Porteus の紹介と日本語翻訳 おかの [email protected] (@okano_t) はじめに 小江戸らぐでは、イベント (コミケや OSC) で Slax-ja のライブ CD を配布してきました。 Slax-ja は、Slackware ベースのライブ CD ディストリビューションである Slax を、小江戸らぐ 主宰のはとちゃんが日本語化したものです。 はとちゃんは Hiyoco というディストリビューションの自作を目指しており、その模索のため に既存のディストリビューションをいじったりしており、Slax の日本語化もその取り組みの一環 のようです。 Slax は 2009 年リリースの 6.1.2 以来、新バージョンがリリースされておらず、Slax-ja も 6.1.2 ベースのままでした。これに業を煮やしたはとちゃんが別のオモチャを探した結果、2011 年の夏コミでは Porteus というディストリビューションを日本語化した Porteus-ja 1.0 というラ イブ CD を作成・配布することになりました。はとちゃんが別のオモチャに目覚めなければ、こ れからもしばらくは Porteus-ja を配布することになると思うので、思いつくままに記してみます。 Porteus 概要 Slax からの派生ディストリビューション まずは Slax について簡単に説明します。 Slax 公式 web サイトのドキュメンテーション1によれば、Slax6 の特徴として、以下の 4 点が 挙げられています。ひとことでいえば、小っちゃいってことは便利だねっ、ということです。 • 小容量: 改良された圧縮ファイルシステムにより、本体、モジュールとも極小サイズ で、8cm の CD に収まる。 • • 可搬性: AUFS (UnionFS の後継) により、ライブ CD でもいじくりまくれる 多機能: デスクトップに KDE を採用し、便利なアプリケーションがいろいろ入ってい • る 多言語対応: 公式リリースは 28 言語に対応している 多言語対応といいつつ日本語には対応していないので、オリジナルの方向性を維持しつ つ日本語対応させたのが Slax-ja です。ただし、8cm CD には収まらないサイズになっていま 1 Slax: documentation key features http://www.slax.org/documentation_key_features.php す。 Porteus 1.0 の誕生 Porteus は fanthom 氏らによる Porteus チームが Slax を派生させたディストリビューション です。 当初は Slax remix という名前で、派生ディストリビューションといったものではなく、Slax の カスタマイズ版でした。新しいデバイスを使いたい、あるいは Zen Kernel を使いたい人向けと して、Zen Kernel をメインに、いくつかのソフトウェアの更新などがおこなわれました2。なお、 Zen Kernel は、本家 Linux カーネルに入っていないドライバ等を組み込んだデスクトップ指向 のカーネルです。坐禅を組んだ Tux のロゴが使われています。名称の由来は見つけられませ んでしたので、ご存知の方は教えてください。 その後の Slax remix にはさまざまな変更が加えられましたが、本家 Slax の新バージョンが 一向に出ないこともあったりして、改名して独自のディストリビューションとして、2011 年 6 月 にバージョン 1.0 がリリースされました3。 Porteus という名称は、Portablility と Proteus の合成語です4。 Portability (可搬性) は、そのまんま「小っちゃいって事は便利だねっ」ということです。ただ し、Slax は 8cm サイズの CD に収まることをウリにしていましたが、Porteus では 300MB ほど にまでなっています。 Proteus (プロテウス) はギリシャ神話の海神で、自分の姿を好きなように変える能力を持っ ています。モジュール化によりカスタマイズが容易であるという、Porteus の「柔軟性」をあらわ しているとしています。 64 ビット版と 32 ビット版が用意されています。カーネルは 2.6.38.8、ユーザーランドは Slackware 13.37 ベースです。デスクトップ環境は KDE 系と LXDE が選べます。KDE 系デス クトップは、64 ビット版が KDE 4.6.4、32 ビット版は Trinity 3.5.12 (Trinity は KDE3 系から派 生したデスクトップ環境) と異なっています。これは、KDE4 は古いマシンにとっては重すぎる という判断によるものであり、今後も 32 ビット版を KDE4 に移行する予定はないようです。 基本的な方向性は Slax と同様なので、Slax 利用者で新しいデバイスやソフトウェアを使い たいという人にもオススメのようです。なお、モジュールの形式が Slax とは変わっており、この あたりの互換性はありません。 2 3 4 [Slax-Remix] v01/2.6.32-zen4 ready to download! http://www.slax.org/forum.php? action=view&parentID=54463 Porteus v1.0 announcement (2011/6/20) http://porteus.org/forum/viewtopic.php?t=613&p=4664 'Porteus' as a new name for 'Slax-Remix' project! (2011/01/05) https://porteus.org/forum/viewtopic.php?f=35&t=117 Porteus-ja とは Porteus の 32 ビット版をベースに日本語化したものです。具体的には、かな漢字変換、フォ ント、日本語翻訳、壁紙の追加などをおこなっています。「IPA フォントを 8 ポイントにすると、 ビットマップがきれいに表示される」というあたりにこだわりがあるのだそうです。 2011 年の 8 月例会 (夏コミ 1 週間前) で、はとちゃんから「今試してるけど、まだ動いてな い」という報告があり、その後なんとか動いたので、サークル参加の前日夜から当日朝にかけ て、はとちゃんが泣きながら CD-R を焼いてレーベルを印刷したというシロモノです。 ということで、売り子は詳細を知らないままコミケ本番に臨んだというアレなことになったりし ました。どのぐらいアレかというと、「今回の付録は新しいディストロですよー」などと言って 売っていたものの、「Porteus」の読み方すら知らなかったというぐらいです。はとちゃんによれ ば「ポルテウス」とのことですが、Google 様にお伺いを立てると、別の説もあるようです。 Porteus の今後の予定 Porteus プロジェクトでは、Porteus 1.1 とその後に向けたロードマップを提示しています5。こ れによると、半年ごとのリリースを計画しており、2 回に 1 回は Slackware のリリースに合わせ た追従をおこなった整数番号のリリース (1.0, 2.0, ...)、残りは小数番号のリリース (1.1, 2.1, ...) です。 1.1 のスケジュールスケジュールは、10 月中旬に RC1(カーネル 3.1.0)、11 月中旬に RC2、12 月 6 日に 1.1 リリースという計画となっていました。これに対して 10 月 12 日に RC1、11 月 22 日に RC2 がリリースされましたが、これを書いている 12 月 16 日午前 0 時 (JST)段階では 1.1 はリリースされていません。 Linux カーネル 3.1.x の採用など、1.0 からの変更点の一覧がフォーラムに掲載されていま す6。なお、64 ビット版では KDE の更新がおこなわれており、1.1RC2 では KDE 4.7.3 (11 月 2 日リリース) が採用され、1.1 本番では KDE 4.7.4 (12 月 7 日リリース) が採用される見込みと なっています。一方、32 ビット版では、(Trinity 3.5.13 が 11 月 1 日にリリースされていますが)、 Porteus 1.1 で Trinity の更新をする計画はないようです。 Porteus-ja の今後は? Porteus 本体は半年ごとのリリースを計画しているので、うまくいけば、コミケ開催ごとに新 版を作れるかもしれません。 Porteus 本体の動向が不明ですし、はとちゃんの気分と余裕にもよりますが、Porteus 1.1 が 年内にリリースされれば、これを日本語化した Porteus-ja 1.1 を冬コミまでに作れるかもしれま 5 6 Porteus-1.1 release schedule (2011/9/5) http://porteus.org/forum/viewtopic.php?f=35&t=782 Real time changelog for upcoming Porteus-1.1 release http://forum.porteus.org/viewtopic.php?f=44&t=747 せん。間に合わなければ Porteus-ja 1.0 を配ることになるでしょう。 「日本語化の成果を Porteus 本体にマージしないの?」という疑問があるかもしれません。こ れもはとちゃん次第でしょう。上流へのマージにはかなりの労力がかかりますし、マージ後も保 守を続けなければなりません。はとちゃんは Hiyoco への模索を続けているところなので、 Hiyoco を Porteus ベースで作ると決断すれば別ですが、そうでなければ労力をかけてまで マージする気にはならないかもしれません。 Porteus-ja の翻訳状況 デスクトップ環境では、ふつーに日本語の表示や入力ができます。 ……が、一部メッセージは英語のままです。 これは KDE 翻訳プロジェクトが怠けたわけではありません。Porteus の KDE 系デスクトッ プ環境は KDE そのものではなく、派生品の Trinity であり、Trinity 独自のメッセージが翻訳 されていないため、それらは英語で表示されているのです。また、Porteus 独自のメッセージも 翻訳されておらず、英語の表示となっています。 Trinity について Trinity は KDE3.5 から派生したデスクトップ環境です。 http://www.trinitydesktop.org/ リポジトリーは KDE の SVN リポジトリーにありましたが、11 月 に (3.5.13 のリリースを機 に) 独立した git に移行しました。 http://websvn.kde.org/branches/trinity/ http://git.trinitydesktop.org/ Trinity の web サイトには、Help Wanted! (手助け求む) The Trinity team is currently looking for help in the following areas: (Trinity チームでは現在、以下の分野で手伝ってくれ る方を探しています)として、「Language translation/support」(言語対応と翻訳) と書いてありま す。しかし、翻訳プロジェクトのようなものはなさげです。 配布物では KDE 3.5.10 の翻訳メッセージをそのまま使っています。というか、SVN のソー スリポジトリーには KDE 3.5.10 の配布物 tarball がそのまま突っ込まれていました。git リポジ トリーでは展開された個々のファイル単位に改められていますが、内容は KDE 3.5.10 のまま です。 http://websvn.kde.org/branches/trinity/3.5.13_frozen/kde-i18n/ http://git.trinitydesktop.org/cgit/tde-i18n/tree/ 一方、Trinity のメッセージ原文は「KDE」を「Trinity」に変更するなど、KDE 3.5.10 とは異 なっています。これらは翻訳されていないので、原文のまま表示されるというわけです7。 で、これを小江戸のみんなでなんとかしなイカ? というわけですよ。イベントで CD を配ると きに、「うちのスケベオヤジが一人で作りました」というよりも、「小江戸らぐのメンバーみんなで 作りました」といったほうが、それっぽいじゃないですか。 メッセージの修正方法 「翻訳ってどうやるの?」という向きのために、Porteus-ja 1.0 (Trinity 3.5.12) の現物をもとに 簡単に説明してみます。 KDE3 といえば Konqueror、Konqueror といえば KDE3、というわけで、Konqueror を例にと ります。まずは、すでに翻訳されているメッセージに手を加えてみましょう。 KDE3 系の Konqueror を日本語環境で起動すると、「デスクトップを征服せよ!」というメッ セージが表示されます。これは "Conquer your Desktop!" の日本語訳です。この日本語メッ セージを書き換えてみます。 7 一般的な話として、ソフトウェアが更新されるとメッセージも更新されるため、同様の問題が発生しま す。新規に翻訳するより、原文の更新に合わせて翻訳を更新する作業のほうが大変なこともしばしば です。 メッセージカタログのバイナリー (MO ファイル) は /usr/share/locale/ja/LC_MESSAGES/ 以 下に置かれていて、Trinity はこれをもとに日本語メッセージを表示しています。たとえば Konqueror 用のメッセージカタログは konqueror.mo です。 ここでは、既存の日本語訳を書き 変えてみます。 MO ファイルは人間が読めなさげなバイナリーなので、msgunfmt(1) で、人間が読める形式 (PO ファイル) にします。 % msgunfmt /usr/share/locale/ja/LC_MESSAGES/konqueror.mo mo \ -o konqueror.po PO ファイルの内容はこんなかんじで、原文と日本語訳のセットがたくさん並んでいます。 msgid "Conquer your Desktop!" msgstr "デスクトップを征服せよ!" このファイルを適当に書き換えてやります。 msgid "Conquer your Desktop!" msgstr "デスクトップを侵略するでゲソ!" あとは、msgfmt(1) で MO ファイルを作って、元あった場所にインストールします。 # msgfmt konqueror.po \ -o /usr/share/locale/ja/LC_MESSAGES/konqueror.mo Konqueror を起動しなおすと、PO ファイルを修正したとおり、メッセージが変わります。 MO ファイルを全部書き換えれば、イカっぽい Porteus のできあがりです。なお、Porteus-ja 1.0 に標準で入っている gettext の日本語メッセージは 112,714 個です。 実際にやらなきゃいけないこと Konqueror の例では、既存の翻訳メッセージを書き換えただけなので、このような方法でよ いですが、Trinity 翻訳をまじめにやろうとすると、この方法は使えません。 コメントや未訳メッセージなどは MO ファイルでは失われているので、まじめに Trinity 翻 訳をなんとかしようとすると、メッセージカタログの雛型 (POT ファイル) を作成して作業する 必要があります。 ここでは、Trinity アプリケーションの「ヘルプ」メニューから「About Trinity」(Trinity につい て) を選んだときに現れるウィンドウを例にとります。 さきほど説明したような事情により、英語の表示となっている部分があります。というか、ほ とんど英語になってしまっており、実質的に「バグや要望を報告」のタブしか日本語になってい ません。 KDE 3.5.10 では、このウィンドウのメッセージはすべて翻訳されていました。 この「KDE について」タブ内ののメッセージについて、KDE 3.5.10 のソースの該当部分を 見てみましょう。 KDE 3.5.10 のソース : kdelibs-3.5.10/kdelibs/kdeui/kaboutkde.cpp const QString text1 = i18n("" "The <b>K Desktop Environment</b> is written and maintained by the " "KDE Team, a world-wide network of software engineers committed to " "<a href=\"http://www.gnu.org/philosophy/free-sw.html\">Free Software</a> development.<br><br>" "No single group, company or organization controls the KDE source " "code. Everyone is welcome to contribute to KDE.<br><br>" "Visit <A HREF=\"http://www.kde.org/\">http://www.kde.org</A> for " "more information on the KDE project. "); i18n() の引数がメッセージの原文です。これに対応するメッセージカタログは以下のように なっています。このメッセージカタログにもとづいて i18n() が原文に対応する日本語メッセー ジを返すので、日本語メッセージを表示することができます。 KDE 3.5.10 のメッセージカタログ : kde-i18n-ja-3.5.10/messages/kdelibs/kdelibs.po #: kdeui/kaboutkde.cpp:34 msgid "" "The <b>K Desktop Environment</b> is written and maintained by the KDE Team, a " "world-wide network of software engineers committed to <a " "href=\"http://www.gnu.org/philosophy/free-sw.html\">Free Software</a> " "development." "<br>" "<br>No single group, company or organization controls the KDE source code. " "Everyone is welcome to contribute to KDE." "<br>" "<br>Visit <A HREF=\"http://www.kde.org/\">http://www.kde.org</A> " "for more information on the KDE project. " msgstr "" "「K デスクトップ環境」は KDE チームによって開発され、保守されています。世界中のソ フトウェア開発者のネットワークが<a " "href=\"http://www.gnu.org/philosophy/free-sw.html\">フリーソフトウェア </a>の開発に参加しています。" "<br>" "<br>KDE のソースコードは特定のグループや企業、組織がコントロールしているのではあり ません。どなたでも自由に KDE の開発に参加してい ただけます。" "<br>" "<br>KDE プロジェクトの詳細については <A HREF=\"http://www.kde.org/\">http://www.kde.org</A> " "をご覧ください。" 一方、Trinity 3.5.12 では以下のようになっています。基本的に KDE 3.5.10 と同じですが、 メッセージの原文 (i18n() の引数) が異なっています。 Trinity 3.5.12 のソース : kdelibs/kdeui/kaboutkde.cpp const TQString text1 = i18n("" "The <b>Trinity Desktop Environment</b> is a fork of the " "K Desktop Environment version 3.5, which was originally written by the KDE Team, " "a world-wide network of software engineers committed to <a " "href=\"http://www.gnu.org/philosophy/free-sw.html\">Free Software</a> " "development.<br><br>No single group, company or organization controls the " "Trinity source code. Everyone is welcome to contribute to Trinity.<br><br>Visit <A " "HREF=\"http://trinity.pearsoncomputing.net/\">http://trinity.pears oncomputing.net</A> for more information " "about Trinity, and <A HREF=\"http://www.kde.org/\">http://www.kde.org</A> " "for more information on the KDE project. "); しかし、Trinity 3.5.12 のメッセージカタログは KDE 3.5.10 のままなので、このようにメッ セージの原文が変わると、(そのメッセージに対応する日本語メッセージがないので) 表示が 原文になってしまうというわけです。 文中の「KDE」を「Trinity」に置き換えただけのメッセージもけっこうありますが、この例のよ うに「KDE」のままの部分などもあるので、機械的に s/KDE/Trinity/g と置換すればいいという わけでもありません。 具体的な手順 KDE のような gettext を使って国際化されているソフトウェアでは、通常は PO ファイルの 雛形 (PO の Template ということで、POT ファイルといいます) が用意されており、それを使っ てすぐに翻訳を始めることができます。POT ファイルの内容は PO ファイルと同様の形式をし ていますが、以下のように訳文が空になっており、原文だけが並んでいます。空になっている部 分に訳文を入れれば PO ファイルになるという寸法です。 msgid "Conquer your Desktop!" msgstr "" しかし Trinity では、翻訳プロジェクトが存在しないこともあってか、POT ファイルが用意さ れていません。ソースツリーからメッセージを抽出して POT ファイルを作成するところから始め る必要があります。xgettext というコマンドを使ってメッセージを抽出することができ、通常は make 一発で POT ファイルが作れるようになっています。 Trinity は GNU Autotools を使っており、configure を通さないと Makefile が作れません。 作りたいのは POT ファイルだけなのですが、ファイルを読み解くのも面倒そうなので configure を通してみることにします (Trinity の構築に必要なライブラリー等を全部入れること になります)。 Trinity のソースからの構築方法は、以下のページにあります。 http://www.trinitydesktop.org/wiki/bin/view/Developers/HowToBuild Trinity 3.5.12 の配布物 kdelibs-3-5-12.tar.gz を取ってきて展開します。configure したのち に、admin ディレクトリーにある cvs.sh を実行すれば POT ファイルができます。 以下、Ubuntu 11.04 での作業例ですが、これで合っているのかは激しく謎なので詳しいか た教えてください。 # apt-get install automake libtool kdelibs4c2a libx11-dev $ tar xvzf kdelibs-3.5.12.tar.gz $ cd kdelibs $ cp -pR /usr/share/libtool/config/ltmain.sh admin/ltmain.sh $ cp -pR /usr/share/aclocal/libtool.m4 admin/libtool.m4.in $ make -f admin/Makefile.common $ ./configure --prefix=/opt/kde3 \ --includedir=/opt/kde3/include/kde \ --mandir=/opt/kde3/share/man \ --infodir=/opt/kde3/share/info \ --with-extra-libs=/opt/kde3/lib \ --sysconfdir=/etc \ --localstatedir=/var \ --libexecdir="\${prefix}/lib/kdebase-kde3" \ --disable-rpath \ --with-xinerama \ --enable-closure \ --without-arts $ mkdir po $ sh admin/cvs.sh package-messages 上記ページの説明どおりに configure すると、aRts を要求されますが、すでに Ubuntu の パッケージはないので、--without-arts を追加しました。つーか、ここは Trinity で作業するのが ヨサゲ? これで kdelibs.pot ができあがりますので、KDE 3.5.10 の日本語メッセージカタログ kdelibs.po とマージします。 % msgmerge kdelibs.po kdelibs.pot -o trinitiy-kdelibs.po マージされたメッセージカタログを適当に編集します。 #: kdeui/kaboutkde.cpp:34 msgid "" "The <b>Trinity Desktop Environment</b> is a fork of the K Desktop " "Environment version 3.5, which was originally written by the KDE Team, a " "world-wide network of software engineers committed to <a href=\"http://www." "gnu.org/philosophy/free-sw.html\">Free Software</a> development.<br><br>No " "single group, company or organization controls the Trinity source code. " "Everyone is welcome to contribute to Trinity.<br><br>Visit <A HREF=\"http://" "trinity.pearsoncomputing.net/\">http://trinity.pearsoncomputing.net</ A> for " "more information about Trinity, and <A HREF=\"http://www.kde.org/\">http://" "www.kde.org</A> for more information on the KDE project. " msgstr "" "「Trinity デスクトップ環境」は K デスクトップ環境 (KDE) バージョン 3.5 から派生 しました。" "KDE は、もともと KDE チームによって開発されたもので、世界中" "のソフトウェア開発者のネットワークが<a href=\"http://www.gnu.org/philosophy/" "free-sw.html\">フリーソフトウェア</a>の開発に参加しています。<br><br>Trinity の" "ソースコードは特定のグループや企業、組織がコントロールしているのではありませ" "ん。どなたでも自由に Trinity の開発に参加していただけます。<br><br>Trinity プ ロジェク" "トの詳細については <A HREF=\"http://" "trinity.pearsoncomputing.net/\">http://trinity.pearsoncomputing.net</ A> を" "、KDE プロジェクトの詳細については <A HREF=\"http://www.kde.org/\">http://www.kde.org</A> " "をご覧ください。" MO ファイルにコンパイルしてインストールすれば、こんなふうに日本語表示になります。 一人でやるなら、しこしこ作業すればよいですが、Trinity のような大規模なソフトをみんな でやろうとすると、進捗管理とか提出とかを自動化しないとたぶん死ねます。 さて、どうしよう 勝手にすすめてよいの? KDE や Trinity のライセンスは GPL ですから、ライセンス的には勝手に翻訳してもよいの です。しかし、上流とコンタクトを取らないと、上流が翻訳に配慮してくれなかったりするなど悲 しいことになったりするので8、Trinity プロジェクトには連絡をすべきでしょう。ただし、現在の Trinity プロジェクトには翻訳のための作業基盤 (翻訳作業用のリポジトリーやメーリングリス ト等) が何もない状態なので、下手に連絡すると、「じゃあ、お前がやれ」とかいって全部押し 付けられたらアレだなー、と二の足を踏んでいたりします。 また、もし小江戸らぐ以外で誰かが Trinity 翻訳を手がけていたりしたら、作業が重複して 無駄になったりして悲しいことになるので、そのあたりも確認が必要でしょう。こちらは、2011 年 11 月に開催された OSC2011 Tokyo/Fall で JKUG (日本 KDE ユーザ会) さんがブース出 展していたので、尋ねてみました。 ブース担当者は翻訳をしない人であるという前置きつきでしたが、すでに KDE3 の翻訳は メンテナンスしていないので、Trinity の翻訳にあたって JKUG との調整は不要ということでし た。 いまさら Trinity 翻訳? ただ、JKUG の方からは「でも、いまさら KDE3 ベースなの? KDE4 に移行しないの?」と いった声もありました。Porteus の 64 ビット版は KDE4 に移行していますが、32 ビット版を KDE4 ベースに移行する予定はないとしています9。 問題は、いつまで 32 ビット版がメンテナンスされるかです。小江戸らぐには古いマシンに優 しい環境を好む人が多いと思うので、Porteus-ja を積極的に 64 ビット版に移行するようなこと は当面ないと思います。あとは Porteus 本体が 32 ビット版のメンテナンスをいつまで続けてく れるかです。 なんとなく先が見えている感もあるのですが、せっかく日本語化をしているので、翻訳にも 関心を持ってもらえんかな、と考えています。 余談になりますが、KDE4 でなくあえて KDE3 を使いたい人がいるのと同様に、GNOME でも GNOME3 があまりにアレなので GNOME2 を使いたいという人がいます。GNOME2 か 8 9 *BSD プロジェクトにおける ドキュメント管理 http://people.allbsd.org/%7Ehrs/N+I2005/sato-n+i.pdf FAQ: Do you have any plans for switching the 32-bit edition to KDE-4.x? http://porteus.org/faq.html#21 ら派生した MATE というデスクトップ環境があり、これの README にはなにやら QB っぽい 生物がいます10。ナウなヤングの関心を惹きたければこっちを翻訳した方がいいかもしれませ んが、はとちゃん的には GNOME ってどうなんですか。 Trinity の今後 前述のとおり、Trinity 3.5.13 がすでにリリースされているほか、将来の 3.5.14 や 3.6 等のリ リースも計画されています。 Trinity 3.5.13 では PO ファイルのリポジトリーへの格納形態が変わっており、3.5.12 にくら べると、翻訳のコミットがしやすいかもしれない状態になりました。ただし、内容は更新されてお らず、POT ファイルや翻訳のための作業基盤も用意されていない状態です。 翻訳に関心のある方へ Trinity 以外にも Porteus 関連の翻訳対象はいろいろあります。具体的には KDE4 や LXDE、あるいは通常のユーザーコマンドなどです。これらは Porteus に取り込まれているだけ でなく、複数のメジャーなディストリビューションでも採用されています。Trinity の将来に懸念 をお持ちの場合は、Trinity 以外の翻訳プロジェクトを覗いてみて、自分に合いそうなプロジェ クトに参加するというのもよいでしょう。これらの翻訳プロジェクトのなかには、小江戸らぐメン バーが参加しているところもあるので、翻訳プロジェクトに直接連絡するのが怖ければ小江戸 らぐのメーリングリストや例会で、あるいは翻訳カフェ (なるひこさんの記事参照) などで相談 してみてもよいでしょう。 KDE4 JKUG に翻訳プロジェクトがあります。 http://www.kde.gr.jp/pukiwiki/index.php?TranslationAssignments KDE 開発者メーリングリスト (Kdeveloper) と Wiki で活動していますが、最近はあまり活 発ではないようです。 翻訳作業は、オフラインで PO ファイルを編集する形態です。KDE4 系で現役のブランチは 複数あり、同一のメッセージが各ブランチにあることから、効率的に作業するために翻訳専用 の作業領域を用意して、各ブランチのメッセージを統合したファイルを用意し、これを翻訳する といった工夫をしています。 LXDE LXDE 本家 (lxde.org) に翻訳プロジェクトがあります。 http://wiki.lxde.org/en/Category:Translations Wiki とメーリングリストで活動し、翻訳作業には pootle を利用しています。 10 https://github.com/Perberos/Mate-Desktop-Environment TP (the Translation Project) フリーソフトウェアパッケージの翻訳を集積しているプロジェクトです。 http://translationproject.org/team/ja.html coreutils や bash などの GNU ソフトウェアのほか、いくつかの GNU 以外のソフトウェアの メッセージ翻訳をおこなっています。 メーリングリストで活動していますが、個々のパッケージの翻訳をしている個人の集合体と いったかんじで、全体での訳語統一や査読などはおこなわれていません。 成果物はソフトウェアパッケージ本体に取り込まれており、本体をインストールすれば翻訳 もインストールされるため、環境によっては利用者が意識する必要がないこともあります。 JM (Japanese Manual) プロジェクト Linux 関連のオンラインマニュアルを翻訳・配布しているプロジェクトです。 http://linuxjm.sourceforge.jp/ メーリングリストで活動していますが、最近の活動は活発ではなく、多くのマニュアルが原 文よりかなり古い状態になってしまっています。 翻訳作業はオフラインで roff ファイルを直接翻訳する形態です。個々のパッケージの更新 (原文への追従) は積極的にはおこなわれておらず、やりたい人 (原文の更新に気づいた人) が作業する、といった空気です。 また、ソフトウェアパッケージの開発元へのマージも積極的にはおこなわれておらず、JM プ ロジェクトとして成果物を一まとめにして配布しているのみです。Debian などのディストリ ビューションでは、この一まとまりの成果物をパッケージ化していますが、内容が古くなってい ることから、取扱いをどうするかという議論も一部にあります。 JM プロジェクトの成果物の一部は、Porteus-ja に間接的に含まれています。 Porteus-ja で $ man man すると、man コマンドのオンラインマニュアルが日本語で表示されます。 この日本語マニュアルは JM プロジェクトが翻訳したものです。man コマンドのパッケージ 本体にこの日本語マニュアルが取り込まれたために、日本語マニュアルがインストールされま す。Porteus-ja には、man のほか、shadow, rpm の日本語マニュアルがインストールされていま すが、これらも同様です。ただし、多くのマニュアルは英語マニュアルより古い内容となってい ます。これは、過去に日本語マニュアルがマージされたものの、新しい日本語マニュアルの マージがおこなわれていないことが原因です。 複数の翻訳プロジェクトにまつわる話題 JM の説明で述べたとおり、JM プロジェクトと TP の翻訳対象には関連があります。たとえ ば rpm コマンドでは、 $ rpm --help の結果など、各種メッセージが日本語で出力されますが、この翻訳は TP でおこなわれて います。一方、rpm コマンドのオンラインマニュアルの翻訳は JM プロジェクトでおこなわれて います。同じソフトウェアの翻訳ですが、両プロジェクトはそれぞれ独立して活動しています。 より一般的な話として、Porteus はひとつの OS なので、ドキュメントや翻訳に一貫性を持た せるべきという意見もあるかもしれません。しかし、現在は上述のようないくつかのプロジェク ト (翻訳に関するポリシーはそれぞれ異なる) の成果物をそのまま使っており、全体での訳語 統一などはおこなわれていません。 Ubuntu の翻訳プロジェクトなどではそのような努力もおこなわれており、また Ubuntu と GNOME の翻訳プロジェクトのようにプロジェクト間で連携するような動きもありますが、プロ ジェクトによっては、このような他プロジェクトとの連携に積極的でないところもあります。
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