資料 - 中村学園大学

目 次
1-1 金融の基本的機能
2008年度金融論[1]
1-2 将来の不確実性と情報の非対称性
第1章 貨幣と金融
1-3 金融システムの機能
1-4 貨幣と決済機能
1-5 マクロ経済と資金循環勘定
中村学園大学
吉川卓也
1
1 金融の基本的機能
2
1 金融の基本的機能
金融取引とは何か?
1 2大研究対象 ①貨幣②金融
2 金融とは、「資金のやりくりや融通=資金の貸借取引」
(1) 資金(貨幣)とは、「財(商品)やサービスなどの経済資源
を手に入れることのできる力=購買力」である。
(2) 金融取引は「異時点間取引=現在のお金と将来のお金
の交換契約」である。
(3) 時間は金融取引の本質的な要素の1つである。
3 金融とは、「明文化された証書の売買」であるともいえる。
(1)明文化された証書は、
– 借り手側からみれば借用証書IOU(債務証書)、預金証書、
手形、債券、株式など多種多様な証書=金融負債
– 貸し手側からみれば金融資産
時間要素と金融(金融の資金仲介機能)
1 異時点間取引としての金融のメリット
(1)消費者(家計)にとってのメリット
① 将来の所得で返済を保証することで、現在可能
な収入・貯蓄額を超えて支出できる。
→住宅ローン、消費者信用などの消費者向け信用
② 当面支出する必要のない家計の余裕資金=貯
蓄を運用し、将来消費可能な資金を増やせる。
→銀行預金、郵便貯金、投資信託、証券投資など
3
1 金融の基本的機能
4
1 金融の基本的機能
(2)企業にとってのメリット
不確実性要素と金融(金融のリスク配分機能)
① 基本的には家計にとってのメリットと同じメリットがある。
1 時間を導入し将来を考慮すると、将来のある時
点で起こりえる状況は確定しない(不確実であ
る)。(図1-1)
② 投資計画の実施から将来得られる収益によって返済
を保証することで、外部資金を調達して、内部資金(手
持ち資金)の制約を超えて有利な投資計画を実行でき
る。
2
金融は、現時点で資金的余裕をもつ経済主体(=黒
字主体)から現時点で資金的に不足している経済主体
(=赤字主体)への資金の流れを仲介している。
→貯蓄と投資との間の仲介機能=金融仲介機能
5
2 したがって、経済主体(企業や家計)が将来に
関する意思決定をおこなうとき、不確実性に起
因するリスクを考慮しなければならない。
3 つまり、時間とリスクは金融の本質的要素であ
る。
6
1
1 金融の基本的機能
1 金融の基本的機能
借用証書には、不確実性に起因するリスクの配分を
決める契約という側面がある。
(1)信用リスク(貸し倒れリスク)
資金貸借契約において、借り手が返済できなくなると
いうリスク。貸し手が一部あるいは全部負担している。
(2)市場リスク
株式や国債など市場性のある(市場で売買、流通す
る)IOUの保有者が直面する市場価格の変化というリ
スク。保有者が負担している。
(3)保険リスク(純粋リスク)
病気や寿命、事故・火災や地震被害などから生じる損
害や損失のリスク。生命保険や損害保険など。
4
5 金融のリスク配分機能とは?
各経済主体は、証書の売買を通じて、それぞれが望ま
しいリスク負担の程度や組み合わせを選択していると
考えられる。この借用証書の売買は、金融取引である。
すなわち、金融取引により、リスクが各経済主体間で
配分されている。
金融のリスク配分機能は、最近、重要性が高まってい
る。
6 条件付き請求権とは、IOU、より厳密には証書に対化
されている貸し手の権利のこと。将来の状況に応じた
支払を請求できる権利であることを強調したいい方。
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8
1 金融の基本的機能
1 金融の基本的機能
金融の基本的機能のまとめ
金融取引を阻害するもの
1 現在と各将来時点・状態間における資源の移
転を可能にすることである。
1 取引費用
2 すなわち金融は、その時その時に限られていた
取引=現物取引(スポット取引)の制約を超え
て、将来時点の各状態に応じた取引(資源の移
転)を可能にする。
3 (専門)金融機関や金融市場から構成される金
融システムは、2のような異時点間取引を可能
にする役割を担っている。
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1 金融の基本的機能
貸借契約を結ぶ際の事務処理(契約書作成な
ど)の費用。
2 金融リテラシー・コスト
高度化・複雑化した金融商品を正確に理解する
ための費用。
↓
「取引費用>金融取引から得られる利益」とい
う状態では、金融取引はおこなわれない。 10
2 将来の不確実性と情報の非対称性
3 金融取引が本質的に含む将来の不確実性
2種類の将来の不確実性
=信用リスク、市場リスクの高まり
1 デフォルト・リスク
4 情報の非対称性
貸し手は、借り手が返済不能かどうかといった
借り手に関する情報を借り手ほどもっていない。
このような取引当事者間で保有する情報が同
一でないこと。
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将来、借り手が返済履行できなくなるかもしれ
ないという借り手の不確実性。信用リスク、貸
倒れリスク。
2 流動性リスク
貸し手の不意の出費などにより、貸出資金を捻
出できず、資金ショートが起きる貸し手の不確
実性。
12
2
2 将来の不確実性と情報の非対称性
2 将来の不確実性と情報の非対称性
不良な借り手かどうかわからない。
情報の非対称性
↓
情報の非対称性が引き起こす2つの問題
優良な借り手にも不良な借り手にも均一な貸出条件
(たとえば金利)で貸し出す。
1 逆選択
貸借取引契約を結ぶ際、貸し手が借り手の返
済能力や返済意図をよくわからないことから生
じる問題。契約前(事前)の問題。
↓
優良な借り手にとっては不利(高金利)、不良な借り手
にとっては有利(低金利)な貸出になる。
↓
有利な貸出を受ける不良な借り手ばかりになる。
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2 将来の不確実性と情報の非対称性
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2 将来の不確実性と情報の非対称性
2 モラル・ハザード
4 解決方法
契約を結んだときは優良な借り手でも、貸し手
が借り手の行動を常時監視(モニター)できない
ので、借り手が返済努力を怠り、貸し手の犠牲
で借り手自身の利益や効用を高める行動をとる
かもしれないという問題。契約後(事後)の問題。
3 逆選択もモラル・ハザードも金融取引にはマイナ
スの影響を与える。
(1)審査、モニタリング
貸し手が、効果的な事前審査や事後の監視(モ
ニタリング)によって情報を収集・分析して、借り
手の質や行動をチェックする。
(2)情報費用
貸し手はそのための費用を負担しなければなら
ない。
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2 将来の不確実性と情報の非対称性
確認問題1
5 この情報費用が高ければ、円滑な金融取引は
おこなえない。
1.1 金融取引に関する次の記述のうち、正しくない
ものはどれか。
↓
A 金融取引は異時点間での資金取引である。
B 金融取引は条件付請求権の売買にかかわる取
引である。
情報費用の削減
↓
C 金融取引機会の有無にかかわらず、各主体は
投資額と貯蓄額を一致させなければならない。
情報の非対称性問題の解決が必要。
D 金融取引の機会の拡大は経済全体としての資
源配分を効率化する。
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3
金融取引表
1.2 以下の金融取引表に示されている経済活動で
リスクの問題について次の問に答えなさい。
① A氏は10億円の給与をもらって、全額貯蓄した。
② A氏は10億円の貯蓄をすべて銀行に預金した。
資産
③ 株式会社L社は銀行から10億円借り入れた。
④ 株式会社L社は借り入れた10億円で事務機器
を購入した。
(1)A氏、L社、銀行にとってのリスク(流動性リスク、
債務不履行リスク、事業リスク)を説明しなさい。
(2)どのようにすればリスクを軽減できるか。
非金融
銀行
預金
家計
法人企業
負債 資産
+10
+10
貸出
負債
負債 資産
+10
+10
資金過不足
-10
+10
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3 金融システムの機能
3 金融システムの機能
阻害要因と金融システム
4 金融システムを構成する要素
1 金融は、①資金仲介、②リスク配分機能、③貨
幣の決済機能、により経済厚生の向上に貢献
している。
(1)経済主体:金融ニーズをもつ家計や企業など
2 したがって、金融の阻害要因を排除することが
経済厚生の向上に必要である。
(3)専門金融機関:金融市場での取引を専門的業
務とする
3 金融システムは、金融阻害要因に対処するた
めに自然発生的あるいは人為的に構築されて
きた組織や機構である。
(4)金融商品:市場で取引される債務証書
(2)金融市場:経済主体の金融ニーズを満たすた
めの金融取引がおこなわれる場
(5)これらの要素に関連した法律や取引習慣
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図1-2 直接金融と間接金融
3 金融システムの機能
金融取引の諸形態
1 間接金融と直接金融
(直接金融)
(1) 資金の黒字主体(家計)から資金の赤字主体(企業)
への資金仲介のルートには、間接金融と直接金融が
ある。
(2) 黒字主体は最終的貸し手、赤字主体は最終的借り手
と呼ばれる。
(3) 間接金融とは、金融仲介機関を介して、最終的貸し手
と最終的借り手の間で資金の融通をおこなうことであ
る。
(4) 直接金融とは、証券市場を通じて、両者が直接資金の
融通をおこなうことである。
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資金
最終的
資金
証券市場
貸し手
本源的証券
最終的
借り手
本源的証券
資金
本源的証券
(中間型金融)
資金
金融仲介
資金
機関
間接証券
本源的証券
(間接金融)
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4
3 金融システムの機能
3 金融システムの機能
(5)本源的証券とは、最終的借り手が発行する借
用証書である。
(企業)借用証書、手形、社債、株式
(政府)国債(国)や地方債(地方自治体)などの公債
(6)間接証券とは、金融仲介機関が発行する証書
である。
預金証書、保険証書、貸付信託証書、投資信託受
益証券など
(7)間接金融と直接金融の違いは、リスク負担のあ
り方にある。
(8)直接金融では、最終的貸し手が本源的証券を
保有するので、本源的証券のもつ信用リスクや
市場リスクを直接負担する。
(9)直接金融の取引がおこなわれる証券市場(資
本市場)では、専門金融機関として証券会社が
売買の仲介をおこなう。
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3 金融システムの機能
3 金融システムの機能
(10) 間接金融では、金融機関が本源的証券のも
つリスクを負担する。最終的貸し手は金融仲介
機関が発行する間接証券を保有するので、間
接証券がもつリスクを負担する。間接証券のリ
スクは、本源的証券のリスクより一般的に低い。
(11) 間接金融では、リスクが高い本源的証券を金
融仲介機関が保有し、最終的貸し手はリスクが
低い間接証券を保有することで、危険回避的な
最終的貸し手も資金を供給することが可能にな
る。
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3 金融システムの機能
2
相対取引と市場取引
(1)相対取引とは、取引当事者が個別におこなう取引のこ
とである。
① 銀行貸出、大口預金など。
② 取引条件は交渉で決められるので、柔軟かつ融通が
利く。
③ 一度信用がおけることがわかった相手とは、情報費用
や取引費用の節約につながるので、長期的、継続的
に取引される傾向がある。
④ 当事者間だけで蓄積された情報は、他の相手との取
引には使えないという欠点がある。
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3 金融システムの機能
(2)市場型取引とは、不特定多数の取引者が参加
する公開市場でおこなわれる取引のことである。
① 取引条件は競争原理によって決まる。
② 相対取引に比べて柔軟さに欠ける。
(3)情報の非対称性に対する対処方法の違い
① 相対取引では、取引者の信用度が見えることを
通じて情報の非対称性を軽減している。
② 市場取引では、取引される金融商品(金融資
産)を公開された基準で標準化・規格化すること
を通じて情報の非対称性を軽減している。
③ 類型化された取引が多い。
④ 多くの相手と取引が可能である。
29
30
5
図1-3 金融取引の4類型
3 金融システムの機能
(1)相対型直接金融:企業間信用
金融取引の類型化
1
金融取引は、相対取引・市場取引×直接金融・間接
金融で4つの類型に整理される。
直接金融
相対取引 企業間信用
市場取引
間接金融
企業間信用とは、企業間の取引で生じた債務支払い
を一定期間延ばすこと。部外者には通用しない限定的
な取引である。
(2)相対型間接金融:貸出、預金、保険
伝統的な銀行取引である貸出、預金や保険。
貸出、預金、保険
株式、社債、国債 投資信託、年金基
など
金(中間型金融)
(3)市場型直接金融:株式、債券
証券市場での直接取引。
(4)市場型間接金融:投資信託、年金基金
中間型金融とも呼ばれる。金融仲介機関による証券
市場を通じた金融。
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32
3 金融システムの機能
3 金融システムの機能
2 日本の主要な金融取引は、相対型間接金融が
中心であった。
3 金融改革の流れの中で、
4 ①中間型金融の発展
個人の金融資産運用手段として、投資信託や年金
基金など)
②証券化
①間接金融から直接金融へ
銀行の貸出債権などを担保とした新たな証券の発
行、市場での販売など
②相対取引から市場取引へ
大きく変化すると予想される。
が注目されている。
33
3 金融システムの機能
3 金融システムの機能
金融システムの諸機能
1 広い意味での金融の基本機能
3 資金プール・投資小口化機能
投資の小口化により多数の投資家から資金を
集め、資金の流れをより太く、効率的、安定的
にする機能。
(1)決済機能
(2)金融仲介機能
(3)リスク配分機能
2
34
資源の異時点間・状態間移転機能
4 リスク管理機能
基本機能を補完する機能
借り手に対する審査、監視の手法や、統計的手
法によるリスク評価、コントロール・ルール、さら
にリスクのヘッジングや分散あるいは保険を可
能にする金融商品・取引方法の開発。
(1)資金プール・投資小口化機能
(2)リスク管理機能
(3)情報の生産・提供機能
(4)インセンティブ管理機能
35
36
6
3 金融システムの機能
3 金融システムの機能
5 情報生産・提供機能
金融システムの変化を引き起こすもの
金融資産の価格情報、金利情報、それらの基
礎となるような情報が効率的に生産され、市場
参加者に伝えられる機能。
1 金融システムの相違
(1)アングロサクソン型金融システム
市場中心。アメリカ、イギリス。
6 インセンティブ管理機能
逆選択やモラル・ハザードなどを予防、防止す
るための工夫をする機能
(2)間接金融システム
金融仲介機関(銀行)中心。日本、ドイツ。
・借り手の審査・監視システム
・メインバンク制
・株主総会や敵対的買収による市場を通じた経営
者の規律付け機能
37
38
確認問題2
3 金融システムの機能
3 金融システムに変化や相違を引き起こす背景
(1)経済環境や技術環境の変化
① 成長中心のフロー経済から低成長のストック経
済への移行
② 資金不足経済から資金余剰経済への移行
③ 少子高齢化の進行
(2)金融ビッグバン
上記の変化に対応するための金融システム改
革。IT革命とともに日本では1996年から。 39
2.2 次の金融商品のうち、本源的証券でないものを
選べ。
2.1 直接金融と間接金融に関する記述のうち、正しくない
ものを選びなさい。
A 直接金融とは最終的借り手が発行する本源的証券を
最終的貸し手が直接取得する取引である。
B 直接金融は主として証券会社が仲介する資金取引で
あり、間接金融は主として銀行など金融仲介機関がお
こなう資金取引である。
C 間接金融とは、金融仲介機関が最終的貸し手に対し
て間接証券を発行し、最終的借り手の発行する本源
的証券を取得する取引である。
D 間接金融では金融仲介機関が資産変換機能を果たす
が、直接金融では同様の機能を証券会社が果たす。
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2.3 次の記述のうち、正しくないものを選べ。
A
不特定多数の市場参加者の間で競争的に価格などの
取引条件が決定されるという点では、相対型金融取引
も市場型金融取引と同様である。
B
市場型取引では、不特定多数の経済主体による競り
合いを通じて、価格など取引条件が決定される。
A 新株引受権付社債
B 地方債
C 投資信託受益証券
C 預貯金は相対型取引の典型であるが、一部に市場型
取引もある。
D 政府保証債
D 相対型取引では流通市場が存在しないのが通常であ
るが、市場型取引では発行市場に加えて流通市場が
存在する場合が多い。
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7
4 貨幣と決済機能
4 貨幣と決済機能
貨幣の基本機能
4 決済手段としての貨幣の基本的機能
1 貨幣は購買力であるとともに、決済手段である。
(1)一般的交換手段機能:支払
2 決済とは、取引によって生じた債権・債務関係
の清算である。
① 貨幣はどのような財・サービスとも交換できると
いう「一般的受容性」をもつことにより、欲望の
二重の一致が成立しなくても取引できる。
3 中央銀行や民間銀行を中心とする決済システ
ムが構築されている。
② あらゆる取引から生じる債権・債務関係を支払
いによって精算する。貨幣によるこの精算機能
を貨幣の決済手段と呼ぶ。
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4 貨幣と決済機能
4 貨幣と決済機能
(2)一般的価値尺度機能:計算単位
(3)価値貯蔵機能
① 財・サービスの価値を貨幣単位(円、ドルなど)
を用いて貨幣の数量(絶対価格)で表示する機
能。
① 貨幣は、流動性がもっとも高い資産として、優
れた価値貯蔵機能をもっている。
② 交換される財・サービス間の交換比率(相対価
格)を一元的にある貨幣単位で表示できる。
↓
② 流動性とは、いつでもどこでもその価値を減ず
ることなく即座に交換に使えることである。
③ 貨幣は一般的交換手段なので、流動性が最大
の価値貯蔵手段といえる。
取引の際の交換比率に関する情報収集・評価
の費用を削減できる。
45
46
4 貨幣と決済機能
4 貨幣と決済機能
貨幣需要動機
3 貨幣需要動機
1 利子が付かないのに貨幣を保有する動機は、
貨幣に貨幣の基本的機能があるからである。
(1)取引動機
2 貨幣需要とは、利子が付かないにもかかわらず
所得や資産の一部を貨幣で保有したいという欲
求である。
取引に必要な金額を貨幣で保有することによる
需要。
↓
取引額は所得に比例する。
↓
所得が増えれば取引動機による貨幣需要は増加
(取引動機による貨幣需要は所得の増加関数)
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48
8
4 貨幣と決済機能
4 貨幣と決済機能
(2)資産動機
4 安全資産と危険資産
貨幣の価値貯蔵機能により、流動性の高い資産と
して保有することによる需要。
(1)安全資産
↓
将来価値が安定していて、流動性が高い資産。
貨幣、普通預金、定期預金など。
貨幣は流動性は高いが利子が付かない。
(2)危険資産
↓
利子率が上昇すれば資産動機による貨幣需要
は減少
将来価値が変動して、不確実な資産。通常、流
動性は低い。
株式、投資信託、外貨預金など。
(資産動機による貨幣需要は利子率の減少関数)
49
4 貨幣と決済機能
50
4 貨幣と決済機能
貨幣の進化
3 実体貨幣から名目貨幣への転化
1 貨幣は、実体貨幣(商品貨幣)から名目貨幣へ
と転化してきた。
(1)貨幣が流通するためには、一般的受容性が確
保されていればよい。
2 名目貨幣とは、額面に対応する素材価値がな
い貨幣のことである。
(2)名目貨幣を発行する中央銀行や民間銀行は、
貨幣の価値を維持することにより、その貨幣に
対する信認を確保する重い責任を負っている。
中央銀行が発行する銀行券
政府が発行する鋳造貨幣
法的に強制的な
通用力をもつ
民間銀行が発行する預金
クレジットカード、デビットカード、電子マネー 51
4 貨幣と決済機能
2
52
5 マクロ経済と資金循環
決済システムとシステミック・リスク
1
(3)貨幣が信認されていれば、貨幣の素材は何で
もよく、貨幣にではなく、素材の本来の価値を生
かした他の用途に使われる方が経済効率は上
がる。
経済循環と貨幣の流通
決済システムの国際化
1 貨幣の流通
高度に発達した貨幣・信用経済では、国内だけでなく
世界全体のネットワーク上で決済システムが成り立っ
ている。
(1)産業的流通
システミック・リスク
(2)金融的流通
決済システム全体が崩壊するリスク。
・ 金融機関や企業の倒産による連鎖的な返済不能の
発生
・ 決済システムの不正利用や技術的失敗・故障など
53
財・サービスとの交換による貨幣の流通。
借用証書との交換、あるいは貨幣の貸借によ
る貨幣の流通。
2 金融システムを通して、貯蓄が投資に転化され
る。
54
9
図1-4 単純な経済循環と貨幣流通
5 マクロ経済と資金循環
貯蓄(20)
貯蓄投資差額と資金過不足
生産要素(土地・労働)
家
計
所得(100)
1 貯蓄投資差額
貯蓄(20)
(1)金融取引(貨幣の金融的流通)とは、実物経済
の各部門間の貯蓄と投資の不一致を調整する
ものである。
IOU
金融システム
(金融市場・金融機関)
(2)家計部門の資金状況は、以下の式で示される。
資金(20)
所得+金融負債純増
IOU
支出(80)
財・サービス(80)
企
業
=消費+実物投資+金融資産純増
投資(20)
55
56
5 マクロ経済と資金循環
5 マクロ経済と資金循環
(所得-消費)-実物投資
2 マクロ経済の資金過不足
=金融資産純増-金融負債純増
(1)(1-1)式から、次のことがいえる。
ここで所得-消費=貯蓄だから、
① (1-1)式がプラスの部門:
貯蓄-実物投資
=金融資産純増-金融負債純増
資金余剰部門(貯蓄超過部門、黒字部門)
(1-1)
②(1-1)式がマイナスの部門:
すなわち、
資金不足部門(投資超過部門、赤字部門)
貯蓄投資差額=資金過不足
57
(2)3面等価の法則から、各部門の貯蓄投資差額
を合計するとゼロになる(資金過不足はゼロに
なる)。
58
5 マクロ経済と資金循環
確認問題3
『資金循環勘定』の仕組みと見方
1
3.1
国民経済計算と資金循環勘定
(1)貯蓄投資差額は、一国経済の実物取引を示しており、
国民経済計算SNAという統計でとらえられる。
(2)資金過不足は、一国経済の金融取引を示しており、資
金循環勘定統計でとらえられる。
2
資金循環勘定には、一定期間内の金融取引の結果で
ある金融資産・負債増減を示す金融取引表(フロー
表)と、一定時点での各部門の金融資産・負債残高を
示す金融資産・負債残高表(ストック表)がある。
(1)1年間にあった次の金融取引を金融取引表にまとめな
さい。
① A氏は10億円の給与をもらって、全額貯蓄した。
② A氏は10億円の貯蓄をすべて銀行に預金した。
③ 株式会社L社は銀行から10億円借り入れた。
④ 株式会社L社は借り入れた10億円で事務機器を購入
した。
(2)①から④を実物取引と金融取引に分けなさい。
(3)債権債務関係を調べなさい。
59
60
10
3.2
(1)1年間にあった次の金融取引を金融取引表にまとめな
さい。
① A氏は10億円の給与をもらって、全額貯蓄した。
② A氏は10億円の貯蓄のうち8億円を銀行に預金し、2
億円でL社の社債を購入した。
③ (株)L社は銀行から8億円借り入れ、2億円を社債発
行で資金調達した。
④ (株)L社は調達した10億円で事務機器を購入した。
(2)作成した金融取引表で直接金融、間接金融の違いを
説明しなさい。
(3)債権債務関係を調べなさい。
61
11