第64号 2012年8月発行 TPP、その後の動き 最近のTPP(環太平洋経済連携協定)の主な動 きを追ってみると、7 月には参加国による第13回 会合が開かれたものの、協定内容については年内 合意は難しいとの見方が大半です。 一方、6月に行われたG20 サミットでは、メキシ コとカナダのTPP交渉参加が関係国によって承 認されました。しかしこのときに、両国の参加に対 して突きつけられた条件は、非常に厳しいもので あったことはほとんど報じられていません。 その条件とは、①現行の交渉参加9か国がすで に合意した条文はすべて受け入れる。 ②将来、あ る交渉分野について9か国が合意した場合、両国 は「拒否権」を持たず、その合意に従わなければ ならない。③両国はまだ妥結されていない分野で は交渉できるが、交渉分野の追加や削除はできな い――といったもので、すでに合意されている条 文すべてを受け入れ、将来も9か国が合意した場 合は拒否権を持てないという極めて不平等な扱 いとなっています。 それでも国内の大手メディアは、そうした前提 条件のことは問題にせず、日本も早く交渉に参加 しなければ乗り遅れてしまうという論調を強めて います。 アメリカの自動車産業界は、日本のTPP参加に 対して反対を表明しており、参加条件として軽自 動車の規格や優遇税制の撤廃、排ガス規制の緩和 などを求めています。TPPを所管する下院歳入委 員会のレヴィン野党筆頭理事は、日本の参加につ いて「自動車分野を含めた非関税障壁を撤廃す る具体的成果を参加前に示さなければならない」 と強硬姿勢を見せています。 例外無き関税撤廃は、日本の農業など第一次産 業に大きな影響を及ぼし、さらに非関税障壁とし て様々な規制の緩和、自由化が進められたときに 市民生活に与える影響は計り知れません。 すでにTPP参加国でも市民の間では、TPPの危険 性から反対運動が広がっていますが、TPPの交渉 が進むにつれて、参加国の政府内部からも疑問の 声が上がっています。 8 月はじめには、TPP参加国であるマレーシア のリオウ・ティオンライ保健相が、TPPについて 若間 泰徳 AMネット 「新薬の特許に関する米国の主張は、マレーシア にとってマイナスである」と、特許に関する条項案 に反対を表明したと一部メディアで伝えられてい ます。 現在の条項案では、米国で新薬が発売され、数 年後にマレーシアでも発売された場合、特許有効 期間はマレーシアで発売された時期から計算され るとしており、リオウ保健相は「フェアでない。ジェ ネリック(後発医薬品)メーカーが新薬と同成分の 製品生産を開始できる時期が遅れてしまう」と警 鐘を鳴らしています。 たたでさえアメリカの医療費は高く、それが市 民生活を圧迫するものであることは周知の事実 ですが、その分野において利益を上げている保険 会社や製薬会社は、海外でのビジネス拡大を目指 しており、日本でも国民皆保険制度や薬価基準の 見直しが迫られる危険性があります。 知的所有権保護の国際的な動きについては、 TPP と は 別 に ACTA ( Anti-Couterfeting Trade Agreement:模倣品拡散防止条約)に関しても触れ ておかなければならないと思います。この条約は、 もともと日本が原案を策定し、2005 年に開かれた G8 グレンイーグルズ・サミットにおいて条約の必要 性を提唱したものです。そして、その後国際条約と して日本やアメリカ、EU 諸国、シンガポールなど 30 カ国余りが署名。日本では今年 8 月 3 日の参議 院本会議で、賛成多数で批准が可決されました。 同条約は、偽ブランド、模倣品を禁止するという内 容が中心ですが、インターネット上のコンテンツの 二次利用やジェネリック医薬品なども対象となり、 表現の自由への抑制や医薬品高騰などへの懸念 から、ヨーロッパなどを中心に大きな反対運動が 起こっています。そして今年の 7 月、欧州議会では、 批准承認案件が反対多数により否決されました。 日本国内でもようやく、その存在が知られるよう になってきたばかりの ACTA ですが、TPP 同様に十 分な情報公開が無いまま推進されることは大き な問題があり、国内でも反対運動が進められるよ うになってきています。
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