商法応用 第 9 回 商人の報酬請求権、商事法定利率、商事消滅時効など 〔目 的〕 商行為の営利性・迅速性・取引安全性の要請から、商行為一般に対して、商法は民法の 特則を設けているが、各規定の趣旨、その適用の要件を民法規定と対比しながら理解する ことを目的とする。特に、商人の報酬請求権の適用要件、民事仲立人の報酬請求権に関す る諸問題、商事法定利率の適用要件、商事時効の適用要件、を理解することを目的とする。 【準備作業】 参照文献や、商法総則商行為法の教科書等を読み、以下の予習事項を調べておくこと。 その際に、下記にあげる参照判例・参集文献は各自が必要に応じて参照しておくこと。ま た、下記の設問に関して各自が調べてまとめてくること。 【予習事項】 (1)商法 512 条の意義は何か。 (2)商法 512 条にいう商人の営業の範囲内における行為には、どのような範囲の行為まで含 まれるか。 (3)商法 512 条は事務管理が成立している場合にも適用されるか。適用されるとした場合、 「他人のために」したと認められるのはいかなる場合か。 (4)商法 513 条 1 項、2 項の適用要件はどうなっているか。民法との相違はどこにあるか。 その立法趣旨は何か。 (5)商法 543 条でいう「商行為」には、基本的商行為のみなのか、附属的商行為も含まれる か。 (6)民事仲立人の報酬請求権に関して、商法 550 条 2 項の類推適用は肯定されるか。 (7)民事仲立人が、商法 512 条に基づき、相手方に報酬を請求できるのはどのような場合か。 (8)商法 514 条の立法趣旨は何か。 (9)商法 514 条の適用範囲はどこまでか。商法 514 条の適用要件をまとめておくこと。 (10)商行為によって生じた債務を担保するために設定した質権については、流質契約は認 められるか。 (11)商法 522 条の立法趣旨は何か。 (12)商法 522 条の適用範囲はどこまでか。商法 522 条の適用要件をまとめておくこと。 [参考判例] ・最判昭和 43 年 8 月 20 日民集 22 巻 8 号 1677 頁 ・東京地判平成 6 年 9 月 1 日判時 1533 号 60 頁 ・最判昭和 44 年 6 月 26 日民集 23 巻 7 号 1264 頁 ・最判昭和 50 年 12 月 26 日民集 29 巻 11 号 1890 頁 ・福岡高那覇支判平成 15 年 12 月 25 日判時 1859 号 73 頁、判タ 1153 号 149 頁 ・最判昭和 30 年 9 月 8 日民集 9 巻 10 号 1222 頁 ・最判昭和 55 年 1 月 24 日民集 34 巻 1 号 61 頁 ・最判昭和 57 年 1 月 19 日民集 36 巻 1 号 1 頁 ・最判平成 3 年 4 月 26 日判時 1389 号 145 頁、判タ 761 号 149 頁 ・最判昭和 40 年 4 月 22 日民集 19 巻 3 号 689 頁 ・最判昭和 41 年 4 月 14 日民集 20 巻 4 号 611 頁 ・最判昭 29 年 9 月 10 日民集 8 巻 9 号 1581 頁 ・最一小判平成元年 9 月 21 日判タ 714 号 83 頁、判時 1334 号 223 頁、金法 1244 号 26 頁、 金判 835 号 3 頁 ・最判平成 3 年 4 月 26 日判時 1389 号 145 頁、判タ 761 号 149 頁 -1- ・最判平成 10 年 4 月 14 日民集 52 巻 3 号 813 頁 ・東京地判平成 9 年 2 月 27 日判タ 944 号 243 頁 ・最判平成 19 年 2 月 13 日判時 1962 号 67 頁、判タ 1236 号 99 頁、金判 1262 号 12 頁、金 判 1266 号 28 頁 ・最判平成 20 年 1 月 28 日判時 1995 号 151 頁、判タ 1262 号 56 頁 [参考文献] ・江頭憲治郎・山下友信編『別冊ジュリスト 194 号商法(総則商行為)判例百選[第 5 版]』 (有斐閣、2008 年)82 頁~91 頁、98 頁~101 頁 [問題] 1.中小企業等協同組合法に基づいて設立された信用協同組合が、商人たる組合員に貸付 をする場合、当該貸付金債権の消滅時効は何年となるか。 2.建設工事の請負業を営む X1株式会社と X2株式会社は、百貨店業を営む A 株式会社 の発注する梅田地区の店舗増改築工事の請負を目的とする B 建築工事共同企業体を結成 し、Y会社を代表者とし、損益分配の割合を各 2 分の 1 とし、B共同企業体の施行する工 事に要する費用は前記の割合に応じて各自が負担する旨合意した。平成 16 年 4 月 1 日、B 共同企業体は、A 会社との間で代金 3 億円で請負契約を締結した。 (1)B 共同企業体が、店舗増改築工事のために建築資材を 500 万円で Y 株式会社に発注し た。Y 株式会社が、直接、B 共同企業体の構成員である X1株式会社に 500 万円を請求し た場合、X1株式会社は支払に応じなければならないのか。 (2)X1株式会社が支払に応じた場合、X1株式会社が X2株式会社に 250 万円の求償を請 求する場合、その法定利率及び消滅時効については、どのような規定が適用されると考え るべきか。 3.X 損害保険株式会社は、Y 株式会社の本社ビルを保険の目的、保険契約者兼被保険者 を Y 株式会社とする火災総合損害保険契約を締結した。Y 会社の本社ビルが原因不明の出 火により全焼したことから、X 損害保険会社は、Y 会社に 1 億円の保険金の支払いを行っ た。ところが、保険金の支払いがなされた 6 年後に、当該出火は、Y 会社が保険金詐欺を 目的に行ったことが、他の詐欺事件で Y 会社の役員が刑事起訴されたことによって判明し た。そこで、X 損害保険会社は、Y 会社に対して支払った 1 億円につき不当利得返還請求 をなした。 (1)Y 会社から弁護を依頼されたあなたは、どのような主張をして、X 会社からの請求を拒 むことができるか検討しなさい。 (2)X 会社から弁護を依頼されたあなたは、Y 会社側の主張に反論し、X 会社の請求を肯定 できるか検討しなさい。 (3)あなたが、当該裁判における裁判官であった場合、どのような判断を下すか検討しな さい。 4.非商人であるXは、貸金業者であるY株式会社(以下、「Y社」と略す)との間で、 金銭消費貸借契約を締結した。Xは、Y社から、利息制限法 1 条 1 項所定の制限利息を超 える利息の約定で各金員の借入を行い、その金員の弁済を繰り返し行ってきた。Xは、利 息制限法所定の制限の範囲内で充当計算すると、Y社に対して過払金が生じていることが 判明した。 XさんからY社に対して過払金に対して不当利得返還請求訴訟を引き受けた弁護士A -2- は、過払金の利息について商法 514 条による商事法定利率を主張した。これに対して、Y 社から依頼を受けた相手方弁護士Bは、民法 404 条所定の年 5 分を主張してきた。 弁護士A、Bの主張の法的根拠を考えた上で、この場合の法定利率は商事法定利率とな るのか、民事法定利率となるか検討しなさい。 5.宅地建物取引業者である X 株式会社は、Y 株式会社との間で、平成 16 年 10 月 1 日、 Y 会社の所有する土地の売買について、有効期間を平成 17 年 3 月 31 日までとする専任媒 介契約を締結した。当該媒介契約には、一旦、成立した売買契約が手付金放棄によって解 除された場合の報酬請求権についての特約は定められていなかった。 X 会社の仲介により、Y 会社と A 株式会社は、平成 17 年 1 月 20 日、当該土地につき、 代金総額 6 億円、清算日を同年 2 月 25 日とする内容の売買契約を締結し、A 会社は、同年 1 月 20 日、Y 会社に対して、手付金 2200 万円を交付した。しかし、Y 会社では当該土地 の売買価格を巡って今後、当該土地のある地区については、大手百貨店の支店が撤退する こと等から、時価が下落する可能性が高く、3000 万円程減額できないかと、X 会社を介し て、Y 会社に打診したが、Y 会社はそれに応じなかった。A 会社は、別の C 不動産会社か ら、同じ面積でかつ、当該土地よりも利便性のある土地を割安な値段で紹介されたことか ら、平成 17 年 2 月 1 日、Y 会社に対して、手付金を放棄して当該土地の売買契約を解除す る旨の意思表示をした。既に、X 会社は当該売買契約に係る委任事務処理は終えていた。 X 会社は、Y 会社に対して、当該土地の仲介に基づく報酬として、XY 間で締結された 媒介契約に基づき、2000 万円の報酬を請求した。これに対して、Y 会社が報酬の支払いを 拒んだ。 X の請求は認められるのか。 -3-
© Copyright 2024 Paperzz