2002年7月 三 菱 電 線 工 業 時 報 第99号 エコケーブルのリサイクル性評価 The Recyclability of Ecological Cables * * 藤 田 望 芦 田 桂 子 N. Fujita K. Ashida 要 約 現在,廃電線・ケーブルのリサイクルについては,銅やアルミニウムはほぼ 100%がリサイクルされているのに 対し,被覆材については約半分しか再利用されていない。エコケーブルは,リサイクルしやすい製品として開発さ れたものであるが,製品の誕生より 3 年あまりしか経過しておらず,使用済み電線として回収されてきたものはな い。また,リサイクルについての具体的な手法は確立されていない。 そこで,本報では促進耐候試験機を用いて廃電線の被覆材を模擬した試料を作成し,エコケーブルのリサイク ル,中でも,ケーブル被覆材としての再利用に着目し検討を行った。 物理特性,電気特性の面から評価した結果,現行のエコケーブルの規格を満足するものであることが確認され, 廃電線の被覆材が新たなケーブル被覆材として再利用できる可能性があることを見出した。 今後は,廃電線からの被覆材回収における材料分別,異物除去など,より具体的な課題の解決が必要であ る。 キーワード: リサイクル,エコケーブル,耐候性,ポリエチレン,ポリ塩化ビニル Summary In the case of electrical wires and cables, the recycle ratio of copper and aluminum are almost 100%. But the recycle ratio of plastic materials e.g. sheaths and insulators, are less than half, the rest is buried underground. Ecological cables were developed as products which can be recycled easily, but none have been recycled so far as it is only three years since the development of the cables; too early for a cable lifetime to finish. Therefore in order to investigate the recyclability of ecological cables as jackets of new cables, we made sample sheets with similar conditions of a cable jacket that finished its lifetime by accelerated weather-proofing tests. As the results of the measurement of physical properties and electrical properties, we found that the jacket materials of cables which finished their lifetime can be used for insulators of new cables. For a useful recycling systems for ecological cables, it is necessary to find practical methods for each process e.g. separation of materials, removing contaminations. Key words:Recycle, Ecological cable, Weather-proof, Polyethylene, Polyvinyl chloride 1.まえがき この中で, 「エコマテリアルの使用」の一環として,建築 分野で一般に使用される電線・ケーブルとしてハロゲン, 国土交通省(旧建設省)大臣官庁営繕部は, 「環境配慮型 鉛などを含まず,リサイクルしやすい製品を採用したいと 官庁施設(グリーン庁舎)計画指針」を取りまとめ,環境 の意向から(社)日本電線工業会に対し“環境に配慮した 負荷低減手法として次の基本 5 項目を掲げた。 電線の規格作成”の要請が行われ,平成 10 年 9 月に規格化 がされた。 1)周辺環境への配慮 エコケーブルは構成材料をポリエチレン系樹脂に統一 2)運用段階での省エネルギー・省資源 することでリサイクル促進が期待されている。しかし,エ 3)長寿命化 コケーブル誕生より今日まで 3 年あまりしか経過しておら 4)エコマテリアルの使用 ず,実際に製品寿命を終えて回収されたケーブルはない。 5)適正使用・適正処理 本報では,カーボンアーク灯式サンシャインウェザオ メータにより促進耐候試験を行った試料により,エコケー * 技術本部 総合研究所 − 42 − エコケーブルのリサイクル性評価 ブル被覆材のマテリアルリサイクルについて検証した結 2RO・+O2 ROO・ ケージ反応 果を報告する。 RH 2.リサイクルについて ROO・ O2 R・ 一般にプラスチックのリサイクルについては大きく分 光, 熱 RH その他 けて以下の 3 とおりの方法がある。 R・ ROOH ROOH RO・+RO2・+H2O R・ ROH 1) サーマルリサイクル RO・ 燃焼させて熱エネルギーを回収する方法。現在,リサ ・OH+RH→R・+H2O RH イクルされるプラスチック材料については,セメント β−切断 −C−R+・CH2−CH− = O R や高炉の原料として利用されている。 − 2) ケミカルリサイクル プラスチックを分解させ,石油やガスを得る方法。分 Fig. 1 解のプロセスとしては,触媒を用いた熱分解方式が一 Scheme of autoxidation 自動酸化スキーム 般的であるが,超臨界水を用いた新しいプロセスの開 ための PVC コンパウンドの 2 種類を各々白色,黒色の 2 色の 発も進められている。 コンパウンドで計 4 種を用いた(Table 1) 。 3) マテリアルリサイクル プラスチック材料をそのままプラスチック製品の原 Table 1 料として再利用する方法。実際は使用時の劣化を受け Samples for investigation 評価試料 ていることから,カスケード処理といわれる低品位製 試料名 内 容 色 PE-W LDPE ベースエココンパウンド 白 PE-B 〃 黒 電線に関しては,これらのリサイクルの内,マテリアル PVC-W PVC コンパウンド 白 リサイクル,特にケーブル被覆材としての再利用ができれ PVC-B 〃 黒 品への再利用が一般的である。 ば理想的である。現状,一部のポリ塩化ビニル(PVC)が ケーブルのシース材として用いられており,ポリエチレン 4.2 リサイクルの模擬 (PE)もシース材としての再利用が進みつつある。しかし, いまだケーブル被覆材へのマテリアルリサイクルは,十分 4.2.1 製品化(押出し) な規模に到達していない。 ケーブルとしての初期状態を模擬するために,ラボプラ ストミル φ20mm 押出し機に T ダイをセットし,Table 2 に 示す押出し条件にて幅 60mm,厚さ 1mm のリボン状試料 3.ケーブルの劣化 を作成した。 ケーブルの劣化については一般に熱的劣化,化学的劣 Table 2 化,光・放射線劣化,生物劣化などが良く知られているが, 押出し条件 建築用のケーブルでは押出し加工時,および,通電時の温 度上昇などによる熱劣化,太陽や照明器具による光(紫外 線)劣化を考慮する必要がある。 熱や紫外線での劣化については Fig.1 に示すとおり,酸素 共存下で連鎖反応的に進行してゆくことが知られており , 劣化により引張強さ,伸び,絶縁抵抗といったケーブル被覆 Conditions for sample ribbons for extrusion 試料 設定温度(°C) 回転数 C1 C2 C3 T ダイ (rpm) PE-W, PE-B 150 150 150 150 20 PVC-W, PVC-B 170 170 170 170 20 リーチングタイム:3 分 15 秒 平均滞留時間:5 分 52 秒 材に求められる特性を低下させてしまうことがある。 当社エコケーブルでは酸化防止剤,紫外線吸収剤,光安 4.2.2 実使用 リボン状試料を用い,建築物用途でのケーブル使用方法 定剤などによりこれらの劣化を防止している。 として比較的厳しい用いられ方である屋外での使用を模擬 4.リサイクル性の検証 して,紫外線だけでなく降雨などの影響も合わせて評価す ることのできるカーボンアーク灯式サンシャインウェザオ メータ(SWM)による促進耐候性試験を実施した(Table 3) 。 4.1 試料 リサイクル性の検証には,エココンパウンドとして低密度 ポリエチレン(LDPE)をベースとしたモデル配合と比較の − 43 − Table 3 2002年7月 三 菱 電 線 工 業 時 報 第99号 Conditions of accelerated weather-proofing test 20 by sunshine weather meter (SWM) 使 用 機 スガ試験機 製 WEL-SUN-DC-B 型 器 63°C ブラックパネル温度 スプレーサイクル 12 分/ 60 分 試 2000 時間 験 時 引張強さ(MPa) SWM 試験条件 間 規格値 4.2.3 再製品化 10 SWM後のリボン状試料をペレタイザーを用いて約 4mm 角のペレットに切断し再生ペレットとした。また,得られ た再生ペレットを再び Table 2 の押出し条件でリボン状試 料として再生ケーブルを模擬した。 PE−W PE−B 5.評 価 PVC−W ある EM-IE の規格 JCS 第 3416 号に基づき「引張」 , 「加熱 老化」の項目を,電気特性として「体積抵抗率」の測定を 初期 SWM後 再押出し後 Fig. 2a Variation of tensile strength retention by SWM test and re-extruding 実施した。 SWM 後および再押出し後の引張強さ残率 Table 4 に「引張」 , 「加熱老化」の規格値を示す。 Table 4 PVC−B 0 評価は物理特性の評価として,一般的なエコケーブルで 700 Standard value of EM-IE EM-IE の規格値 単位 EM-IE 規格値 引張強さ MPa ≧ 10 伸び % ≧ 350 加熱老化 引張強さ残率 % ≧ 80 90°C × 96 時間 伸び残率 % ≧ 65 伸び(%) 項目 引張 規格値 5.1 引張特性 350 初期,SWM後,再押出し後の試料についてそれぞれ引張 強さ,伸びを測定した(Fig. 2a, Fig. 2b) 。 5.1.1 SWM 試験後 PE−W エココンパウンド,PVC コンパウンドの両者ともに黒色 PE−B 配合(PE-B,PVC-B)では引張強さ,伸びともに大きな変 PVC−W 化は見られなかった。これは,コンパウンド中のカーボン PVC−B 0 ブラックが紫外線を吸収し,ポリマーの劣化を防いだため 初期 であると考えられる。 白色配合(PE-W,PVC-W)については引張強さ,伸び re-extruding SWM 後および再押出し後の伸び残率 直後に紫外線照射面にクラックが発生しポリマーの劣化 (Fig. 3a, Fig. 3b) 。 再押出し後 Fig. 2b Variation of elongation retention by SWM test and とも大きく低下した。このとき,試験体が伸長を開始した が起こっていることが肉眼でも確認することができた SWM後 復してる。一般にポリエチレン系材料は PVC に比べ耐候性 に劣るといわれているが,今回評価したモデル配合では, エココンパウンドと P V C コンパウンドで初期品に対する 5.1.2 再押出し後 再押出し後の物性低下は,エココンパウンド,PVC コンパ PE-B,PVC-B(黒色配合)では引張強さ,伸びともに大 ウンド間で大きな差は見られなかった。 この現象を解明するため,PE-Wの紫外線劣化の様子を初 きな変化は見られなかった。 PE-W,PVC-W(白色配合)では,SWM 後に一旦低下し 期,SWM 後のそれぞれのリボン状試料,および SWM 後の た引張強さ,伸びの値が,再押出し後には,引張強さは初 リボン状試料を紫外線照射側から約100µmスライスして取 期値の90%程度,伸びは初期値の70%程度までそれぞれ回 り除いた試料について,F T - I R (P E R K I N E L M E R − 44 − エコケーブルのリサイクル性評価 初期 SWM後 %T R−CO− R−CH2−R' SWM後 100μm内部 30%伸長時 引張前 1700 Fig. 3a Front view of cracks caused by tension Fig. 4 引張試験時のクラック発生の様子(正面写真) 1600 1500 CM-1 1400 1300 FT-IR chart of PE-W sample surface (Initial, after SWM test and scrape out SWM test sample for 100µm) 照射面 初期,SWM 後,SWM 後の試料表面を 100µm 削り 引張前 とった PE-W 試料表面の FT-IR チャート 化して伸びを失った層に集中しこの部分にクラックが発生 し,次いで応力のかかる場所が健全層に移り,やがて試料全 てが破断するといった2段階の破断が起こっており、クラッ ク部に応力が集中するために,引張強さ,伸びが低下する が(Fig. 5) ,再押出し後の試料では劣化したポリマーが試料 内に分散するため,局所的に応力が加わることなく,初期 30%伸長時 照射面 と同等の特性を示したものと思われる。 クラック Fig. 3b Side view of cracks caused by tension 引張試験時のクラック発生の様子(側面写真) ク ラ ッ ク 発 生 System2000) を用いGolden Gate Single Reflection Diamond ATR にて表面の IR スペクトルを観察した(Fig. 4) 。 ク ラ ッ ク 伸 展 その結果,SWM 後の試料には 1570cm − 1 付近に初期品 には見られなかったカルボニル(C=0)の存在を示す吸収 劣化層 健全層 ピークが見られ,紫外線によりポリマーの劣化が起こって いることが確認できた。ただし,表面から 100µm 内側では 同ピークが消失しており,初期品と変わらない状態である ことがわかった。 引張前 Fig. 5 このことから,SWM 試験によるポリマーの劣化は紫外 線の照射を受ける試料のごく表面付近のみで起こってお り,内側の大部分は健全状態であることが確認された。 すなわち,SWM後の試料を引張試験したときには,まず, 試験開始直後に引張りにより試料に加わる応力が表面の劣 − 45 − 引張直後 引張中 Schematic illustration of the process for sample breaking at tensile strength test 引張試験での破断モード模式図 2002年7月 三 菱 電 線 工 業 時 報 第99号 5.2 加熱老化特性 藤田 望(ふじた のぞむ) Table 5 に PE-W,PE-B の初期,再押出し後の試料につ いて,規格にもとづく加熱老化後の引張強さ,伸びの残率 技術本部 総合研究所 高機能材グループ 電線被覆材料の研究・開発に従事 電気学会会員 評価を行った結果を示す。PE-W,PE-B とも再押出し後の 試料は初期品と同等の残率を示した。 Table 5 Retention value of tensile strength and elongation after aging test (90°C 96h) 老化試験(90°C 96h)後の引張強さ,伸び残率 試料 初期品 再押出し後 引張強さ 伸び PE-W 99 102 PE-B 95 100 PE-W 99 113 PE-B 101 106 5.3 体積抵抗率 PE-W,PE-Bの再押出し後の試料を熱プレスにて1mm厚 さのシートを作成し,超絶縁抵抗計(YHP 社製 4329A 型) を用いて体積抵抗率の測定を行った(Table 6) 。その結果, 電線被覆材料として十分な体積抵抗率を有していること がわかった。 Table 6 Volume resistivity of re-extruded samples 再押出し品の体積抵抗率測定結果 試料 体積抵抗率(TΩ・m) PE-W 74 PE-B 52 6.む す び 今回エコケーブルのリサイクルを,「押出し→使用→再 押出し」の形で模擬した結果として,再押出し後の物性が EM-IE の規格を満足することが確認でき,廃電線の被覆材 から新規電線被覆材へマテリアルリサイクルできる可能 性を見出した。ただし,現状では回収されてきた電線から 特定メーカーもしくは特定線種を選別してリサイクルす ることは困難である。また,再生ペレットに混入してくる 金属や P V C 材料といった異物を精度よく除去できるシス テムも確立されていないことから,今後は廃電線被覆材の 回収方法について検討してゆく必要がある。 参考文献 大澤善次郎.高分子の光劣化と安定化.シー エム シー. 1986, p.18 ∼ 21. − 46 − 芦田桂子(あしだ けいこ) 技術本部 総合研究所 高機能材グループ 電線被覆材料の研究・開発に従事
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