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/【K:】Server/定期物/月刊税理/税理 2015.10(退)/208‐211 健全廃業・虎の巻10 E
<第3章
第 10 回
2015.09.25 1
廃業を決断した後の廃業プロセス>
廃業計画の策定と進め方
経営承継研究会
中小企業診断士
佐藤
節夫
私は創業経営者で,3
0歳の時に独立し,プラスチック成形工場を経営してきました。時代の波
に乗り規模を拡大し成長してきましたが,2
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8年のリーマン・ショックを期に潮目が変わり受注
が激減しました。私には子供がいなく,工場長である甥っ子に将来を託す予定でいましたが,こ
こ数年の赤字で債務超過スレスレになり,事業承継もままならず,廃業を決断した次第です。今
後どのようにしたらよいかご教示ください。
企業にライフサイクルがあるように,人生
にもライフサイクルがあります。
何かの縁で創業し,幾多の試練を乗り越え,
企業を成長させ大きくなったところで,後継
く,残るは「売却」か「廃業」の道です。
1 まず相談しましょう
では,いつ廃業を決断するべきでしょうか。
者にバトンタッチができれば,これに勝る幸
ライフサイクルでいえば,成熟期以降・衰退
せはありません。
期以前でしょう。
しかし,子供がいなく,いても子供が別の
いずれにせよ,
「廃業」を前向きに捉え,
道に進んで継ぐ意思がなく,また,役員や従
余力があるうちに決断することが大事です。
業員などに最適な後継者と目される人材が見
また,
「ご質問」にあるような厳しい状況
つからない場合には,選択肢はそう多くはな
の経営者こそ,
「不健全廃業」にならないた
●図表−1
めに,早めの選択が大事です。
企業・事業のライフサイクル
そのためには,一人で悩むことなく,相談
成熟期
しましょう。
衰退期
成長期
商工会議所では「経営安定特別相談室」を
設けています。相談室では,中小企業の倒産
を未然に防ぐため,事前に相談を受けて,経
導入期
営的に見込みのあるものについては倒産回避
の方途を講じ,見込みのない場合については
円滑な整理を図ることを主な目的とした倒産
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防止特別相談事業を行っています。相談は無
るための原材料などの在庫があります。また,
料で,企業の秘密は守られます。相談室では,
事務所には,什器や事務機器などもあります。
商工調停士を中心に,中小企業診断士,弁護
これらは,財務内容や廃業時の純資産を記
士,公認会計士などにより構成された専門の
載する財産目録になります。
スタッフが相談を受けています。
" 目標設定
過去のしがらみにとらわれて,いたずらに
営業終了日を決めます。決め手は,社長ご
タイミングを遅らせ,倒産などの取返しの付
自身の気力・体力・健康です。体力,特に健
かない事態に陥る前に,商工会議所,商工会
康に問題がなければ,2∼3年ぐらいの先の
などの指導員や,中小企業診断士など外部の
目標設定が妥当です。
専門家の客観的なアドバイスを受けて,早期
に判断を下すことが重要です。
2 「健全廃業」の手順
事業をやめることは失敗ではなく,むしろ,
なぜなら,急な廃業は,今までお世話にな
ったお客様や取引先に多大な影響を与える可
能性があるからです。また,従業員の今後の
就職先や生活も考えねばなりません。
# 課題抽出
会社や事業の先行きを見て将来を見極めるこ
資産を現金化し,負債を返済していくため
とに成功した,といえます。とはいえ,頭で
の障害となる課題を抽出します。負債の返済
分かっていても,実際の行動にはなかなか移
原資となる不動産の売却は予想以上に時間が
せないものです。
かかるものです。
廃業といってもいろいろな状況があります。
$ 計画策定
本稿では,負債よりも資産が多い
「資産超過」
ポイントは,
「減収増益」計画です。具体
の会社が清算をスムーズに進められるケース
的には,まず,投資抑制で財務のスリム化を
を「健全廃業」と呼び,一方,資産よりも負
図ります。さらには,売上増大よりも利益確
債が多い「債務超過」の会社が廃業できず倒
保を優先します。
産に至るケースを「不健全廃業」と呼びます。
廃業するということは,単に商売や事業を
停止すれば済むわけではなく,これまで積み
上げてきた資産と負債を整理し,最終的には
両方ともゼロの状態にすることです。そのた
その上で資産売却,借入金返済,連帯保証
の解消等の計画を策定します。
3 廃業計画の進め方
ポイントは,ムダ金は使わず,縮小均衡を
めには,以下の手順に従って進めていくこと
図ることです。
が肝心です。
! 上手な資産の売却方法
! 現状把握
! 商品や什器・機器
まず,資産の洗い出しから始めます。具体
「健全廃業」は,すぐ廃業するわけではあ
的には,機械・設備・人員・知的資産などを
りません。おおよその営業終了の時期を決め
チェックします。
たら,これに向けて仕入れの量を減らし,必
小売業や卸売業においては商品在庫,製造
業においては,製品・仕掛品やその製品を作
要最低限の仕入れで事業を回すことが肝心で
す。
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それでも先の現状把握で判明した過剰在庫
倉庫業等で用地取得を検討している取引
があれば,商品や材料などは仕入先に返品し,
先を紹介してもらう手があります。水面
取引先や同業者に買取りを打診してみる手も
下での交渉が可能であり,売却価格・取
あります。小売店であれば,閉店セールで一
引条件も納得でき,買手の資金調達の懸
気に在庫圧縮という手もあります。
念もなく,処分が比較的短期間でできる
什器や機器は,取引先や知り合いの同業者
に売却を打診するのが一般的です。もし,独
可能性があります。
! 借入金返済方法
立希望の従業員がいるなら,退職金を出す代
借入金返済の原資は,会社の事業によって
わりに必要なものを無償で譲って,従業員の
得られる利益です。したがって,まずは営業
独立を支援する方法もあります。
終了予定日までは,新たな投資は抑制し,財
それでも在庫や什器・機器の処分が難しい
務のスリム化を図り,売上増大よりも利益確
場合は,まとめてリサイクル業者に引き取っ
保を優先し,
「減収増益」計画を実行するこ
てもらうか,廃棄処分とします。しかし,処
とです。
分費用がかかることも見込んでおく必要があ
その上で,先に作成した
「借入金返済計画」
ります。
を実行するために,金融機関の理解と協力を
! 不動産や車両
求めることが必要です。なぜなら,借入金返
不動産も含めた全ての資産・負債の整理が
終わらない限り,会社の清算手続は終了しま
せん。しかし,不動産は売却のタイミングや
査定結果などで,売却価格が大きく変わりま
す。資金的に余裕があるなら,売り急がない
のが賢明です。それ故に「健全廃業」は2∼
3年の期間を見ています。
会社所有の不動産の主な処分方法として,
以下の三つがあります。
イ 不動産会社に仲介を依頼する
"
済の原資の大きな部分を占める不動産の売却
には時間がかかることが多いからです。
4 「廃業」の手続
会社をたたむには,
「解散」と「清算」の
作業が必要となります。
まず,
「営業終了日」を決め,営業を終了
させます。その後,株主総会で解散決議を行
●図表−2
廃業の手続
営業終了日
期待する価格で売却できる保証はなく,
時間がかかる恐れがあります。また,予
解散決議・解散登記
想以上に早く市場に当社の廃業の風評が
広まる恐れもあります。
ロ 不動産会社に直接買い取ってもらう
"
売却を急ぐ場合には有効ですが,売却
価格は足許を見られ,予想以上に市場価
格より安くなる覚悟が必要です。
清算人選定
清算手続
・債権者公告
・資産と負債の整理
・残余財産の分配
清算結了登記
ハ 金融機関に売却先を紹介してもらう
"
金融機関に相談し,同業者・製造業・
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廃業手続完了(会社消滅)
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い,承認されて「解散」となります。解散後,
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長い付き合いの取引先には,関係者の中で
会社は債権回収以外の営業活動は一切できな
も一番に社長自らが廃業することを伝えに行
くなり,
「清算」の目的の範囲のみで存続す
くべきでしょう。従業員から漏れ伝わったの
る「清算会社」となります。
では,相手は気持ちの良いものではありませ
「清算」とは,これまで積み上げてきた資
ん。
産と負債を整理し,最終的には両方ともゼロ
今までお世話になった感謝の気持ちを伝え,
の状態にする作業です。
清算実務は,
売掛金・
清算の意思をはっきり伝える必要があります。
買掛金,借入金,給与など,
「お金」にまつ
同時に売掛金はしっかり回収し,買掛金はキ
わるさまざまな処理といえます。しかし,こ
ッチリ払うことを約束します。
れらには取引先・仕入先,金融機関はもちろ
" 役員・従業員
ん,従業員などさまざまな人が関わっていま
廃業するということは従業員や役員の働く
す。つまり,清算実務は,お金の問題だけで
場所を奪ってしまう決断です。したがって,
なく,むしろ関係者との調整が重要となりま
誠心誠意,心からの説明をする必要がありま
す。
す。
清算実務がスムーズに進んだとしても,解
当然のことですが1か月前以上の告知と,
散登記から清算結了登記までは2か月半かか
給与の優先的支払はもとより,退職金の支払
ります。また,取引先・仕入先等の関係者が
や次の就職先の斡旋なども準備すべきです。
多く,不動産等の固定資産が多い場合には,
●図表−3
廃業の行方・顛末
清算に多くの時間を費やす場合があります。
このように,廃業の手続は,会社設立の手
続よりも煩雑です。会社の規模や財務状況に
もよりますが,全ての手続を社長一人で行う
資産超過
健全廃業
清算
晴耕雨読
再チャレンジ
債務超過
不健全廃業
倒産
修羅場
廃業を
決める
のは難しく,司法書士や税理士などの専門家
に依頼するのが一般的です。
5 関係者への対応
廃業の手続をするということは,今まで積
み上げてきた歴史を一つずつ整理していくこ
とでもあります。特に,廃業を決めたら関係
者にいつどのように話をするかはきわめて重
要です。
なぜなら,関係者に廃業の意思を伝えると
いうことは,そこから他の関係者に廃業の話
が伝わるリスクがあるからです。したがって,
そのタイミングを十分考える必要があります。
! 廃業を決断する前に,信頼できる専門家
に相談する。
" 健全廃業は,2∼3年先を目標に時間を
掛けて実行する。
# 廃業計画は,減収増益計画で売上増大よ
りも利益確保を優先する。
$ 廃業計画は,ムダ金を使わず縮小均衡を
図る。
% 廃業の意思を関係者に伝えるタイミング
は,慎重に決定する。
! 取引先(販売先・仕入先)
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