13.06.17 第7回 行政法 総論

第7回
行政法
総論
(合格テキスト 111~124 過去&厳選問題集 96~127)
この分野では、行政法の総論的な部分から、行政作用法に至るまで幅広く出題されます。
判例を重点的に学習しましょう。
1.私法法規の適用
重要度★☆☆
合 111
問 96
一般に、法は公法と私法に分類されますが、行政行為には常に私法が適用されないという
わけではありません。事案ごとの判例を覚えておきましょう。
判旨の内容
公営住宅関連
公営住宅の使用に関する契約関係には、民法上の信頼関係破壊の法理
の適用がある。
公営住宅の入居者が死亡した場合でも、その相続人は公営住宅の使用
権を当然には承継しない。
建築基準法関連
建築基準法による建築物の距離制限は民法 234 条 1 項に優先して適
用される。
建築基準法の規定により開設された道路の使用権を有している者で、
そこを通行することについて日常生活上不可欠の利益を有する者は、
道路の通行を妨害する者に対して妨害排除請求、妨害予防請求をする
ことができる。
安全配慮義務
国が公務員に対して負っている安全配慮義務の違反に基づく損害賠償
請求の消滅時効の期間は会計法 30 条所定の 5 年ではなく、民法 167
条所定の 10 年である。
公物の時効取得
過
公物の時効取得も、一定の条件下で認められる。
公営住宅の使用関係については、公営住宅法およびこれに基づく条例が特別法として
民法および借家法(事件当時)に優先して適用されるが、公営住宅法および条例に特別の
定めがない限り、原則として一般法である民法および借家法の適用があり、その契約
関係を規律するについては、信頼関係の法理の適用がある。
→○ 最判昭和 59 年 12 月 13 日参照 (22-10-2)
過
農地買収処分によって、国が対象となった土地の所有権を取得したのち、第三者が相
続により当該土地を取得したとして移転登記を済ませたとしても、買収処分による所
有権取得について民法の対抗要件の規定は適用されないから、当該第三者は、当該土
地所有権の取得を国に対して対抗することはできない。
→× 最判昭和 41 年 12 月 23 日参照 (22-10-5)
1
2.行政庁の権限
重要度★★☆
合 113
問 97~99
行政庁は各々法律によって与えられた権限を行使するのが原則です(権限分配の原則)。こ
こでは、他の行政庁に権限行使させることができる例外を押さえましょう。
代理
委任
法定代理
任意代理
権限の所在
不変
不変
変更
権限の範囲
全部
一部
一部
法律の根拠
必要
不要
必要
※代決・専決は、内部的にその意思決定を補助機関にゆだね、対外的には当該行政庁の行
為としての法的効果が生ずるもので、法律の根拠は不要である。
過
上級行政庁は下級行政庁に対して監視権や取消権などの指揮監督権を有するが、訓令
権については認められていない。
→× (21-9-ウ)
過
行政庁がその権限の一部を他の行政機関に委任した場合であっても、権限の所在自体
は、委任した行政庁から受任機関には移らない。
→× (21-9-エ)
過
法定の事実の発生に基づいて、法律上当然に行政機関の間に代理関係の生ずる場合を、
授権代理という。
→× (21-9-オ)
3.行政行為の分類
重要度★★☆
合 114
問 101,102
行政行為の分類について、複雑ですが、まず行政行為は法律行為的行政行為と準法律行為
的行政行為に分けられるところからおさえましょう。すべての行為についてイメージをつ
かむことが大切です。
法律行
下命
為的行
(禁止)
政行為
許可
国民に一定の作為(不作為)を命じる。
本来行使しうるはずの権利につき既になされている一般的禁止を一
定の条件下で解除する。
免除
特定の場合に作為・給付・受忍の義務を免除する。
特許
特定人のために新たな権利を設定し、その法律上の地位を付与する。
認可
当事者間の法律行為を補充してその私法上の効果を完成させる。
代理
第三者がするべき行為を代ってする。
準法律
確認
特定の事実や法律関係の存否などを公の権威を以て判断する。
行為的
公証
特定の事実や法律関係の存在を公に証明する。
行政行
通知
特定人または不特定多数人に一定の事実を知らせる。
為
受理
他人の行為を有効な行為として受領する。
2
過
自動車の運転免許は、免許を受けた者に対し、公道上で自動車を運転することができ
るという新たな法律上の地位を付与するものであるから、行政行為の分類理論でいう
ところの「特許」に該当する。
→× 「許可」に当たる(19-10-1)
4.行政行為の効力
重要度★★★
合 115,116
問 103~106
ここでは、行政行為がいかなる効力を持つか、瑕疵ある行政行為の類型とその効力の否定
方法はどうなっているかという順番で整理しておさえていきましょう。
(1)行政行為の持つ効力
公定力
行政行為に取り消しうる瑕疵があったとしても、正当な権限を有する機関
によって取り消されるまでは一応有効な行為として扱われる。
不可争力
行政行為に取り消しうる瑕疵があったとしても、一定期間の経過後には行
政行為の相手方や利害関係人などの私人からはもはやその効力を争えなく
なる。
不可変更力
不服申立てに対する裁断行為について、裁断行為をした行政庁自らはもは
やその判断を覆し得なくなる。
執行力
行政行為によって命じられた義務を相手方が履行しない場合、行政庁は裁
判所の力を借りることなく、自らの判断でその行政行為の内容を強制的に
実現できる。
(2)瑕疵ある行政行為
取消しうる行為
瑕疵ある行政行為は無効なものを除いて取り消しうる。
無効な行為
重大かつ明白な瑕疵を有する行為。
軽微な瑕疵を有
行政行為の瑕疵が軽微な場合、後に適法要件を満たしたときはその瑕
する行為
疵が治癒される。
違法性の承継
一連の先行行為と後行行為が結合して1つの法効果を形成する場合、
先行行為の違法性が後行行為に承継されることがある。
(3)瑕疵ある行政行為の効力の否定(なお、無効な行政行為は当然に効力を有しない)
取消し
行政行為の原始的な瑕疵を理由として遡及的に効果を失わせる。
撤回
瑕疵なく成立した行政行為を、後発的事情を理由に将来に向かって効力を失わ
せる。
過
行政行為の撤回は、処分庁が、当該行政行為が違法になされたことを理由にその効力
を消滅させる行為であるが、効力の消滅が将来に向かってなされる点で職権取消と異
なる。→× (18-10-1)
過
行政行為の職権取消は、私人が既に有している権利や法的地位を変動(消滅)させる行為
であるから、当該行政行為の根拠法令において個別に法律上の根拠を必要とする。
→× 最判昭和 63 年 6 月 17 日 (18-10-4)
3
5.附款
重要度★★☆
合 117
問 107,108,110
附款については、附款の名称とそのイメージをつかんでおきましょう。
条件
行政行為の効果を発生不確実な将来の事実に係らしめる。
期限
行政行為の効果を発生確実な将来の事実に係らしめる。
負担
行政行為の主たる内容に付随して相手方に義務を命じる。
撤回権留保
一定の後発的事情が発生した場合に撤回できる権限を予め定めておく。
一部除外
法律が定める効果の一部の発生を除外する。
過
自動車の運転免許の期限として、免許証に記載されている「○年○月○日まで有効」
という条件は、行政行為の付款理論でいうところの「期限」に該当する。
→○ (19-10-3)
6.行政立法
重要度★★☆
合 119
問 111,112
行政立法とは、行政機関が定めた一般的抽象的な規範またはそれを定立する行為のことを
言います。行政立法の類型を覚えておきましょう。
(1)行政立法の種類
法規命令
行政規則
執行命令
法律や上位の命令の実施に必要な具体的細目を定める。
委任命令
法律や上位の命令の委任に基づいて発せられる。
通達
上級行政庁が下級行政庁の権利行使を指揮するために発する
訓令が文書化されたもの(法律の委任は必要なし)
。
(2)判例(パチンコ球遊器事件)
事案
課税対象である「遊戯具」の解釈としてパチンコは 10 年間除外されていたが、
東京国税局長からの通達によりパチンコが「遊戯具」に含まれる旨示されたため、
課税処分がされた。
判旨
通達の内容が法の正しい解釈に基づくものである以上、それをもとにした課税処
分は法律の根拠に基づくものである。法律の解釈に関する通達の変更により、国
民に不利益が及ぶことになったとしても、その変更が正しい法の解釈にとどまる
限りそれに基づく課税処分は違法ではない。
過
通達によって示された法令解釈の違法性が訴訟において問題となったとき、裁判所は、
行政庁の第一次的判断権の尊重の原則により、それが重大明白に誤りでない限り、当
該通達で示された法令解釈に拘束される。
→× 最判昭和 43 年 12 月 24 日 (22-9-4)
過
政令及び省令には、法律の委任があれば、罰則を設けることができるが、各庁の長や
各委員会が発する規則などには、罰則を設けることは認められていない。
→× 憲法第 73 条 6 号ただし書、国家行政組織法第 12 条 3 項 (23-9-5)
4
7.行政指導
重要度★★☆
合 120
問 113,114
行政指導は、円滑な行政目的達成のために重要です。ここでは、行政指導に関しての一般
的な事項及び救済方法についておさえましょう。
(1)意義、法律の根拠、処分性について
意義
行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実
現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言そ
の他の行為であって処分に該当しないものをいう。
法律の根拠
非権力的な行政活動のため、不要。
(2)判例
病院開設中
事案
止勧告事件
原告が県知事に対して病院開設の許可申請をしたところ、中止勧
告(行政指導)を受けた。原告が指導には従わずに申請を続行し
たため、許可は下りたが、その際に中止勧告に従わない場合は保
険医療機関の指定を拒否する旨の通告がなされた。
判旨
本件行政指導に従わない場合、相当程度の確実性を以て保険医療
機関の指定を受けられないこととなる。これは実質的に病院開設
を断念せざるを得なくなるという効果を有するから、
「処分その他
公権力の行使に当たる行為」(行訴法 3 条 2 項)といえる。
品川マンシ
事案
ョン事件
原告の建築確認申請に対し、被告は周辺住民の反対運動があった
ため、話し合いをするよう行政指導を行った。その話し合いは継
続していたが、原告はもはや従わない旨の表明をした。にもかか
わらず、被告側は行政指導の継続を理由に建築確認を留保した。
判旨
行政指導に従わない旨を明確に表明している者に対して、行政指
導が継続しているとの理由のみをもって確認処分を留保すること
は、特段の事情のない限り違法である。
過
規制的な行政指導によって、私人が事実上の損害を受けた場合には国家賠償請求訴訟
によってその損害を求償することができる。これに対し、受益的な行政指導の場合に
おいては、強制の要素が法律上のみならず事実上もないのであるから、行政指導に基
づき損害が発生した場合には、民法上の不法行為責任を問うことはできても、国家賠
償責任を問うことはできない。
→× (17-9-イ)
過
申請に関する行政指導に携わる者は、申請の内容が明白に法令の要件を満たしていな
い場合であって、申請内容の変更を求める行政指導について申請者が従う意思のない
旨を表明したときは、申請の取り下げがあったものとみなすことができる。
→×(22-13-4)
5
8.行政上の強制措置
重要度★★★
合 122
問 119~121,124~127
行政目的を達成するために、様々な強制措置が用意されています。ここでは、それらの類
型とイメージをつかみましょう。
行政強制
行政上の
代執行
強制執行
代替的作為義務の不履行に対して、代わりにこれを
履行し、その費用を義務者から徴収する。
強制徴収
義務者が金銭納付義務を履行しない場合に、義務者
の財産に強制を加え、義務の履行を強制する。
執行罰
非代替的作為義務の不履行に対して、金銭を付加す
ることで心理的に義務の履行を促す。
直接強制
義務者が義務を履行しない場合に、直接に義務者の
身体・財産に強制を加えて義務が履行されたのと同
様の状態を実現する。
即時強制
義務の存在を前提とせずに、直接に身体または財産に実力を行使
して行政上望ましい状態を実現する。
行政罰
行政刑罰
行政上の義務違反に対する制裁として刑罰を用いる。
秩序罰
行政上の秩序維持のために違反者に制裁として金銭的負担を課
す。
過
即時強制は法令により個別に根拠づけられている場合にのみ認められるが、いわゆる
成田新法による建物の実力封鎖、警察官職務執行法による武器の行使がその例である。
→× 成田新法による建物の実力封鎖は直接強制 (19-9-3)
過
条例に基づく命令によって課された義務を相手方が履行しない場合には、代執行等の
他の手段が存在しない場合に限り、地方公共団体は民事訴訟によりその履行を求める
ことができる、とするのが判例である。
→× 最判平成 14 年 7 月 9 日 (23-8-2)
9.行政代執行法
重要度★★★
合 123
問 117~121,126,127
行政代執行法は、試験でも頻出のテーマです。要件と手続きをしっかり覚えましょう。
要件
①法律(法律の委任に基づく命令、規則、条例を含む)によって命じら
れた代替的作為義務の不履行、②他の手段による義務履行確保が困難な
こと、③不履行の放置が著しく公益に反すること。
手続
原則
①文書による戒告(行政代執行法 3 条 1 項)
、②代執行令書による通知
(同 3 条 2 項)
、③代執行の実施、④費用の徴収。
例外
過
緊急の必要がある時は、①②を省略することができる(同3条3項)
。
行政代執行法は、法令違反の是正が目的とされているから、義務の不履行を放置する
ことが著しく公益に反しない場合であっても、代執行が可能である。
→× 行政代執行法 2 条参照 (17-12-5)
6
10.行政調査
重要度★★★
合 124
問 122~123,127
行政調査については、重要判例がいくつか出ていますから、それらを押さえておきましょ
う。
所持品検査
警職法 2 条 1 項に基づく職務質問に付随する所持品検査は、強制にわ
たらない限り、具体的事情の下で相当と認められれば許容される。
自動車検問
自動車検問は、相手方の任意の協力の下、公道利用者の自由を不当に制
約しない方法・態様で行われれば適法である。
荒川民商事件
税務調査の質問検査権について、質問検査の範囲、程度、時期、場所な
どについて必ずしも法律で明らかにしておかなければならないわけで
はない。
税務調査
税務調査の質問検査権は、犯罪の証拠収集の手段として行使すること
は許されない。
川崎民商事件
行政手続にも憲法 35 条 1 項、同 38 条 1 項が適用される余地はある
が、税務調査の質問検査権にはこれらは適用されない。
過
保健所職員が行う飲食店に対する食品衛生法に基づく調査の手続は、行政手続法の定
めるところに従って行われなければならない。
→× 行政手続法第 3 条 14 号 (20-26-1)
過
税務調査については、質問検査の範囲・程度・時期・場所等について法律に明らかに
規定しておかなければならない。
→× 最判昭和 48 年 7 月 10 日 (20-26-2)
過
警察官職務執行法 2 条 1 項の職務質問に付随して行う所持品検査は、検査の必要性・
緊急性があれば、強制にわたることがあったとしても許される。
→× 最判昭和 53 年 6 月 20 日 (20-26-3)
過
税務調査の質問・検査権限は、犯罪の証拠資料の収集などの捜査のための手段として
行使することも許される。
→× 最判平成 16 年 1 月 20 日 (20-26-5)
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