平成 25 年 10 月 29 日 第 15 回図書館総合展フォーラム マイクロフィルムの知られざる特性と情報の保存 デジタルとの共存を目指して 文化資産としてマイクロフィルムを考える 東京大学・小島浩之 1. 研究班の概要 ①日本学術振興会・科学研究費補助金・基盤研究(B) 課題番号:24300094 ②目的 記録媒体として紙に次ぐ歴史を有するマイクロフィルムをかけがえのない文化 資産と捉え、保存機関が最良の状態で次世代へ引き継ぐ道筋を考究すること。 このため以下の 4 つの課題を設定し、実態調査に基づいた研究を行う。 1. 日本におけるマイクロフィルム保管状況の情報集約と現状分 2. マイクロフィルムの劣化・異常現象の実態調査と分析 3. マイクロフィルム状態調査の方法論と調査結果に基づく対応手法の確立 4.マイクロフィルムの保管のための環境条件の考究 ③メンバー 研究代表者:小島浩之(東京大学・大学院経済学研究科・講師) 研究分担者:上田修一(慶應義塾大学・名誉教授) 佐野千絵(東京文化財研究所・保存修復科学センター・保存科学研究室長) 安形麻理(慶應義塾大学・文学部・准教授) 矢野正隆(東京大学・大学院経済学研究科・特任助教) 連携研究者:吉田 成(東京工芸大学・芸術学部・教授) 内田麻里奈(東京大学・大学院経済学研究科・助教) 研究協力者:冨善一敏(東京大学・大学院経済学研究科・特任専門職員) 設楽 舞(東京大学・大学院経済学研究科・学術支援職員) 野中 治(元富士フィルム) 木部 徹(株式会社資料保存器材・代表取締役) 島田 要(株式会社資料保存器材) 2. 歴史学者と資料 歴史とはなにか(E・H・カー著・清水幾太郎訳『歴史とは何か』 (岩波新書 D1, 1962) ) ①「歴史とは歴史家と事実との間の相互作用の不断の過程であり、現在と過去と の間の尽きることを知らぬ対話」(p40) ・ 歴史的事実→事実は、歴史家が事実に呼びかけたときだけ語るもの、いか なる事実に、またいかなる順序、いかなる文脈で発言を許すかを決めるの は歴史家。 ②「過去に対する歴史家のヴィジョンが現在の諸問題に対する洞察に照らされて こそ、偉大な歴史は書かれる」 (p50) ・ すべての歴史は現代史(クローチェ)→歴史とは現在の眼を通して、現在 の問題に照らして過去を見るところに成り立つものであり、歴史家の主た る仕事は記録することではなく、評価すること。 1 平成 25 年 10 月 29 日 第 15 回図書館総合展フォーラム マイクロフィルムの知られざる特性と情報の保存 デジタルとの共存を目指して ・ 二重の相互作用(p158)→現在の光に照らして過去の理解を進め、過去の 光に照らして現在の理解を進める。 ③「歴史は伝統の継承とともに始まるものであり、伝統とは、過去の習慣や教訓 を未来へ運び入れることを意味します。過去の記録が保存されているのは、 未来の世代のためであります。 」 (p159) 3. 図書館におけるフィルムの位置付け ①映画フィルム → born film ②写真 → 紙焼写真 > ネガフィルム ③マイクロフィルム → 複製物 ☞複製物は資料的価値の低いものか? ◎原本がいつも残るとは限らない ◎古典籍のオリジナルとは?(写本や版本の重要性) ◎現代における原本の受難 個人蔵書→相続・売却、機関所蔵文書→機関の消滅、災害 ・原本が滅失すれば複製物が原本に代わる価値を有する ・販売されているマイクロフィルムでもせいぜい数百部 ☞資料が残らなければ未来の歴史学者は仕事ができなくなる 4. 手はじめにしたこと ①訪問調査による実体把握(平成 24~25 年度) 国立大学図書館 16、私立大学図書館 3、公立図書館 2、博物館・美術館 3 大学資料館 1、公文書館 2、地方自治体 1、企業 1 ②訪問調査から見えてきたこと ・遡及入力されていないマイクロフィルム→利用しづらい ・酢酸に対する認識不足 ・温湿度に対する認識不足(湿度管理の重要性の脱落) ・既存のマニュアルでは触れられていない劣化の見過ごし 空 気 中 の 酢 酸 濃 度 ( 単 位 : ppm) 測定箇所 屋外 0.00012( 清 浄 ) ~ 0.012( 汚 染 ) 屋内, オーク材使用の場合 0.016~ 0.04, 0.12~ 2.8 木製の包材 0.032~ 1.2 油性塗料 8~ 28 5 週間乾燥 乳剤系もしくは二液混合型エポキシ 系塗料 5 週間乾燥 酢 酸 臭 の あ る セ ル ロ ー ス・ア セ テ ー ト フィルム群 ppm:百万分率 1.2~ 8 0.04(7 日 間 硬 化 )~ 0.4( 29 日 間 硬 化 ) 酸性シリコーン 図 1 ビネガーシンドローム 0.36~ 40 図 2 ブレミッシュ 1ppm=0.0001%, 10,000ppm=1% 文化財に対して被害を与えない酢酸の基準値 →0.17ppm (170ppb) 、推奨濃度→0.08ppm (80ppb) 人体への許容濃度:10ppm 図 3 銀鏡化 2 図 4 フェロ化
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