代数学 II しけぷり 吉川 祥 (理学部数学科 3 年) 2010 年 1 月 10 日 前書き このシケプリの内容は演習の解答です.全ての問題に解答をつけていない主な理由は,「分からない問題が あるから」ということと,「好きな問題から解答を書いていったら残りを書く気力が無くなったから」という ことです.今後,僕が残りの解答を付け加えるかもしれませんが,もちろん,どなたかが解答を書いてくださ るのは構いません (むしろ歓迎!).今回も急いで作ったため,ミス (tex の誤りや議論の誤りなど何でも) があ る可能性が大です.ミスを見付けた方,あるいは,僕のシケプリでここが分かりにくいという部分があった方 は,[email protected] または panabofi[email protected] までご連絡ください. 答案 問 1. まず, 「長さ」の定義を明らかにしておく.M の長さとは,M の組成列 M = M0 ⊃ M1 ⊃ · · · ⊃ Mr = 0 の包含の個数 r のことである.ただし,M の組成列とは,M から 0 への真に減少する列であって,真の細分 が存在しないものをいう.問 1. の解答としては,次のようになる (以下で indecomposable という単語を用い ているが,これは,加群が非自明な直和に分解されないということである). M および N に Krull-Remak-Schmidt の定理を適用すれば,indecompasable な加群への (並べ替えを除いて) 一意的な直和分解が得られる.M ,N の分解の r 個の直和を取ることによって,M r ,N r も indecomposable な加群の直和に分解されていることが分かる.Krull-Remak-Schmidt の定理により,M r , N r のこの分解は 一意的なものである.同型 M r ≃ N r によってこの (M r , N r の) 分解を比較すれば M ≃ N が得られる. (このままだと,一番肝心なところを書いていないことになりそうなので,最後の部分の補足をする. M, N の直和分解を与える indecomposable な部分加群たちを {M1 , ..., Mp }, {N1 , ..., Nq } と書くことにする.上で 行った M r , N r の比較によって,次のことが分かる: 各 Mi に対して,{M1 , ..., Mp } の中で Mi と同型なものの個数と,{N1 , ..., Nq } の中で Mi と同型なものの個 数は一致する (各 Nj に対しても同様のことが言える). このことは,{M1 , ..., Mp } と {N1 , ..., Nq } が (同型射によって) 一対一に対応していることを意味する.すな わち,M ≃ N である.) 説明があやふやになってしまった…ごめんなさい. 問 2. M が Noether A-加群であるとき,N および M/N が Noether A-加群であることは明らかである (N の部 分加群は M の部分加群でもあること,M/N の部分加群は N を含む M の部分加群に対応すること,この二 1 つを考えれば分かる). 逆を示そう.N および M/N が Noether A-加群であると仮定する.P を M の任意の部分加群として,P が有限生成であることを示せば良い. N は Noether なので P ∩ N は有限生成である.その有限個の生成元を x1 , x2 , ..., xn とする.また,M/N は Noether なので (N + P )/N は有限生成である (細かい指摘だが,P は N を含むとは限らないので P/N を考 えることは出来ない.しかし,N + P は P を含むので剰余加群 (N + P )/N を考えることができ,その元は y + N (y ∈ P ) と書くことが出来る).(N + P )/N の有限個の生成元を z1 , z2 , ..., zm とする.各 zi をそれぞ れ zi = yi + N (yi ∈ P ) と書いておく. このとき,x1 , x2 , ..., xn , y1 , y2 , ..., ym が P を生成する.実際,u ∈ P とすると,u + N ∈ (N + P )/N は u + N = a1 z1 + · · · am zm = (a1 y1 + · · · am ym ) + N と書ける.すなわち,u − (a1 y1 + · · · am ym ) ∈ N と なる.ところが,u − (a1 y1 + · · · am ym ) ∈ P でもあるから,結局 u − (a1 y1 + · · · am ym ) ∈ P ∩ N である. よって,u − (a1 y1 + · · · am ym ) = b1 x1 + · · · bn xn と書ける.これより u は x1 , x2 , ..., xn , y1 , y2 , ..., ym の一 次結合で書けるので,主張が言えたことになる. 問 3. よく知られた命題なので略.(お手持ちの代数学の本を参照せよ.たとえば,Atiyah-MacDonald,命題 6.8) 問4 この演習問題の命題を,Fitting’s Lemma という. まず M が Noether A 加群である場合を考えよう.このとき,M の部分加群の増大列 ker(f ) ⊂ ker(f 2 ) ⊂ · · · は停留的であるから,ker(f n ) = ker(f n+1 ) = · · · となる自然数 n が取れる.x ∈ ker(f n )∩im(f n ) とした とき,x = 0 であることを示せば良い.x ∈ im(f n ) から,x = f n (y)(y ∈ M ) と書ける.すると,x ∈ ker(f n ) より 0 = f n (x) = f n (f n (y)) = f 2n (y) となって,y ∈ ker(f 2n ) である.ker(f 2n ) = ker(f n ) であるから,結 局 x = f n (y) = 0 となる. 次に,M が Artin A 加群である場合を考える.このとき,M の部分加群の減少列 M ⊃ f (M ) ⊃ f 2 (M ) ⊃ · · · は停留的であるから,f n (M ) = f n+1 (M ) = · · · となる自然数 n が取れる.x ∈ M が ker(f n ) の元と im(f n ) の元の和で表せることを示す.f n (x) ∈ im(f n ) = im(f 2n ) であるから f n (x) = f 2n (y)(y ∈ M ) と書 ける.すると,f n (x − f n (y)) = 0 となり,x − f n (y) ∈ ker(f n ) である.これは x ∈ ker(f n ) + im(f n ) を意 味する. 問 5. 無限個の不定元 S = {xi }i∈I を用意しておく.このとき,S を添加した体 Q(S) は Noether 環であるが,そ の部分環 Q[S] は有限生成でないから特に Noether 環ではない. 問 6. M は Noether A 加群であるから特に有限生成である.そこで,M の A 上の生成元 x1 , ..., xn を取ってお く.Ax1 , ..., Axn はそれぞれ M の部分加群であり,問 2 からそれぞれ Noether A 加群である.Noether A 加群の有限個の直和は Noether A 加群であるから (問 2 を繰り返し用いれば証明できる),Ax1 ⊕ · · · ⊕ Axn も Noether A 加群である.ここで,標準的な A 準同型 f : A → Ax1 ⊕ · · · ⊕ Axn を考える.A の M への作 用が忠実とは環準同型 A ∋ a 7→ (a× : m 7→ am) ∈ End(M ) が単射ということであるから,この仮定のもと 2 で f は単射となる (実際,a ∈ ker f とすると,全ての i に対して axi = 0 であるから,a× は End(M ) の元と して 0 である.よって,作用が忠実であることにより a = 0 である.).以上から,f によって A を Noether A 加群 Ax1 ⊕ · · · ⊕ Axn の部分加群とみなせる.よって問 2 により A は Noether A 加群であるが,これは A が Noether 環であるということである. 問 7. 最初に,次に注意する:Noether 環 A/I および A/J は A 加群とみなしたとき Noether A 加群である.(例 えば A/I の場合を考えてみよう.A/I を A 加群と見たときの部分加群は,自然に A/I 加群の構造を持つ. すなわち A/I のイデアルとなる.よって,A/I の部分 A 加群からなる任意の集合 (̸= ∅) は,A/I のイデアル からなる集合でもある.A/I は Noether 環であるから,この集合には極大元が存在する.よって,A/I を A 加群と見ると Noether A 加群となる.) 本題に入る.A 加群の 単完全系列 0 −→ I/(I ∩ J) −→ A/(I ∩ J) −→ A/I −→ 0 を考える.A 加群として I/(I ∩ J) ≃ (I + J)/J であり,これは Noether A 加群 A/J の部分加群だからや はり Noether A 加群である (問 2).一方,A/I も Noether A 加群である.よって,問 2 から,A/(I ∩ J) は Noether A 加群となる.このとき,最初に書いた注意の類推で,A/(I ∩ J) が Noether 環になることが分か る. 問 8. B ∩ C が可換であることは C の可換性から従うので,B ∩ C の 0 でない元に対して逆元が B ∩ C に存在す ることを示せば良い.そこで,x ∈ B ∩ C, x ̸= 0 を取る.x の C での逆元を y とする.y は A における x の 逆元でもある.今,B は Artin 環であるから,B のイデアルの列 Bx ⊃ Bx2 ⊃ · · · は停留的である.すなわ ち,Bxn = Bxn+1 = · · · なる自然数 n が存在する.すると,xn = bxn+1 をみたす b ∈ B が取れて,y n を右 から掛ければ 1 = bx となる.よって,x は B に左逆元を持つことが分かる.b は A における x の左逆元でも ある.以上を踏まえれば,b = b · 1 = b(xy) = (bx)y = 1 · y = y となる.これは,B ∩ C に x の逆元が存在 することを意味する. 問 12. A[[x]] が Noether 環であることを示せば,問題の後半部分は直ちに従うので,後半部分の証明は略す. A[[x]] が Noether 環であることを示すためには,イデアル I ⊂ A[[x]] を任意に取ったとき,I が有限生成で あることを示せば良い.0 以上の整数 m に対して,A のイデアル am を am = {∃f ∈ I, f の最低次の項は axm } ∪ {0} で定める.A は Noether 環であり,a0 ⊂ a1 ⊂ a2 ⊂ · · · であるから,十分大きな n を取れば an = an+1 = · · · となる.A は Noether 環だから a0 , ..., an は全て有限生成である.各 i に対して,ai の生成元 ai,1 , ..., ai,r(i) ∈ ai を取り,これらを与える I の元 fi,1 , ..., fi,r(i) ∈ I を 1 つずつ取っておく (つまり,fi,j は,最低次の項が ai,j xi であるような I の元である). 以下,fi,j たちが I を生成することを示そう (細かいところまで書くと逆に分かりづらくなるので,やや粗 く書くことにする).g ∈ I とする.g の最低次数を d とすると,g の d 次係数は,d ≤ n ならば fd,1 , ..., fd,r(d) 3 の A 係数一次結合で消せる.同様に考えて,g は n 次まで消すことが出来る.すなわち,g − (fi,j たちの A 係 数一次結合) の最低次が n + 1 であるように出来る.これの n + 1 次部分は xfn,1 , ..., xfn,r(n) で消せる.次 に,n + 1 次を消した式の n + 2 次部分は x2 fn,1 , ..., x2 fn,r(n) で消せる.以下同様にして,全ての次数の項を 順に消していく (この操作は一般に無限回の操作となる).結局, g = (fi,j たちの A 係数一次結合) + (fn,j たちの A[[x]] 係数一次結合) という形になるので,fi,j たちは I を生成することが分かる. 余談であるが,Noether 環 A と A のイデアル a に対し,A の a-進完備化によって得られる環も Noether 環であることが知られている.A[[x]] は A[x] の (x)-進完備化であるから,A[[x]] も Noether 環であることが 分かる. 問 13. 環としての構造は, EndZ (Z/(2) ⊕ Z/(2)) ≃ EndZ/(2) (Z/(2) ⊕ Z/(2)) ≃ M2 (Z/(2)) である.ただし,この同型はいずれも環としての同型である. 問われていないだろうが,(Z-) 加群,つまりアーベル群としての構造は, EndZ (Z/(2) ⊕ Z/(2)) = HomZ (Z/(2) ⊕ Z/(2), Z/(2) ⊕ Z/(2)) ( )4 ≃ EndZ (Z/(2)) ( )4 ≃ EndZ/(2) (Z/(2)) ≃ (Z/(2))4 となる.ただし,この同型はいずれも加群としての同型である. 問 14. ・標数が 2 であること: (1 + 1)2 = 12 + 1 · 1 + 1 · 1 + 12 = 1 + 1 + 1 + 1 と (1 + 1)2 = 1 + 1 を見比べれば分かる. ・可換であること: x, y ∈ A とする. (x + y)2 = xx + xy + yx + yy = x + xy + yx + y と (x + y)2 = x + y が等しいので,xy + yx = 0 を得る. 一方,標数が 2 なので,yx = −yx である.この二つの式から,xy = yx となる. 問 15. 代数学 I で可換の場合をやった.非可換でも同じなので略. 問 16. Hilbert の基底定理からの帰結として,B(r) が k 上有限生成であれば B(r) は Noether 環であるというこ とが分かる.一方,B(r) が有限生成でなければ,もちろん B(r) は Noether 環ではない.このことを踏まえ た上で問題に解答する. 4 ・r ∈ Q の場合 r = p/q のように既約分数の形に書いておく.また,S = {xi y j : j ≤ ri, i ≤ q} とおく.xi y j (0 ≤ j ≤ ri) という形の単項式が S の元の有限個の積で書けることを示せば,B(r) が k 上有限生成であることが言えて 証明が終わる.そこで,xm y n を,0 ≤ n ≤ rm を満たす元としよう.m, n をそれぞれ q, p で割って m = qu + k, n = pv + l (0 ≤ k ≤ q − 1, 0 ≤ l ≤ p − 1) と書いておく.n ≤ rm に r = p/q, m = qu + k, n = pv + l を代入して整理すれば,pq(u − v) ≥ ql − pk を得る.ここで,ql − pk ≥ q · 0 − p(q − 1) = −p(q − 1) で −p(q−1) > pq qu+k pv+l q p v あるから,u − v ≥ m n x y =x y −1 となる.u − v は整数であることを考えれば,u ≥ v を得る.すると, = (x y ) (xq )u−v (xk y l ) となり,これは S の元の有限個の積である. ・r ∈ / Q の場合 x y (0 ≤ j ≤ ri) という形の単項式を元に持つ有限集合 T をどのようにとっても,T が B(r) を生成しない i j ことを言えば良い.T が B(r) を生成しないことを言うには,T の有限個の元の積として書けないような単 項式 xm y n (0 ≤ n ≤ rm) が存在することを示せば十分である.そこで,T を,xi y j (0 ≤ j ≤ ri) という形 の単項式を元に持つ有限集合とする.xi y j ∈ T に対して (i, j) を対応させることによって,XY 平面の格子 点として T を表示する (こう表示した格子点の集合を T ′ と書くことにする).このとき,T ′ は,X 軸と直線 Y = rX にはさまれた領域 (第一象限内) に含まれている.T ′ は有限集合であり r は無理数であるから,次の 条件を満たす実数 s(< r) が存在する: (0 <)sX ≤ Y ≤ rX をみたす領域に T ′ の元は存在しない.ところが, (0 <)sX ≤ Y ≤ rX には格子点が存在する.その格子点の一つを取り (m, n) とすると,xm y n は T の元の有 限個の積で表せないことが容易に分かる. 問 18. M1 + M2 が有限生成なので,(M1 + M2 )/M1 ≃ M2 /(M1 ∩ M2 ) も有限生成である.これと M1 ∩ M2 が 有限生成であることから,M2 が有限生成であることがわかる.(これの証明は,問 2 と実質的に同様である. 一般に,A 加群の単完全系列 0 → L → M → N → 0 に対して,L, M が有限生成ならば M も有限生成であ る.) M1 が有限生成であることも同様にして分かる. 問 19. まず,一般の環 R に対して次が成り立つことに注意しよう: R の Jacobson 根基 J は J = {a ∈ R : 任意の b ∈ R に対して 1 − ab が可逆元 } と表される. さて,k[x, y] の Jacobson 根基が (0) であることを示す.上の注意から,示すべきことは, f ∈ k[x, y] が 0 でなければ,ある g ∈ k[x, y] が存在して 1 − f g が非可逆となる である. しかし,容易に分かるように,k[x, y] の可逆元は次数が 0 の元のみであるから (k[x, y] を次数付き環と見れば 示せるが,これはほぼ明らかだろう),g ∈ k[x, y] として次数が 1 以上の元を取れば,1 − f g は非可逆となる. 5 (別解) 一般に,体上有限生成の環 R と,R の真のイデアル I に対して, ∩ √ I= m I⊂m が成り立つ.ただし,共通部分は I を含む R の極大イデアル全体にわたって取る.R = k[x, y],I = (0) とし て,この事実を使えば,k[x, y] の Jacobson 根基が (0) であることが分かる.上の事実の証明は,例えば「可 換環論」(松村) などを見よ. 問 20. まず,Hom(Z/(m), Z(n)) を求めよう. 単完全系列 m× 0 −→ Z −→ Z −→ Z/(m) −→ 0 に対して,HomZ (−, Z/(n)) を作用させて,完全系列 (m×)∗ 0 −→ HomZ (Z/(m), Z/(n)) −→ HomZ (Z, Z/(n)) −→ HomZ (Z, Z/(n)) (m×)∗ を得る.今得た完全系列から HomZ (Z/(m), Z/(n)) は HomZ (Z, Z/(n)) −→ HomZ (Z, Z/(n)) の核と同 型である.よって,この核を求めれば良い.HomZ (Z, Z/(n)) ≃ Z/(n) であるから (同型は,f 7→ f (1) に m× よって与えられる),結局,Z/(n) −→ Z/(n) の核を求めれば良いことになる.g.c.d(m, n) = k として m = km′ , n = kn′ とおくと,ā ∈ Z/(n) に対して mā = 0 ∈ Z/(n) ⇐⇒ n|ma ⇐⇒ n′ |m′ a ⇐⇒ n′ |a ⇐⇒ n|ka ⇐⇒ kā = 0 ∈ Z/(n) となる.すなわち,求める核は {ā ∈ Z/(n) : kā = 0} ≃ Z/(k) = Z/(g.c.d(m, n)) である.ここで,中央の同型は,Z ∋ a 7→ n ka + (n) ∈ Z/(n) から導かれる. 次に,Z/(m) ⊗ Z/(n) を求める. 単完全系列 m× 0 −→ Z −→ Z −→ Z/(m) −→ 0 に対して,Z/(n) をテンソルして,完全系列 (m×)⊗1 Z ⊗ Z/(n) −→ Z ⊗ Z/(n) −→ Z/(m) ⊗ Z/(n) −→ 0 を得る.f = (m×) ⊗ 1 とおくと,今得た系列の完全性から (Z ⊗ Z/(n))/im(f ) は Z/(m) ⊗ Z/(n) に同型 である.よって,(Z ⊗ Z/(n))/im(f ) を求めれば良い.ところが,Z ⊗ Z/(n) ≃ Z/(n) を考えれば,結局, 6 ( ) 求めるべきものは Z/(n) /im(m× : Z/(n) → Z/(n)) であることが分かる.m× : Z/(n) → Z/(n) の像は ( ) ( ) (m) + (n) /(n) = g.c.d(m, n) /(n) であるから, ( (( ) ) ) ) (( ) Z/(n) /im(m× : Z/(n) → Z/(n)) ≃ Z/(n) / g.c.d(m, n) /(n) ≃ Z/(g.c.d(m, n)) が求めるものである. 問 21. 単完全系列 f g 0 −→ I −→ A −→ A/I −→ 0 に M をテンソルして,完全系列 F G I ⊗A M −→ A ⊗A M −→ A/I ⊗A M −→ 0 ≃ を得る (ただし,F = f ⊗ 1, G = g ⊗ 1 と書いた).一方,標準的な同型 φ : A ⊗A M −→ M がある.以上を 踏まえれば, A/I ⊗A M ≃ (A ⊗A M )/ ker G = (A ⊗A M )/imageF ≃ M/image(φ ◦ F ) となる.そこで,image(φ ◦ F ) を求める.φ ◦ F は,I ⊗A M ∋ a ⊗ m 7→ am ∈ M (a ∈ I, m ∈ M ) で与え られる準同型で,この像は am (a ∈ I, m ∈ M ) という形の元の有限和全体であり,IM に等しい.以上から, A/I ⊗A M ≃ M/IM となることが分かる. 問 22. A の極大イデアルを m と書くことにする.M ⊗A N に A/m をテンソルすることにより (係数環は A), 0 ≃ (M ⊗A N ) ⊗A A/m ≃ M ⊗A (N ⊗A A/m) ≃ M ⊗A (N/mN ) 更に,最後の式に A/m をテンソルすることにより (係数環は A/m), 0 ≃ (M ⊗A (N/mN )) ⊗A/m A/m ≃ M ⊗A ((N/mN ) ⊗A/m A/m) ≃ M ⊗A (A/m ⊗A/m (N/mN )) ≃ (M ⊗A A/m) ⊗A/m (N/mN ) ≃ (M/mM ) ⊗A/m (N/mN ) を得る (以上において,M/mM や N/mN を A 上の加群と見たり A/m 上のベクトル空間と見たりしている ことに注意する.また,問 27 を多用していることにも注意する).よって,ベクトル空間のテンソル積の性質 から,M/mM = 0 または N/mN = 0 となる (斎藤毅先生の本に書いてある).ここで,中山の補題を適用す 7 れば (中山の補題の仮定を満たすことを確認せよ),M = 0 または N = 0 となって証明が終わる. 問 25. まず,単射的 A 加群の族の直積が再び単射的になることを確認しよう: {Mi }i∈I を単射的 A 加群の族とし, M= ∏ i∈I Mi とおく.Baer’s Criterion(問 24) によれば,A の任意のイデアル a から M への A 準同型が A から M への A 準同型に拡張できれば M が単射的となるが,それは各 Mi が単射的であることと直積の普遍 性からただちに分かることである. さて,本題に入る.A を Noether 環とし,単射的 A 加群の族 {Mi }i∈I が与えられているとする.M = ⊕ i∈I Mi とおく.M に Baer’s Criterion を適用するために,A の任意のイデアル a から M への任意の A-準 同型 φ をとる.A は Noether 環であるから a は有限個の元で生成される.すると,ある有限集合 J ⊂ I が存 在して,像 φ(a) は M ′ = ⊕ j∈J Mj に含まれることがわかる.有限個の加群の直和は直積に等しいから,最 ′ 初に書いた注意によって M は単射的であり,φ は φ̄ : A → M ′ に拡張される (厳密には,φ の行き先を M ′ に制限した準同型が φ に拡張されている).φ̄ と自然な包含写像 M ′ → M を合成すれば,φ の拡張である準 同型 A → M が得られることになる.ゆえに,M は単射的となる. 問 26. Noether 環 A の自己環準同型写像 f が全射であるとする.イデアルの増大列 ker f ⊂ ker(f 2 ) ⊂ · · · は停 留的であるから,ker(f n ) = ker(f n+1 ) = · · · となる自然数 n が存在する. 今,x ∈ ker f とする.f は全射であるから x = f n (y) なる y ∈ A が取れる.このとき,0 = f (x) = f n+1 (y) より y ∈ ker(f n+1 ) = ker(f n ) となるので,x = f n (y) = 0 である.よって,f は単射である. 問 28. ∏ この問題で問われているのは, 「標準的な射 ( i Mi ) ⊗A N ∋ (mi )i ⊗ n 7→ (mi ⊗ n)i ∈ ∏ i (Mi ⊗A N ) が同 型でない例」を挙げることであった.この例として,Mi = Z, N = Q, (A = Z) がある (直積は可算個取る). この例が上で述べた例になっていることを示そう. ∏ ∏ ∏ ∏ ∏ ( Z)⊗Q から (Z⊗Q) ≃ Q への標準的な射は,具体的には,( Z)⊗Q ∋ (mi )i ⊗q 7→ (mi q)i ∈ Q で 与えられている.この射が同型であると仮定する.素数を小さい順に p1 , p2 , ... とすると,(1/p1 , 1/p2 , ....) ∈ ∏ ∑ ∏ Q は ,あ る 元 j:有限和 (mi,j )i ⊗ qj ∈ ( Z) ⊗ Q の 像 に な っ て い る .す な わ ち ,(1/p1 , 1/p2 , ...) = ∑ ∑ ( j:有限和 mi,j qj )i が成り立っている.ところが,( j:有限和 mi,j qj )i の成分の分母に表れる素因数は有限 個であるのに対して,(1/p1 , 1/p2 , ...) の成分の分母に表れる素因数は無限個である.これは矛盾なので, ∏ ∏ ∏ ( Z) ⊗ Q から (Z ⊗ Q) ≃ Q への標準的な射は同型ではない. ちなみに,僕が発表しようとして失敗した「どのような射に対しても ( ∏ i ∏ Mi ) ⊗A N と ( i Mi ⊗A N ) が同型 にならない例」は,例えば Joseph J. Rotman,An Introduction to Homological Algebra (Second Edition) の Example 3.52 に載っている. 問 29. Z 双線形写像 φ : Q × Q → Q を φ(a, b) = ab で定義する.これにより,Z 準同型 φ̄ : Q ⊗Z Q → Q が得ら れる.一方,Z 準同型 ψ : Q → Q ⊗Z Q を ψ(a) = a ⊗ 1 で定義する.すると,φ̄ と ψ が互いに逆射になって いることが容易に確かめられる.よって,Q ⊗Z Q ≃ Q となる. 8 (φ̄ と ψ が互いに逆射,というのを念のため書いておく.非自明なのは ψ ◦ φ̄ = id の部分である.これは, ψ ◦ φ̄( pq ⊗ rs ) = pr q s ⊗1 = p1 q s ⊗r = p1 q s ⊗r· s s = ps qs ⊗r· 1 s = p q ⊗ r s から分かる.ただし,ψ ◦ φ̄ が Q ⊗Z Q の生成元上で恒等的であれば,Q ⊗Z Q 上でも恒等的であることに注意せよ.) 問 30. (A, m) を局所環とし,M を A 上の有限生成射影的加群とする.M ⊗A A/m ≃ M/mM は A/m 上の有 限次元ベクトル空間とみなせる (有限次元なのは,M が A 上有限生成であることから分かる).すなわち, M/mM ≃ (A/m)n と書ける.この同型は,A/m 上のベクトル空間としての同型でもあり,A 加群としての 同型でもあることに注意する.今,M/mM の A/m 上 の基底を x1 + mM, ..., xn + mM (x1 , ..., xn ∈ M ) と する.このとき,x1 , ..., xn が M を生成することを示そう.x1 , ..., xn が生成する M の部分加群を N とする と,M/mM = (N + mM )/mM である.これより M = N + mM となることが分かるので,中山の補題を 使えば M = N を得る (M は A 上有限生成であるから中山の補題が使える).これで x1 , ..., xn が M を生成 することが言えた.さて,本題に戻ろう.M に n 個の生成元が取れるので,全射準同型 f : An → M がある ことが分かる.M は射影的であるから,An ≃ ker f ⊕ M となる.これに A/m をテンソルして,同型 (A/m)n ≃ (ker f ⊗ A/m) ⊕ (M ⊗ A/m) ≃ (ker f /m ker f ) ⊕ M/mM を得る (これは A 加群としての同型でもあるが,A/m 上のベクトル空間としての同型でもある).M/mM の 次元は n だったから,今得た式の次元を見れば,dim(ker f /m ker f ) = 0 が分かる.すなわち,ker f = m ker f となり,再び中山の補題から ker f = 0 となる.(最後の部分に関して,ker f に中山の補題を適用するには, ker f が A 上有限生成であることを言わなくてはならない.ところがこれは,An ≃ ker f ⊕ M より An から ker f への全射があるので正しい.) 問 37 A を PID とし,M を A 上の加群とする. ・M が平坦ならば M にねじれがないこと. これは A が一般の整域であっても正しい.示すべきことは,a ∈ A \ {0} に対して,A 準同型 fa : M ∋ m 7→ am ∈ M が単射であるということである.そこで,a ∈ A \ {0} とする.A は整域であるので,A 準 同型 A ∋ x 7→ ax ∈ A は単射である (ここでは A を A 加群と見ている).M は平坦な A 加群であるから, A ∋ x 7→ ax ∈ A に M をテンソルして得られる射 M ≃ A ⊗A M → A ⊗A M ≃ M も単射である.ところ が,この射は fa に他ならない.これが示すべきことであった. ・M にねじれがなければ M は平坦であること. まず,次の事実を念頭に置く: {{Li }i∈I , {pij }i<j },{{Mi }i∈I , {qij }i<j } および {{Ni }i∈I , {rij }i<j } を加群 の順系とする.任意の i ∈ I に対して系列 fi gi 0 −→ Li −→ Mi −→ Ni −→ 0 が完全であり,fi , gi たちは pij , qij , rij たちと可換であるとする.このとき,系列 g f 0 −→ lim Li −→ lim Mi −→ lim Ni −→ 0 −→ −→ −→ 9 は完全である (f, g は fi , gi たちから導かれる射を表す). この事実を用いて,ねじれのない A 加群 M が平坦であることを示そう.M の有限生成部分加群全体 S := {Mi }i∈I は普通の包含により順系をなす.PID 上の有限生成な加群は,ねじれがなければ自由加群で あるから (もちろんこれは非自明ではあるが,ここには証明は書けない.お手持ちの代数学の本を参照された い),任意の Mi ∈ S は自由 A 加群である.自由であれば平坦であるから,結局,任意の Mi ∈ S は平坦であ る. 今, 0 −→ P −→ Q −→ R −→ 0 を A 加群の任意の単完全系列とする.各 Mi ∈ S は平坦なので, 0 −→ P ⊗A Mi −→ Q ⊗A Mi −→ R ⊗A Mi −→ 0 も完全となる.よって,先に挙げた事実から (事実の仮定を満たすことは容易に分かる), 0 −→ lim(P ⊗A Mi ) −→ lim(Q ⊗A Mi ) −→ lim(R ⊗A Mi ) −→ 0 −→ −→ −→ は完全である.ところが,問 35 と問 36 により lim(P ⊗A Mi ) ≃ P ⊗A lim Mi ≃ P ⊗A M である.したがっ −→ −→ て,結局, 0 −→ P ⊗ M −→ Q ⊗ M −→ R ⊗ M −→ 0 も完全である (この系列における射が,0 → P → Q → R → 0 に M をテンソルして得られた系列における射 に一致することを示さなくてはならない.…が,面倒なのでここには書かない.しかし,どれも自然に構成し た射であるので,一致することに感覚的に納得はいくだろう).ゆえに,M が平坦であることが示された. 問 41. A を可換な整域とし,M を有限生成 A-加群でねじれがないものとする.M の A 上の生成元を x1 , x2 , ..., xn とする.x1 , ..., xr が A 上一次独立で x1 , ..., xn のうちのどの r + 1 個も一次独立にならないとして良い.この とき,各 i = r + 1, ..., n に対して,bi xi = ai1 x1 + · · · + air xr (bi , ai1 , ..., air ∈ A) と書ける.b = br+1 · · · bn とおく.すると,M の任意の元 x に対して,bx は x1 , ..., xr の線形結合として一意的に表せることが分かる. よって,M から Ar への単射準同型 φ : M → Ar が次のようにして定まる: 任意の x ∈ M に対し bx = c1 x1 + · · · cr xr と書いたとき,φ(x) = (c1 , ..., cr ) と定める. (φ が well-defined であることは,M にねじれがないことと x1 , ..., xr が一次独立であることによる.また, 準同型になることは,bx の (x1 , ..., xr による) 表示の一意性から明らかである.) 問 43. 斎藤毅先生の「線形代数の世界」,問題 B8.4.3 を見よ. 問 44. ⊕ ⊕ A は対角に A1 , ..., Ar が並んだ行列であり,B も同様である.これらを A = i Ai や B = i Bi で表す. ⊕ このとき,g ∈ k[x] に対して g(A) = i g(Ai ) であるから,g(A) = B とは各 i に対して g(Ai ) = Bi という ことである. そこで,次を示せば良いことになる:各 i に対して g(Ai ) = gi (Ai ) となる g ∈ k[x] が存在する. 10 このような g として, g= ∑ i ∏ gi ∏ j̸=i j̸=i fj fj (Ai ) を取れば良い.j ̸= i ならば (fi , fj ) = 1 であるから fj (Ai ) が可逆となることに注意せよ.(実際,hi fi + hj fj = 1 となる hi , hj ∈ k[x] があるので,これに Ai を代入すれば hj (Ai )fj (Ai ) = E となる (E は単位 行列).) 11
© Copyright 2024 Paperzz