D.C.通信 海外だより 連載 62 中村岳志 (JA全中農政部WTO・EPA対策課<在ワシントン>) July, 2016 アメリカ上下両院選挙情勢と TPPへの影響 ■下院選挙情勢 他方、全議席が改選される下 院では、歴史的に各党に有利な 選挙区割りが行われてきた影響 アメリカでは11月、大統領選 求める声はごく一部にとどまっ で、民主・共和が逆転する可能 挙と同時に上下両院選挙が実施 ている。 性が見込まれる選挙区が435議 され、上院の 3 分の 1 と、下院 席中36議席(約 8 %)程度しか きっこう 全員が改選となる。本稿では、 ■上院選挙情勢 ない。そのため、拮抗する全て 現時点( 6 月 1 日)での選挙情 まず上院では、民主党の 2 倍 の選挙区において共和党が敗北 勢と、環太平洋連携協定(TPP) 以上の改選議席を抱える共和党 するなどの極端な結果とならな への影響について概観したい。 が、当落線上の州を多く抱え厳 い限り、共和党の多数派維持は しい戦いを強いられており、場 揺るがないと見られている。 合によっては民主党が多数党の しかし、上院と同様、TPP に 地位を奪還することも十分に想 懐疑的な世論が大宗を占める中、 アメリカでは、反自由貿易が 定される情勢となっている。 早期批准に前向きな声は一部に 叫 ば れ る 大 統 領 選 の 影 響 で、 そのため、上院共和党トップ とどまっている状況である。 TPP に対して懐疑的な世論が広 のマコネル院内総務は、苦戦し がりを見せている。議会では、 ている議席を守るために選挙戦 ■ TPP への影響 上下両院の多数派を占め、伝統 に注力せざるを得ず、世論の逆 オバマ政権は、来年 1 月で任 的に自由貿易を支持してきた共 風にさらされている TPP の可決 期満了となるオバマ大統領の政 和党が、TPP の一部の内容に関 に向けた機運は高まっていない。 治的遺産のためにも、何として ■ TPPの早期批准に後ろ向き な議会 する問題点を挙げ、早期批准を も TPP の年内批准を実現すべく 【上下両院の現議席数と選挙区情勢(※上院独立系は民主党会派に属している)】 全力を挙げているが、批准には 出典:クック・ポリティカルレポート 〈上院〉 共和党 54 24 ― 現議席数 改選数 多数党奪還に必要な議席数 州内情勢 民主党議席 共和党議席 民主盤石 7 - 民主安定 1 - 民主優勢 1 - 民主党 44 10 独立系 2 0 5 拮抗 1 6 共和優勢 1 共和安定 6 合 計 100 34 ― 共和盤石 11 合計 10 24 〈下院〉 現議席数 多数党奪還に必要な議席数 選挙区情勢 民主党議席 共和党議席 民主安定 6 3 共和党 247 ― 民主優勢 3 1 民主党 188 30 拮抗 3 15 合 計 435 ― 共和優勢 0 14 党が入れ替わる可能性がある選挙区(36) 32 月刊 JA 2016/07 共和安定 1 11 議会の賛成が不可欠となってい る。今後は、年内批准を目指し、 早期批准に後ろ向きな議会の懸 念解決に努力を注いでいくもの と見られる。政権は議会の立場 に大きく影響する両院議会選挙 の情勢も横目に見ながら、TPP の行方を見極めていく必要があ る。
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