第 4 章 なごやの生き物 5.なごやの生き物たちの変化 ここまで、名古屋市内各所でみられる生き物たちを紹介しましたが、昔はどう だったのでしょうか。過去を振り返ると名古屋市内にはもっとたくさんの生き物 たちがいましたが、最近では都市化や汚染などの影響を受けて少なくなってきて います。 その反面、開発工事や物資の輸送に伴って本来存在していなかった生き物が名 古屋に入ってきています。生き物たちに、どのようなことが起こっているのでし ょうか。 ●名古屋では絶滅?!残っているのは・・・ ⇒【ヒートアイランド現象】 「1 なごやの空」6 ペー ジ参照 名古屋市内では環境の変化によってサンショウモやヒメコウホネなどの植物や、 ヒヌマイトトンボやゲンゴロウなどの昆虫類が絶滅してしまいました。また、東 海地方にのみ生育するマメナシも少なくなっています。 現在、名古屋市内で広い分布を持つ生き物は、人家の中や周辺に住むものがほ とんどです。例えば、アブラコウモリやハツカネズミ、ドブネズミ、タヌキなど がその代表選手です。 また、都市化の波や、ヒートアイランド現象などの気候の変化などにより、名 古屋市内の環境は徐々に変化しており、それとともに名古屋にいる生物にも少し ずつ変化が見られます。例えば、ニイニイゼミが減り、クマゼミが多くみられる ようになったのがその一例です。クマゼミは西~南日本に多く生息する南方系の セミで、ニイニイゼミよりも乾燥に強いといわれています。今後はますます、こ のように元々いた生き物が減り、暑い地域の生き物が増えてくるのかもしれませ ん。 なごやの生き物は、今後どうなってしまうのでしょうか。 ⇒【減っている生き物の例】 ムササビ、コノハズク、 ナゴヤダルマガエル、ミナ ミメダカ、ハッチョウトン ボ、マメナシ など。 <図表4-18>減っている生き物の例 マメナシ ハヤブサ 出典:名古屋市 HP ミナミメダカ 提供:岡本明子氏 ●イノシシやニホンザルシが近くにやってきた ⇒【里山】 集落の近くにあって、地 域住民の生活と密接に結び ついた森や田んぼなどがあ る場所のこと。集落も含め た場所のことを里地里山と いう。 近年、里山の自然が減少・劣化したことによって、山に生息していたイノシシ やニホンザルが人里まで餌を探しにやってきて、目撃される例があります。今後 そのようなことが増えてくると、畑の農作物を荒らしてしまうこともあるかもし れません。私たちは、みどりに親しむ空間としてだけでなく、生き物に生息・生 育場所を提供し、人と野生動物との関係を保つためにも里山に手を入れ、里山を 人と野生動物との緩衝地帯として守っていかなければなりません。 41 第4章 ●生き物のすみかである「ため池」の減少 名古屋の東部丘陵地のため池とその周辺は、水域の生物多様性を支える場とし て重要な役割を果たしています。水辺の生き物が暮らしていくためには、さまざ まな自然の要素が必要です。そのうち、最も大きな要素が水草です。水草は昆虫 や貝、両生類、魚、鳥などのすみかとして利用されるだけでなく、水草自体がエ サにもなります。 さまざまな種類の水草が育つためには、良好な水質と、水中と陸という性質の 異なる環境をゆるやかにつなぐ移行帯(エコトーンと呼ばれる沿岸帯)の存在が 大切になります。この沿岸帯が急傾斜である場所や土壌の堆積のない岸辺には、 水草はあまり生えません。また、ため池を利用する動物(トンボ・コオイムシな どの水生昆虫)の多くが、ため池とため池の間あるいは水田や水路、樹林帯を行 き来しながら暮らしています。したがって、一連に繋がった環境のあることが、 さまざまな生き物が暮らすために必要となります。 しかし、名古屋市では、1965 年に 360 池あったため池が、2010 年には 111 池と なり、ため池の 3 分の 2 が姿を消してしまいました。また、残された池でも、多 くが治水護岸工事などで昔とは姿が異なっています。守山区の安田池、名東区の 塚ノ杁池などのように、今も緑の雑木林に囲まれた昔ながらの景観を残していく ことは大切なことです。また、姿を変えた池も、池の周囲への植裁やコンクリ- ト護岸率を減らすなどの配慮により、生き物のすみかとしての「ため池」がよみ がえります。 名古屋市では 1993 年に、ため池の治水・かんがい機能に加えて環境や景観保全 の機能を保全することをめざして「ため池保全要綱」が制定されました。 <図表4-19>丘陵地のため池の地形と自然環境 出典:ため池の自然―生き物たちと風景(浜島 繁隆, 近藤 繁生, 土山 ふみ, 益田 芳樹、2001) 42 なごやの生き物 第 4 章 なごやの生き物 ●なごやの身近な外来種問題 名古屋市内にも外来種が増えてきていることは前にも触れました。外来種とはお もに明治時代以降に人為的に連れて来られた生物のことを指しますが、外来種の問 題はその一部が侵略性によって地域の生態系を破壊することです。 アライグマ※は名古屋市のすべて区で発見されていてカメやサンショウウオを襲う ことがあります。 ※ 注:※印は外来種を示します。 オオキンケイギク も河川敷などに繁殖して在来のカワラナデシコなどの生える場 所を占領すると言われています。 ハリエンジュ※は旺盛な繁殖力に気づいて公園内で伐採しても、萌芽更新によって さらに勢いを増します。 ブラックバス※、ブルーギル※、コイ※、ミシシッピアカミミガメ※、ウシガエル※は 淡水の動物や魚類を食べ続けます。アメリカザリガニ※は水生植物を食い尽くして トンボの産卵場所を奪います。 カダヤシ※はメダカの卵を食べてしまいますが、自らは卵胎生で赤ちゃんを産むの で増えやすいです。 外来スイレン※やホテイアオイ※は池を覆い尽くして水中を酸素不足にしたり、池の 水を腐敗させることもあるので、水環境の植物や動物に影響を与えます。 これらの問題の原因は、侵略性を考慮せずに人間が多数輸入してしまったことで す。テレビ番組等を見ていても日本人は外国の珍しい生物が好きだということが良 くわかりますが、好きだからと短絡的に欲しがる習慣は考え直さなければいけない でしょう。もともとの豊かな名古屋の自然生態系をこれ以上壊さないように考えて 行動しましょう。侵略的外来種によって在来種が絶滅すると、その自然生態系は二 度と取り戻せないのです。 外来種3原則は「入れない、捨てない、拡げない」ですが、輸入してこなければ問 題のほとんどは防げるのです。 そして外来種を減らすためには、市民の皆さんが外来種の侵略性を意識してくれる ことが一番効果的です。動物でも植物でも外来種を買って育てるのなら、外に拡げ ることなく、死ぬまで家の中で面倒を見てください。 ⇒【外来種の例】 アライグマ、ウシガエル、 オオクチバス、アメリカシ ロヒトリ、セイヨウタンポ ポ、オオキンケイギク な ど。 <図表4-20>身近な外来種の例 オオキンケイギク ミシシッピアカミミガメ 写真:なごや生物多様性センター 写真:なごや外来種を考える会 43 アメリカザリガニ 写真:なごや生物多様性センター 第4章 どこへ行けば野鳥に会えるの? 名古屋市内でも、庄内川沿いや東部丘陵地ではいろいろな野鳥が見られます。街 中でも、久屋大通周辺では少ないですが、名古屋城一帯まで足を延ばすと多くの野 鳥を見ることができます。 吉根橋~東谷橋 東谷山 64 86 竜泉寺付近 46 庄内緑地 119 41 38 60 40 東部丘陵 名古屋城一帯 久屋大通 22 戸田川 南陽 53 新川 66 堀川 (白鳥) 名四国道~明徳橋 庄内川 151 名古屋港 34 高蔵神社 瑞穂公園 27 51 33 51 59 47 東山植物園 猪高緑地 42 31 興正寺 66 八事裏山 牧野ヶ池緑地 天白川緑地 46 熱田神宮 38 64 59 大江川緑地 戸笠池・ほら貝池 57 大根池 相生山緑地 59 呼続公園 大江川 平和公園 72 69 鶴舞公園 105 日光川 82 堀 川 横井山緑地 庄 内 川 58 72 21 城山八幡 61 76 明徳公園 52 堀川(上中流) 中村公園 明徳橋~ 新前田橋 小幡緑地 73 矢田川橋緑地 85 33 大村池・大久 手池 78 28 黒川 万場大橋~ 枇杷島橋 55 水分橋~ 松川橋 庄内川橋~水分橋 56 農業センター・ 針名神社 55 成海神社 40 天白川 水広公園 38 55 氷上姉子神社 鷲津山 72 勅使池 93 大高緑地 *数字は種の数。 資料:名古屋市野鳥生息状況調査(名古屋市緑政土木局、2014)の各調査地の結果をもとに作成 <参考>名古屋の鳥獣保護区の面積 国指定鳥獣保護区(約 770ha)、うち国指定鳥獣保護区・特別保護地区(藤前干潟 323ha)、愛知県指定の鳥獣保護区(816ha) 44 なごやの生き物
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