ヒラリズム 4の2 陽羅 義光 絵とモデル フェルメールの代表作のいくつか

ヒラリズム
4の2
陽羅
義光
絵とモデル
フェルメールの代表作のいくつかが来るという、なかでも
注目は映画にもなった『真珠の耳飾りの少女』だろう、とに
か く キ ャ ッ チ フ レ ー ズ が「 世 界 で 一 番 有 名 な 少 女 」、新 聞 の 評
では「絵画の中で一番美しい少女」とある。
世界で一番有名で、絵画の中で一番美しい少女なら、わし
に云わせればルノワールの『イレーネ・カーン・ダンヴェー
ル の 肖 像 』( 拙 作 『 美 的 人 間 』 参 照 の 事 ) だ と 考 え て い る が 、
(わしもフェルメール好きなので)まあいいか。
ここでちょいと問題にしなければならないのは、絵が美し
いのかモデルが美しいのかと云うことだよ。
解りやすい例であげると、かのレオナルド・ダ・ヴィンチ
の 『 モ ナ ・ リ ザ 』、 こ の 絵 は ( く だ ん の 云 い 方 を 真 似 れ ば ) お
そらく世界で一番有名な絵であろうが、それは画家の力かモ
デルの力かと云う問題である。
なぜならもし仮に、この絵のモデルが、モナ・リザさんで
はなく、山本モナさんだったなら、状況は変わっていたに違
いないのだから。
いや、もしかすると、山本モナさんだったにしても、レオ
ナルドはその力量を十二分に発揮して、世界で一番有名な絵
にしたかもしれないのだが、そう考える御仁は(絵の素人玄
人を問わず)極端に少ないと思われる。
いやはや、面倒臭い、つまり、肖像画の場合はモデル次第
ということになってしまうではないか、それでも、そのモデ
ルを選んだのは画家であり、画家の美意識の手柄とも云えな
くはない、さらには、いくらモデルが美しくとも、その美し
さを描き切る芸と術がなければ、箸にも棒にもかからない、
ということは、わしがモナ・リザさんを描いても、世界で一
番有名な絵には、決してならないということなのだな。
ただ似てるというだけなら、わしの描くモナ・リザのほう
が似ているかもしれんがね。
もうひとつ問題なのは、写真のなかった時代の肖像画と、
現代の画家が描く肖像画とは、画家としての姿勢や志向が違
うはずであり、違うべきだと考える。
けれども、現代の画家は大凡甘いから、そんなことを考え
たこともない者が大半なのである、そこでわしはいつも周り
の画家たちに云う、肖像画なんか描きなさんな。