小沢鋭仁勉強会 第 15 回創造経済研究会 演 題 講 師 「2002 年の政治経済の行方」 雑誌編集長 日 場 時 所 高 野 孟 平成14年1月29日 全日航ホテル グロ−リ−の間 氏 高野でございます。先ほど、今の真紀子・宗男騒動の話が出ておりましたが、こ の2人の対決は、もう、真紀子さんが外務大臣になったその日から始まったわけです。い わゆる外務省の中の北方領土2島先行返還という側に鈴木さんがくみしていて、それを追 いやるような主流派寄りの人事を田中真紀子さんが断行したということから、そもそも始 まっているそうです。 先日、根室に行きまして、建設業者の社長さんも何人かおられる席で、 「宗男さんはどう して2島返還なんだろうね」って言ったら、 「そりゃあ決まってるじゃないですか。早く2 島だけでも先に返してもらって、向こうに行って公共事業をやろうってことですよ」と言 うんですって。分かりやすい解説だな。 あの人は北海道ではそれこそ「ミスター5%」で有名で、あれだけ有名でどうして捕ま らないのかと思うぐらい有名ですね。事務所に公共事業のプロがいるんです。で、今回は ちょっと勘弁してくださいなんて言おうもんなら、工事の使用明細書を持ってこいって、 こう、ダーッと見て、 「お前、このコンクリートの量はこうじゃないか。ここでこの金、こ うなるじゃないか。この鉄筋は、お前、1本多いじゃないか。こうやって、こうやって、 儲かってるじゃないか、お前」とやられるんだそうです。 だけど逆の場合もあって、これはもうかんないわ。今回はいいよって言って、その代わ り次回は 10%取られるっていうようなことが行われていて、そういうことで何十億円か稼 いで、その大半が野中さんに回っている。 今の橋本派は青木さんと野中さんの、何と言いますか二頭体制みたいになっております けれども、青木さんは竹下さんの集金マシンをそのまま引き継いでおりますから、全国広 く浅く方式の組織を多分2つとも引き継いでいるんだと思いますが、野中さんは鈴木さん から上納金を取っているという、こういう関係で、だから、鈴木さんがああいうやりたい 放題をやって、自民党の中でもなかなか抑えることができないというのは、やっぱり野中 さんが背景にあって、鈴木宗男と戦争すると野中と戦争することになる。これはもう、ず っと闇世界のほうまでつながっちゃうようなお話になってまいりますので、まあ、なかな か難しいんだと思います。 そういうわけで、宗男さんという人は、その5%方式を海外に拡張しようということで 外務省に取り付いたということで、恐らくODAをめぐって、アジア・アフリカなどでや って歩いているに違いない。そういう彼のビジネスにとって、このNGOという存在は誠 に迷惑千万、こういうことなんだと思います。 これは本当に国辱もので、自民党がこんな男を何とかできないというのは、まさしく構 造改革の第1項目に、こういう鈴木宗男をたたき切るというふうなことを掲げなければい けないんじゃないかと思いますが。 さて、本日は 2002 年がどうなるかというお話なんですが、少なくとも前半は、国際的に も国内的にも悪い材料が出尽くすということじゃないかと思っております。そして、あと は舵取り次第ということになりますけれども、後半に向かって反転、少しいろいろなこと 1 が上向きになっていくのかどうか、そこはまさしく、これは世界も日本もですけれども、 舵取り次第というようなことではないか。 そういうあたりが今年前半から真ん中ぐらいまでのところで問われる。厳しい分かれ目 が来る。そこで舵取りを間違えると、 さらに奈落の底ということにもなりかねないという、 非常に際どい場面が来るのではないかなという感じで、大ざっぱに見ております。 世界のほうは、言うまでもなく引き続きアフガン情勢を軸にして動いてまいりますが、 既にアフガン情勢は、アメリカにとって半ば泥沼化していると言って過言でないと思いま す。何よりも、現地でビンラディンが捕まらない。いない。私は初めからいないに決まっ ていると言っているんですが、ああいう超一流のテロリストが、米軍が何万人もやってく るのは分かっていて、洞穴の中にじっと座って待っているわけがない。 そういうふうに想定することがおかしいわけで、とっくに国外に行っている。脱出経路 はどうかと言うと、カシミールとの国境方面からカシミールに入ってもいいし、カシミー ルには彼は大拠点を持っています。今、インド人のテレビジャーナリストが書いた『カシ ミールから来た暗殺者』という小説が角川文庫で新しく出ていますけれども、それをお読 みになると、次、恐らくテロリスト問題というのはカシミールに行くんではないか。 そのカシミールというのはどういうことで、そういうアフガニスタン以上の過激派テロ リストの巣窟みたいになっているのかということが、よくお分かりになると思います。 私は初めから、空爆が始まったころから、そっち方面にもう行っちゃってるんだろうな というふうににらんでおりましたが、結局、米軍はしらみつぶしに洞穴をのぞいて歩くと いうことは諦めまして、何千だか1万だかある洞穴を、とにかく探さずに爆撃して潰して いくという、洞穴だけではなくて、いそうな都市のアジトとかいうようなところも、分か る限りみんな爆撃していくということで、 昨年末以来、 空爆が一段と強化されております。 で、そういうことをやっても、恐らくビンラディンは捕まらないであろうと。 ところが、国内にいるという前提でこの軍事作戦を行っておりますもんですから、捕ま らない限り帰れないというジレンマに陥ってしまいます。問題は、昨年末以来の空爆強化 によって、既にアフガニスタンの一般市民の死傷者が 6,000 人を越えました。すなわち、 ワールドトレードセンターの犠牲者、死傷者を超える一般人の被害が出ている。報道によ っては、既に1万人に達しているという言い方をしているレポートもあります。 これはもう1つの限界を超えたということで、このことがこのまま続いていきますと、 周辺イスラム国の反テロ同盟からの離脱ということが起こりかねないという状況でありま す。さらに、ビンラディンが捕まらないという苛立ちもありまして、アメリカがイラク空 爆に打って出るという可能性が次第に強まっているというふうに考えなければいけません が、これはやってしまいますと、本当に泥沼に入っていくということになると思います。 ラムズフェルド国防長官は、初めからイラクが怪しいということで、空爆論ですが、それ に対してパウエル国務長官は怪しいぐらいで空爆ができるかと言って、1人でこれを止め ている状態がもうずっと続いております。 2 アメリカの世論と言いますか、論調は相当激しく、イラン空爆、行け行けどんどんで、 大手の新聞の幾つかもそのことを主張し、さらにそれらの新聞の中で目立っている保守派 の論調は、もうこの際アメリカはきっぱりと帝国主義の立場に立って、アフガニスタンの みならず、イラン、イラク、シリア、スーダン、ソマリアなど、いわゆるテロリストをか くまっていると思われる国々を直接軍事占領して、 植民地化するべきであるという議論も、 大真面目に語られているような状況があります。 イラク空爆に踏み切るということになりますと、 そういう方向に傾いていく。 すなわち、 軍事力によってテロリストを根絶するということに踏み込んでいくかたちになっていきま すが、これはちょっと、地獄への道だろうという感じが私はしております。 ヨーロッパの主要な国々が、既に、イラク空爆には反対であるということを、直接、間 接にアメリカに伝えておりますが、 最後はブッシュが、 「お父さんがあれほど憎んだフセイ ンを僕が殺してやる」みたいな雰囲気があるものですから、やってしまうのではないかと いうふうに見ております。 これが結局何の解決にもならないということは言うまでもないことで、アメリカの中に も少数派でありますが、そもそもテロに対する戦争という手段の発動そのものに反対をす るという論調は、 少数派ながら存在しております。 一番すっきりしゃっきりしているのは、 ノーム・チョムスキーという言語学の大家、MITの教授、元教授かな。 言語学を学ぶ人は、みんなチョムスキー理論というのを学ぶという世界的に有名な方で すが、しかし、この人は政治的社会的にも非常に激しい論評を繰り広げる批評家でもあっ て、ベトナム戦争の時には、それに反対をして投獄されるというようなことまで起きてお りますが、この人が『テロリズムと文化』という著作があったが故に、9.11 以降、アメリ カ、ヨーロッパ、アジア、アラブ等々世界中メディアで引っ張りだこで、何百回も登場し て、その発言の主なものをまとめた本が、文藝春秋で『9.11』という本になって出版され ております。 『9.11/アメリカに報復する資格ははない!』というタイトルの本です。その中でチョ ムスキーさんが繰り返し言っていること。どうしたらテロをなくせるか。簡単だと。アメ リカ自身がテロ国家の親玉であるということを、 アメリカが認めなければいけないという、 誠に今の雰囲気のアメリカで受け入れられそうもないようなことを、堂々と言ってのけて おります。 テロリスト国家の親玉というのは、つまりアメリカが世界中、とりわけアラブ、中東、 中南米、アフリカを含めて世界中で散々人を殺して、恨みの種をまいているじゃないか。 そのことを胸に手を当てて考えることなく、テロ問題が、テロがアメリカに跳ね返ってく るのを防げるはずがないじゃないかということです。 実際、ご存じのようにビンラディンというのは、80 年代半ば、当時レーガン政権のブッ シュ副大統領とケーシーCIA長官のアイデアで、ビンラディンに金を渡して、武器も渡 して、あの山の中に訓練基地をつくらせて、世界 35 のイスラム諸国から 35,000 人のとび 3 きりの過激派をかき集めて、これに訓練を施して、訓練の教官は誰がやったかと言ったら アメリカのCIAの将校とパキスタン軍の将校です。で、彼らをテロリスト、あるいはゲ リラ戦士に育て上げて、ソ連に立ち向かわせた。 その訓練学校、最終的には 10 万人のアフガニスタン以外の人々がそこを卒業して、ソ連 と戦いましたけれども、それを当時はアラブ義勇兵と言い、後に名前を変えてアルカイダ となっておりますが、これはアメリカがお金を出して武器も与えて、訓練の教官まで務め てつくった組織です。ビンラディンはそこの校長先生として、一流のテロリストに成長し ていったという経緯があるわけです。 当時は米ソ冷戦で、ソ連と戦うものはみんな味方ということですが、それにしてもソ連 の介入も悪いけれども、 そこにまたアメリカもパキスタンも中国も、 みんなで手を出して、 アフガンの戦争を一層激しいものにした。それで、そのソ連との戦争、そして引き上げた 後の内戦、通算 20 年間の戦争を通じて、アフガン人 250 万人が死んで、700 万人が難民に なって、その約半分が子どもで、飢えの中にさらされているという。 旧ソ連、アメリカもそうやって絡みこんで、この 20 年間に 250 万人のアフガン人が死ん だということについて、胸を痛めるアメリカ人も日本人もいなかったんです。ここが問題 の焦点なんです。なぜ 6,000 人、ワールドトレードセンターで死んで、それがとても悲し いことだ。とんでもないことだと怒るのかということです。我々の中で映像は、ワールド トレードセンターの、あのビルの崩落する、飛行機が突っ込んでいく、あそこから映像が 回り始めていますけれども、そのテープを 10 年間巻き戻したら、アメリカが一生懸命ビン ラディンを育て上げているという姿が浮かんでくる。 そういうことも含めて、そのアメリカの責任も含めて、何百万の人が死んでいるという 現実があるということです。それで、ビンラディンはサウジアラビアへ帰りまして、1990 年、間もなくサダム・フセインのクエート侵攻が起こりました。1990 年8月1日、ビンラ ディンはそのころ国際的な福祉財団をつくりまして、自分が育てたイスラム過激派がそれ ぞれ帰国していきましたけれども、帰ると就職がなかったり、怪我をしていて病院代が払 えないとかで、その人たちを食べさせる仕事をしておりました。 これがビンラディンの国際テロ組織というものの母体です。で、そこにサダム・フセイ ンの侵略があった。彼はサウジの王様に、元アラブ義勇兵をもう一回集めて、それでサダ ム・フセインに立ち向かおうと、この問題はイスラム内部の問題として決着を付けるのが 正しいんだ、ということを提案いたしましたが、サウジの王様はおびえまくって、アメリ カ軍の派遣を受け入れる。 そのことを、これはビンラディンに限りませんが、イスラムの人々は、白人のキリスト 教徒の軍隊が、イスラムの聖地のあるサウジアラビアを踏みにじったという受けとめ方に なり、それをきっかけにビンラディンは反米に転換するということになるわけです。そう いうことで言うと、今回の事件はその脈絡で言うならば、アメリカが飼い犬に手をかまれ たという以上のことを意味していないわけです。 4 チョムスキーさんが言うのは、そういうことをアメリカ国民はよく知らなければいけな い。9月 11 日にすべてが始まったんじゃない。10 年も 20 年も前から問題が始まっている んだということだと思います。 そのサダム・フセインにしても、皆さんは、8月1日クエート侵攻、ある日突然イラク の凶悪な独裁者が隣の国を侵略した。 そこから映像が回り始めていると思いますけれども、 これも 10 年巻き戻すと、1979 年2月にイランのホメイニ革命というものがありまして、 アメリカがそれまで 25 年間、さんざん石油を買い、武器を売り込み、中東最大の拠点にし ておりましたのが、一夜にしてよく分からないイスラム原理主義というようなものが乗っ 取ってしまう。 この間まで売りつけていた最新兵器が全部ホメイニの手に入って、 そして、 彼が革命の輸出を叫んでいる。 その革命の輸出が、すぐ隣のアフガンに波及して、そもそもアフガンの内戦が始まるわ けですが、この強大なイランをどうやって抑えるか。隣の犬猿の仲のイラクのサダム・フ セインに武器を与えて、イランと戦争をさせよう。このアイデアもレーガン政権の副大統 領ブッシュ、お父さんのアイデアです。当時、国務省はみんな反対。 中東専門家はそんな危ないことをしちゃいけないと言うのに対して、ブッシュ副大統領 が、自分の責任でやるんだということまで言って、サダム・フセインに秘密の武器供給を 押し進める。ミサイルから戦闘用ヘリコプターから、何からかんから。で、イラン軍のほ うが強いですから、イランの動静を知らせるために、アメリカの軍事偵察衛星でイラン軍 の情報をサダム・フセインに提供する。 最初は紙焼きを運んでおりましたけれども、これじゃまどろっこしいということで、バ クダッド郊外に軍事偵察衛星から直接受信できるパラボラアンテナ施設をつくってやると いうことまでやって、そして、 戦争をやっていて石油の輸出がままならないということで、 イラクがだんだんお金がなくなってくると、アメリカは農産物輸出補助金を使って、農産 物輸出というふうに偽装してまで、イラクへの武器輸出を継続したわけです。 その援助はいつまで行われていたか。1990 年6月まで行われていたわけです。クエート 侵攻の2カ月前です。このような全経過は、たくさん本がありますが、例えば、イギリス 人の「フィナンシャルタイムズ」のジャーナリスト、アメリカ特派員の書いた『だれがサ ダムを育てたか』という本に、驚くほどの克明さで書かれております。 そして、そのフセインにしてみますと、10 年にわたってこれだけの秘密の同盟関係を築 いてきたその相手はブッシュ。そのフセインにとって一番のお友達のブッシュが、今や大 統領であって、で、クエートぐらい手を出したってアメリカが文句を言うわけがないとい うふうに増長、 錯覚していくわけですが、 そうさせたのは疑いもなくアメリカなわけです。 ですから、その分だけ逆にブッシュは逆上して、フセインを抹殺しようとする。それが湾 岸戦争であったということです。 ちなみに申しますと、湾岸戦争が終わって今日まで 10 年あまり、アメリカ軍とイギリス 軍の戦闘機によるイラク空爆は断続的にずっと続いています。経済制裁と合わせて、多大 5 な犠牲が出続けております。そのアメリカがけしかけたイラン・イラク戦争の 80 年代、湾 岸戦争をはさんで今日まで、この 20 年間に戦争と経済封鎖によって死んだイラク人は 150 万人です。これも半分が子どもと言われています。 そういうことをどのアメリカ人も、どのと言ってはいけないですね。ほとんどのアメリ カ人はその事実さえ知らない。自分の国の政府の行いも大きな要因となって、イラクとい う国で 150 万人が 20 年間に死んで、 そこにはそれだけ分の恨みや悲しみや怒りが蓄積して いるということを、ほとんどのアメリカ人が知らない。まあ、日本人も知りませんが。 アフガンでは同じ期間に 150 万人が死んでいる。そのことに涙を流した人はあんまりい ないということが、この問題の核心部分だと私は思っているわけです。そして、今また、 さらにアフガンで一般市民の死傷者が増え、イラクに空爆を拡大して 150 万人の上に更に 死体が積まれていくということになったときに、それがアメリカにさらなる跳ね返り方を してこないというふうに、どうして予想できるのかということになるわけです。 実際、アメリカ国内は、皆さん、やや記憶から遠のいておられると思いますが、炭疽菌 ばらまき事件はまだ続いております。昨年末には連邦準備制度のビルにも封筒が届いてお ります。FBIが人員の半分を投入して、分からない。私が恐れておりますのは、炭疽菌 という一番害のない、開けたからといっていきなり汚染するわけでもなし、それで病気に なったからといって薬がないわけじゃないという、こういうものであるうちはいいんです が、これもトム・クランシーという軍事スパイ小説の大家が『合衆国崩壊』という長い長 い小説を書いておりますが、新潮文庫で4冊ですかね。 この小説は、 冒頭、 日本航空のジャンボジェット機がアメリカの国会議事堂に突入して、 大統領をはじめ、ほぼ全閣僚と全国会議員が死んでしまうというところから始まって、そ して、たまたま生き残った副大統領がたった1人で全アメリカ政府を代表して、このテロ と戦いを始めるんですが、すると、たちまちアメリカ中にエボラ熱菌というとんでもない 菌がまかれ始める。アフリカの風土病ですが、内臓という内臓から血を吹き出して死んで しまう。薬はないという。そういう細菌テロのエスカレーションということが誠に懸念さ れます。 さらに原発ですね。9月 11 日に乗っ取られた4番目の飛行機というのがあって、ペンシ ルバニア州の山に落ちましたが、 FBIが 11 月末までにその4機目についての捜査報告を まとめまして、その墜落地点からそのまま真っすぐ、あと 100 キロちょっとでスリーマイ ル原子力発電所。かつて事故を起こして有名な、川の中の島にある原発です。で、4機目 はその原発に突入する予定であった。 報道で、乗客が犯人と格闘しているうちに飛行機が落ちたということになっております が、FBIの報告によりますと、その乗客というのは、犯人の1人を怪しいというふうに マークしていて、尾行していたCIAの工作員だった。異変にすぐ気が付いて、操縦室に 飛び込んで格闘して、結果的に飛行機を落とした。もし、それがなければ、そのままあと 100 キロあまり進んで、スリーマイル原発に突入したであろう。 6 その場合、推定の死者は 100 万人と考えられるというFBIの内部報告だそうです。ち ょうどワシントンの北 150 キロぐらいのところに、広島級原爆が2∼3発落とされたとい う勘定になりますもんですから、そのぐらいの被害になるんでしょう。FBIの、ほぼそ の結論にむかいつつあったときに、10 月 17 日、何者かからアメリカ原子力規制委員会に 脅迫電話がありまして、CNNはそれを信憑性のある脅迫という、おかしな形容のしかた で報道いたしましたけれども、 「この前は手前で落ちて残念だった。次は必ず成功させる」 という脅迫で、以来、今日までスリーマイル周辺は、2つの地方空港閉鎖、上空は飛行禁 止、常時空軍戦闘機によるパイロット照会中という厳戒態勢が続いております。 ペンシルバニア州だけでほかに6カ所も原発がありますし、ちょっと海のほうへ出て東 海岸沿いにはたくさんありますから、むしろスリーマイルに注意を引きつけておいて、ほ かのところが攻撃されるという可能性も大いにあります。 問題は、そういう細菌テロにせよ、原発テロにせよ、そういうテロの恐怖と同居しなが らしかアメリカ国民は暮らすということができない、ということになってしまったという ことです。今まで自分の国の政府が中東で何をしようと、テロリストを育てたり、独裁者 を利用したり、麻薬キングを使ったり、何かいろいろして、要らなくなったら捨てて、刃 向かったら殺すというようなことをやってきたわけですが、世界で何をやろうとアメリカ 本国には跳ね返りがくるわけないと思っておりましたのが、今回の事件で初めて本国にま で跳ね返ってきた。 まあ、私に言わせますと、と言うか、チョムスキー的に言わせますというと、ついに、 そういう世界のあちこちの国々の人々の恨みが、ある臨界点に達して、バケツから溢れる ようにしてアメリカ本国に逆流を始めたという事態だと思います。ですから、アメリカが 力で、武力でもってテロリストを絶滅させようということで、今、アフガンで行われてお りますように、たった1人のビンラディンというテロリストを捕まえるために、既に 6,000 人以上、1万人近くが死傷しているわけです。 そういうことを繰り返していく限り、アメリカ社会のテロの恐怖というものはずっと続 く。ずっと続くというよりも、ますますその恐怖が日常化していくということになるだろ うと思います。さらに、これはアメリカで大議論になりましたけれども、アラブ系アメリ カ人 5,000 人余りを、アラブ系というだけで全国一斉検束いたしまして、尋問を行いまし た。 事件との関わりがあるかとかいう容疑は抜きです。アラブ系である。ちょっと怪しいと いうだけで、全国 5,000 人余りを尋問いたしまして、地方警察の中には、これは明白な憲 法違反、人権侵害であるといって、その政府命令を拒否した警察署もありました。 そういうことがまかり通るというようなことになって、その結果、何が始まっているか というと、世界中からアメリカに夢を求めて集まってきた有能な若者たちが帰国を始めて います。人権侵害に加えて、ビザの更新が非常に難しいということも技術的にはありまし て、さらにテロの恐怖と同居しながらいなければならない。20 世紀のアメリカというのは、 7 世界中の能力のある若者にとって、チャンスを与えてくれて、いわば希望の国でありまし たけれども、その条件が失われつつあるとさえ言って過言じゃないと思います。 私の娘とその仲間も、そういった理由で帰ってきてしまいました。10 年余り、アメリカ で演劇をやるんだという夢を求めておりましたけれども。これは有能でも何でもないんで すが。そうやって帰ってきてしまうという若者がたくさん出ている。のちに、恐らくこの 9月 11 日の事件というだけではなくて、それに対するアメリカの対応というものが、アメ リカの衰退の始まりだったというふうに歴史に記録されるのではないかと、そういうふう に私は見ております。 しかし、こうなっていますが、2002 年前半、悪いことが出尽くすだろうというのは、ま さにそこのところで、そこで、早めにビンラディンが捕まって、ここでアメリカが一歩立 ち止まるといいんですけれども、捕まらないで、そのいらだち紛れにイラクを空爆すると いうようなことになっていった場合に、今言ったような、もう既に半ば泥沼化している事 態が本当に泥沼にはまってしまう。 この問題がいいほうに転がるためには、チョムスキーが言うとおりで、アメリカが帝国 としての行動ぶりというものをやめるということ以外に、根本的な解決の糸口はないわけ ですけれども、そうなる可能性は誠に少ないということです。 イラク空爆になった場合には、小泉さんも相当困ります。今はアフガン事態に対応とい うことで自衛隊の船がインド洋まで行っておりますけれども、これがイラク空爆に横滑り していくということになりますと、自動的に付き合うということはできないということに なってまいります。そうすると、 「すみません、日本のテロ対策支援法ではそこまで想定し ておりませんので、帰らせていただきます」と言って帰ってくるのがですね。 ヨーロッパはそのときにかなり決然と、イラク空爆には反対であるという表明をすると 思います。パウエル国務長官でさえ反対しているわけですから。イギリスは分かりません が、ほかの大陸ヨーロッパ諸国は大体反対だと思います。そういうふうにきっぱり反対だ と言って帰ってくる。これはこれでかっこいいんですけれども、小泉さんにそれができる のかどうか。その覚悟があるのかどうかです。 イラク空爆ということになりますと、 このときこそ本当は、 「日本に憲法的法律的制約が ないといたします」と言うと、このときこそ本当にイージス艦の出番なんです。タリバン はろくな飛行機も持ってない。戦闘機も持ってない。ミサイルも、かつてアメリカが与え たスティンガーという肩に担いで発射する、ヘリコプターを打ち落とすミサイルぐらいし かありませんから、沖で空母が行動しても安全極まりないんです。 けれどもイージス艦というのは空母の横に付いていて、 空母じゃなくてもいいんですが、 一番大事なのは空母ですから、今の最新のやつですと、18 発ぐらい一遍にミサイルが撃ち 込まれたというときに、それを一瞬にして全部とらえて、全部弾道速度その他を瞬間的に 計算して、自分のほうのミサイル発射装置と連動していて、その 18 発を確実に全部同時に はたき落とすという仕掛けなんです。 8 ですから、タリバン相手の今までの戦争で、イージス艦が行くの行かないのっていう話 はこっけい極まりない。何しに行くんだということになるわけですが、イラクに空爆を拡 大した場合には、イラクは戦闘機も持っておりますし、ミサイルも持っておりますし、イ ンド洋上の空母を攻撃しようとするかもしれません。 しかし、 自衛隊がそれをやりますと、 これは完全にアメリカと一緒になって戦争をやるということになりますので、できないわ けですが、そういうわけで、2月か3月にもそういう局面が訪れてくるかと思いますが、 アメリカがイラク空爆に踏み切った場合に、小泉さんはそれでも付いていくのかどうかと いうことが1つ問われるということになってまいります。 国内は、やはり経済がメインテーマで進んでまいりますけれども、これも前半は悪いこ とがみんな出尽くすだろう。そこで、小泉内閣の舵取り次第で反転、上向きになるのかど うなのかということで、大まかに流れていくと思います。 先ほど、デフレ、空洞化というお話も出ましたが、私はこの辺、ちょっと小沢さんと違 うかもしれませんが、そもそも今の不況論というものそのものに、3年も4年も前から反 対しております。不況論というのは、不況であって、不況脱却することが今の日本の最大 テーマであるという認識について反対をしているということです。 確かに不況には違いなくて、それは成長率ということで言ってプラスになったりマイナ スになったりして、一向にはっきりしない。停滞しておるということなんですが、しかし、 私がずっと言っておりますのは、これはいわゆる構造改革派の考えのベースに当たる部分 と大いに関係があると思いますけれども、何だかんだ言っても、日本のGDPはこの4∼ 5年、500 兆円、5兆ドル強というレベルを維持しているんです。 維持しているったって、プラスになったりマイナスになったりしているじゃないかとい うふうに思われるかもしれませんが、それは1%、2%の話で、基本的に 5.2 兆ドルから 5.5 兆ドルぐらいの間でほぼ横ばいで、5兆ドル経済というものが維持されているという ふうにまずとらえるのが正しいんじゃないか。 5兆ドルというのはそんなもんか、だろうと思われると思うんですけれども、全世界の GDP、190 カ国分全部合計して、今、30 兆ドルですから。GDPというのはフローな経 済、経済学者は付加価値の総額というようなことを言いますが、要するに、年々新たに生 み出されるお金で計ることのできる、富の総額ということでしょう。 その、年々生み出される富の総額は全世界 30 兆ドルですから、日本は1国でその6分の 1を担うというポジションを維持しているというふうに、基本的にとらえないと話が始ま らないんじゃないかというふうに思っているわけです。アメリカが4∼5年でざっと9兆 ドルというところでしょう。日本とアメリカを足すと世界のGDPの半分です。このポジ ションに変化はありません。今後とも相当期間にわたって変化はないと思います。 ちなみにアジア経済というと8兆ドルが全体の規模です。日本からずっといってサウジ アラビアまで 25 カ国。日本が5兆ドル。あと人口 10 億を超えるインド、中国を含めて 24 カ国で3兆ドル。5足す3は8で、アジア経済8兆ドルなんです。 9 ですから、ここにも、ちょうどチョムスキーさんが言うように、アメリカ国民が自分の 政府が外でどんなことをしでかしてきたかさっぱり知らないものだから、今回のテロ事件 に、こんなに平和に暮らしている私たちに何をするんだ、この気違いどもが、というふう な怒り方をする。 それと同じような精神構造が日本人にもあるんじゃないかということが、 私の大きな心配の種なんです。 アジアから見れば、世界から見れば、日本というのは雲の上みたい、雲の上なんもんじ ゃなくて、天国のほうに行っちゃっているような方々というふうに見えているのに、その 日本では、みんなが額にしわ寄せて、経済がうまくいかないとか、将来が不安だとかいう 話をして、世界中の人々は、いったい日本人というのは何の冗談こいて、あんなことを言 ってるんだというふうに思っているわけです。 さっきデマンドということがありましたが、消費が足りないという話もありますけれど も、5兆ドル経済のうち6割に当たる3兆ドルが消費です。アメリカが6兆ドルから 6.5 兆ドルぐらいの消費でしょう。人口はむこうが倍ですから、1人当たりの消費というと、 日本とアメリカはまあ大体どっこいというところです。世界最高水準で維持されているん です。伸びていないのは事実だけど、伸びていないから足りないかと言うと、そんなこと はないんです。 発展途上国時代には伸びていないと困るわけで、発展途上国というのは何であるかと言 うと、経済成長率第一主義。今の中国のように、年々10%の成長を目指そうみたいな、経 済の量的拡大を国家目標にするような時代のことを発展途上国時代と申します。日本も 20 年ぐらい前まではそうでした。その時代には、伸びていないということは、足りないこと なんです。 だけど、そこを卒業して成熟先進国、全世界のGDPの6分の1を占めるような超絶成 熟経済国になった今日、経済の量的拡大は国家にとっても、企業にとっても、家計にとっ ても目標ではないわけで、できれば伸びたほうがいいですけれども、そのことは第一目標 ではないという、すなわち右肩上がりの時代は終わっているということであったといたし ますと、消費が伸びないというのは事実であっても、伸びないから足りないかと言うと、 そんなことはないんです。足りないと言ったら笑われてしまうわけです。 昨日、おととい、NHKのテレビでやってましたけれども、難民の子が2人、日がな一 日凍えながら、泥を枠にはめ込んで、ポンとやって、日干レンガをつくるという仕事を 10 歳と8歳かなんか、兄弟が1カ月やって、2人で 40 円の給料です。私は、その不況論を唱 える人に、アフガン難民の前に行って、日本は経済がうまくいかないってことを説得して こいって言うんです。 何を勘違いをしているんだ。そこに大きな落とし穴があるぞ、ということをよく申し上 げているわけです。つまり、私の認識は、日本には徹底的な構造改革に取り組むだけの十 分な体力がある。そのことを恐れるべきではないということです。昨日の日経新聞の社説 が、景気がこんなに悪いのに、内閣支持率が高いのはどうしてかみたいなことで、訳の分 10 からない社説を書いておりました。何も言っていないに等しいようなひどい社説でしたけ れども、それはそうなんですよ。 それは、もちろん景気はよくしてもらいたいと誰だって思っております。けれども、不 況で本当に誰が困っているか。あまり誰も困っていないんです。5兆ドル経済ですから。 だから、小泉人気は高いんです。簡単な話なんです。 それを、政府もマスコミも経済学者も、みんなで不況だ不況だと言って、例えば、失業 率もそうなんです。また失業率が上がった。0.1%上がるごとに、マスコミが戦後最悪を更 新と言い続けるもんですから、それだけ見ていると、 「戦後最悪なのか日本経済は」と思っ てしまうわけです。 だけど、例えば、OECDのホームページをのぞいて、OECDの経済統計というのは 非常に整備されて、各国の統計方式の違いを上手に調整して、各国比較がやりやすいよう になっておりますけれども、OECDの失業率統計というのをご覧になるといいです。少 なくともサミット参加国で日本が最低の失業率です。ヨーロッパにはアイスランドとか、 今、アイスランドなんていうところがITブームで沸き立っていて、失業率2%とか、そ ういうところも幾つか小さい国でありますけれども、ヨーロッパの主要国を取ったら全部 日本より多くて、アメリカもまた日本より多くなりましたけれども、ヨーロッパは7とか 9とか 15 とか、そんなのばっかりです。 主要先進国の中で日本が一番失業率が少ないというふうに認識するしかたもあるわけで す。それを日本国内だけドメスティックにのぞき込むと、戦後最悪という認識に到達をし てしまう。しかも、戦後最悪だとしても数字の上で、その発展途上国時代の食うや食わず のときの最悪記録が 4.7 というわけですが、まあ5%近い失業率。これは本当に飢え死に する人がいたり、一家心中だったりしたわけです。 今も自殺者は多くて、一家心中もありますが、しかし、大体これはバブルに狂って膨ら みすぎたのが、自分で収拾がつかないというような死に方であって、飢えて、食えなくて 死ぬということはない。それどころか、こういう巨大な成熟先進国になりますと、当然の ことながら、古い産業部門から新しい産業部門へと労働力のシフトが日常化するというこ とがあります。 一番極端なのは、シリコンバレーのように転職率、あそこは失業率なんていうことを問 題にする人がおりませんで、転職率という数字が出てまいりますが、大体 30%ですね。10 人に3人は1年のうちに会社が変わる。自分の会社が一発ソフトで大当てをして、ナスダ ックの株価が跳ね上がって、経営者も従業員もみんな株たたき売って大金持ちになって、 じゃあ、会社辞めようって言って辞めちゃったりするようなものも含めて、失業、失業じ ゃない、転職ですが、転職率 30%というのはシリコンバレーの経済の元気を示す指標です。 今の日本の失業が全部それだとは言いませんが、何分の1か半分ぐらいはそういう要因 もあるわけで、それを、その質の違い、貧しい発展途上国時代と、成熟先進国の失業の質 の違いというものを見極めることなく、ただ、戦後最悪、戦後最悪と書き続けるマスコミ 11 というのも、私は頭がおかしいと思っているんです。 そういうことにまた日本人が一喜一憂して、0.1%マイナス。 マイナスと聞くと、 みんな、 もう背筋が寒くなりつつ、それに一喜一憂するという。私はNHKの報道の人にも、朝の ニュースで、昨日のニューヨークの株価っていうのをやめないかって言ってるんです。あ んなこと、誰が関係あるんですか。山の中の商工会かなんかに講演に行って、おじいさん が手を挙げて質問。 「昨日、 ニューヨークの株価が何ドルになって、 どうなるんでしょうか」 って言うから、 「あなた、ニューヨークの何の銘柄お持ちなんですか」って言うんですよ。 「いや、持ってない」って言うから、 「持ってなきゃ心配要らないです」と。日本中がそ うなっちゃってるんです。日経平均株価だって同じです。平均株価が下がったって心配す るんですけれども、本当の投資家は、本当に株やっている人は、平均株価が下がったぐら いで驚かないです。平均株価を逆手に取ってもうけるということを考えるわけで、大体、 そもそも自分の持っている、島田紳助なんか、今、12 銘柄ぐらい持っていますけれども、 彼は自分の 12 銘柄の平均株価をいつもピッピ頭に入れています。 それが投資家というもの です。 持っていない人に限って日経平均株価を心配したり、それで心配し足りなくてニューヨ ークの株価まで心配して、病気だと思うんです、私は。病気状態に陥っている。それは何 だと言うと、やっぱりアメリカがそうであるように、日本が世界の人々から見たらどう見 えているかということが、分かっていないということになるんじゃないでしょうか。 もうちょっと厳密な言い方をいたしますと、日本経済の現状というものを、1つはグロ ーバルな横軸で、世界の中で、あるいはOECDの先進諸国の中で、日本はどのくらいの ポジションにあるんだろうかという、 横から見てみるという横軸が必要ですし、 それから、 もう1つは、歴史軸と言いますか、縦軸で、歴史をよく顧みて、発展途上国を卒業して、 まだ成熟先進国になりきっていない発想とシステムが、そういう過渡期にある日本という とらえ方をして。 そうすると、その縦軸横軸の交点のところに今自分たちがいるんだというふうな認識を いたしませんと、目先の1%下がったの、0.5%上がったのという、堺屋太一なんて一番よ くないと、私は本人に向かっても言っているんですが、そういう話に踊らされる。それは、 世界から見たら、誠にこっけい極まりないようなことになっているんだということではな いかと思います。 ですから、構造改革ができるかできないかというのは、実は、そこのところの認識、基 本的な認識問題ということに結局かかわってくると思います。この何年間も、不況だ、不 況だ。戦後最悪だ、戦後最悪だと言われて、不安におびえている心理が国民の多数を占め ている間に、小泉さんと抵抗勢力の戦いが激突状態に入ってまいりますと言うと、抵抗勢 力は不況であってほしいわけですから、不況だから、亀井静香さんの口癖じゃないですけ れども、弱者救済が必要なんですから、そのために財政拡大も必要と。こういう脈絡の中 で、もう、小泉では駄目だというような声の上げ方をしてくることになるんでしょう。 12 そうなったときに、小泉さんをはじめ構造改革派のほうが、いや、このぐらいの不況で 日本がどうということになることもないんだ。日本には構造改革をどんどん進めていくだ けの体力が十分にあるんだという、 確信を持たせることができるかどうかというところが、 小泉内閣が今年半ばにも倒れるかどうかの、1つの分かれ目が来るんじゃないかなという ふうに私は見ております。 この問題というのは、結局、この数年間の政治のテーマだったわけです。一番これが端 的に現れましたのは、3年半前の、前々回の参議院選挙の後、橋本内閣が退陣。参議院選 挙不調で、そして、急遽自民党総裁選がついさなかに開かれて、そのときに小渕さんは景 気対策1本でいきますというメッセージを打ち出した。それを橋本内閣がふらふらして、 どっちに行こうとしているんだか分からなかったということがあって、それを見ていて、 私はもう景気対策1本でまいりますと言って、実際そのとおりおやりになった。 ところが、あのとき対抗馬だった梶山さんは、そういう小渕の言うような景気対策をい くら積み重ねても、日本は元気になりませんということを断言した。そうではなくて、あ のころ、ちょうど金融国会、夏の終わりから金融国会という、日本発世界大恐慌かみたい なことを無責任な週刊誌が書いている、そういう状況でありましたが、梶山さんは、金融、 そして財政という血液の流れの根本のところ、すなわち心臓部分が壊れちゃっているんだ から手術だと。 小渕さんが言っているのは、日本というのは風邪を引いていて、前の橋本病院は風邪薬 の出し方が足りないから、私はどんどん出しますと。そういうことを言っているわけなん だと。しかし、私の診断では、まあ、このとおりの言葉で言ったんではなくて、私が当時 そういう比喩で解説していたんですけれども、梶山さんが言っていたのは、この日本は心 臓病であって、手術が必要であり、しかも手術に耐え得る体力は十分にあるんだと。自信 を持って断行しようと。 当時マスコミはこれをハードランディング路線と言いましたが、小渕さんがソフトラン ディング路線。まあ、小渕さんの言うように風邪薬をいくら飲んでも、心臓病は治らない んですよ、というのが構造改革派の基本的なものの考え方です。 構造改革とは何かということになりますと、その背景として私は2つあると思っている んです。1つは、これは加藤紘一さんがよく言うことですけれども、冷戦が終わったとい うことによって、世界的な経済構造、産業構造というものが激変と言っていいような革命 的な変化に直面したということですね。 それ以前、80 年代までは、市場経済のクラブメンバーというのは7億人ぐらいだったろ う。それが、東西の壁が崩れて、ソ連とそして中国、まあインドの一部もそうかもしれま せんが、誠に能力があり、教育程度も高い、働く意欲に燃えている。燃えすぎていて日本 の 10 分の1、20 分の1、30 分の1の給料でも夜中まで働く。その覚悟をしている約 20 億人が、突然、市場経済クラブに入ってきちゃったということになるわけです。 このことが、今までの市場経済クラブのメンバーに、今までどおりのやり方では経済が 13 運営できないということを突きつけている。ヨーロッパは、アメリカも部分的にそうです が、90 年代初めにその事態に対応して、構造改革に取り組みました。財政再建を含めたで すね。その当時ヨーロッパの首脳が言ったのが、今、不景気だけれども、構造改革なくし て景気回復はないんだというセリフだったわけです。 あれは決して小泉さんのオリジナルではありません。ところが、日本はそのときに、同 じように冷戦が終わったと、市場経済そのものが激動と言っていいような変化の中にさら されて、そのことによってスローダウンが起きているのに、日本はそのときの景気対策を やっていたわけです。今になってようやく、構造改革ということが 10 年遅れで言われ始め たということになります。 欧米の場合には、基本的にそのことへの対応でありましたけれども、日本の場合には、 もう1つ日本独自の問題というのが重なります。それが、さっきから言っております、今 までの発展途上国型の、明治以来 100 年間の、行け行けどんどん型のシステム。このシス テムの頂点は大蔵省です。財政と金融を一手に抱え込んで、その蛇口をひねくり回して、 日本の血液循環を人工的に行おうとする。 一種、貧しい国がはい上がるための、何と言うんですか、これは、マネーの総動員体制 みたいなやり方でやってきたわけで、で、これが、発展途上国が伸び上がっていく方便と しては、誠にこれはよかったわけですが、しかし 20 年前に1兆ドルを超えて、今や5兆ド ルというような成熟経済国になってまいりますと、結局、突き詰めて言うと、数十人の某 国立大学法学部出身の方々が、蛇口をひねり回して富の再配分をしようなどという途方も ない馬鹿げたことがまだ続いていて、そんなやり方ではもう血液循環が機能しない。 血が全身に回らない。富の再配分がうまくいかないという事態になっていて、そういう 中央集権的な、そして、その中央集権ということの中に、核心は大蔵省のマネーの総動員 体制というものを解体するということが、つまり、日本が本当に発展途上国を卒業して、 成熟経済の時代にふさわしいシステムを再設計する。システムデザインを一新するという 問題なんです。 これが、冷戦が終わったという市場経済そのものの激変への対応ということと、発展途 上国型システムの解体ということが重なり合っているというところに、日本の構造改革の 大変さがあるというふうにとらえるべきなんじゃないかと思っております。 ですから、これは小泉さんにシステムデザインを提示する能力があるのか。私は、もう ちょっとあるんじゃないかと。全部1人で描き切らなくても、もうちょっと、こういう世 の中になるんだというぐらいのメッセージを出すのかなと思って、ずっと見ておりますけ れども、あんまり出てこないですね。 やっぱりあの人は、その3年半前の総裁選のときも、彼は郵政民営化一本やりでやって おりました。これも構造改革には違いないんです。まあ、心臓、今まで発展途上国型の心 臓部分がハート型をしているといたしますと、こっちが金融、こっちが財政で、金融のほ うは、今、解体、自由化に向かっている。少しずつですね。 14 こっち側の財政のほうはどうかと言うと、 郵貯から特殊法人へ約 50 兆近いお金が流れて いく。税から予算へ、省庁縦割り。これが 80 兆からのお金が流れていく、これが2本のパ イプですが、この2番目のところの郵貯という日本最大の銀行をそのままにしておいて、 こっちの金融の自由化だってないじゃないかということがありますし、それから、今、問 題になっておりますように、そのお金の行った先、特殊法人がでたらめ経営で、利子が返 せないようなところさえ出てきて、一般財政の足を引っ張っている。 という意味で、ここんところから、心臓の、梶山さんはこっちの金融のところから、ま ずばっさり行こうというふうに言ったわけですが、小泉さんはこっちの郵貯から特殊法人 へと、このパイプのところからメスを入れるべきだと。しかし、どっちにしても、2人と も心臓病であるという診断は同じだったんです。小渕さんだけが日本は風邪引いていると いう判断だったわけですが。 ですから、小泉さんは構造改革派には違いないんですけれども、結局、あの人は、郵貯 と特殊法人のことしか知らないんじゃないかなという感じが、だんだん私にはしておりま す。さっき申しましたように、この心臓を大蔵省が一手に抑えているというシステムを解 体するんですと。この特殊法人、郵貯はいいです。金融の自由化、国際化は進みます。最 後は、 構造改革というのはどこに行くのかと言うと、 この財政の中央集権的の解体ですね。 これが本当の地方分権ということになっていきますが、そこまでの絵は小泉さんには描け ないんだろうというふうに思っております。 そこが多分、私は今年、この小泉内閣がそういうことで抵抗勢力との戦い、ぎりぎりに なってきたときに、民主党が、そういう小泉では出し切れないような、21 世紀の日本のシ ステムの解体というものを、きちんと分かりやすく、1枚の絵に収まるような分かりやす さで国民に提示することができるか。 小泉はこの辺まで来ているけれども、 これじゃ駄目なんだ。 しょせん自民党との戦いで、 もう終わりになってしまう。本当のシステムデザインというのは、ここまでいくことなん だということを、その先を、シナリオを含めて示すことができるかどうかというのが、民 主党にとってひとつの勝負だろうと。 その辺で、小沢さんのこの政策能力というものが大いに期待をされるということになる のではないかと思います。そういうことで、2002 年というのは、内外共にちょっと、何と か明るくなるでしょうというふうに、 とても言えないような状況が前半進んでいきながら、 しかし、そこで政治の舵取り次第で、後半、光明が差すのかどうなのか。そこは何と言い ますか、無責任なようですけれども、今のところ五分五分としか言いようがないという、 そういう年なのではないかという気がいたします。 15
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