静電駆動マイクロステップモータの 電界解析による駆動力の算出 東京

解析事例紹介2
静電駆動マイクロステップモータの
電界解析による駆動力の算出
東京大学 生産技術研究所
3部 藤田研究室
飯塚 哲彦
はじめに
ステップモータを小型化、かつ静電駆動にして、デバイス
を作製、駆動実験を行っている。
本発表では、駆動原理の概要を述べ、デバイスを単純化
したモデルを作成し、静電駆動力を求めるため、
MemsONEで電界解析を行った内容について報告する。
将来的な目的としては、得られた静電駆動力から、可動
部の過渡的振動などダイナミクスをシミュレートすること
が挙げられる。
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解析事例紹介2
3相静電駆動ステップモータ駆動原理
1
2
3
V
1
2
3
V
1
2
3
V
1がオン、すなわち定電圧が印加される。
内側の可動部の電極はGNDとなっており、
これと外周のステータ電極が空隙を介して、
コンデンサを形成し、静電引力が作用する。
2がオン、内側のばね構造で支持された可
動部が左へ移動する。図で上下同時に電
圧を印加しているため、上下方向の静電
引力が平衡しており、電極対が吸着しない
ようにしている。またばね支持構造を工夫
することにより、横方向に動きやすく、上下
方向に動きにくくすることもできる。
3がオン、さらに左へ移動する。ばねの復
元力が静電駆動力より大きくなったときが
変位の限界となる。電圧印加の順番を逆
にすれば、右へ移動させることもできる。
静電吸引力が働く電極の動作
ムーバ
0V
電極重なり1um
ギャップ2um
ステータ
75V
5um
10um
隣の電極がアラインしているときは、図のように、ギャップ距離2umのところ
が1um重なっている。ステータに電圧75V、ムーバに0Vが印加されると、静
電吸引力が働く。ムーバは、工夫により、下方向へ可動となっているので、
ステータとムーバの電極がアラインするまで、移動する。この際の、それぞ
れの電極の重なり、1, 2, 3, 4, 5umの配置モデルをMemsONEで作成し、
電界解析を行って、静電駆動力を求めた。
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解析事例紹介2
1電極対モデル
空気
ムーバ
0V
静電駆動力
ステータ
導体 75V
ギャップ:2um
重なり:1um
ムーバやステータの上辺、下辺それぞれのY方向成分の静電力を合計し、
下辺ー上辺など差をとって、静電駆動力を求めた。シェルメッシュ:0.4。
電極重なり1∼5umでムーバの位置を変えたモデルをそれぞれ作成した。
3電極対モデル
0V
0V
B
D-Eを静電駆動
力として計算
D
0V
75V
E
0V
A
A-B-Cを静電駆
動力として計算
C
0V
寸法、メッシュサイズ、ギャップ、重なりは、1電極モデルと同じ。75V印加した
ステータの右下に近隣のGNDとなっている導体の有無がモデルの相違してい
る主な点である。
3
解析事例紹介2
静電ポテンシャル、ノルム @ 3電極対モデル
電界、ベクトル @ 3電極対モデル
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解析事例紹介2
電界、ベクトル、拡大図 @ 3電極対モデル
電界、ノルム、拡大図 @ 3電極対モデル
右下の導体の影響が見られる。
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解析事例紹介2
静電力、ノルム、拡大図 @ 3電極対モデル
F=qEで計算され、導体表面のみ静電力が生じている。
静電力、ベクトル、拡大図 @ 3電極対モデル
右下の導体の影響が見られる。
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解析事例紹介2
1 electrode pair, Electrical field, norm,
Stator-Mover, gap 2um, overlap 1um
1電極対と3電極対モデルの比較
電界ノルム
3 electrode pair, Electrical
field, norm, Stator-Mover
電極ギャップ付近では、両者の電界
の分布はほぼ同じである。
1 electrode pair, Electrical
field, norm, Stator lower-right
1電極対と3電極対モデルの比較
電界ノルム
3 electrode pair, Electrical
field, norm, Stator lower-right
右下の導体の有無により、図のよ
うな電界分布の相違が見られる。
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解析事例紹介2
1 electrode pair, Electrical field,
vector, Stator-Mover
1電極対と3電極対モデルの比較
電界ベクトル
3 electrode pair, Electrical
field, vector, Stator-Mover
1電極対と3電極対モデルで、電界
ベクトルの長さが違うが、値は同じ
である。自動スケールの倍率が違う
ためである。
1 electrode pair, Electrical field,
vector, Stator lower-right
1電極対と3電極対モデルの比較
電界ベクトル
3 electrode pair, Electrical field,
vector, Stator lower-right
電界ベクトルの長さは、両者異なっ
た自動スケールの倍率なので、強
さは比較できない。3電極対モデル
は右下導体の影響が見られる。
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解析事例紹介2
ステータの対向電極の辺近傍の電界(リスト出力)
1電極対モデル
3電極対モデル
3 electrode pair, Electrical field, Stator
6.00E+13
5.00E+13
5.00E+13
Electrical field [uV/m]
6.00E+13
4.00E+13
3.00E+13
系列1
2.00E+13
1.00E+13
0.00E+00
4.00E+13
3.00E+13
系列1
2.00E+13
1.00E+13
0.00E+00
0
1
2
3
4
5
16
17
18
position Y [um]
19
20
21
Position Y [um]
右下に導体があるので、電
界が少し高くなっている。
右下に導体がない。
ステータとムーバが対向し、静電
ギャップを形成しているところ。
ステータの下辺の静電力(リスト出力)
1電極対モデル
3電極対モデル
3電極対 ステータ 重なり1um 静電力 ステータの下辺 合計7.19E-03[uN]
1電極対、静電力、重なり1um、ステータ下辺、合計 6.38E-04 [uN]
0.00E+00
-1.00E-04 0
0.00E+00
0
2
4
6
8
10
-5.00E-05
2
4
6
8
10
-2.00E-04
-1.00E-04
系列1
-1.50E-04
静電力 [uN]
静電力 [uN]
Electrical field [uV/m]
1 electrode pair, Electrical field, Stator surface
-3.00E-04
-4.00E-04
系列1
-5.00E-04
-6.00E-04
-7.00E-04
-2.00E-04
-8.00E-04
-9.00E-04
-2.50E-04
位置 X座標 [um]
位置 X座標 [um]
右下にGND導体がある3電極対モデルの方が、静電力の合計が
7.19E-03 [uN] @ 3電極対モデル、下向き
6.38E-04 [uN] @ 1電極対モデル、下向き
と大きくなっている。
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解析事例紹介2
ムーバの下辺の電界
1電極対モデルの電界 > 3電極対モデルの電界
電界 [uV/m]
カラム訂正版、電界比較、ムーバー下辺
4.50E+13
4.00E+13
3.50E+13
3.00E+13
2.50E+13
2.00E+13
1.50E+13
1.00E+13
5.00E+12
0.00E+00
3電極対ムーバー下辺
1電極対ムーバー下辺
12
13
14
15
16
位置 X座標 [um]
3電極対モデルは、右下にGND導体があるので、ステータからの電束
が右下へ流入している分、1電極モデルより、小さいと考えられる。
ムーバ下辺の静電力
1電極対モデル
3電極対モデル
1電極対 辺の長さ10um mesh0.2 重なり1um 下辺 合計6.26E-03[uN]
3電極対 重なり1um 合計4.11E-03uN
2.00E-04
0.00E+00
-2.00E-04 12
14
16
18
20
22
-4.00E-04
-6.00E-04
系列1
-8.00E-04
-1.00E-03
-1.20E-03
静電駆動力 [uN]
静電駆動力 [uN]
2.00E-04
0.00E+00
-2.00E-04 12
14
16
18
20
22
-4.00E-04
-6.00E-04
系列1
-8.00E-04
-1.00E-03
-1.20E-03
-1.40E-03
-1.60E-03
-1.40E-03
位置 X座標 [um]
位置 X座標 [um]
静電力の辺にそった合計の値
6.26E-03 [uN] @ 1電極対モデル
4.11E-03 [uN] @ 3電極対モデル
F=q E より、静電力を求めており、前のスライドの電界の大小関係と
適合する結果となった。
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解析事例紹介2
静電駆動力の計算について
FB
辺B
FA
辺A
Fc
辺C
重なり 1umの場合
3電極対モデル
FA – FB – FC = 2.76 E -03 [uN]
(FA: 4.11E-03, FB: 0.22E-03, FC: 1.13E-03)
1電極対モデル
ムーバの2電極
FA – FB = 5.52 E -03 [uN]
(FA: 6.26E-03, FB: 0.74E-03)
3電極対モデルで、FCの値がそれほど小さくないので、その分、合計値が
小さくなっている。
重なりー静電駆動力、1電極対モデル、ムーバ側
1電極対、重なりー静電駆動力、ムーバ
0.006
静電駆動力 [uN]
0.005
0.004
ムーバ下辺
ムーバ上辺
下辺ー上辺
0.003
0.002
0.001
0
-0.001
1
2
3
4
5
重なり [um]
周囲に導体のないシンプルな1電極対モデルでは、静電駆動力が電極重
なりに応じて、単調減少となり、重なり5um(電極対がアライン)で、静電駆
動力がゼロとなっており、良好な結果となった。
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解析事例紹介2
重なりー静電駆動力、1電極対モデル、ステータ側
1電極対、重なりー静電駆動力、ステータ
0.006
静電駆動力 [uN]
0.005
0.004
ステータ上辺
ステータ下辺
上辺ー下辺
0.003
0.002
0.001
0
-0.001
1
2
3
4
5
重なり [um]
ステータ側の静電力は、180度回転対称なため、前のスライドのムーバの
静電力の結果とほぼ同一となり、良好な結果となった。
重なりー静電駆動力、3電極対モデル、ムーバ側
静電駆動力 [uN]
重なりー静電駆動力
0.0045
0.004
0.0035
0.003
0.0025
0.002
0.0015
0.001
0.0005
0
-0.0005 0
-0.001
下辺
上辺
右下上辺
下辺ー上辺ー右下上辺
1
2
3
4
5
重なり [um]
3つ前のスライドでのFA-FB-FCを計算した。水色の線の静電駆動力の合計
値が単調減少の予想に合致せず、上下している。重なり5umで、電極が
完全にアラインしているとき、静電駆動力が完全にゼロになっていない。こ
れは、右上導体の下辺の静電力を考慮すれば、上下の導体の位置が線
対称なため、キャンセルし、ゼロになるであろうと思われる。
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解析事例紹介2
重なりー静電駆動力、3電極対モデル、ステータ側
静電力 [uN]
ステータ上辺と下辺の静電力
0.01
0.009
0.008
0.007
0.006
0.005
0.004
0.003
0.002
0.001
0
ステータ上辺
ステータ下辺
上辺ー下辺 静電駆動
力
1
2
3
4
5
重なり [um]
作用反作用の原理より、ステータ側で、静電力の上辺ー下辺を計算しても、
静電駆動力が得られると考えられる。しかし、重なり1∼4umで、静電駆動
力がわずかに増加しているのが、予想に反し、理解できない。メッシュサイ
ズによっても、合計が若干変化するので、誤差と見られる。
まとめ
・1電極対モデルで、重なりー静電駆動力の良好なグラフが得られた。
・3電極対モデルでは、上下したり、右上がりの予想に合致しないグラフと
なった。また、電極がアラインしているとき、静電駆動力が完全にゼロになっ
ていない。これは、絶対値の小さな値とびが合計に含まれていることや、周
囲に複数の電極がある(特に近隣の右下導体)、やや複雑なモデルのため、
誤差が増しているかと推測される。
・重なり1umのときの静電駆動力を比較すると、
0.0045 uN @ 1電極対モデル
0.002 uN @ 3電極対モデル
と値の相違が見られる。
グラフのきれいさから、1電極対モデルを採用したい。しかし、3電極対モ
デルは実際の電極配置により近く、近隣の電極の存在を考慮している。よっ
て、3電極対モデルについても、今後さらに計算を進めて、検討していく。
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