2013年以降の枠組みの法的形式について(CASA 早川光俊)

2013年以降の枠組みの
法的形式について
2011年10月24日
地球環境と大気汚染を考える全国市民会議(CASA)
専務理事 早川光俊(弁護士)
問題の所在
次期枠組みの最終的な合意を、どのような法的形式
にするのか。
京都議定書の先進国の次期目標、京都議定書に参加
していないアメリカの目標、中国、インドなど排出
量を増加させている主要な途上国の削減行動(抑制
目標)などを、どのような法的形式で規定するの
か?
京都議定書の改正か、新たな議定書か(1つか、2
つか)、COP決定か、またこれらの組み合わせ
か?
いかなる法形式となるかは、約束の強度に影響を与え、
合意のbalanceに影響を与える。
現在の法的枠組み
気候変動枠組条約
□ 誓約と審査(プレッジ&レビュー)
□ 4条2項a「附属書Iの締約国は、温室効果ガスの人為的な排出を抑制す
る自国の政策を採用し、これに沿った措置をとる。温室効果ガスの人為的
な排出の量を1990年代の終わりまでに従前の水準に戻すことは、このよう
な修正に寄与するものであることが認識される。」
京都議定書
□ 法的拘束力
□ 3条1項「附属書Ⅰに掲げる締約国は、附属書Bに記載する割当量を超え
ないことを確保する。」
□ 拘束力ある帰結(マラケシュ合意):①第一約束期間について達成でき
なかった削減量の1.3倍を次期約束期間で削減、②遵守行動計画の策定、
③排出量取引でクレジットを売る資格の喪失。
議定書とCOP決定
議定書
□ 法的拘束力がある。締約国に新たな権利義務を設定できる。
□ 一般に批准が必要(日本の場合は、批准の前又は後に国会承認
が必要)。効力発生までに相対的に時間がかかる。
□ 京都議定書では、改正は出席し投票する締約国の4分の3以上の
多数決(第20条3項)。
COP決定
□ 原則として法的拘束力がない。締約国に新たな権利義務は設定
できない。
□ 批准は不要。原則として即時に効力を発生。
□ UNFCCCの下では、手続規則が採択されていないので、コンセン
サスで決定。
「空白」が生じる条件
京都議定書の第1約束期間は2012年12月31日まで。
京都議定書第2約束期間の「先進国の約束(削減目
標)」が2013年1月1日に効力を発生する条件。
□ 附属書Bの改正案と関連する議定書の改正案の、ダーバン
(CMP7)での採択。
□ 2012年10月3日までの京都議定書の締約国の4分の3(現時
点で144カ国)の批准。
条件が満たされない場合、2013年1月1日以降、国際
的に法的拘束力のある先進国の数値目標がない状態
が生じる。
法的形式についての各国の主張
1つの新議定書
□ 日本、ロシア、カナダの主張。法的拘束力は?
□ 途上国からの強い反発。
2つの新議定書(京都議定書改正+新たな議定書)
□ 大多数の途上国の主張。
□ 日本、ロシア、カナダなどは拒否。
□ アメリカや途上国は新議定書のもとで法的拘束力のある
約束を負う。
京都議定書改正+マンデート(COP決定)の採択
□ NZ提案:議定書附属書Bの改正+第二約束期間終了後一つ
の枠組みに移行するマンデート(COP決定)の採択。
1つの新議定と2つ新議定書
1つの議定書の方が、手続的にはシンプル。
2つの枠組みは、衡平性、透明性の確保の上で相対
的に劣り、2つの枠組み間の調整が必要となる。
しかし、途上国が「1つの新議定書」に強硬に反対
しているなかでは、2つの枠組みは政治的合意可能
性が高い。
制度の大幅な変更の場合、例えば、京都メカニズム
の排出枠の取り扱いなどについては、移行措置の必
要がある。特に1つの枠組みはその可能性が高い。
日本政府の主張
カンクン初日の日本政府代表団の発言
□ いかなる状況においても日本が京都議定書の下の第2約束期
間の削減目標を約束することはない。
すべての主要排出国の参加する公平かつ実効的な国
際的枠組み
□ 京都議定書で削減目標を課せられているのは世界の総排出量
の27%に過ぎず、二大排出国である中国やアメリカの抑制・
削減目標が不可欠。
新しい1つの包括的な法的文書
□ 今の京都議定書の参加国だけでなく、アメリカや中国などの
新興国の抑制・削減目標も「1つの議定書」に入れるべき。
日本政府の主張の問題点は?
交渉の余地を見せない強硬姿勢。
代替案のない「ノー」と本音
□ 米中を巻き込む具体的方策を持たない「1つの枠組み」主張。
□ 米中は口実で、日本もやりたくないというのが本音?
□ 背景に産業界の「京都議定書」嫌い(削減義務や法的拘束力より自主的
な取り組みへ)。
交渉の流れは「2本立て方式」:京都議定書と条約の2ト
ラック
□ 途上国はほとんど2トラック。
□ EU、オーストラリア、ニュージーランド、ノルウェー、スイスなども2トラック
(但し、京都議定書第2約束期間だけが動き出すことには反対)。
□ 日本の主張は非現実的。
COP17/CMP7でのありうる合意
AWG-LCAのもとですべての国が参加する法的拘束力の
ある文書(議定書)の採択を見込むことは難しい。
日本、ロシア、カナダが参加しないなかで、京都議
定書附属書Bの改正案を採択できるかも、アメリカが
参加の意思を示さず、主要な途上国も新たな議定書に
参加しない場合は困難。
2013年以降の「空白」を生じさせないためには、つ
なぎの議論と、いつまでに新たな枠組みに合意するか
のマンデートを採択するしかない。
□ 当面、京都議定書の継続も選択肢。
マンデートに盛り込まれるべき内容?
これまでの到達点の確認(カンクン合意の到達点)。
交渉範囲の確定(マンデートは何か)。
交渉のベース(BAPか?カンクン合意か?)
中長期目標と計測・報告・検証制度(MRV:IAR & ICA)
新たな枠組みの法的形式。
京都議定書の第2約束期間をどう扱うか?
合意の期限と批准の期限。
個別テーマ
□ 適応、資金、技術、キャパシティビルディングなど。