基調講演 桂由美 Yumi Katsura 2011 パリ・オートクチュールコレクション フランスはパリの 5 つ星ホテル「ザ・ウェスティン・パリ」の「サロン・インペリアル」にて 2011 年 1 月 26 日、「2011 春夏 パリ・オートクチュールコレクション」が開催されました。 ブライダルファッションデザイナーの桂由美氏は、このコレクションへ 9 年連続・11 回目となる参加を果たしま した。今回のコレクションテーマは「UN JOUR A KYOTO(京都の一日)」とし、今までに手掛けたことのある「友禅」「絞 り」「西陣織」「和紙」の他に、「漆」「金箔」「和傘」「竹」「金細工」などの素材、伝統工芸テクニックを駆使した作品で構成。 世界に誇る京都の匠たちの伝統工芸を現代ファッションに生かすことは、日本のデザイナーとして大きな課題だ と考える桂由美氏に今回のパリ・オートクチュールコレクションの報告を含めた基調講演を行っていただきました。 <桂由美氏:基調講演(要旨)> 一般に「コレクション」というと、パリで開催される「オートクチュール・コレクション」と、ニューヨーク・ロン ドン・ミラノ・パリ・東京(開催順)で開催される「プレタポルテ・コレクション」の 2 通りに分かれます。 「オートクチュール・コレクション」というのは、新たな創造を発表する場であり、独創性がなくてはいけません。 以前に誰もやっていないものをやることが大切なのです。「オートクチュール・コレクション」が芸術的な面に力点 を置くのに対し、「プレタポルテ・コレクション」は、商業面に力点を置き、売るためのコレクションです。 さて、今回の「オートクチュール・コレクション」はテーマを“京都”にしたのですが、伝統工芸や友禅というも のは皆が注目しているので、特別珍しいものではありません。今さら、私がコレクションで友禅や絞りをやったと ころで、誰も驚いてはくれないのです。そこで、今回は袂やきもの衿などの、いわゆる「きものドレス」はやめまし た。「京都の一日」と銘打ったショーに来られたマスコミや顧客の大半は、この「きものドレス」を想像していたので はないでしょうか。ですから、「本当にこれが京都なの」「こんな使い方があるの」というものを発表しようと決めま した。そして、それが大成功を収めました。 私のショーは 5 時少し前から始まったのですが、ショーの最初から大きなざわめきと 拍手が起きたのは 11 回目のパリコレにして初めてのことでした。 この理由は、冒頭に、広がったテントを思わせるアンブレラスカートのモデルが颯爽 と登場したからです。さきほども申しましたが、「京都の一日」というテーマから、大半 のマスコミや顧客は「きものドレス」の登場を想像していたのに、まったく違うものが出 てきて、これに続く西陣織、京友禅の作品も従来の日本の発想を脱した、全く斬新なト レンドのデザインだったので、初めは驚き、次に感動が大きなうね りとなって会場を沸かせたのでしょう。意外性の勝利だったと思い ます。冨永愛さんが金閣寺に山桜を描いた金色のミニドレスで登場 した時は、その華やかさに更に大きな拍手が沸きました。そして、 そのあでやかな色彩の後には黒地に金で紅葉を描いたパンツスーツ、インディゴに白の華紋 を刺繍したジャンプスーツが登場するという具合に、華やかさと粋と巧みな演出にも観客は 引きつけられたに違いありません。また、金属加工のビスチェにペプラムのミニドレス、シ ルバーのエンボスメタルのミニドレスや竹の帯、水引の鳳凰のヘッドド レスも観客を沸かせました。 京絞りは 2 点ありましたが、特に赤の椿の花を数百個繋いだドレスは 観客のため息を誘いました。誰もやったことのない形、そして白と赤の 組合わせがタイミング的に良かったように思います。 ラストのウェディングドレスはニットの貴公子 広瀬光治さんがこの 日のためにかぎ針で丹念に編み上げて下さったユミラインのドレスに、日吉屋さんが苦労し て作り上げた和紙レースを下げた京傘仕立ての『ヘッドドレス』です。そのスレンダーなド レスに京都の和傘のテクニックを使って創作されたヘッドドレスの見事さに、場内は割れん ばかりの拍手で幕をとじました。 こういったコレクションは、何十人もの人たちのパワ ーがひとつの方向に向かって団結することが成功のカギだと思います。私は 今、 “日本のために” “日本を世界に広げること”を課題に取り組んでいます。 私は、皆さんにも同じ気持ちで同じ目的を目指してほしいと思うのです。世 の中が機械化・便利化するほど、オートクチュールへの気持ちが強くなると 思います。 “自分だけの 1 着” “私だけ” “only one”への夢を抱いていく・・・ そんな世界を皆さんと一緒に創りたいと思っています。
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