IAS(国際会計基準)第 37 号「引当金」について

IAS(国際会計基準)第 37 号「引当金」について
1.
IFRSと日本基準の主な差異
IFRS と日本基準の主な差異を示すと以下の通りです。
IFRS
(1)定義
日本基準
引当金とは、決済の時期または金額が不
引当金としての明確な定義はない。
確実な負債をいう。
一般に、企業会計原則注解 18 に示される
なお、負債とは、過去の事象から発生した
認識要件を満たすものを引当金という。
現在の債務で、その決済により、経済的便
益を有する資源が企業から流出する結果と
なることが予想されるものである。
(2)認識要件
以下の条件を満たした場合に引当金を計
以下の条件を満たした場合に引当金を計
上しなければならない。
上しなければならない。
①過去の事象の結果として現在の債務を
①将来の特定の費用または損失であること
有していること
②その発生が当期以前の事象に起因する
②当該債務を決済するために経済的便益
こと
をもつ資源の流出が必要となる可能性が
③発生の可能性が高いこと
高いこと
④その金額を合理的に見積もることができ
③その金額について信頼できる見積もりが
ること
できること
(3)測定
引当金として認識される金額は、期末日に
将来の特定の費用または損失が合理的に
おいて現在の債務を決済するのに必要な
見積もることができる場合における当期の
支出の最善の見積りでなければならない。
負担に属する金額を当期の費用または損
失として引当金に繰り入れ、当該引当金の
ここでいう最善の見積りとは、期末日の債
残高を貸借対照表の負債の部または資産
務を決済するために、または、期末日に債
の部に記載するとされている。
務を第三者に移転するために企業が合理
的に支払う金額である。
「合理的に見積もること」に関する基本的な
考え方が定められているわけではなく、実
務に委ねられている。
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2.
主な差異項目のポイント
(1) 認識要件の「過去の事象の結果として現在の債務を有していること」について
日本基準では、将来の費用のうち、期間損益計算の観点から必要性を認められた特定のも
のが引当の対象とされます。
これに対して、IFRS では、単に将来費用または損失の発生が予想されているだけでは不十
分であり、過去の事象のみから発生した法的または推定的債務の存在が要求されています。
従って、負債として認識されるものは期末日に存在する現在の債務に限定され、企業の将
来の行為によって支出を回避しうる将来の支出については、引当金を認識できません。
(2) 認識要件の「経済的便益をもつ資源の流出が必要となる可能性が高いこと」について
IFRS では、引当金を認識するには、現在の債務があるだけでなく、債務を決済するための
経済的便益をもつ資源の流出の可能性が高くなければなりません。ここでいう「可能性が高
い(probable)とは、その発生確率が 50%超(more likely than not 起こらない可能性よ
りも起こる可能性の方が高い)であるか否かによって判断されます。
現在の債務のうち、発生の可能性が高いものが引当金として負債計上される一方で、発生
の可能性低いものや信頼性をもって測定できないものは偶発負債として注記開示されます。
なお、IAS 第 37 号改訂案では、
「発生可能性が高いこと」という蓋然性要件を認識要件か
ら削除することが提案されています。これは、負債の定義を満たす現在の債務が存在する場
合には、資源の流出が発生する蓋然性にかかわらず負債として認識すべきであり、将来の事
象に関する不確実性は、認識される負債の測定に反映すべきであるという考え方によるもの
です。
例えば、1,000 千円の資源の流出が発生する可能性が 30%程度ある場合、現行の IFRS では
発生可能性が 50%未満のため引当金計上されませんが、IAS 第 37 号改訂案では 1,000 千円に
30%の確率を乗じた 300 千円を負債として認識することになります。
(3) 引当金の測定について
IFRS においては、引当金を測定するにあたって、現在の債務を決済するのに必要な支出の
最善の見積額を算出するには、以下のような点に配慮しなければならないとしています。
① リスクと不確実性
リスクと不確実性が存在する状況下で判断を行う場合は十分に注意を払い、負債が過小に
評価されないようにしなければなりません。しかし、一方で、リスクと不確実性が存在す
ることが過大な引当金を正当化する理由にはなりません。つまり、保守的に不利な結果が
生じた場合の予想費用を高く見積もり、それと同時にその結果が生ずる確率についても意
図的に実態より高い数値を使用することは、リスクと不確実性について二重の調整を行っ
ていることになるので、この点に留意しなければなりません。
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② 現在価値への割引
引当金の測定に際し、貨幣の時間的価値の影響に重要性がある場合には、債務の決済に必
要と見込まれる支出の現在価値を用いなければなりません。使用する割引率は、貨幣の時
間的価値とその負債に特有のリスクを反映した税引前割引率でなければなりませんが、重
複を避けるため、将来のキャッシュ・フローの見積りで考慮したリスクを反映してはなり
ません。
3.
今後検討を要する引当金
(1) 修繕引当金・特別修繕引当金
修繕引当金は、将来の修繕コストに備える引当金であり、修繕の原因が設備の利用によ
るという発生主義の考え方に基づいていますが、IFRS の考え方に基づく場合、将来の修繕
コストは操業停止や対象設備の廃棄をした場合には不要になり、企業の将来の行為によっ
て回避することが可能ですので、負債に該当しないことになります。
(2) 役員退職慰労引当金
役員退職慰労引当金は、法律や契約に基づいて支給されるものではなく、またその支給
は株主総会の承認が条件となっています。従って、企業にとっては、株主総会の承認が得
られた段階で初めて法律上の債務が生じるものと考えられるため、今後、その取扱いにつ
いて検討する必要があります。
(3) リストラクチャリングに係る引当金
我が国においては、
「構造改革費用」等様々な名称でリストラクチャリング関連の引当金
が実務上計上されています。
IAS 第 37 号改訂案においては、リストラクチャリング費用に関する非金融負債は、負債
の定義を満たしたときにのみ認識されるとされています。従って、企業が他社に対する債
務の決済をほとんど免れることができないような、現在の債務を負ったと認められた時点
でリストラクチャリングに係る引当金を計上していくことになるものと考えられます。
(4) 訴訟損失引当金
訴訟等により損害賠償を求められている状況においては、一般的に、負債が存在してい
るかどうかについて不確実性があると考えられます。そのため、事実関係や訴訟の進行状
況等を考慮して、負債が存在しているかどうかの判断に基づき、引当金の計上の要否を決
定することになると考えられます。
(5) 有給休暇引当金
企業と従業員との間の契約により、従業員が有給休暇を消化した場合にも対応する給与
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を企業が支払うこととなっている場合には、企業は、期末日時点で従業員が将来有給休暇
を取る権利を有している部分について債務を負っています。このため、国際的な会計基準
では負債に該当するとされています。
これまで我が国においては、一般的に有給休暇引当金は計上されてきませんでしたが、
我が国における労務制度や慣行の実態を考慮しつつ、国際的な会計基準とのコンバージェ
ンスも勘案して取扱いを検討する必要があるものと考えられます。
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