Paper 社会システムデザイン序説 An Essay on Designing Social Systems Shoei Komatsu Graduate School of Engineering, Shizuoka University E-mail:[email protected] 小松昭英 静岡大学大学院、工学研究科 Abstract Our country and also the World are meeting with various and difficult problems being widely well-known. In other words, it is urgently requested to design new social systems, while designing social systems has not been studied and tried. Therefore, it is tried to define social systems and to develop design methods as the start point of long way to establish the social systems design. 1 目 次 1. はじめに 2. 日本が、世界が直面する課題 3. 社会システム 3.1 システム 3.2 システムアーキテクチャ 3.3 デザインサイエンス 3.4 社会情報アーキテクチャ 3.5 製造業のサービス化 3.6 社会システム 4. 社会システムデザイン 4.1 PDCA サイクルの構築 4.2 産業システムアセスメント 4.3 行政システムアセスメント 4.4 社会システムデザイン 4.5 考察 5. まとめ 2 1. はじめに 環境問題あるいは資源問題を契機にして「持続可能な社会」の構築が求められている。今や、 情報技術の発達とその工業化は、世界経済を一気にグローバル化する契機になり、新興国の発展 を招くことになった。そして、世界全体が地球規模で共通の課題に直面することになった。 そして、2007 年における米国のサブプライム問題は、瞬く間に全世界に金融危機を波及させ ることになり、現存する社会システムそのものに 100 年に一度といわれる大転換をもたらすこと になった。 今や、個人、企業、政府、国際機関の社会システムを担う主体の意識転換が求められているの である。そして、我々が 20 世紀に手にすることになった情報技術は、新しい社会システムを構 築する有力な手段となり、過去には考えられなかった「社会デザイン」をも可能にするものと思 われる。 2. 日本が、世界が直面する課題 小宮山宏(2007)[1]によると、 ① 地球温暖化は世界中で共通に共通に進行することだが、そこにヒートアイランドという 都市の問題が相乗的に作用して、日本は世界で最も激しく温暖化の影響を受けている。 ② 日本は恒常的に資源不足問題を抱えている。もともと、日本には天然資源が少ない。エ ネルギー資源は、石炭の自給率がほぼ 100%に達したことがあったが、石油の時代に入 ってから急速に低下し、1979 年以降はほぼ全量を輸入に頼っている。 ③ 廃棄物処理も大きな問題になっている。産業活動の膨張、生活の多消費化に伴って廃棄 物は著しく増え、ごみの埋め立て場所に困るという状況になってから久しい。 ④ 環境汚染の問題も、水俣病などが記憶に新しく、大気汚染の問題も太平洋ベルト地帯で 顕著であった。 ⑤ さらに、高齢化と少子化という問題もある。日本は出生率が世界でも相当に低いのであ る。高齢化の進展も、世界一と言ってよいであろう。 ⑥ 教育も、さまざまな問題を抱えている。日本が最も誇るべき初等中等教育も多くの懸念 が表明されているし、高等教育にも多くの問題を抱えている。 ⑦ さらに、財政破綻も、中央、地方ともに深刻化している。 また、Friedman(2008)[2]によると、世界もまた難問を抱えている。温暖化とミドルクラスの 急激な勃興によるフラット化と人口過密化が重なったことで、具体的にはエネルギー供給が逼迫 し、植物と動物の絶滅が加速し、産油国の独裁体制が強化され、天候異変が加速されている。そ して、次の 5 つの重要な問題について述べている。 ① 供給が細りつつあるエネルギーや天然資源への需要の増大、 ② 産油国と石油独裁者への莫大な富の集中、 ③ 破壊的な天候異変 ④ 電力を持つものと持たざるものを二分して起きているエネルギー貧困、 ⑤ 動植物が記録的な速さで絶滅し、生物多様性の破壊が急速に進んでいること 3 そして、アメリカがこの問題を解決する最善の方法は−アメリカが「好調」を回復することで あるが−リードする立場で世界の問題を解決することだ。すなわち、ツール、システム、エネル ギー源、倫理を創り出し、世界をもっとグリーンにして、持続可能なやり方で成長させるという 仕事は、私たちの生涯で最大のやりがいのある課題になるとしている。 また、人口ついては、1953 年に 26 億人だった世界の人口が、2053 年までに 90 億人を越える といい、都市については 1960 年には 100 万人を越える居住人口を持つ都市が 111 だったのが、 1995 年には 280 都市、2008 年には 300 都市以上になっており、居住人口が 1000 万人を越える 巨大都市は、1975 年の 5 都市から、1995 年の 14 都市に、2015 年には 26 都市になるといわれ ている。すなわち、一極集中と過疎化という社会構造の急激そして広範な変化を問題にしている わけである。 さらに、世界を震撼させている金融危機について、El-Erian(2008)[3]によると、2008 年に入 ると、金融危機は真にグローバルな広がりを持つようになった。無差別爆弾よろしく、世界各国 を直撃し重大な結末をもたらしている。つまり「システム内でおきる通常の危機ではなく「シス テムそのものの危機」なのである。危機が変質するにつれ、個人投資家、企業、政府、国際機関 はじめ、国際経済・金融システムを担う主体がそろって 100 年に一度の大転換と認識しなければ ならない。 そして我国では、鬼塚英昭(2009)[4]によると、トヨタに代表される製造業の急激な業績悪化の 背景には、構造的に低迷する内需から外需への収益構造の急速なシフトがある。すなわち、各社 とも縮む国内市場を補う狙いで急ピッチで海外展開を加速、その結果として設備の償却負担や人 件費が膨らみ、急激な外部環境の変化に弱い経営体質となっていたことを浮き彫りにした。高品 質の輸出で外需を取り込む、ものづくりニッポンの基本戦略が岐路にさしかかっているのである。 3. 社会システム 3.1 システム Luhmann(1984)[5]によれば、システム理論というのは、システムと環境の差異を手がかりと して世界を描写しているといい、システムを図 1 のように示すように分類している。 図 1 システム システム 機械 有機体 社会システム 心理システム 相互作用 組織 社会 さらに、ミクロ経済学の一部門である産業組織論では、新庄浩二(2003)[6]によれば、産業組織 分析の枠組みとして、図 2 に示す枠組みを提示している。この枠組みは、産業組織と公共組織と 役割分担とその行動指針を的確に示すものともいえよう。しかし、この産業組織をシステムとし て扱うには、その環境を設定する必要がある。さらに、産業組織を核とする社会システムを考え 4 図 2 産業組織分析の枠組み 公共政策 独占禁止政策 構造規制 行動規制 (合併・カルテル規制 など) 産業組織 基礎的条件 (B) 需要−価格、所得弾力性、代替、成長、その他 供給−規模の経済性、統合の経済性、技術、その他 市場構造 (S) 売手−買手の集中度、参入障壁、製品差別化、 垂直統合度、多角化、その他 経済的規制 公益事業規制 個別業法による規制 社会的規制 公的企業 市場行動 (C) 価格政策、製品政策、広告・宣伝、研究開発、 設備投資、ライバル企業との協調・結託、対抗戦略 産業政策(税・補助金) 行政指導 市場成果 (P) 価格−費用の関係、利潤パターン、内部効率 配分効率、技術進歩、分配の公正など るとすれば、公共組織をシステムの内部にいれるか、システムを取り巻く環境とするかは、一つ の分岐点になるものと考えられる。 3.2 システムアーキテクチャ システムデザインの成果物をシステムアーキテクチャと考える。システムアーキテクチャにつ いては、最近は情報システムについて多く議論されている。たとえば、Rozanski & Woods (2005) [7]は、3 つの基本的概念を指摘している。すなわち、ステークホルダ、アーキテクチャビュー、 そしてパースペクティブである。 まず、ステークホルダはシステムにより影響を受ける人々である。 次に、アーキテクチャビューは、システムが持つ一つの側面(アスペクト)に関する記述で、 時代を超越した問題解決原理「分割し統治する」の適用である。多数の異なるビューを通してシ ステムを考察することにより、複雑なアーキテクチャを分割して理解、定義および伝達すること ができる。アーキテクチャビューの例としては、システムの機能的構造や情報構造、配置環境な どがある。しかし、問題はどのビューを使用し、それぞれどう作成するかを決定するという問題 がある。 しかし、ビューによるアプローチは、システム構造の定義には適しているが、品質特性を考え る場合にはあまり役に立たない。アーキテクチャが要求される品質特性を示すことを保証し、ア ーキテクチャとして品質特性についての知識を体系付ける方法が必要である。それが、アーキテ クチャパースペクティブである。 3.3 デザインサイエンス 松岡由幸(2008)[8]は、デザインサイエンスはデザイン知識とその知識を用いる「デザイン行為」 で構成され、 「デザイン知識」は、科学的知識や人類共通の概念などの「客観的(Objective)知識」 と個人、集団、あるいは地域などに特有の知識で一般性がない「主観的(Subjective)知識」で構 成される。 「デザイン行為」は「デザイン実務」 「デザイン方法」 「デザイン方法論」 「デザイン理 論」の 4 つの階層で構成されるとしている。 この定義によると、前述の Rozanski & Woods (2005)[前出]のビューはまさに主観的知識 に対応し、種々のビューに対応した客観的知識により、デザイン実務が行われるものと解釈 5 図 3 デザインサイエンスの枠組み される。 3.4 社会情報アーキテクチャ 1990 年代半ばに、インターネットが導入されて以来、プロシューマ(生産消費者)(Toffler (19 80))[9]としての作業空間あるいは生活空間が一変し、さらに進化を続けている。Benedict(1994) [10]の図 3 に示す予想は当っているといえよう。 そして、我々の物理的な作業空間は企業のオフィスであったり、家庭であったり、自動車であ ったりしても、同一の仮想作業空間で幾つかの業務を処理することになるものと考えられる。ま た同様に、我々の物理的な生活空間も各種情報、生活必需品、エンターテインメントの閲覧ある いは調達に欠かせないものになっている。それを助長しているのが物流システムの整備である。 図 4 将来の仮想作業空間群 行政仮想 作業空間 個人仮想 作業空間 公共仮想 作業空間 企業仮想 作業空間 個人仮想 作業空間 大学仮想 作業空間 企業仮想 作業空間 個人仮想 作業空間 大学仮想 作業空間 行政仮想 作業空間 行政仮想 作業空間 6 なお、最近は GPS 携帯、店内カメラ、街頭カメラで人の動きが、ETC で車の動きが把握でき るようになってきた。すなわち生活空間の情報化も進みつつある。 すなわち、社会情報システムは社会の仕組み自体を変える原動力になっているといっても過言 ではなかろう。同時に、社会を一つのシステムとして扱える条件が整ってきたともいえよう。 3.5 製造業のサービス化 情報技術の地球規模の浸透とそれに伴うグローバリゼーションの進展、新興国の経済成長 は、資源の取り合いと地球環境の悪化を招いている。一方、特に先進国では、第一次、第二 次産業の全産業に占める割合が縮小し、それに代わって第三次産業の割合が拡大し、このよ うな三段階の経済発展を前提にした、産業の伝統的な三分法自体の意義が問われる状況を迎 えている(Teboul(2006)[10])。 我国の製造業も、成長の限界に達している。供給過剰が常態化するなかで、モノづくりに 専念していても儲からない。資本市場からは、モノづくりの効率化を超えて、経営そのもの の効率化が厳しく問われている(小森哲郎、名和高司(2001)[11])。 より具体的には、モノづくりを付加価値や利益に結びつけるためには、大きく分けて価値 創造と価値獲得の2つの要因が必要である。価値創造は、さらに技術・商品価値と価値創造 プロセスに分類される。一方、価値獲得で重要なのは差別化・独自性である。市場における 重要な補完的資源としては、販売チャンネルとブランドの 2 つが重要で、商品のイノベーシ ョンを実現しても、この 2 つがなければ、価値獲得は難しい(延岡健太郎(2006)[12])。 一方、情報化が進むにつれて、いままでの閉じていたビジネスモデルは、業界全体の価値 連鎖の構造変革によって開かれたものへと移行している。これは製造業がサービス事業化、 すなわち産業プロセスリデザインを検討する上で見落とせない重要なテーマである。すなわ ち、情報の活用とサービスの相性がよく、情報という飛び道具を活用することで、質の高い サービスを提供できることが多いのである(小森哲郎、名和高司(2001)、前出)。あるいは、 「ITの発達なども背景としてサービスのビジネスモデルのシステム化は地域や国境を越 えて移転することが容易になっている」(経済産業省(2008)[14])。 新たにビジネスモデルを生んだ背景にある産業構造の変化の方向を踏まえなければ、我国 が誇る現場力、美的センスなどをグローバルな競争の中で活かし豊かさに転嫁することが出 来ない(経済産業省(2008)、前出)。 3.6 社会システム 既に述べたように、先進国では今後ますます産業社会に占める第三次産業の割合は増加する一 方で、しぱらくは発展途上国では第二次産業が発展し、資源の取り合いと地球環境の悪化が起こ るであろう。すなわち、持続可能な社会を構築するためには、人類の生産・消費活動とそれらを 取り巻く自然環境との調和を図らざるを得ない。すなわち、人類の生産・消費システムのシステ ム論的な環境は自然環境ということになる。 そして、各国がそれぞれ異なる自然環境を有しているということは、各国が異なる生産・消費 システムを持たざるを得ないことになる。ただし、地球環境という共有環境については各国が協 同して維持・持続させる義務を負うているといえよう。 一方、社会発展の原動力は企業の生産活動である。生産するものが「モノ」であるか「サービ 7 ス」であるかを問わないが。そして、その生産活動の原動力は今や消費活動である。なぜなら、 大量生産方式の確立は過剰生産を日常化し、サービス化の良否が消費の動向を左右するようにな ったからである。 さらに、社会発展の方向性を左右するのが行政といえよう。現実の行政がその役割を十分果た しているかどうかは別にして。さらに、行政には生産消費者に良好なサービスが求められている。 そうすると、社会システムの中核は、図 4 に示すように、産業と行政が占めることになろう。 図 5 社会システム 自然環境 生産消費者 産 行 業 政 そして、産業と行政間の役割分担は、ほぼ前出の図 2 に示すものに等しいと考えられる。 また、Rozanski & Woods (2005)[前出]のいうアーキテクチャビューとしては、化学工学的視 点から、 ・物質ビュー(廃棄物も含む) ・エネルギービュー(自然エネルギーも含む) ・情報ビュー ・資金ビュー(エコノミックビュー) などが、さらに品質特性などのアーキテクチャパースペクティブとしては、 ・クオリティ・オブ・ライフ(QOL) などが考えられる。 4. 社会システムデザイン 社会システムデザインは、上述の種々のビューとパースペクティブにもとづいて行わなければ ならない。また、システムデザインとしては、その成果すなわちアーキテクチャの定義も明確に しておく必要がある。とりあえず、ビジネスアーキテクチャの一つのビューであるエコノミック ビューについての現時点までの研究成果を以下に述べる(筆者(2009),[14])。 4.1 PDCA サイクルの構築 冒頭にあげたように、現在国の内外を問わず、解決困難な課題に直面している。しかも、これ らの課題は何れも何らかの解決方法があるというわけではない。しかも、生産消費者の QOL は 経済的条件も含め、現状あるいはそれ以上に維持しなければならない。 すなわち、我国が「ものづくり」を立国の手立てとする以上、産業特に製造業の維持発展が不 可欠であり、しかもそれは個々の企業努力により行われることになる。もちろん、そのための社 8 会的条件の整備は行政が実現しなければならない。 そうなると、前途が不透明な現時点では、産業であれ、行政であれ、積極的で柔軟な施策、す なわち社会システムデザインが求められていることになる。すなわち、そのためには PDCA サ イクルの構築とステークホルダである生産消費者の合意が不可欠である。 4.2 産業システムアセスメント 従来、産業特に製造業の投資活動に当っては、設備投資の事前の経済性評価、すなわち評価 方法、評価指標についてはね国の内外を問わずほぼ合意されているといえよう。しかし、情報投 資については、不可能視されても合意されているとはいえない状況である。しかも、事後評価に ついては、設備投資であれ情報投資であれ、殆ど研究もされていない状況といえよう。唯一の例 外といえようが、その事後評価例を表 1 に示す(筆者(2009)[前出])。 ただし、この表は、東京証券取引所第一部上場の製造企業の 2007 年度の業績を業種別に集計 したものである。なお、その他製造業に所属する任天堂は飛びぬけた業績をあげているので別枠 にしてある。また、米国では任天堂はソフトウェア業に分類されており、売上世界第三位の企業 として格付けされている。業種分類については再考の余地がある。 また、半数弱の業種が投資利益率が負値であるということは、過剰投資をしているとも考えら れるし、逆に法人税が高すぎるとも考えられる。法人税の低減と消費税の増加が議論される根拠 を示しているともいえよう。 表 1 全製造業の業績、2007 年度 全製造業 (2007年度) 正味利益 投資現価 正味現価 正値 No. 業種名 社数 百万円 百万円 百万円 比率 1 非鉄金属 23 3,191 4,170 858 0.391 2 鉄鋼 33 5,126 13,626 (2,834) 0.333 3 石油・石炭 7 5,998 8,511 1,072 0.429 4 電気機器 49 2,377 9,682 (3,184) 0.506 5 機械 104 1,493 2,379 110 0.462 6 繊維 32 879 2,070 (330) 0.250 7 窯業 28 1,460 5,487 (1,740) 0.321 8 精密機器 24 1,169 2,227 (116) 0.420 9 その他製造 40 (13) 2,457 (1,442) 0.301 10 化学 136 953 4,030 (1,396) 0.184 11 輸送用機器 62 4,309 14,214 (4,249) 0.032 12 ゴム製品 12 824 7,770 (3,716) 0.167 13 食品 63 368 3,804 (1,847) 0.095 14 金属製品 32 113 1,369 (684) 0.219 15 パルプ・紙 10 (585) 11,971 (7,585) 0.000 加重平均 655 1,649 5,533 (1,592) 0.270 任天堂 48,495 149 48,409 資産 正味現価利益率 比率 全投資 設備 情報 0.026 2.494 2.967 (0.473) 0.017 1.181 0.673 0.508 0.144 0.771 0.160 0.612 0.283 0.699 0.067 0.631 0.110 0.432 0.330 0.102 0.097 0.167 (0.951) 1.118 0.027 0.023 (0.016) 0.039 0.156 (0.069) (0.376) 0.307 0.243 (0.217) (0.005) (0.216) 0.066 (0.328) (0.318) (0.010) 0.036 (0.338) (0.345) 0.007 0.056 (0.437) (0.380) (0.057) 0.082 (0.517) (0.379) (0.138) 0.064 (0.530) (0.243) (0.287) 0.009 (0.587) (0.523) (0.065) 0.098 0.077 (0.026) 0.103 0.369 325.683 3.932 321.751 注 正味利益=税引後利益(5年間実績+8年間予測値(実績平均値)) 投資額=年額換算投資額(平均値) 正味現価=年額換算正味現在価値(平均値) 資産比率=前期末ソフトウェア資産/前期末機械装置資産(平均値) 正味現価利益率=正味現在価値/投資現在価値(平均値) また、情報投資利益率が設備投資利益率を平均的には凌駕しているのは、まさに情報時代の到 来を示しているといえよう。すなわち、更なる情報化を進めるための何らかの行政上の処置が望 ましいことを意味しているとも考えられる。 さらに、我国が誇る自動車産業が所属する輸送用機器業が負の正味現価比を持つ低業績グルー プに属しているのも意外である。これは、大企業を頂点とする系列化によるものであるとすると 9 我国製造業ひいては産業界の抱えている問題を示しているともいえよう。 なお、本来であれば、産業システムの業績の 1 部は生産消費者には賃金として、行政には税金 として分配されているのであるから、それらを加えたものが、社会システムにおける企業業績と して計算されなければならない筈である。 4.3 行政システムアセスメント 行政システムアセスメントを前述の産業組織論的分析を行うとすると、行政の公共政策が産 業活動の支援あるいは抑制の効果を評価することになる。そして、その一つの評価方法は、エコ ノミックビューに基づいて、産業システムの業績を行政システムの業績に置き換えて評価するも のであろう。 既に、上記のエコノミックビューにもとづく産業システムアセスメントの結果示唆された、法 人税の低減、情報化の促進、業界構造の検討という問題は、行政システムアセスメントの結果と 同等とすることも考えられる。 なお、米国ではエネルギー資源の枯渇対策として、また自然環境の保全対策として、自然エネ ルギーの活用が不可避となり、その不安定な出力を吸収する次世代送電網、すなわちスマートグ リッド(日本経済新聞(2009)[16])の準備に着手したと報じられている。すでに述べたように、 情報化は社会の仕組み自体を変えるだけでなく、産業と行政の関りあいにも変化を与えることに なる可能性を否定できないであろう。 いずれにしても、行政システムアセスメントの方法については、組織的な検討が必要である。 4.4 社会システムデザイン まず、社会システムデザインは、少なくとも物質ビュー(廃棄物も含む)、エネルギービュー (自然エネルギーも含む)の 2 つのビューによるアーキテクチャを明らかにすることから始める 必要がある。この 2 つのアーキテクチャは、それぞれが冒頭にあげた、我国あるいは世界が当面 している課題と密接な関係があると考えられることからも必要である。 情報ビューも、エネルギーだけでなく、物質ビューと同様に、あるいは両方のビューとの関連 も含めて、そのアーキテクチャを明らかにする必要がある。 まず、これらのビューの作成方法から検討する必要がある。 4.5 考察 Samuels(1987)[17]によると、エネルギー産業に限定されたものではあるが、我国における国 家との関係について、歴史的には国家は企業家精神に富んでいたにも関わらず、ライバル、パー トナーのどちらでもない。西ヨーロッパの国家は主として生産者であり、民間企業のライバルで あることもある混合経済とは異なっている。すなわち、ヨーロッパでは国家が公共の利益という 名のもとで、資金を投じてその市場のチャンピオン(大企業)を育ててきた。一方、日本では民 間企業を公的な財政支援によって援助し、立て直してきたのである。 さらに、市場の隅々まで浸透している日本の国家はほとんど常に民間の利害に順応し、民間企 業は市場のコントロールを維持しながら、管轄権は国家に渡すという術を習得してきた。国家の 管轄している市場の秩序を自分自身で維持しながら、民間投資家は絶えず国家と交渉しながら変 化の激しい資本主義の発展に対する一つの解決策を見出してきた。 10 すなわち、この見解が妥当だとすれば、この論文が一つの基準としている産業組織論的な社会 システムについての認識、すなわち、行政管轄下の産業主導型の社会発展という認識も妥当のよ うに思われる。もちろん、社会システム全体、産業システム、行政システムの認識について更な る検討が必要であることは間違いないが。 5. まとめ 我国あるいは世界は種々の課題に当面している。また元々、産業革命以来の情報革命が到来し てたうえに、昨年来それも原因の一つと思われる金融危機に見舞われている。まさに社会システ ムの変換期を迎えている。すなわち社会システムのリデザインの必要が高まっているといえよう。 しかし、社会は意識的にデザインされてきたものではなく、またそのデザインは機械装置の設 計とは全く異なるものでもある。したがって、簡単に設計方法が見つけられるというものでもな いが、この研究により多少なりとも社会システムについての輪郭らしきものと、そのデザインの 方法に一つの道筋らしきものが付けられたと考える。このような研究が始められる契機になれば 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