プラビックス審議結果報告書

硫酸クロピドグレル、プラビックス錠 25mg、同 75mg
平成 18 年 1 月承認
[販売名]
1.硫酸クロピドグレル
2.プラビックス錠 25mg
3.プラビックス錠 75mg
[一般名]
硫酸クロピドグレル
[申請者]
1.サノフィ・サンテラボ第一製薬株式会社、2.、3.第一製薬株式会社
[申請年月日]
1.、3.平成 16 年 2 月 24 日(1.医薬品輸入承認申請、3.医薬品製造承
認申請)
2.平成 16 年 10 月 21 日(医薬品製造承認申請)
[剤型・含量]
錠剤:1 錠中、クロピドグレルとして 25mg 又は 75mg 含有
[申請区分]
医療用医薬品(1)新有効成分含有医薬品
[化学構造]
S
N
• H2SO4
O
Cl H
O
CH3
分子式
C16H16CINO2S・H2SO4
分子量
419.90
[化学名]
日本名
(+)-(S)-2-(2−クロロフェニル)-2-(4,5,6,7−テトラヒドロチエノ[3,2-c]
ピリジン−5−イル)酢酸メチルエステル一硫酸塩
英名
(+)-(S)-methyl 2-(2-chlorophenyl)-2-(4,5,6,7-tetrahydrothieno
[3,2-c]pyridin-5-yl)acetate monosulfate
[特記事項]
迅速審査
[審査担当部]
新薬審査第二部
1
審議結果報告書
平成 17 年 11 月 28 日
医薬食品局審査管理課
[販売名]
硫酸クロピドグレル(1)
プラビックス錠 25mg(2)、同 75mg(3)
[一般名]
硫酸クロピドグレル
[申請者]
サノフィ・サンテラボ第一製薬株式会社(1)
第一製薬株式会社(2)、(3)
[申請年月日]
[審査結果]
平成 16 年 2 月 24 日(1)、(3)、平成 16 年 10 月 21 日(2)
平成 17 年 11 月 24 日に開催された医薬品第一部会において、本品目
を承認して差し支えないとされ、薬事・食品衛生審議会薬事分科会に報告
することとされた。なお、本品目は生物由来製品又は特定生物由来製品に
該当せず、再審査期間は 6 年とし、原体は劇薬に該当し、製剤は毒薬又
は劇薬に該当しないとされた。
用法・用量は以下のとおりとされた。
「通常、成人には、クロピドグレルとして 75mg を 1 日 1 回経口投与するが、年齢、体重、症
状によりクロピドグレルとして 50mg を 1 日 1 回経口投与する。」
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審査報告書
平成 17 年 11 月 15 日
独立行政法人 医薬品医療機器総合機構
承認申請のあった下記の医薬品にかかる医薬品医療機器総合機構での審査結果は、以下のと
おりである。
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審査結果
平成 17 年 11 月 15 日
[販売名]
1.硫酸クロピドグレル
2.プラビックス錠 25mg
3.プラビックス錠 75mg
[一般名]
硫酸クロピドグレル
[申請者]
1.サノフィ・サンテラボ第一製薬株式会社、2.、3.第一製薬株式会社
[申請年月日]
1.、3.平成 16 年 2 月 24 日(1.医薬品輸入承認申請、3.医薬品製造承
認申請)
2.平成 16 年 10 月 21 日(医薬品製造承認申請)
[審査結果]
本薬(75mg、1 日 1 回投与)の虚血性脳血管障害後の再発抑制に関す
る有効性について、最終の発症から 8 日以上の脳梗塞症患者(心原性脳
塞栓症は除く)を対象とした 52 週間投与の第Ⅲ相無作為化二重盲検比
較試験(第Ⅲ相試験 B)において、主要評価項目とした「非致死性または
致死性の脳梗塞症」、「非致死性または致死性の心筋梗塞症」及び「その
他の血管死」の複合エンドポイントに関し、類薬の塩酸チクロピジン
(200mg、1 日 1 回投与)に対する非劣性が認められた。安全性について
は、同試験において、主要評価項目として取り上げた副作用の複合エンド
ポイントでは塩酸チクロピジンに対する優越性が示された。しかしながら、
発現した副作用の内容は両薬で類似しており、死亡も含めた重篤な有害
事象発現率は本薬群で有意に高く、本薬の薬理作用に起因する可能性
のある血小板・出血凝血障害の有害事象等も本薬群に多かった。本薬の
用量については、安全性をより考慮した検討の余地があり、このため、市販
後に本薬 50mg/日と 75mg/日の安全性を比較する臨床試験が実施される
予定であるが、安全性に懸念のある症例(高齢、低体重、出血性素因を有
する患者等)では 50mg/日から投与すべき旨規定し、塩酸チクロピジンと
同様に投与開始後の肝機能検査等に関する注意喚起等を添付文書中に
記載した上で、本薬を虚血性脳血管障害後の再発抑制薬の選択肢の一
つとすることは可能と判断した。
以上、医薬品医療機器総合機構における審査の結果、本品目は、以下
の効能・効果、用法・用量のもとで承認して差し支えないと判断し、医薬品
第一部会で審議されることが妥当と判断した。
[効能・効果]
虚血性脳血管障害(心原性脳塞栓症を除く)後の再発抑制
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[用法・用量]
通常、成人には、クロピドグレルとして 75mg を 1 日 1 回経口投与する。
ただし、年齢、体重、症状によりクロピドグレルとして 50mg を 1 日 1 回経口
投与する。
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審査報告(1)
平成 17 年 10 月 11 日
1. 申請品目
[販売名]
1.硫酸クロピドグレル
2.プラビックス錠 25mg
3.プラビックス錠 75mg
[一般名]
硫酸クロピドグレル
[申請者]
1.サノフィ・サンテラボ第一製薬株式会社、2.、3.第一製薬株式会社
[申請年月日]
1.、3.平成 16 年 2 月 24 日(1.医薬品輸入承認申請、3.医薬品製造承
認申請)
2.平成 16 年 10 月 21 日(医薬品製造承認申請)
[剤型・含量]
錠剤:1 錠中、クロピドグレルとして 25mg 又は 75mg 含有
[申請時の効能・効果] 虚血性脳血管障害に伴う血管性事故のリスク低減
[申請時の用法・用量] 通常、成人には、クロピドグレルとして 75mg を 1 日 1 回経口投与する。
[特記事項]
迅速審査
2. 提出された資料の概略及び医薬品医療機器総合機構における審査の概要
本申請において、申請者が提出した資料及び独立行政法人医薬品医療機器総合機構(以下、
機構)からの照会事項に対する申請者の回答の概略は、下記のようなものであった。
2-1. 起原又は発見・開発の経緯及び海外における使用状況等
硫酸クロピドグレル(以下、本薬)は、サノフィ社(現、サノフィ・サンテラボ社、フランス)で創製され
たチエノピリジン骨格を有する抗血小板薬であり、同様にチエノピリジン骨格を有する類薬の塩酸
チクロピジン(以下、チクロピジン)よりも強力な血小板凝集抑制作用を示す。なお、チクロピジン
は、国内外の大規模臨床試験で脳卒中や一過性脳虚血発作(以下、TIA)後の血管性事故抑制に
関 し て ア ス ピ リ ン よ り も 有 効 性 に 優 れ る と の 成 績 ( N Engl J Med 321:501-507,1989 、 Stroke
31:1779-1784,2000)が報告されているが、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、無顆粒球症、重篤
な肝機能障害等の重篤な副作用が稀に発現することについて平成 11 年 6 月及び平成 14 年 7 月
に緊急安全性情報が出されている。
本薬は、米国において、心筋梗塞症、虚血性脳血管障害及び末梢動脈疾患に関する効能・効
果で平成 9 年に承認され、その後 106 の国及び地域で承認されている(平成 17 年 9 月現在)。ま
た、急性冠症候群に関する効能・効果が 86 ヵ国で承認されている。
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本邦における本薬の開発は、平成□□□年からサノフィ社、第一製薬株式会社(以下、第一製
薬)及びサノフィ第一株式会社(現、サノフィ・サンテラボ第一製薬株式会社)の 3 社共同で行わ
れ、平成 16 年 2 月に本薬(原体)及び 75mg 錠の承認申請がなされた。さらに、審査の過程での
申請用法・用量の変更に伴い、25mg 錠の開発が行われ、平成 16 年 10 月に追加申請された。
なお、平成 16 年 2 月、日本脳卒中学会から厚生労働省宛に、本薬の早期承認に関する要望書
が提出されている。
2-2. 品質に関する資料
<提出された資料の概略>
本薬は、分子式 C16H16CINO2S・H2SO4、分子量 419.90 のチエノピリジン骨格を有する化合物で
ある。当初、チクロピジンにカルボキシメチル基を導入したラセミ体として開発された。その後、光学
分割が可能となり、S 体にのみ抗血小板活性があることが判明し、S 体のみが開発された。化学構
造は、元素分析、質量スペクトル、紫外及び赤外吸収スペクトル、1H−及び 13C-NMR 並びに粉末
Ⅹ線結晶構造解析により確認された。開発初期は FormⅠ原薬(□□□系)を用いて臨床試験が実
施されたが、その後、結晶多形の存在が判明し、製造上の利便性から FormⅡ原薬(□□□系)が
原薬として選択され、FormⅡ製剤が申請製剤である。なお、これらの結晶多形は、粉末Ⅹ線回析
パターン、赤外吸収スペクトル及び熱分析によって識別し得る。
(1) 原薬
規格及び試験方法として、原薬では性状(外観)、確認試験、純度試験(重金属、類縁物質、残
留溶媒)、水分、強熱残分及び含量(液体クロマトグラフ法による定量)が設定されている。
原薬の安定性試験としては、苛酷試験(加温:□□□℃/□□□/□□□日、加温湿:□□□
℃/%RH/□□□/□□□日、曝光:□□□/□□□/□□□日/総照度□□□万 1ux・hr)、長期保
存試験(25℃/60%RH/□□□ヵ月)及び加速試験(40℃/75%RH/6 ヵ月)が実施された。苛酷試
験以外の包装は、実生産ロットと同じポリエチレン二重袋/ポリエチレン製ドラムであった。苛酷試験
では外観、純度試験及び含量が、長期保存試験及び加速試験では外観、確認試験、純度試験、
水分及び含量が検討された。苛酷試験において加湿及び曝光により原薬の外観変化及び含量低
下とともに類縁物質量の増加が認められたが、長期保存試験及び加速試験においては特に変化
は認められなかった。したがって、原薬は湿度及び光の影響を受けるが、長期保存試験 3 年、加
速試験 6 ヵ月の結果から、遮光気密容器中室温保存で 3 年間は安定であるとし、リテスト期間を 3
年とした。
7
(2) 製剤
規格及び試験方法として、性状(外観)、確認試験、純度試験(類縁物質)、含量均一性試験、溶
出試験及び含量(液体クロマトグラフ法による定量)が設定されている。
製剤の安定性試験としては、75mg 錠及び 25mg 錠について苛酷試験(加温:□□□℃/
□□□/□□□日及び□□□℃/□□□/□□□ヵ月、加温湿:□□□℃/□□□%RH/□□□/
□□□日及び□□□℃/□□□%RH/PTP 包装/□□□ヵ月、曝光:D65 ランプ/□□□/保存期
間は総照度が 120 万 lux・hr 以上になるまで)、長期保存試験(25℃/60%RH/□□□ヵ月)及び加
速試験(40℃/75%RH/6 ヵ月)が実施された。苛酷試験以外の試験に用いたサンプルの包装形態
は、3 種類(PTP +アルミラップ包装(100 錠)、PTP +アルミラップ包装(140 錠)及びプラスチック
ボトル包装(500 錠))であった。75mg 錠及び 25mg 錠の苛酷試験では外観、確認試験、溶出試
験、類縁物質、吸湿増量、含量、安定化剤及び硬度が、長期保存試験及び加速試験では外観、
確認試験、水分、溶出試験、含量均一性試験、類縁物質、含量、安定化剤、硬度、結晶形及び微
生物限度試験が検討された。長期保存試験は 36 ヵ月まで実施する予定である。75mg 錠及び 25mg
錠は、苛酷条件下で温度及び湿度の影響を受けるが、類縁物質の増加や溶出の遅延はわずかで
あることが確認された。75mg 錠の長期保存試験(□□□ヵ月)では特に変化は認められなかった。
75mg 錠の加速試験並びに 25mg 錠の長期保存試験(□□□ヵ月)及び加速試験では、不純物量
が若干増加した。また、先行して実施していた FormⅠ製剤の安定性試験結果では 3 年間安定で
あり、申請製剤(FormⅡ製剤)は FormⅠ製剤と同等の安定性を示していることから、申請者は、75mg
錠及び 25mg 錠の有効期間も 3 年間であると結論付けた。
<機構における審査の概略>
機構は、FormⅡ原薬の製造が FormⅠ原薬と比較して容易であれば、FormⅡ原薬が優先的に
生成されると考えるが、FormⅠ原薬の開発が行われた理由及び結晶多形が判明する以前の原薬
ロットについて純粋な FormⅠ原薬であると断定できる根拠について、申請者に説明を求めた。
申請者は、以下のように回答した。開発当初の結晶多形に関する研究では多形の存在が確認さ
れなかったため 1 種類の結晶形(FormⅠ原薬)で開発を行った。最終晶析溶媒の□□□中の
FormⅡ原薬の溶解度は、FormⅠ原薬よりわずかに低く、溶解度の高い方の結晶形が優先的に生
成し、結晶多形の存在が発見されないまま開発が進められるケースは稀ではないと考える。また、
FormⅠ原薬と FormⅡ原薬は粉末Ⅹ線回析(検出限界□□□%)によって識別可能であり、
FormⅡ原薬の発見以前のすべての原薬について、粉末Ⅹ線回析による品質試験を実施していな
いが、19□□□年及び 19□□□年に製造された原薬 7 ロットについて粉末Ⅹ線回析を行い、す
べて FormⅠ原薬の回析パターンに一致することを確認した。さらに、長期保存試験の 36 ヵ月を経
過した FormⅠ原薬中に FormⅡ原薬が混在しないことを粉末Ⅹ線回析によって確認した。したが
8
って、結晶多形が判明する 19□□□年以前に製造されたロットの原薬は、純粋な FormⅠ原薬で
あると考える。
機構は、原薬の製造工程において光学分割に用いる□□□化合物 A*1□□□の光学純度が生
成物の光学分割比率に影響を与える可能性について、申請者に説明を求めた。
申請者は、以下のように回答した。これまでの□□□化合物 A*1□□□の使用実績及び本原薬
の製造実績では、□□□化合物 A*1□□□が旋光度の規格に適合していれば、原薬の光学純度
に重大な影響を与えていない。また、原薬中の光学異性体含量は原薬規格により十分管理可能で
あることも踏まえ、現在設定されている□□□化合物 A*1□□□の光学純度は、旋光度による規格
で十分管理できると考える。
機構は、原薬の類縁物質である類縁物質 A*1 のロット分析値が最大でも□□□%であることか
ら、類縁物質 A*1 の規格値を□□□%と設定することの妥当性について、申請者に説明を求め
た。
申請者は、より最近製造したロットの分析値を提出して、以下のように説明した。最近製造された
ロットでの類縁物質 A*1 の実績幅は、□□□%∼□□□%であった。□□□%を示したロットは、
標準書に従った定常生産による製造である。また、その他のロットの分析値は□□□%∼□□□
%を示していた。以上の最近の製造実績を考慮して、原薬中の類縁物質 A*1 の規格値を□□□
%と設定した。
機構は、類縁物質の合計についてロット分析での実測値が最大□□□%であることから、規格
値を□□□%と設定することの妥当性について申請者に説明を求めた。
申請者は、以下のように回答した。当初、各類縁物質の規格値を合計して□□□%となるところ
をより厳しく管理する意味で□□□%と設定したが、個別規定した類縁物質がすべて規格限度値
のレベルとなる可能性は非常に低いと考え、最近の製造ロットの実測値に基づき再設定することと
した。最近製造されたロットでの類縁物質の合計の実測値は最大□□□%であることから、類縁物
質の合計の規格値を□□□%と設定した。
機構は、原薬の結晶形の純度を規格に設定する必要性について、申請者の見解を求めた。
申請者は、以下のように回答した。「新医薬品の規格及び試験方法の設定について」(平成 13
年 5 月 1 日、医薬審発第 568 号)に従い考察 した (追加)ところ、FormⅠ原薬及び FormⅡ原薬
とも遮光気密容器中室温保存で 3 年間安定であり、保存中の結晶転移も認められない。また、
FormⅠ製剤及び FormⅡ製剤による生物学的同等性試験を実施し、両製剤は生物学的に同等で
あること、及び FormⅠ原薬と FormⅡ原薬は、同様の不純物プロファイルを有することを確認し、製
剤の有効性及び安全性は、結晶形の影響を受けないと推測した。以上より、結晶形の純度につい
て特に規格等で担保する必要性はないと考える。
*1
新薬承認情報提供時に置き換え
9
機構は、原薬の規格の設定は妥当であると判断した。
機構は、開発途中に認められた製剤の外観変化の原因について、申請者に説明を求めた。
申請者は、以下のように回答した。本薬と各種□□□剤との配合変化を調べ、中間製品 A*1 成
分のうち原薬と明らかな配合変化を示す成分は□□□であることを確認した。一般的に□□□は
酸化された場合過酸化物が生じることが知られており、製剤の外観変化の本質は、原薬と□□□と
□□□との配合変化であると考察している。しかし、□□□は本製剤の製造方法に用いている
□□□法 ( □□□法 )における□□□剤として不可欠な成分であるため、原薬と□□□との配合
変化を抑制する目的で中間製品 A*1□□□に□□□剤として□□□を添加した。実際に本対策を
施したパイロットスケール製造品では、中間製品 A*1 の経時的な外観変化がないことを確認した。
また、コーティングについても、□□□を含有しない処方のコーティングを□□□に、□□□を□□□
剤として含有する処方によるコーティングを□□□により、原薬と□□□との□□□を□□□させ、
コーティング□□□において原薬と□□□との配合変化は生じていないことも確認した。
機構は、製剤の確認試験が硫酸塩の定性反応のみであり、有効成分(本薬)の確認が定量法で
用いられている高速液体クロマトグラフ法の相対保持時間のみで特異性が十分とは言い難いことか
ら、原理の異なる確認試験の設定について再検討するよう申請者に求めた。
申請者は、紫外可視吸光度測定法による本薬の紫外吸収スペクトル(本薬のオルト位置換ベン
ゼン環に由来する吸収極大波長による確認)を追加設定すると回答した。
機構は、75mg 錠の類縁物質の規格値の設定において不適切な設定根拠(①類縁物質 B*1 の
設定において、加速試験の結果及び構造決定の閾値を根拠としていること、②類縁物質 C*1 の規
格値の設定において、実測値よりもかなり幅広く設定された原薬の規格値(□□□%)にさらに測定
時のバラツキの最大値を加算していること、③その他の個々の類縁物質の規格値の設定におい
て、原薬での規格値から構造決定の閾値を考慮して規格値を広げていること、④類縁物質の合計
の設定において、類縁物質の各規格値を加算して設定していること、⑤各類縁物質の規格値の設
定において、結晶形の異なる FormⅠ製剤の安定性試験の結果を用いていること)について再考の
上、類縁物質の規格値全般について再検討するよう申請者に求めた。
申請者は、以下のように回答した。類縁物質の規格値について、不適切な設定根拠及び
FormⅠ製剤の試験結果に基づいている部分については削除し、FormⅡ製剤の安定性試験での
実測値に基づく適切な設定根拠によって、75mg 錠の各類縁物質の規格値を再設定した。また、
25mg 錠の各類縁物質の規格値についても、同様に設定根拠を見直し、各類縁物質の規格値を再
設定した。
機構は、製剤の規格として水分の規格値を設定することの必要性について、申請者の見解を求
めた。
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申請者は、以下のように回答した。本薬の分解物には、□□□分解物である類縁物質 D*1 及び
光学異性体である類縁物質 A*1 があり、その増加には錠剤中の水分が影響するため、製造過程で
は□□□法を採用し、□□□濃度□□□w/v%のコーティング液を用いてフィルムコーティングを
行っている。また、製造時には□□□と□□□に錠剤の乾燥減量を測定することで、製剤の初期水
分量を管理している。さらに、流通条件下における品質保証を目的に、防湿包装として PTP 包装
にはアルミラップを施し、大入り包装には高密度ポリエチレンの材質を用いたプラスチックボトル包
装を用いて、製剤中への水分の増加を防いでいる。これらの包装を施した製剤中の水分量は、長
期保存試験及び加速試験においてほとんど変化が認められていない。以上のことから、製剤に水
分の規格を設定する必要はないと判断した。
機構は、製剤の長期保存試験及び加速試験時に、各包装形態(PTP +アルミラップ(100 錠及
び 140 錠)及びプラスチックボトル(500 錠))の試験開始時のデータを測定せずに、1 種類の包装
形態(PTP +アルミラップ(100 錠))のみを試験開始時に測定し、そのデータを他の包装形態の試
験開始時のデータとして用いることの妥当性について、申請者の見解を求めた。
申請者は、以下のように回答した。長期保存試験及び加速試験に用いた製剤はいずれも、温度
が□□□±□□□℃、湿度が□□□±□□□%RH で管理された治験薬製造区域で製造し、包
装を行った。75mg 錠及び 25mg 錠それぞれ同一の 3 ロットを用いて、長期保存試験及び加速試験
を同一日に開始した。また、包装実施から安定性試験開始まで最長でも約□□□ヵ月である。以上
のことより、「PTP +アルミラップ(100 錠)」の試験開始時のデータを「PTP +アルミラップ(140 錠)」
及び「プラスチックボトル(500 錠)」の試験開始時のデータとして用いることは問題ないと判断した。
機構は、原則として安定性試験の試験開始時点で各包装形態の試料の測定を行うべきであり、
今回の安定性試験の方法は好ましくないと考えるが、75mg 錠及び 25mg 錠それぞれの安定性試
験において同一のロットから 3 種の包装形態の試料を作成し、これらの試料について長期保存試
験及び加速試験を同一日に開始していることから、得られた試験結果を否定するほどの問題はな
く、本薬の安定性は保証できると考えた。
機構は、有効期間を結晶形の異なる原薬を用いた製剤のデータを基に設定することは妥当でな
いので、FormⅡ製剤のデータを基に有効期間を設定するよう求めた。
申請者は、75mg 錠については□□□ヵ月、25mg 錠については□□□ヵ月までの長期保存試
験結果を追加提出し、以下のように回答した。有効期間の設定において、FormⅠ製剤のデータは
削除し、FormⅡ製剤のデータを基に再設定することとした。現在までに、長期保存試験結果として
75mg 錠は□□□ヵ月、25mg 錠は□□□ヵ月の結果を追加取得しており、その期間安定であること
が確認できたので、これらの長期保存試験の結果を用い、「安定性データの評価に関するガイドラ
イン」(平成 15 年 6 月 3 日□□□医薬審発第 0603004 号)にしたがって統計解析を行い、75mg
錠では 36 ヵ月、25mg 錠では 30 ヵ月を有効期間とした。25mg 錠については、継続中の長期保存
試験結果を用いて有効期間 36 ヵ月までの延長を検討する。
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機構は、変更後の製剤の規格及び有効期間の設定については、妥当であると判断した。
2-3. 非臨床に関する資料
< 薬理試験成績の概要>
(1) 提出された資料の概要
1) 効力を裏付ける試験
1-1) 薬効発現の機序
A. ADP 受容体の選択的リガンド(2-MeS-ADP)を用いたラット血小板での受容体結合試験(ex vivo
試験)(資料 4.2.1.1-6)
SD 系雌性ラットに、水(対照)、本薬 0.77、3.83、7.66mg/kg 又は本薬の光学異性体類縁物質
E*1(類縁物質 A*1 の 1 硫酸塩)7.66mg/kg を単回、もしくはチクロピジン 176mg/kg/日を 3 日間経
口投与し、最終投与 2 時間後の血液から調製した洗浄血小板(血小板数 1.25×109 個/mL)への
3H-2-MeS-ADP
の特異的結合量を測定した(n = 3)。本薬は 0.77、3.83 及び 7.66mg/kg の単回
経口投与で、血小板 ADP 受容体への 3H-2-MeS-ADP の特異的結合量を減少させた。スキャッチ
ャード解析(n = 6)では、本薬は ADP 受容体の親和性(Kd 値)に影響せずに 3H-2-MeS-ADP の
結合可能な受容体総数(Bmax)を減少させ、非競合的阻害様式を示した。チクロピジンも ADP 受
容体へのリガンド結合を減少させたが、抗血小板作用を示さない類縁物質 E*1 は減少させなかっ
た。
B. ラット血小板 in vitro 凝集抑制作用(資料 4.2.1.1-1)
生理食塩液中又は本薬 0.5mM 存在下で、SD 系雌雄ラットより調製した多血小坂血漿(PRP)に
おいて、2.5μM ADP 惹起及び 10μg/mL コラーゲン惹起による凝集速度を比濁法により測定した
ところ、本薬はいずれのアゴニストに対しても血小板凝集を抑制しなかった。
C. クレアチンリン酸/クレアチンホスホキナーゼ(CP/CPK)存在下での血小板凝集に対する作用
(資料 4.2.1.1-7)
SD 系雌性ラットに水(対照)又は本薬 15.3mg/kg を単回経口投与し、2 時間後の血液から調製
した血小板(ADP 及びコラーゲン惹起血小板凝集測定には PRP を、トロンビン惹起血小板凝集測
定には洗浄血小板を用いた)において、ADP(0.5 ∼ 10μM)惹起並びに血小板からの ADP 放出
を介するコラーゲン(1 ∼ 10μg/mL)及び低濃度トロンビン(0.1U/mL)惹起による凝集は本薬によ
り消失したが、トロンビンは直接作用によっても血小板凝集を惹起するため、トロンビン濃度が上昇
する(0.2 ∼ 1U/mL)に従い血小板凝集抑制作用は減弱した。一方、ADP スカベンジャーである
CP/CPK 存在下(in vitro で添加)においては、ADP、コラーゲン並びに低濃度トロンビン及び高濃
度トロンビンに対する血小板凝集は、本薬投与非投与にかかわらず同様であった。
12
D. ウサギ血小板の cAMP 濃度変化に対する作用(ex vivo)(資料 4.2.1.1-8)
NZW 系雄性ウサギ(n = 10)に水(対照)又は本薬 19.2mg/kg を単回経口投与し、2 時間後の
血液から PRP を得た。フォルスコリン刺激(10μM、3 分間)による血小板内 cAMP 増加作用に対し
て 10μM ADP、100nM 2-MeS-ADP 及び 10μM エピネフリンは抑制的な作用を示した。本薬は
10μM ADP 及び 100nM 2-MeS-ADP の作用を抑制したが、10μM エピネフリンによる cAMP 濃
度低下には影響せず、本薬の血小板凝集抑制には ADP の受容体への作用を介することが示され
た。
E. 血小板に対する不可逆的作用(血漿と血小板の交差組み合わせ試験)(資料 4.2.1.1-1)
SD 系雌性ラット(n = 5)に水(対照)又は本薬 38.3mg/kg を単回経口投与し、2 時間後の血液
から血小板及び血漿を分離した。本薬投与又は非投与ラットの血漿にそれぞれの血小板を再懸濁
したところ、本薬投与動物由来の血小板は、いずれの血漿に再懸濁しても 2.5μM ADP 刺激で凝
集せず、非投与動物の血小板はいずれの血漿に再懸濁しても ADP により凝集した。したがって、
本薬による血小板凝集抑制作用は血小板に対する不可逆的な作用と考えられる。
F. 薬効発現における肝臓での代謝の必要性(資料 4.2.1.1-1)
SD 系雌性ラット(n = 8 ∼ (追加)10)で門脈血が肝臓を通過しない門脈−頸静脈シャントモデ
ルを作成し、生理食塩液(対照)又は本薬 19.2mg/kg を十二指腸内投与した。投与後 30 分の血
液から血小板数 106 個/μL の試料を調製して 5μM ADP 惹起による血小板凝集を測定したとこ
ろ、本薬の血小板凝集抑制作用は認められなかった。したがって、本薬の作用発現には肝臓での
代謝が必要であると考えられる。
1-2) 経口投与による抗血小板作用
A. ラット経口投与における ADP 惹起 ex vivo 血小板凝集作用の検討(資料 4.2.1.1-1)
SD 系雄性ラット(n = 5)に水(対照)、本薬 1.92、3.83、7.66、15.3mg/kg 又はチクロピジン
87.9mg/kg を、同雌性ラット(n = 5)に水(対照)、本薬 0.96、1.92、3.83、7.66mg/kg 又はチクロピ
ジン 87.9mg/kg を単回経口投与した 2 時間後の血液から得た PRP を用いた 2.5μM ADP 惹起に
よる血小板凝集は、本薬により用量依存的に抑制された。ED50 は雄性ラットでは 10.3mg/kg(95%
信頼区間 7.36 ∼ 18.0mg/kg)、雌性ラットでは 3.07mg/kg(同 2.68 ∼ 3.45mg/kg)であった。チクロ
ピジンは本試験条件では血小板凝集抑制作用を示さなかった。また、SD 系雄性ラット(n = 5)に水
(対照)、本薬 0.96、1.92、3.83、7.66mg/kg/日又はチクロピジン 87.9mg/kg/日を、同雌性ラット(n
= 5)に水(対照)、本薬 0.48、0.96、1.92、3.83mg/kg/日又はチクロピジン 87.9mg/kg/日を 1 日 1
回 3 日間経口投与したときの 2.5μM ADP 惹起による血小板凝集における ED50 は雄性ラットでは
3.07mg/kg(95%信頼区間 2.68 ∼ 3.52mg/kg)、雌性ラットでは 0.69mg/kg(同 0.54 ∼ 0.84mg/
kg)と増強され、チクロピジンも本試験条件では血小板凝集抑制作用を示した。さらに、SD 系雌性
ラット(n = 5)に水(対照)、本薬 1.92 又は 7.66mg/kg を単回経口投与し、投与 0.5、1、2、6、16、
13
24、48 及び 72 時間後の血液から得た血小板における 2.5μM ADP 惹起による凝集抑制効果
は、投与 6 時間後が最大で、7.66mg/kg では投与後 72 時間後も有意であった(P < 0.05:Dunnett
検定)。
B. ウサギ単回経口投与における ADP 惹起血小板凝集抑制作用の検討(資料 4.2.1.1-2)
NZW 系雌雄ウサギ(n = 8)に水(対照)又は本薬 19.2mg/kg を単回経口投与した 2 時間後の
血液から PRP を得た。10μM ADP 惹起による血小板凝集に対する抑制率は雄で 38.3%、雌で
40.8%であり、性差は認められなかった。
1-3) 経口投与による抗血栓作用
A. ラット銅線留置 AV シャントモデル(資料 4.2.1.1-3)
頸動脈と頸静脈の間に銅線を留置したポリエチレンチューブ(シャント)を設置した SD 系雌性ラ
ット(n = 8)に水(対照)、本薬 0.96、1.92、3.83 又は 7.66mg/kg を単回経口投与し、投与 2 時間
後にシャント内に 12 分間血流を維持した時、シャント内に形成された血栓の蛋白質量はすべての
用量で有意に(P < 0.05:Dunnett 検定)低下した。
B. ラット中大脳動脈血栓モデル(資料 4.2.1.1-4)
Wistar 系雄性ラット(n = 9 ∼ 10)に水(対照)、本薬 2.30 又は 7.66mg/kg を 1 日 2 回 2 日間経
口投与した。側頭部から中大脳動脈(MCA)を露出させ、血流安定後にローズベンガル 20mg/kg
を大腿静脈より投与し MCA に緑色光(540nm)を 8 分間照射して血栓を誘発し、MCA 閉塞時間を
測定した。また、血栓誘発の翌日に摘出した脳切片の脳梗塞面積率を算出した。本薬はいずれの
用量でも MCA の血栓による閉塞時間を短縮 血管閉塞を抑制 ( 閉塞時間を短縮 )し、脳梗塞領
域を縮小させた。
C. イヌ冠動脈周期的血流減少(CFV)モデル(資料 4.2.1.1-5)
人工呼吸下に開胸した雌雄雑種イヌ(n = 6 ∼ 9)の左冠動脈前下行枝の内皮細胞を血管クラ
ンプで傷害するとともに血管を狭窄させ冠血流量を減少させた。冠動脈での周期的血流減少
(CFV:周期的に発生した血小板血栓に起因する。)の発生を 1 時間確認した後、生理食塩液(対
照)、本薬 1.92、3.83mg/kg 又はアスピリン 5mg/kg を静脈内投与し、CFV の発生をさらに 2 時間
観察し、CFV が完全に消失した例にはエピネフリンを静脈 内 (追加)投与し、CFV 再誘発を観察
した。本薬 1.92mg/kg 群は 6 例中 3 例において、本薬 3.83mg/kg 及びアスピリン 5mg/kg 群は全
例において CFV 発生を抑制した。また、エピネフリンによりアスピリン投与群では 6 例中 5 例に
CFV が再誘発されたが、本薬 3.83mg/kg 投与群では再誘発されなかった。なお、本薬は本試験
系において心血行動態パラメータ(血圧、心室内圧、心拍出量、血流量及び心電図)には影響しな
かった。
14
1-4) 凝固・止血に対する作用
A. ラット血漿凝固時間(資料 4.2.1.1-13)
SD 系雌性ラット(n = 10)に水(対照)又は本薬 7.66mg/kg を単回経口投与した。陽性対照群に
はヘパリン 4mg/kg を皮下投与した。投与 2 時間後の血漿を用い、内因系凝固への作用は活性化
部分トロンボプラスチン時間、外因系凝固への作用はプロトロンビン時間及び抗トロンビン活性はト
ロンビン時間により評価したところ、いずれにおいても本薬群と対照群間に差は認められなかった。
一方、ヘパリン群ではすべての血漿凝固時間を延長した。
B. ラット出血時間(資料 4.2.1.1-14)
SD 系雌性ラット(n = 8)に水(対照)、本薬 0.96、1.92、3.83 又は 7.66mg/kg を単回経口投与
し、投与 2 時間後に尾端より 35mm の部位に深さ 1mm の傷を付けた後、15 秒毎に出血を確認し、
連続 2 回出血が認められない場合の最初に出血が認められなかった時点までを出血時間とした。
対照群(388.1±29.4 秒)に比し、本薬は 3.83mg/kg 以上の用量で出血時間を有意に(P < 0.05:
ノンパラメトリック Dunnett 検定)延長した。
1-5) 類縁物質、代謝物の効力に関する検討
A. SR26334(主代謝物)及び SR25552(活性代謝物 H4 の前駆体)のラット in vitro 血小板凝集に
対する作用(資料 4.2.1.1-9)
SD 系雌性ラットより調製した PRP における 5μM ADP 惹起血小板凝集に対して 0.1mM(最終濃
度)の SR26334A(SR26334 の 1 塩酸塩)又は SR25552B(SR25552 の 1 硫酸塩)は抑制作用を示さ
なかった。
B. 類縁物質 A*1、SR26334 及び SR25552 のラット ex vivo 血小板凝集に対する作用(資料
4.2.1.1-10)
SD 系雌性ラット(n = 8)に水(対照)、本薬 15.3mg/kg、類縁物質 E*1(類縁物質 A*1 の 1 硫酸
塩)15.3mg/kg、SR26334A 17.9mg/kg 又は SR25552B 15.5mg/kg を単回経口投与し、2 時間後の
血液から PRP を調製した。5μM ADP 惹起血小板凝集を類縁物質 E*1 及び SR26334A は抑制し
なかったが、本薬及び SR25552B は抑制した。
以上より、SR25552 がさらに代謝を受けて活性代謝物が生成されるものと推察された。
C. 活性代謝物 H4 のヒト血小板に対する作用
a. in vitro
33P-2-MeS-ADP
結合試験(資料 4.2.1.1-11)
SR25552 の光学活性体(S 体及び R 体)をヒト肝ミクロゾームと共にインキュベートし、本薬の活性
代謝物 H4 及びその光学異性体を精製した。ヒト血液由来の PRP における H4 又は光学異性体存
在下の 33P-2-MeS-ADP の血小板への特異的結合量(n = 3)を検討したところ、H4 のみ血小板
ADP 受容体への 33p-2-MeS-ADP の特異的結合量を用量依存的に減少させ、IC50 は 0.53μM
15
であった。スキャッチャード解析においては、H4 は 33P-2-MeS-ADP の Kd 値に影響せずに最大
結合量を減少させた。
b. in vitro ADP 惹起血小板凝集試験(資料 4.2.1.1-11)
H4 及びその光学異性体のヒト PRP における 5μM ADP 惹起血小板凝集に対する凝集抑制作
用(n = 6 ( 4 ))を検討したところ、H4 のみ用量依存的に血小板凝集を抑制した(IC50 =
1.8μM)。
c. P2Y12 発現 CHO 細胞の cAMP 濃度変化に対する作用(資料 4.2.1.1-12)
血小板 ADP 受容体 P2Y12 を発現させた CHO 細胞を生理食塩液(溶媒)又は H4(1.5μg/mL)
存在下で 10μM フォルスコリン刺激すると同時に、0.1 又は 1nM 2-MeS-ADP を添加したところ(n
= 9)、フォルスコリン刺激により増加した細胞内 cAMP 濃度は 0.1 及び 1nM 2-MeS-ADP により減
少したが、H4 で前処理した細胞では cAMP 濃度減少が抑制された。
2) 副次的薬理試験
今回の申請に当たって、新たな資料は提出されていない。
3) 安全性薬理試験(非 GLP 一般薬理試験成績)
本薬の投与経路は、原則として経口投与とし、経口投与での最大投与量は、尿排泄実験(383mg/
kg)及び胃粘膜傷害実験(766mg/kg)を除いて、臨床用量(75mg/man:約 1.5mg/kg)の約 100 ∼
130 倍(153 ∼ 192mg/kg)とした。必要な場合は、十二指腸内投与(最大用量:95.8 又は 192mg/
kg)、静脈内投与(最大用量:15.3 又は 30mg/kg:臨床予想血中濃度(約 4μg/mL)の約 40 ∼ 75
倍に相当)又はマグヌス管内適用(最大終濃度:3×10-5 又は 6×10-5M:臨床予想血中濃度の約
3 ∼ 6 倍に相当)により評価した。なお、本薬は投与後速やかに加水分解されるため、臨床予想血
中濃度はカルボン酸体 SR26334 の濃度である。
3-1) 中枢神経系に対する作用(資料 4.2.1.3-1 ∼ 6)
本薬は、47.9mg/kg 以上の経口投与でペントバルビタール麻酔時間の延長作用(CD1 系雄性
マウス)、95.8mg/kg 以上の経口投与で脳波の変化(α 波成分の減少、β 波成分の増加:CD
(SD)BR 系雄性ラット)、192mg/kg の経口投与で酢酸ライジングの抑制(CD1 系雄性マウス)を示
したが、多次元観察、自発運動量、協調運動、筋力、誘発痙攣、ホットプレート法による痛覚閾値、
体温(CD1 系雄性又は ddY 系雄性マウス)及び中枢神経系作動薬による行動・症状変化(CD1 系
雄性マウス及び CD(SD)BR 系雄性ラット)に対しては最高投与量 192mg/kg でも影響を及ぼさな
かった。
3-2) 呼吸・循環器系に対する作用(資料 4.2.1.3-2、7 ∼ 9)
本薬は、47.9mg/kg 以上の十二指腸内投与で呼吸数及び呼吸流量の増加を、4.60mg/kg 以上
の静脈内投与で呼吸数の増加及び大腿動脈の収縮を示した。また、95.8 又は 192mg/kg の十二
16
指腸内投与で心拍出量の変化(増加後減少又は減少)、95.8mg/kg の十二指腸内投与又は
15.3mg/kg の静脈内投与で血圧低下、最大呼気速度の減少、心電図変化(P 及び T 波の減高、
一過性の ST 上昇)などが認められた(麻酔雑種雌雄イヌ)。しかし、別途静脈内投与で実施した検
討では 10又は 30mg/kg を投与しても呼吸循環動態に変化を認めなかった(麻酔雌雄雑種イヌ及
び雄性ビーグル)。一方、覚醒ラット(Wistar 系雄性)では 15.3mg/kg 静脈内投与で血圧に変化を
認めなかったが、徐脈が認められた。NZW 系雄性ウサギ心臓 Purkinje 線維の活動電位に対して、
本薬は最高濃度(3×10-5M)で静止膜電位及び活動電位振幅を減少させ、活動電位持続時間を
短縮させた。
3-3) 自律神経系に対する作用(資料 4..2.1.3-10 ∼ 12)
本薬は、192mg/kg の十二指腸内投与でセロトニン誘発気管収縮を抑制したが、静止時気管緊
張度並びにアセチルコリン及びヒスタミン収縮には影響しなかった(麻酔 Three Color 系雄性モル
モット)。麻酔イヌ(雌雄雑種)における各種血圧反応は 95.8mg/kg の十二指腸内投与で影響され
なかった。本薬は、6×10-6M 以上の濃度で、回腸のニコチン、ヒスタミン及びセロトニン収縮(Hartley
系雄性モルモット)、ヒスタミン気管収縮(Hartley 系雄性モルモット)、KC1 大動脈収縮(JW 系雄性
ウサギ)、心房自発性収縮力(Hartley 系雄性モルモット)及びオキシトシン子宮律動収縮(WistarImamichi 系雌性ラット)の抑制を示した。6×10-5M ではその他、回腸のアセチルコリン及びバリウム
収縮(Hartley 系雄性モルモット)の抑制、輸精管自発性収縮の惹起(Hartley 系雄性モルモット)、
心房自発性拍動数の抑制(Hartley 系雄性モルモット)並びにアセチルコリン気管収縮の抑制
(Hartley 系雄性モルモット)が見られた。Wistar-Imamichi 系雌性ラット子宮(非妊娠及び妊娠)の
自発性収縮は 6×10-6M では収縮頻度が増加したが、6×10-5M では収縮力及び頻度ともに抑制
された。ノルエピネフリン輸精管及び大動脈収縮(Hartley 系雄性モルモット及び JW 系雄性ウサ
ギ)並びにイソプロテレノール心房収縮(Hartley 系雄性モルモット)は 6×10-5M においても影響さ
れなかった。
3-4) 消化器系に対する作用(資料 4.2.1.3-2、13、14)
本薬は、CD1 系雄性マウスの胃腸管輸送能には 192mg/kg 経口投与においても影響しなかっ
たが、SD 系雌性ラットの胃内容物排出能を 153mg/kg 経口投与で抑制した。本薬 192mg/kg 十二
指腸内投与は、CD(SD)BR 系雌性ラットの胃液分泌(基礎及びペンタガストリン刺激)に影響しな
かった。また、本薬は、230mg/kg 経口投与で Wistar 系雄性ラット胃体部に軽微な損傷を、766mg/
kg では胃体部、幽門部及び十二指腸部にも損傷を惹起した。同時に評価したチクロピジンも 300
及び 1,000mg/kg 経口投与で消化管粘膜を障害し、特に胃幽門部に対する作用が強かった。
17
3-5) その他の作用(資料 4..2.1.3-15、16)
本薬は、383mg/kg の経口投与で CD(SD)BR 系雌雄ラットの尿量を減少、尿中クレアチニン濃
度を増加(雄のみ)させ、15.3mg/kg 静脈内投与で JW 系雄性ウサギの腓骨神経刺激による前脛骨
筋収縮を増強した。
3-6) 主代謝物 SR26334 の安全性薬理作用(資料 4..2.1.3-15、16)
SR26334 は、ddY 系雄性マウスの多次元観察、ヘキソバルビタール麻酔時間、痛覚(酢酸ライジ
ング法)、Wistar 系雄性ラットの循環器系及び胃内容物排出能並びに JW 系雄性ウサギの骨格筋
収縮に対して、17.9mg/kg(塩換算:20mg/kg)静脈内投与まで影響しなかった。また、NZW 系雄性
ウサギ心臓 Purkinje 線維の活動電位に対しても、本薬は 3×10-5M まで影響を及ぼさなかった。一
方、同時に実施した本薬の 15.3mg/kg(塩換算:20mg/kg)静脈内投与により、ヘキソバルビタール
麻酔時間の延長、一過性の徐脈及び胃内容物排出能の抑制傾向を示した。
以上、本薬による作用は、いずれも臨床用量の約 12 ∼ 250 倍の高用量で観察されるものであ
り、また、チクロピジンも類似の作用を示すが、これまでのところ当該作用に関連した重篤な副作用
は報告されていない。
4) 薬力学的薬物相互作用試験
今回の申請に当たって、新たな資料は提出されていない。
4-1) 機構における審査の概要
機構は、本薬の抗血小板及び抗血栓作用を検討した薬理試験の一部で類薬のチクロピジンを
対照薬としなかった理由を尋ねたところ、申請者は、①ラットにおける単回投与後の血小板凝集の
時間的推移の検討については、本薬の特性の検証を目的としたために対照薬を設定しなかった
旨、②ラット銅線留置 AV シャントモデルでの検討では、チクロピジンは単回投与では血小板凝集
を抑制しないことから対照薬として設定しなかった旨回答した。
機構は、①に関して、血小板凝集の時間的推移を類薬と比較することが可能であるか申請者に
尋ねた。
申請者は、以下のように回答した。チクロピジンに関する公表データによると、ラットにおいて
176mg/kg 単回経口投与後の低濃度 ADP(1.0μM)惹起血小板凝集に対する抑制作用は持続的
で投与後 3 時間でピークに達し、半減期(以下、t1/2)は約 48 時間であることが示されている。一
方、本薬では、7.66mg/kg 単回経口投与後 6 時間で最大凝集抑制(86%)が認められ、投与後 48
時間における凝集抑制率は約 54%であり、両薬剤ともに臨床においても同様の推移を示す可能
性が推察される。
機構は、申請者に②の妥当性について説明を求めた。
申請者は、以下のように回答した。チクロピジンの単回投与における血小板凝集抑制作用を示し
た試験では、最終濃度 1μM 以下の低濃度 ADP が凝集惹起物質として用いられ、チクロピジン
18
8.79 ∼ 176mg /kg (追加)の単回投与によって ADP 惹起 ex vivo 血小板凝集が有意に抑制され
るとされているが、今回の一連の試験で設定した 2.5μM ADP による凝集惹起条件下では雌雄ラ
ットにおいてチクロピジン 87.9mg/kg単回投与による有意な血小板凝集抑制効果は認められてい
ない。この原因として、2.5μM ADP によって比較的強い血小板凝集が誘導されているために薬効
が検出しにくいことが考えられる。また、過去に申請者が実施したラット AV シャントモデルでの試験
において、チクロピジンは 176mg/kg 単回投与によっても血栓形成を抑制しなかったことから、
87.9mg/kg 単回投与では有効性を示さないことが推察され、ラット AV シャント試験における有効性
の根拠として、用いた条件(2.5μM ADP 惹起)による血小板凝集抑制作用の検出感度も妥当であ
ると考える。
機構は、ADP 惹起血小板凝集抑制作用を示さない用量のチクロピジンのような血小板凝集抑制
剤がラット AV シャントモデルにおいても抗血栓作用を示さないとした根拠を尋ねた。
申請者は、以下のように回答した。ラット AV シャントモデルを用いて本薬の抗血栓作用を検討し
た基礎試験において、本薬の抗血栓用量は 2.5μM ADP 惹起 ex vivo 血小板凝集抑制用量とほ
ぼ一致しており、有意な血小板凝集抑制作用を示さない本薬 0.96mg/kg の単回投与によるラット
AV シャントモデルにおける血栓形成抑制率は 26%と低く、薬効の閾値に相当すると推察される。
したがって、2.5μM ADP 惹起血小板凝集を有意に抑制しない薬剤(用量)はラット AV シャントモ
デルにおいて確実な抗血栓作用を示さないと考えた。なお、2.5μM ADP 惹起血小板凝集を有意
に抑制しないチクロピジン 176mg/kg 単回投与における血栓形成抑制率は 4%であり、有効性が
認められなかった。
機構は、これらの回答は妥当であると判断した。
機構は、本薬連投時の作用増強過程のメカニズムの詳細を尋ねた。
申請者は、以下のように回答した。ADP 受容体結合試験において、本薬 0.77、3.83、及び
7.66mg/kg の単回経口投与によるリガンド特異結合の低下率はそれぞれ 45、76、及び 81%であ
り、本薬 7.66mg/kg 以下の単回投与では血小板の ADP 受容体は本薬活性代謝物によって飽和
されず、一部の受容体がフリーの状態で残っていると推察される。また、本薬の ADP 受容体に対
する作用は不可逆的であり、無核である血小板では ADP 受容体がアップレギュレーションされる可
能性は極めて低いと考えられることから、反復投与した場合フリーの受容体に本薬活性代謝物がさ
らに結合してフリーの受容体数が減少するため、低用量投与においても作用が増強し、より高用量
の投与に相当する効果が得られるものと考えられる。したがって、一定回数以上の投与後は受容体
に対する本薬活性代謝物の結合が最大値に達して効果が定常状態に達することが予測され、ヒト
においては、連続投与 5 日目以降の血小板凝集抑制効果がほぼ一定に達することが示されてい
る。
機構は、これらの回答を了承した。
19
<薬物動態試験成績の概要>
(1) 提出された資料の概要
本薬の薬物動態は、動物(ラット、ヒヒ)及びヒトを対象に非標識体及び 14C−標識体を用いて検
討された。
1) 吸収(添付資料 4.2.2.2-1 ∼ 8)
雄性ラット及び雄性ヒヒにそれぞれ本薬の 14C−標識体 10 及び 5mg/Kg を単回経口投与した
時、血漿中放射能の最高濃度到達時間(以下、tmax)はラットで 6 時間、ヒヒで 2 時間(以下同
順)、血漿中最高濃度(以下、Cmax)は 5.2μg eq./g 及び 1.2μg eq./mL、血漿中放射能の t1/2
は 20.4 及び 107.9 時間であった。
本薬(非標識体)25mg/kg を単回経口投与した雌雄ラットにおいて、未変化体の Cmax(雄:
0.001μg/mL、雌:0.013μg/mL、以下同順)及び無限大時間まで外挿した血漿中濃度−時間曲
線下面 積 ( 性 )(以下、AUC0-inf)(0.002 及び 0.003μg・h/mL)は、雌性ラットで高く、tmax は雌
雄ともに投与後 1 時間であった。また、本薬 19.2mg/kg を静脈内投与した時の未変化体の AUC0inf(0.25
及び 0.99μg・h/mL)との比較から求めた本薬のバイオアベイラビリティはそれぞれ約 1 及
び 3%であった。本薬の加水分解生成物(SR26334)の Cmax(5.4 及び 19.6μg/mL)及び AUC0inf(74
及び 240μg・h/mL)も、雌性ラットで高く、SR26334 の t1/2 は、雄性ラットで 6.5 時間及び雌
性ラットで 8.6 時間であった。一方、本薬 25mg/kg を単回経口投与した雄性ヒヒでは、血漿中に未
変化体はほとんど検出されず、SR26334 の血漿中濃度は、投与後 3 時間に Cmax(8.8μg/mL)に
達し、AUC0-96h は 33.5μg・h/mL、t1/2 は 15.7 時間であった。
雄性ラット及び雄性ヒヒに本薬の 14C−標識体 5mg/kg をそれぞれ 21 日間及び 14 日間、1 日 1
回反復経口投与した時、各回投与後 24 時間における血漿中放射能濃度は、ラットでは 0.22 ∼
0.40μgeq./mL、ヒヒでは 0.25 ∼ 1.07μg eq./mL であり、ヒヒにおいて経日的に顕著に上昇する傾
向を示した。しかし、ヒヒにおける血漿中 SR26334 濃度(投与後 24 時間において定量限界以下)に
は反復投与による変動は認められなかった。
本薬の 14C−標識体 5mg/kg をラットの消化管ループ(胃、十二指腸、空腹及び回腸)内に注入
後 1 時間において、放射能の吸収率は胃で 11.6±3.8%、十二指腸で 58.9±19.2%、空腸で 63.9
±13.3%及び回腸で 65.5±3.1%であり、主に小腸部位から吸収されることが示された。
2) 分布(添付資料 4.2.2.3-1 ∼ 7)
雄性ラットに本薬の 14C−標識体 5mg/kg を単回経口投与した時、組織中放射能濃度は投与後
0.25 ∼ 2 時間に Cmax に達し、吸収部位である消化管壁以外では肝臓で最も高く、中枢移行性は
低かった。放射能濃度の t1/2 は 6 ∼ 68 時間であり、投与後 96 時間において肝臓、腎臓、動脈
壁、全血液及び肺における放射能は血漿中より高かった。なお、本薬の分布に性差は認められな
20
かった。また、全身オートラジオグラムにおいても、投与後 72 時間で肝臓、腎臓及び腸管内容物に
放射能の分布が認められた。有色ラット(Long Evans)では、葡萄膜(メラニン含有組織)において投
与後 4時間に Cmax に達し、肝臓と同レベルであった。それ以外の組織への移行は白色ラットと同
様であった。
雄性ラットに本薬の 14C−標識体 5mg/kg を 1 日 1 回 21 日間反復経口投与した時、各組織内
放射能濃度は経日的に上昇し、13 日目以降にはほぼ定常状態に達した。最終投与後 168 時間に
おいても、甲状腺、大動脈壁、肝臓及び腎臓で血液より高い放射能が検出された。肺、腎臓、肝臓
及び心臓における t1/2 は 62 ∼ 181 時間であった。
雄性ヒヒにおける本薬の血漿蛋白結合率は約 98%であり、雌雄ラット及び雄性ヒヒにおける
SR26334 の血漿蛋白結合率はいずれも 90%以上と高く、その結合の大部分は可逆的であった。ま
た、ヒヒにおける本薬の血球結合率は 19%であり、雌雄ラット及び雄性ヒヒにおける SR26334 の血
球結合率は 7 ∼ 12%であった。
妊娠 11 日目及び 19 日目のラットに本薬の 14C−標識体 5mg/kg を単回経口投与した時、妊娠
11 日目及び 19 日目のいずれにおいても胎盤通過性が認められたが、母動物血漿中放射能濃度
に対する胎児組織内放射能濃度の比は 0.4 以下であった。
3) 代謝(添付資料 4.2.2.4-1 ∼ 13、参考資料 5.3.3.1-20)
本薬の 14C−標識体 5 又は 10mg/kg を単回経口投与した雌雄ラットの血漿中には SR26334 及
び未知代謝物が、雄性ヒヒでは SR26334 及びそのグルクロン酸抱合体が検出された。雄性ラットの
尿中には、SR26334、そのテトラヒドロピリジン環が酸化された SR26576、S−オキサイド体の抱合体
及び多数の極性代謝物が検出されたが、投与後 24 時間までの各代謝物の排泄率は、いずれも投
与量の 1%以下であった。雄性ヒヒでは、SR26334(投与後 24 時間までの排泄率:投与量の 5.3%、
以下同様)、そのグルクロン酸抱合体(1.9%)、SR26576(1.8%)が検出された。ラットの胆汁中に
は、SR26334(約 1%)、そのグルクロン酸抱合体(約 7%)及び S−オキサイド体のグルタチオン抱
合体(約 34%)が検出され、S−オキサイド体の N−アセチルシステイン抱合体及びグリシルシステ
イン抱合体も検出された。ヒヒの胆汁中には、SR26334 のグルクロン酸抱合体(約 40%)及び
SR26334(約 6%)が検出された。未変化体は、尿中及び胆汁中には検出されなかった。
本薬の 14C−標識体をラットの血漿中に添加した時、雄性ラットでは 30 分以内に 100%が、雌性
ラットでは 2 時間で 80%がエステラーゼにより SR26334 に代謝されたが、エステラーゼ阻害剤(フ
ッ化カリウム)の添加により SR26334 への代謝が抑制された。一方、ヒヒ及びヒトの血漿中では本薬
は 4 時間以上安定であった。また、ラット、ヒヒ及びヒトの肝ミクロソームでは、本薬の代謝により、
SR26334 の他に、本薬の S−オキサイド体の二量体や本薬の 2−オキソ体である SR25552、そのチ
オラクトン環が開裂した H4、さらにそのチオール基が酸化されてチオケトン体となった SR26586 が
検出された。以上の試験成績より、本薬の主代謝経路として、1)エステル部分の加水分解により
21
SR26334 を生成する経路、及び 2)チオフェン環の酸化により S−オキサイド体を生成する経路が
推定された。また、これら代謝物のうち H4 のみが、in vitro において血小板 ADP 受容体に対する
2-MeS-ADP 結合並びに血小板凝集を阻害した。
雌雄ラットに本薬を 25、100 及び 400mg/kg/日で 111 日間反復経口投与した結果、肝ミクロソー
ム中の総 P450 含量は変化しなかったが、100 又は 400mg/kg/日投与群において、アミノピリン N
−脱メチル化酵素活性の 変動 ( 減少 )並びにテストステロン及び p−ニトロフェノールを基質とし
たグルクロン酸抱合酵素活性の増加が認められた。
4) 排泄(添付資料 4.2.2.2-6、4.2.2.4-2、4.2.2.5-1 ∼ 8)
雌雄ラット及び雄性ヒヒに本薬の 14C−標識体 5mg/kg を単回経口投与した時、投与後 144 時
間までの尿及び糞中への放射能の累積排泄率は、雄性ラットで投与量のそれぞれ 14 及び 79%、
雌性ラットではそれぞれ 22 及び 72%、雄性ヒヒではそれぞれ 37 及び 54%であった。また、雄性ラ
ット及び雄性ヒヒに 14C−標識体 5mg/kg をそれぞれ 21 及び 14 日間反復投与した時、最終投与
後の尿及び糞中への放射能の累積排泄率は、ラットでは総投与量のそれぞれ 9.3 及び 81.2%、ヒ
ヒではそれぞれ 27.0 及び 56.2%であった。
雌雄ラットの十二指腸内に本薬の 14C−標識体 5mg/kg を投与した時の放射能の胆汁排泄率
は、投与後 48 時間までで、雄では 74%、雌では 79%であった。胆汁中へ排泄された放射能の
20%以上が腸管から再吸収された。
授乳中ラットに本薬の 14C−標識体 5mg/kg を単回経口投与したところ、乳汁中の放射能濃度
は投与後 2 時間に Cmax(2.61μg eq./g)に達し、投与後 48 時間では 0.23μg eq./g であった。乳
汁中放射能濃度は血漿中放射能濃度の 0.3 ∼ 3.1 倍であった。
(2) 機構における審査の概要
本薬は代謝活性化が必要なプロドラッグであるが、初回通過効果が大きく血漿中に未変化体は
ほとんど検出されないこと、及び複数の代謝経路により代謝されるが、活性代謝物は化学的に不安
定であり定量法が確立されていないため、本薬の薬物動態については非活性代謝物について検
討されていることから、機構は、本薬の動態を非活性代謝物の動態により評価することの妥当性に
ついて検討を行った。
1) 本薬の代謝活性化経路及び代謝酵素
機構は、本薬の活性代謝物生成に関与する代謝経路及び代謝酵素について説明を求めた。
申請者は、以下のように説明した。本薬の活性代謝物 H4 の生成経路は、本薬の酸化過程で生
成される S−オキサイド体から分子内転位反応により 2−オキソ体 SR25552 が生成し、そのチオエ
ステル部分が加水分解され、活性代謝物 H4 が生成すると考えられる。本薬の代謝には、
CYP2B6、CYP2C19 及び CYP3A4 の関与が確認され、また CYP1A2、CYP2C9 及び CYP2E1 も関
22
与する可能性が示唆された。また、S−オキサイド体の生成には、CYP1A1、CYP1A2、CYP2B6、
CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6 及び CYP3A4 の関与が示唆された。さらに、予備的検討ではある
が、ヒト肝ミクロソーム及び各種ヒト CYP 発現系を用いて、SR25552 から H4 の生成が比較検討さ
れ 、 SR25552 か ら の H4 の 生 成 に 、 CYP1A2 、 CYP2B6 、 CYP2C8 、 CYP2C9 、 CYP2C18 、
CYP2C19、CYP2D6、CYP3A4、CYP3A5 及び CYP3A7 の関与が示唆されている。
2) 本薬の薬物動態の評価について
機構は、非活性体 SR26334 の測定意義について説明を求めた。
申請者は、以下のように説明した。本薬はラット、ヒヒ、ヒトのいずれにおいても速やかに代謝を受
けるため、血漿中に未変化体はほとんど検出されず、血漿中に検出される代謝物は主に SR26334
であった(本薬の 14C−標識体経口投与時の血漿中における SR26334 の放射能に対する割合
は、雄ラットでは投与後 2 時間で 87%、ヒヒでは投与後 2 時間で 81%、ヒトでは投与後 1 時間で
85%)。また、活性代謝物 H4 及びその前駆体である 2−オキソ体 SR25552 は、本薬の 14C−標識
体を投与したラット、ヒヒ及びヒトの血漿等 in vivo 系では検出されなかった。したがって、SR26334
の定量により、本薬の吸収(PK 試験、生物学的同等性試験、食事の影響、制酸剤の影響)を評価
することは妥当と考える。ただし、SR26334 は薬理活性を示さないことから、薬物相互作用試験等の
薬効評価を伴う試験においては、SR26334 の定量に加え、血小板凝集試験も併せて実施してい
る。
機構は、活性体 H4 を含む酸化的代謝による代謝物の測定及び定量状況について尋ねた。
申請者は、以下のように説明した。本薬投与後の血漿中に検出される代謝物は主に SR26334 で
あり、活性代謝物 H4 及び SR25552 は in vivo では検出されなかった。SR25552 は、in vitro 試験
にて血漿に添加後速やかに分解されることが確認されている。H4 は、肝ミクロソームを用いた invitro
試験において得られたのみであり、化学的に不安定なため生体試料中濃度測定及びその定量法
確立のための標品は得られておらず、H4 を含む酸化的代謝により生成する代謝物の生体試料中
濃度の定量は実施されていない。
機構は、定量が困難であるにもかかわらず、H4 が血小板凝集抑制の主要な関与因子とされて
いることから、ヒトの血漿、尿及び胆汁中代謝物の測定における H4 並びに H4 の関連化合物であ
る SR25552 及び SR26586 の検出限界を尋ね、ラット ADP 惹起血小板凝集抑制試験の成績にお
ける H4 の濃度から、in vivo において H4 が血小板凝集抑制に関与する可能性について考察を求
めた。
申請者は、以下のように説明した。 14C−標識体投与時のラット、ヒヒ及びヒト試料中の H4、
SR25552、SR26586 を含む代謝物の検出限界は、ヒトの血漿及び尿でそれぞれ 0.6 及び 0.5μM、
ヒヒの血漿では 0.4μM、ラットの血漿及び胆汁では 1.4 及び 2.9μM(他の代謝物の定量値及びそ
のピーク高さから算出したクロピドグレル換算値)であった。本薬を投与した動物あるいはヒトの乏血
23
小板血漿において血小板凝集抑制作用が認められないことから(Clin Appl Thrombosis/Hemostasis
2:35-42,1996)、活性代謝物 H4 は血小板との反応性が高く、生成量のほとんどが血小板に結合
し、血小板に結合しなかったものは不安定で血漿中にて速やかに分解されると考えられる。H4 の
in vitro における血小板凝集抑制作用及び血小板ADP 受容体への 33P-2-MeS-ADP 結合阻害作
用の IC50 が、それぞれ 1.8 及び 0.53μM と比較的高い値となった(「2-3.<薬理試験成績の概要
>」の項参照)理由として、H4 が不安定でその活性が低く見積もられたことによると推察される。
3) 本薬の血漿中における安定性について
機構は、ヒト及びヒヒの血漿中における本薬の安定性がラットと異なることについて考察を求め
た。
申請者は、以下のように説明した。本薬の加水分解は、フッ化カリウムにより阻害されることから、
カルボキシエステラーゼが関与すると考えられる。ラット及びマウスでは、肝臓中にて生成されたカ
ルボキシエステラーゼがゴルジ体を経て血漿中に分泌される分子種が存在する。本薬の加水分解
に関与するカルボキシエステラーゼの分子種については未検討であるが、ヒト及びヒヒ血漿中には
存在せずラット血漿中に存在するエステラーゼにより本薬が加水分解されるために、本薬はラット血
漿中で不安定であるのに対し、ヒト及びヒヒ血漿中では安定であると推定される。
機構は、以上の回答を了承した。
<毒性試験成績の概要>
(1) 提出された資料の概要
単回投与毒性試験は、マウス及びラットを用いた経口及び静脈内投与、ヒヒを用いた経口投与に
より実施された。
マウス経口投与試験(本薬 2,000 ( 1,500 )∼ 3.500mg/kg)において、雌雄マウスともに 2,000mg/
kg 以上で死亡が認められ、概略の致死量は雌雄ともに 2,000mg/kg であった。
ラ ッ ト 経 口 投 与 試 験 ( 雌 1,500 ∼ 3,500mg/kg 、 雄 2,000 ∼ 3,500mg/kg ) に お い て 、 雄 で
2,000mg/kg 以上、雌で 1,500mg/kg 以上で死亡が認められ、概略の致死量は雄で 2,000mg/kg、
雌で 1,500mg/kg であり、雌で毒性がわずかに強い傾向が認められた。両動物種とも、投与直後に
自発運動低下、呼吸促迫、虚脱及び流涎が観察され、死亡例ではチアノーゼ及び呼吸抑制がみ
られた。剖検により、生存例では腎皮質褪色、死亡例では出血を伴う消化管のびらん及び肺のうっ
血が認められた。組織学的検査ではマウスの死亡例に腎尿細管壊死が認められた。
マウス静脈内投与試験( 雌 120 ∼ 200mg/kg、雄 80 ∼ 200 ( 20 ∼ 300 )mg/kg)において、雌
雄ともに 140mg/kg 以上で投与後 1 時間以内に死亡が認められ、概略の致死量は雌雄ともに
140mg/kg であった。
24
ラット静脈内投与試験( 雌 30 ∼ 160mg/kg、雄 70 ∼ 160 ( 20 ∼ 300 )mg/kg)において、雄で
100mg/kg 以上、雌で 50mg/kg 以上で投与後 1 時間以内に死亡が認められ、概略の致死量は雄
で 100mg/kg、雌で 50mg/kg であった。両動物種ともに、投与時疼痛、四肢蒼白、神経過敏、労作
性呼吸及びチアノーゼが観察された。剖検では、死亡例に肺のうっ血が認められた。
ヒヒ経口投与試験(500 ∼ 3,000mg/kg)において、雄では 3,000mg/kg でも死亡は観察されなか
ったが、雌では 3,000mg/kg で 1/1 例の死亡(投与 24 時間後)が認められ、概略の致死量は、雄
では 3,000mg/kg 以上、雌では 3,000mg/kg であった。主たる所見として、嘔吐、 呼吸困難 ( 虚
脱 )が投与 8 時間まで、 虚脱 ( 呼吸困難 )及び黒色下痢便が投与 3 日までみられた。剖検で
は、生存例において胃粘膜の瘢痕形成が、死亡例で胃粘膜の黒色、表面粗造が観察された。
反復投与毒性試験としてラット混餌及び経口投与、ヒヒ経口投与試験が実施された。
ラット経口 3 ヵ月間反復投与試験(25、100、400mg/kg/日)において、本薬の対照群には蒸留水
が、比較対照としてチクロピジン 92.9mg/kg/日が投与された。チクロピジンの対照群には 10%アラ
ビアゴムが投与された。また、各群の雌雄各 10 匹を用いて 6 週間回復試験が実施された。
投薬に関連すると考えられる死亡が 100mg/kg/日の雌雄で 1/25 例、400mg/kg/日の雌で 3/25
例及び雄で 4/25 例認められた。本薬の刺激性に起因すると推察される喉頭気管炎、食道穿孔又
は気管支肺炎が疑われた。本薬のすべての用量群で薬理作用によると考えられる血小板の増加
がみられた。主たる所見として、100mg/kg/日以上ではナトリウム及びクロールの増加、肝細胞の軽
度肥大、肝重量の増加(雌)が、400mg/kg/日では肝重量の増加、流涎、体重増加の軽度抑制、摂
餌量の軽度減少(雌)、ヘモグロビンの減少、カリウム、血漿コレステロール、ALP(雄)及び GGT の
増加(雄)、尿 pH の低下並びに肝細胞滑面小胞体の増加が認められた。本薬 400mg/kg/日にお
けるこれら変化の発生頻度は、チクロピジン 92.9mg/kg/日と同程度であった。なお、これらの変化
はいずれも 6 週間休薬後に回復した。主代謝物 SR26334 の尿中排泄量は投与量に伴って増加
し、本薬の全身曝露が確認された。また、雌のほうが雄よりも高値であったが、これは代謝能の性差
によるものと考えられた。したがって、無毒性量は雌雄ともに 25mg/kg/日と判断された。
ラット混餌 52 週反復投与毒性試験(7.66、26.8、123mg/kg/日)において、123mg/kg で体重増
加抑制(雌)、血漿コレステロールの増加、肝相対重量増加、肝細胞肥大(雌 5/20 例)、肝細胞質
内小体形成(雄 5/20 例)が認められた。なお、この小体はリン脂質及び中性脂肪染色陽性で、電
子顕微鏡的検査では 1/4 例で膜性同心円構造物として観察された。主代謝物 SR26334 の尿中排
泄量は投与量の増加に伴って増加し、本薬の全身曝露が確認された。また、雌が雄よりも高値であ
ったが、これは代謝能の性差によると考えられた。無毒性量は雌雄ともに 26.8mg/kg/日と判断され
た。
ヒヒ経口 3 ヵ月間反復投与試験(25、100、400mg/kg/日)において、本薬の対照群には蒸留水
が、比較対照としてチクロピジン 92.9mg/kg/日が投与された。チクロピジンの対照群には 10%アラ
ビアゴムが同様に経口投与された。また、各群の雌雄各 3 匹を用いて 6 週間の回復性試験が実施
25
された。すべての用量群で薬理作用によるものと考えられる血小板凝集抑制がみられた。主たる所
見として、400mg/kg/日で、嘔吐、軽度の体重増加抑制(雄)、一過性の心拍数の減少、QT 時間の
延長(QTc には変化なし)、BSP クリアランスの一時的な低下、尿の pH 低下と比重増加、胃噴門部
のびらん(雌雄各 1 例)及び肝重量増加傾向が認められた。また、100mg/kg/日以上の雌で軽微
で一過性の心拍数の減少が認められた。なお、チクロピジン 92.9mg/kg/日でも、QT 時間延長(QTc
には変化なし)、心拍数減少、尿の pH 低下と比重増加及び肝重量増加がみられた。これらの変化
は、いずれも 6 週間休薬後に回復した。主代謝物 SR26334 の濃度は投与量の増加に伴って増加
し、本薬の全身曝露が確認された。無毒性量は雌で 25mg/kg/日、雄で 100mg/kg/日と判断され
た。
遺伝毒性試験は in vitro 試験として、細菌を用いた復帰突然変異試験、CHL 細胞及びヒト末梢
血リンパ球を用いた染色体異常試験、ラット初代培養肝細胞を用いた不定期 DNA 合成試験、V-79
細胞を用いた遺伝子突然変異(HPRT)試験及び in vivo 試験としてマウスを用いた小核試験が実
施された。その結果、いずれの試験においても本薬の遺伝毒性は認められなかった。
がん原性試験はマウス及びラットを用いて混餌投与で実施された。マウス混餌 78 週投与及びラ
ット混餌 104 週投与がん原性試験(7.66、26.8、76.6mg/kg/日)の結果、 マウス (追加)7.66mg/kg/
日群の雌雄及び 26.8mg/kg/日群の雌で、 肺 ( 肺胞上皮由来の )腺がんが認められたが、いず
れにおいても本薬に起因するがん原性、自然発生腫瘍に対する発生頻度に影響はなく、また、腫
瘍発生までの期間の短縮も認められなかった。なお、高用量の 76.6mg/kg/日は臨床投与量(75mg/
kg/日として計算)の約 50 倍に相当する。
生殖発生毒性試験はラット及びウサギを用いて実施された。ラット受胎能及び着床までの初期胚
発生に関する試験(25、100 又は 400mg/kg/日)において、雄ラットに交配前 71 日から雌の分娩ま
で、また雌ラットに交配前 15 日から妊娠 20 日あるいは分娩後 25 日まで経口反復投与した。各群
2/3 の母動物については妊娠 20 日に胎児検査を行い、残り 1/3 の母動物は分娩させ、雌雄親動
物の受胎能及び着床までの初期胚発生、F1 世代の成長、生殖機能及び受胎能、並びに F2 世代
の離乳までの発育に対する影響が検討された。
400mg/kg/日投与の雄親動物において 2/34 例は投与第 9 週又は第 14 週に立毛、蒼白又は
呼吸困難を示したため、屠殺した。親動物において、100mg/kg/日以上で流涎及び授乳期の摂水
量増加(雌)、400mg/kg/日ではさらに蒼白化、体重増加量減少、妊娠から授乳期の摂餌量減少
(雌)及び交配前から授乳期にかけての摂水量増加(雌)が認められた。また、雄では体重減少に
起因した生殖器の相対重量の増加がみられた。しかし、交尾率、授胎率等の生殖機能に投薬の影
響は認められなかった。
F1 出生児では、100mg/kg/日以上で離乳前後の軽度体重減少、400mg/kg/日では性周期の異
常が認められた。胎児(F1、F2)及び F2 出生児には影響は認められなかった。したがって、F0 雌雄
26
の一般毒性に対する無毒性量は 25mg/kg/日、生殖機能に対する無毒性量は 400mg/kg/日であ
り、次世代に対する無毒性量は、F1 出生児で 25mg/kg/日、胎児(F1 、F2 )及び F2 出生児では
400mg/kg/日と判断した。
ラット胚・胎児発生に関する試験(25、120、500mg/kg/日)において、雌ラットに妊娠 6 日から 17
日まで経口反復投与した。母動物では、120mg/kg/日以上で流涎、500mg/kg/日で体重増加量及
び摂餌量の減少並びに摂水量の増加が認められた。しかし、母動物の分娩・哺育能力などの生殖
機能及び胎児(F1)に投薬の影響は認められなかった。出生児(F1)では、500mg/kg/日で離乳後
の体重減少(雌)が認められた。しかし、出生児(F1)の行動機能、生殖機能及び胎児(F2)に本薬
の影響は認められなかった。したがって、本試験における無毒性量は、胎児(F1、F2)では 500mg/
kg/日、出生児(F1)では 120mg/kg/日と判断した。
ウサギ胚・胎児発生に関する試験(30、100、300mg/kg/日)において、雌に妊娠 6 日から 18 日
まで経口反復投与した。母動物では、300mg/kg/日で投与初期の体重減少が認められた。胎児で
は、生存率、成長及び形態発達に影響は認められなかった。したがって、本試験における無毒性
量は、母動物で 100 ( 300 )mg/kg/日、胎児で 300mg/kg/日と判断した。
本薬の全身曝露を確認するため、本薬 30、100、300mg/kg/日を雌ウサギに妊娠 6 日から 18 日
まで経口反復投与し、妊娠 6 日及び 18 日の投与後 1、4 及び 24 時間の主代謝物 SR26334 の血
漿中濃度を HPLC 法で測定した。その結果、SR26334 濃度は投与量に従って増加し、本薬の全身
曝露が確認された。なお、反復投与による SR26334 の蓄積は認められなかった
ラット出生前及び出生後の発生並びに母体の機能に関する試験(25、100、400mg/kg/日)にお
いて、雌ラットに妊娠 15 日から分娩 25 日まで経口反復投与した。母動物では、100mg/kg/日で流
涎及び授乳期の体重、摂餌量と摂水量の減少が認められた。400mg/kg/日でも同じ変化がみられ
たが、妊娠後期の摂水量は増加した。出生児では、400mg/kg/日で離乳後の体重減少(雌)が認
められた。出生児の行動、発育、生殖能力及び胎児(F2)には投薬の影響は認められなかった。し
たがって、本試験における無毒性量は、母動物で 25mg/kg/日、F1 出生児で 100mg/kg/日、F2 胎
児で 400mg/kg/日と判断した。
抗原性試験について、モルモットを用いた全身性アナフィラキシー反応及び受身皮膚アナフィラ
キシー反応誘発試験の結果、本薬に抗原性は認められなかった。
ラット免疫毒性試験(5 、 ( ∼ )10、100mg/kg/日)について、4 週間経口反復投与した結果、本
薬の免疫毒性は認められなかった。
代謝物の毒性試験としては、SR26334A を静脈内単回投与した時の LD50 は、雄マウスで 400mg/
kg 以上、雌マウスで 336mg/kg、雄ラットで 400mg/kg 以上、雌ラットで 454mg/kg であった。また、
復帰突然変異試験を行った結果は陰性であった。
27
不純物の毒性試験としては、類縁物質 F*1 を経口単回投与した時の LD50 は、雌雄マウスで
2,950mg/kg、雄ラットで 3,240mg/kg、雌ラットで 2,240mg/kg 以上 4470mg/kg 未満であった。類縁
物質 E*1 を経口単回投与した時の LD50 値は、雌雄マウスで 1,124mg/kg、雄ラットで 1,299mg/
kg、雌ラットで 1,343mg/kg であった。類縁物質 G*1 を経口単回投与した時の LD50 は、雌雄マウス
で 958mg/kg以上 1,920mg/kg 未満、雄ラットで 958mg/kg 以上 1,920mg/kg 未満、雌ラットで
1,350mg/kg であった。
2%類縁物質 E*1 又は 0.5%類縁物質 H*1 を含有した本薬をラットに経口 2 週間反復投与する
と、本薬 500mg/kg/日の毒性は不純物添加により軽度に増強されたが、25mg/kg/日では不純物
添加の影響は認められなかった。
不純物の遺伝毒性試験として、類縁物質 E*1 及び類縁物質 G*1 を単独で用いて復帰突然変異
試験が実施された。さらに、2%類縁物質 E*1 又は 0.5%類縁物質 H*1 を含有した本薬を用いて復
帰突然変異試験、in vitro 染色体異常試験及びマウス小核試験が実施された。その結果、類縁物
質 G*1 及び類縁物質 H*1 の遺伝毒性は陰性と判断した。一方、類縁物質 E*1 は、単独処理、本薬
添加処理ともに復帰突然変異試験で陰性であったが、2%類縁物質 E*1 を含有した本薬の染色体
異常試験では、陽性判定基準に達しない極めて軽度の増加が構造異常誘発率で認められたが、
マウス小核試験では陰性であった。
申請者は、本薬の安全性に特段の問題はないと判断した。
(2) 機構における審査の概略
機構は、マウス混餌 78 週投与がん原性試験において、7.66mg/kg/日群の雌雄及び 26.8mg/
kg/日群の雌で、 肺 ( 肺胞上皮由来の )腺がんが認められたことについて、本薬との関連性につ
いて尋ねた。
申請者は、以下のとおり回答した。本試験における肺の腺がんは、本薬 7.66mg/kg/日群では雄
4/50 例(8%)、雌 3/50 例(6%)、26.8mg/kg/日群では雄 0/50 例(0%)、雌 3/50 例(6%)に認め
られた。これらの発生率は、対照群の雄 2/100 例(2%)、雌 1/100 例(1%)に比べ高い値となって
いるものの、統計学的有意差及び用量に相関した発生率の増加は認められていない。
また、本薬投与群の雌での肺腺がん発生率は、試験実施施設の背景データの範囲外であった
が、対照群と比較して、前がん病変である過形成や肺腺腫の発生に差は認められないことから、雌
の肺腺がん発生率の増加は偶発的なものであり、本薬の投与と関連しない変化と考えられた。よっ
て、本薬は雌雄ラットの肺腺がんの発生率に影響しないと判断した。
機構はこの回答を了承した。
28
本薬でみられた主たる毒性試験の結果からは、類薬(チクロピジン)にみられない新たな有害事
象が発現する可能性は低いと考えられた。
2-4. 臨床に関する資料
< 臨床薬物動態及び臨床薬理の概要>
(1) 提出された資料の概要
1) 生物薬剤学及び関連する分析法の概要
FormⅠ製剤には、製剤開発過程での製造方法や処方の変更のため、PⅠ製剤、PⅡ製剤 A、
PⅡ製剤 B、PⅡ製剤 C 及び PⅢ製剤が存在するが、最終製剤は原薬を FormⅠから FormⅡに変
更し、PⅢ製剤と同一の処方及び製造方法を用いた。国内臨床試験は、第Ⅰ相試験を含め 25 試
験が実施されたが、国内における FormⅡ製剤の開発は第Ⅲ相試験開始後に開始されたため、
FormⅡ製剤と FormⅠ製剤の同等性試験を除くすべての臨床試験は FormⅠ製剤を用いて実施さ
れた。
各製剤の溶出試験、PⅢ製剤 75mg 錠と PⅢ製剤 25mg 錠及び FormⅡ製剤(最終製剤)75mg
錠と PⅢ製剤 75 ( 25 )mg 錠の同等性に関する試験は評価資料として、PⅢ製剤 75mg 錠と PⅡ製
剤 C25mg 錠、PⅡ製剤 C25mg 錠と PⅡ製剤 C50mg 錠、及び PⅢ製剤 75mg 錠と海外 PⅢ製剤
75 ( 25 )mg 錠の生物学的同等性試験は参考資料として提出された。
PI 製剤:サノフィ社(現、サノフィ・サンテラボ社)の当時の処方に基づいた錠剤であり、第Ⅰ相
試験で使用
PⅡ製剤 A:□□□の□□□を目的として、各添加剤の量の検討を行い、□□□方法を□□□
法から□□□法に変更した錠剤であり、前期第Ⅱ相試験で使用
PⅡ製剤 B:□□□剤並びに□□□剤を変更し、□□□の□□□及び□□□・□□□にお
ける□□□を改善した錠剤であり、後期第Ⅱ相試験で使用
PⅡ製剤 C:PⅡ製剤 B の□□□に伴う□□□の□□□によると推察される□□□に対応して
□□□剤を□□□した錠剤であり、薬物動態試験 A・B・C、生物学的同等試験 B・C 及び後
期第Ⅱ相試験で使用
PⅢ製剤:□□□剤として□□□を追加した錠剤であり、薬物動態試験 A、生物学的同等試
験 A・B・D・E 臨床薬理試験 A・B 及び第Ⅲ相試験 A・B で使用
FormⅡ製剤(最終製剤):FormⅡ原薬を用いて PⅢ製剤と同一の処方及び製造方法で製造
した錠剤であり、生物学的同等試験 E で使用
29
1-1) 製剤間の溶出挙動
PⅠ製剤、PⅡ製剤 A、PⅡ製剤 B、PⅡ製剤 C、PⅢ製剤及び FormⅡ製剤の溶出試験(溶出試
験法第 2 法、崩壊試験法第 1 液)を実施した結果、□□□分間の溶出率はすべて□□□%以上
であり、各製剤の溶出挙動が類似していることが確認された。また、FormⅡ製剤 75mg 錠と FormⅡ
製剤 25mg錠の溶出挙動及び FormⅡ製剤 25mg 錠と FormⅠ製剤 25mg 錠の溶出挙動がすべて
の試験条件において同等であることが確認された。
1-2) 製剤間の生物学的同等性試験(添付資料 5.3.1.2-1、5.3.1.2-6)
同等性試験 A(PⅢ製剤 75mg 錠と PⅢ製剤 25mg 錠)では、健康成人男性 32 例を対象に、PⅢ
製剤 75mg 錠 1 錠及び 25mg 錠 3 錠を 1 日 1 回 7 日間反復投与したクロスオーバー試験が実施
された。AUC0-24h 及び Cmax の対数値の平均値の差の 90%信頼区間は、それぞれ(log(1.01),log
(1.09))及び(log(0.98),log(1.24))であり、両製剤は生物学的に同等であることが示された。また、
投与 6 日目から 8 日目の 5μM ADP による血小板凝集抑制率について、両製剤は薬力学的に同
等であること(75mg 錠 1 錠:21.6±15.8%、25mg 錠 3 錠:23.9±17.0%)が示された。
同等性試験 E(FormⅡ製剤 75mg 錠と PⅢ製剤 75 ( 25 )mg 錠)では、健康成人男性 40 例を
対象に、FormⅡ製剤 75mg 及び錠 PⅢ製剤 75mg 錠を 1 日 1 回 6 日間反復投与したクロスオー
バー試験が実施された。最終採血時間までの血漿中濃度−時間曲線下面積(以下、AUCt)及び
Cmax の対数値の平均値の差の 90%信頼区間はそれぞれ(log(0.988),log(1.046))及び(log
(1.030),log(1.205))であり、FormI 製剤及び FormⅡ製剤は生物学的に同等であることが示され
た。また、血小板凝集抑制率について、FormⅠ製剤(58.5±15.5%)及び FormⅡ製剤(58.9
±13.4%)は薬力学的に同等であることが示された。
1-3) FormⅡ製剤 25mg 錠と FormⅡ製剤 75mg 錠の同等性について
FormⅡ製剤 25mg 錠と FormⅡ製剤 75mg 錠との間の処方変更水準(「含量が異なる経口固形
製剤の生物学的同等性試験ガイドライン」平成 12 年 2 月 14 日医薬審第 64 号)は、ヒトでの生物
学的同等性試験が必要な E 水準であるが、申請者は、①FormⅠ製剤 25mg 錠と FormⅡ製剤 25mg
錠、及び FormⅠ製剤 75mg 錠と FormⅡ製剤 75mg 錠は、それぞれ処方及び製造方法が同一で
あること、②FormⅠ製剤 75mg 錠と FormⅡ製剤 75mg 錠は、同等性試験 E において同等性が確
認されていること、③FormⅠ製剤 25mg 錠と FormⅠ製剤 75mg 錠は、ヒトでの生物学的同等性試
験によって同等性が確認されていること、④FormⅡ製剤 25mg 錠と FormⅡ製剤 75mg 錠の溶出挙
動及び FormⅠ製剤 25mg 錠と FormⅡ製剤 25mg 錠の溶出挙動がいずれの試験条件(日本薬局
方崩壊試験第 1 液液(pH1.2、以下、JP1 液)、水、Mcllvaine 液(pH□□□)、日本薬局方崩壊試
験第 2 液(pH6.8))においても同等であることから、ヒトでの生物学的同等性試験を実施せずに、
FormⅡ製剤 25mg 錠と FormⅡ製剤 75mg 錠の同等性は推定できると判断している。
30
2) 臨床薬理の概要
ヒト生体試料を用いた in vitro 試験の成績並びに日本人健康成人男性を対象とした本薬の薬物
動態及び食事の影響試験の成績が評価資料として、外国人健康成人男子及び動脈硬化性疾患
を有する高齢者、慢性腎不全及び肝硬変患者を対象とした本薬の薬物動態、体内動態及び食事
の影響試験の成績並びに薬物相互作用試験の成績が参考資料として提出された。
2-1) ヒト生体試料を用いた in vitro 試験の成績
A. 血漿蛋白結合率(添付資料 5.3.2.1-1 ∼ 6)
本薬の 14C−標識体及び 14C-4-SR26334A(SR26334 の塩酸塩の 14C−標識体)をヒトの血漿に
添加し、平衡透析法により血漿蛋白結合率を測定した。その結果、本薬及び SR26334 の血漿蛋白
結合率はそれぞれ 96 ∼ 99%及び 92 ∼ 95%であり、本薬の
14C-4-SR26334A
14C−標識体では
50μg/mL、
では 100μg/mL まで結合が飽和しなかった。また、それらの結合は可逆的であ
ることが示唆された。本薬は血清アルブミン及び低比重リポタンパク質との結合率が高く、SR26334
は血清アルブミンとの結合率が高かった。併用が予想される薬剤(ニフェジピン、アテノロール、ジ
ゴキシン、ラニチジン)及び内因性物質(ビリルビン、パルミチン酸)は、血漿蛋白への本薬及び
SR26334 の結合に影響を及ぼさなかった。
B. 血球結合率(添付資料 5.3.2.1-1)
本薬の 14C−標識体(0.1 ∼ 50μg/mL)及び 14C-4-SR26334A(0.1 ∼ 500μg/mL)をヒトの全
血液に添加し、血球結合率を測定した。その結果、血球画分への分布は、それぞれ 5 ∼ 14%及
び 9 ∼ 16%であった。
C. 本薬の代謝に関与する薬物代謝酵素(添付資料 5.3.2.2-3)
本薬はヒト肝ミクロソーム中での 10 分間のインキュベーションにより、50%以上が代謝された。代
謝物として SR26334 の他、S−オキサイド体の二量体、SR25552、H4 及び SR26586 が認められた。
本 薬 の 代 謝 に は 、 CYP2B6 、 CYP2C19 、 及 び CYP3A4 が 関 与 す る こ と が 示 さ れ 、 CYP1A2 、
CYP2C9、及び CYP2E1 が関与する可能性も示唆された。
D. 薬物代謝酵素に及ぼす影響(添付資料 5.3.2.2-1,2)
本薬及び SR26334 は CYP1A2、CYP3A4、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1、及び CYP2A6 を阻
害しなかったが、SR26334 は CYP2C9 を阻害した(Ki = 28μM)。
2-2) 薬物動態に関する検討試験の成績
A. 健康成人における薬物動態
a. 単回投与試験(添付資料 5.3.3.1-1)
日本人健康成人男性を対象に本薬 25、50、100、200 及び 400mg(各群 6 例)並びにプラセボ
(各群 2 例)を絶食下で単回経口投与し、未変化体及び SR26334 の血漿中薬物濃度及び尿中薬
物排泄量が測定された。未変化体の血漿中濃度は非常に低く、200mg(4/6 例)及び 400mg(6/6
31
例)群で投与後 0.25 ∼ 2.0 時間に未変化体が検出されたが(最高濃度 23.1ng/mL)、それ以外の
すべての測定ポイントでは定量限界(1.5ng/mL)以下であった。一方、SR26334 は本薬 25 ∼ 400mg
のいずれの用量においても血漿中に検出され、Cmax(各投与量における平均値:0.85 ∼
18.19μg/mL)及び AUCt(各投与量における平均値:1.68 ∼ 62.85μg・h/mL)は用量に比例して
増加した。尿中の未変化体は、200 及び 400mg 群でわずかに(平均値として 10ng/mL 以下)検出
されたのみであった。一方、SR26334 は、投与後 48 時間で投与量の 1.44 ∼ 3.15%が尿中に排泄
され、本薬 25 ∼ 400mg の各投与量群で SR26334 の累積尿中排泄率に顕著な差は認められなか
った。
なお、機構は、本試験は適合性書面調査の結果、原資料が保存されておらず、測定値の信頼性
が確認できなかったことから、参考資料と位置づけた(「3-1.適合性書面調査結果に対する機構の
判断」の項参照)。
b. 反復投与試験(添付資料 5.3.3.1-3)
日本人健康成人男性を対象に本薬 10、25、50 及び 75mg(各群 6 例)並びにプラセボ(各群 2
例)を 1 日 1 回絶食下で 10 日間反復経口投与した時、未変化体の血漿中濃度は、いずれの投与
群においても投与後 0.5 ∼ 4 時間に 1.4ng/mL 以下(平均値)であった。SR26334 の薬物動態パ
ラメータについては、AUC の一部で有意差がみられたものの、いずれの投与量群においても測定
日間(1、6 及び 10 日目)で Cmax 及び tmax に有意差は認められず、血漿中 SR26334 の体内動
態に蓄積などの影響は認められないと考えられた。
B. 体内動態(参考資料:5.3.3.1-7,8,19,20)
海外健康成人男性 6 例を対象に本薬の 14C−標識体 75mg を単回経口投与し、その後定常状
態に達した状態で経口投与した時の 14C の血漿中動態及び排泄バランスを比較検討した。14C の
血漿中濃度は投与 1 時間後にピーク(約 4μg-Eqv/mL)に達した。単回投与及び定常状態での
投与における見かけの消失半減期はそれぞれ約 338 及び 367 時間、AUC0-24h は 18.0 及び
18.5μg-Eqv/mL であった。投与 120 時間後までの累積排泄率は、単回投与と定常状態での投与
でそれぞれ投与量の約 92 及び約 93%に達し、尿中排泄量は約 41 及び約 46%、糞中排泄量は
約 51 及び約 48%であった。観察時期あるいは被験者に関係なく、尿中に未変化体は検出され
ず、同定された主な化合物は SR26334 及びそのグルクロン酸抱合体であった。血漿中において
も、未変化体は検出されず、同定された主な化合物は SR26334 であり、検出された放射能の約
85%を占めた。
海外健康成人男性 6 例を対象に本薬の 14C−標識体 75mg を単回経口投与した時、0.5 ∼ 1
時間後にピーク(平均 87Bq/mL;フリー体換算で 4.6μg/mL)に達した。14C の尿中排泄は全体の
約 50%であり、尿中排泄された 14C のうち 50%が 4 ∼ 8 時間以内に、95%が 48 時間以内に排泄
された。放射能の糞中排泄は主に最初の数日に起こり、5 日目にはごく微量であった。6 例中 4 例
32
の糞中排泄率の平均は、全体の 46%であった。他の 2 例については、糞の収集が不完全であっ
たため、低値となったと考えられた。尿中に未変化体は含まれておらず、主に SR26334 のグルクロ
ン酸抱合体が同定され、他に未同定の物質が多種認められた。
C. 特別な集団における薬物動態
a. 動脈硬化 性 (追加)疾患高齢患者(参考資料 5.3.3.2-2)
海外健康成人男性 12 例、動脈硬化性疾患合併高齢者 10 例及び動脈硬化性疾患を合併して
いない高齢者 10 例に対して、本薬 75mg を 10 日間反復経口投与した時、SR26334 の血漿中濃
度の Cmax はそれぞれ 2.65±1.02、3.47±0.55 及び 3.39±0.71ng/mL、AUC はそれぞれ 8.33
±1.94、16.97±3.16 及び 14.45±4.86mg・h/L であり、高齢者群で有意に高かったが、動脈硬化
性疾患を合併する高齢者と合併しない高齢者の集団間では有意差は認められなかった。なお、高
齢者のクレアチニンクリアランス(43.9 ∼ 75.3mL/min)は健康成人男性(77.4 ∼ 128.5mL/min)に
比べ低かった。
b. 慢性腎不全患者(参考資料 5.3.3.3-3)
海外において、クレアチニンクリアランスにより重度(5 ∼ 15mL/min)と中等度(30 ∼ 60mL/min)
の 2 群に分類された慢性腎不全患者(各 8 例)を対象に、本薬 75mg を 8 日間反復経口投与し、
薬物動態を検討した。重度慢性腎不全患者群における投与 8 日目の SR26334 の AUC0-24h(6.19
±2.37mg・h/L)、尿中排泄量(0.364±0.419mg)及び腎クリアランス(0.75±0.74mL/min)は、中等
度慢性腎不全患者群(AUC0-24h:11.03±2.86mg・h/L、尿中排泄量:2.29±1.16mg、腎クリアラン
ス:3.49±1.38mL/min)に比べ低かったが、Cmax 及び tmax には群間の差は見られなかった。重
度慢性腎不全患者では SR26334 の腎クリアランスが低下したが、AUC の上昇は認められなかっ
た。
c. 肝硬変患者(参考資料 5.3.3.3-4)
海外において、Child-Pugh 分類 A 又は B と診断され、生検あるいは肝シンチグラムを実施した
肝硬変患者 12 例及び健康成人 12 例を対象に、本薬 75mg の 10 日間反復経口投与が実施され
た。健康成人における未変化体の血漿中濃度は、ほとんどの時点において定量限界(1.5ng/mL)
以下であり、Cmax(1 日目:1.7±2.0ng/mL、10 日目:1.9±1.5ng/mL)のみ測定可能であった。一
方、肝硬変患者における未変化体の Cmax は 1 日目が 111.6±157.5ng/mL、10 日目が 99.7
±147.7ng/mL であり、肝機能の低下により本薬の代謝速度が低下する可能性が示唆された。
SR26334 の薬物動態パラメータは、肝硬変患者と健康成人の間に差は認められなかった。
D. 食事の影響
a. 単回投与(添付資料 5.3.3.1-2、5.3.1.2-6)
日本人健康成人男性(6 例)を対象に、本薬(PⅠ製剤)400mg を絶食下及び食後に単回経口投
与するクロスオーバー法により薬物動態が検討された。未変化体の血漿中濃度は極めて低く食事
33
の影響を判断することはできなかった。SR26334 の薬物動態パラメータについて、Cmax(絶食投
与:18.92±6.21μg/mL、食後投与:15.16±5.80μg/mL、以下同順)、AUCt(70.47±11.92μg・
h/mL、67.58±9.62μg・h/mL)及び tmax(1.25±0.42 時間、1.50±0.89 時間)のいずれも絶食下
と食後に有意差は認められなかった。また、投与後 48 時間における SR26334 の尿中累積排泄量
は食事の有無にかかわらず、投与量の約 3.5%であった。
日本人健康成人男性(12 例)を対象に、FormⅡ製剤 75mg を絶食時及び食後に単回経口投与
するクロスオーバー法により薬物動態が検討された。食後投与では血漿中 SR26334 の Cmax が低
値を示し(絶食投与:3.62±1.25μg/mL、食後投与:2.29±0.46μg/mL、以下同順)、tmax の遅延
(1.00±0.69 時間、1.88±0.80 時間)及び MRT の増加(5.85±1.07 時間、7.88±1.18 時間)が認
められる等、吸収の遅延が認められたが、AUCt(8.78±1.66μg・h/mL、8.46±1.36μg・h/mL)及
び t1/2(7.30±1.44 時間、6.86±0.86 時間)に有意差は認められなかった。
b. 反復投与(添付資料 5.3.3.1-4)
日本人健康成人男性を対象に、本薬(PⅠ製剤)50mg を絶食下(6 例)及び食後(6 例)に 1 日 1
回 10 日間反復経口投与した時の血漿中薬物濃度及び尿中薬物排泄量が測定された。未変化体
は 1 日目の 1 及び 2 時間後に血漿中に認められたのみであった(定量限界 1.5ng/mL)。反復投
与 10 日目の食後投与群における SR26334 の薬物動態パラメータは、絶食投与群と比較して、Cmax
が低値を示し(絶食投与:2.28±0.78μg/mL、食後投与:1.24±0.55μg/mL、以下同順)、tmax の
遅延が認められたが(0.83±0.26 時間、1.83±0.41 時間)、AUC0-24h には有意な差は認められな
かった(6.57±1.99μg・h/mL、6.23±1.70μg・h/mL)。
c. 海外健康成人男性を対象とした単回投与(参考資料 5.3.3.1-17)
海外の健康成人男性(12 例)を対象に、本薬 400mg を絶食下及び食後に単回経口投与するク
ロスオーバー法により薬物動態が検討された。未変化体の Cmax(絶食投与:0.006±0.006μg/
mL、食後投与:0.007±0.005μg/mL、以下同順)及び tmax(1.28±0.44 時間、1.50±0.71 時
間)、 並 び に SR26334 の Cmax(12.34±2.94μg/mL、10.56±2.18μg/mL)、AUC0-36h (46.73
±11.18μg・h/mL、49.36±12.81μg・h/mL)及び tmax(1.04±0.35 時間、1.50±0.71 時間)のい
ずれも絶食下と食後に有意差は認められなかった。
d. 海外高齢健康男性を対象とした単回投与(参考資料 5.3.3.3-1)
海外の 60 歳以上の高齢健康男性(12 例)を対象に、本薬 75mg を絶食下及び食後に単回経口
投与するクロスオーバー法により薬物動態が検討された。食後投与時の SR26334 の Cmax(2.71
±0.62μg/mL)は、絶食投与時(2.14±0.96μg/mL)に比べ低下したが、食後投与と絶食投与で
有意差は認められなかった。AUCt(7.12±1.60μg・h/mL、7.44±1.64μg・h/mL)及び tmax(0.92
±0.51 時間、0.88±0.57 時間)も両群間に有意な差は認められなかった。
34
E. 薬物相互作用(参考資料 5.3.3.1-14、5.3.3.4-6 ∼ 10 及び 14)
a. 肝酵素誘導
海外健康成人男性を対象に、本薬 75mg/日(10 例)及びプラセボ(10 例)を 10 日間反復経口
投与し、投与 2 日前と投与 10 日目にアンチピリンを単回経口投与した時のアンチピリンの薬物動
態を検討した。本薬の反復投与の前後に得られたアンチピリンの血漿中薬物動態パラメータ及び
2 種の代謝物(ノルアンチピリン、3-OH メチルアンチピリン)の尿中排泄量に差は認められなかっ
た。
b. 本薬の薬物動態に対する併用薬の影響
本薬とフェノバルビタール、制酸剤又はシメチジンとの併用による薬物相互作用が、海外健康成
人男性を対象に検討された。
フェノバルビタール 100mg/日を 14 日間反復投与した後、15 日目より本薬 75mg/日を 6 日間併
用した。その時の本薬投与 7 日目の本薬未変化体の Cmax は、本薬 75mg/日を単独で 7 日間反
復投与した時の本薬投与 7 日目の本薬未変化体の Cmax に比べ 60%減少したのに対し、SR26334
の Cmax は 27%増加した。SR26334 の AUC0-24h に有意差は認められなかった。
アルミニウム−マグネシウム制酸剤 800mg を本薬 75mg と併用し単回投与した時、本薬 75mg 単
独で単回投与した時と比較して、SR26334 の血漿中濃度の Cmax 及び tmax に有意な変化は認め
られず、AUCt に有意差(P = 0.018、分散分析)が認められたが、90%信頼区間が同等性を示す
範囲に含まれることから、併用による大きな変化はないと考えられた。
シメチジンとの併用の影響を検討するため、本薬 75mg/日を単独で 14 日間反復投与した後シメ
チジン 800mg を併用し 14 日間反復投与した時、本薬反復投与 14 日目とシメチジン併用 14 日目
の SR26334 の血漿中濃度の Cmax 及び AUCt に有意な影響は認められなかった。
c. 併用薬の薬物動態に対する本薬の影響
海外健康成人男性を対象に、ジゴキシン及びテオフィリンの薬物動態に対する本薬併用の影響
が検討された。
ジゴキシン 0.25mg/日を単独で 10 日間反復投与した後、本薬 75mg/日を 10 日間併用投与し
た時、本薬併用投与 10 日目のジゴキシン血漿中濃度の Cmax、tmax、及び AUC0-24h は、ジゴキ
シン単独投与 10 日目と比較し、有意な変化は認められなかった。
テオフィリン 300mg を 1 日 2 回、4 日間反復投与した後、本薬 75mg/日を 10 日間併用した時、
定常状態のテオフィリンの血漿中薬物動態(Cmax、tmax 及び AUC0-24h)は、本薬併用 1 日目と本
薬を併用した反復投与 10 日目で、有意な変化は認められなかった。
2 ヵ月以上ワルファリン維持療法 を (追加)受けている非弁膜症性心房細動患者に本薬 75mg/
日を 8 日間反復投与した時、本薬の併用によりワルファリンの血漿中濃度に影響を与えなかった。
上述したように、SR26334 は in vitro で CYP2C9 を阻害するが、CYP2C9 により代謝される S−ワル
35
ファリンの 血漿中薬物濃度 ( 薬物動態 )が本薬投与により影響されなかったことから、CYP2C9 に
より代謝される他の薬物の薬物動態にも影響しないと推察された。
2-3) 薬力学的検討試験成績
A. 第Ⅰ相試験
a. 単回投与試験(添付資料 5.3.3.1-1)
日本人健康成人男性を対象に、本薬 25、50、100、200 及び 400mg(各群 6 例)を絶食下で単回
経口投与し、5μM ADP 惹起血小板凝集能及び出血時間を測定した。投与 24 時間後における 25
∼ 400mg 群での血小板凝集抑制率はそれぞれ−5.3、18.9、32.3、41.6 及び 37.5%と 50mg から
200mg までは投与量の増加とともに上昇し、200mg 以上の投与量ではほぼ一定となった。また、い
ずれの投与群においても投与 48 時間後まで血小板凝集抑制率の低下は認められなかった。一
方、出血時間の延長と投与量との相関は認められなかった。
b. 反復投与試験(添付資料 5.3.3.1-3)
日本人健康成人男性を対象に本薬 10、25、50 及び 75mg 並びにチクロピジン 200 及び 300mg
(各群 6 例)を 1 日 1 回絶食下で 10 日間反復経口投与し、5μM ADP 惹起血小板凝集能及び出
血時間を測定した。本薬投与による血小板凝集抑制作用は、投与 5 日目でほぼ定常状態に達
し、投与 11 日目では、10 ∼ 75mg 群の血小板凝集抑制率はそれぞれ 19.3、35.4、49.8 及び
51.7%と投与量の増加とともに上昇した。チクロピジン 200 及び 300mg 群の投与 11 日目の血小板
凝集抑制率は、それぞれ 46.5 及び 44.5%であった。一方、出血時間の延長と投与量との相関は
認められなかった。
c. 本薬 100mg 反復投与試験(添付資料 5.3.3.1-5)
日本人健康成人男性(8 例)を対象に、本薬 100mg を 1 日 1 回朝食後に 5 日間反復経口投与
した時、初回投与 5 時間後より有意に血小板凝集抑制率が上昇し、最終投与翌日には 32.6%とな
ったが、最終投与 7 日後の血小板凝集能は投与前値に復した。出血時間は、投与中徐々に延長
したが、投与終了後速やかに投与前値に復した。
B. 臨床薬理試験 B(添付資料 5.3.5.1-2)
日本人脳梗塞症患者(125 例)を対象に、本薬 10、37.5 及び 75mg 又はチクロピジン 200mg を
1 日 1 回 14 日間経口投与し、本薬の用量反応性とチクロピジン 200mg の血小板凝集抑制作用か
ら、臨床推奨用量を推定した。10 ∼ 75mg 群の血小板凝集抑制率は、それぞれ 14.0、26.6 及び
39.8%であり、有意な用量反応性を認めた(P < 0.001、回帰分析)。一方、チクロピジン群は 34.9%
であり、75mg 群でチクロピジン群と最も近い点推定値を得た。
36
C. 患者集団を対象とした検討
a. 動脈硬化 性 (追加)疾患高齢患者(参考資料 5.3.3.2-1)
海外健康成人男性 12 例、動脈硬化性疾患合併高齢者 10 例、及び動脈硬化性疾患を合併し
ていない高齢者 10 例に対して、本薬 75mg を 10 日間反復経口投与した時、投与 8 ∼ 10 日目の
投与 2 時間後の血小板凝集抑制率の平均値は、健康成人男性で 57.2±4.51%、動脈硬化性疾
患合併高齢者で 54.9±6.74 ( 57.4±5.11 )%、動脈硬化性疾患を合併していない高齢者で 57.4
±5.11 ( 54.9±6.74 )%であり、各対象ともに 5μMADP により惹起された血小板凝集が有意に抑
制された。出血時間は各群とも約 1.5 倍に延長した。血小板凝集抑制率及び出血時間において、
3 群間で有意差は認められなかった。
b. 慢性腎不全患者(参考資料 5.3.3.3-3)
海外において、クレアチニンクリアランスにより重度(5 ∼ 15mL/min)と中等度(30 ∼ 60mL/min)
の 2 群に分類された慢性腎不全患者集団(各 8 例)を対象に、本薬 75mg を 8 日間反復経口投与
した時、血小板凝集抑制率は両群間で差が認められず、重度及び中等度とも投与後 8 ∼ 9 日で
最大であった。出血時間は中等度慢性腎不全患者に比べて重度慢性腎不全患者の方で長かった
が、本薬による出血時間の延長については、両群で差は認められず、投与後 8 ∼ 9 日で最大であ
った。血小板凝集抑制率及び出血時間は、投与終了後 7 日目(投与後 15 日)には、投与前値に
復した。
c. 肝硬変患者(参考資料 5.3.3.3-4)
海外において、Child-Pugh 分類 A 又は B と診断され、生検あるいは肝シンチグラムを実施した
肝硬変患者 12 例及び健康成人 12 例を対象に、本薬 75mg を 10 日間反復経口投与した時、健
康成人及び肝硬変患者における血小板凝集抑制率(投与後 10 日において、健康成人:66.7
±7.45%、肝硬変患者:49.2±38.6%、以下同様)及び出血時間延長率(1.54±0.87 倍、1.64
±0.49 倍)は同程度であった。
D. 食事の影響
a. 単回投与(添付資料 5.3.3.1-2)
日本人健康成人男性(6 例)を対象に、本薬(PⅠ製剤)400mg を絶食下及び食後に単回経口投
与(クロスオーバー法)した時、血小板凝集能及び出血時間は、絶食投与及び食後投与でほぼ同
様の推移を示し、食事は本薬の薬効発現に影響を及ぼさないと考えられた。
b. 反復投与(添付資料 5.3.3.1-3、5.3.3.1-4)
日本人健康成人男性を対象に、本薬(PⅠ製剤)50mg を絶食下(6 例)及び食後(6 例)に 1 日 1
回 10 日 間 反 復 経 口 投 与 し た 時 の 10 日 目 の 血 小 板 凝 集 抑 制 率 は 、 絶 食 投 与 群 で 40.2
±12.59%、食後投与群で 39.2±26.57%であり、食事の影響は受けないと考えられた。また、出血
時間については、両群の一部の被験者で施設基準値を越える出血時間の延長を認めたが、翌日
には正常時間内への回復を示し、食事の影響は受けないと考えられた。
37
E. 薬物相互作用(参考資料 5.3.3.1-14、5.3.3.4-6 ∼ 10 及び 14)
本薬とシメチジンとの併用では、本薬 75mg/日を単独で 14 日間反復投与した後シメチジン 800mg
を併用し 14 日間反復投与した時、シメチジン併用時に血小板凝集能に対する抑制効果の軽微な
減弱が認められた。本薬とフェノバルビタールとの併用では、フェノバルビタール 100mg/日を 14
日間反復投与した後、15 日目より本薬 75mg/日を 6 日間併用した時の本薬投与 7 日目の血小板
凝集抑制作用は、本薬 75mg/日を単独で 7 日間反復投与した時と比較しわずかな増強が認めら
れたが、出血時間には影響しなかった。
血小板凝集能及び血液凝固系に影響を及ぼす薬剤であるアスピリン、ナプロキセン、ヘパリン及
びワルファリンと本薬との併用における相互作用を検討したところ、本薬 75mg/日の 20 日間反復
投与期間中、投与 10 日目にアスピリン 1,000mg またはプラセボを 1 日 2 回に分けて投与した時、
アスピリン併用により投与 10 日目のアラキドン酸惹起による血小板凝集が強力に抑制されたが、併
用により出血を示す臨床症状はなかった。また、本薬 75mg/日またはプラセボを 12 日間反復投与
した後ヘパリン 300IU/kg/日を 5 日間持続静脈内投与した時、本薬の血小板凝集能に対するヘパ
リンの影響は認められなかった。ナプロキセン 500mg/日を 7 日間反復投与した後、本薬 75mg/日
またはプラセボを 11 日間併用した時、ナプロキセンと本薬の併用時に消化管からの出血の助長が
認められた。2 ヵ月以上ワルファリン維持療法 を (追加)受けている非弁膜症性心房細動患者に本
薬 75mg/日を 8 日間反復投与した時、本薬はワルファリンの抗凝固作用に影響を与えなかった。
健康成人男性に、本薬 75mg/日またはプラセボを 7 日間反復投与し、投与 7 日目にマレイン酸
エナラプリル 10mg を単回投与した時、本薬の併用はマレイン酸エナラプリルの単回投与における
血圧 降下 ( 効果 )作用に影響を与えなかった。
健康成人女性(閉経後)に本薬 75mg/日を 14 日間反復投与した後 1 ヶ月休薬し、17-β−吉草
酸エストラジオール 2mg/日を 15 日間反復投与した後、本薬 75mg/日を 14 日間併用した。エスト
ロゲン併用時と本薬単独投与時の血小板凝集抑制能及び出血時間に差はみられなかった。
(2) 機構における審査の概要
臨床試験においては結晶形が異なる製剤が使用され、特に食事により薬物動態に差異が認め
られていることについて、また薬物相互作用については特別な患者集団において用量調節が必要
となる可能性について等を中心に検討を行った。
1) 薬物相互作用について
機構は、シメチジン及びフェノバルビタールによる血小板凝集抑制作用への影響(参考資料
5.3.3.4-6,10)を踏まえて、本薬の効果に対する強力な CYP3A4 阻害剤の影響及び添付文書上で
の注意喚起の必要性について説明を求めた。
申請者は、以下のように説明した。H4 の生成に関しては CYP3A4 の寄与が最も大きいと考えら
れるが、CYP3A4 が完全に阻害された場合でも、その他の CYP 分子種による代謝経路が存在する
38
ため、H4 の生成が完全に途絶えることはなく、さらに、CYP3A4 以外の CYP 分子種が代償的に機
能する可能性も考えられる。また、シメチジンとの併用時には、血小板最大凝集率の有意な上昇が
認められ、フェノバルビタールとの併用時には、有意に低下が認められたが、単独投与群との差は
それぞれ 6.4及び 6.6%と小さいことから、本薬の抗血小板作用に対する影響は臨床上問題となる
ものではないと考える。さらに、CYP3A4 の基質であるアトルバスタチン併用により本薬の抗血小板
作用は減弱され、CYP3A4 誘導剤リファンピシンの併用では同作用が増強されるという報告
(Circulation 107:32-37,2003、Circulation 109:166-171,2004)もあるが、これらの報告で用いられて
いる血小板機能の測定法(Plateletworks 法)は、血小板機能の検出感度が低く、この測定法による
結果に関する臨床的な評価は定まっていないと考える。また、その他の臨床研究(Atherosclerosis
159:239-241, 2001、Am J Cardiol 92:285-288, 2003、Circulation 108:921-924, 2003、Circulation
108:2195-2197, 2003、Circulation 109:1335-1338, 2004)では CYP3A4 の基質であるアトルバスタ
チンをはじめとするスタチン系薬物の併用が本薬の抗血小板作用に影響を及ぼすという報告はな
い。したがって、現段階では使用上の注意において CYP3A4 の強力な阻害剤との併用に関して注
意喚起する必要は必ずしもないと考える。一方、本薬の活性代謝物の生成に CYP3A4 が寄与して
いることを臨床現場に周知することは重要であると認識しており、添付文書の薬物動態の項に記載
し臨床現場に周知することとする。
機構は、制酸剤、H2 ブロッカー及びプロトンポンプインヒビターとの併用において想定される胃
内 pH 上昇を踏まえ、これら薬剤との併用あるいは無胃酸の場合の本薬の体内動態及び臨床効果
への影響について考察を求めた。
申請者は、以下のように回答した。本薬は pH が低いほど溶解度が高く、また、硫酸イオンが解
離して溶液の pH が低下するため、水に対しても JP1 液(pH1.2)の場合とほぼ同様の溶出挙動を
示す。したがって、H2 ブロッカーやプロトンポンプインヒビターの併用時あるいは無胃酸等、胃酸分
泌が抑制された状態であっても、水とともに服用することにより胃内 pH が低下し、本薬は容易に溶
出するため、生物学的利用効率が大きく変動することはないと考えられる。実際、シメチジンの併用
により SR26334 の薬物動態パラメータに有意な変化は認められず、血小板最大凝集率の変化は軽
微であり、出血時間(Ivy Nelson 法)には影響が認められなかった。したがって、H2 ブロッカーの併
用は本薬の体内動態及び臨床効果に大きな影響を与えることはないと考えられる。また、プロトンポ
ンプインヒビターとの併用及び無胃酸における本薬の体内動態及び臨床効果については検討され
ていないが、シメチジン併用時とほぼ同様の結果が得られると考える。
機構は、以上の回答を了承した。
2) 食事の影響について
機構は、絶食と食後投与時の吸収に FormⅠ製剤と FormⅡ製剤で違いが認められることについ
て考察を求めた。
39
申請者は、以下のように回答した。国内外で実施された食事の影響に関する試験(単回投与)で
は、食後投与で Cmax は低下する傾向が認められている。これらの試験で用いられた統計手法は
同一ではないため、「後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドライン」(平成 9 年 12 月 22 日医薬
審第 487号)に従い、それぞれの試験の食事の影響について再度解析を行った結果、すべての試
験で AUC については食事の影響が認められなかったが、FormⅠ製剤、FormⅡ製剤にかかわらず
食後投与で軽微ながら Cmax が低下し、平均値の比の 90%信頼区間が同等性の範囲である 0.8
∼ 1.25 の範囲を越えており、Cmax において絶食投与と食後投与で生物学的に同等とは判定でき
なかった。FormⅠ製剤及び FormⅡ製剤の溶出挙動に差はなく、両製剤は健康成人男性による生
物学的同等試験において同等性が検証されているため、食事によって両製剤間の吸収に差が出
る可能性は少ないものと推測される。したがって、FormⅠ製剤と FormⅡ製剤において絶食投与と
食後投与時の吸収に認められた違いは、結晶形の違い(FormⅠ製剤と FormⅡの違い)よりむし
ろ、他の要因によって生じたものと考えられる。
機構は、本薬を絶食時に反復投与した場合、消化器症状(消化管障害の有害事象)が発現して
いることから、その原因及び注意喚起の必要性について尋ねた。
申請者は、以下のように回答した。国内の反復投与試験では、絶食時投与における 50mg 群及
び 75mg 群でいずれも 6 例中 3 例に消化管障害の副作用がみられたが、食後投与では認められ
なかった。消化器障害の副作用の発現の有無別に薬物動態パラメータを比較したが、明確な相関
は認められなかった。本薬の消化器症状の副作用は、本薬の苦味及び消化管刺激が関連してい
るものと推定されるが、消化器症状の詳細な発現機序については不明である。しかし、健康成人を
対象とした第Ⅰ相試験(反復投与)では、少数例の評価ではあるものの、絶食時投与群にのみ腹
痛、下痢などの消化器系の副作用が認められたことから、用法・用量に関連する使用上の注意に
「空腹時の投与は避けることが望ましい。」と記載し注意喚起することとする。
機構は、以上の回答を了承した。
3) 生物学的同等性試験について
機構は、通常、pH1.2、pH6.8 及びその他 pH の試験液を用いて、溶出試験に用いる試験製剤
を選定するにもかかわらず、FormⅡ製剤の溶出試験に用いる試験製剤の選定の際には、pH□□□
の試験液のみで行っていることの妥当性について、FormⅠ製剤の試験製剤の選定の際に、水でも
pH□□□と同程度のロット間差が見られ、かつ中間の溶出性を示したロットが異なっていたことを踏
まえた説明を求め、さらに、FormⅡ製剤の 25mg 錠及び 75mg 錠の溶出試験の結果、両製剤は同
等であるとしているが、JPl 液、McIlvaine 液(pH□□□)及び水における成績は、f2 関数の値がそ
れぞれ□□□、□□□及び□□□と基準値の下限付近であったことから、試験製剤のロットが異な
った場合でも同等性の基準を満たしうるのか、申請者の見解を求めた。
40
申請者は、以下のように回答した。本溶出試験は「後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドラ
イン」(平成 9 年 12 月 22 日医薬審発第 487 号)及び「後発医薬品の生物学的同等性試験ガイド
ライン等の一部改正について」(平成 13 年 5 月 31 日医薬審発第 786 号)に従って実施した。
FormⅠ製剤は、pH1.2、pH□□□、pH6.8 及び水を用いて予試験を行い、3 ロット間で溶出性の差
が最も大きくなった pH□□□の条件において中間の溶出性を示したロットを選定した。FormⅠ製
剤において中間の溶出性を示すロットは、pH□□□の場合と水の場合で異なったが、いずれの試
験液においても両ロットとも速やかな溶出を示し、□□□分間の平均溶出率の差は僅かであった。
しかし、25mg 錠を 3 錠用いた場合には、水では緩衝能が無いため 1 錠と比較し 3 錠では硫酸塩
である主薬の増加に伴う試験液の pH の低下に起因し.平均溶出率が高くなった。一方、pH□□□
では緩衝能を有するため 1 錠と 3 錠では平均溶出率に差は認められなかった。以上の結果より、
水は溶出試験液としては相応しくないと判断し、標準製剤(FormⅠ製剤)の選定に用いた pH□□□
の試験液で、試験製剤(FormⅡ製剤)の選定を行ったことは妥当であると考える。さらに、75mg 錠
1 錠と比較し、25mg 錠 3 錠では溶出性に寄与する錠剤の総表面積が大きくなるため、緩衝能のな
い水においては、溶出性の差がより大きくなり、f2 関数の値が見かけ上、下限付近になったものと
考える。また、製剤の選定に用いた pH□□□における溶出試験結果から、25mg 錠及び 75mg 錠
とも申請用サンプル 3 ロットの間に溶出プロファイルの差は認められていない。したがって、f2 関数
の値を算出するもととなる溶出プロファイルにロット間で差は無いものと判断する。
機構は、以上の回答を了承した。
4) 患者等における薬物動態について
機構は、重度慢性腎不全患者群における本薬の薬物動態パラメータが中等度慢性腎不全患者
群に比し低値となったこと、及び本薬の抗血小板作用に対する腎障害の程度の影響について説明
を求めた。
申請者は、以下のように説明した。中等度慢性腎不全患者と比較して、重度慢性腎不全患者で
は本薬投与後の SR26334 の AUC0-24h 及び腎クリアランスは低値を示したが、SR26334 の血漿中
濃度の増加は認められなかった。この原因として、本薬の腎外排泄の関与の可能性を明確に説明
できる試験成績はないが、胆汁排泄などの代償機能により SR26334 が排泄された可能性が考えら
れる。尿中排泄と胆汁排泄の両方が観察される薬剤については、尿中排泄に支障をきたした場
合、胆汁排泄の関与が増大することが知られており、また、胆汁排泄の関与以外にも、腎不全患者
の血漿中での蛋白結合率の変動により、薬物の代謝速度が影響される可能性や、尿毒素による肝
薬物代謝酵素の誘導及び尿毒素による肝機能低下の可能性も考えられる。一方、最終投与翌日
における血小板凝集抑制率及び出血時間延長率は腎障害の程度による影響は受けておらず、さ
らに、各個人における出血時間及び血小板凝集率とクリアチニンクリアランスについて散布図を作
成し比較検討したが、相関性は認められなかった。さらに、申請者は、重度腎障害患者では、血小
41
板機能障害が惹起され、血小板凝集能が低下する可能性があることから、慎重に投与を行なうべ
きと考えると述べた。
機構は、血中未変化体濃度が健康成人に比し、肝硬変患者において増加した理由及び肝機能
障害の程度と臨床効果の関係について説明を求めた。
申請者は、本試験に参加した Child-Pugh 分類 A(軽症)又は B(中等症)と診断された肝硬変患
者では、肝代謝活性が低く、未変化体から代謝物への代謝速度が低下するため、未変化体の Cmax
が高くなると考える。また、Child-Pugh 分類 A 及び B で層別した肝硬変患者について解析を行っ
たところ、分類 A の患者で血小板凝集抑制率が低値を示したが、より重症である分類 B の患者で
は健康成人の平均値に近い値を示し、出血時間も肝硬変の重症度による影響は認めら れ (追
加)なかったことから、本薬投与による血小板凝集能の抑制及び出血時間の延長に対して、肝機能
障害の程度は、大きな影響を与えないと考えられる。
機構は、添付文書(案)において、重篤な肝機能障害患者への投与に際し、「出血の危険性が増
すおそれがある。」としている根拠について説明を求めた。
申請者は、以下のように説明した。健康成人と肝硬変患者間で本薬による出血時間の延長に差
は見られなかったが、一般的に、重篤な肝硬変患者では凝固因子の産生低下、血小板減少等に
より出血傾向を呈するため、重篤な肝機能障害のある患者については、添付文書(案)に「出血の
危険性が増すおそれがある。」と記載した。
機構は、臨床試験での本薬投与による肝機能障害に関する有害事象の検討も踏まえて、肝機
能関係の副作用についての注意喚起等については専門協議での議論を踏まえ判断したい(「2-4.
<臨床的有効性及び安全性の概要>」参照)。
機構は、血小板凝集抑制率と投与量との関係において、脳梗塞症患者では健康成人の場合と
比較して用量反応関係が下方にシフトしている傾向がみられる点について説明を求めた。
申請者は、以下のように説明した。虚血性脳血管障害患者の血小板凝集能は健康成人と比較
して、変わらないとの報告(Lancet 1:821-824,1977)及び亢進しているとの報告(Thromb Diath
Haemorrh 23:159-169,1970)があり、高齢者の血小板凝集能は若年者に比べ亢進しているとの報
告(Ne o (削除)urology 26:888-895,1976、Blood Coag and Fibrinolysis 11:723-728,2000)等もあ
る。一方、血小板凝集能の測定は、施設、測定者、測定手技等によって影響を受け易いことが知ら
れており、一施設で実施された健康成人の試験に比べ、多施設で実施された患者の試験では、血
小板凝集抑制率のばらつきが大きい傾向が認められる。本薬の虚血性脳血管障害患者及び健康
成人の成績は、同一試験計画で血小板凝集能を比較した成績ではなく、両者の厳密な比較は困
難であり明確な結論を出すことはできないが、虚血性脳血管障害患者の血小板凝集抑制率が健康
成人に比べ、用量反応関係が下方にシフトする傾向を否定できない。
42
機構は、本薬の臨床評価における血小板凝集能の測定管理は重要と考え、国内で実施された
血小板凝集抑制に関する評価方法について確認したところ、申請者は精度管理に留意し実施した
と回答した。
機構は、虚血性脳血管障害患者において、本薬投与による血小板凝集抑制効果が低いことを
踏まえ、出血に関連した注意喚起等については専門協議での議論を踏まえ判断したい(「2-4.<臨
床的有効性及び安全性の概要>参照」)。
< 臨床的有効性及び安全性の概要>
(1) 提出された臨床試験成績の概略
評価資料として、健康成人日本人男性を対象とした第Ⅰ相試験、薬物動態試験、同等性試験 A
及び同等性試験 E の 4 試験、並びに虚血性脳血管障害患者を対象とした臨床薬理試験 B、第Ⅲ
相試験 A 及び B の 3 試験の合計 7 試験が提出された。なお、国内において前期第Ⅱ相試験、後
期第Ⅱ相試験及び臨床薬理試験 A が実施されたが、実施計画書からの逸脱症例が多くデータの
信頼性の観点から、これらの臨床試験については参考資料として提出された。(各臨床試験におけ
る薬物動態及び臨床薬理試験成績は、「2-4.<臨床薬物動態及び臨床薬理の概要>」参照)
1) 第Ⅰ相試験
1-1) 単回投与時の安全性及び薬物動態の検討(添付資料番号 5.3.3.1-1、実施期間 19□□□年
□□□月∼ 19□□□年□□□月)
健康成人男性を対象に、本薬 25、50、100、200、400mg(各群 6 例)及びプラセボ(各群 2 例)を
絶食下で単回経口投与する単盲検比較試験が実施され、本薬の安全性及び薬物体内動態が検
討された。総投与症例 40 例に治験薬との因果関係が否定できない随伴症状は認められなかっ
た。治験薬との因果関係が否定できない臨床検査値異常変動として、50mg 群に尿潜血 1 例、200mg
群に白血球数減少 1 例及び 400mg 群に脳波の異常所見 1 例が認められたが、いずれも軽度で
あり無処置のまま消失した。申請者は、本薬 400mg までの単回投与の忍容性が確認されたと説明
した。
1-2) 食事の影響の検討及び薬物動態の検討(添付資料番号 5.3.3.1-2、実施期間 19□□□年
□□□月∼ 19□□□年□□□月)
健康成人男性 6 例を対象に本薬 400mg を食後もしくは絶食下で単回経口投与する非盲検クロ
スオーバー試験が実施され、本薬の安全性及び薬物体内動態(吸収に及ぼす食事の影響)が検
討された。治験薬との因果関係が否定できない随伴症状として絶食投与群に鼻出血及び点状出
血斑が認められた。治験薬との因果関係が否定できない臨床検査値異常変動として、白血球数減
少、赤血球数減少及びヘモグロビン減少が食後投与群に 1 例、また、絶食投与群では白血球数
減少が 2 例、赤血球数減少及び白血球分画異常がそれぞれ 1 例認められた。なお、出血時間は
43
食後投与群で 3 例、絶食投与群で 4 例に基準外値への延長が認められた。申請者は、食後投与
群と絶食投与群の安全性を比較した結果、両群間に差は認められなかったと説明した。
1-3) 反復投与時の安全性及び薬物動態の検討(添付資料番号 5.3.3.1-3、実施期間 19□□□年
□□□月∼ 19□□□年□□□月)
健康成人男性を対象に、本薬 10、25、50 及び 75mg(各群 6 例)並びにチクロピジン 200 及び
300mg(各群 6 例)並びにプラセボ(各群 2 例)を 1 日 1 回絶食下で 10 日間反復経口投与する単
盲検比較試験が実施され、本薬の 10 日間反復投与による安全性及び薬物体内動態を検討する
とともに、チクロピジンとの比較により、臨床有効用量が推定された。下図左側に示すように、本薬
75mg 群における血小板凝集抑制率は、投与終了後徐々に低下したが、投与終了 14 日目におい
ても投与前値(図の基線、0%)まで戻らなかった。一方、海外第Ⅰ相試験(添付資料番号
5.3.3.1-9、75mg/日、14 日間反復投与)では、終了後 7 日間で血小板凝集能抑制効果は消失し
ていた(下図右側)。
総投与症例 48 例のうち、治験薬との因果関係が否定できない随伴症状は、本薬 50mg 群 5 例、
本薬 75mg 群 3 例、及びチクロピジン 300mg 群 3 例に認められた。副作用のうち 2 件以上発現し
た事象は、軟便 5 件(本薬 50mg 群 2 件、75mg 群 3 件)、下痢 4 件(本薬 50mg 群 1 件、75mg 群
2 件、チクロピジン 300mg 群 1 件)、腹痛 4 件(本薬 50mg 群 1 件、75mg 群 2 件、チクロピジン
300mg 群 1 件)、頭痛 4 件(本薬 50mg 群 3 件、75mg 群 1 件)、左下腹部痛、左下腹部圧痛、心
窩部圧痛が各 2 件(いずれも本薬 75mg 群)、嘔気 2 件(本薬 50mg 群 1 件、チクロピジン 300mg
群 1 件)であった。治験薬との因果関係が否定できない臨床検査値異常変動は、総ビリルビン上昇
2 例(本薬 10mg 群及び 50mg 群で各 1 例)、ALT(GPT)上昇 2 例(本薬 25mg 群、チクロピジン
200mg 群で各 1 例)、中性脂肪上昇 1 例(本薬 25mg 群)であった。出血時間の基準外値への延
長は、本薬 25mg 群及び 50mg 群並びにチクロピジン 200mg 群及び 300mg 群で各 1 例、本薬
75mg 群 5 例、プラセボ群 2 例に認められた。副作用は 75mg 群で認められた腹痛(中等度)1 例を
除きすべて軽度であった。申請者は、本薬 10mg/日から 75mg/日までの反復投与における忍容性
が確認されたと説明した。
44
図 国内(左)及び海外(右)における本薬 75mg 反復投与時の血小板凝集抑制率(5μM ADP)の
推移
1-4) 食後反復投与の影響の検討(添付資料番号 5.3.3.1-4、実施期間 19□□□年□□□月∼
19□□□年□□□月)
健康成人男性を対象に、本薬 50mg(6 例)又はプラセボ(4 例)を 1 日 1 回毎朝食後に 10 日間
反復投与する単盲検比較試験が実施され、本薬の安全性及び薬物体内動態が検討された。
総投与症例 10 例のうち、治験薬との因果関係が否定できない随伴症状として本薬群 2 例に軽
度の出血(出血時間測定の穿刺部位からの出血、鼻出血及び採血部位の皮下出血)及び注射部
疼痛が認められた。治験薬との因果関係が否定できない臨床検査値異常変動として、本薬群に白
血球数増多(1 例)、便潜血陽性(1 例)が認められた。なお、プラセボ群では副作用は認められな
かった。申請者は、50mg/日食後反復投与における忍容性が確認されたと説明した。
2) 薬物動態試験 A-100mg 反復投与試験−(添付資料番号 5.3.3.1-5、実施期間 19□□□年
□□□月∼ 19□□□年□□□月)
健康成人男性(8 例)を対象に、本薬 100mg を 1 日 1 回朝食後に 5 日間反復経口投与する非
盲検試験が実施され、本薬の忍容性、血小板凝集抑制効果及び体内動態が検討された。出血時
間は全例において延長が認められたが、いずれも最終投与後 47 時間以内に基準値へ回復した。
また、治験薬との因果関係が否定できない随伴症状及び臨床検査値異常変動は認められなかっ
た。申請者は、本薬 100mg/日反復投与の忍容性が確認されたと説明した。
3) 同等性試験
3-1) 同等性試験 A:75mg 錠と 25mg 錠の生物学的同等性比較試験(添付資料番号 5.3.1.2-1、実
施期間 19□□□年□□□月∼ 19□□□年□□□月)
健康成人男性(32 例)を対象に、PⅢ製剤 75mg 錠 1 錠及び 25mg 錠 3 錠を 1 日 1 回 7 日間反
復経口投与するクロスオーバー試験が実施された。総投与症例 32 例のうち、治験薬との因果関係
45
が否定できない随伴症状として 1 例(25mg 錠投与時)に鼻出血が認められた。また、治験薬との因
果関係が否定できない臨床検査値異常変動として 25mg 錠投与時に AST(GOT)と ALT(GPT)の
上昇が、75mg 錠投与時に ALT(GPT)の上昇が各 1 例に認められた。出血時間の基準外値への
延長が、25mg 錠投与時に 15 例、75mg 錠投与時に 16 例に認められた。申請者は、本薬 75mg 錠
1 錠と 25mg 錠 3 錠の安全性を比較した結果、臨床上問題となる差は認められなかったと説明し
た。
3-2) 同等性試験 E:FormⅠ製剤と FormⅡ製剤の生物学的同等性及び FormⅡ製剤を用いた食事
の影響の検討(添付資料番号 5.3.1.2-6、実施期間 20□□□年□□□月∼ 20□□□年□□□
月)
健康成人男性(ステップ 1:40 例、ステップ 2:12 例)を対象に、ステップ 1(生物学的同等性試
験)では、PⅢ製剤(FormⅠ製剤)75mg 錠 1 錠もしくは FormⅡ製剤 75mg 錠 1 錠を初回のみ絶食
下に投与し、2 日目は休薬し、3 日目より 6 日間は朝食後に 1 日 1 回(合計 7 日間)経口投与する
非盲検クロスオーバー試験が、ステップ 2(食事の影響試験)では、FormⅡ製剤 75mg 錠 1 錠を絶
食下もしくは朝食後に 1 日 1 回経口投与する非盲検クロスオーバー試験が実施された。ステップ 1
では、Form Ⅰ ( Ⅱ )製剤投与群において鼻腔内違和感及び不安感が生じた 1 例の治験の継続
は困難とされ、治験が中止された。また、 FormⅡ製剤 ( ステップ 2 では、絶食 )投与群の投与後
2 日目に発熱及び水様便が出現した 1 例で治験が中止された。
1. ステップ 1 での有害事象(随伴症状)の発現率は、FormⅠ製剤 27.5%(11/40 例)、FormⅡ
製剤 23.1%(9/39 例)であった。そのうち副作用(随伴症状)の発現率は、FormⅠ製剤 7.5%
(3/40 例)、FormⅡ製剤 15.4%(6/39 例)であり、その内容は、軟便(FormⅠ製剤 1 例、
FormⅡ製剤 6 例)、水様便 1 例(FormⅠ製剤)、鼻出血 1 例(FormⅠ製剤)であったが、い
ずれの事象も投与継続中あるいは投与終了後に消失した。臨床検査値異常変動の発現率
は、FormⅠ製剤 15.0%(6/40 例)、FormⅡ製剤 12.8%(5/39 例)であった。そのうち因果関
係が否定できないものは FormⅠ製剤 15.0%(6/40 例)、FormⅡ製剤 10.3%(4/39 例)であ
り、その内訳は中性脂肪上昇(FormⅠ製剤 5 例、FormⅡ製剤 4 例)及び ALT(GPT)上昇
(FormⅠ製剤 1 例)であった。
2. ステップ 2 での有害事象(随伴症状)は絶食投与群にのみ認められ、その発現例数及び発現
件数は 2/12 例(16.7%)5 件(咽頭痛:2 件、軟便、咽頭発赤、扁桃炎:各 1 件)であり、治験
薬との因果関係はいずれも否定された。臨床検査値異常変動は食後投与群に認められ、そ
の発現例数及び発現件数は 2/12 例(16.7%)3 件(好酸球増多、尿潜血陽性、沈渣(赤血
球)陽性:各 1 件)であり、いずれも治験薬との因果関係は否定されなかった。
46
申請者は、安全性に関して、FormⅠ製剤及び FormⅡ製剤の間に臨床上問題となる差はなく、
また、FormⅡ製剤の絶食投与と食後投与を比較した結果、臨床上問題となる差はないものと考え
られたと説明した。
4) 臨床薬理試験 B(添付資料番号 5.3.5.1-2、実施期間 20□□□年□□□月∼ 20□□□年
□□□月)
脳梗塞症患者(目標症例数各群 26 例、計 104 例)を対象に、本薬 10mg、37.5mg、75mg 又はチ
クロピジン 200mg を 1 日 1 回 14 日間経口投与する無作為化二重盲検並行群間比較臨床薬理試
験が実施され、本薬の用量反応性の検討、及びチクロピジン 200mg の血小板凝集抑制作用を参
考とした国内臨床推奨用量の検討がなされた。
急性期の治療から離脱し、症状の安定した脳梗塞症患者(心原性脳塞栓症は除く)125 例の被
験者が登録され、そのうち 1 例が登録後に陳旧性脳出血が判明して除外され、FAS 解析対象(安
全性解析対象)は 124 例、PPS 解析対象(有効性解析対象)は、治験薬未投与の 1 例、除外基準
に抵触した 5 例(心原性脳塞栓症の疑い 2 例、頭蓋内出血の既往、白血球減少の疑い、悪性新
生物の完全寛解から 5 年未満が各 1 例)、途中で治験を中止した 4 例、及び併用禁止薬が投与さ
れた 1 例を除く 114 例(10mg 群 29 例、37.5mg 群 28 例、75mg 群 28 例、チクロピジン群 29 例)で
あった。
PPS 解析対象での血小板凝集抑制率(平均値±標準偏差)は、10mg 群 14.0±21.9%、37.5mg
群 26.6±19.7%、75mg 群 39.8±20.9%及び塩酸チクロピジン群 34.9±18.2%であり、本薬の 3
投与量群において用量の増加とともに有意に上昇した(P < 0.001、回帰分析)。本薬各群とチクロ
ピ ジ ン 群 の 血 小 板 凝 集 抑 制 率 の 平 均 値 の 差 ( 95 % 信 頼 区 間 ) は 、 10mg 群 − 20.9 %
(-31.4%,-10.3%)、37.5mg 群−8.3%(-18.9%,2.4%)、75mg 群 4.9%(-5.7%,15.6%)であり、
75mg 群でチクロピジン群と最も近い点推定値を得た。
有害事象(随伴症状)発現率は、10mg 群で 16.1%(5/31 例)、37.5mg 群で 15.6%(5/32 例)、
75mg 群で 34.4%(11/32 例)、チクロピジン群で 34.5%(10/29 例)であった。出血性の有害事象と
して、本薬群では鼻出血が 2 例(37.5mg 群、75mg 群で各 1 例)、皮下出血が 2 例(いずれも 75mg
群)認められたが、チクロピジン群では認められなかった。肝機能障害は、37.5mg 群、75mg 群、チ
クロピジン群で各 1 例認められた。白血球減少は、10mg 群で 2 例、チクロピジン群で 2 例認めら
れた。血小板減少については 10mg 群で 1 列認められた ( すべての投与群において認められな
かった )。
重篤な有害事象は 75mg 群で 1 例認められ、投与 5 日目に顔面以下の半身にしびれ感が発現
し、脳梗塞症の再発と診断されたが、治験薬との因果関係は否定された。すべての投与群におい
て死亡例は認められなかった。
47
臨床検査値異常変動発現率は、10mg 群で 77.4 ( 96.8 )%( 24/31 ( 30/31 )例)、37.5mg 群
で 62.5 ( 90.6 )%( 20/32 ( 29/32 )例)、75mg 群で 78.1 ( 90.6 )%( 25/32 ( 29/32 )例)、チク
ロピジン群で 69.0 ( 93.1 )%( 20/29 ( 27/29 )例)であった。
申請者は、血小板凝集抑制率が用量依存的に上昇したこと、及び本薬 75mg 群の血小板凝集
抑制率がチクロピジン群(200mg/日)に最も近似していたことから、脳梗塞症における本薬の臨床
推奨用量は 75mg/日が妥当であると考えたと説明した。
5) 第Ⅲ相試験
5-1) 第Ⅲ相試験 A(添付資料番号 5.3.5.1-1、実施期間 19□□□年□□□月∼ 19□□□年
□□□月)
最終の発症から 8 日以上の脳梗塞症患者(心原性脳塞栓症は除く)を対象に、本薬 75mg 又は
チクロピジン 200mg を 1 日 1 回、26 週間、朝食後に経口投与する無作為化二重盲検並行群間比
較試験(目標症例数各群 350 例、計 700 例)が実施され、本薬の安全性がチクロピジンと比較検討
された。
登録 749 例(本薬群 382 例、チクロピジン群 367 例)のうち、29 例(本薬群 11 例、チクロピジン
群 18 例)は GCP 違反又は対象外疾患のため不適格例となり、また、9 例は治験薬が全く投与され
なかったため除外され、711 例(本薬群 366 例、チクロピジン群 345 例)が ITT 解析対象とされた。
主要評価項目は非安全率(「安全性にかなり問題あり」及び「安全性に重大な問題あり」と判定され
た症例の割合)とされ、「かなり問題あり∼重大な問題あり」の判定の目安としては、ⅰ)中等度以上
の随伴症候、ⅱ)ALT(GPT)が 100U/L 以上、ⅲ)白血球数が 3,000/mm3 未満、ⅳ)血小板数が
100,000/mm3 未満、が用いられた。副次評価項目は、有効性評価項目である虚血性事故(すべて
の血管性事故)とされ、「あり」、「なし」、「判定不能」で判定された。
主要評価項目である非安全率は、本薬群で 6.0%(22/366 例)、チクロピジン群で 9.9%(34/345
例)であり、両群間に有意差は認められなかった(P = 0.057、χ2 検定)。副次評価項目である血
管性事故の発現率は、本薬群 2.5%(9/366 例:脳梗塞症 7 例、TIA1 例、四肢の動脈閉塞 1 例)、
チクロピジン群 2.9%(10/344 例:脳梗塞症 8 例、TIA2 例)で、両群間に有意差は認められなかっ
た(判定不能 1 例を除く、P = 0.712、χ2 検定)。
有害事象(随伴症状)発現率は、本薬群で 46.2%(169/366 例)、チクロピジン群で 54.0%
(188/348 例)であった。このうち、出血性の有害事象は、本薬群で 10.7%(39/366 例)、チクロピジ
ン群で 8.6%(30/348 例)であった。肝機能障害は、本薬群で 35.0%(128/366 例)、チクロピジン
群で 49.7%(173/348 例)、総コレステロール上昇は本薬群で 15.1%(52/345 例)、チクロピジン群
で 24.0%(75/313 例)、白血球減少は、本薬群で 5.0%(18/361 例)、チクロピジン群で 8.8%
(30/341 例)、好中球減少は、本薬群で 0.3%(1/323 例)、チクロピジン群で 4.3%(13/304 例)、
48
血小板減少は、本薬群で 2.2%(8/359 例)、チクロピジン群で 5.0%(17/339 例)と、いずれもチク
ロピジン群により多く認められた。
下表に示すように、投与期間中の死亡例は、本薬群で 1 例、チクロピジン群で 2 例認められた。
また、投与終了後の死亡例が本薬群に 3 例認められた。
表 死亡例一覧
群
症例番号 年齢・性別
死因
発症時期
因果関係
≪投与期間中≫
塩酸チクロピジン
83-4
63 歳・女性
脳幹出血
投与 51 日目発症
あり
塩酸チクロピジン
123-4
66 歳・男性
心停止
投与 73 日目発症
多分なし
硫酸クロピドグレル
71-5
55 歳・男性
脳挫傷
投与 175 日目発症
なし
硫酸クロピドグレル
34-5
74 歳・女性
脳血栓症
硫酸クロピドグレル
133-1
73 歳・男性
胃癌
硫酸クロピドグレル
196-5
76 歳・女性 くも膜下出血 投与終了 9 日後発症 多分なし
≪投与終了後≫
投与終了 16 日後発症 多分なし
中止 2 日後確定診断
なし
重篤な有害事象が、本薬群では 14 例、チクロピジン群では 12 例に認められた(下表参照)。こ
のうち、血小板・出血凝血障害は、本薬群で 5 例(腎出血、下血、血小板減少、眼底出血、出血性
胃潰瘍)、チクロピジン群で 2 例(脳出血、血小板減少)認められた。臨床検査値異常変動発現率
は、本薬群で 94.3%(345/366 例)、チクロピジン群で 94.5%(329/348 例)であった。なお、治験薬
との因果関係が否定できない有害事象(随伴症状)発現率は、本薬群 14.8%(54/366 例)、チクロ
ピジン群 20.3%(70/345 例)であった(P = 0.052、χ2 検定)。治験薬との因果関係が否定できな
い臨床検査値異常変動発現率は、本薬群 24.6%(90/366 例)、チクロピジン群 39.1%(135/345
例)とチクロピジン群に多く認められた(P < 0.001、χ2 検定)。
申請者は、主要評価項目である非安全率は両群間に有意差は認められなかったものの、治験
薬との因果関係が否定できない有害事象(随伴症状)発現率及び治験薬との因果関係が否定でき
ない臨床検査値異常変動発現率はいずれもチクロピジン群で高かったことから、本薬は、チクロピ
ジンよりも安全性が高い薬剤であると結論づけられたと説明した。
表 その他の重篤な有害事象
群
症例番号 年齢・性別
硫酸クロピドグレ
ル
22-5
69 歳・男性
硫酸クロピドグレ
ル
26-1
79 歳・女性
事象名
発現時期
転帰
因果関係
貧血
投与 62 日目
回復
多分なし
血胸、骨折、腎出血 投与 62 日目
回復
なし
骨折
49
投与 50 日目 未回復
なし
群
症例番号 年齢・性別
事象名
発現時期
転帰
因果関係
硫酸クロピドグレ
ル
29-3
67 歳・男性
尿閉
投与 118 日目
回復
多分あり
硫酸クロピドグレ
ル
39-3
74 歳・男性
肺炎
投与 4 日目
回復
多分なし
硫酸クロピドグレ
ル
92-4
47 歳・女性
躁状態
投与 163 日目
軽快
多分なし
硫酸クロピドグレ
ル
102-2
78 歳・女性
下血
投与 61 日目
回復
どちらともいえない
硫酸クロピドグレ
ル
105-1
70 歳・男性
活動低下
投与 76 日目
軽快
なし
硫酸クロピドグレ
ル
118-1
67 歳・男性
間質性肺炎
投与 43 日日
軽快
どちらともいえない
硫酸クロピドグレ
ル
119-4
59 歳・男性
血小板減少(症)
硫酸クロピドグレ
ル
132-3
66 歳・女性
眼底出血
硫酸クロピドグレ
ル
141-2
64 歳・男性
出血性胃潰瘍
投与 141 日目
回復
どちらともいえない
硫酸クロピドグレ
ル
146-6
67 歳・女性
めまい
投与 163 日目
回復
なし
硫酸クロピドグレ
ル
185-2
77 歳・男性
骨折
投与 34 日目
軽快
なし
頭痛
投与 106 日目
軽快
どちらともいえない
複視
投与 162 日目
軽快
どちらともいえない
視力低下
中止 13 日後
軽快
どちらともいえない
硫酸クロピドグレ
ル
214-5
65 歳・男性
投与 11 日目 正常化
多分なし
投与 163 日目 その他 どちらともいえない
塩酸チクロピジン
53-5
67 歳・女性
直腸癌
-
軽快
多分なし
塩酸チクロピジン
62-4
75 歳・男性
めまい
投与 78 日目
回復
多分なし
塩酸チクロピジン
72-2
70 歳・女性
黄疸
投与 44 日目
軽快
あり
塩酸チクロピジン
102-1
72 歳・女性
骨折
投与 50 日目
軽快
なし
塩酸チクロピジン
147-4
70 歳・男性
動脈炎
投与 22 日目
軽快
なし
塩酸チクロピジン
163-3
78 歳・男性
不穏
投与 49 日目
軽快
なし
塩酸チクロピジン
184-5
58 歳・女性
骨折
投与 145 日目
軽快
なし
塩酸チクロピジン
199-2
76 歳・男性
脳出血
中止 1 日後
悪化
どちらともいえない
塩酸チクロピジン
200-6
74 歳・女性
イレウス
投与 29 日目
消失
なし
塩酸チクロピジン
203-3
78 歳・男性
帯状疱疹
投与 177 日目
回復
多分なし
50
群
塩酸チクロピジン
症例番号 年齢・性別
141-1
52 歳・男性
事象名
発現時期
AST(GOT)・ALT
(GPT)上昇
投与 4 日目
γ-GTP・Al-P 上昇
塩酸チクロピジン
147-5
73 歳・男性
血小板減少(症)
転帰
軽快
因果関係
どちらともいえない
悪化
投与 123 日目
軽快
あり
5-2) 第Ⅲ相試験 B(添付資料番号 5.3.5.1-7、実施期間 20□□□年□□□月−20□□□年□□□
月)
最終の発症から 8 日以上の脳梗塞症患者(心原性脳塞栓症は除く)を対象に、本薬 75mg 又は
チクロピジン 200mg を 1 日 1 回、52 週間、朝食後に経口投与する無作為化二重盲検並行群間比
較試験(目標症例数各群 500 例、計 1,000 例)が実施され、チクロピジンに対する本薬の安全性に
おける優越性及び有効性における非劣性が検討された。なお、有効性に関して、当初は、第Ⅲ相
試験 A との併合解析により非劣性を示すこととされていた(「(2)機構における審査の概略 2)塩酸
チクロピジンとの比較について」の項参照)
総症例 1,172 例(本薬群 584 例、チクロピジン群 588 例)のうち、未服薬例 17 例(本薬群 9 例、
チクロピジン群 8 例)を除いた 1,155 例(本薬群 575 例、チクロピジン群 580 例)を安全性解析対
象、さらに選択基準違反(本薬群 1 例、チクロピジン群 2 例)及び未登録例(本薬群 1 例)を除いた
1,151 例(本薬群 573 例、チクロピジン群 578 例)を主要評価項目(本試験では副作用データの複
合エンドポイント)解析対象(FAS)とした。
以下に示す主要評価項目に定義した副作用は、本薬群で 7.0%(40/573 例)、チクロピジン群で
15.1%(87/578 例)に発現し、チクロピジン群に比べ本薬群での発現率が有意(P < 0.001、χ2 検
定)に低かった。
【主要評価項目】
1. 治験実施計画書にて「特に注意を要する有害事象」として定義した以下の有害事象のうち治
験薬との因果関係が否定できないもの
白血球減少、好中球減少、血小板減少、肝機能障害
2. 非外傷性の出血のうち、死亡したもの、または治療のために入院あるいは入院期間の延長が
必要なもの
3. その他の副作用で以下の基準に該当するもの
1. 死亡または死亡につながるおそれのあるもの
2. 入院または入院期間の延長が必要なもの
3. 非可逆的障害を残すもの
51
有効性の主要評価項目は、血管性事故のうち「非致死性または致死性の脳梗塞症」、「非致死
性または致死性の心筋梗塞症」、「その他の血管死」とされ、その発現率は本薬群 3.0%(17/573
例)、チクロピジン群 2.6%(15/578 例)であった。すべての血管性事故発現率は、本薬群で 4.4%
(25/573 例)、チクロピジン群で 4.2%(24/578 例)であり、血管性事故の内訳は下表のとおりであ
った。
表 すべての血管性事故の内訳
群
硫酸クロピドグレル
塩酸チクロピジン
573
578
25(4.4)
24(4.2)
548(95.6)
554(95.8)
脳梗塞症†3
17
15
心筋梗塞症†3
0
0
その他の血管死†3
0
0
TIA
2
4†2
一過性黒内障
0
0
狭心症
3
4
末梢動脈閉塞
1
1
その他
2
1
項目
評価例数†1
血管性事故
発現
非発現
内訳†2
解析対象:有効性解析集団(FAS)
重複集計とし、件数を表示
†3 主要評価項目として規定した血管性事故
症例(%)
†1
†2
有害事象(随伴症状)発現率は、本薬群で 88.3%(508/575 例)、チクロピジン群で 88.8%
(515/580 例)であった。すべての出血性の有害事象は、本薬群で 29.4%(169/575 例)、チクロピ
ジン群で 26.4%(153/580 例)であった。肝機能障害は、本薬群で 34.3%(197/575 例)、チクロピ
ジン群で 47.4%(275/580 例)、総コレステロール上昇は本薬群で 24.6%(140/570 例)、チクロピ
ジン群で 30.9%(178/576 例)、白血球減少は、本薬群で 3.1%(18/575 例)、チクロピジン群で
5.9%(34/580 例)、好中球減少は、本薬群で 1.0%(6/575 例)、チクロピジン群で 3.8%(22/579
例)と、いずれもチクロピジン群により多く認められたが、血小板減少は、本薬群で 1.2%(7/575
例)、チクロピジン群で 0.7%(4/580 例)と、発現率に明らかな差はみられなかった。
死亡は本薬群 4 例、チクロピジン群 1 例であった(下表)。
表.死亡例一覧
群
塩酸チクロピジン
症例番号 年齢・性別
294-4
死因
61 歳・男性
52
脳出血
発症時期
因果関係
投与 276 日目発症 多分あり
群
症例番号 年齢・性別
死因
発症時期
因果関係
投与 334 日目死亡
なし
硫酸クロピドグレル
77-4
49 歳・男性
自殺
硫酸クロピドグレル
109-3
73 歳・女性
脳出血
投与 264 日目発症 多分あり
硫酸クロピドグレル
174-4
72 歳・女性
脳梗塞
投与 313 日目発症
硫酸クロピドグレル
221-1
75 歳・男性
-
動脈瘤破裂 投与 151 日目発症 多分なし
止血延長
中止 2 日後発症
多分あり
-:血管性事故のため因果関係判定なし
死亡を含めた重篤な有害事象発現率は、本薬群で 13.0%(75/575 例)102 件、チクロピジン群
で 9.3%(54/580 例)74 件認められ、本薬群で有意に高かった(P = 0.044、χ2 検定)。器官大分
類別で本薬群に多く認められた重篤な有害事象は、血小板・出血凝血障害、悪性新生物、筋・骨
格系障害、中枢・末梢神経系障害及び消化管障害であった。特に、血小板・出血凝血障害は、本
薬群で 12 例、チクロピジン群で 4 例、新生物(腫瘍)は、本薬群で 11 例、チクロピジン群で 5 例認
められ、本薬群に多かった。
表重篤な有害事象及び重篤な副作用の発現例数
重篤な有害事象
重篤な副作用
硫酸クロピドグレル 塩酸チクロピジン 硫酸クロピドグレル 塩酸チクロピジン
評価例数
発現例数(%)
575 例
580 例
575 例
580 例
75 例(13.0%)
54 例(9.3%)
17 例(3.0%)
8 例(1.4%)
χ2 検定
P = 0.044
P = 0.066
器官別大分類
皮膚・皮膚附属器官障害
2例
1例
-
1例
筋・骨格系障害
8例
5例
1例
-
中枢・末梢神経系障害
6例
4例
2例
-
-
2例
-
-
視覚障害
2例
2例
-
-
精神障害
1例
2例
-
-
消化管障害
7例
3例
3例
1例
肝臓・胆管系障害
3例
4例
2例
2例
代謝・栄養障害
3例
3例
2例
1例
心・血管障害(一般)
1例
-
-
-
心筋・心内膜・心膜・弁膜障害
3例
2例
-
-
心拍数・心リズム障害
1例
-
-
-
血管(心臓外)障害
18 例
17 例
-
-
呼吸器系障害
2例
-
1例
-
自律神経系障害
53
重篤な有害事象
重篤な副作用
硫酸クロピドグレル 塩酸チクロピジン 硫酸クロピドグレル 塩酸チクロピジン
赤血球障害
1例
1例
1例
1例
血小板・出血凝血障害
12 例
4例
9例
4例
泌尿器系障害
1例
1例
1例
-
新生物(腫瘍)
11 例
5例
-
-
一般全身障害
4例
2例
-
-
抵抗機構障害
-
1例
-
-
その他(二次用語)
-
2例
-
-
注)解析対象:安全性評価対象例数(1155 例)
臨床検査値異常変動発現率は、本薬群で 98.8%(568/575 例)、チクロピジン群で 98.6%
(572/580 例)であった。治験薬との因果関係を否定できない臨床検査値異常変動発現率は、本薬
群 19.0%(109/575 例)、チクロピジン群 33.8%(196/580 例)であり、チクロピジン群で有意に高か
った(P < 0.001、χ2 検定)。このうち好中球減少(P = 0.025、χ2 検定)、AST(GOT)上昇(P =
0.002、χ2 検定)、ALT(GPT)上昇(P < 0.001、χ2 検定)、γ-GTP 上昇(P < 0.001、χ2 検定)
及び Al-P 上昇(P = 0.001、χ2 検定)がチクロピジン群に有意に多く認められた。一方、総ビリル
ビン上昇が本薬群で 0.9%(5/575 例)に認められたのに対し、チクロピジンでは認められなかった
(P = 0.030、Fisher 法)。
申請者は、本薬 75mg/日はチクロピジン 200mg/日よりも副作用の発現リスクが低く、より安全に
使用できる薬剤であると考えられたと説明した。
(2) 機構における審査の概略
1) 虚血性脳血管障害治療における本薬の位置付け、特にアスピリンとの比較について
機 構 は 、 申 請 者 が 本 薬 と ア ス ピ リ ン の 比 較 の た め 引 用 し た CAPRIE 試 験 ( Lancet
348:1329-1339,1996)でのアスピリンの用量が 325mg であり、虚血性脳血管障害の国内承認用量
である 81mg 及び 100mg より高用量であることから、国内用量に近い用量が検討された試験でのデ
ータに基づく、アスピリンと本薬のリスク・ベネフィットの比較を求めた。また、虚血性脳血管障害治
療の標準薬であるアスピリンと本薬との使い分けについて説明を求めた。
申 請 者 は 、 ① Antithrombotic Trialists' Collaboration ( ATT ) に よ る メ タ ア ナ リ シ ス ( BMJ
324:71-86,2002)によると、血管イベント発現リスク減少率、頭蓋外の出血の発現リスクともに、アス
ピリン 75 ∼ 150mg/日と 160 ∼ 325mg/日との間に明確な違いは認められなかったこと、②虚血性
脳血管障害のリスクを持つ患者を対象として、アスピリンの異なる用量間で直接比較した試験(Lancet
353:2179-2184,1999、N Engl J Med 325:1261-1266,1991)においても、100mg 以下の低用量と 283
∼ 325mg/日の比較的高用量の間で明らかなリスク・ベネフィットの差は認められなかったことより、
54
75 ∼ 325mg の範囲では、アスピリンの有効性及び安全性に明確な差は認められていないと説明し
た。
また、申請者は、国内外の非心原性の虚血性脳血管障害に対するガイドラインにおける推奨状
況を検討した結果、海外のガイドライン(AHA:American Heart Association,1999、ACCP:American
College of Chest Physicians,2004 、 EUSI:European Stroke Initiative Recommendations,2003 、
RCP:Royal College of Physicians,2002)においては、本薬とアスピリンの明確な使い分けについて
の記載はなく、本薬はアスピリンとともに推奨されていること、及び国内の脳卒中ガイドラインにおい
ても、類薬であるチクロピジンはアスピリンと共に最も有効な抗血小板薬と位置付けられており、両
者の使い分けについては特に記載がないことから、これまでのエビデンスからは、両薬を使い分け
る明確な基準はないと考えると説明した。
機構は、虚血性脳血管障害の治療において、アスピリンと比較した本薬の位置付けは必ずしも
明確ではないものの、アスピリンとほぼ同等の位置付けにあるものと推察し得るものと考えられ、個
々の症例でリスク・ベネフィットのバランスを踏まえて適正に使用されるべきであると考える。なお、機
構は、虚血性脳血管障害の治療における本薬の位置付けをより明確にすべく、アスピリンとの比較
による市販後臨床試験( 5) ( 4. ) 市販後臨床試験の項参照)が必要と考える。
2) チクロピジンとの比較について
第Ⅲ相試験 B における有効性評価に関して申請者は当初、本試験での血管性事故の発現率と
第Ⅲ相試験 A における血管性事故の発現率との併合解析により、非劣性限界を「チクロピジン群
に対する本薬群のハザード比の 95%信頼区間の上限が 2 を超えない」として、非劣性検証を行う
こととしていた。なお、非劣性基準は実施可能な被験者数から検証し得る値として設定された。
機構は、適合性書面調査の結果、第Ⅲ相試験 A の試験の質が第Ⅲ相試験 B に比較して劣るこ
とが明らかになったことから(「3-1.適合性書面調査結果に対する機構の判断」の項参照)、両試験
で対照薬とされたチクロピジンと比較して本薬の有効性評価を行うにあたり、質の異なる両試験の
併合解析を行うこと及びその結果を有効性評価の根拠とすることには問題があると考え、第Ⅲ相試
験 B のみから本薬の有効性について説明するよう申請者に求めた。
申請者は以下のように説明した。第Ⅲ相試験 B のみを対象に、有効性の主要評価項目である血
管性事故について事前に規定していたハザード比の 95%信頼区間上限 2 以下を非劣性の基準
として検討した結果、血管性事故の年間累積発現率は、本薬群で 3.6%(95%信頼区間:1.9 ∼
5.2%)、チクロピジン群で 3.4%(95%信頼区間:1.7 ∼ 5.1%)、本薬群のチクロピジン群に対する
血管性事故のハザード比は 0.977(95%信頼区間:0.488 ∼ 1.957)と推定され、第Ⅲ相試験 B の
みでも本薬の非劣性が検証されたと考える。
機構は、有効性に関する非劣性の基準が試験の実施可能性から設定されていたことから、チク
ロピジンに対する非劣性が厳密に検証されたと結論づけることは困難であると考える。しかしなが
55
ら、安全性の側面からは、第Ⅲ相試験 B の結果のみからみても安全性の主要評価項目において
はチクロピジンに対する優越性が示されていること等を踏まえ、チクロピジンで問題となっている重
篤な副作用を勘案した場合、本薬をこれに替わり得る選択肢となる薬剤の一つとして位置付けるこ
とは可能であると考えているが、チクロピジンとのリスク・ベネフィットの比較については専門協議で
更に議論する必要があると考える。
3) 効能・効果について
機構は、臨床試験の対象から心原性脳塞栓症患者を除外した理由について説明を求めた。
申請者は、以下のように説明した。①フィブリン血栓が心原性脳塞栓症の原因であり、血小板凝
集から形成される血小板血栓の関与は小さいと考えられること、②海外で 3 ヵ月以内に TIA もしく
は 脳 梗 塞 症 を 発 現 し た 非 リ ウ マ チ 性 心 房 細 動 患 者 を 対 象 に 行 わ れ た EAFT 試 験 ( Lancet
342:1255-1262,1993)で、ワルファリン(目標 INR 値 3)の塞栓症予防効果がアスピリン(300mg/日、
ハザード比 0.38、P < 0.001)及びプラセボ(ハザード比 0.34、P < 0.001)と比較して有意に優ると
いう成績が示されていること、③国内の「脳卒中治療ガイドライン 2004」においても、脳梗塞を非心
原性脳塞栓症(アテローム血栓性脳梗塞、ラクナ梗塞など)と心原性脳塞栓症に分け、「心原性脳
塞栓症の再発予防は抗凝固薬ワルファリンが第一選択薬であり(グレード A)、ワルファリン禁忌の
患者のみアスピリンなどの抗血小板薬を投与する(グレード B)」とされていること等より、抗血小板薬
である本薬の臨床試験の対象から心原性脳塞栓症患者を除外した。
機構は、第Ⅲ相試験の対照薬であるチクロピジンの効能・効果が、「虚血性脳血管障害(一過性
脳虚血発作(TIA)、脳梗塞)に伴う血栓・塞栓の治療」であるのに対し、本薬の申請効能・効果を
「虚血性脳血管障害に伴う血管性事故のリスク低減」とした理由について説明を求めた。
申請者は、以下のように説明した。チクロピジンと同様の効能・効果を考えたが、「血栓・塞栓の
治療」という表現は、血栓の溶解作用や血栓塞栓症に伴う臨床症状の緩和などを想起させる可能
性もあり、本薬の効能・効果として適切ではないと考え、海外における効能・効果等を参考に「リスク
低減」という表現を使用した。
機構は、申請されている効能・効果の内容は必ずしも不適切なものではないと考えるが、効能・
効果の設定については、専門協議における議論を踏まえて、さらに検討したい。
4) 用法・用量
機構は、本薬の用量設定のための代用エンドポイントとした血小板凝集抑制率が、血管性事故
防止効果とどのような関係にあるのか説明を求めた。
申請者は、以下のように説明した。血小板凝集抑制作用と臨床的有効性の指標(真のエンドポイ
ント)となる血管性事故発現率との定量的な相関性を示した報告はないが、国内では、抗血小板薬
による治療を行った虚血性脳血管障害患者のうち、脳梗塞や TIA の再発が認められた症例では
血小板凝集能の抑制が認められなかったとの報告(Progress in Medicine.6:1489-1494,1986、臨床
56
神経学.32:1370-1372,1992)、及びチクロピジンによる血小板凝集抑制作用が弱い症例により再
発が多く認められたとの報告(脳卒中 17:319-324,1995)がある。海外では、アスピリン抵抗性(nonresponder)の虚血性脳血管障害患者において血管性事故の発現リスクが高いとの報告(Thromb
Res 71:397-403,1993)や急性冠症候群に対するステント留置後の症例において、本薬の血小板凝
集抑制効果(ADP 凝集)と血管性イベントの発現リスクとの間に相関関係が認められたとの報告
(Circulation. 109:3171-3175,2004)がある。
機構は、海外における本薬の至適用量設定の経緯について説明を求めた。
申請者は、以下のように説明した。海外の第Ⅰ相試験では、国内と同様、50mg 以上の投与によ
る用量反応性は明確ではなかったが、動脈硬化性疾患を対象とした海外の第Ⅱ相試験において、
10 ∼ 100mg の用量について、血小板凝集抑制作用及び出血時間を指標とした用量反応関係の
検討が行われた結果、血小板凝集抑制作用における用量反応曲線がプラトーに達する 75mg を臨
床用量と設定した。ただし、対照薬であるチクロピジンの用量は 500mg であった。
機構は、チクロピジンの承認用量が海外では 500mg、本邦では 200mg ∼ 300mg と異なるのに対
し、本薬の用量は国内外で同一の 75mg と設定された理由、及び国内第Ⅲ相試験 A までの用量
設定根拠、特に 75mg 未満の用量を検討しなかった理由の説明を求めた。
申請者は、以下のように説明した。国内外でのチクロピジンの用量の違いに関しては、①日本人
糖尿病患者におけるチクロピジン 250 及び 500mg の血小板凝集抑制作用の比較では、用量間に
明確な差は認められなかったこと(臨牀と研究 56:653-660,1979)、②海外では、健康高齢者(50 ∼
75 歳)を対象にチクロピジン 125、250、500 及び 750mg を 14 日間投与し、血小板凝集抑制作用
の用量反応関係を検討した結果、250mg 以上の用量では血小板凝集抑制作用にほとんど差が認
めらなかったことから、地域及び人種を問わず、チクロピジンの効果は 200 ∼ 300mg 付近でプラト
ーに達し、300mg 以上では用量の増加が効果の著明な増強を示すものではないと考えられる。
国内における本薬の用量設定根拠としては、後期第Ⅱ相試験における安全性評価では下表に
示すように 75mg が劣っている傾向が認められたが、第Ⅰ相試験及び臨床薬理試験では、75mg に
おいて最も強力な血小板凝集抑制作用が認められ、血管性イベントの予防を考える上では 75mg
で最も高い有効性が期待できる用量と考え、75mg を選択し、それ未満の用量の検討は実施しなか
った。
表 48 週安全性判定(最終判定)
用量 例数 間題なし
やや
かなり 重大な 判定
問題あり 問題あり 問題あり 不能
25mg 109 86(78.9) 19(17.4) 4(3.7)
0
0
50mg
0
1
2(1.8)
0
93
78(84.8) 12(13.0) 2(2.2)
75mg 114 81(71.1) 28(24.6) 3(2.6)
検定
Kruskal-Wallis 検定
P = 0.060
症例数(%)
57
機構は、①用量設定試験の代用エンドポイントとした血小板凝集抑制率と、真のエンドポイントと
なる血管性事故発現率との間に定量的な相関性がないこと、②海外で、75mg を本薬の用量とした
際の対照薬であるチクロピジンの承認用量が、国内用量(200 ∼ 300mg)より高く、500mg であるこ
と、③国内では、虚血性脳血管障害患者を対象とした後期第Ⅱ相試験(参考資料)における安全
性評価では、75mg が 50mg に劣る傾向が認められたこと、及び④第Ⅲ相試験 B では、死亡を含む
重篤な有害事象の発現率が、本薬群で 13.0%(75/575 例)、チクロピジン群で 9.3%(54/580 例)
と本薬群で有意に高く、血小板・出血凝血障害による重篤な出血性の有害事象も、チクロピジン群
(4 例)に比して本薬群(12 例)に多かったこと等から、日本人における 75mg は有効であるものの、
出血等のリスクが懸念され、次項に述べる追加臨床試験にて、75mg 未満の用量についても検討す
る必要があると考える。
申請者は、追加臨床試験計画(「5)市販後臨床試験」の項参照)を提示した際、評価資料(臨床
薬理試験 B 並びに第Ⅲ相試験 A 及び B)で安全性が評価された本薬 75mg 群 973 例を、出血性
事故発現例 115 例及び非発現例 858 例に層別し、年齢、体重、合併・既往症数、高血圧症、糖尿
病、及び高脂血症について解析した結果、出血性事故が、後期高齢者(75 歳以上:16.5%)、低体
重患者(50kg 以下:15.3%)及び合併・既往症数の多い患者(5 以上:13.6%)で出血性事故が多く
認められたことから、用法・用量を「通常、成人には、クロピドグレルとして 75mg を 1 日 1 回経口投
与する。年齢、体重、症状により 50mg に減量する。」に変更し、このために必要な 25mg 錠を追加
申請すると説明した。また、企業中核安全性情報も踏まえ、重要な基本的注意に「投与中は常に患
者の臨床症状の観察を行い、紫斑や血尿などの症状があらわれて、出血を起こすリスクが高いと考
えられる場合には、中止・減量等の適切な処置を考慮すること。また、患者には通常よりも凝固時間
が延長することを説明し、異常な出血が認められた場合には医師に連絡するよう注意を与えるこ
と。他剤と併用を行う必要がある場合、あるいは手術を行う予定がある場合は本薬を服用している
旨を医師に必ず伝えるよう注意を与えること。」と記載する旨説明した。
機構は、後期高齢者、50kg 以下の低体重患者、及び合併・既往症数の多い患者において 50mg
に減量することにより出血性事故のリスクが低減できるとする根拠を臨床試験成績に基づいて説明
するよう、申請者に求めた。
申請者は、以下のように説明した。後期第Ⅱ相試験、臨床薬理試験 B 並びに第Ⅲ相試験 A 及
び B の安全性解析対象集団をプールした集団において、高齢者(65 歳以上)、後期高齢者(75 歳
以上)、体重 50kg 以下、合併・既往症数については 5 以上で層別し、50mg 群と 75mg 群で出血性
事故の発現リスクについて比較した結果、下記の表に示すように、高齢者、後期高齢者、低体重患
者及び合併・既往症数の多い患者のいずれの場合でも、75mg 群の出血性副作用発現率及び重
篤な出血性副作用発現率が高い傾向が示された。
機構は、本薬の用法・用量の設定については、専門協議における議論を踏まえて、さらに検討し
たい。
58
表.高齢者(65 歳以上)の出血性事故(クロピドグレル)
出血性事故
50mg 群(53 例) 75mg 群(613 例) Log-Rank 検定
出血性副作用
2 例(3.8%)
74 例(12.1%)
P = 0.064
重篤な出血性副作用
1 例(1.9%)
10 例(1.6%)
P = 0.981
表.後期高齢者(75 歳以上)の出血性事故
出血性事故
50mg 群(9 例) 75mg 群(127 例) Log-Rank 検定
出血性副作用
0 例(0.0%)
20 例(15.7%)
P = 0.242
重篤な出血性副作用
0 例(0.0%)
4 例(3.1%)
P = 0.613
表.低体重患者(50kg 以下)の出血性事故
出血性事故
50mg 群(26 例) 75mg 群(173 例) Log-Rank 検定
出血性副作用
1 例(3.8%)
24 例(13.9%)
P = 0.168
重篤な出血性副作用
0 例(0.0%)
4 例(2.3%)
P = 0.427
表.合併・既往症数の多い患者(5 以上)の出血性事故
出血性事故
50mg 群(7 例) 75mg 群(361 例) Log-Rank 検定
出血性副作用
0 例(0.0%)
49 例(13.6%)
P = 0.319
重篤な出血性副作用
0 例(0.0%)
8 例(2.2%)
P = 0.704
5) 市販後臨床試験
機構は、75mg より少ない用量が本邦における至適用量である可能性があると考え、追加臨床試
験の具体的な計画の提示を求めた。
申請者は、75mg 未満の用量として後期第Ⅱ相試験で有効性及び安全性が検討された 50mg を
用い、75mg に対する 50mg の安全性の優越性を検証する目的で、脳梗塞症患者(心原性脳塞栓
症は除く)を対象に本薬 75mg 又は 50mg を 1 日 1 回、食後に経口投与する無作為化多施設二重
盲検比較試験を計画した。症例数は 1 群 500 例(計 1,000 例)、主要評価項目は出血性有害事
象、副次評価項目は重篤な有害事象及び重篤な出血性有害事象とし、観察期間は 1 年とした。症
例数設定根拠は以下のとおりである。安全性の主要評価項目とする出血性有害事象発現率は、第
Ⅲ相試験 B において、本薬 75mg で 29.4%であった。一方、血小板凝集抑制効果や、出血時間
が 2 倍以上延長した症例の比率から、75mg に比べて 50mg のリスク減少の程度を 30%と見積もっ
た場合、75mg に対する 50mg の安全性の優越性を示すための症例数は、有意水準両側 5%、検
出力 80%で 1 群 491 例(計 982 例)と算出された。
59
機構は、虚血性脳血管障害後の血管性事故抑制に関して、標準的治療薬となっているアスピリ
ン 81mg と本薬の推奨用量における有効性・安全性を比較する試験を検討するよう申請者に求め
た。
申請者は以下のように説明した。本薬 50mg の安全性(上記追加臨床試験において 75mg に比
べて 30%リスク減少するとの仮説が検証されたと仮定)とアスピリンの安全性が同程度であるという
仮説を設定し、安全性の主要評価項目についてアスピリン 81mg に対する本薬 50mg の非劣性を
検証するための試験を計画したところ、ハザード比 1.3 を非劣性限界、有意水準両側 5%、検出力
80%とした場合、1 群 1,058 例(計 2,116 例)となり、集積に時間をかければ可能である。ただし、当
該試験は、50mg への減量の妥当性を検討するための本薬 75mg と 50mg の前述の比較試験の成
績が得られた後に実施することが妥当であり、その試験成績を基に試験デザイン(本薬の用量、症
例数等)を再度検討する必要がある。
機構は、本薬の用量について可能な限り早期に再検討するため 75mg と 50mg の比較試験を先
行させ、その結果を踏まえてアスピリンとの比較を行うとの申請者の計画は妥当であると考えるが、
市販後臨床試験の詳細については専門協議での検討を踏まえて最終的に判断することとしたい。
6) 白血球減少、血小板減少について
機構は、本薬が臨床で使用された場合の白血球減少及び血小板減少に関する注意喚起とモニ
タリングの具体的内容について説明を求めた。
申請者は以下のように説明した。評価資料(臨床薬理試験 B 並びに第Ⅲ相試験 A 及び B)にお
いて認められた白血球減少(副作用)の発現率は、本薬 75mg 群で 1.9%(18/968 例)、チクロピジ
ン群で 4.5%(43/950 例)、好中球減少(副作用)の発現率は、本薬 75mg 群で 0.5%(5/930 例)、
チクロピジン群で 2.3%(21/912 例)と、いずれも本薬群で有意に低率であった。血小板減少(副作
用)の発現率は、本薬群 0.4%(4/966 例)、チクロピジン群 0.8%(8/948 例)であった。したがっ
て、本薬の添付文書に血液検査を十分に行う旨を追加記載するものの、チクロピジンの場合とは異
なり、頻回の血液検査を実施する必要性はないと考えると説明した。
機構は、副作用のみならず、有害事象についても血球減少及び血小板減少について比較検討
するよう申請者に求めた。
申請者は、以下のように説明した。白血球減少(3000/mm3 以下)の発現率は、第Ⅲ相試験 A
で、本薬 75mg 群で 2.5%(9/366 例)、チクロピジン群で 3.4%(12/348 例)、第Ⅲ相試験 B で、本
薬 75mg 群で 1.6%(9/575 例)、チクロピジン群で 1.7%(10/580 例)であった。好中球減少(1500/
mm3 以下)の発現率は、第Ⅲ相試験 A で、本薬 75mg 群で 2.2%(8/366 例)、チクロピジン群で
4.9%(17/348 例)、第Ⅲ相試験 B で、本薬 75mg 群で 2.8%(16/575 例)、チクロピジン群で 4.0%
(23/580 例)であった。血小板減少の発現率は、第Ⅲ相試験 A で、本薬 75mg 群で 2.2%(8/359
60
例)、チクロピジン群で 5.0%(17/339 例)、第Ⅲ相試験 B で、本薬 75mg 群で 1.2%(7/575 例)、
チクロピジン群で 0.7%(4/580 例)であった。
機構は、本薬による白血球減少、好中球減少及び血小板減少の有害事象の発現率は、チクロ
ピジンと比較してやや低いものの、本薬とチクロピジンの間に質的な差異はないことから、本薬につ
いてもチクロピジンに準じた注意喚起が必要となる可能性もあると考えるが、詳細については専門
協議での検討を踏まえて判断することとしたい。
7) 肝機能障害について
機構は、本薬が臨床で使用された場合の肝機能障害に関する注意喚起とモニタリングの具体的
内容について説明を求めた。
申請者は、評価資料(臨床薬理試験 B 並びに第Ⅲ相試験 A 及び B)において認められた肝機
能障害(副作用)の発現率は、本薬 75mg 群 13.1%(127/973 例)、チクロピジン 200mg 群 25.0%
(239/957 例)と本薬群で有意に低率であったこと、及び AST あるいは ALT が 500IU/L 以上の重
篤な肝機能障害の頻度はともに 0.2%(本薬群 2/969 例、チクロピジン群 2/949 例)であり、その頻
度は極めて低かったことから、添付文書に血液検査を十分に行う旨を追加記載するものの、チクロ
ピジンの場合とは異なり、頻回の血液検査を実施する必要性はないと考えると説明した。
機構は、副作用のみならず、有害事象でも肝機能障害について比較検討するよう申請者に求め
た。
申請者は、評価資料(臨床薬理試験 B 並びに第Ⅲ相試験 A 及び B)において認められた肝機
能障害(有害事象)の発現率は、本薬 75mg 群 33.5%(326/973 例)、チクロピジン 200mg 群
46.9%(449/957 例)、累積発現率(図)では、本薬群はチクロピジン 200mg 群に比べ有意に低率
であり(P < 0.001、Log-Rank 検定)、特に投与後 2 ヵ月まではチクロピジン群に多くの肝機能障害
が発現したと回答した。
61
図.肝機能障害(有害事象)の累積発現率
機構は、血清ビリルビン上昇の頻度は、チクロピジン群(4/922 例、0.4%)に比較して、本薬群
(26/941 例、2.8%)で高い原因及び血清ビリルビン上昇に関する注意喚起の必要性について説
明を求めた。
申請者は、以下のように説明した。臨床薬理試験 B 並びに第Ⅲ相試験 A 及び B では、直接ビ
リルビンあるいは間接ビリルビンについては測定項目としていなかったため、上昇したビリルビンが
いずれによるものかは不明である。また、本薬によるビリルビン上昇の機序について、論文等もな
く、現在のところ不明である。血清ビリルビン値上昇を示した本薬群 26 例のうち、総ビリルビン値で
2.0 未満の軽微な異常変動症例が 24 例あり、残りの 2 例は肝機能障害による総ビリルビンの上昇
であった。これら症例の多くが軽微な異常変動や本薬投与中の一時的上昇であり、他の肝機能検
査値の特に大きな変動も伴っておらず、ビリルビン上昇のみについての注意喚起の必要性は特段
ないと考える。
機構は、①チクロピジンに比較して本薬の肝機能障害(副作用)の発現率は低いものの、本薬の
肝機能障害(有害事象)の発現率は 33.5%と高率に認められること、②投与後 2 ヵ月までに多くの
肝機能障害が発現する点はチクロピジンと類似すること、③重篤な肝機能障害の発現率は本薬と
チクロピジン群で差がなかったこと、④本薬では、軽度ながらも血清ビリルビン上昇の頻度がチクロ
ピジン群より高いことを踏まえ、肝機能関係の副作用についての注意喚起とモニタリングをチクロピ
ジンに準じて行う必要があると考えるが、詳細については専門協議での検討を踏まえて判断するこ
ととしたい。
62
8) 手術前の休薬期間について
機構は、国内で実施された本薬 75mg/日を 10 日間反復投与した第Ⅰ相試験(添付資料番号
5.3.3.1-3)で、投与終了 14 日目でも投与前値まで復帰していないのに対して、海外第Ⅰ相試験
(添付資料番号 5.3.3.1-9、75mg/日、14 日間反復投与)では、終了後 7 日間で血小板凝集能抑
制効果が消失している理由を説明するよう、申請者に求めた。
申請者は、国内で実施された本薬 100mg5 日間反復投与試験(添付資料番号 5.3.3.1-5)にお
いては、投与終了後 7 日目には血小板凝集能抑制効果が投与前値に復していることから、これら
二つの国内試験における背景因子も含めて比較検討したが、75mg/日 10 日間反復投与試験で、
投与終了後 14 日たっても血小板凝集能が投与前値まで回復しなかった理由は不明であると説明
した。
機構は、日本人では本薬の血小板凝集能抑制が外国人に比べて遷延する可能性を考慮し、添
付文書案上 1 週間としていた手術前の休薬期間を再度考察するよう、申請者に求めた。
申請者は、第Ⅲ相試験 B において、本薬群で手術のために休薬した 31 例のうち、抜歯後に出
血性事故が認められた 2 例で、手術までの休薬日数は、それぞれ 10 日、11 日であったこと及び
血小板の寿命も踏まえ、手術前の休薬期間は 2 週間程度が適切であると判断し、添付文書の重要
な基本的注意として、「手術の場合には、出血を助長するおそれがあるので、2 週間前に投与を中
止すること。」を追記した。
機構は、申請者が提示した添付文書案で当面の対処は可能と考えるが、特に日本人で血小板
凝集能抑制が投与中止後も遷延する原因が不明な点はなおも懸念として残っており、手術前の本
薬の中止時期と出血性有害事象の発現に関しては、重点調査項目として市販後の調査計画に加
える必要があると考える。
9) 腫瘍の発現
機構は、第Ⅲ相試験 B で、重篤な有害事象としての悪性腫瘍が本薬群で多く発現している(本
薬群 11 例、チクロピジン群 5 例)原因について説明を求めた。
申請者は、非臨床試験成績では本薬のがん原性は否定されている(CTD2.6.6.5 がん原性試
験 ) こ と 、 ま た 、 海 外 大 規 模 試 験 に お け る 悪 性 腫 瘍 の 発 見 率 は 、 CAPRIE 試 験 ( Lancet
348:1329-1339,1996、平均観察期間 1.91 年)で、本薬群 0.99%(95/9599 例)、アスピリン群
1.16%(111/9586 例)、CURE 試験(N Engl J Med 345:494-502,2001、平均観察期間 9 ヵ月)で、
本薬群 0.5%(31/6259 例)、プラセボ群 0.76%(48/6303 例)と、対照群との間に差が認められて
いないことから、本薬のがん原性に関しては否定的であると説明した。
機構は、第Ⅲ相試験 B で、腫瘍からの出血が腫瘍発見のきっかけとなった可能性について説明
するよう申請者に求めた。
63
申請者は、以下のように説明した。第Ⅲ相試験 B で、非重篤な事象を含むすべての腫瘍発見例
は、本薬群で 18 例、チクロピジン群で 10 例であった。これらの腫瘍の発見に、出血性事故が明ら
かにかかわっていた症例、あるいは発見の経緯が不明な症例は、本薬群で 9/18 例、チクロピジン
群で 5/10 例であった。第Ⅲ相試験 B における出血性事故の頻度は、本薬群で 14.1%(81/575
例)、チクロピジン群で 11.7%(68/580 例)と、本薬群に多い傾向があったことも考慮すると、本薬
群に出血性事故が多かったことが、腫瘍の発見数が多かったことに関わっていた可能性は否定で
きないと考える。
機構は、以上の回答を了承した。
10) コレステロールの上昇について
機構は、第Ⅲ相試験 A 及び B で高率に見られた血清総コレステロール上昇について説明する
よう申請者に求めた。
申請者は以下のように説明した。第Ⅲ相試験 A 及び B における総コレステロール上昇例の内訳
は下表の通りであり、本薬群で異常変動(上昇)が認められた症例は 192/941 例(20.4%)であっ
た。このうち 86 例は高脂血症を合併しており、特に 300mg/dL 以上に上昇した 8 例(0.85%)は全
例が高脂血症合併例であった。以上より、総コレステロール上昇の原因として高脂血症の合併が影
響している可能性が推察されたが、HDL、LDL のいずれのコレステロールの上昇によるものかは、
測定項目に設定していなかったので不明である。
表.第Ⅲ相試験 A 及び B における総コレステロール上昇例の内訳
クロピドグレル群(941 例)
最高値
高脂血症 高脂血症
合併あり 合併なし
(324 例) (617 例)
合計
チクロピジン群(928 例)
高脂血症 高脂血症
合併あり 合併なし
(324 例) (604 例)
合計
< 250
48
75
123(13.1%)
50
121
171(18.4%)
250≦< 300
30
31
61(6.5%)
36
33
69(7.4%)
300≦< 350
7
0
7(0.7%)
6
3
9(1.0%)
350≦
1
0
1(0.1%)
2
2
4(0.4%)
合計
86
106
192(20.4%)
94
159
253(27.3%)
機構は、血清総コレステロール上昇の原因について、チクロピジンで報告されている肝機能障害
に伴うコレステロールの上昇の可能性も含めて説明するよう、申請者に求めた。
申請者は以下のように説明した。本薬に起因する総コレステロール値上昇の機序についての論
文等はなく、市販後に総コレステロールの上昇は全世界で 10 件報告がされているが、いずれも背
景因子など詳細な情報は得られていない。一方、第Ⅲ相試験 A 及び B で総コレステロール上昇の
異常変動があった例における肝機能障害の発現率は、本薬群 40.1%、チクロピジン群 57.3%と、
64
チクロピジン群の方が有意に高率であり、特に γ-GTP 上昇(本薬群で 17.2%:33/192 例、チクロ
ピジン群で 37.2%:94/253 例)及び Al-P 上昇(本薬群で 5.2%:10/192 例、チクロピジン群で
17.0%:43/253 例)の発現頻度は、チクロピジン群の方が明らかに高率(P < 0.001、χ2 検定)で
あった。以上より、チクロピジンにおいては、胆汁うっ滞型の肝機能障害の発現と総コレステロール
上昇が関連している可能性が示唆された。
機構は、総コレステロールの上昇の注意喚起の必要性について検討するよう申請者に求めた。
申請者は、総コレステロールの平均値では変動が認められず、また総コレステロールの上昇頻度
は、チクロピジンより本薬の方が低率であったので、特に総コレステロール上昇についての注意喚
起は必要ないと考えると説明した。
機構は、海外では、市販後の総コレステロールの上昇がこれまで 10 例しか報告されていないに
もかかわらず、国内臨床試験で高率に上昇例が見られたこと、また、肝機能障害と関係があること
が示唆されるものの、その機序は必ずしも明らかでないことから、適切に注意喚起を行うとともに、市
販後臨床試験では、HDL コレステロールの測定、肝機能障害との関係の検討を行う必要もあると
考えるが、詳細については専門協議での検討を踏まえて判断することとしたい。
11) 臨床試験の信頼性に関して
機構は、申請者が信頼性自主調査を実施していることから、その実施に至った経緯及び理由に
ついて調査を実施した試験ごとに示すよう、申請者に求めた。
申請者は、信頼性自主調査を実施した経緯及び理由は各試験共通であるとし、以下のように説
明した。原資料の直接閲覧を行っていない新 GCP 施行以前の臨床試験では、GCP 不遵守が存
在する可能性が危惧され、新 GCP 施行以前に実施し評価資料に予定している臨床試験につい
て、信頼性が担保できるか否かを確認するため、治験実施医療機関の協力を得て 、間接的に (追
加)原資料と社内データ(症例報告書データ、総括報告書データ)の照合を実施した。
第Ⅰ相臨床試験(添付資料 5.3.3.1-1、5.3.3.1-2、5.3.3.1-3、5.3.3.1-4)と健康成人における臨
床薬理試験−100mg 連続投与試験−(添付資料 5.3.3.1-5)では、総括報告書と原資料の間に一
部不整合が認められたため、総括報告書を再作成したが、試験成績の評価には影響がなかった。
臨床薬理試験 A(添付資料 5.3.5.1-5)では、新たに実施計画書からの逸脱症例が確認され、有
効性評価除外症例は 14 例(有効性評価除外率 35%)となり、有効性評価の除外率が高いことか
ら、参考資料とした。
後期第Ⅱ相試験は、血小板凝集能測定の精度管理が不十分であり、治験実施計画書からの逸
脱が多く、血小板凝集能の評価除外率は 52%(199/385 例)となり、試験成績の信頼性を担保す
ることができなかった。また、有効性評価について、CT 未撮影が 49 例、選択基準違反が 16 例、
服薬不良が 4 例など治験実施計画書からの逸脱が 78 例、中止例が 58 例認められたことから有効
65
性評価除外率は 35%(136/385 例)となり、試験成績の信頼性を担保することができなかったの
で、参考資料とした。
第Ⅲ相試験 A(添付資料 5.3.5.1-1)では、投与症例がある 158 施設 749 例を対象に調査した
結果、既に診療記録を廃棄・紛失されていたものが 5 施設 8 例(うち 2 施設は一部の症例につい
て診療記録を確認)、施設側の理由で調査不可であったものが 4 施設 28 例あった。確認調査が
できた 151 施設 713 例において、不適格及び解析除外症例が確認されたため、総登録症例 749
例中適格症例は 732 例、ITT 解析症例は 723 例、PC 解析症例は 587 例に変更されたが、主要評
価項目である非安全率は本薬 75mg/日 5.9%(22/372 例)、チクロピジン 200mg/日 9.7%(34/351
例)であり、調査前と同様に本薬群で低い傾向にあった(P = 0.058、χ2 検定)。
機構は、以上のような経緯も踏まえた上で、提出された資料については一定の科学的評価は可
能であり、それに基づいて審査を行いえるものと判断した。
3. 機構による承認申請書に添付すべき資料に係る適合性調査結果及び機構の判断
3-1. 適合性書面調査結果に対する機構の判断
薬事法の規定に基づき承認申請書に添付すべき資料に対して書面による調査が実施され、そ
の結果、第Ⅰ相臨床試験の単回投与試験(添付資料 5.3.3.1-1)において、信頼性及び結果の評
価に影響を及ぼす事項(原資料(クロマトグラム)が保存されていない)が指摘された。機構は、承認
申請資料に記載された当該測定値の信頼性が確認できないため、当該資料を参考資料と位置付
けた。第Ⅲ相臨床試験 A(5.3.5.1-1)については、臨床検査(画像診断、心電図検査、血圧、脈
拍、血液及び尿検査)の欠測が多数みられ、また、自主的「データ照合」(信頼性自主調査)におい
て、治験実施当時の担当医師及び責任医師でない医師により症例報告書に追記・修正が多数行
なわれていた。なお、当該調査が実施されなかった 4 治験実施機関のうち 1 施設について GCP
実地調査が行なわれた結果、原資料の紛失、原資料の記載と症例報告書の記載との不整合等が
みられた。さらに、第Ⅲ相試験 A 及び B の主要評価項目である虚血性事故の併合解析につい
て、①第Ⅲ相試験 A に肺塞栓、狭心症及び突然死等が含まれていない、②第Ⅲ相試験 B の試験
実施計画書には「前胸部及び周辺の特徴的な胸痛、生化学検査の基準及び心電図所見の基準
のうち 2 つ以上を満たす場合を心筋梗塞症と診断する」旨が規定されていたが、実際には前胸部
及び周辺の特徴的な胸痛がみられた症例について、生化学検査の基準又は心電図所見の基準を
満たした症例が心筋梗塞症と診断されており、当該胸痛を有さない心筋梗塞患者においては生化
学検査及び心電図検査は実施されないため、それら 2 つの基準を満たすとしても心筋梗塞と診断
されない状況であった、③第Ⅲ相試験 A の治験実施計画書には②に該当する規定はなく、また、
第Ⅲ相試験 B と同様な方法で心筋梗塞症の診断が行われていたか確認できないとされたことか
66
ら、当該解析結果の信頼性に疑問があると考え、機構は、第Ⅲ相試験 A については調査の結果を
踏まえて検討を行った(「2-4.臨床に関する資料<臨床的有効性及び安全性の概要>」参照)。
3-2. GCP 実地調査結果に対する機構の判断
薬事法の規定に基づき承認申請書に添付すべき資料(5.3.1.2-1、5.3.1.2-6、5.3.3.1-5、
5.3.5.1-1、5.3.5.1-2 及び 5.3.5.1-7)に対して GCP 実地調査が実施され、その結果、 □□□病
院 ( □□□病院 )で実施された第Ⅲ相試験 A(添付資料 5.3.5.1-1)の 12 症例において、原資料
の紛失及び治験実施計画書からの逸脱(治験実施計画書で規定されている検査の未実施)が多
数認められるなど、データの信頼性及び被験者の安全性の観点から重大な GCP 違反(平成元年
薬発第 874 号(以下、「旧 GCP」))があり、GCP 不適合と評価されたことから、全 12 症例について
承認申請資料中から削除された。また、前述の施設を含む複数の治験実施施設において、治験審
査委員会(5.3.5.1-1 の治験実施の適否に係る審議)の審議記録及び原資料が保存されていな
い、選択基準及び除外基準に抵触する被験者が組み入れられている、症例報告書と原資料の不
整合がみられる、治験実施計画書からの逸脱が認められる等、多数の GCP 違反が認められた(旧
GCP 及び平成 9 年厚生省令第 28 号(GCP))。機構は、GCP 不適合となった症例を削除するなど
した上で、申請書に添付された資料は評価可能であるとし、第Ⅲ相試験 A については調査の結果
を踏まえて検討を行った。
4. 総合評価
機構は、以上のような審査を行った結果、臨床試験成績から虚血性脳血管障害の二次予防に
関する本薬の有効性はほぼ示されていると判断でき、本薬は既に海外では広く使用されている実
績もあり、本邦の虚血性脳血管障害治療において、選択肢の一つになり得ると考える。一方、本薬
50mg/日が 75mg/日と同等の有効性を示し、より安全である可能性があること、出血性の副作用の
他、白血球減少や肝機能障害の副作用が認められること等から、市販後臨床試験を含む適切な市
販後の調査が必要と考えるが、これらに関しては、専門協議における議論を踏まえ、最終的に判断
したい。
67
審査報告(2)
平成 17 年 11 月 15 日
1. 申請品目
[販売名]
1.硫酸クロピドグレル
2.プラビックス錠 25mg
3.プラビックス錠 75mg
[一般名]
硫酸クロピドグレル
[申請者]
1.サノフィ・サンテラボ第一製薬株式会社、2.、3.第一製薬株式会社
[申請年月日]
1.、3.平成 16 年 2 月 24 日(1.医薬品輸入承認申請、3.医薬品製造承
認申請)
2.平成 16 年 10 月 21 日(医薬品製造承認申請)
2. 審査内容
機構は審査報告(1)をもとに専門委員へ意見を求めた。専門委員との協議を踏まえた審査結果
を報告する。
2-1. 効能・効果について
専門委員から、申請効能・効果(案)にある「血管性事故」や「リスク低減」は、その意味するところ
が分かりにくい等の意見があった。また、専門委員から、第Ⅲ相試験 B の対象患者は心原性脳塞
栓症を除く脳梗塞症患者であり、一過性脳虚血発作(TIA)は含まれていないことから、虚血性脳血
管障害(心原性脳塞栓症を除く)患者ではなく、脳梗塞(心原性脳塞栓症を除く)患者を本薬の対
象とすべきではないかとの意見が出された。
本薬の有効性及び安全性をより明確に検出するために、臨床試験の対象はより限定されていた
が、海外の臨床試験成績及び使用実態から、本薬は国内においても TIA に有効であると推定でき
ること、本薬に期待される臨床的位置付けはチクロピジンの代替薬であること、類薬の効能・効果等
から、機構は、本薬の対象としては「虚血性脳血管障害(心原性脳塞栓症を除く)」後の患者が適当
と考える旨を説明した。専門委員から機構の見解を支持する意見があった。
機構は、専門協議での議論及び類薬の効能・効果を踏まえ、申請者に本薬の効能・効果の見直
しを求めた。
申請者は、国内臨床試験の主要評価項目も踏まえ、本薬の効能・効果は「虚血性脳血管障害
(心原性脳塞栓症を除く)後の再発抑制」とする旨回答した。
機構は、申請者の回答を了承した。
68
2-2. 用法・用量について
専門委員から、国内第Ⅲ相試験において本薬 75mg/日投与の有効性は示されているが、参考
資料とされた後期第Ⅱ相試験(用量設定試験)では 75mg/日投与群の安全性は 50mg/日投与群
に劣っており、有効性では両群間に明らかな差が認められなかったこと、及び国内外の臨床試験
における類薬のチクロピジンとの比較から、75mg/日は日本人には過量の可能性があるとの意見、
50mg/日を初期投与量として、忍容性が確認され、効果の上乗せが必要な患者に 75mg/日を投与
すべきとの意見、安全性を考慮して初期投与量として 50mg/日を推奨すべきと考えるが、臨床試験
での投与例が少なく効果の確認が不十分である等の意見が出された。安全性に留意すべき患者
については 50mg/日の投与を行うことが望ましいということについては、専門委員の意見は一致し
た。
機構は、添付文書(案)の慎重投与の欄に記載されている、出血傾向及びその素因のある患
者、重篤な肝障害のある患者、重篤な腎障害のある患者、高齢者及び低体重の患者に対して、本
薬 50mg/日を初期投与量とする根拠は必ずしも十分ではないと考えるが、専門委員の意見も踏ま
え、出血の危険性を低下させるため、慎重投与の対象には適切に本薬の低用量投与が行われる
よう、用法・用量を「通常、成人には、クロピドグレルとして 75mg を 1 日 1 回経口投与する。ただ
し、年齢、体重、症状によりクロピドグレルとして 50mg を 1 日 1 回経口投与する。」とした上で、添
付文書の慎重投与の欄に低用量(50mg/日)から投与することが望ましい患者について注意喚起
することが妥当であると判断した。
申請者は、用法・用量及び関連する使用上の注意等について、機構の判断に沿って変更するこ
とを了承した。
2-3. 市販後の臨床試験及び調査の計画について
申請者は、市販後の臨床試験計画として、本薬の推奨用量を早期に確認するため、脳梗塞症患
者(心原性脳塞栓症は除く)を対象に本薬 50mg と 75mg の安全性を比較する無作為化多施設二
重盲検比較試験を実施し、その結果を踏まえた上で、本薬の位置付けを明確にすることを目的とし
て、本薬の推奨用量と国際的標準薬であるアスピリン 81mg を比較する臨床試験を実施する案を提
示した。専門委員から、両試験の実施は必ずしも必須とすべきでないとの意見も出されたものの、
本薬 50mg/日と 75mg/日の安全性について比較できるデータを市販後に収集する必要があり、可
能であれば有効性についてもデータを得ることが望ましいとの点では専門委員の意見は一致し
た。また、安全性に懸念がある患者では 50mg/日の投与を行うことが望ましいことから、市販後臨床
試験に組み入れられる被験者が本薬 75mg/日を初期投与量とし得る患者に偏ることが予想され、
用量間の比較が難しくなる可能性に留意する必要があるとの意見も出された。
専門協議の議論も踏まえ、機構は用量を比較する市販後の臨床試験に関して、本薬 75mg/日
を初期投与量とし得る患者層のみが組み入れられた場合においても、主要評価項目である安全性
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について本薬 50mg/日と 75mg/日の比較が可能であり、副次的に両投与量の有効性も比較可能
な計画を再度検討することを申請者に求めた。併せて、承認後 1 年間、同一施設において本薬
50mg/日又は 75mg/日の初期投与量の選択理由及びそれぞれの患者の背景並びに投与後の総
コレステロールの上昇等も含め、安全性情報を収集できるような市販後の調査の実施を求めた。
申請者は、以下のように回答した。出血の危険性が高いと考えられる 75 歳以上の患者及び体重
50kg 以下の患者を除いた患者層を対象とした場合に必要となる症例数について検討し、市販後の
臨床試験計画を修正した。安全性情報を収集するための市販後の調査については、50mg/日及び
75mg/日を初期投与量とした症例の情報収集を 6,000 例を目標に実施するが、50mg/日群あるい
は 75mg/日群のいずれかの症例が 1,500 例に至らないと判断される場合には、別途、症例数、調
査方法等について方策を検討する。また、得られた情報については速やかに臨床現場に提供す
る。なお、本薬 75mg/日投与終了後に血小板凝集抑制状態が投与前値に復するまでの期間につ
いて、別途追加臨床試験により再確認する。
機構は、申請者が提示した市販後の臨床試験計画及び調査計画の修正案は基本的に妥当な
ものであると判断した。
2-4. 安全性に関する情報の提供等について
専門委員から、肝機能障害、白血球減少、好中球減少及び血小板減少に関して、本薬はチクロ
ピジンの類薬であることを踏まえ、初回投与時の注意喚起を行うべきであるという意見、手術前等に
おける休薬期間に関しては、ガイドライン等も参考に適切な休薬期間の判断基準を添付文書に記
載すべきとの意見、出血関係の副作用に関する適切な検査実施について、少なくとも本薬の海外
添付文書程度には注意喚起する必要があるとの意見等が出された。
機構は、以上のような議論も踏まえ、添付文書の記載整備を申請者に求めた。
申請者は、専門協議での指摘を踏まえ、「重要な基本的注意」及び「重大な副作用(類薬)」の項
等を整備するとともに、海外で得られた情報を基に本薬とアスピリンの併用時の注意事項を「重要
な基本的注意」に追記すると回答した。
機構は、申請者の対応を妥当と判断した。
2-5. 患者への情報提供
申請者に患者説明用の文書を作成させ、市販後臨床試験において用量の検討中であることも
含め、安全性上懸念される事柄について患者に適切に情報提供すべきとの機構の判断は専門委
員から支持された。その他、専門委員から、患者が本薬の特徴を理解し、異常及び疑義が生じた
場合には速やかに医師に相談するよう指導することが望まれるとの意見等が出された。
機構は、申請者に対し、上記内容を盛り込んだ患者説明用の文書の作成を求めた。
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申請者は、専門協議で指摘された内容も盛り込んだ患者指導箋、患者指導用パンフレット及び
薬剤師用服薬指導マニュアルを作成すると回答した。
機構は、申請者の対応を妥当と判断した。
2-6. 審査報告書(1)の訂正
審査報告書(1)を以下の通り訂正する。なお、これらの変更により審査結果の変更は生じない
(下線部は訂正箇所)。
P. 9
考察ところ、 → 考察したところ、
P. 10
□□□法 → □□□法
P. 13
(n = 10) → (n = 8 ∼ 10)
P. 14
閉塞時間を短縮し、 → 血管閉塞を抑制し、
P. 14
静脈投与し、 → 静脈内投与し、
P. 16
(n = 4) → (n = 6)
P. 19
176mg → 176mg/kg
P. 20
時間曲線下面性 → 時間曲線下面積
P. 22
活性の減少 → 活性の変動
P. 24
本薬 1,500 ∼ → 本薬 2,000 ∼
P. 24
(20 ∼ 300mg/kg) → (雌 120 ∼ 200mg/kg、雄 80 ∼ 200mg/kg)
P. 25
(20 ∼ 300mg/kg) → (雌 30 ∼ 160mg/kg、雄 70 ∼ 160mg/kg)
P. 25
嘔吐、虚脱が投与 8 時間まで、呼吸困難及び黒色下痢便が → 嘔吐、呼吸困難が投与 8 時
間まで、虚脱及び黒色下痢便が
P. 26
7.66mg/kg/日群 → マウス 7.66mg/kg/日群
P. 26 P. 28 肺胞上皮由来の腺がん → 肺腺がん
P. 27
母動物で 300mg/kg/日、 → 母動物で 100mg/kg/日、
P. 27
5 ∼ 10、100mg/kg/日 → 5、10、100mg/kg/日
P. 29 P. 30 PⅢ製剤 25mg 錠 → PⅢ製剤 75mg 錠
P. 33 P. 37 動脈硬化疾患 → 動脈硬化性疾患
P. 35 P. 38 維持療法受けている → 維持療法を受けている
P. 36
薬物動態 → 血漿中薬物濃度
P. 37
で 57.4±5.11%、動脈硬化性疾患を合併していない高齢者で 54.9±6.74%で → で 54.9
±6.74%、動脈硬化性疾患を合併していない高齢者で 57.4±5.11%で
P. 38
血圧効果作用 → 血圧降下作用
P. 42
認めらなかった → 認められなかった
P. 42
Neourology → Neurology
P. 46
FormⅡ製剤 → FormⅠ 製剤
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P. 46
また、ステップ 2 では、絶食投与群の → また、FormⅡ製剤投与群の
P. 47
すべての投与群において認められなかった。 → 10mg 群で 1 例認められた。
P. 48
10mg 群で 96.8%(30/31 例)、37.5mg 群で 90.6%(29/32 例)、75mg 群で 90.6%(29/32
例)、チクロピジン群で 93.1%(27/29 例) → 10mg 群で 77.4%(24/31 例)、37.5mg 群で
62.5%(20/32 例)、75mg 群で 78.1%(25/32 例)、チクロピジン群で 69.0%(20/29 例)
P. 55
4.市販後臨床試験 → 5)市販後臨床試験
P. 65
の協力を得て原資料と → の協力を得て、間接的に原資料と
P. 67
□□□病院 → □□□病院
3. 総合評価
以上の審査を踏まえ、機構は、以下の効能・効果及び用法・用量のもとで本薬の輸入及び製造
を承認して差し支えないと判断した。原体は劇薬に該当し、製剤は毒薬及び劇薬のいずれにも該
当しないと考える。
なお、本申請は、新有効成分含有医薬品に該当することから、再審査期間は 6 年とすることが適
当であると判断する。
[効能・効果]
虚血性脳血管障害(心原性脳塞栓症を除く)後の再発抑制
[用法・用量]
通常、成人には、クロピドグレルとして 75mg を 1 日 1 回経口投与する。
ただし、年齢、体重、症状によりクロピドグレルとして 50mg を 1 日 1 回経口
投与する。
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