【報告要旨】 中国の決済システム ――企業間信用と借入金との関係に関する試論―― 陳 玉雄(麗澤大学) これまで、中国における企業間信用に関する研究はほとんど、国有企業による「三 角債」の形成要因、 「三角債」の規模および経済に対する影響、企業の債権保全対策に 関するものである。本来の企業間信用の性格、すなわち企業相互間における信用授受 関係、特に受信側にとっての資金調達手段としての側面が重要視されてこなかったと いえる。 本報告は、これまでの国有企業による「三角債」に関する研究を踏まえ、民間企業 による「企業間信用」の信用授受の性格、受信側にとっての「企業間信用」と借入金 との代替関係を論じることを試みる。 国有企業が大きなシェアを占める地域では、市場経済へ移行する中、多くの国有企 業は計画経済期の負の遺産と政府への依存から脱出することができず、経営難に喘い でいた。その金融面においても、財政からの資金供給が打ち切られることによって、 自力で資金を調達することができず、一部の企業は買掛金などの返済ができなくなっ た。これに誘発され、企業間の債務・債権の連鎖的な関係が形成された。これはいわ ゆる「三角債」問題である。 しかし、日本などで見られるように企業による「企業間信用」は、少なくとも一時 的には企業の有効な資金調達手段となりうる。中国においても、私営・個人企業が中 心となる地域に独特な「企業間信用」の仕組みが観察される。これらの地域内におい て、相互協力を容易にするソーシャル・キャピタルが蓄積されてきたため、 「合会」 (無 尽)などの「民間金融」とともに「企業間信用」が中小企業の資金調達手段として活 用されている。このことは、経済システムの移行の完了に向けて、中国における「企 業間信用」の構築に多くの示唆を与えるだろう。
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