サケ・マスの寄生虫(I)-コスチア症について

鰹錘ゆ サケ・マスの 寄生虫一山
コスチア症について
浦和
茂彦
はじめに
とかく嫌われがちな 寄生虫たちですが ,
を送っているか 御存知でしょうか。
どの位の種類がいて ,
7 種だけに限っても , 175 種類以上もの 寄生虫が知られています
5,
どんな生活
太平洋産 サケ・マス類 Oneo 肋Ⅳ 妨硲属
(Margo
Ⅲ
1982) 。 この中には, 培 養殖上 急 病として問題になる 種や,人間に 寄生
して害を及ばすもの ,サケ・マス 資源研究の重要な 指標として利用されるも
のなど,原虫類から 甲殻類まで様々な 種が含まれています。
このシリーズでは ,一般ははあ まり知られていない ,サケ・マス 類の寄生
虫たちの起こす 問題や,ユニークな 生態などを紹介します。
コスチア 症 とは
コスチ ァ 症は,原生動物・ 鞭毛虫類に属する 丘ん %060d0
オ ボド
・
彫どぱ
f0/ ( イク チ
ネカ ト一ル) の寄生によって 起こる病気です。 以前, C0sfi は
nfca-
fr死 と言う学名が 使われていたので ,現在でもコスチァ症 と呼ばれていま
す。 欧米では,マス 類やコイなどに 寄生し , 大きな被害を 起こすことが 知ら
れています
(Bauer,1959;Wood,1979;Robertson,1979)0
日本でも,
ニジマスやコイ・キンギ ,に寄生することが 古くから報告されていましたが
佐野,1966),
( 鈴木,1938,1942;
出現 茎
l
㍉
一般には急症としてあ まり重要視さ
抑苗授 ち病 苗
れていませんでした。
ところが最近になり ,
イク チオ ボ
ィク チ
ドがサクラマスに 寄生して大きな 被
害を起こすことが
報告されました
(粟倉 5 , 1984)
。 著者の調査で
t11
目
も 水 虫は北海道内の 多くのふ化場
一
河
43
一
オ粁
・ジ
ブ
所のⅠ、
北海道内円か
佃苗桂俺病 育と吉士虫の
北田 の
発生状況
サケ・マス稚魚における
に 分布し ( 図
1) , サクラマスだけでなく ,サケ やヵ ラフトマスにも 寄生す
ることが明らかになり ,実験の結果,サケ・マス
稚魚に重大な 障害を与える
ことが判りました。
この虫の大きさは , 0 . 01 ㎜と大変小さく ,水中では体がほ ば 円形で ( 図 2
B)
, 体をゆっくりと 回転させながら 遊泳 し ,魚に接触すると 体を梨型に
(図 2
して,先端を 鯉や体表に付着させます
すが,増殖時には
本となり,
4
図 -2
2
鞭毛を 2 本持っていま
分裂で繁殖します。
4 クチ オボド ( htyo田n nar.atnりの M ぬ (A 田 生め日
㎏
由白め ぬめ
)
サケ・ マ. ス稚魚、
に与える影響
サケ・マス類に 対する ィク チオ ボド の影響については ,ほとんど知られて
いませんでしたので
,サケ稚魚にこの 虫を感染させ ,病害性を調べてみまし
稚魚、( 平均体重 0 . 259)
た。 実験には,浮上直後の
と
1
ヵ月飼育した 大型稚
魚、 (0.79) を使い,感染区 と対照 区 をも うげ ,水温W0e, 排水の溶存酸素
70 グ 以上の条件下で 10-15 週間飼育しました。
最初に飼育中の 死亡率を見てみましょう。 結果は図
3
に示した通りです。
死亡率は感染後 2 週から 3 週にかけ
て 増加し, 4 週間ほど言い 値を示
ました。
実験期間中の 累積死亡率
小型 群で 34%,
死
字
大型 群で 12%
と
対照 区 よりも明らかに 高
0
O
が 10-12
大型
日 -3 サケ稚魚の
碓缶区
l百 Ⅱごとの死亡率
0 対照
◆ イク チオ ボト 感染匠
週に高くなっていますが ,
これは イク チオ ボド が感染したため
で, 止むを得ず,対照 区 に対して 11
週目に薬浴を 行いました。
区
放流されたサケ 稚魚は海へ下るわけですから ,海水に対する 馴致能力 (侮
44
一
は
水 適応力 ) が大変重要になります。 そこで,感染したサケ 稚魚の海水適応力
を調べてみました。 方法は簡単で ,通気した海水 (塩分量 33%) 15% 入りの
水槽に稚魚 30 尾を 48 時間収容し,その
間の死亡率を 調べました。 その結果,
0
1@.里程
色区
対照魚は大部分が 生残する
感染魚の死亡率は ,小型群 ,大型群と "
め
約九が死亡しました
( 図 4) 。 天然
元
中
ませんので,
感染 魚、 はやはり高い 死亡率を示しまし
図
-4 海水中に 穏時 Ⅰ 取 古したサケ稚魚の
死亡卒
Ⅰ イク チオ ホド 感染匠
た。 イク チオ ボド は浮上前の稚魚にも
感染すると言われていますが
(Wood, 1979), 通常は給餌開始後に 感染す
ることが多いようです。 従って,感染によって 海水適応力の 低下した時期と ,
降海 時期が重なってしまう 可能性が高いと 思われます。
ク
サケ稚魚の浸透圧調節がどうなっているのか
知るため,指標の 1 つであ る
血清中の
C
魚の C
濃度は,淡水中では対照 区 よりも低い値を 示し,海水中に移すと
せ
杉
( クロライドイオン ) 濃度を調べてみました。
その結果,感染
異常に高まりました。 従って,感染魚の 主な死亡原因は 浸透圧のバランスが
崩れたためと 考えられます。 イク チオ ボド の感染によって ,稚魚に何が 起 き
たのでしょうか。
寄生部位と寄生数の 変化
"
魚体組織の変化を 見る前に ,イ
チオ ボド の寄生状況を 説明しま
-
寄生
故
す 。 サケ稚魚小型 群 での寄生数の
, 。
変化は図 5 の通りです。 走査竜頭
㌔
Ⅱ・
ず; ニニスま
を使って, l nll11
四方当りの寄生数
を調べましたが ,寄生数は鰭,体
表の順に多く , 鯉にはあ まり見ら
図 -5 イク チオ ポド のサケ稚魚における
れませんでした。 寄生数は 2 週後
一
45
一
体位別 のも生牡 変 4
ヒ
図6
イク チオ ポド 感染l 週 後のサケ稚魚体表
よりき、
に増え ,
図7
イク チオ ポド 感染4 週後のサケ稚魚体表
,鰭には平均1,700 虫体 /mlmn,
3 ∼ 4 週後にピークとなり
も
の寄生が見られました。 その後寄生数は 減少しますが , 12 週目に再び小さな
山を作りました。 図-3 と比較すればわかる
よ
うに,寄生数と 死亡率の変化
は 良く一致します。 ところで,なぜこのような 寄生数の増減を 示すのでしょ
うか。
寄生虫と魚の 攻防
イク チオ ボド の寄生した魚体組織はど
う
変化するのか ,組織切片 と電顕を
使って調べてみました。 寄生された部位は ,最初盛んに 粘液を分泌しますが
(図-6), 3 週間後,粘液を分泌する細胞はほとんど 消失してしまいます。
4 週間後には表皮の 剥離が頻繁に 見られ (図 -7), ニの様な状態が 6 週目ま
で続きました。 このため,稚魚は 淡水中では水の 侵入を ぅげ,海水中では 脱
水 されて死亡しやすくなったと 思われます。 一刀,考え方によっては ,稚魚
は虫ごと表皮を 剥離させることによって 寄生虫を排除する ,まさに捨身の 方
法を用いている 様にも思われま
OⅠ
細
粘液
一Ⅷ
敏
@
す 。 この間に稚魚は 着々と防御体
制を整えている 様です。図 8 には
・
表皮の粘液細胞数の 変化を示しま
,,
@@
L@
後,
, iSW@t-@
、M@
週後より増加し 8 週後に
は2,000 細胞 ノ ㎡以上にな
m
5
対照 魚、 の 5 ∼ 6 倍の数に達しま
図 -8 サケ稚魚の体表衣 & 届の粘液祝砲 鞍 の変化
● ィク チオ ポド 感染 区 0 対照 区
一 4f 一
た。
これと寄生数の 変化 ( 図-5) を比べて下さい。 両者には逆の 相関が認
,
められます。 粘液細胞中に 含まれる物質は ,通常,酸性粘液多糖類ですが
これら多数復活した 細胞の粘液物質は , PAS, 陽性の中性粘液多糖類あ るい
は粘液タンパク 質と思われる 物質に変わりました。 粘液は浸透圧調節や 病原
体の侵入を防ぐ 働 ぎをすると言われています。 まだ研究が必要ですが ,これ
らの粘液細胞が 寄生虫に対する 防御機構として 働いていると 想像されます。
診断と対策
このように,コスチア 症は放置しておいても ,環境が良けれ ば 自然に回復
します。 しかし,その 間に ¥0% から 30% の減耗は避げられません。 寄生によ
って海水適応力の 低下した時期と 放流期が一致すると ,さらに大きな 減耗を
起こす恐れもあ りますので,本症に 対する適切な 診断と対策が 必要です。 な
お,イギリスでは 海中飼育を始めた 大西洋サケが イク チオ ボド の寄生によっ
て大量死した 例があ
ることから (Bu Ⅱhock
り
CE Ⅲs 8 Wooten,
&
Robertson,
1978)
, ヒラメの類にも 寄生す
1982; 増村 ・伏見,1985) , 本病は
海でも発生すると 考えられます。 従って,海中飼育を 行 場合にも, イク チ
う
オ ボド の感染に注意を 払
う
必要があ ります。
診断方法ですが ,感染してもほとんど 外観症状を示さないので 厄介です。
と 鯉に比較的多く 見られるので ,これらを切り 取
感染初期には ,背鰭,尾鰭
り,水 プレパラ 一
標本を作製し ,光学顕微鏡を 使って400 倍程度で観察す
れば良いでしょう。
薬浴 剤 として,酢酸とホルマリンが 有効です。 原虫の駆除によく 使われる
食塩,マラカイトバリーン , 過 マンガン 酸 カリは, イク チオ ボド に対してほ
とんど効果があ りません。 酢酸は濃度 1 ノ5,000 1 時間 浴と ノ 1,000 3 分
浴が 有効ですが,前者は 魚の安全限界濃度に 近いので,使用には 危険が伴い
Ⅰ
ます0 ホルマリンは 濃度 1 /4,000
∼ 1 ノ 6,000 で 1 時間 浴が 用いられます
が,ホルマリンの 使用は,食品安全上等の 点から問題とする 声もあ りますの
で,使用期間・ 方法を限定するなどの 対策が必要でしょう。
治療した魚は ,
2 , 3 週間でほ ば 回復します。 サケ やヵ ラフトマスの 場
合 ,心配でしたら ,試しに稚魚を 通気した海水中に 入れてみて下さい。
たっても死ななければ 大丈夫です。
1
日
予防策を立てる 上で,感染ルートや 飼育環境との 関係を解明することが 重
,現在調査中ですが ,本病は,河川水など水源に
要 です。 これらに関しては
魚の生息する 水を用いている 所で発生しやすいようです。 また,水虫は 良好
な状態で飼育された 稚魚にも寄生します。 この場合,飼育中の 死亡率は低い
ものの,稚魚の 海水適応力はかなり 低下してしまう 2 5 です。
ィク チオ ボド に関しては,まだ 不明なことが 多数あ ります。新しい知見が
,また紹介した いと 思います。
得られましたら
文
献
: サクラマスの寄生虫に関する
研究一Ⅶ
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