「人間情報入門 B」(H17.11.4,6 回目授業) 担当 酒井 ヒューマン・エラー ●はじめに ・「エラーが人間存在を脅かす」-エラーが事故に直結し、人間の生命を危うくする ・システムの影響力が質量ともに拡大→エラーによる被害も大きくなる ・エラーはシステム、人間の双方で起こりうる-授業では人間側のエラー ・エラーの低下-ユーザビリティ、ヒューマン・センタード・デザインの重要性 ・授業での問題提起:エラーが起こりにくい機械・システム・社会とは? ※システム≒複数の要素が組織的に統合された設備のようなもの ●システムの分類とエラーの影響 システム種別 例 損害の重大さ 大規模システム 航空管制、原子力発電、医療など 大 業務システム 銀行オンライン、在庫管理、流通など 公共システム 博物館、銀行 ATM、公共サービスなど 創造支援システム 共同執筆、エキスパートシステム、CAD など 小 オフィス・家庭システム ワープロ、ビデオゲーム、教育など ●事例:Therac-25 放射線過剰被爆 ・Therac-25:がん患者に対してソフトウェア制御の放射線治療を行う医療装置 ・1985-1987 年のあいだ、6 名の患者が膨大な過剰被爆。3 人死亡 ・事故の要因-ソフトウェアの設計ミス、システムへの過信 ●人間は機械ではない 人間の得意なこと 創造的な仕事 直観的問題解決 精度の要求が少ないもの 高度なチェック コンピュータの得意なこと 繰り返しの仕事 アルゴリズム的問題解決 高い精度を要求するもの 決まりきったチェック ●一般的な人間の特徴-「完璧人間像」から程遠い ・ 見まちがい、見落としをよくする(知覚系) ・ 物忘れ、記憶違いをよくする(記憶系) ・ 論理展開の仕方を知っていても、論理的に考えない(思考系) ・ すぐに飽きてしまったり、よそに注意を向けてしまう(注意系) ・ 感情のコントロールができなくて、気まぐれ(感情系) など ●自動化システムの問題点 ・ 状況認識力の喪失 ・ システム理解の不十分 ・ 単調、退屈に陥って生じるエラー ・ 危険に対する警戒心の低下 ・ 仕事のやりがいの喪失 ●うっかりミス-意図を行為に移す過程で無意識的に生じた、意図と異なった行為 ・ 意図の明細不足:「マスクを外すつもりが眼鏡を外した」 ・ 状況の分類の誤り:「英語入力なのにかな入力をした」 ・ 部分を共有するスキーマの活性化:「コーヒーを入れるつもりが紅茶を入れた」 ・ 活性化の喪失:「2 階の書斎まできたが何のためにきたか忘れた」 ※スキーマ:行為達成までの定型的な行為系列が表象されたもの ●パニック-何が何やら分からない状態 ・いつもなら絶対しないことを無意識のうちに行う ・例:パソコンがフリーズしたため、パニックになりコンセントを引き抜く ・ 活動水準が最高レベルに達する。行為が速く強力 例:「火事場の馬鹿力」 ・ 行為の方向は一方向的で、後戻りしない。方向を間違うと命を落とす パニックへの対処法 ・ パニック状態から速く脱出 ・ パニックの発生を想定したメンタルトレーニング ・ 対処すべきことを表示 例:非常口の表示 ●交通事故 ・ 人間、自動車、環境の3つの要因が事故に関係-人間がもっとも大きい要因 ・ 例:夫婦喧嘩→仕事に出かけるのが遅れる→攻撃的運転(スピードの出しすぎ) →カーブで前方の遅い車の危険さを判断できない→衝突事故 -いくつかの因果関係の連鎖により事故が起こる ・事故の主な直接的原因 認知エラー:わき見、アルコール、疲労、雨、交通混雑、携帯電話の利用など 判断エラー:甘い予測、低い主観的な危機感、運転経験 操作エラー:ペダルの踏み間違え、ハンドル操作 参考文献 ・ 海保博之・田辺文也 1996『ヒューマン・エラー』新曜社 ・ サラ・バース著、日本情報倫理協会訳『IT 社会の法と倫理』ピアソン・エデュケ ーション ・ 高木修監修、蓮花一巳 2000『交通行動の社会心理学』北大路書房 小レポートテーマ例 ① 日常生活で、ヒューマン・エラーにより危険が起こりうると思う設備・製品と、 その理由を指摘せよ ② 日常での「うっかりミス」の例と、なぜそのミスが生じたかの理由を述べよ ③ 交通事故を少なくする工夫を、人間、自動車、環境のいずれかの観点から述べよ
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