IFRS38 無形資産 自己創設無形資産(開発費) 概要 無形資産について、日本の会計基準には概括的な規定はなく、企業会計原則や財務諸表等規則 並びに個別に定められた会計基準等に従って処理されます。一方 IFRS では、IAS 第 38 号において 無形資産に関する単一の包括的な基準書が存在し、それに従って処理されます。 今回は、無形資産のなかでも、日本の会計基準と IFRS との重要な相違点の一つでもある、自己創 設無形資産(開発費)についてご紹介します。 解説 ~研究・開発から製品化までの流れ~ 上図の流れのうち、研究より生じた支出は発生時に費用処理することとされています(IAS38.54)。 一方、開発から生じた無形資産は、(a)から(f)の要件をすべて満たす場合に限り認識しなければなら ないと規定されています(IAS38.57)。 (a) 使用又は売却できるように無形資産を完成させることの技術上の実行可能性 (b) 無形資産を完成させ、さらにそれを使用又は売却するという企業の意思 (c) 無形資産を使用又は売却できる能力 (d) 無形資産が蓋然性の高い将来の経済的便益を創出する方法、とりわけ、企業は無形資産 による産出物又は無形資産それ自体の市場の存在、あるいは、無形資産を内部で使用する 予定である場合には、無形資産が事業に役立つ有用性を立証しなければならない (e) 無形資産を完成させ、さらにそれを使用又は売却するために必要となる、適切な技術上、 財務上及びその他の資源の利用可能性 (f) 開発期間中の無形資産に起因する支出を、信頼性を持って測定できる能力 Copyright @2011 Aria Audit Corporation 研究と開発における会計処理の違いは、将来の経済的便益を創出する可能性の高さにあります。 研究局面においては、製品化などが決まっていないことが一般的であり、将来の経済的便益を創出 する可能性が高いと説明することが困難であることから無形資産として認識できません。 一方、開発局面においては、研究局面よりさらに製品化へ向けてプロジェクトが進行し、将来の経済 的便益を創出する可能性が高まったと認められることから無形資産として認識することになります。 実際に IFRS 適用企業が開発費をどのように処理しているか気になるところです。2008 年 9 月に企業 会計基準委員会(ASBJ)より「社内開発費の IFRS の元における開示の実態調査」が公表され、欧州 主要企業 50 社の 2007 年度アニュアルレポートを対象に開発費の会計処理の実態調査が行われ ました。調査結果をまとめると下表のようになります。 グループ A 業種 企業数 資産化率(*1) 開発費の資産計上をほとんど行わず、費用 製薬業 6社 - 処理している業界 食品 7社 0%~10% 科学 5社 0%~2% B 相当程度の開発費を資産計上している業界 自動車 6社 29~53% C 開発費をすべて費用処理、一部資産計上な 自動車部品 7社 0.9%~26% ど混在している業界 電機 6社 3%~25% 紙パルプ 5社 *2 その他 8社 *3 (出典:企業会計基準委員会「社内開発費の IFRS の元における開示の実態調査」より一部抜粋し作成) (*1)研究開発支出合計に占める資産化された開発費の割合 (*2)すべて費用処理 1 社、資産計上 1 社、資産計上の会計方針あるものの資産化額丌明 3 社 (*3)すべて費用処理 2 社、資産計上 3 社、資産計上の会計方針あるものの資産化額丌明 3 社 日本基準との違い 日本の会計基準では、「研究開発費等に関する会計基準」により、研究開発費はすべて発生時に費 用として処理しなければならないと規定されています。 研究開発費は発生時には将来の収益が獲得できるか否か丌明であり、将来の収益獲得の期待が 高まっても、依然としてその獲得が確実とは言えないことから資産計上は適当でないとされていま す。 また、2009 年 12 月 18 日に ASBJ から「無形資産に関する論点の整理」が公表され、開発に係る 支出は一定の要件のもと資産計上することが考えられると示されています。今後、論点整理やそのコ メントを踏まえて、会計基準の整備が進められるでしょう。 Copyright @2011 Aria Audit Corporation
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