過量服薬対策等に関する資料の送付について

日薬業発第349号
平成23年11月14日
都道府県薬剤師会会長
殿
日本薬剤師会
会長 児玉
孝
過量服薬対策等に関する資料の送付について
平素より、本会会務に格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
さて、昨今、過量服薬対策・自殺予防対策において、薬剤師の役割や責務に
ついて、関係各所からの関心が高まっているところでございます。
本日付日薬業発第348号でご案内いたしました「抗不安薬・睡眠薬の処方
に関する実態調査結果」の公表にあわせ、平成 22 年度厚生労働科学研究「向
精神薬の処方実態に関する国内外の比較研究」(研究代表者:中川敦夫 国立精
神・神経医療研究センタートランスレーショナル・メディカルセンター臨床研
究支援室)報告書についても公表されました。
当該研究班では、「薬剤師による向精神薬に対する効果的な情報提供・支援
法の開発に関する研究」(分担研究者:吉尾 隆 東邦大学薬学部医療薬学研究
センター臨床薬学研究室)が実施されており、同研究にて、向精神薬の服薬指
導のロールプレイ等の教材 DVD が作成されておりますので、ここにご紹介いた
します。
このほか、本会担当役員にて作成した薬剤師向け研修用パワーポイント資料
や、向精神薬の乱用・依存の実態把握に関する研究報告などの関連資料を下記
のとおり送付いたしますので、貴会会員等への研修等にご活用くださいますよ
う、ご案内申し上げます。
記
1.「向精神薬の処方実態に関する国内外の比較研究」総括報告書抜粋
2.「薬剤師による向精神薬に対する効果的な情報提供・支援法の開発に関す
る研究」報告及び薬剤師向け DVD 教材 ※DVD は別途送付します。
3.「薬局薬剤師を情報源とする向精神薬の乱用・依存の実態把握に関する研
究」報告(嶋根卓也ほか(独)国立精神・神経医療研究センター精神保健
研究所薬物依存研究部)
4.薬剤師向け研修用パワーポイント(日本薬剤師会)
(資料1~3は省略)
以 上
薬剤師による
自殺対策・過量服薬対策の取組
Ⅰ.自殺の現状と自殺対策の枠組
日本薬剤師会
副会長 生出泉太郎
常務理事 藤原英憲
自殺者数の推移
平成9年から10年にかけて自殺者数が急増。以後、13年連続で年間自殺者数が3万人超。
平成22年の自殺者数(確定値)は、総数31,690人、男性22,283人、女性9,407人。
出展:平成23年版 自殺対策白書
男女別・年齢階級別
平成22年における男女別の年齢階級別の自殺者数についてみると、自殺統計によれば、
すべての階級において男性の占める割合が高い。特に、20歳代から60歳代までは男性
が7割を超えている。
出展:平成23年版 自殺対策白書
自殺対策の枠組
原因・動機別
自殺対策基本法
自殺総合対策大綱(平成19年6月8日)
(自殺対策基本法に基づく政府の推進すべき自殺対策の指針)
• 社会的要因も踏まえ総合的に取り組む
• 国民一人ひとりが自殺予防の主役となるよう取り組む
• 自殺の事前予防、危機対応に加え未遂者や遺族等への事後対応に取り組む
• 自殺を考えている人を関係者が連携して包括的に支える
• 自殺の実態解明を進め、その成果に基づき施策を展開する
• 中長期的視点に立って、継続的に進める
年齢階級別の状況をみると、ほとんどの階級において「健康問題」が最も多くなっている。
出展:平成23年版 自殺対策白書
推進体制
内閣府
政府全体としての自殺対策
Ⅱ.自殺対策への薬剤師の活用
関係各府省と連携
厚生労働省
特に、うつ病・メンタルヘルス対策
総務省
その他
国家公安委員会
厚生労働省自殺・うつ病等対策プロジェクトチームまとめ「過量服薬への取組」
厚生労働省自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム
報告書
薬剤師の役割とは?
「かかりつけ薬局」の必須条件とは?
薬物治療が適切に行われる
環境の確保
地域社会とのつながり
地域社会とのつながり
薬局・薬剤師
薬物治療が適切に行われる
環境の確保
Ⅲ.地域社会とのつながり
~早期発見と連携~
自殺対策分野での薬剤師への期待
ゲートキーパー
ゲートキーパーとは、悩んでいる人に気づき、声をかけ、話を聞いて、
必要な支援につなげ、見守る人のことです。
薬剤師
内閣府 H23 自殺予防週間ポスターより
テキスト
ゲートキーパー養成研修用テキスト
1.我が国の自殺の現状と対策
2.ゲートキーパーとは
3.自殺を考えている人の心理
4.自殺の危険因子と防御因子
5.ゲートキーパーとしての心得
6.メンタルヘルス・ファーストエイドとは
7.DVD教材の解説
8.ロールプレイシナリオ
一般編/家族編/勤労者編/民生委員編
相談窓口編/保健師編/医療機関編
早期発見と連携
基本的考え方
睡眠改善薬などの一般用医薬品の販売時や、相談応需や服
薬指導の機会において、精神科の適切な医療が届いていな
いと考えられる者に対する声かけや、かかりつけ医や専門医
療機関、相談機関等へのつなぎを行う。
「睡眠」を切り口とした具体的な対応の例
来局者(地域住民)
OTC薬の購入
健康相談
睡眠改善薬の購入が
連続している
処方せん調剤
処方薬に向精神薬等あり
経過良好
適切な薬学管理の継続
・疲れているのに不眠が2週間以上続く
・医療機関は受診していない
・疲れているのに不眠が2週
間以上続く
・薬が効かない
そのことを医師
に相談している
医師と連携して対応
・かかりつけ医への受診勧奨
・行政や民間の相談窓口を紹介
・適切な医療機関の紹介(かかりつけ
医がいない場合等) 等
医師に相談していない
医師へ服薬状況の情報提供
医師への相談を勧める
(参考:富士モデル事業資料)
基本的考え方
Ⅳ.適切な薬物治療の提供

医薬品の適正使用の観点から、薬物治療が適切に行われる環境を
確保することが薬剤師の責務。

薬剤師が当然行う業務がよりきめ細やかに行われることにより、過
量服薬や薬物依存を未然に防ぎ、自殺予防につながる。
<具体的事項> ~過量服薬のリスクが高い者への対応~
①患者の服薬意義の理解の向上
薬物の効果等についての十分な説明と指
導
お薬手帳の積極的活用
患者と医療者との信頼感の向上
→ 患者の治療参加意識の醸成
①
②
③
④
⑤
適切な服薬指導による、患者の服薬意義の理解の向上
処方内容の確認と処方医への疑義照会
薬歴管理に基づく、コンプライアンス管理を含めた薬学的な管理
薬学管理に基づく処方医への疑義照会、情報提供、提案
薬学管理に基づく患者への声かけ、相談応需、情報提供、指導
②処方内容の確認と処方医への
疑義照会
処方薬剤の種類や量が適正であるかの確
認(過量服薬リスク)
複数医療機関からの重複投薬の確認
受診予定日前受診(乱用疑いのケース)
処方日数(例えば30日分)と前回受診日からの間隔(例えば
3日)の確認
処方医への疑義照会(過量や重複等の発
見→処方の見直しや削除)
③薬歴管理に基づく
コンプライアンス管理を含めた
薬学的な管理
服薬状況の確認
効き具合はいかがですか、等の答えやすい問いかけなど
受診予定日後受診(コンプライアンス不良の疑い)
効果の確認
副作用や相互作用の確認(無気力や自殺企図を副作用に持つ薬
剤もある)
依存症や乱用の疑い(精神的依存、身体的依存)がないかの確認
食生活(アルコール等含む)の状況等の確認
適切な薬物治療の継続のための効果的な介入(服薬指導等)
良好なコンプライアンスに導く指導の工夫や処方医との連携など
④薬学管理に基づく処方医への
疑義照会、情報提供、提案
患者コンプライアンス、副作用、効果などに関する
情報提供
減薬・減量、処方変更の提案
向精神薬等(睡眠薬、抗うつ薬、抗不安薬、抗精
神病薬)を長期にわたり服用している患者について、
自殺企図や過量服薬リスク等の患者状態を含めた
観察、医師との連携
お薬手帳などを用いた薬物治療に関する情報の
共有
⑤薬学管理に基づく、患者への
声かけ、相談応需、情報提供、指導
副作用症状の注意
副作用の発現や悪化傾向に対する気づきや治療への
参加意欲促進
(例)ふらつき、ろれつが回っていないなどの副作用の可能性
→「ふらつくことはありませんか」
「お薬についてお医者さんに相談されましたか」などの声かけ
服薬自己中止、過量服薬に関する指導
複数の医療機関や複数の診療科から向精神薬等を処方さ
れている患者について、処方医と連携の上、必要に応じて精
神科や心療内科などの専門医への受診勧奨
特に自殺企図の危険性がある医薬品を服用中の患者に
ついて注意深い観察と対応
薬局薬剤師の自殺予防対策支援への
取り組みの考え方(総論)
①薬局における日常(日々業務)の医薬品供時、相談や
情報提供時にうつ症状や自殺予防の観点で、薬剤師の視点
から観て協力出来る事を行なうものである。
※特別な治療・治療の指導やカウンセリング治療を行なう
ものではないことに注意
②医薬品の過量服用、服用コンプライアンス、副作用、
相互作用などにおける問題点を抽出し、その解決方法を
導く事が基本的業務の中で重要である。
③相談業務により(傾聴し)うつ症状や自殺企図などの懸念が
疑われた時に解決策を導けるよう専門の相談窓口や
かかりつけ医、専門医の受診勧奨や紹介を行う つなぎの役割が求められている。
自殺のサイン(自殺予防の10ヶ条)
○ 声かけ(傾聴)→気づき→受診の勧め(つなぎ)→見守り
• うつ症状に気を付けよう(気分が沈む、自分を責める、
仕事の能力が落ちる、決断が出来ない、不眠が続く。
• 原因不明の身体の不調が長引く
• 自殺を口にする
• 自殺未遂に及ぶ
○ 傾聴→見守り→気づき→受診の勧め(つなぎ)→見守り
• 本人にとって価値のあるもの(職、地位、家族、財産)を失う
• 重症の身体の病気にかかる
• 職場や家族でサポートが得られない安全や健康が保てない
• 仕事の負担が急に増える、大きな失敗をする、職を失う
• 安全や健康が保てない
• 酒量が増える
Ⅴ.ケーススタディ
Ⅵ. 減薬に向けた取り組み
厚生労働省「向精神薬の処方実態に関する報
告及び今後の対応について」
平成23年11月1日
社会・援護局障害保健福祉部精神・障害保健課
1 処方量について
9割前後の受診者で基準薬の添付文書に示された用量内
の処方が行われていた。
2009年受診者に対して処方される抗不安薬、睡眠薬を、
ある基準薬の1日当たりに換算した値(処方力価)でみると、
•抗不安薬のジアゼパム換算で15mg以内の処方が95.8%
•睡眠薬のフルニトラゼパム換算で2mg以内の処方が86.4%
であった。
2 処方薬剤数について
ほとんどは単剤処方が行われていた。
• 抗不安薬が、1種類の割合が83.6%、3種
類以上の割合が1.9%
• 睡眠薬が、1種類の割合が72.7%、3種類
以上の割合が6.1%であった。
平成22年度厚生労働科学研究「向精神薬の処方実態に関する国内外の比較研究」(中川敦夫)
健保加入33万人の診療報酬データから、抗不安薬、睡眠薬を処方された人のデータを抽出し、分析
調査結果を受けての厚労省の対応
(医療従事者・一般国民へのメッセージ)
調査結果を受けての厚労省の対応
(その他)
【医療従事者に対して】
• 抗不安薬や睡眠薬の処方に際しては、残薬の有無や他
の医療機関からの処方の有無について確認する等、充
分に注意を払っていただくこと。
• 抗不安薬や睡眠薬については、薬物依存の可能性等に
注意し、同種の薬剤を3種類以上処方する必要性につい
て充分に考慮していただくこと。
【一般の方に対して】
• 1回の処方で抗不安薬が3種類以上、又は、1回の処方
で睡眠薬が3種類以上のいずれかの処方を受けている
場合には、主治医に処方の内容について充分な確認を
すること、あるいは、かかりつけの薬剤師等に確認するこ
と等について、必要に応じ、検討していただくこと。
【審査支払機関に対して】
抗不安薬、睡眠薬の処方実態を踏まえた適切な審査がなされ
るよう、「抗不安薬・睡眠薬の処方実態についての報告」及び、前
述の医療従事者・一般向け情報提供について情報提供する。ま
た、向精神薬の処方については、厚生労働省より、以下(※)の
通知がなされていることについて、審査支払機関及び医療機関
等へ周知徹底を図る。
【睡眠薬の投与に関するガイドラインの作成】
これまでの研究成果を踏まえ、日本睡眠学会における「睡眠薬
の投与に関するガイドライン」の作成を支援する。
さらに、精神疾患に伴う睡眠障害の方への治療に関して、薬物治
療の選択や変更等に関する診療ガイドラインの開発に資する研
究を支援する。
薬剤師に求められる対応
「薬の専門家」として
医師と患者の繋ぎ手として
国民・患者の相談の受け皿
適切な薬学管理
Ⅶ.まとめ
第7回通常総会会長演述より
自殺対策の施策と薬剤師会・薬剤師の係わり
H23.2.23日薬業発327号より一部改変
厚生労働省
「過量服薬への取組」
自殺・うつ病等対策プロジェクトチームとりまとめ(H22.9.9)
薬剤師の活用
・薬剤師によるリスクの高い患者への声かけ等の取組を推進
・薬剤師に対する薬物依存等に関する研修機会の提供
都道府県
うつ病に対する医療等の支援体制の強化事業
(平成22年度、23年度)
・過量服薬防止、自殺予防の観点
から業務業務の充実
・うつ等の病態や治療のあり方、適
切な患者対応等に関する知識の習
得(研修機会の活用)
・精神科医と一般かかりつけ医の連
携に加え、薬局からかかりつけ医・
精神科との連携も強化を図る
■精神科医と一般かかりつけ医の連携強化
○地域レベルでの定期的な連絡会議の開催
■精神医療関係者への研修
○精神医療関係者への研修(精神科に係る医師、看護師、薬剤師等)
○服薬状況の情報収集
内閣府
自殺対策強化月間、週間など
■実務的な支援策の強化
■支援策検索システムの強化
■メディアと連携した啓発強化 →メッセージの発信 「つながる“わ”、ささえる“わ”」
・都道府県等が実施する医療関係
者向け研修への参加
・都道府県等と連携して薬剤師向け
研修を実施
・薬局での啓発(ポスター掲示)
・ゲートキーパーとして、気づき、適
切な相談機関や医療機関へのつな
ぎ、見守りなどを行う
辻本氏が亡くなられる直前の
最後の講演で
• 医療に携わる方の忙しさは理解しています
• けれども、“ある意味” “一瞬芸”でも良いか
ら「ほんの一言」「もう一言」によって
• 患者さんが「自分に真剣に向き合ってくれて
いる」と思っていただけると感じていただけ
るような努力をお願いしたい。
過量服薬・薬物依存、自殺の防止
当面の対策①
辻本好子氏
薬剤師会
(患者の人権を守る「NPO法人ささえあい医療人権セ
ンターCOML」代表)≪平成23年6月18日ご逝去≫
薬剤師への遺言
「薬の専門家として堂々と情報提供するよ
り、ドクターの顔色や機嫌伺いながら、裏
方に徹する方が多いことを患者は敏感に
感じ取っています。」
(薬剤師研修センターニュース20年5月号記載)