自由民主党における政治資金分配の決定要因 拓 殖 大 学 政 経 学 部 法 律 政 治 学 科 4 年 03175 財 田 裕 斗 目次 1. は じ め に 2. 先 行 研 究 3. 理 論 と 仮 説 の 提 示 4. デ ー タ 5. 分 析 結 果 6. 結 論 1. は じ め に 2 0 0 9 年 か ら 2 0 11 年 に か け て 、 小 沢 一 郎 氏 の 資 金 管 理 団 体 で あ る 陸 山 会 の 資 金 運 用 を 巡 っ て 様 々 な 報 道 1 が さ れ た こ と で 、日 本 国 内 で は 国 民 の「 政 治 と カ ネ 」 2 へ の 関 心 が 高 ま っ た 。 ま た 、 1970 年 代 か ら 80 年 代 に 「 政 治 とカネ」の代名詞的存在であった田中角栄元首相は「政治は数、数は力、 力は金」という数の論理を掲げていた。この発言からも分かるように、政 治には「カネ」つまり政治資金が重要な要素であると考えられる。しかし 近年では、政治資金に関する法整備も進み、各政党の執行部は国から交付 される補助金3や事業収入といった、限られた資金を政党支部へ分配し運 営することで、国政選挙において議席を獲得しなければならない。したが って、政権を獲得し、維持するための布石として政党支部の合理的な運営 は必要不可欠である。 本論文では、自民党内における政治資金の自民党支部4への分配金額に 焦点をあて、分析することで自民党は合理的なアクターとして機能してい るか否かを検証する。つまり自民党執行部が衆議院での自民党の議席数を 最大化するために、合理的な判断の下、直近の国政選挙の結果から判断し て自民党支部への政治資金分配金額を定めているかどうかを検証すること が目的である。分析の結果、本論文では自民党執行部による自民党支部へ の資金分配は、直近の国政選挙での惜敗率5と候補者の当選回数をもとに 合理的に分配されているということがわかった。 本論文は以下の構成である。第 2 節では、国庫支出金の分配に関する先 行研究を紹介する。第 3 節では、理論と仮説を提示する。第 4 節では、本 論文で用いるデータの解説とその根拠を説明する。第 5 節では、データの 分析結果の提示と解釈を行い、第 6 節では、結論と今後の展望について述 べる。 1 2. 先 行 研 究 現 在 、国 政 選 挙 の 結 果 と 政 党 内 の 政 治 資 金 分 配 に 関 す る 実 証 的 な 研 究 は 見 当 た ら な い 。し か し 、地 方 議 会 選 挙 の 結 果 と 国 庫 支 出 金 の 分 配 に 焦 点 を 当てた研究として、土居・芦谷の「国庫支出金分配と政権与党の関係」 ( 1997) が 挙 げ ら れ る 。 こ の 論 文 の 中 で 、 国 庫 支 出 金 の 分 配 と 地 方 議 会 選 挙 の 相 互 依 存 関 係 を 計 量 的 に 分 析 し た 上 で 、「 地 方 議 会 に 占 め る 与 党 議 員 数 が 多 い 県 ほ ど 政 府 か ら 国 庫 支 出 金 が 多 く 分 配 さ れ て い る 」と い う 結 論 に 至 っ て い る 。ま た 同 時 に「 地 方 議 会 に お い て 野 党 と の 競 争 が 激 し い 県 ほ ど国庫支出金が多く分配される」という結論も得ている。しかしながら、 土 居・芦 屋 の 研 究 は 、こ れ ら の 結 論 に 至 る 過 程 に 関 し て 明 確 な 理 論 は 示 さ れ て お ら ず 、補 助 金 と し て 国 庫 支 出 金 し か 考 慮 し て い な い と い う 問 題 点 が ある。 ま た 、自 由 民 主 党 と 政 府 か ら 地 方 議 会 へ の 補 助 金 に 焦 点 を 当 て た 、広 瀬 の 『 補 助 金 と 政 権 党 』( 1 9 9 3 ) で は 、 多 様 な 事 例 を 挙 げ 、 自 由 民 主 党 は 補 助金を組織強化・票固めに結び付けて長期政権を維持した、としている。 し か し こ の 文 献 は 中 選 挙 区 制 下 で 書 か れ た も の で あ る 。し た が っ て 、現 在 の小選挙区比例代表並立制下においてもこの結果が支持されるか否かは 疑 問 で あ る 。さ ら に 、計 量 的 な 分 析 を 行 っ て い な い た め 、客 観 性 に 欠 け る 結果だといえる。 以 上 が 地 方 議 会 選 挙 と 補 助 金 、及 び 自 民 党 と 補 助 金 に 関 す る 先 行 研 究 で ある。本論文ではこれらの先行研究とは異なり「衆議院議員選挙の結果」 と「自民党内の資金分配」に焦点をあて、計量的に分析を行っている。 3. 理 論 と 仮 説 の 提 示 政 党 に と っ て の 最 大 の 目 標 は 政 権 を 獲 得 し 、 与 党 と し て 政 権 を 維 持 し 続 け る こ と だ と 思 わ れ る 。し た が っ て 、そ の 目 標 を 達 成 し 継 続 す る た め に 2 各 政 党 は 国 政 選 挙 の 結 果 を 重 視 す る は ず だ 。こ の 点 に 関 し て 斉 藤( 2 0 1 0 ) は「政権政党は有権者の動向を研究し、政策実現や利益分配によって政 権 維 持 確 率 を 最 大 化 す る 」と 述 べ て い る 。本 論 文 で は 、基 本 的 に 斉 藤 の 理 論を踏襲し、次の理論を用いる。 理論:政党は議席数最大化の為に行動する。 次 に こ の 理 論 か ら 導 き 出 さ れ る 仮 説 を 提 示 す る 。ま ず 、本 論 文 に お け る 議 席 と は 、衆 議 院 に お け る 議 席 の 事 で あ る 。こ の 議 席 の 数 を 最 大 化 す る た め に は 、も ち ろ ん 選 挙 で 勝 利 す る 必 要 が あ る 。そ の 際 に 候 補 者 が 当 選 す る 方 法 は 2 通 り 存 在 す る 。1 つ は 純 粋 に 小 選 挙 区 で 最 も 多 く の 票 を 集 め 当 選 す る 方 法 で あ り 、も う 1 つ は 比 例 区 で 当 選 す る 方 法 で あ る 。し か し 、政 党 支 部 へ の 交 付 金 は 小 選 挙 区 単 位 で 分 配 さ れ る た め 、政 党 は 小 選 挙 区 の 選 挙 結 果 を 、政 党 支 部 へ の 資 金 分 配 を 定 め る 際 に 最 も 参 考 に す る こ と に な る は ずだ。 で は 、政 党 は ど の よ う に し て 小 選 挙 区 で の 結 果 を 整 理 し 、対 策 を と る の だ ろ う か 。そ こ で 重 要 と な る の は 、小 選 挙 区 に お い て 候 補 者 が ど の よ う な 勝ち方、もしくは負け方をしたかである。例えば、自民党候補者が A 区 で は 圧 勝 し 、B 区 で は 僅 差 で 勝 ち 、C 区 で は 僅 差 で 負 け 、D 区 で は 大 敗 し た 場 合 を 考 え る 。こ の よ う な 場 合 、ま ず 、自 民 党 執 行 部 と し て は 圧 勝 し た A 区に対して現状を保つよう、そして B 区では次回以降の選挙でさらに 安 定 し て 勝 利 で き る よ う に 集 票 対 策 を 行 う だ ろ う 。ま た 、大 敗 し て し ま っ た D 区に関しては、今後勝利する為には相当の票が必要になると考え、 そ の 票 数 を 集 め る 為 に 対 策 を 行 う よ り は 、惜 し く も 僅 差 で 負 け て し ま っ た C 区 で の 集 票 対 策 を 行 う こ と が 合 理 的 で あ る と 考 え る は ず だ 。こ の よ う な 判 断 を す る 際 に 、ど の よ う な 勝 ち 方 も し く は 負 け 方 を し た か を 表 す 為 に 効 果 的 な 指 標 と し て 惜 敗 率 が 存 在 す る 。以 上 の 考 え か ら 、次 の 仮 説 を 導 き 出 す。 3 仮 説:衆 議 院 議 員 選 挙 で 小 選 挙 区 に お け る 自 民 党 候 補 者 の 惜 敗 率 が 高 い ほ ど、自民党執行部から自民党支部への年間交付金額は多くなる。 図 1 は 衆 議 院 議 員 選 挙 の 結 果 が 自 民 党 執 行 部 か ら 自 民 党 支 部 へ の 交 付 金 分 配 に 影 響 す る 様 子 を 時 系 列 的 に 示 し た も の で あ る 。 例 え ば 、 2005 年 の 選 挙 結 果 は 2006 年 か ら 2008 年 ま で の 政 党 か ら 支 部 へ の 交 付 金 額 に 影 響 を 与 え る こ と に な る 。本 論 文 で は 、2 0 0 9 年 の 選 挙 結 果 が 2 0 1 0 年 と 2 0 11 年の自民党支部への交付金分配に与えた影響について検証する。6 次 に 、図 2 は 本 論 文 に お け る 分 析 モ デ ル を 示 し て い る 。こ の 分 析 モ デ ル に お い て 、従 属 変 数 は「 自 民 党 支 部 へ の 2 年 間 の 交 付 金 額 」で あ る 。こ こ で の 主 要 な 独 立 変 数 は 「 惜 敗 率 」 で あ る 。「 惜 敗 率 」 が 高 く な る に つ れ て 「 自 民 党 支 部 へ の 年 間 交 付 金 額 」も 増 加 す る は ず で あ る 。ま た 、コ ン ト ロ ー ル 変 数 と し て「 当 選 回 数 」、 「 総 裁 派 閥 」、 「 幹 事 長 派 閥 」を 使 用 し て い る 。 「 当 選 回 数 」を 考 慮 す る 理 由 は 、当 選 回 数 の 多 い ベ テ ラ ン 候 補 者 は 新 人 候 補 者 に 比 べ て 知 名 度 も 高 く 、今 ま で 比 較 的 安 定 し て 勝 利 し て い る と 考 え ら れ る 為 、「 当 選 回 数 」 が 多 い ほ ど そ の 支 部 へ の 交 付 金 額 は 減 る と 予 想 す る か ら で あ る 。「 総 裁 派 閥 」、「 幹 事 長 派 閥 」 を 考 慮 す る 理 由 は 、 候 補 者 が こ れ ら の 派 閥 に 属 し て い た 場 合 に 、そ の 恩 恵 と し て 交 付 金 額 が 増 え る の で は ないかと予想するからである。 2 00 5 年 の 選 挙 結 果 2 00 6~ 2 00 8 年 の 交 付 金 額 2 00 9 年 の 選 挙 結 果 2 01 0~ 2 011 年 の 交 付 金 額 図1:選挙結果と交付金額の時系列例 (注:筆者が作成) 4 惜敗率 当選回数 自民党支部への 2 年間の交付金額 総裁派閥 幹事長派閥 図 2: 独 立 変 数 と 従 属 変 数 の 分 析 モ デ ル (注:著者が作成) 4. デ ー タ 本 論 文 で は 、2 0 1 0 年 と 2 0 11 年 の 2 年 間 に 自 民 党 執 行 部 か ら 自 民 党 支 部 へ分配された交付金額を合算して従属変数として使用している。これらの 分 配 金 額 の デ ー タ は そ れ ぞ れ 2 0 11 年 と 2 0 1 2 年 に 総 務 省 に よ っ て 公 表 さ れ た「政党交付金使途等報告書」を用いて筆者が算出した。独立変数の「惜 敗 率 」 と コ ン ト ロ ー ル 変 数 と し て 用 い た 「 当 選 回 数 」 は 、 共 に 2009 年 の 衆 議 院 議 員 選 挙 時 点 で の 数 値 を 使 用 し た 。ま た 、 「 惜 敗 率 」は 通 常 0 ~ 1 で 表 す が 、 今 回 は 分 析 の 便 宜 上 パ ー セ ン ト で 表 し て い る 。「 総 裁 派 閥 」 は 、 2 0 0 9 年 の 衆 議 院 議 員 選 挙 後 か ら 自 民 党 総 裁 で あ っ た 、谷 垣 禎 一 氏 が 所 属 し て い た 古 賀 派 に 属 し て い た か 否 か を 表 し て い る 。「 幹 事 長 派 閥 」 は 、 2 0 0 9 年 の 衆 議 院 議 員 選 挙 後 か ら 翌 2010 年 9 月 ま で 幹 事 長 を 務 め た 大 島 理 森 氏 が所属していた高村派と、その後幹事長を務めた石原伸晃氏が所属してい た 山 崎 派 に そ れ ぞ れ 所 属 し て い た か 否 か を 表 し て い る 。 所 属 派 閥 は 2009 年 版 の 国 会 便 覧 を 参 照 し 、2009 年 8 月 30 日 に 行 わ れ た 衆 議 院 議 員 選 挙 当 時の派閥を使用している。 表 1 は 本 論 文 で 使 用 し た デ ー タ の 記 述 統 計 で あ る 。 表 の 左 端 か ら 順 に 、 5 変数名、平均、標準偏差、最小値、最大値を示している。本分析の従属変 数 で あ る「 交 付 金 」と は 2 0 1 0 年 と 2 0 11 年 の 2 年 間 に 自 民 党 執 行 部 か ら 自 民 党 支 部 へ 分 配 さ れ た 交 付 金 の 合 計 で あ り 、 最 小 で 100 万 円 か ら 最 大 で 2 6 0 0 万 円 ま で の ば ら つ き が あ り 、平 均 は 約 1 3 2 5 万 円 で あ る こ と が 分 か る 。 また、 「 総 裁 派 閥 」と「 幹 事 長 派 閥 」は ダ ミ ー 変 数 で あ り 、そ れ ぞ れ の 派 閥 に 所 属 し て い れ ば 1 で 表 し 、所 属 し て い な け れ ば 0 で 表 し て い る 為 、最 小 値 が 0 で 最 大 値 が 1 と な っ て い る 。 表 左 下 の N= 275 と は 、 欠 損 デ ー タ を 除 い た 調 査 可 能 な 観 測 数 を 表 し て お り 、 今 回 は 300 あ る 小 選 挙 区 の う ち 275 の 選 挙 区 を 分 析 す る こ と が で き た と い う こ と で あ る 。 7 表 1: 記 述 統 計 変数名 平均 標準偏差 最小値 最大値 交 付 金 (万 1324.77 543.75 100 2600 惜敗率(%) 76 77 31 100 当選回数 3.6 3.05 0 16 総裁派閥 0.07 0.25 0 1 幹事長派閥 0.06 0.24 0 1 円) (回 ) ( N = 2 7 5 ) ( 注:デ ー タ を も と に 筆 者 が 作 成 ) 図 3 は 「 交 付 金 」 と 「 惜 敗 率 」 の 散 布 図 で あ る 。 縦 軸 が 従 属 変 数 で あ る 「 交 付 金 」、横 軸 が 独 立 変 数 の「 惜 敗 率 」を 表 し て い る 。つ ま り 右 に 行 く ほ ど選挙で健闘したということである。回帰直線を見てみると多少偏りはあ るが予想通り両変数間には正の相関があると言える。したがって、惜敗率 が高くなるにつれて、交付金も高くなっている。 図 4 は 「 交 付 金 」 と 「 当 選 回 数 」 の 散 布 図 で あ る 。 縦 軸 は 図 3 と 同 様 で あり、横軸は「当選回数」を表しており、右に行くほど複数回当選してい 6 るということである。回帰直線をみてみると緩やかだが予想に反して正の 相関があるように見える。 図 3 :「 交 付 金 」 と 「 惜 敗 率 」 の 散 布 図 ( 注 : Stata12 を 使 っ て 筆 者 が 作 成 ) 7 図 4 :「 交 付 金 」 と 「 当 選 回 数 」 の 散 布 図 ( 注 : Stata12 を 使 っ て 筆 者 が 作 成 ) 5. 分 析 結 果 表 2 は「 交 付 金 」を 従 属 変 数 と し た 重 回 帰 分 析 の 結 果 を 表 し て お り 、左 端 か ら 順 に 「 独 立 変 数 」、 分 析 前 の 「 予 想 」、 分 析 の 「 結 果 」、「 P 値 」 8 、 「 B e t a 値 」9 を 示 し て い る 。結 果 欄 の 数 値 は 各 独 立 変 数 の 係 数 値 で あ る 。 ま た 、二 重 線 以 下 は そ れ ぞ れ「 観 測 数 」、 「 P r o b > F 」1 0 、 「 補 正 R 2 」1 1 を 示している。 表 2: 分 析 結 果 独立変数 予想 結果 P 値 Beta 値 惜敗率 + 1854.42*** 0.00 0.65 当選回数 - - 37.23*** 0.00 0.21 総裁派閥 + 127.24 0.25 0.06 幹事長派閥 + 11 7 . 4 6 0.31 0.05 観測数 275 Prob>F 0.00 補 正 R2 0.35 有 意 水 準 : ***p<.01 **p<.05 *p<.1 ( 注 : S t a t a 1 2 を 使 っ て 筆 者 が 作 成 ) こ の 重 回 帰 分 析 に よ っ て 得 ら れ た 結 果 1 2 は 次 の と お り で あ る 。 第 一 に 、「 惜 敗 率 」 が 1 % 増 加 す る と 「 交 付 金 」 が 2 年 間 で 約 1 8 5 0 万 円 増 加 す る と い う こ と が 分 か っ た 。つ ま り 、 「 惜 敗 率 」が 1 % 増 加 す る と 1 年 あ た り の「 交 付 金 」が 約 9 0 0 万 円 増 加 す る と い う こ と で あ る 1 3 。よ っ て 、 分析前の予想通り、惜敗率が高いほど交付金額は増えるという仮説が支持 8 される結果となった。 第 二 に 、「 当 選 回 数 」 が 1 回 増 加 す る と 「 交 付 金 」 が 2 年 間 で 約 3 8 万 円 減 少 す る と い う こ と が 分 か っ た 1 4 。つ ま り 、ベ テ ラ ン 候 補 者 が 居 る 政 党 支 部よりも、新人候補者が居る政党支部の方が交付金を多く得られるという 結 果 に な っ た 。 ま た 、「 惜 敗 率 」 と 「 当 選 回 数 」 が ど れ く ら い 「 交 付 金 」 に 対 し て 影 響 が あ る か を 表 す Beta 値 の 係 数 を そ れ ぞ れ 比 較 す る と 「 、惜敗率」 の方が「交付金」に対する影響が大きい。したがって、自民党執行部が自 民 党 支 部 へ の 「 交 付 金 」 を 決 定 す る 際 に 、「 当 選 回 数 」 よ り も 「 惜 敗 率 」 を 重視しているということがこの結果からわかる。 第 三 に 、 「 総 裁 派 閥 」、 「 幹 事 長 派 閥 」は 共 に「 交 付 金 」に 対 し て 影 響 は ほ と ん ど 与 え て い な い と い う こ と が 確 認 で き た 1 5 。し た が っ て 、候 補 者 が た とえ総裁や幹事長と同じ派閥に属していたとしても、その候補者が支部長 を務める自民党支部は、 「 交 付 金 」の 分 配 に お い て 贔 屓 さ れ る こ と は 無 い と いうことである。つまりこの結果から、現在自民党執行部は「交付金」の 分配に際して、派閥による自民党議員間の差別を行っておらず、合理的な 判断を下しているということが分かった。 6. 結 論 本 論 文 で は 、 2 0 1 0 年 か ら 2 0 11 年 に か け て 行 わ れ た 自 民 党 執 行 部 か ら 自 民 党 支 部 へ の 資 金 分 配 に つ い て 、 2009 年 の 衆 議 院 選 挙 の 結 果 を 用 い て 分 析 を 行 っ た 。そ の 結 果 、衆 議 院 議 員 選 挙 で 小 選 挙 区 に お け る 自 民 党 候 補 者 の 惜 敗 率 が 高 い ほ ど 、自 民 党 執 行 部 か ら 自 民 党 支 部 へ の 年 間 交 付 金 額 は 多 く な る と い う 仮 説 が 支 持 さ れ た 。そ の 一 方 で 、派 閥 に よ る 交 付 金 へ の 影 響 は 弱 い と い う こ と が 判 明 し た 。こ れ ら の 結 果 か ら 、自 民 党 執 行 部 は 客 観 的 に 、直 近 の 衆 議 院 議 員 選 挙 の 結 果 か ら 合 理 的 な 判 断 を 下 し て 自 民 党 支 部 への資金分配を行っていることが分かった。 本 論 文 に お け る 今 後 の 課 題 は 、よ り 多 く の 選 挙 結 果 と 交 付 金 の 関 係 を 分 9 析 し 、詳 細 な 結 果 を 得 る こ と で あ る 。今 回 は 2012 年 の 自 民 党 執 行 部 か ら 自 民 党 支 部 へ の 交 付 金 の デ ー タ が 公 開 さ れ て い な か っ た た め 、分 析 に 加 え ることができなかったが、今後はこのデータを含めた分析が必要である。 さ ら に 、衆 議 院 議 員 選 挙 制 度 が 中 選 挙 区 制 か ら 小 選 挙 区 比 例 代 表 並 立 制 へ と 変 わ っ た 1 9 9 6 年 以 前 の 選 挙 に 関 す る 分 析 を 行 い 、選 挙 制 度 の 変 更 前 後 で 、自 民 党 執 行 部 か ら 自 民 党 支 部 へ の 資 金 分 配 の 決 定 要 因 に 選 挙 制 度 が 影 響しているか否かも検証する必要がある。 ま た 、同 様 の 手 法 を 用 い て 、自 民 党 だ け で は な く 民 主 党 や 公 明 党 な ど 他 の 政 党 に つ い て も 比 較 分 析 す る こ と で 、さ ら に 意 義 の あ る 研 究 へ と 発 展 さ せることができるだろう。 ≪注≫ 東京都世田谷区の土地購入に関する政治資金規正法違反で告発された問 題への報道である。 2 「政治とカネ」とは金権政治のことである。 3 総務省により管理されている政党交付金のことである。 4 300 の 各 小 選 挙 区 に 存 在 し 、 支 部 長 は そ の 選 挙 区 の 衆 議 院 議 員 で あ る 。 5 当 該 候 補 者 の 獲 得 票 数 ÷小 選 挙 区 で の 最 多 得 票 者 ( 当 選 者 ) の 獲 得 票 数 で 算出される数値であり、1に近いほど選挙で健闘したということである。 6 2009 年 の 衆 議 院 議 員 選 挙 を 分 析 対 象 に し た の は 、 政 党 支 部 へ の 資 金 配 分 との関係が調査可能な直近の衆議院議員選挙であるからである。 7 今 回 扱 う こ と が で き な か っ た 欠 損 デ ー タ は 、支 部 が 解 散 し て お り 、資 金 分 配自体が行われていなかった選挙区のことである。 8 P 値とは、帰無仮説が正しいとき、検定統計量が実際にデータから得られ た値以上に分布の中心からかけ離れた値を取る確率である。 9 Beta 値 と は 、 従 属 変 数 へ の 影 響 の 大 き さ を 表 し て い る 。 (ただし、絶対値 を用いる) 1 0 Prob> F と は 、 F 検 定 の P 値 で あ る 。 1 1 補 正 R2 と は 、 観 測 さ れ た 応 答 変 数 の ば ら つ き の う ち 何 % が 予 測 値 の ば ら つきで説明できるかを表している。 1 2 Prob> F の 値 が 0.00( 0% ) で あ る の で 、 こ の モ デ ル 全 体 に 対 す る 帰 無 仮 説 は 1% 水 準 で 棄 却 さ れ た 。 し た が っ て 、 こ の 回 帰 モ デ ル は 母 集 団 に お い ても一定の説明力をもつと言える。 1 3 こ の 結 果 は P 値 が 1% 未 満 ( 0.00) な の で 、 帰 無 仮 説 は 1% 水 準 で 棄 却 される。 1 4 P 値 が 1 % 未 満( 0 . 0 0 )で あ る こ と か ら 、帰 無 仮 説 は 1 % 水 準 で 棄 却 さ れ た。 1 5 共 に P 値 が 1 0 % 以 上 で あ る た め 、帰 無 仮 説 を 棄 却 す る こ と は で き ず 、有 意な結果は得られなかった。 1 10 参考文献 浅 野 正 彦 ,矢 内 勇 生 『 Stata に よ る 計 量 政 治 学 』 オ ー ム 社 ,2013 土 居 丈 朗 , 芦 谷 雅 浩 「 国 庫 支 出 金 と 政 権 与 党 の 関 係 」『 日 本 経 済 研 究 』 34(1997): 180-195 広 瀬 道 貞 『 補 助 金 と 政 権 与 党 』 朝 日 新 聞 社 ,1993. 菊 岡 信 子 『 国 会 便 覧 <平 成 21 年 8 月 新 版 >』 日 本 経 済 新 聞 社 ,2009 斉藤淳『自民党長期政権の政治経済学-利益誘導政治の自己矛盾-』勁草書 房 ,2010 総 務 省 . ( 2 0 11 ) ( 2 0 1 2 ) “ 政 党 交 付 金 使 途 等 報 告 書 ” . 総 務 省 ホ ー ム ペ ー ジ .2012-09-20. < h t t p : / / w w w . s o u m u . g o . j p / s e n k y o / s e i j i _ s / s e i j i s h i k i n / r e p o r t s / K F 2 0 11 0 9 3 0 04.html>, <http://www.soumu.go.jp/senkyo/seiji_s/seijishikin/reports/KF2012092804.html> 11
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