ハードディスク基板製造工程用洗浄剤

活躍する三洋化成グループのパフォーマンス・ケミカルス
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ハードディスク基板製造工程用洗浄剤
山口俊一郎
当社機能性薬剤研究部ユニットチーフ
[ 紹介製品のお問い合わせ先 ]
当社情報・電材本部電子材料産業部
われわれがほぼ毎日のように使
8
用するパソコン(以下PC)や、ク
(見込み)
ラウド化が進むデータサーバーに
ディスクドライブ
(以下HDD)
が内
蔵されている。
「情報化社会」とい
う言葉が示すように、近年、取り
6
4
)
扱う情報量は急激に増えており、
HDD出荷台数 億(台
は、情報記録媒体として、ハード
それに伴ってHDDも大容量化さ
れてきている。PC用のHDDを例
2
にとっても、最近では1TB(1
TB=1000GB)を超えるような
HDD内蔵PCも市販されるように
なっている。
HDDの用途別比率(出荷台数ベ
ース)は、ポータブルPC(ノート
0
2007 2008 2009 2010 2011 2012年
(出所:インフォメーションテクノロジー総合研究所)
図1● HDD 出荷台数の推移
ついて紹介する。
たアルミ製の2種類がある。 PC)向けが32%、デスクトップ
ハードディスク基板製造工程
HD基板の製造工程を以下に説明
PC向けが23%となっており、PC
HDDの内部は図2のようになっ
する。HD基板の製造工程を大き
用途で半分以上を占めている。そ
ており、円板状のディスクが情報
く分類すると、基板を研磨して平
のため、近年はPCの出荷台数の
記 録 媒 体 と な るHD基 板 で あ る。
坦な基板に仕上げる工程(サブス
増加に合わせて、HDDの出荷台
この基板上に形成された磁性層に
トレート工程)と平坦化した基板
数も増えてきている。図1にHDD
磁力を使って情報を書き込む。
に磁性層を形成する工程(メディ
出荷台数の推移を示す。2011年
HD基板は、ガラス製と表面を
ア工程)の2つの工程からなる(図
は、タイの洪水による影響を受け
NiP(ニッケル‐リン)
でめっきし
3参照)
。
て単年としては数量減となったが、
2007年以降は順調に成長を続け、
2012年は2007年比で約40%増
の約7億台となる見込みであり、
HDD市場は今後もこのペースで
成長が期待できると考える。
本稿ではHDDの中枢を担うハ
ードディスク基板(以下HD基板)
に関して、その製造工程を説明し、
その工程で使用する当社洗浄剤に
図2● HDD 内部
三洋化成ニュース ❶ 2012 秋 No.474
〈サブストレート工程〉
基 板
(ガラスまたはアルミ)
粗研磨
洗 浄
精密研磨
洗 浄
梱 包
ケミクリーンPR
ケミクリーンPR
スラリー
スラリー
▲
基板
▲
超音波洗浄機
スポンジ
〈メディア工程〉
洗 浄
スパッタリング
潤滑膜形成
バーニッシュ
HD基板
図3● HD 基板の製造工程
サブストレート工程は、図3の
板の研磨くずが基板上に付着して
ーニッシュして突起物を切り取る。
とおり、研磨処理と洗浄処理の繰
おり、これらを除去することが洗
最後に、潤滑油を塗布してHD基
り返しである。この工程では、ガ
浄処理の目的である。粗研磨し精
板が完成する。
ラス製またはアルミ製の基板を、
密研磨に移る前と精密研磨後サブ
2段階の研磨により平坦化させる。
ストレート基板に仕上げる前に、
用洗浄剤
すなわち、第1段階で粗い研磨材
この洗浄処理を行う。最終洗浄工
情 報 記 録 容 量 の 増 大 に 伴 い、
程を終えたサブストレート基板は、
HD基板が高記録密度化されてお
ム、アルミ基板では主にアルミ
乾燥して梱包された後、次のメデ
り、従来と比べて、基板製造時に
ナ)
を用いて粗研磨した後、第2段
ィア工程へと進んでいく。
管理が必要なパーティクル(研磨
階で細かい研磨材(主にコロイダ
メディア工程は、サブストレー
粒子や研磨くず)のサイズが小さ
ルシリカ)を使用し精密研磨する
ト基板を再度洗浄して、基板上の
くなっている。そのため、各HD
ことで、平坦な基板(サブストレ
異物を除去する工程から始まる。
基板メーカーでは基板の性能・品
ート基板)が得られる。それぞれ
この工程で基板のクリーン度を高
質向上を目指し、日々工程の改良
の基板研磨処理後には、研磨に用
くし、基板上にスパッタリングし
検討が行われている。これまでは、
いた研磨材や、研磨で発生した基
て磁性層を形成した後、表面をバ
HD基板製造時の条件等の軽微な
(ガラス基板では主に酸化セリウ
基板と汚れの隙間に入り込み
汚れを引き剥がす 研磨材
薬剤(油分) 研磨くず
ハードディスク基板製造工程
乳化・分散させ基板への再付着を防ぐ
ケミクリーンPR
きれいになった基板
①洗浄前 ②浸透・剥離 ③乳化・分散・再付着防止 ④すすぎ後 基板
図4●研磨処理後の HD 基板と当社洗浄剤の洗浄メカニズム ( 模式図 )
三洋化成ニュース ❷ 2012 秋 No.474
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ハードディスク基板製造工程用洗浄剤
調整で対応できていた場合が多か
ったが、近年は求められる管理の
レベルが非常に高くなっているた
め、製造条件の調整だけでは対応
するのが難しくなってきている。
したがって、洗浄剤メーカーに対
表 1 ●当社の代表的な HD 基板製造工程用洗浄剤
品 名
用 途
ケミクリーン PR‐403
ケミクリーン PR‐403F
ケミクリーン PR‐025
ガラス基板
アルミ基板
ケミクリーン PR‐029
特 長
酸化セリウム、シリカ等の研磨材と研磨くず
の洗浄性に優れる
アルミナ、シリカ等の研磨材と研磨くずの
洗浄性に優れる
して、より洗浄性の高い洗浄剤の
開発が求められるようになってき
当社独自開発の界面活性
剤を添加することで、添加
していない場合と比較し
て研磨材をさらに負に帯
電させることが可能
0
た。
以下に、高洗浄性を有する当社
クリーンPR』シリーズの使用法に
ついて説明する。
サブストレート工程における粗
研磨および精密研磨後のガラス基
ゼータ電位
のHD基板製造工程用洗浄剤『ケミ
−10
−20
研磨材
(コロイダルシリカ)
−30
(mV)
−40
当社独自開発の界面活性剤を
添加した場合
板またはアルミ基板を模式的に表
したものを図4に示す。それぞれ
の基板上には、粗研磨および精密
研磨で使用した研磨材や研磨で発
−50
−60
0 2 4 生した基板の研磨くずが付着して
いる。粗研磨後のパーティクルの
6 pH
8 10 12 図5●研磨材(コロイダルシリカ)のゼータ電位と pH の関係(当社測定)
サイズは1μm程度であるのに対
るパーティクルの基板への再付着
場合はゼータ電位がマイナス(負)
し、精密研磨後のものは、非常に
防止の2つの機能の組み合わせで
に大きくなることがわかる。ゼー
小さい(100nm以下)ため除去し
ある。第1の機能は、洗浄剤が基
タ電位が±0mVとなるpHは等電
にくい。洗浄前のメディア工程の
板表面をわずかに溶解させ(ライ
点と呼ばれる。等電点周辺のpH
基板上も同じような状態であるが、
トエッチング)
、パーティクルを
領域では、表面電荷が中和され、
サブストレート工程と比べて、汚
基板表面ごと基板から剥離するこ
粒子間の静電反発が小さくなるた
れの種類も多く、加えて研磨材お
とである。基板に対するエッチン
め分散性が低下し、粒子は凝集あ
よび研磨くずの管理レベルが高い
グ性に関しては、洗浄剤の使用濃
るいは基板に付着しやすくなる。
ため、さらに高性能な洗浄剤が要
度や洗浄温度によって基板のエッ
また洗浄剤は一般的にアルカリ性
求されている。それぞれの洗浄工
チング量がどのように変わるかを
であるが、剥離したパーティクル
程において、これらのパーティク
考慮して、洗浄剤を製品設計して
を純水で洗い流すときに、pHが
ルを基板から除去することが、本
いる。
一時的に中性付近まで低下し粒子
工程で必要な洗浄剤の機能である。
次に第2の機能は、剥離したパ
表面の電位(ゼータ電位)が等電点
当社の『ケミクリーンPR』シリ
ーティクルを基板に再付着させな
に近づくため、基板に再付着しや
ーズは、界面活性剤、キレート剤、
(コ
いことである。図5に、研磨材
すくなる。
酸・アルカリ等から構成される水
ロイダルシリカ)のゼータ電位と
当社が開発した界面活性剤は、
系洗浄剤である。表1に当社の代
pHの関係のグラフを示す。ゼー
①剥離したパーティクルに吸着し、
表的なHD基板製造工程用洗浄剤
タ電位とは、粒子表面の荷電状態
表面をさらに負に帯電させ、静電
を示す。当社洗浄剤の洗浄メカニ
を定量する際に用いられる尺度で
的反発力を高める、②吸着層を形
ズムは、図4に示したとおり、①
ある。図5のグラフから、pHが強
成して立体反発力を高める、とい
ライトエッチングによる基板から
酸性領域の場合ではゼータ電位は
。
う特長を持つ
(図6参照)
の剥離、②独自の界面活性剤によ
ほぼ±0に、強アルカリ性領域の
また、当社の『ケミクリーン
三洋化成ニュース ❸ 2012 秋 No.474
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ハードディスク基板製造工程用洗浄剤
前述のとおり、HD基板の性能・
品質向上のために、洗浄剤の開発
パーティクル
は重要である。当社はより高性能
な洗浄剤を開発していくだけでな
く、洗浄工程および周辺工程も含
めた製造プロセス全体を通しての
界面活性剤吸着層 最適な洗浄剤と、その使用方法の
提案を行い、ユーザーのHD基板
負電荷
の品質向上に対するニーズに応え
ていく。
ところで、当社は高いクリーン
度が必要な洗浄剤は、これまで国
基板
内の京都工場で製造し、国内・海
外のユーザーに供給してきた。し
図6●当社界面活性剤の機能
か し な が ら 図 7 に 示 す よ う に、
HD関連メーカーは近年、東南ア
日本
5%
ジア地区に密集し、この地区に洗
東アジア
(台湾、中国)
15%
浄剤市場も集中している。また、
HDDの高性能化に伴い、その工
程用洗浄剤に求められるニーズも
多種多様かつ高度なものになって
きており、そのニーズに対する迅
東南アジア
(マレーシア、
シンガポール、
タイ)
80%
速な対応も求められている。そこ
で、当社では関係会社のサンヨー
カセイ(タイランド)リミテッドに
クラス1000レベルのクリーン設
備をもつ本格生産設備を稼働させ
生産体制を強化した。今後は当社
図7●地域別 HD 基板生産枚数比率 (2011 年、当社推定 )
グループ全体のネットワークを生
PR』シリーズは、上記のエッチン
‐403F』は『ケミクリーンPR‐
かし、ユーザーニーズに速やかに
グ性、再付着防止性等の洗浄性に
403』の高品質グレードで、精密
対応できるグローバル体制を作り、
関わる基本的な機能が優れている
研磨後の洗浄にも対応できる。一
汎用的な洗浄剤から大容量化時代
だけでなく、ユーザーのさまざま
方、
『ケミクリーンPR‐025』や
のHDDに対応したクリーン度の
な製造プロセスに適応できるよう
『ケミクリーンPR‐029』は、サ
高い高性能洗浄剤まで、幅広い製
に、基板の表面荒れ、高温・低温
ブストレート工程のアルミ基板洗
での安定性、泡立ち等の要望にも
浄用に適したアルカリ性タイプの
対応している。
洗浄剤であり、アルミナ、コロイ
『 ケ ミ ク リ ー ンPR‐403』 は、
ダルシリカ、NiP研磨くず等の洗
サブストレート工程のガラス基板
浄性に優れている。
洗浄に適した酸性タイプの洗浄剤
現在、さらに高い洗浄性が要求
であり、酸化セリウムやコロイダ
されるメディア工程の洗浄剤につ
ルシリカ、ガラスくず等の洗浄性
いても開発を進めている。
に優れている。
『ケミクリーンPR
三洋化成ニュース ❹ 2012 秋 No.474
品を効率良く開発・提供していく。