ハゲを科学する 利明 （もり としあき） 大阪府立大学 先端科学 イノベーションセンター 男は壮年期をすぎると 自分の頭髪が気になる 森 イにいったときに、どうみ ても三十才ぐらいにしかみ えないのに、頭の頂上付近 だけまるで皿をのせたよう になっている子供づれのカッ プルをみかけました。結婚 前からあのようだったのか 結婚してからなのか、まあ そんなことは聞いてみない と分かりません。京都大学 理学部で動物行動学を専攻 した竹内久美子氏によると、 ふつう女はハゲた男を︵浮 気の相手として︶選択する ことはないということでし サイエンティストの目 ⑧ 男は壮年期をすぎるとそ ろそろ自分の頭髪が気になっ てくるものであります。まっ たく気にならない人もいる にはいますが、そういう人 はごくまれです。西洋人の 中には思春期から急速に頭 髪を失う人もいるので病気 じゃないかと心配になりま すが、当の本人にとっては 余計なお世話でしょう。か つて筆者が新婚旅行でハワ 続 (2) ２００８年１２月９日(火) 本庁ニュース 第４６０９号 た︵竹内久美子﹁男と女の 進化論﹂から︶。そこまで はっきり云われると心臓に グサっとくることもありま すが、まあ黙ってきいてお くことにします。 ハゲの進行にＤＨＴ と いう物質が影響 男が思春期をむかえる頃 にヒゲ面になるのはテスト ステロンという男性ホルモ ンの働きによるものです。 ある程度年齢をかさねると 今度は頭がハゲてくるわけ です。昔から﹁男性ホルモ ンが多い男は毛深くてハゲ やすい﹂と云われています。 しかしアメリカの皮膚科医 ・ハミルトンの調査によれ ば、男性ホルモンがなんら かの形でハゲの進行を手伝っ ていることは確かだが、男 性ホルモンの多い少ないと いうことは、ハゲには直接 影響しないということでし た。それはどういうことか 新潮文庫 と云うと、男性ホルモンと は別のジヒドロテストステ ロン︵ＤＨＴ︶という物質 がハゲの進行に影響を与え ていることが分かってきた からです。 ＤＨＴは５αリダク ターゼの働きで作られる テストステロンは毛髪を 太くする作用がある一方、 ＤＨＴは皮脂腺と毛乳頭に 作用して毛髪が十分に成長 することを妨げる作用があ ります。そのためＤＨＴが 薄毛の原因になっていると 考えられているのです。Ｄ ＨＴは５α︵アルファ︶リ ダクターゼという酵素によっ てテストステロンから作ら れる活性型の男性ホルモン の一種です。それならば５ αリダクターゼの働きを阻 害してやれば薄毛やハゲを 防げるのでないかというこ とで薬が開発されました。 しかしせいぜい二十％程度 の人にしか育毛効果がみら れず、逆に性機能障害の副 作用が問題になるとのこと。 この薬を服用することで精 力が減退したり体力が落ち るようなことになれば、ハ ゲが多少改善したからといっ ても意味がありません。 全米ハゲ頭協会のスロー ガンは﹁神は公平である。 ある人々には髪の毛を、あ る人々には脳をお与えになっ たのだから﹂。﹁ハゲ頭は 大いなる知性の賜物﹂と自 慢するハーバード大学の教 授もおられます。まああま り神経質にならないのが良 いのではないでしょうか。 ５αリダクターゼの働 きを阻害する物質は ところで５αリダクター ゼの働きを阻害する物質が いくつかあることが知られ ています。アルコールもそ の一つです。ということは 毎日アルコールを摂取すれ ばこの酵素の働きを抑え、 ＤＨＴの生成が少なくなる のでハゲを抑制できる？こ れは酒飲みにとっては朗報 かもしれません。そのほか 身近なものとしては緑茶や アロエ、みかんの皮などに も５αリダクターゼの働き を阻害する効果があるそう です。 ︵ もり としあき ︶
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