アソシエーション型組織における フリーライダーの抑制 金井雅之(山形大学) 小林盾(成蹊大学) 大浦宏邦(帝京大学) 第42回数理社会学会大会 2006年9月23日、明治学院大学 問題 { 近代組織(アソシエーション)の特徴 z 加入/退出が自由にできること。 組織間を移動できることには、 フリーライダーを抑制する効果があるか? ⇒ 進化ゲームモデルによる分析 ⇒ 転職調査のデータによる検証 2 先行研究 { フリーライダー問題(集合行為問題) z { 集団サイズ↑ ⇒ 集団目標の達成↓ (Olson 1965) 単独の集団/組織のもつ属性に限定した議論。 ⇒ 複数集団間での移動という観点は希薄。 組織活性化と労働移動に関する実証研究 z 転入も転出も貢献者。労働移動は“両刃の剣” (小林 2005) 組織間移動が全体として組織活性化=フリーラ イダーの抑制につながるかどうかは不明。 3 導入 2. モデル 3. 分析結果と理論的含意 4. 転職調査データによる検証 5. まとめ 1. 4 相互作用の構造:組織と社会 社会全体 { { { n人 n人 組織1 組織2 …… n人 組織m 各組織の大きさ=n 人(すべて同じと仮定) 社会全体での組織の数=m 個 (⇒解析では十分に多い(→∞)と仮定) それぞれの組織の中で公共財ゲームが行われる。 5 公共財ゲーム (=多人数囚人のジレンマゲーム) { プレイヤーの行為 z { ゲームの帰結 z { 資源 b を提供する(C行動)or しない(D行動) 提供された資源の総量をλ倍したものを すべてのプレイヤーに均等に分配 プレイヤーの利得 行動Cをとる人数を nC として・・・ z C行動=λb nC / n z D行動=λb nC / n + b 6 組織間の移動とそのコスト { { 移動機会 ⇒ 毎回 移動にともなうコスト(対戦相手変更コスト) z z 移動した人:ξ 組織に残された他のすべての人:ξ 残された側も、代替人材を探したり教育したり (組織)、新たに意思疎通を図る(個人)などで、 転出した人と同等のコストを負担すると仮定。 7 戦略 { 行動戦略:各回のゲームにおける行動を決定 z { トリガー:組織成員の変更があった直後はC。 変更がなかった場合、以前Dをとった人が1人も いなければC、そうでなければD。 移動戦略:移動機会に移動するかどうかを決定 移動戦略 行動戦略 移動 固定 トリガー 移動型トリガー 固定型トリガー 非協力 移動型非協力 固定型非協力 8 適応度計算 { 各回ごとにではなく、多くの回数にわたって 各組織内でおこなわれる公共財ゲームの 利得の総計を、適応度とみなす。 z z { 複数の組織を渡り歩くプレイヤーもあり 社会学的イメージは“生涯所得”のようなもの ゲームが次回以降も続く確率=δ 9 導入 2. モデル 3. 分析結果と理論的含意 4. 転職調査データによる検証 5. まとめ 1. 10 分析結果 常にその方向に遷移 中立 条件が満たされたときその方向に推移 ①、②の条件を満たすとき、フリーライダーは侵入不可能。 11 対戦相手変更コストξ { 対戦相手変更コストは0であってはならない。 z { 組織間移動にはコストがなければならない。 他の条件が一定ならば、コストが大きいほう がフリーライダーを抑制しやすい。 加入/退出があまりにも起こりすぎると、かえっ て生産性が低下? 12 組織の大きさ n { 小さいほどフリーライダーを抑制しやすい。 オルソン以来の集合行為問題の通説に整合。 { 組織がどんなに大きくても(n→∞)、対戦相 手変更コストξとゲームの継続確率δが一定 の条件を満たせば、フリーライダーを抑制で きる。 コストのある組織間移動を考える本モデルが、 オルソン問題の解決に一定のヒント。 13 導入 2. モデル 3. 分析結果と理論的含意 4. 転職調査データによる検証 5. まとめ 1. 14 データ { 「転職と働き方に関する意識調査」 z z z インターネット調査(自計式)。2004年3月実施。 対象:全国の30・40代でフルタイム雇用の男性。 有効サンプル810人のうち、公務員、自営業者、 サービス・ブルーカラー労働者を除く612人を分 析対象に。 15 理論モデルとの対応 { 「大企業雇用者」と「中小企業雇用者」を、 それぞれ「社会全体」と想定し、フリーライ ダーの抑制度を比較。 z 大企業雇用者は仮に転職するとしても大企業に 転職し(世代内移動)、大企業雇用者の子は再 び大企業に雇用される(世代間移動)と想定。 “分断的労働市場”を仮定。 16 仮説 仮説1:大企業は中小企業よりもフリーライダーが少ない。 対戦相手変更コストξの効果からの推論。 大企業は中小企業に比べて企業間移動が少ない。 ↓ 労働市場が有効に機能しないのでξが大きくなる。 仮説2:中小企業は大企業よりもフリーライダーが少ない。 組織の大きさ n の効果からの推論 中小企業のほうが n が小さい。 17 使用変数 { 企業規模 z z { 大企業=1,000人以上 中小企業=999人以下 フリーライダー度 z z 「同じチームの仲間が熱心に働いている時は、 自分はむしろ手を抜くほうだ」 5=そう思う、1=そう思わない、の5点尺度。 18 結果と解釈 { 仮説2が採択。 大企業のフリーライダー度平均=2.37 ∨ (5%有意) 中小企業のフリーライダー度平均= 2.18 { 対戦相手変更コストξの効果よりも、組織の 大きさ n の効果がまさった。 19 導入 2. モデル 3. 分析結果と理論的含意 4. 転職調査データによる検証 5. まとめ 1. 20 結論 { 理論モデル z z { 加入/退出の自由により組織間を移動できるこ とが生産性の向上につながるのは、それがある 程度制限されている場合である。 個々の組織は小さいほうが生産性を向上させる が、たとえ大きくてもコストのかかる移動が可能 であればフリーライダーを抑制できる。 転職調査データによる検証 z 移動の容易さの効果よりも組織の大きさの効果 が大きかった。 21 課題 { 理論 z z 組織の大きさが均一でない場合の検討。 ダイナミクスの途中経過の詳細な分析。 「対戦相手変更コスト」と「組織の大きさ」の どちらがどのように重要であるかの検証。 { 実証 z 「大企業」vs「中小企業」以外の比較対象の設定。 22 文献 { { Olson, M. 1965. The Logic of Collective Action: Public Goods and the Theory of Groups. Cambridge, Mass.: Harvard University Press. 小林盾. 2005. 「組織活性化と労働移動―フリー ライダーへの転職の効果―」大浦宏邦(編)『秩序 問題への進化ゲーム理論的アプローチ』平成14~ 16年度科学研究費補助金 基盤研究 (B)(1) 研究成果報告書: 247-58. 23
© Copyright 2024 Paperzz