牛舎でコロニー営巣するツバメの生活 藤田 剛 東京大学・農・生物多様性科学研究室 ツバメは、牛舎などに数巣から 50 巣程度のコロニーをつくることがあります。日本 でツバメがコロニーをつくることは稀ですが、北米やヨーロッパ中部、ロシア中南部 のように、ほとんどのツバメがコロニー営巣する地域もあります。そして、これらの 地域でも牛舎にコロニーがつくられることが多いようです。ツバメは、なぜコロニー 場所として牛舎を好むのでしょうか。 また、ツバメのコロニーには、イワツバメなどの典型的なコロニーに比べて巣どう しの距離が大きいという特徴があります(写真)。この巣間距離は国や地域によって違 うのですが、巣が接しないという点はどの地域のコロニーにも共通しています。ツバ メは、なぜ巣の密集したコロニーをつくらないのでしょうか。 私は神奈川県平塚市西部で営巣するツバメを対象に、巣の空間パターンを解析し、 そのパターン形成に関わる行動プロセスの研究を進めてきました。今回は、ツバメの コロニー内で巣がまばらに分布する理由とツバメがコロニーをつくる上で牛舎のどの 構造が重要なのかにしぼり、明らかにできたことをお話します。 まず、牛舎内の巣の空間パターンを解析すると、巣は間置きしておらず、ランダム か緩やかな集中分布の傾向が認められました。つまり、空間パターンだけから見ると ツバメの巣は互いに反発しあうような配置になっていませんでした。 にも関わらず巣どうしが接しないのは、ツバメが隣巣から見えない場所を選好して 営巣していたためでした。また同じ牛舎でも、視界を遮る構造のあるほぼすべての牛 舎に3巣以上の営巣例が見られたのに対し、そのような構造のない牛舎では単独の営 巣しか見られませんでした。さらに、コロニーがつくられた牛舎以外の建物にも隣巣 からの視界を遮る構造が見られ、隣り合う巣は互いに見えない位置にありました。 以上のことから、ツバメのコロニーがおもに牛舎につくられるのは、ツバメが集ま って営巣するためには隣巣の視界を遮る構造が必要であり、牛舎がこの構造をもつこ とが多いためではないかと考えられました。 牛舎の天井につくられたツバメのコロニー。矢印の先に巣がある。
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