性感染症(STD)と検査 はじめに はじめに 「性的接触(性交やオーラルセックス)によって感染する病気」を性感染症STD(Sexually Transmitted Diseases)またはSTI(Sexually Transmitted Infection)と呼びます。 このSTDは10種類以上存在し、残念なことに、近年若者を中心に増加傾向にあります。 代表的なSTDの中で、いくつか主な特徴と検査法をまとめてみましたので、症状などが、思 い当たる方は、早めの受診をおすすめいたします。またパートナーが陽性であれば、ほとんど の場合は、本人も陽性であるため、治療は二人同時に行なうことが望ましいでしょう。 1 性器クラミジア感染症 性器クラミジア感染症 病原体 クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis) 感染したヒトの細胞内で封入体を形成し、ヒトの細胞からエネルギーの供給を受け増殖 する偏性細胞内寄生微生物(微生物のため細菌検査では検出できない) 症状 無症候性感染がほとんどのため、感染に気付かずに蔓延してしまう。 男性では、尿道炎と精巣上体炎 女性では、子宮頚管炎、骨盤内炎症性疾患を主に発 症。症状としては、女性では、帯下感や下腹部痛、男性では、軽い排尿痛や軽度搔痒 や不快感などがある。 オーラルセックスなどで、咽頭に感染し扁桃腺炎や咽頭炎を起こす場合もある。 妊婦の感染は、流早産の原因となったり、分娩時に新生児に感染し、新生児結膜炎や 新生児肺炎を発症させることもある。 2 淋菌感染症 淋菌感染症 病原体 淋菌(Neisseria gonorrhoeae) 大きさ約1μmのグラム陰性双球菌、生体外環境下では生息能力が低いため、ヒトから ヒトへの性行為が主な伝搬方法となる。 症状 男性では、尿道炎、精巣上体炎、女性では、子宮頚管炎、骨盤内炎症性疾患を主に起 こす。症状としては、男性は、激烈な排尿痛が多く、女性では、無症状が多いが、男性 と同様に排尿痛を伴うこともある。 クラミジアと同様に、オーラルセックスによる、咽頭感染症もある。 1・2 材料・方法により採取容器がちがいますので事前にお問い合 わせください。 性器クラミジアと淋菌の検査 性器クラミジアと淋菌の検査 方 検出するも の 保険点数 (判断料) クラミジア 210点 (微生物) 淋菌 淋菌・クラミ ジア同時 法 PCR法 ハイブリ キャプ チャー法 SDA法 ぬぐい・初尿 ○ ○ ○ 咽頭 × × ○ ○*1 ○*1 ○*1 × × ○ ○*1 ○*1 ○*1 ○*1 × × ○ ○ 材料 210点 (微生物) ぬぐい・初尿 300点 (微生物) ぬぐい・初尿 TMA法 細菌培養 ○*2 咽頭 咽頭 *1:尿は男子のみ算定可 *2:細菌培養の点数:尿・ぬぐい130点、咽頭140点(微生物) 1・2 性器クラミジアと淋菌の検査の特徴 性器クラミジアと淋菌の検査の特徴 方法 ターゲット 特徴 欠点 PCR法 DNA DNAを増幅させて、ターゲットを検出するため、少量で も検出可能。高感度。 検体中の増幅阻害物質によ り偽陰性となる場合がある。 死滅後のDNAも検出する。 PCRと比較して感度は劣る。 ハイブリ キャプ チャー法 DNA PCRと異なりDNAを増幅せずに検出。増幅しないため 検体中の阻害物質の影響が少ない。 現在の感染を反映する。 SDA法 DNA DNA増幅法。PCR法と比較して偽陰性が少なく特異度 は非常に高い。口腔内ナイセリア属との交差反応が少 ないため咽頭検体でも検査可能。 TMA法 rRNA RNAを標的とする遺伝子増幅検査。RNAを標的として いるたため死滅した菌は検出しないと言われる。 他菌種との交差反応が少ないため咽頭検査可能。 陽性の場合、薬剤感受試験ができる。 細菌培養 培養まで時間がかかると菌 が死滅し偽陰性になる可能 性がある (淋菌のみ) 3 梅毒(TP) 梅毒(TP) 病原体 梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum subsp、pallidum) 症状 性行時に皮膚・粘膜などから進入、感染局所に特有の病変をきたし、やがて全身に広 がる。感染後数週間で、TPが感染した局所が硬結し、硬性下疳と呼ばれる潰瘍となる。 (Ⅰ期梅毒)病変のわりに痛みは少ない。感染後数ヶ月で全身に広がる(Ⅱ期梅毒)症状 として梅毒性バラ疹(掌蹠に顕著)丘疹、のう胞、扁平コンジローマ、口腔・咽頭病変など。 この時期痛みや違和感を訴えることが多い。Ⅰ期∼Ⅱ期の間は感染力が強い。数年経 過すると、ゴム種(Ⅲ期)大動脈炎(Ⅳ期)へと移るが他人への感染力は少なくなる。 梅毒(TP)の検査と特徴 梅毒(TP)の検査と特徴 方法 特徴 検査名 STS カルジオライピン、リン脂質を抗原とする脂質抗原法。 感染後3∼4週間で陽性になる。TP抗原系試薬と比べ、梅毒の疾患活動性をよく反映。 検出している抗体は、体の中にも存在しているため梅毒以外でも陽性になる場合があ る→BFP(生物学的偽陽性):膠原病、妊娠、老齢など梅毒でなくても陽性となる RPR STS TP抗原 TP由来成分を抗原として用いるTP抗原法。 TP抗体検査は、感染後、陽性になるまで時間を要し、STSに比べて2∼3週間ぐらい遅 くれて陽性となり、治癒後も陰性化しない。 FTA-ABSは、感染後陽性となるのは、ほぼSTSと同時期だが、TP抗体で診断がつか ない場合などの確認試験で用いられる。 FTA-ABSはIgM、IgGの検出が可能。母親が梅毒の場合、臍帯血のIgMが陽性であれ ば、児はの感染が確認できる TP抗体 FTA-ABS STS 梅毒(TP) 梅毒(TP) の結果解釈 の結果解釈 TP抗原 結果の解釈 治療 不要 (必要) (-) (-) 非梅毒 (感染初期の可能性もあり疑わしい時は2∼3週間後の再検) (+) (-) 生物学的偽陽性(BFP) 感染初期(感染後2∼3週間)の可能性もある 不要 必要 (+) (+) 梅毒(早期から晩期) 梅毒治癒後の抗体保有者(一般的にSTS定量が15未満) 必要 不要 (-) (+) 梅毒治癒後の抗体保有者 まれにTP抗原試薬に対する偽陽性 不要 不要 4 コンジローマ コンジローマ 病原体 ヒトパピローマウイルス(HPV):HPVには80種類以上のタイプがある。 ※病変から低リスクと中・高リスクに大別される。 リスク分類 症状 *HPV感染によって生じる皮膚・粘膜の隆起性病変を 「コンジローマ」と称します。 型 外観 低リスク 6、11、42、43、44(90%以上 は6、11型) 中・高リスク 16、18、31、33、35、39、45、 51、52、56、58、59、68 病変 尖圭コンジローマ 良性の病変 扁平コンジローマ 癌を惹起 (最近では、前癌病変と して細かく分類) 感染後、数週間から2∼3ヶ月の潜伏期を経て性器周辺部に、イボ状の小腫瘍 が現れる。一般的に低リスク型HPV感染であれば、自然に治癒することが多い が、女性が中・高リスク型HPV感染すると、子宮頸部に感染し、子宮頸部癌の 要因となる。→型判定が大事になる。 コンジローマの検査 コンジローマの検査 項目名 材料・方法により採取容器がちがいますので事前にお問い合わせ ください。 材料 方法 ヒトパピローマウイルス DNA ハイリスクグループ ヒトパピローマウイルス DNA ローリスクグループ ヒトパピローマウイルス DNA型判定 検出可能な型 ハイブリキャプチャー法 ぬぐい液 液相(核酸)ハイブリダイ ゼーション 液状細胞診*1 組織・ぬぐい液 ハイブリキャプチャー法 ぬぐい液 液相(核酸)ハイブリダイ ゼーション 液状細胞診*1 組織・ぬぐい液 子宮頸部 擦過細胞 PCR-RFLP 保険 点数 16、18、31、33、35、39 、45、51、52、56、58、 59、68 型別の判定はできない 360 点 微生 物 *2 6、11、42、43、44 型別の判定はできない 未 収載 6、11、16、18、30、31、 33、34、35、39、42、44、 45、51、52、53、54、55、 56、58、59、61、66、67、 68、70、82、90型 未 収載 *1:子宮頸部、膣内容、子宮頸部をブラッシングし専用保存溶液にいれたもの *2:別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け出た保険医療 機関において、細胞診によりベセスダ分類がASC-US(意義不明異型扁平上皮細胞)と判定された患者 に対して(下図参照)行った場合のみ算定できる。細胞診と同時に実施した場合は算定できない。 子宮癌検診 陰性 ベセスダ分類 扁平上皮系異常 ASC-US ASC-H 意義不明異型扁 HSILを除外で 平上皮細胞 きない異型扁 HPV検査または 半年後に再検 LSIL HSIL 軽度扁平上皮 内病変 高度扁平上皮 内病変 SCC 扁平上皮癌 平上皮細胞 精密検査 1年後に検診 HPV陰性 HPV陽性 参照文献:検査と技術Vol.37No32009「梅毒検査の現状と今後」松本美枝、メディカル・テクノロジー Vol.32No52004「性感染症の診断と検査」性器クラミジア感染症 野口昌 良 淋菌感染症 清田浩 小野寺昭一 梅毒 大里和久 コンジローマ 井上正樹
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