眼球のマーカー検出による生体認証方式 A User

社団法人 電子情報通信学会
THE INSTITUTE OF ELECTRONICS,
INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS
ユビキタスネットワーク社会におけるバイオメトリクスセキュリティ研究会資料
Technical Report of Biometrics Security Group
眼球のマーカー検出による生体認証方式
西垣 正勝‡,††
青山 真之†
†静岡大学大学院情報学研究科 〒432-8011 静岡県浜松市中区城北 3-5-1
‡静岡大学創造科学技術大学院 〒432-8011 静岡県浜松市中区城北 3-5-1
††独立行政法人科学技術振興機構,CREST
E-mail: ‡[email protected]
あらまし 生体認証の中で,最も人間にとって馴染みやすい技術は顔認証であると考えられる.なぜなら,人間
は,主に顔によって相手を認識しているからである.人間は普段,相手の目,鼻,口などの各部位を直感的に識別
しているが,計算機に人間と同等の認知システムを導入することは非常に困難である.そのため,計算機によって
顔認証を行う場合には,できるだけ簡素な方法で各部位を識別し,単純なアルゴリズムで被認証者を判別する仕組
みを工夫する必要がある.そこで本稿では,顔の各部位にマーカーを設置することにより,簡易に各部位の位置を
計測した上で,マーカー間の相対位置から本人認証を行う方法を提案する.ただし,顔にマーカーを物理的に装着
するような方法は採れないため,被認証者に赤外光を照射することによって得られる角膜反射光をマーカーとして
利用し,人間の眼球位置を測定する方式を検討する.マーカーの測定精度と,眼球位置の個人差について調査し,
両眼間の距離を利用した本人認証の実現可能性についての検証を行う.
キーワード 生体認証,顔認証,人体マーカー,角膜反射光
A User Authentication Using Eyeball-Marker Detection
Naoyuki AOYAMA†
Masakatsu NISHIGAKI‡
†Graduate School of Informatics, Shizuoka University
3-5-1 Johoku, Naka, Hamamatsu, 432-8011 Japan
‡Graduate School of Science and Technology, Shizuoka University
3-5-1 Johoku, Naka, Hamamatsu, 432-8011 Japan
††Japan Science Technology and Agency, CREST
E-mail:
‡[email protected]
Abstract We generally recognize each other by facial appearance. So, among the biometrics, it seems like face
authentication is most familiar for many people. People are able to distinguish facial regions (eyes, nose, mouth, etc.)
intuitively. But, no machine has been able to have advanced cognition ability comparable to human beings. Therefore, for face
authentication by computers, a sophisticated face recognition will not work; it is essential to use a simple algorithm to identify
facial regions to authenticate object. Here in this paper, we propose an authentication system by measuring the facial relative
position using “markers” on the facial regions. Markers are distinguishable in image processing and computers can easily
detect them. However the way of attaching markers directly on his face is inconvenient. Thus this paper tries to use corneal
light reflex as a marker of eyeball. We investigate the measurement accuracy of eyeball-marker detection, and find out the
availability of face authentication based on the distance between both eyes.
Keyword Biometrics, Face Authentication, Body-Marker, corneal light reflex
1. は じ め に
本人認証技術とは,事前に登録された情報を用いて
本人であることを確認する技術である.本人認証技術
は 次 の 3つ に 大 別 す る こ と が で き る .
(1) 本 人 が 持 つ 知 識 に よ る 認 証
(2) 本 人 の 所 有 物 に よ る 認 証
(3) 本 人 の 身 体 的 特 徴 な ど に よ る 認 証
(1)は ,パ ス ワ ー ド や 暗 証 番 号 な ど を 用 い た 認 証 で あ
る.この認証は非常に容易かつ汎用性に富む手段であ
り,現在最も広く利用されているが,利用者に「パス
ワ ー ド を 記 憶 す る 」 と い う 負 荷 が か か る . (2) は , IC
カードや磁気カードなどの認証用トークンを用いた認
証である.この認証は利用者とトークンが物理的に一
対一対応するためユーザ管理がしやすく,装置化も容
易 な 手 段 で は あ る が ,利 用 者 は 常 に ト ー ク ン を 携 帯 し ,
- 37 -
持 ち 歩 く 必 要 が あ る .(3)は ,指 紋 や 虹 彩 な ど の 各 人 固
有の生体情報を用いた認証であり,生体認証とよばれ
る.生体認証は記憶の負荷や携帯のわずらわしさがな
く,認証用情報の忘却や紛失の恐れもないため,非常
に 魅 力 的 な 本 人 認 証 技 術 で あ る と 言 え る [1].
このような特徴を持つ生体認証の中で,最も人間に
とって馴染みやすい技術は顔認証であると考えられる.
なぜなら,人間は日常,主に顔によって相手を認識し
ているからである.しかし,計算機は人間ほど高度な
認知システムを有してはいない.人間は普段,相手の
目,鼻,口などの各部位を瞬間的に識別し,それらの
形や相対関係から相手を直感的に判別しているが,計
算機に画像処理によって人間と同等の認識を実行させ
る こ と は 非 常 に 困 難 で あ る [2].
そのため,計算機によって顔認証を行う場合には,
できるだけ簡素な方法で各部位を識別し,できるだけ
単純なアルゴリズムで被認証者を判別する仕組みを工
夫する必要がある.
このような局所部位の測定を簡素化したシステム
の一つとして,モーションキャプチャが挙げられる.
モーションキャプチャは,人物や物体の各部位にマー
カーを装着し,これをカメラ撮影することによって対
象の動きを解析する技術である.森島らは,モーショ
ンキャプチャを用いることにより,顔表情表出時の顔
表面の動作遷移を解析し,表情筋の変形に基づくリア
ル な 表 情 合 成 を 実 現 し た [3].鈴 木 ら は ,歩 行 特 性 を モ
ーションキャプチャにより解析することにより,個人
認 証 を 行 っ た [4].
マーカーは局所部位を精密かつ容易に測定するた
めに用いられる.そのため,マーカーを利用すれば,
顔 の 各 部 位 の 識 別 も 容 易 に な る と 考 え ら れ る .し か し ,
認証毎に顔の各部位にマーカーを装着することは,利
便性において大きな問題となる.また,マーカーを同
じ位置に安定して装着することは困難である.
そこで本稿では,顔の各部位に間接的にマーカーを
設置することにより,簡易に各部位の位置を計測した
上で,マーカー間の相対位置から本人認証を行う方法
を提案する.今回は,特に被認証者に赤外光を照射す
ることによって得られる角膜反射像をマーカーとして
利用し,人間の眼球位置を測定する方式について検討
する.また,マーカーの測定精度と,眼球位置の個人
差について調査し,両眼間の距離を利用した本人認証
の実現可能性についての検証を行う.
被験者へのストレスを避けるため赤外光とした.
両眼間の距離は,左右の眼球のマーカー(角膜反射
像)の位置をそれぞれ特定し,それらの距離を算出す
ることによって求められる.角膜反射像の位置は個人
の 顔 の 骨 格 や 眼 球 特 性 に よ っ て 異 な り 得 る [5] こ と を
利用し,両眼のマーカー(角膜反射像)間の距離によ
って本人認証を行う.
角膜反射像
図 1: 右 眼 と 角 膜 反 射 像
3. 眼 球 マ ー カ ー を 用 い た 両 眼 間 距 離 に 基 づ く
認証方式
両眼間の距離を用いた認証方式は次の装置によっ
て以下の手順によって行われる.
【認証装置】
①
赤 外 光 を 照 射 す る LED, 被 験 者 の 両 眼 を 撮 影 す る
赤外線カメラ,注視目標を表示するためのディス
プ レ イ を 有 す る .こ れ ら は 定 点 に 固 定 さ れ て い る .
②
撮影された画像から両眼の角膜反射像の位置を解
析し,その距離を測定するための画像処理システ
ムを有する.
【登録フェーズ】
①
認 証 装 置 は ,デ ィ ス プ レ イ に 注 視 目 標 を 表 示 す る .
②
ユ ー ザ は 提 示 さ れ た 注 視 目 標 を 注 視 す る .こ の 際 ,
認証装置は,ユーザの両眼の角膜反射像の位置を
測定する
③
認証装置は,測定した両眼の角膜反射像の距離か
ら,両眼間の距離を求め,ユーザ名ともに登録す
2. 眼 球 の マ ー キ ン グ と 両 眼 間 の 距 離 の 測 定
る
本研究では,眼球のマーカーとして,角膜反射像を
利用する.角膜反射像とは,眼球に入射する光の角膜
【認証フェーズ】
表 面 に お け る 反 射 像 で あ る .こ の 像 は ,簡 易 な LED 光
①
被認証者は認証装置にユーザ名を入力する
の照射によって,極めて明るく,小さな点として撮影
②
認 証 装 置 は ,デ ィ ス プ レ イ に 注 視 目 標 を 表 示 す る .
す る こ と が 可 能 で あ る( 図 1).こ の た め ,マ ー カ ー( 角
注視目標の提示位置は,登録フェーズにおいて注
膜反射像)の位置は比較的簡単な画像処理によって高
い精度で測定できると期待できる.角膜反射像の位置
視目標が表示された位置と同じである.
③
被認証者は注視目標を注視する.この際,認証装
は,同一ユーザであっても照明の位置や視線方向によ
置は,ユーザの両眼の角膜反射像の位置を測定す
って変化するが,これらの条件が同一の場合には,常
る.
に ほ ぼ 決 ま っ た 位 置 に 観 測 さ れ る [5].な お ,照 射 光 は ,
④
- 38 -
認証装置は,測定した両眼の角膜反射像の距離か
ら,両眼間の距離を求める.
⑤
認証装置は,登録されている両眼間の距離と④で
求めた距離を比較し,両者が十分に近い場合には
認証を成功とする.
4. 眼 球 マ ー カ ー を 用 い た 両 眼 間 距 離 に 基 づ く
認証システム
4.1. システム構 成
認証システムは,制御装置,角膜反射像測定装置,
図 2: 角 膜 反 射 像 測 定 装 置 に よ っ て 撮 影 さ れ る 画 像
アゴ台,表示ディスプレイから構成される.各装置の
詳細を以下に示す.
•
制御装置:3 章に示した登録フェーズ,認証フェ
ーズの各ステップを実行する認証プログラムを
C++言 語 に よ り 実 装 し た . プ ロ グ ラ ム は Pentium4
3GHz, 1GB Memory, Windows XP Professional の
PC に て 実 行 さ れ る .角 膜 反 射 像 測 定 装 置 か ら 被 認
証者の両眼の角膜反射像間の距離を受け取り,認
証の判定を行う.
•
角 膜 反 射 像 測 定 装 置 : 赤 外 線 LED を 備 え た 特 殊
CCD カ メ ラ( テ ク ノ ワ ー ク ス 社 TE-9170)に よ り ,
図 3: 図 2 の 左 眼 部 分 を 拡 大 し た 図
被験者の両眼の角膜反射像を撮影する.撮影画像
の 解 像 度 は 720×480 ピ ク セ ル と し た .本 装 置 に よ
っ て 撮 影 さ れ る 画 像 例 を 図 2,図 3 に 示 す .な お ,
4.2 シ ス テ ム 概 観
現時点では,暗室にて測定を行っている.また,
システムを図 4 のように配置する.被認証者は登録
今回はプロトタイプということで,画像上の角膜
時・認証時にはアゴ台に頭部を固定され,表示ディス
反射像の位置については手動で測定し,その間の
プレイを両眼で見ることとなる.眼球の位置から表示
距 離 を 算 出 し て い る .今 回 の CCD カ メ ラ は 赤 外 線
デ ィ ス プ レ イ ま で の 距 離 は 1.2m と な る よ う に 設 置 し
LED が 光 軸 付 近 に 設 置 さ れ て お り ,瞳 孔 が 明 る く
た .ま た ,角 膜 反 射 像 測 定 装 置 は 両 眼 か ら 0.7m の 距 離
映 る ( 明 瞳 孔 ) た め , 図 2, 図 3 の よ う に 角 膜 反
に設置した.今回は,注視目標は表示ディスプレイの
射像が判別しにくくなってしまっている.カメラ
中心に提示するようにした.
と は 別 の 位 置 に 赤 外 線 LED を 設 置 し て や れ ば ,図
表示ディスプレイ
1 のように瞳孔が暗い(暗瞳孔)画像を得ること
ができ,角膜反射像との輝度値の差が明確になる
ため,簡易な画像処理により角膜反射像の位置を
制御装置
角膜反射像測定装置
自動測定できるだろう.
•
1.2 m
アゴ台:実験環境を常に一定に保つため,被認証
者 の 頭 部 を 顎 ,額 ,左 右 側 頭 部 の 4 点 で 固 定 す る .
0.7 m
アゴ台の設置位置は全被験者で共通で,同じ場所
にアゴ(顔)が置かれるように座ってもらう.ア
アゴ台
ゴ 台 に 顔 を 乗 せ た 状 態 で ,CCD カ メ ラ の 画 像 が 被
認 証 者 の 左 右 の 眼 球 を 捉 え る よ う に ,CCD カ メ ラ
図 4: シ ス テ ム の 概 観
の 仰 角 を 設 置 す る .CCD カ メ ラ の 仰 角 は 全 被 験 者 ,
全実験日で不変とした.
•
表 示 デ ィ ス プ レ イ:注 視 目 標 を 提 示 す る .SAMSUNG
5. 認 証 実 験
眼球マーカーの測定精度,および,本認証方式の実
32 型 液 晶 カ ラ ー モ ニ タ SyncMaster 323T を 使 用 し
た.
現の可能性を示すため,4 章にて実装したシステムを
使用して,両眼の角膜反射像間の距離を測定する.以
降,簡単のため,両眼の角膜反射像の間の距離を「両
- 39 -
眼間距離」と記す.被験者は健康な本学学生 6 名(被
の距離の差は非常に小さく,本人と他人の切り分けが
験 者 A~ F) で , 平 均 年 齢 23.3 歳 , 標 準 偏 差 1.7 歳 ,
難しい被験者群が存在する.
男性 5 名,女性 1 名である.登録時,1日後,1週間
本認証方式の精度を検証するため,1 日後および 1
後に,全被験者の両眼間距離を測定し,その個人差を
週間後の両眼間距離を認証データとして本人拒否率
調べるとともに,本認証方式の本人拒否率,他人受入
(FRR), 他 人 受 入 率 (FAR)を 求 め た . こ こ で , 本 人 拒 否
率を検証した.なお,被験者には事前に本実験に関す
率および他人受入率の具体的な算出方法を以下のとお
る説明を十分に行った.
りである.
1) 閾 値 θ を 定 め る .
2) 被 験 者 A の 1 日 後 お よ び 1 週 間 後 の 両 眼 間 距 離
5.1. 実 験 結 果
各被験者の両眼間距離の測定結果を表 1 に示す.表
と ,被 験 者 A の 登 録 時 の 両 眼 間 距 離 の 差 が θ 以
に お け る 値 は 角 膜 反 射 像 測 定 装 置( CCD カ メ ラ )に よ
内 で あ る か 否 か を 調 べ ,被 験 者 A の 本 人 拒 否 率
って撮影された画像上の距離であり,単位はピクセル
を計算する.
3) A 以 外 の 全 被 験 者 の 1 日 後 お よ び 1 週 間 後 の 両
である.また,表 1 の結果から求めた両眼間距離の個
人 内 変 動 と 他 人 間 差 異 の 平 均 値 を 表 2 に 示 す .こ こ で ,
眼 間 距 離 と ,被 験 者 A の 登 録 時 の 両 眼 間 距 離 の
個人内変動を表す尺度として各被験者の登録時,1 日
差 が θ よ り 大 き い か 否 か を 調 べ ,被 験 者 A の 他
人受入率を計算する.
後,1 週間後の両眼間距離の標準偏差を,他人間差異
4) 被 験 者 B~ F に 対 し て 手 順 2)~ 3)を 行 い , 全 被
を表す尺度として全被験者の登録日の両眼間距離の標
験者における本人拒否率および他人受入率の
準偏差を用いた.
平均を求める.
表 1, 表 2 か ら , 両 眼 間 距 離 は , す べ て の 被 験 者 を
通じ全実験日で安定して得られており,また,個人内
5) 閾 値 θ を 変 化 さ せ な が ら 手 順 2)~ 4)を 繰 り 返 す .
の変動に比べ,他人間の差異が大きい傾向にあること
これにより得られた結果を図 5 に示す.図 5 から,
が 確 認 で き る .た だ し ,被 験 者 B と 被 験 者 D の 眼 球 間
等 誤 り 率 ( EER) は 約 5%で あ っ た .
表 1: 各 被 験 者 の 両 眼 間 距 離 ( 単 位 : ピ ク セ ル )
被験者
A
B
C
D
E
F
値
登録時
両眼間距離
1 日後
471.4
471.4
0.0
1.2
447.1
445.2
446.1
2.0
1.0
466.1
465.1
465.0
1.1
1.1
446.3
444.1
0.9
3.1
434.1
433.1
435.2
1.0
-1.1
506.0
504.0
503.3
2.0
2.8
登 録 時 の距 離 との差
両眼間距離
登 録 時 の距 離 との差
両眼間距離
登 録 時 の距 離 との差
両眼間距離
447.2
登 録 時 の距 離 との差
両眼間距離
登 録 時 の距 離 との差
両眼間距離
1 週間後
登 録 時 の距 離 との差
表 2: 両 眼 間 距 離 の 個 人 内 変 動 と 他 人 間 差 異 の
平均値(単位:ピクセル)
標準偏差
個人内変動
1.1
他人間差異
25.5
- 40 -
470.2
1
1
FAR
FRR
0.9
0.8
0.8
0.7
0.7
0.6
0.6
0.5
0.5
0.4
0.4
0.3
0.3
0.2
0.2
0.1
0.1
0
FRR
FAR
0.9
0
0
1
2
3
4
5
θ[単位:ピクセル]
6
7
8
図 5: 平 均 本 人 拒 否 率 及 び 平 均 他 人 受 入 率
マーカーを利用する最大のメリットは,簡素なアルゴ
リズムの画像処理によりマーカーの位置を自動計測す
5.2. 考 察
実験の結果,角膜反射像を眼球マーカーとして用い
ることが可能であるという点にある.よって,今後は
ることにより,小さな誤差で両眼間距離を測定可能で
画像処理アルゴリズムを実装し,両眼間距離を自動算
あ る こ と が 確 認 で き た .し か し ,残 念 な が ら 現 状 で は ,
出するようにシステムを改良した上で,既存の顔認証
提案方式は現在普及している生体認証ほどの認証精度
システムとの計算コストに関する性能比較を行ってい
には至っていない.これは,今回の実験においては,
く予定である.
また,角膜反射像の位置は視線方向によって変動し,
認証に用いた生体情報は左右の眼球に設けた二つのマ
ーカーのみであったため,十分な個人差を引き出すこ
視線を左方向に向ければ像も左に,右方向に向ければ
とができなかったことが原因であると推測される.こ
像 も 右 に 移 動 す る と い う 性 質 を 持 っ て い る .こ の た め ,
のため,眼球以外の部位に間接的にマーカーを設置す
寄り目をするなどして,両眼の角膜反射像間の距離を
る方法や,他の生体情報との組み合わせを検討する必
意図的に操作することにより,不正者が他人になりす
要があるだろう.
まして認証に成功する可能性がある.今後は,このよ
うな不正に対して耐性を有する方式についても検討し
ていきたい.
6. ま と め と 今 後 の 課 題
顔の各部位にマーカーを設置することにより,簡易
に各部位の位置を計測した上で,マーカー間の相対位
謝 辞 本 研 究 は 一 部 ,( 財 ) セ コ ム 科 学 技 術 振 興 財 団 の
置から本人認証を行う方法を提案した.本稿では,被
研究助成を受けた.ここに謝意を表する.
認証者に赤外光を照射することによって得られる角膜
参考文献
反射光をマーカーとして利用した.基礎実験により,
マーカー間の距離の測定変動は小さく抑えられること
1)
瀬戸洋一 著,バイオメトリックセキュリティ入
2)
越後富夫,鷲見和彦,岩井儀雄,井岡幹博,森島
門 ,pp.15-16,ソ フ ト・リ サ ー チ・セ ン タ ー( 2004)
を確認したが,現状では,現在普及している生体認証
ほどの認証精度には至っていない.この問題を解決す
るため,眼球以外の部位に間接的にマーカーを設置す
繁 生 , 八 木 康 史 著 , 人 画 像 処 理 , pp177-182, オ
る方法や,他の生体情報との組み合わせについて検討
ー ム 社 ( 2007)
3)
していく予定である.
久保尋之, 柳澤博昭, 前島謙宣, 森島繁生, “表
今回はプロトタイプということで,画像上の角膜反
情筋制約モデルを用いた少ない制御点の動きか
射像の位置については手動で測定を行った.しかし,
ら の 表 情 合 成 ” , 日 本 顔 学 会 誌 , Vol.6, No.1,
- 41 -
pp.61-69
4)
高 橋 秀 明 , 稲 垣 伸 吉 , 鈴 木 達 也 ,“ リ ン ク モ デ ル
の確率的切り替えに基づく歩行動作のモデル化
と 解 析 ”, ロ ボ テ ィ ク ス ・ メ カ ト ロ ニ ク ス 講 演 会
2006, (2006)
5)
大 野 健 彦 ,“ 視 線 イ ン タ フ ェ ー ス か ら 視 線 コ ミ ュ
ニ ケ ー シ ョ ン へ ”, 情 処 研 報
2001-HI-95 ,
Vol.2001, No.087, pp.171-178(2001)
- 42 -