大麦生産の現状について 1 はじめに 北陸地方は六条大麦の主産地で生産量は日本の半分以上を占め、小麦と比べて成熟 期が早く、梅雨が本格化する前に収穫できる作物として広く水田で栽培されてきまし た。本県でも、大麦(以降すべて六条大麦)を土地利用型作物の基幹として位置づけ、 生産振興を図っていますが、作付面積は平成元年の 4,650ha をピークに減少し、平 成 24 年産では 223ha となりました。作付面積が減少した主な理由は、収益性の面か らの他作物への移行です。本県の転換田は、重粘土で排水不良のほ場が多いため湿害 を受けやすく、また、前作の水稲収穫作業の影響などによるは種の遅れが冬期間の雪 害を助長し、生育が不安定になりがちです。このため、収量、品質とも年次間の変動 が大きく、ほ場間、生産者間でも大きな差が見られます。近年は、収量・品質とも低 迷し北陸3県に比べ大きく下回っています。なお、品種は地元実需者の強い要望に応 え、 「ミノリムギ」のみを作付けしています。 「ミノリムギ」は一次加工での歩留まり が高く、精白すると独特の乳白色を呈することが実需者から評価されています。平成 18 年産以降、購入希望数量が販売予定数量を大幅に上回る状況が続いていることか ら、供給量の増大が求められています。 2 収益性を高めるためには ~収益構造から見ると~ 販売単価が大豆に比べて安いため、収量・品質が低いと収入は生産コストを下回り 助成金が目減りします。しかし、収量・品質が一定レベル(等級割合と品質評価区分 により異なる)を超えてくると、畑作物の戸別所得補償交付金も増額し、所得が急激 に向上します(図)。したがって、収量を増加させるだけでなく、品質向上も図るこ とが重要です。 図 大麦収量・品質別所得 1 図の算出根拠 収入: ・麦販売単価(平成 23 年新潟産ミノリムギ) 1等 1,654 円/50kg、2等 1,354 円/50kg(副産物収入は含まない) ・助成金 農業者戸別所得補償制度(平成 23 年) 水田活用所得補償交付金 35,000 円/10a 営農継続支払(畑作物) 20,000 円/10a 品質加算の交付単価は等級・品質評価ランクで異なる A市水田農業推進協議会(平成 23 年)17,500 円/10a 支出: ・固定費(肥料・農薬費、減価償却費等)34,946 円/10a ・変動費(賃借料、手数料等)2,541 円/50kg ・支払い地代 15,000 円/10a ・支払い労賃 7,294 円/10a(@1,552 円×4.7 時間) (参考:平成 23 年現地課題解決研修資料、経営普及課資料) 3 25 年産大麦、当面の技術対策のポイント ~排水対策と秋期追肥による越冬前茎 数の確保~ (1)排水対策 収量に大きく寄与する収量構成要素は穂数です。越冬前に発生した茎は穂になり ますが、越冬後に発生した茎はほとんど穂になりません。このことから冬期の積雪 下において雪害を回避できるよう、越冬前に適正な生育量を確保することが重要で す。本県では 10 月下旬以降、降水量が多くなります。この時期は冬に向かって、 日照時間が短くなり、気温も低下することから、まとまった降雨があると、ほ場が 乾きにくく、湿害による生育停滞が生じやすくなります。そこで、湿害防止対策と して、排水口を周囲明きょの深さまで掘り下げてつなぐなど、ほ場内の地表水が確 実に排水路へ流れるように努めます。また、大雨の前後は排水溝、排水口の点検・ 整備を行いましょう。湿害防止により越冬後の生育が揃うことで、赤かび病の薬剤 防除効果が高まり、子実の品質向上が図られます。 (2)秋期追肥 施用時期は、は種から約1か月後で遅くとも 11 月中旬までに行いましょう。追 肥量は、生育量に応じて 10a 当たり窒素成分で1~2kg とし、湿害が原因で黄化 現象がみられる場合は、かならず排水対策を実施した後に追肥を行いましょう。 表1 地 県内地域別の越冬前の生育指標 帯 根雪日数 越冬前の生育指標 中雪地帯(多雪年) 90 日以上 葉数8葉以上、乾物重 70g/100 株以上 中雪地帯(平年) 60~90 日 葉数7葉以上、乾物重 50g/100 株以上 少雪地帯(平年) 60 日未満 葉数5葉以上、乾物重 30g/100 株以上 注)10 葉以上になると年内に節間伸長し雪害を被る危険が大きくなる 注)品種ミノリムギ 2 表2 は種様式と越冬前茎数のめやす は種様式 越冬前茎数(本/㎡) ドリル播 640 全面全層播 740 全面表面播 900 注)品種ミノリムギ ○大麦の収益性向上ための取組方策 ・目標所得を確保できる目標収量・品質を定める。 ・湿害防止のため、ほ場条件に応じた排水対策を行う。生育期間中は適宜、排水溝の点 検・修理を行う。 ・は種、追肥、防除等の基本技術について、周辺農家の協力も得ながら適期作業を計画 し、実行する。 【経営普及課専門技術指導担当 3 岩津 雅和】
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