか ら4点をね らっていき たい。
低 2 児 : 最 低 で も 1 点 を 取 り た い。 ○ ○ さ ん は パ ス カ ッ
トが うまいから反 対を攻める 作戦を選ぶ。。
これらの反応から,ゲームの状況を踏まえて作戦を
選ぼうと している姿が 見られた。
【ICT機器で撮影】
その成果はゲームの中でも発揮され,チーム全体が
一つの作戦を共有し,その作戦に向かって意図的な動
きを行うことができた。また,チームが勝つことがで
き た 理 由 を 尋 ね る と ,「 4 回 目 の 攻 撃 で 一 番 自 信 の あ る
作 戦 を 選 ん で , み ん な が そ の 通 り 動 け た か ら 。」 と , 状
況に応じ た作戦を選ぶ 力を育成す るこ とにつなが った。
(3)成果と課題
①
量的な検 証
本 実 践 の 前 後 で テ ス ト (12点 満 点 )を 行 い , 「思 考 力 」の 伸 び を 検 証 し た 。 そ の 結 果 , 平 均 点
で0.84点 の向 上が見られ た。この差に ついてt検定 を行 ったと ころ,〔 t(37)=4.95,P<.01〕で,
有意差が 見ら れた。この ことから, 本実践を通して 「思 考力」の 向上が図られ たと言える。
②
考察
本実践 では,作戦を選 択する際に 必要な手だ てと して「攻撃 の回数」「 相手の 守備 能力」「得
点差」を位置づけ,それらに関する知識や技能に対して働きかけた。そうすることで,これ
まで捉えにくかったゲームの状況を的確に捉えることができた。そして,チームの特徴に応
じた作戦 を選 ぶ「思考力 」の育成に つながったと考 えられる。
一方で,作戦を選ぶ際に,働きかけを用いなかったチームや,4回目の攻撃では選択する
作戦が限られていたチームもあった。働きかけの提示の仕方やタイミング,さらには,選択
する余地 があ るように作 戦を準備し ておく等,より細 かな視点までの 配慮が必要だ と感じた。
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