ノルウェーの海運・造船事情 - 在ノルウェー日本国大使館

ノルウェーの海運・造船事情
2013年11月
在ノルウェー日本国大使館
(ポイント)
● ノルウェーは世界屈指の海運国,海事産業は国内外で大きな影響力を有している。
● ノルウェー海運は外貨獲得の重要な担い手。
● 独自の海運保護政策の下,海運会社を中核とする海事クラスターが発展している。
● 造船業は,石油掘削リグ,サプライ船等の特殊船や各種艤装品における独自の技術を有して
おり,これら分野における世界的な価格支配力を維持している。
● 海運,造船共にオフショア石油開発関連の比重が極めて高い。
1. 海運の現状
(1) 事業、安全・環境規制等海運に関する法制度
海事庁のホームページに船舶安全法,船員法,ノルウェー国際船舶登録法(NIS)等々の法
規則(英訳)が掲載されている。
http://www.sjofartsdir.no/en/
(2)二重船籍制度(NOR/NIS)
80 年代の世界的なフラッギング・アウトに対処するため,1987 年よりノルウェー船籍「NOR
(Norwegian Ordinary Ship Register)」とノルウェー国際船籍「NIS(Norwegian International
Ship Register)」の2つの船籍制度を導入した。NIS 制度は,一種の国内便宜地籍で,NIS
船は,ア)船長以外は外国人船員を配乗可,イ)外国人船員をその出身国と同じ賃金水準で雇用
可,ウ)船舶の設備、安全等は NOR 船に同じ,エ) 国内輸送には従事不可,等を特徴とする。
この制度によりノルウェー船籍を保ちつつ,船員費削減による国際競争力を確保できるため,
世界の二重船籍制度の中でも成功した例とされている。
(3)内航海運の現状
当国の内航海運は,海岸沿岸部における貨物輸送及びフィヨルド地域での道路網を補完す
るためのフェリー輸送が主体である。後者は,フィヨルド部において橋梁の建設が技術的に
困難あるいは経済的でない場合に小型のフェリーが多数使用されており,一般的に採算性は
低く,大幅な政府補助がなされている。
ノルウェーにはカボタージュ規制はなく,「外国籍船を含めた自由競争を原則」としてい
るが,唯一ノルウェー国際船籍(NIS)船はノルウェー船籍(NOR)との競合を避けるため,
国内輸送には従事できない。
(4)外航海運の現状
ノルウェーからの輸出の 54%,輸入の 73%(共に重量比,2012 年)が海上輸送である。
また,第三国間輸送を主とする外航海運の運賃収入は約 809 億クローネ(2012 年)で,サ
ービス輸出の約 31%を占めており,外貨獲得の重要な担い手となっている。
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ノルウェー船主協会の資料によると、ノルウェーの海運会社が保有する船腹量(2012 年
末)は約 4,000 万総トンで、保有トン数では世界第 10 位と近年順位を落としているが、こ
れはタンカーやバラ積み船等の伝統的船舶から付加価値の高いオフショア関連船舶等への
移行が進んでいるためであり、保有船舶の船価(評価額)では日本、ドイツ、ギリシア、中
国に次ぐ世界第 5 位の位置を占めている。なお、オフショア関連船舶の保有額は米国に次ぐ
世界第2位である。
ノルウェーの外航商船隊(年末,100 総トン以上,単位:100 万重量トン)
ノルウェー籍船
外国籍船
合計
NOR
NIS
小計
2008
2009
2010
2011
2012
隻 トン
隻
トン
271
260
226
223
233
621
584
569
548
529
20.7
19.1
18.4
17.7
18.1
2.5
1.7
1.1
1.2
1.2
隻
トン
隻
トン
隻
892 23.2 984 18.5 1,876
844 20.8 992 19.6 1,836
795 19.5 974 19.0 1,769
771 18.9 994 20.5 1,765
762 19.4 1002 21.0 1,764
(出典:ノルウェー船主協会年報
トン
41.7
40.4
38.5
39.4
40.4
2012)
(5)政府の政策・最近の動向
2013 年 8 月,貿易産業省は「海事産業戦略」を発表した。世界をリードする海運国とし
ての位置を保持し,関連産業の一層の発展を図るため,欧州モデルに基づいた海運税制の導
入,実質賃金制度(Net wage system)の継続,環境に優しい海運促進、北極海航路開発セン
ターの設置検討、海事研究開発の強化等を行うとしている。
海洋汚染対策としては,船舶動静監視用沿岸レーダーの導入,領海拡張(4 海里→12 海里、
2004 年1月から実施),船舶安全検査等に係るEUとの連携等を実施。また,ノルウェー北
部沿岸地域の汚染防除対策促進に関するロシアとの連携を強化するとともに,領海外に全て
のタンカー及び 5000 総トン以上の貨物船を対象とする指定航路を設定している。
①海運補助制度
ア)企業に対する船員所得税の一部還付制度等
自国籍船員の確保を目的として,1993 年から雇用主に対する船員所得税の一部還付制
度を導入。自国への納税対象者の乗り組み割合等,一定の条件を満たす船舶(NOR,NIS
とも)を所有する雇用主からの申請に対して,国会が承認する予算総額の範囲内で配分。
イ)実質賃金システム(Net wage system)
NOR 登録船について,2002 年から実質賃金システムを採用。このシステムは,船員に
係わる所得税や社会保障費を,船主に補助金という形で全額(2008 年 7 月から上限有り)
還付するもの。船主は上記ア)の船員所得税一部還付制度に代えて,源泉徴収し納税した
船員の所得税,国民保険掛金及び国民保険の雇用者負担金を還付される。対象船員は,
ノルウェーに納税する船員であって、特定の船舶に乗り込む者。漁船や近距離内航船を
除く広範な船舶に適用。当制度を採用する船主は、結果的に船員に対して純賃金のみを
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支払うことになる。
②海運税制
海運収入に対する法人税(28%)に代えて,トン数標準税を選択できる。トン数税の対
象となる船会社は,株式会社法に基づいてノルウェーに登録されている会社。船会社が所
有する船舶に対して,以下税額を純トン数×税額×船舶所有日数で課税。課税額は毎年国
会(予算)で定められる。なお,一定の環境基準を満たす船舶への税額は 25%減。
<トン数税額の推移>
1000 トン/1 日当たり
1996-97
1998-99
2000-01
2002-04
2005-13
~1,000
Nok 0
Nok 0
Nok 0
Nok 0
Nok 0
1,001~10,000
Nok 18
Nok 36
Nok 72
Nok 50
Nok 18
10,001~25,000
Nok 12
Nok 24
Nok 48
Nok 33
Nok 12
25,001~
Nok 6
Nok 12
Nok 24
Nok 16
Nok 6
(出典:財務省)
(6)オフショア関連事業
ノルウェー海運はオフショア石油開発関連事業の比重を強めている。2012 年末現在,ノ
ルウェー海運が保有する船舶数のうち約 33%がオフショアサービス船(2005 年末は約
23%)である。また,2012 年末現在,ノルウェーの海運会社が国内外の造船所に建造を発
注している船舶数の約 62%がオフショアサービス船(2005 年末は約 37%)である。
ノルウェー船主によるオフショア石油開発関連事業は,ノルウェー大陸棚のみならず,
ブラジル,アルゼンチン,西アフリカ,メキシコ湾,オーストラリア等々海外でも拡大し
ている。
(7) 日本とノルウェーとの関係
海運及び造船の分野において,日本とノルウェーは緊密な関係を有する。一般論として
ノルウェー船主が日本へ相当量の船舶建造を発注する一方で,ノルウェー船主はそれらの
船舶を使用して,日本に発着する海上輸送により収益を上げるという相互補完的な構図で
あり,2国間貿易収支ではノルウェー側の入超傾向にあるものの,海運サービス収入でほ
ぼ相殺され,貿易摩擦が近年問題になったことはない。ノルウェーは日本への船舶ぎ装品
輸出にも積極的であり,これら分野での相互の経済関係もより緊密なものとなってきてい
る。また,日本とノルウェーは世界の海運業界の中でライバル関係にあるが,両国の海
運会社が締結している運航業務提携も多い。
なお、両国政府は、2011 年 5 月、
「海事技術・産業分野における協力覚書」を締結し、洋
上風力発電、LNG 燃料船、シップリサイクル等の分野における協力を促進することにした。
2. 造船業の現状
(1) 概要
ノルウェーの造船業は,70 年代以降の造船危機と世界的競争の激化に伴い,大幅な建造
規模の縮小を余儀なくされ,その後も世界の総造船量に占める割合はさほど大きくない状況
で推移している。一方,石油掘削船,沖合石油掘削リグ支援用のサプライ船など特殊船の建
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造等の分野において先進的なノウハウを有しており,これら特定の分野で一定の活動規模を
保持している。
ノルウェーには約 30 の造船所(新造船)があり,約 4,000 人を雇用。大手と呼ばれる造
船所は,欧州最大の VARD(旧 STX OSV)を筆頭に,Bergen Group, Havyard Group, Ulstein Group,
Kleven Maritime の 5 社であり,その他は西部ノルウェーを中心とする沿岸に散在する中小
造船所である。
政府の「海事産業戦略」報告書によれば、過去 5 ヵ年にノルウェーで建造された船舶の約
79%がノルウェー船主向けであり、約 84%がオフショア関連船舶である。造船業は金融危
機後受注を減らしたが、2010 年には金融危機前の水準に回復した。
原油の価格高によって大陸棚石油開発関連投資が好調に推移していることを背景に,ノル
ウェーの造船所は石油開発関連船舶の建造を主に好調である。造船業界のマーケッティング
組織である「Norwegian Shipbuilders Organization」によれば,造船業の 2012 年の新規受
注額は約 240 億クローネであり,2012 年末現在における業界上位 25 社の合計受注残高は約
400 億クローネ,約 100 隻(ほとんどがオフショア関連船舶)となっている。
(2) 政府の政策・最近の動向
他の造船国と同様,ノルウェーにおいても造船業支援のための国家制度として種々の支援
措置を実施。近年の助成措置は,①1990 年~2000 年:船価助成,②2003 年 3 月~2005 年:
船価助成,③2005 年~ 建造ローン政府保証など。
1995 年 5 月以降,造船分野についても EEA 協定により EU 造船指令が適用され,船価助成
は 2001 年に EU と歩調を合わせ撤廃されたが,EU が韓国の造船助成に対抗するために助成
を再開するとノルウェーも 2003 年 3 月から 2 ヵ年に亘って助成を再開。また,2005 年以降,
造船業の競争力強化のために船舶建造ローンに対する政府保証制度を導入し,造船所が金融
機関から借り入れる建造ローンの最高 50%までを保証している。
(3) その他
2年に1回,ノルウェーにおいて Nor-Shipping(国際船舶見本市)を開催。世界の約 50
ケ国・地域から造船・舶用工業企業が出展。日本は,1968 年から参加しており,2013 年 6
月には,日本船舶輸出組合,日本舶用工業会等を初めとする団体・企業が参加した。次回の
Nor-Shipping は,2015 年 6 月 2 日~5 日。
(了)
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