コラーゲン経口摂取の効果について 藤本大三郎 コラーゲンは皮膚、骨

コラーゲン経口摂取の効果について
藤本大三郎
コラーゲンは皮膚、骨、関節軟骨、血管壁などの主成分のタンパク質です。
高齢になるとコラーゲンの量が減少したり変質したりします。それが皮膚のし
わ、骨の脆弱化、関節の痛み、高血圧の原因の一つと考えられています。
「だからコラーゲンを食べて補給するのがよいのだ」という話を健康雑誌、
テレビ、広告などで盛んに見かけます。
「コラーゲンを食べると肌がプリプリに
なった」とか、「関節痛が治った」などの体験談もたくさん報じられています。
しかし一方では、コラーゲンを食べても特に効果があるはずがないという冷
めた見方をする人も少なくありません。
コラーゲン経口摂取の効果に対する根本的な疑問は次の 2 点だと思います。
① 効果について体験談ではなく信頼できる学術論文が本当にあるのか?
② コラーゲンを食べても消化管内でアミノ酸に分解されるのだから、他
のタンパク質あるいはアミノ酸混合物を食べるのと変わらないのでは
ないのか?
ところが健康雑誌やテレビや企業のパンフレットを見ても、これらの疑問
に対する説明は見つかりません。
そこでコラーゲンの経口摂取の効果についてのきちんとした情報をお知らせ
したいのです。
コラーゲンの経口摂取の効果についての論文は、すでに数多く学術雑誌に出
版されています。たとえば、関節炎の症状軽減(文献A1)、骨量の増加(B1
-3)、皮膚の弾力性や保水性の改善(C1-4)、腱のコラーゲン線維の増大
(D1)、頭髪の成長促進(E1)、血圧上昇の抑制(E2)などが報告されて
います。
ラットやマウスなどの実験動物を用いた研究の多くは、しっかりしたジャー
ナルに出版されており、信頼できると思います。
肝心なのはヒトに対する効果です。ヒトの試験では、二重盲検でないもの、
統計処理がなされていないものなどがあり、いまだ十分とは言えない状況です。
しかし、たとえば関節炎の症状軽減については欧米の少なくも7のグループ(A
1)が、また皮膚への効果については日本の3のグループ(C1-3)が報告
を出しています。完璧に証明されたとは言えないが、有望であるということが
できるでしょう。今後二重盲検の大規模な試験が複数のグループで行われるこ
とを期待します。また効果が大きな被験者とあまり効果がない被験者があるよ
うなので、どのようなケースに効果があるのか研究を進める必要があります。
このような多様な効果を示す理由として、コラーゲンの経口摂取により体内
のコラーゲンの合成が促進されたり、血液循環が良くなったりする可能性が考
えられます。それではどのようなメカニズムで起こるのでしょうか。
コラーゲンを摂取すると、消化管内で分解されますが、すべてがアミノ酸に
まで分解されるわけではありません。かなりの部分は小さなペプチドの形で体
内にとりこまれます(F1)。腸壁には小ペプチドを運搬するトランスポーター
があります。
コラーゲンに由来するペプチドの中には、さまざまな生理活性を有するもの
があることがわかってきました。たとえば培養細胞のコラーゲン合成を促進す
るペプチド(C1,G1、G3)、血小板凝集を阻害するペプチド(G2)、血
圧上昇を抑制するペプチド(E2)などが見つかっています。コラーゲンを摂
取すると、体内でこのようなペプチドが生成し、生理作用を示す可能性が十分
考えられます。
中でも注目されるのは、コラーゲン合成を促進するペプチドです。なぜこの
ような活性をもつペプチドがコラーゲン分解物にあるのかといえば、そもそも
コラーゲンは体の組織の構成成分です。体にはコラーゲンが分解されるとペプ
チドが生成し、これがコラーゲンの再生を促し補充するという仕組みがあると
考えると、ペプチドにコラーゲン合成促進作用があっても不思議ではありませ
ん。
ペプチドのほとんどは体内で最終的にはアミノ酸にまで分解されます。は
じめからアミノ酸として吸収された分と共に、体内でのコラーゲン合成の材料
にもなります。コラーゲンはとてもユニークなアミノ酸組成を持っています。
コラーゲンの合成には大量のプロリンが必要で、実際プロリンの濃度がコラー
ゲンの合成速度に深くかかわっています。プロリンは必須アミノ酸ではないの
で、理論的には他のアミノ酸から合成できるのですが、十分に行われない場合
もあるようです。たとえば熱傷患者(H1)やビタミンB6不足(H2)など
の場合です。他のタンパク質に含まれているプロリンでももちろんよいのです
が、コラーゲンほどたくさんプロリンを含んでいるタンパク質は他にあまりあ
りません。ですから、コラーゲンを摂取することは、コラーゲンの材料供給と
しても意味があると思われます。またコラーゲンにかなり多く含まれているグ
ルタミンやアルギニンにもコラーゲン合成を促進するなどの生理作用が報告さ
れています(H3)。
コラーゲンの経口摂取によるさまざまな効果は、上に述べたようなペプチド
やアミノ酸の複合的な作用によると考えられます。しかしまだまだ不明のこと
も多く、さらに研究を進める必要があると思います。
このようにコラーゲンの経口摂取の効果とそのメカニズムの解明はまだ十分
とは言えないのですが、有効性を示唆する多くの結果が得られています。
高齢者の増加とともに医療費の増大が深刻な問題になっています。健康を維
持し、医療費を抑制するためにも、食品のもつ生理機能を理解し活用すること
が重要です。食品としてのコラーゲンの生理機能の全容が明らかになり、活用
が進むことを願っています。