悪性リンパ腫 (Ⅰ)悪性リンパ腫とは 悪性リンパ腫はリンパ系の組織から発生する血液の「がん」で、白血病や骨髄腫といっ た血液悪性疾患の一種です。リンパ系組織はヒトの免疫を担当しており、全身に張り めぐらされたリンパ管とリンパ節、加えて胸腺、脾臓、扁桃腺などの組織からなります。 リンパ腫細胞はリンパ系組織の中を流れて全身をめぐるため、全身で発生する可能性 があります。 (Ⅱ)悪性リンパ腫の分類と病期 悪性リンパ腫という病名は、さまざまなリンパ系組織のがんを大きくまとめて呼ぶ名前 で、それぞれ性格の異なるたくさんの種類のリンパ腫をその中に含んでいます。どのタ イプのリンパ腫かによって症状や治療に対する反応性、予後は大きく異なります。また、 リンパ腫がどれくらい広がっているか、その病期によっても予後は異なります。従って 治療の方法は、「どのリンパ腫か?」、「病期はどこまで進んでいるか?」によって決定 されます。 (1)細胞の種類による分類 非ホジキンリンパ腫 B 細胞型 (日本人に多いタイプ) T 細胞型 NK/T 細胞型 ホジキンリンパ腫 (白人に多いタイプ) ホジキンリンパ腫 (2)進行速度による分類 進行スピードによる分類 該当する非ホジキンリンパ腫の種類 低悪性度(年単位で進行) 濾胞(ろほう)性リンパ腫 MALT リンパ腫など 中悪性度(月単位で進行) びまん性大細胞性B細胞性リンパ腫 未分化大細胞リンパ腫など 高悪性度(週単位で進行) リンパ芽球性リンパ腫 バーキットリンパ腫など (3)病期による分類 I 期:病変が一カ所に限局している II 期:複数の病変が認められるがお互いに近い場所に集まっている。 III 期:複数の病変が広範囲に広がっている。 IV 期:リンパ系組織以外の臓器にリンパ腫が浸潤している。 (Ⅲ)治療の選択肢 悪性リンパ腫の治療法には次のようなものがあります。 (1)放射線療法 放射線療法は、高エネルギーのX線を病気のある部位に照射して、腫瘍に対する 殺細胞効果を期待する治療です。照射した部位に対してのみ効果が期待できま す。 (2)化学療法 抗がん剤を経口(内服薬)、あるいは静脈内投与することによって、腫瘍の殺細胞 効果・増殖抑制効果を期待する治療です。腫瘍があることがわかっている場所に効 果があるばかりでなく、診察や画像診断ではわからない微小な病変部位に対しても 効果が期待できます。初発時に行う標準的な治療法のほか、再発時や標準的治療 が効かない場合に用いる救援化学療法など、多種の治療法が提唱されています。 (3)生物学的製剤 最近よく使われる薬がリツキシマブです。成熟したB細胞だけを選択的に攻撃す るため従来の抗癌剤より副作用も少なく、従来の抗癌剤が効かないリンパ腫にも効 果が期待できます。B細胞系の悪性リンパ腫にのみ効果があります。 (4)経過観察 ゆっくり進行型のリンパ腫の場合、全く無症状で何年も経過することがあります。 化学療法を行うメリットがないと判断される場合には定期的に診察を続け、何か症状 が出たときにはじめて治療を行うという選択です。 (5)造血幹細胞移植 標準的な化学療法だけでは再発の可能性が高い場合に、大量の抗がん剤を使 用することで治癒を期待する治療法です。 (詳しくは、“5)造血幹細胞移植の適応”を参照ください) (Ⅳ)治療法の決定 先に述べたリンパ腫の種類と病期によってどの治療法を選択するか(または組み合わ せるか)を決定します。病状や患者さんの状態によっては、変更する場合もあります。 (1) 病期 I 期、II 期 標準的治療法(CHOP 療法)を3コース (B 細胞型のリンパ腫であればリツキシマブも併用します) + 放射線療法または外科的切除 (2) 病期 III 期、IV 期 標準的治療法(CHOP 療法)を6コース (B 細胞型のリンパ腫であればリツキシマブも併用します) (3) 再発時 救援化学療法(治療回数は様々です) ± 造血幹細胞移植 (適応については、“(Ⅴ)造血幹細胞移植の適応”を参照ください) (Ⅴ)造血幹細胞移植の適応 造血幹細胞移植は、誰から造血幹細胞をもらうかによって下記の様に分類されます。 自家移植: - 自分の造血幹細胞を自分に戻す場合 同種移植: - 兄弟などの血縁者由来の場合 - 骨髄バンクを介した非血縁者由来の場合 - 臍帯血由来の場合 リンパ腫の治療で主に選択されるのは自家移植です。再発した場合、従来の化学療 法のみで治療した場合と自家移植を追加した場合では、後者の方が治療成績の良い ことが統計学的に確認されているため、再発時に施行される場合が一般的です。ただ し、心機能や腎機能が良好であまり高齢ではない患者さんが適応になります。。 生存率 自家移植を追加した場合 救援化学療法のみ (ヶ月) また、病期が進行している場合、リンパ腫の種類が悪性度の高いタイプで将来再発の 可能性が高いことがあらかじめわかっている場合などは、初発時の治療でも移植を行 うことがあります。 同種移植は治療効果の点で自家移植に勝りますが、治療毒性が強いため治療に関 連した危険性も増加します。リンパ腫の治療としては実験的な要素が強いため、その 選択には医師と患者さんで十分な話し合いが必要です。
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