変わりゆく大学図書館 第5章 図書館ポータル 学部:現代社会学部 学籍番号:W07 氏名:池谷 1.図書館ポータルとは 今日、情報通信技術の進展と利用者の情報技術への浸透は大学における教育 研究学習活動に大きな変化を与えつつある。 学術情報へのアクセスもネットワーク環境でのサービス利便性と同様の対応 を迫られることになる。図書館ポータルはこの変化に応える可能性の1つであ る。図書館ポータルとは利用者に対する図書館サービスの入口である。Web 上 から図書館のいろいろなサービスを利用できる1)。同時に構成員が外部電子情報 源を利用する際の出口機能をも一元的に持つものである。図書館ポータルは学 習研究資料等そして高品質なネットワーク情報源や契約により構成員が利用で きる外部情報源へのアクセス機能を持つ。大学内外に散在する情報資源と情報 システムを集約し、情報チャネルというユニットでエンドユーザーに提供する のがポータルである。 ポータルは利用者の個人認証を行い、個別要求に対応したサービスを行う。 この機能の故に図書館ポータルは「図書館サービスの入り口であり出口」なの である。 ポータルは各ユーザーの顧客認証・管理により、個別にサービスを行うとこ ろにその特徴がある。この機能はシングル・サイオンと呼ばれる。これら、図 書館を拠点とする情報利用活動への統一的なアクセス手段となりうるものであ る。従来型の図書館ホームページでは様々な情報が押し込められ、研究者が最 も必要とする情報を効率的に利用できないでいた。ポータルは、ホームページ と対立するというよりは相互補完するものとして位置付けられている2)。 表 1-1 ホームページとポータルとの比較2) ホームページ ポータル 対象 国内外の研究者・一般市民 学内研究者(特定顧客向け) 目的 広報と情報発信 情報提供による教育・研究の支援 誰でも利用できるコンテン 学内でのみ利用できるコンテンツ 内容 ツが中心 とサービスが中核 1 2.図書館ポータルの背景 1996 年科学技術基本計画において「研究開発に係る情報基盤及び知的基盤の 整備も欧米に比べ立ち遅れている」と指摘され、その後、情報基盤の整備に力 が入れられ、多くの施設が行われてきた。しかし、今日においてもなお、多く の点で日本の現状は立ち遅れが見られる。 米国においては財政難の中、学術情報基盤ネットワークを活用した新規計画 が多く取り上げられている。 「Campus Computing Project」によると、2003 年 時点で全米の大学は「無線 LAN の時代」になっている。これに対応して、必要 な情報を自分で編集、集中させ、動的に変化する情報への玄関口である大学ポ ータルの稼働も年々増え、2002 年には 21.2%であったものが 2003 年には 28.4% に増加している。 この学術情報基盤を活かしたコンテンツ利用も多様な形で展開されている。 しかし、日本においては、ネットワーク上に大量の教育情報資源が存在する にもかかわらず、それらの多くは分散し、標準化されることもなく、その存在 と所在を確認することが難しい。 1990 年代後半から急速に普及してきた電子情報資源においても、電子ジャー ナル導入こそ、国立大学図書館協議会電子ジャーナル・クスクフォースの活動 等により、一部の大学においては諸外国大学に追いついてきたが、数万タイト ルと言われる電子図書の導入と活用においては、日本の大学は立ち遅れている。 また教材開発においても個別の努力にとどまり、大きく後れをとっている。多 くの電子図書館的機能もそのコンテンツ発展に限外を生じ、標準化とオープン 化が進んでおらず、ポータル機能を活用した例は見られない。 2 3.図書館ポータルの提供するサービス構成要件 図書館ポータルを活用することにより、図書館は利用者個々の情報を収集分 析し、利用者への適切なサービス提供を行うことができる。図書館ポータルは、 図書館が提供するさまざまな情報やサービスをネットワーク上、ワンストップ で利用できるようにするものである。 米国議会図書館ポータル・アプリケーション検討グループ(The Library of Congress Portals Applications Issues Group : LCPAIG)は、2003 年に図書館 ポータルに求められる機能のリストを案として公表している。このリストでは、 (1) 一般的な要件、(2)クライアント要件、(3) 探索と探索結果に関する要件、 (4) ヘルプや表示機能に関する要件、(5) 対象サービスの知識ベース、(6) 利用 者認証、(7) ポータル経営とベンダーサポートの 7 項目に分けて示されている。 研究図書館協会(Association for Research Libraries : ARL)の調査によるポ ータルサービス機能としては以下 8 点が挙げられている。 a.オンライン・レファレンス・サービス b.相互協力サービス c.OPAC d.遠隔課金サービス e.電子メールへのアクセス f.機関サービスへのアクセス g.電子ジャーナルへのアクセス h.電子ブックへのアクセス これらのサービスとコンテンツへのアクセスは、情報環境の変化によって大 きく変わることが予想される。 図書館ポータル構築に欠かせないのは、利用者である学生、教職員の学習・ 教育・研究に図書館はどうすれば貢献できるのか、利用者を適切な資料へと効 果的に導き、それを次の学習・研究・教育へと結びつけられるようにするかを 考えて構成してゆくことではないかと思われる3)。 3 4.まとめ 図書館ポータルにより期待できる効果をまとめると以下になる。 (1) 豊富な情報資源の提供 (2) 携帯性 ウェブブラウザが使える環境であれば国内外どこにいても利用 することができる (3) カスタマイズ:学部生・大学院生・教員それぞれの状況に応じた情報環 境構築ができる (4) 動的な情報環境構築が可能 (5) 常に新しい情報に対応できる 図書館ポータルを十全に活用するためには、図書館の目標としてサービス戦 略を明らかにし、不断の努力による各種情報源の提供とサポート、そしてそれ がふんだんに活用できるための余裕ある情報基盤の整備と確立が必要となる。 今後はPCだけではなく、携帯電話やPDAなどへの対応も迫られることにな る。 基盤整備とコンテンツ充実の狭間で米国においても、ポータルのようなサー ビス基盤はまだ発展途上であることが見受けられる。 ポータルに関して大学図書館の果たす役割は、研究に利用される資料を可能 な限り電子的に提供することであり、学習・教育活動への支援である4)。 しかし今後、大学の財政事情は厳しいものとなる。その限られた投資資源の 中で、ポータル環境はきちんとした情報戦略の下で運用されれば、業務の効率 化と費用対効果、便益ともにすぐれたものとなりうる。そして大学構成員の教 育研究学習活動がいっそう便利になり、またあらたなコミュニケーションを生 む場となるようポータル機能を活かすべく努力が必要である。 4 注・引用文献 1)佐賀大学付属図書館 <http://www.lib.saga-u.ac.jp/> (2009 年 5 月 18 日確認) 2)米澤誠.図書館ポータルの本質:多様なコンテンツを生かす利用者志向サー ビス.情報の科学と技術.vol.55,No.2,p.57,2005 (2009 年 5 月 19 日確認) 3)市古みどり.図書館ポータル:図書館 2.0 と図書館員 2.0 へのステップ <http://www.lib.keio.ac.jp/publication/medianet/article/013/01300060.ht ml> (2009 年 5 月 18 日確認) 4)島田貴史.大学図書館からみた図書館ポータル.情報の科学と技術.vol.57, No.9,p.427,2007 (2009 年 5 月 19 日確認) 5
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