マンガ ライフサイエンス・第 33 回 生命の秘密 その その3 3. 血液型に関する根元的疑問(前編) 萩原 清文*作 多田 富雄**監修 ◆ある大学で講義を準備しながら気づいたことであるが,赤血球抗原とそれに対する抗体の話題ほど,免疫学 的に見て不思議で例外的なものはないと思われる.たとえば,A 型の人にB 型赤血球を初めて輸血した時 に,急速で重篤な免疫応答が惹起されるというのは,獲得免疫の理論と矛盾して見える. ◆そもそも,初めて体内に入ってきた非自己抗原に対して特異的な抗体が分泌されるようになるには数日かかる はずである. 初めて体内に入ってきた外来(非自己)抗原は… B 特異的な細胞表面抗体をもつB細胞に捕えられ… B 貪食される 細胞表面抗体 (B細胞受容体) ヘルパーT細胞 H クラス! !MHC分子 よし! B ヘルパーT細胞 T細胞受容体 T細胞 受容体 CD28 クラス! ! MHC分子 CD86 やがて抗原断片がヘルパー T細胞に提示され… B細胞 H ヘルパーT細胞の司令をうけて B細胞が抗体を発射する. その間数日かかるはず. ∼ やれ サイトカイン群 B 92(784)医薬の門 2003 年 B − 生命のダイナミズム− *日本赤十字社医療センター内科 **東京大学名誉教授 ◆ところがA 型の人は,抗 B 抗体をすでに分泌型の抗体として持っている.より正確にいえば,A 型の人は, 生後 3 ∼ 6 ヵ月から抗 B 抗体を分泌型抗体として持ち始める.それは,腸内細菌の表面にある,B 型抗原 に類似した成分に対して向けられたものである,とWiener によって説明されている.つまり,腸内細菌 の表面には,A 型抗原やB 型抗原に類似した成分があるが,血液型がA 型の人は抗 A 抗体をつくると自分 の赤血球をも攻撃するので,抗 A 抗体をつくるB 細胞は除去しておいて,抗 B 抗体をつくるB 細胞は生か しておく,と考えるのである. 血液型がA型の人では,A抗原に反応する抗体をもつ B細胞は除去される. 腸内細菌のあるものには A / B抗原に似た抗原が あると考えられている. ぐへ∼ B A B A A A やめてよ∼ A B B A B B 赤血球(A型) おぬし なにも の?! B A 腸内細菌 B あんたたち なにやってんのよ? くらえっ! IgM型抗B抗体 血液型がA型の人では,生後3∼6ヵ月から B抗原に対するIgM型の抗体が分泌される ◆腸内細菌に向けられた抗体が抗 A/B 抗体の本体であるというのは,にわかには納得し難いが,腸内細菌 には確かにA 型抗原やB 型抗原に類似した成分があるようなので,ひとまず納得することとしよう.しか し,疑問はまだ尽きない.なぜ抗 A/B 抗体はIgG 型ではなくてIgM 型なのだろうか. ◆一般的に,病原体に向けられて発射される抗体は,初めはIgM クラスに属するが,やがてIgG クラスに切 り替わる.これをクラススイッチという.抗 A/B 抗体が腸内細菌に向けられたとするならば,その抗体は IgM 型から IgG 型へクラススイッチしてよさそうなものである.しかし現実はそうはなっていない.抗 A/B 抗体に関しては,IgM 型からIgG に切り替わることのないような,なんらかのしくみがあるのだろう. そうでなければ人類の生存を脅かす恐ろしい事態が待ち受けている.抗 A/B 抗体がIgM 型であることの 御利益については次回検討することとしよう. VOL. 43 NO.6 93(785)
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