スポーツ傷害,Vol.10,2005. 成長期スポーツ選手に生じた脛骨結節裂離骨折 長尾秋彦 久木田裕史 三浦一志 岡村良久 村上忠誌 青森労災病院整形外科 青森県立あすなろ学園整形外科 小波瀬病院整形外科 はじめに 図1 図1. 初回受傷時 a) Ogden 2-A b)MRI T2*WI 転位骨片を整復し,2本の吸収スクリュー (SUPER-FIXORB(R), タキロン, 大阪市, 日 脛骨結節裂離骨折は稀な損傷であり,脛骨 本)にて固定し,断裂した骨膜を可及的に縫合 近位骨端線閉鎖前の十代男子に多く発生す した.術後,骨癒合は徐々に進行していたが,術 る 1)3)4)5)6)9).今回我々はスポーツ中に生じ 後5週目に階段を下りて左足を強くついた瞬間, た脛骨結節裂離骨折の 3 例を加療し,良好な 膝くずれを生じたため当科を受診した.レントゲ 成績を得たので文献的考察を含めて報告す ン,CTにて膝蓋骨上極の裂離骨折があり,手術 る. を施行した(図2). 症例供覧 症例1)16歳男子がサッカー中に相手と接 触し,転倒して左膝を受傷した.レントゲンで脛 骨結節裂離骨折(Ogden type 2-A)10 )がみら れ,骨片の転位が大きかったため手術を施行し た(図1). 図2.再受傷時 a)MRI(脂肪抑制像) b)3D CT(矢印は裂離骨片を示す) 骨折部は大腿四頭筋腱付着部の sleeve fractureであり,GⅡ QuickAnchor Plus(R) (Depuy Mitek, Norwood, MA, USA )による骨 接合を施行した.順調に骨癒合し,術後1年3ヶ 月の現在特に愁訴もなく,可動域は左右差もな くなり元のスポーツに復帰している. スポーツ傷害,Vol.10,2005. て,女子では男子に比べ骨端線の閉鎖が早く, 症例2)14歳男子が走り高跳びの踏み切りで 男子並みに活動性や運動レベルが上がるの 左膝を受傷した.レントゲンでOgden type は骨端線閉鎖以降であるためと考えている. 3-A10)の脛骨結節裂離骨折があり,手術を施 我々の症例も含め,これまでの報告も全例17 行した.転位した骨片を整復し,2本の 歳以下であり8)9)11),最も若い例では9歳であ (R) SUPER-FIXORB にて固定した.骨癒合は良 った(表1)12). 好で3ヶ月からランニングを開始し,5ヶ月で陸 上競技に復帰した.現在,疼痛や可動域制限は 認めていない. 症例3)16歳男子が部活でダッシュしたとき に左膝に痛みを感じ,歩行困難となって受診し た.レントゲンでOgden type 2-A 10)の脛骨結 節裂離骨折であったが,転位がみられないた め膝装具による2週間の伸展位固定を行い,そ 表1. 脛骨結節裂離骨折の過去の報告 の後荷重を開始した.受傷後6ヶ月の現在,疼 痛や可動域制限は認めておらず,スポーツに 復帰している. 脛骨結節裂離骨折の受傷年齢と Osgood-Schlatter病の罹患年齢が重なること もあり,この2つの障害の関連を示唆する報告も 考察 ある.Ogdenら10)は14膝中10膝で Osgood-Schlatter病がみられたことから,関連 する可能性があると述べている.しかし,彼らの 脛骨結節裂離骨折は12∼17歳の成長期に 10膝中7膝は骨折部とは反対側の罹患である スポーツを契機として生じる事が多く,症例のほ こと,またOsgood-Schlatter病の頻度に比較し, とんどは男子である4)5)6)8)9).非常に稀な損 脛骨結節裂離骨折はあまりにも少ないため,こ 傷であり,Burkhartら2)は全骨端損傷中の の2つの疾患の因果関係は薄いと考えられる 0.4%と述べ,Ogdenら10)は2.7%と報告して 7)12). いる.1986年Bolestaら1)は文献のレビューか 治療は骨折部の転位が少ない場合はギプ ら106例111膝の症例を報告し,その後 スやシーネなどの外固定で十分であるが,転位 Stanitski12)は1998年までに43例追加報告 した骨折ではほとんどの場合観血的骨接合術 されたと述べている. の適応である.その理由として,断裂した厚い骨 脛骨結節部骨端線の閉鎖は女子で15歳, 膜が骨折部に介在し骨片の整復を阻害するこ 男子で17歳頃に完成するため,本骨折は年齢 と,また膝蓋腱により骨片は近位に牽引されるt と密接な関係があり,12∼17歳に生じることが ため外固定だけでは整復位保持が困難である 多い4)5)8)9).これまでに報告された154例中 ことなどがあげられる. 女子はわずか6人のみであった.その理由とし Watson−Jones13)は金属による内固定は スポーツ傷害,Vol.10,2005. 反張膝や成長障害を残す可能性があると述べ Fractures of the proximal tibial epiphysis. ているが,これまで反張膝を生じたという報告は J Bone and Joint Surg. 61-A:996-1002 ない.唯一Ogdenら10)が脊髄髄膜瘤の12歳 1979. 児で骨端線の早期閉鎖後に2cmの脚長差が 3)Chow SP, Lam JJ, Leong JC: 生じた例を報告している.しかし,これは脛骨結 Fractures of the tibial tubercle in 節裂離骨折に特異に生じたというよりも,神経 adolescent. J Bone and Joint Surg, 72-B: 病性関節症によるためであろうと推測している. 231-234, 1990. 症例1が膝蓋骨上極の裂離骨折を生じた原 4)Christie MJ, Dvonch VM: Tibial 因として1)手術後の膝伸展位固定のため骨萎 tuberosity avulsion fracture in 縮が生じ膝蓋骨が脆弱化した,2)初回受傷時 adolescents. J Pediatr Orthop. 1: 392-394, に膝伸展機構全体への侵襲が加わっていた 1981. 可能性がある,3)年齢(15歳)による骨−腱移 5)Hand WL, Hand CR, Dunn AW: 行部での骨側の脆弱性の存在,などが考えら Avulsion fractures of the tibial tubercle. J れる.本例と同一の障害は過去に1例12)の報 Bone and Joint Surg, 53-A: 1579-1583, 告があるのみであり,非常に稀な合併損傷であ 1971. る.こうした合併損傷の予防として膝の保護の 6)Levi JH, Coleman CR: Fractures of ための装具を装着させることが必要であり,また the tibial tubercle. Am J Sports Med. 4: 可能な限り早期に部分荷重,可動域訓練を開 254-263, 1976. 始することにより骨萎縮を回避できると考えて いる. 7)McKoy BE, Stanitski CL: Acute tibial tubercle avulsion fractures. Orthop Clin North Am, 34: 397-403, 2003. 結語 8)森井孝通,腰野富久,和田次郎ら: 脛骨粗 面裂離骨折14例の治療成績. 日整会スポー ツ誌. 9: 179-183, 1990. 1) 脛骨結節裂離骨折の3例を報告した 9)中村尚,古賀良生,浅井忍ら:脛骨粗面裂 2) 全例骨癒合し,元のスポーツに復帰した 離骨折の12例. 整・災外. 28: 127-130, 1985. 3) 1例では経過中に膝蓋骨上極の裂離骨 10)Ogden JA, Tross RB, Murphy MJ: 折を合併した. Fractures of the tibial tuberosity. J Bone and Joint Surg, 62-A: 205-215, 1980. 参考文献 11)Shelton WR, Canale ST: Fractures of the tibia through the proximal tibial epiphyseal cartilage. J. Bone and Joint 1)Bolesta MJ, Fitch RD: Tibial tubercle avulsions. J Pediatr Orthop:186-92, 1986. 2)Burkhart SS, Peterson HA: Surg., 61-A: 167-173, 1979. 12)Stanitski CL: Acute tibial tubercle avulsion fractures. Operative Techniques in Sports Medicine, 6: 243-246, 1998. スポーツ傷害,Vol.10,2005. 13)Watson-Jones R: Fractures and joint injuries, vol 2, 4th ed, Livingstone, 1049, 1956.
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