11.2 - DTI

11.2 外部ロータを持つジャイロスタット
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本節を終えるにあたり、R + W の平衡特性に関してさらに多くの情報を得るためには、本書の
前の方の部分で述べた多くの手法が利用できるということを述べておきたい。特に 9.1 節において
軌道上の(すなわち重力傾度トルクの影響を受ける)剛体 R に対して使われた方法論の多くは、R
への W の追加に対して適切な修正を加えれば R + W の場合に拡張できる。
例えばもし p̂ 1 または p̂ 3 が
慣性的な対称軸であるならば、図 9.10、図 9.11、および図 10.5 に示したものと同様のライブレーシ
ョン界(libration bounds)が、有限大の大きさの姿勢の偏位運動を可視化したり理解したりするの
に役立てることができる。これらもまたハミルトン関数に基づいているものである(問題 11.6、問
題 11.9、および問題 11.11 を参照)
。わずかな慣性的非対称性に対する解析的近似、微小な軌道離心
(図 9.14
率に対するフロケー解析、あるいは非線形方程式を特徴付ける不変面(invariant surfaces)
を参照されたい)等の知識も、原理的に軌道上の R + W 系を研究するのに適用することができる。
しかし筆者の知る限りこのような研究はまだ発表されていない。ところでわれわれは以上の議論に
おいて R や W 上でのエネルギー消散を無視している。そのためこれまで扱ってきた R + W 系はい
くぶん抽象的な物体であるという事実を忘れてはならない。本書の前の方の部分で繰り返し見てき
たように、如何なる力学的解析も如何に数学的に洗練されていようが、エネルギー消散の意味を同
時に理解しておかなければ実際の宇宙機には適用できるものではない。それではこれらの注意事項
を考慮に入れながらこのあと次節において、過去 10 年間で円熟期に達した 2 つの型の R + W(ジャ
イロスタット)宇宙機を工学的な観点から調べることにしたい。
11.2 外部ロータを持つジャイロスタット
1つもしくは複数個の回転ホイールを採用することによって、衛星の姿勢に何らかの力学的な
影響与えようという基本的なアイディアは、ほとんど途方にくれるほど多くの方法で展開されてき
た。実際この分野の技術的な現状を整然と示すのは非常に難しいことであるが、同時に大変必要と
されることである。多数かつ多様なジャイロスタット型のアイディアを理に適った形で紹介するた
めには論理的なステップを踏んで議論を進める必要がある。そのためはじめに、1 つのホイールま
たはロータを持つエネルギー消散のない(dissipation-free)トルクフリーの剛体を第 6 章で解析した;
次いで内部エネルギー消散の重要性を第 7 章で認識した;そして最後に本章において軌道上の全て
の衛星に影響を与える重力トルクの効果を議論の対象にした。
われわれの議論をさらに展開するためには基本的に力学的厳密性を欠くような区別もする必
要がある。このような趣旨で本節ではホイールが外部にあるジャイロスタットについて考察する;
このようなジャイロスタットのホイールは通常ロータと呼ばれている。つぎに 11.3 節でホイールが
内部にあるジャイロスタットについて考察する;このホイールは一般に単に「ホイール」と呼ばれ
」あるいは「フライホイール(flywheel)
」とい
ている(
「モーメンタムホイール(momentum wheel)
うようなより説明的な名前もしばしば使われる)
。このように外部-内部の区別が付いたのは、実際
の技術開発の場で本来の基本的なジャイロスタットのアイディアが、2 つの別々の設計開発チャン
ネルに派生して行った結果によるものである。
外部ロータ型ジャイロスタットにおいては衛星の大部分の質量はロータに集中している。した
がって衛星は大部分がロータであると言える。そして付加的な部分(アンテナ、太陽電池アレイ等)
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第 11 章
軌道上のデュアルスピン安定化
はミッションの要求に従ってスピンしない(despun)状態に置かれる。このような形態からこの方
式はスピン衛星(第 10 章)の直接の子孫にあたると言える。しかし実際は衛星の重要な部分がスピ
ンしていないにもかかわらず、厳密とは言えない呼び方であるがしばしばスピナ(spinner)と呼ば
れている。このクラスの衛星はもっぱら Hughes Aircraft 社によって開発されてきた。そして同社は
これに『ジャイロスタット(Gyrostat)
』という用語を適用した。しかし本来のジャイロスタットの
ホイールは(3.5 節で説明したように)伝統的にはコンテナの内部に収納された形態をとるが、この
ように現代的な衛星で用いられる場合『ジャイロスタット』は外部にロータを持つ。したがってこ
のあとの議論においては、
『ジャイロスタット』というように 2 重括弧を付けて表すことによって、
この特別なそしてより近代的な意味でのジャイロスタットを指すことにしよう。
さて、外観上『ジャイロスタット』とは全く違った形態をとっているが、ジャイロスタットの
力学的原理を用いて姿勢安定化システムを実現している衛星がほかにもある。これらの衛星におい
ては、内部に 1 つもしくは複数個の高速回転する比較的小さなホイールを保有している;これらの
ホイールの唯一の機能は、姿勢の安定化に対して有益な効果があるように衛星にジャイリック性
(gyricity)を与えることである。これらの衛星は第 9 章において詳細に議論した重力傾度衛星の派
生物であると見ることができる。これらの衛星は現代の用語ではバイアスモーメンタム衛星と呼ば
れている。
『ジャイロスタット』のロータは、通常、衛星の慣性モーメントの大部分を占めており比
較的低速(~50 rpm)でスピンをしているのに対し、バイアスモーメンタム衛星のモーメンタムホ
イールは、衛星の慣性モーメントに対しては殆んど無視し得る程度の寄与しかしないが、比較的高
速(~3000 rpm)でスピンをしている。
以上ジャイロスタットの 2 つの方式の差異を理解したところで、もう 1 つ重要な点について明
らかにしておきたい。というのは『ジャイロスタット』もモーメンタムホイール衛星も力学的には
非常に類似しているが(両者とも軌道上を周回しているジャイロスタットである点において)
、実際
問題として『ジャイロスタット』の大型ロータは衛星の全ての装備、例えばスラスタの燃料タンク
などの入れ物になっている。それ故『ジャイロスタット』のロータはエネルギーを消散するものと
してモデル化しなければならない。これに対してバイアスモーメンタム衛星上において高速に回転
する小型ホイールは、現実に得られるものとしては、対称形をした極めて剛体に近いものである。
したがってこの点において、エネルギー消散のあるロータに関して第 7 章において展開した内容は
、バイアスモーメンタム衛星に対するより
(例えば図 7.8、図 7.9、および図 7.11 を参照されたい)
も『ジャイロスタット』に対してより重要となる。さらにこのあと問題 7.3 で得られるいくつかの
結論に対しても注意を払うべきである。
基本的なコンセプト
受動的な『ジャイロスタット』は現在成功裏に使われているが、その背景にある基本的な指導
原理は第 7 章で導かれた結果に示されている。すなわち 7.1 節の式 ( 118 ) である。この式は『ジャ
イロスタット』に対するやや近似的な(しかし非常に意味のある)最大慣性主軸則を表している。
この式を少し記号を変えてここに再掲しよう。すなわちエネルギーシンクの解析(非常に小型のダ
ンパを対象にした解析)結果に従うと、
『ジャイロスタット』の安定化のためには
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11.2 外部ロータを持つジャイロスタット
図 11.11 『ジャイロスタット』のコンセプト(図 7.11 参照)
Tsp
I ar

I ar
Tsr
 ( I 1 I 3 )1
2
0
(1)
が成り立たねばならない。外部ロータ型『ジャイロスタット』に対しては、「キャリア(carrier)」
「ホイール」はこれまで使ってきたように「ロータ」と呼ばれ
は一般にプラットフォームと呼ばれ、
この物理的なモデルは図 7.11
る。
したがって下付き記号を e → p および w → r のように変えてある。
に示してあるがここで改めて図 11.11 に示す。上記の方程式 ( 1 ) において、 I ar はロータの軸まわり
の慣性モーメントを表しており、I 1 および I 3 はこれに直交する軸まわりの衛星全体の慣性モーメン
トを表している。上式においてプラットフォームおよびロータのエネルギー消散の速さをそれぞれ
Tsp および Tsr としてあるが、受動型衛星の場合これらの値はもちろん負でなければならない。
『ジ
ャイロスタット』は I ar ( I 1I 3 ) 1
2
 1( 1) に応じて偏球型(oblate)
(もしくは長球型(prolate)
)と呼
ばれる。この分類を行う場合プラットフォームのスピン軸まわりの慣性モーメントは含まれないこ
とに注意されたい。
式 ( 1 ) は、全ての偏球型『ジャイロスタット』は漸近安定(asymptotically stable)であるという
ことを示している。しかし長球型『ジャイロスタット』においては、プラットフォームにおける減
衰の安定化効果がロータにおける減衰の不安定化効果に打ち勝つようにする必要がある。したがっ
て受動的な方向安定化のためには、
『ジャイロスタット』は偏球型であるか、あるいはプラットフォ
ームの中にウォブルダンパ(wobble damper)を持つ必要がある。能動型のウォブル制御が今日しば
しば使われているがこれについてはあとで簡単に触れる。
ウォブルダンパ
『ジャイロスタット』のウォブルを減衰させるため多くの装置が提案されて来た。そしてその