減収減益時代に打ち勝つ クリニック収益改善のポイント

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経 営 情 報 レ ポ ー ト
減収減益時代に打ち勝つ
クリニック収益改善のポイント
1 収益悪化! データに見るクリニックの経営実態
2 患者数・患者単価をアップさせるポイント
3 コストを削減する取り組みポイント
減収減益時代に打ち勝つ クリニック収益改善のポイント
収益悪化! データに見るクリニックの経営実態
1│クリニック収益悪化の実態
クリニック経営を取り巻く環境は、厳しさを増しています。医療制度改革や診療報酬改
定といったクリニックに直接影響を及ぼす制度改革はもちろん、競合医院の増加など周辺
環境の変化等も厳しさを増す要因となっています。
2年おき毎年6月に実施されている医療経済実態調査(厚生労働省)のデータを見ても、
平成 13 年6月と比較して、収支差額は 991 千円減少しています。
年間に換算すると、11,892 千円の減少となり厳しい経営状況となっていることが予想で
きます。収入に関しては、平成 14 年診療報酬本体マイナス改定、健保法改正の影響を受け
て、15 年6月に大幅な収入減少となりましたが、その後回復傾向にあります。一方医業費
用は、収入の伸び以上に増加しているため、結果として収支差額が減少しました。
◆厚生労働省:医療経済実態調査より
●一般診療所(その他) 無床 年度推移
(単位:千円)
13 年 6 月
Ⅰ.医業収入
15 年 6 月
17 年 6 月
19 年 6 月
12,148
9,262
10,595
10,853
1.外来収入
11,812
9,038
10,340
10,654
(1)保険診療収入
11,235
8,678
9,899
10,119
(2)その他の診療収入
577
361
440
535
2.その他の医業収入
336
224
256
200
Ⅱ.医業費用
10,151
7,672
9,136
9,847
1.給与費
5,204
3,849
5,021
5,511
2.医薬品費
1,923
1,411
1,582
1,789
3.材料費
267
117
205
256
4.委託費
438
304
408
419
5.減価償却費
306
256
285
499
6.その他の医業費用
2,034
1,735
1,635
1,373
Ⅲ.収支差額(Ⅰ−Ⅱ)
1,998
1,590
1,460
1,007
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減収減益時代に打ち勝つ クリニック収益改善のポイント
2│患者数は制度改正の影響で増減
下記外来患者数の推移結果から、平成 15 年6月に大幅に患者数が減少していることがわ
かります。これは、平成 14 年 10 月と同 15 年4月に健保法等改正があり、本人負担額がそ
れぞれ老人1割、本人3割になったことにより受診抑制が働いたことが要因と思われます。
また、診療報酬改定では、長期投薬の撤廃がなされたことも受診回数減少に大きな影響を
与えました。
その後、若干の増加に転じていますが、変わらず患者数は伸び悩んでおり、増収に至っ
ていない要因となっています。
●同調査 外来患者数の推移
外来患者数(各1ヵ月)
診療日数
1日当り外来患者数
13 年6月
1,902 人
23.6 日
81 人
15 年6月
1,669 人
23.4 日
71 人
17 年6月
1,823 人
23.4 日
78 人
19 年6月
1,723 人
23.3 日
74 人
3│職員数は増加傾向
下記1施設当たり従事者数の推移をみると、平成 13 年6月の 9.4 人だった従事者数が、
15 年6月に 6.7 人と大きく減少していることがわかります。
平成 15 年6月の減収は、2,886
千円。減収に伴い、大幅な人員整理を行ったことが要因といえます。
しかし、その後の4年間で、従事者数は 9.4 人に戻りました。収入は回復していません
が、従事者は増加していることが、収支差額悪化の大きな要因となっています。
●同調査 1施設当たり従事者数の推移
医師
看護職員
事務職員
その他職員
計
13 年6月
1.4
2.7
3.1
2.2
9.4
(単位:人)
15 年6月
1.1
2.0
2.3
1.3
6.7
17 年6月
1.2
2.2
2.4
1.5
7.3
19 年6月
1.3
2.9
2.7
2.5
9.4
今後医療機関が生き残っていくためには、収益改善がキーワードとなります。収益改善
を実施しなければ、苦しい経営状況は変わりません。
収入増加のためには、患者数を確保することと単価をアップさせること、さらには併せ
てコスト削減にも取り組まなければなりません。
次章からは、収入とコスト改善のポイントについて解説します。
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減収減益時代に打ち勝つ クリニック収益改善のポイント
患者数・患者単価をアップさせるポイント
1│収入を増加させる取り組み
必要利益の確保は、クリニック経営にとって非常に重要なテーマです。利益とは、収入
から費用を差し引いた残りですから、この拡大のためには、収入を増やすこと、あるいは
費用を減らすという2つの方向性があります。本章では、収入を増加させる取り組みにつ
いて整理します。
(1)収入を増加させる取り組みの全体像
クリニックにおける収入を増加させるポイントは、数を増やすか、単価を増やすかの2
点です。その全体像は、下記のとおりです。
収入を増やす
改善
患者数を増やす
改善
医院の競争力を
つける
他の病医院と
連携する
患者の声を聞く
患者満足度を
上げる
患者への
情報提供を行う
質の高いサービス
を提供する
診療の効率を
上げる
患者単価を
増やす改善
患者 1 人当たり
診療報酬を増やす
診療報酬請求漏れ、
回収漏れをなくす
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減収減益時代に打ち勝つ クリニック収益改善のポイント
(2)患者数を増やす改善ポイント
患者数を増やすために必要な取り組みは、医院の競争力をつけること、他の医療機関・
施設と連携すること、そして患者満足度を上げることです。そのポイントは、以下のとお
りです。
①医院の競争力をつける
イ)診療圏の形状把握
まず地図を準備して、自院をプロットします。さらに同様に競合病医院をプロットしま
す。次に、自院の診療録から実際に来院している患者がどこに居住し、どんな交通手段に
よって来院しているかを調査します。実際の診療圏は、距離よりもアクセスのしやすさに
影響されるため円形にならず、アメーバ型や扇型、水玉型、箱型などになることもあり、
また競合病医院の存在や、川や国道、線路などにも影響を受けます。
ロ)診療圏におけるデータ分析
厚生労働省などから提供される診療圏における様々なデータを活用することも重要なポ
イントです。少なからず医療機関に課せられた使命は「地域の医療ニーズに合致した医療
を展開すること」ですから、当該診療圏の人口動態が5年もしくは 10 年前と比べどう変わ
ってきたのか、高齢化率、出生率、要介護認定率の推移等のデータを集積し、情報の共有
化を進める必要があります。
状況によっては、現状の自院の機能や役割が地域医療ニーズに応えていない事態に陥っ
ていることも考えられます。そのような状況にならないためにも、診療圏に関わる様々な
データを活用して、絶えず現状を客観的な視点で評価する仕組みを確立しなければなりま
せん。
ハ)競合病医院の研究と自院との比較
競合病医院と自院とを比較して、自院の良い点と悪い点を理解することが必要になりま
す。このとき何を比較するかがポイントとなりますが、診療技術面、人的サービス面、施
設面の3点で検討することが有効です。
●人的対応面での比較
項
目
当
院
A医院
B医院
C医院
受付の対応
医師・看護師など患者への対話
プライバシーへの配慮
待ち時間
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減収減益時代に打ち勝つ クリニック収益改善のポイント
②他の病医院や介護施設と連携する
病院や介護施設と紹介、逆紹介の提携を行なうことは、いまや必須事項です。
急性期病院にとっては、平均在院日数の短縮のために、いわゆる「受け皿・引き受け先」
の確保は非常に重要です。急性期患者を紹介し、退院後のフォローは当院で実施します。
また、療養病床を有する病院においては、医療区分の算定により、医療区分2・3の患者
を紹介してくれるクリニックとの連携が必要ですし、医療区分が低くても要介護度の高い
入所者を紹介して欲しい介護施設との連携強化は、今後の生き残りのカギになります。
ポイントとなるのは、きちんと患者を返してくれる医療機関かどうかの見極めです。
③患者満足度を向上する
イ)患者満足度調査の実施
患者満足度調査は、下記の手順で進めます。
◆患者満足度調査実施の流れ
【 調査実施スケジュール 】
目的の明示
目標設定
【 チェックポイント 】
医療の質の測定、患者指向の医療の実現
増患および増収対策
対象(人、場所、期間)、実施時期、回収率
調査計画策定
具体的方法、予想される結果と影響
(プラス面/マイナス面)、効果、予算
調査方法および調査票作成
調査項目のフレームワーク(人、サービス、
アメニティ∼ソフト面とハード面)
回収率目標の達成
調査の実施
客観的データによる現状分析
集計
結果分析および考察
仮定の検証、統計的処理、多角的分析、
継時的変化の比較
フィードバック
調査結果の公表(患者および職員)、
改善への具体的取り組みの内容と結果
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減収減益時代に打ち勝つ クリニック収益改善のポイント
患者満足度調査の結果、収集した様々な改善や要望事項については院内掲示板で公表す
るとともに、コストと改善に要する時間を分析して実行します。スタッフ全員で検討して
みましょう。
【 最優先取り組み 】
【 後順位検討項目 】
時間小
時間大
コスト小
コスト大
ロ)患者への情報提供を行う
医療機器メーカーが行った意識調査の結果によると、81%の人が「病院や診療所の情報
公開は不十分」と回答しています。
開示が必要な情報には、下記のような項目が挙げられます。これらの情報について積極
的に開示できる病医院が、「患者から選ばれる医院」となっていくはずです。
●開示が必要な情報
項
目
院長の経歴・得意分野(診療科目に関する情報)
外来手術件数や手術内容、治療成績
患者の治療方法、生の声 など
外国語の対応状況 など
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減収減益時代に打ち勝つ クリニック収益改善のポイント
(3)患者単価を増やす改善ポイント
患者単価を増やすポイントは診療報酬算定額を引き上げること、請求漏れを防止するこ
と、さらには未収金を減らすことです。
①患者1人当たりの診療報酬算定額を引き上げる
イ)体系化および対策の方向性の整理
対策の方向性
患者1人当たり
収入向上
保険収入の向上
対策例
高度医療の
治療の付加
価値向上
請求額の
適正化
導入・強化
個人別請求額
バラツキの抑制
オーダー増加に
よる請求額増加
検査・放射線・投薬な
どセットオーダー化
リハビリや検査の
有効性をアピールし
オーダーを増加
請求漏れの要因を追
請求漏れの
低減
求し、その要因を解消
自由診療や
保険外収入
の向上
差額ベッドの導入
②診療報酬請求漏れを解消する
イ)請求漏れ対策は、要因を追求する
単価アップ対策の中でも、内部努力で取り組め、すぐに手が打てる対策に請求漏れの解
消があります。
●請求漏れ対策のポイント
要
大項目
因
対策のポイント
小項目
知識・認識不足
請求事務知識
医療現場知識不足
●医事職員の診療報酬点数算定を中心とした請求業務知識に加え
て、医療現場の基礎知識の教育を強化する
●診療部門には請求事務知識を教育する
院内コミュニケー
ション不足
●医事と医療現場のコミュニケーションギャップを解消するため
に、日頃から点数算定の情報交換や知識・認識不足に起因するミ
スをフィードバックする
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減収減益時代に打ち勝つ クリニック収益改善のポイント
記録の不備
医師の認識不足
●診療行為の発生源は医師であることやカルテの記載内容が診療
報酬につながることの認識を持ってもらえるような意識づけを
図る
●医師の記入不備による不具合をフィードバックし、記入不備に対
する意識を醸成する
記述ミス
●記述ミスが発生しにくい帳票様式にする
⇒ 記述式から選択式など
●記述方法のマニュアル化をし、教育を強化する
記録方法・内容の
個人別なバラツキ
の発生
●マニュアル化により記録方法を標準化する
●カルテ様式を見直し、各人で記載内容にバラツキが発生しにくい
仕組みにする
転記ミス
●転記を要するプロセスの解消を図る
●無駄な転記がないか見直し、転記回数を最大限減らす
●できるだけ複写式を取り入れる
●記述欄を大きくし、はっきりと記述できるようにすることで、転
記時の間違いをなくす
●起票の責任者を明確にすることで、ミスの責任の所在を明らかに
し、ミスの実態を定期的にフィードバックする
入力ミス
●入力作業の指導を強化し、スキルアップを図る
●入力作業を簡便化する
●システム上で、自動算定機能やチェック機能の導入や、入力者の
判断ミスをなくすような仕組みを整備する。
③診療報酬請求漏れを解消する
イ)未収金対策は、4つの視点で「発生防止・回収強化」を実施
未収金は、時間の経過に伴って回収が非常に困難になっていく傾向があります。
そのため、原則として退院時ならびにサービス提供時において、直ちに集金することが
基本です。
未収金の発生原因には、患者の自己責任の放棄、医院の説明不足や医療情報提供不足な
どが挙げられます。未収金の発生を極力回避していくためには、以下の4つの視点で取り
組む必要があります。
●4つのポイント
●発生防止
: 現在及び過去の滞納履歴の有無を確認し、リスクの高い患者を
早期に発見する
●管理の厳正化 : 保険証・運転免許証などの確認
●回収強化
: 回収専門員・専門組織による電話催促や戸別訪問 など
●支払簡便化
: 少額返済や一部返済の了承、カード決済の導入 など
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コストを削減する取り組みポイント
1│コストを削減する取り組み
前章では、収入を増加させる取り組みについて解説しました。収入から費用を差し引い
た残りが利益ですから、利益を増加させるためには、費用を減らす取り組みも重要です。
本章では、費用を減らす観点から、改善の視点や取り組み事例について紹介します。
(1)コストを削減する取り組みの全体像
クリニックの費用には、大きく「人に関わる費用」と「物に関わる費用」があります。
第一に、人に関わる費用には、業務や手当を改善する視点と外部に業務を委託して費用
を下げるという2つの考え方があります。
また、物にかかわる費用には、購入量と単位(価格、ロット等)を見直すことで、圧縮
を図る方法が挙げられます。
費用を減らす改善
人にかかわる費用
物にかかわる費用
業務改善
職員の業務の
分析・改善による
人員削減
人件費の圧縮
各種手当の
見直し等
アウトソーシング
非効率な業務や
仕様を見直し
購入量を減らす
購入単価を
低減する
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(2)人に関わる費用削減のポイント
人に関わる費用削減のポイントは、業務改善と支給意義のない手当の見直しです。
①業務改善による費用削減
イ)繰り返し型業務の改善
同様な作業方法と作業時間で何度も繰り返される業務のことを、繰り返し型業務といい
ます。例えば、受付事務職員が担当する業務の中に、100 件分の書類を転記する作業があ
るとします。この作業を1回当たり 30 秒で作業するとしたら、年間では 200 時間に上りま
すが、この業務をチェック方式に変えることにより、15 秒の短縮が図れた場合、年間 100
時間の効率化が可能になるということです。
繰り返し型業務は、標準化と定型化によって大幅な効率化を図ることができる分野です
から、安全確保とミス・エラーの回避策を万全にしながら、改善を試みることが必要です。
◆繰り返し型業務の改善
繰り返し型業務の把握
例)受付業務、投薬準備業務、健康診断業務
業務の重要度・難易度の層別
繰り返し型業務の詳細把握
改善案の検討
●検討する順番
①排 除:その作業を排除できないか
②結 合:他の作業と組み合わせることができないか
③入替え:作業手順を分離し入れ替えることで作業が容易
にならないか
④簡素化:設備の導入などにより作業を単純化できないか
改善策の実施と効果の検証
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②各種手当廃止による人件費削減のポイント
開業時から現在に至るまで、さまざまな要因から、複雑な手当体系となっている場合、
それらを見直すことです。但し、一方的な廃止はできませんので注意が必要です。
イ)支給目的が明確でない手当の洗い出し
支給意義のないもの、根拠が不明確な手当を洗い出し検討します。
採用を継続する手当
例)役職手当・資格手当・地域手当
採用見直し対象の手当
例)住宅手当・扶養手当、児童手当、進学手当
廃止検討対象の手当
例)精皆勤手当・調整手当・勤続手当、
基本給連動型の特別手当、休日手当 他
ロ)各種手当を廃止する場合の留意ポイント
●給与規定改定についての全職員対象説明会実施
○全職員に周知すること
○重要な改定の場合には、全員に出席機会を与えるため複数回に分けて
開催すること
●労働者の代表者に意見書の提出を求める
○代表者は公正な方法で選出すること
○意見書に「意見がない」等の記載をし、署名押印する
●労働基準監督署へ届出
(3)物に関わる費用削減のポイント
物に関わる費用削減のポイントは、診療材料費単価を下げることとロスをなくすこと、
そして省エネ、アウトソーシング費用の圧縮がポイントとなります。
①診療材料費の削減
イ)単価×量の分解とロス構造の把握
削減のポイントは、
「単価×量」の分解と「ロス構造」の把握です。単価と量を分解する
ことにより買い方と使い方の見直しが改善の方向性となるうえ、非効率性が発生してしま
うロスの構造を把握することは、どこでどのような無駄が発生しているかが明らかになり
ます。
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◆「単価×量」の分解
単価低減
購入単価
消費ロス低減
消費数量
購入数量
◆「ロス構造」の理解
①現場外未活用ロス
保管中の劣化による廃棄など現場外で使用する前に発
生するロス
A:総購入量
B:現場投入量
C:現場使用量
使用準備時に壊して使用不可となるなど現場内で使用
する前に発生するロス
②
D:良品使用量
③不良ロス
③
E:標準使用量
F:理想使用量
②現場内未活用ロス
①
使用時にやり直しが発生したため、無駄となったロス
④
④過剰消費ロス
標準使用量よりも多く使ってしまった場合のロス
⑤
⑤過剰仕様ロス
過剰な仕様により理想的な使用量よりも多く使ってし
まっているロス
ロ)単価とロスの削減ポイント
●1回あたりの購入量を増加させることで、単価の引き下げ
●無駄な使用を防止するための教育、指導の実施
●部門ごとに消費量の実績を掲示し、過剰使用防止への啓発
●複数の施設がある場合、法人全体で一括購入・管理し、各施設へ必要な量だけ供
給する仕組みに変更
②省エネによるコスト削減
省資源・省エネは、紙・ゴミ・電気などといった身近なところで取り組む活動ですので、
小さな積み重ねが非常に重要になってきます。
以下の実施項目を参考に、できるところから取り組んでみましょう。
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減収減益時代に打ち勝つ クリニック収益改善のポイント
●省エネ実施項目
対象
細部区分
1 冷暖房装置
実施項目
(1)冷暖房の設定温度
電気使用量の削減
(2)省エネルギー機器の導入
(1)業務開始 10 分前からの点灯実施
2 照明装置
(2)廊下、階段等の共有部分の部分点灯
(3)昼休み全消灯の実施
3 OA機器
4 その他
(1)昼休み、帰宅時の電源OFF
(2)省エネルギー機器への更新
(1)夜間・休日時のエレベータ運転台数の制限
(2)職員及び来訪者への階段使用の呼びかけ
水使用量の削減
(1)水漏れ点検の実施と対策
1 上下水道
(2)給水の減圧調整の実施
(3)改修・更新時に節水機器を導入
2 下水使用量
(1)トイレの2度流し、歯磨き時の流し放し禁止
(2)改修・更新時に節水機器を導入
紙使用量の削減
(1)印刷物の両面コピーの実施
(2)不要書類の回収箱の設置
コピー用紙
(3)ペーパーレス化
(電子・磁気媒体による保管の実施)
(4)プロジェクター使用による会議配布書類の廃止
③アウトソーシング費用の圧縮
院内の業務が専門の業者に委託されている場合には、これらの業務の実施状況を確認し、
分析することによって、効率の低い業務を洗い出します。委託契約に定めた業務仕様や対
象を見直して、業務委託費用を削減することも検討すべきです。
イ)医療事務での委託費削減
医療事務分野は、専門性があり、患者と直接接触する機会も多い反面、一定のスキルを
身につけていればどのクリニックでも業務を実施できる性質があるため、多くのクリニッ
クで業務委託されています。
一般に、同レベルの医療事務を業務委託する場合のほうが費用を削減できると判断され、
長期間にわたって委託を継続しがちですが、委託した職員の業務状況を把握し、チェック
する仕組みを作ることが必要です。これを怠ると、他の業者との業務内容見積り比較や転
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減収減益時代に打ち勝つ クリニック収益改善のポイント
注、また契約している委託業者から増員・増額の要請があっても、適切な判断ができずに不
要な費用を支出することになりかねません。
委託業務の中で、大きな割合を占めている医療事務であるからこそ、委託職員の効果的
な活用と業務の効率化を図ることが必要です。
◆医療事務の業務委託費削減のポイント
①契約更新時に委託内容の見直しをせず、そのまま契約を継続してしまう事態を解消する
②委託業務内容が指示、把握できる体制を構築し、常に緊張感ある業務環境に整える
ロ)清掃委託費の妥当性検証
クリニックにとって、清潔で安全な療養環境を確保するために、清掃業務は不可欠だと
いえますが、これを専門業者に業務委託しているクリニックも非常に多くの割合を占めて
います。そのために、長期間にわたって同一の業者との清掃業務委託契約を自動的に更新
している場合には、契約内容を再検証することで、今は不要になった場所を対象場所・範
囲としていたり、実際の業務実施内容と異なっていたりするケースがあります。
これらを見直し、改めて見積もりの根拠を提示依頼の上で、契約内容を検証することで、
清掃業務にかかる委託費用が削減できます。
◆業務委託内容検証の際の視点∼清掃業務の場合
清掃委託契約検証の視点
<具体例>
契約と実情との不一致
契約上の対象場所と実際の清掃場所は一致 現在は使用していない施錠してある部屋が
しているか
含まれている
契約上の清掃頻度と実施状況は符合してい 毎日2回となっているが、午後外来の休診
るか
日は実施していない
契約上の内容と実施している清掃内容は一 「床はモップがけ」とあるが、掃除機もし
致しているか
くは化学雑巾のみ
上記のような視点で見積り内容を検証した後、業務委託費が削減できるかどうかを分析
します。そのポイントは、次に挙げる4点です。
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減収減益時代に打ち勝つ クリニック収益改善のポイント
◆業務委託契約見直しのポイント
①時間当たり単価
⇒
近隣地域の他医院と比較して高くないか
②清掃場所の面積
⇒
見積り時には簡易実測の場合があるため、実際の面積と符合しない可能性
はないか
③単位面積の清掃時間
⇒
見積り根拠と実際に要する時間が合理的に適切と判断できるか
④効率性
⇒
職員のみが使用する区域など、清掃頻度に過剰な点はないか
ハ)建物維持・保守管理費用の削減
クリニックの建物維持管理には、設備等を対象とするものを含む巡回点検や定期点検な
どが含まれ、毎日実施する日常点検と併せて、週・月単位、年間回数を設定して実施する
という定期点検が中心になります。そのため、保守管理計画を策定していないと、特定の
週や月に実施が偏り、業務量が年間を通じて均一的ではないケースがあります。
また、この業務量が最大となる時期を基準として人員を配置している病院が多く、平常
月では余剰な人員が生じてしまうことにもなります。
◆維持・保守管理業務のチェックポイント
①点検項目の廃止
目的や費用対効果から不要項目を廃止
●同一目的での実施、事前防止に効果がない項目はないか
設備等の利用状況、故障・修繕実績から回数を削減
②点検回数の削減
●利用頻度が少ないため故障発生の可能性が低い、トラブル発生の
タイミングや間隔から過剰になっている点検はないか
③院内実施の検討
④時間の短縮
内部でできる点検項目を自前で実施
●技術やノウハウが高くない点検は、院内で実施できないか
点検方法の変更、実施効率のばらつき解消
⑤負荷・能力の調整 業務量に合致した人員を配置する
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減収減益時代に打ち勝つ クリニック収益改善のポイント
さらに、利用状況や修繕の実績、更新計画などによって、点検回数を減らしても問題と
ならない場所や対象機器等を洗い出し、実施方法を見直すことも重要です。点検内容の一
部を前倒しで実施するかわりに、故障などで部品を交換した部分や利用頻度が少ない設備
は繰り延べるなどにより、配置人員適正化を図ることができます。
まずは、院内の建物・設備、主要機器などの点検計画と、点検・整備を業務委託してい
る場合にはその契約内容について、把握することが必要です。
◆建物維持管理業務改善の具体例
①空調の定期点検
⇒
日常点検を毎日実施しているため、トラブルはほとんどなく回数減
②自動ドアの定期点検
⇒
2年前に改修済みであり、現在年4回実施しているが、向こう5年間は年
3回の実施に変更
③電気設備の点検スケジュール
⇒
分電盤・操作盤等設備の点検および整備を一部前倒しで実施し、月単位の
業務量を減らす
<参考文献>
今すぐ使える、効果が出る!「病院の業務」まるまる改善
㈱日本能率協会コンサルティング
発行所
白濱伸也
大西弘倫
編著
株式会社日本医療企画
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医業経営情報レポート