1 神経生理学の基礎

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神経生理学の基礎
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1. 神経生理学の基礎
神経組織の構成と機能
神経系の構成
神経系とは
神経組織と神経系
*
神 経 組 織 は神 経 細 胞(ニューロン)
とこれを支 持・栄養する細
胞群(非 ニューロン 性 細 胞 )→からなる.
*
神経細胞はニューロン(神経元)
ともよばれ,神経組織をつくる形
態的・機 能 的 単 位となっている.
またニューロンは多くの場合,その
細胞体からは数本 の突起をだしており,その突起 の末端部は他の
ニューロンや細 胞に接 合している.
このニューロン 間またはニュー
ロンが接 する他 の細胞との間にある 部位をシ ナ プ ス→という.
これらニューロンとシナプスによって 形成されるネットワークを神
経 系といい ,
これは身体 のすみずみにまで 分 布している.
注)
組織: 組 織とは ,多 細 胞 生 物に お い て 一 定 の 構 造と機 能をもった一 種または 数 種 の 細 胞
の 集まりをいう.
注)
ニューロン( neuron)
: か つ て 神 経 組 織は ,網 目 状 の 構 造 物と考えられていた.
しかしそ
の後,
これに 形 態 的 単 位 が 発 見( 1891)
され ,神 経 元( ニューロン )
と命 名 された.
これ
は 現 在 でいう神 経 細 胞 そのものであることから,神 経 細 胞をニューロンと呼んでいる.
神経系の機能
神経系の機 能は,生体 の外界からくわえられた刺激 や身体内部
でおこった 刺激を受容し,
これに 応じて筋 細 胞 や腺 細 胞の活動を
コントロールして適切な反応をおこすことにある.
また多数の器官か
らなる身体において 神経系は,各器官の協調をたもち,統制する役
割をもになっている.
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1. 神経生理学の基礎
中枢神経系・末梢神経系とは
感覚受容器と感覚器
神経系を構成するもののうち,外部環境や内部環境からの刺激
を感 受 す る た め に 特 化し た ニューロンを感 覚 受 容 器 →という.
神経系への刺激は感覚受容器を興奮させ,その情報はシナプスを
介して多くのニューロンへ伝えられ,様々な情 報 処 理がなされたう
えで,目的にかなった反応 がおこる.
このため感覚受容器は身体
のほとんどの部 位に分 布して 内外の 変化をとらえている.
*
また刺 激を受 けとるために 発 達し た 器 官をとくに感 覚 器 →と
へい こう
きゅうかく
総称する.感 覚 器は通 常,視 覚 器(眼 ),平 衡 聴 覚 器(耳 ),嗅 覚
器(鼻),味 覚 器(舌 ),皮 膚の5種をいう.
感 覚 器: 感 覚 器 の 特 徴は ,刺 激 の エネルギーをできるだけ損 失 少なくうけとるような 構 造
注)
をもっていること ,感 覚 細 胞をもつことにある.
効果器と効果器細胞
神経系の活 動に応じて,そ の 指 令を実 行 する器 官を効 果 器と
いう.
さらに効果器において ニューロンからあたえられた情報を直
接うけとる細胞を効 果 器 細 胞という.
身体において効果器となるものには,以下 のように 運動器官と分
*
泌 器官とがある.
・ 運動器官 ---------- 骨 格 筋 および 平 滑 筋・心 筋 .
・ 分泌器官 ---------- 外 分 泌 腺 および 内 分 泌 腺 .
注)
分泌: 細 胞 が 細 胞 質 内 で 物 質を産 生し ,
これを細 胞 外に 放 出 することを分 泌という.内 分
泌は 腺 細 胞によってつくられた物 質 が 循環血液中に 放 出されるものをいい,
この 場 合
の 分 泌 器 官を内 分 泌 腺と総 称し ,そ の 分 泌 物をホルモンという.たとえば下 垂 体 前 葉
が 分 泌 する成 長ホ ル モ ン ,甲 状 腺 が 分 泌 す るサイロキシン,女 性 生 殖 器 が 分 泌 する
エストロゲンなどがこれにあたる.いっぽう外 分 泌とは ,腺 細 胞 によってつくられた物
質 が 個 体 の 外( 消 化 管 内をふくむ )
に 放 出 されるものをいい,この 場 合 の 分 泌 器 官を
外分泌腺と総 称 する.たとえば汗 腺 が 分 泌 する汗 ,皮 脂 腺 が 分 泌 する皮 脂 ,消 化 器に
ある腺 が 分 泌 する唾 液 ,胃 液 ,腸 液などがこれに 相 当 する.
これら内 分 泌 腺と外 分 泌
腺は ,神 経 系 のコントロールをうけ ,そ の 命 令により分 泌 が 亢 進したり,抑 制されたりす
る.
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1. 神経生理学の基礎
ニューロンの機能的分業
神経系がになう機能は,
さまざまなニューロンの分業によっておこ
なわれている.個々のニューロンは,機能的に以下のいずれかに 分
類することができる.
・ 求 心 性 神 経 -------- 外部環境や内部環境からの刺激を受け
とり,その情報を他のニューロン(中枢神経)
に 伝えるニューロン
群.
ちゅうすう
・
中 枢 神 経 ----------- 他のニューロンからの情報を受けて ,
情報処理をおこなうニューロン群.
・ 遠 心 性 神 経 --------(中 枢 神 経による)情報処理の 結果を効
果器に伝えるニューロン群.
中枢神経系と末梢神経系
さまざまなニューロン群は,その機能によって以下のように 存在部
位がことなっている.
1. 中 枢 神 経 系
情報処理をおこなうニューロン群は,末梢 から集められた情報を
処理・統合し,その結果から効 果 器の反応を決定するという機能を
になう.各 器 官を協 調させ,整合性のある情報処理をおこなうため
に,
これらのニューロン 群は脳と脊髄をかたちづくっている.
このこ
ちゅうすう
とから脳と脊 髄 からなるニューロンのネットワークを 中 枢 神 経 系
→という.
2. 末 梢 神 経 系
刺激情報を中枢神経に伝えるニューロン群(求 心 性 神 経 )
と,中
枢神経による情 報 処 理 結 果を効果器に伝えるニューロン 群(遠 心
性神経)
は,脳・脊髄(中枢神経系)
と身体各所にちらばっている受
容器・効果器との間をつなぐ 役割をになう.
これらは実際,末梢組織
の間をぬうように 糸状に走行し,各器官に分 布している.
これら脳と
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1. 神経生理学の基礎
ま っし ょ う
脊 髄 以 外にあるすべての ニューロン群を末 梢 神 経 系という.
神経系を構成する細胞群
ニューロン
ニューロンの基本的構造
ニューロンは ,その存 在 部 位や機能により多様な形態・大きさをも
つが ,基 本 的 に核をふくむ 細 胞 体と,そこから出る突 起とからなり
*
たっている.
さらに典 型 的な形をしているニューロン の突起には,
じ くさ く
じ ゅじ ょ う と っ き
一本の 軸 索 と数本の 樹 状 突 起とがある.
なお軸 索 の 末 端に
は他の細胞とシナプスを形成 するシ ナ プ ス 小 頭(神経終末)があ
る.
*
神経系の機能的単位であるニューロンは興奮性細胞 の一種で
あり,電気的に活動することによって情報交換をおこなっている.
こ
のためニューロンを構成する各部は,基本的に以下のような機能→
をになっている.
じ ゅじ ょ う と っ き
・ 樹 状 突 起 ------- 他の ニューロン からのシナプスが 接 合
し,情報 の受容 の場となる.
・ 細 胞 体 -------- 他のニューロンからの情 報を統合する場と
なる.なお ニューロン の細 胞 体 には ,他の 細胞 ではみられない
*
ニッスル小 体 が存在する.
じ くさ く
・ 軸 索 ---------- 細 胞 体でおこった 信号をその 末 端までつ
たえ,その末端にあるシ ナ プ ス小 頭(神経終末)から他の細胞
に情報を伝達する場となる.
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1. 神経生理学の基礎
□ 典 型 的 形 状のニューロン
典 型 的 形 状 の ニューロン: α 運 動 ニューロン,自 律 神 経 系 の 遠 心 性ニューロン ,下 垂 体
注)
ニューロンなどがこれにあたる.
興 奮 性 細 胞: 興 奮 性 細 胞とは ,細 胞 膜 内 外 のイオン交 換によって膜 電 位を変 化させ ,電
注)
気 的に 興 奮 する細 胞をいう.代 表 的な 興 奮 性 細 胞には 神 経 細 胞と筋 細 胞とがある.
ニッスル 小 体( Nissl body)
: ニッスル 小 体はタンパク質 合 成をつかさどる粗 面 小 胞 体
注)
とその周 辺 のリボソームからなる.
軸索輸送
ニューロンの一部をなす軸索は,長いものでは数十センチにおよ
*
び ,他の細 胞にはない非 常に細くかつ長い構 造 物である.
また軸
索およびその末端にあるシナプス小頭(神経終末)では,その機能
をはたすためさまざまな 物質が必要であり,かつ多くの代謝産物が
発生する.
軸 索 やシ ナ プ ス小 頭 で 必 要とされる物 質 の 多くは ニューロン
の 細 胞 体 でつくられ,
ここから軸 索 内を 運ば れ て 供 給されてい
る.いっぽう代謝産物は軸索末端から細胞体 へと送りかえされてい
じ くさ く ゆ そ う
*
る.
このような機能を軸 索 輸 送(軸 索 流 )といい,
これは軸索内に
あるチューブ 状 の構 造 物(微 小 管 )によっておこなわれている.
注)
長 いものでは 数 十 センチにおよぶ: たとえば足 底 の 筋 群を 支 配 するニューロン( α 運 動
ニューロン )の 細 胞 体は ,腰 髄 や 仙 髄 の 前 角( 高さからいうと 上 位 腰 椎 のあたり)
にあ
り,そ の 軸 索は 途 中シナプスを介 することなく足 底 にまで 分 布 する.
注)
軸 索 輸 送( 軸 索 流 )
: 物 質を 細 胞 体 からシナプス小 頭 側に 向 かって 輸 送 するシステムを
順 行 性 軸 索 輸 送といい ,物 質をシナプス小 頭 側より細 胞 体に 向 かって 輸 送 するシ ス
テムを逆 行 性 軸 索 輸 送という.
また 軸 索 輸 送においては 物 質によって 輸 送 速 度 が 違
う.
このうち 神 経 伝 達 物 質 の 合 成 酵 素は ,
もっとも 速 い 速 度( 50∼ 500mm/日)で 輸 送さ
れる.
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1. 神経生理学の基礎
非ニューロン性細胞
非ニューロン性細胞とは
神経組織におけるニューロン以外の細胞群を非ニューロン 性 細
胞といい,
これはおもに 以下のような 機能をになう.
すき ま
・ ニューロン の周 囲の 隙 間をうめ ,
これらを保 護・支 持 する.
・ ニューロンと血 液 の 間 で おこなわれる栄 養 供 給 や 代 謝を 仲
*
介 する.
栄養供給や 代 謝を仲 介: 脳においては ,血 管とニューロンの 間に 選 択 的に 物 質を移 動 す
注)
る機 能( 血 液 脳 関 門 )がみられるが ,
これには 毛 細 血 管 壁とニューロンとの 間に 介 在 す
る星 状 膠 細 胞 が 重 要な 役 割を演じている.
おもな非ニューロン性細胞
代表的な非ニューロン 性細胞には以下 のようなものがある.
*
・ 中 枢 神 経 系にあるもの ----- 星 状 膠 細 胞(アストログリア細
胞),希 突 起 膠 細 胞
(希突起神経膠細胞),小膠細胞,上衣細胞
し んけ いこ う
など.
これらは 神 経 膠 細 胞 (グリア 細 胞 )と総称される.
・ 末 梢 神 経 系にあるもの ------ 外套細胞,
シュワン 細 胞など.
中 枢 神 経 系にあるもの: 中 枢 神 経 系にある 神 経 膠 細 胞は ,正 常な 脳に お い て 生 理 的な
注)
機 能を営んでいるほか ,脳 実 質 の 障 害に 対 する修 復に 際し て 重 要な 役 割をはたす.
神経線維
神経線維とは
ニューロンの一部をなす 軸索は,一般に 非常に細くかつ長い.
こ
のため軸索 のほとんどの部分では ,非ニューロン性 細 胞が管状の
ひ まく
被 膜をつくって軸 索を取りかこみ,
これを保護・支 持している.
また
非ニューロン性細胞がつくる被膜はニューロン内の情報の伝わり方
に大きな影響→をあたえ,軸索とその被膜は 機能的に 密接な関 係
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1. 神経生理学の基礎
をもつ .
このことから軸 索と非ニューロン性 細 胞 がつくる 管状 の被
せん い
膜とをあわせて神 経 線 維という.
軸索をかこむ 被 膜を形 成する非ニューロン 性細胞は,中枢神経
系においては 希突起膠細胞 であり,末 梢 神 経 系においてはシュ
*
ワン細 胞 である.
注)
シュワン 細 胞( Schwann's cell)
: 末 梢 神 経 系に 固 有 の 神 経 支 持 細 胞 であり,中 枢 神
経 系には 存 在しない.
ニューロンの活動
ニューロンの興奮
静止状態のニューロン
ニューロンの基本的機能
神経系における情 報 処 理は,個 々のニューロンの電気的活動が
基本となっている.個 々のニューロンは,その細 胞 膜 内 外 の 電 位
差を変 動させることにより興奮し,そ の情報を他の細胞に伝えてい
る.
静止膜電位
ニューロンをふくむすべての細胞において ,その膜 内は膜外にく
でん か
らべ電 気 的に負 の 電 荷をたもっている.
この 状態を分 極という.
こ
*
の細 胞 膜 内と膜 外にある電 位 差を膜 電 位 という.
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1. 神経生理学の基礎
細胞膜内が膜外に対し負の電 荷をたもっているのは,細 胞 内に
タンパク質 が 多くあることによる.すなわちタンパク質分子は電気的
には負の 電荷をもつイオン(陰イオン)であり,分 子 量 が大きいため
細胞膜から外にでることができず,つねに 細胞内を負に電荷してい
る.
ニューロンもその膜電位に変動がない状態,すなわち興奮してい
*
ない状態( 静止状態)では,一 般の細胞 と同じように 膜内は膜外に
対し一定の 負の電荷をたもっている.
この 電位差を静 止 膜 電 位と
いい,膜 内は膜外に対し- 7 0 m V の負の膜 電 位をもつ.
一 般 の 細 胞: 一 般 的 な 細 胞 では ,膜 内は 膜 外とくらべて負 の 電 荷 をたもち,
この 電 位 差
注)
は 一 定 で 変 化 することはない.
しかし 神 経 細 胞 や 筋 細 胞 では ,膜 内 外 の 電 位 差 が 変
動 することによってその機 能 が 実 現されている.
このため神 経 細 胞 や 筋 細 胞を興 奮
性 細 胞という.
細胞膜電位: 細 胞 膜 電 位とは ,細 胞 膜 でへだてられた溶 液 間 の 電 位 差をいう.
これは 細
注)
胞 外 の 電 位を基 準(±0)
にして,細 胞 内 の 電 位をあらわす .
ニューロンが興奮するメカニズム
インパルスと閾値
ニューロンの 静止膜電位は ,他からの 電気的・化 学 的・機械的刺
激によって変動 する.細 胞 膜 上のある部分に,一 定の強さ以上の
刺激がくわわると,
この 部位の細胞膜内外に40∼50ミリ秒間 ,一定
のパターンをもった電 位 変 化があらわれる.
この細 胞 膜でおこる電
*
気的な興 奮を活 動 性イ ン パ ル スまたは活 動 電 位 という.
ただし ニューロンに活 動 性インパルスを引きおこすためには,刺
激の強さが一定以上である必要 がある.
このインパルスを引きお
いき ち
こ す た め に 必 要となる最 低 限 の 刺 激 の 強さを閾 値という.
ニューロンに閾値以上の刺激がくわわるとインパルスがおこり,そ
の電位変化は細胞膜にそって 細胞全体に波 及し,ニューロンは興
奮する.
注)
インパルス
(impulse)
または 活 動 電 位: インパルスまたは 活 動 電 位は ,神 経・筋などの興
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1. 神経生理学の基礎
奮 性 細 胞 の 膜 でおこる電 位 変 化をいう.
インパルスの発生
一般にニューロンの細胞膜に刺激がくわわると,細 胞 膜にあるナ
*
+
トリウムチャネル が開き,
ここからナトリウムイオン(Na )が急速に細
胞 膜 内に 流 れこむ .
ナトリウムイオンは 正の電荷をもつイオン(陽イ
オン)であるため,静 止 膜 電 位は 正 方 向 に 変 化 する.
この刺激が
閾値以上のものであるときに ,以 下のように 活動性インパルスが発
生する.
・ インパルスは-70mVの静 止 膜 電 位 が正 方 向 ,すなわち膜内外
の電位差がなくなる方向に 急速に変化 することによって始まる.
だ つぶ んき ょ く
*
この膜 内 外 の 分極状態が 失われていく過程を脱 分 極 とい
う.
・ さらに 脱分極 がすすむと,ついには 膜電位 の正 負の関 係は逆
転する.
このように 膜 内 が膜 外に対して正 の 電荷となることを
オーバーシュートといい ,
これは最大 で+30 ∼50mVに達する.
・ 最大値に達し た膜電位は ,その後急速に負の方向にむかう.
こ
れを再 分 極という.
・ 負の方向にむかった膜電位は静止膜電位をこえ,
これよりも少し
こ う か ぶ んき ょ く
負の状態 がつづく.
これを 後 過 分 極 という.
・ 膜電位は静止膜電位のレベルにもどり,
インパルスは終息する.
・ なおインパルスが終息し 静止膜電位にもどる過程において ,細
胞膜内に流入したナトリウムイオンは能動輸送をおこなうナトリウ
ムポンプによって細 胞 外に 排出される.
注)
ナトリウムチャネル
( ion channel)
: 細 胞 膜 や 細 胞 内 器 官 の 膜に 分 布 する無 機イオンの
通 路をイオンチャネルという.ナトリウムイオンは 静 止 状 態 では 細 胞 外に 多く,細 胞 内に
はほとんどない.ニューロン の 脱 分 極 時に ナトリウムチャネルが 開くと,膜 内 外 の 濃 度 勾
配にしたがって ナトリウムは 急 速に ニューロン 内に 流 入 する.
+
注)
脱分極: これは 細 胞 膜 上にあるナトリウムポンプが 開 かれることによって,膜 外 のNa が 急
速に 膜 内に 流 入 することによっていると 考えられている.
またオーバーシュート 後に ,
イ
ンパルスが 負 の 方 向に 変 化 するのは ,ナトリウムポンプが 閉じられ ,能 動 輸 送によって
+
Na が 膜 外に 排 出されるためであると 考えられている.
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1. 神経生理学の基礎
□ インパルス
(活 動 電 位 )
全か無の法則
ニューロンの細 胞 膜に刺激 がくわわったとき,
こ れ が閾値以下の
場合,刺激部位にわずかな電位変化 がみられるのみで,
これがイ
ンパルスとして膜 全 体に波 及することはなく,細 胞 全 体としての興
奮はおこらない.
このようにインパルスは ,刺激が閾 値 以 上 で あ る
場合に の みにおこって膜全体に波及し,細胞全体を興奮させてい
る.
しかし ,ニューロンに対する刺激の強さを閾 値 以 上にいくら 大き
くしても,引きおこされるインパルスの 電 位 変 化 の 大きさや時 間
的な長さは 不 変 である.
このように ニューロン のインパルスが,閾 値 下の刺激ではまったく
おこらず,かつ閾値以上の刺激ではつねに 応答の大きさが一定で
*
変わらないことを ”全 か 無 の 法 則 ”にしたがうという.
このことは
ニューロン内をつたわるインパルスがデジタル 情報であることを意
味する.
注)
全 か 無 の 法 則( all or none law)
: 神 経・筋な ど の 興 奮 性 細 胞は ,単 一 細 胞として 全
か無 の 法 則にしたがう.
この 法 則は 摘 出したカエルの 心 臓をもちいた実 験 で 発 見され
た .ただしこの 法 則は ,心 筋 では 細 胞 間に 電 気 的 連 絡 があって 単 一 細 胞と見なせる
ためあてはまるが ,神 経 束・骨 格 筋 など 多 細 胞 の 組 織 には 適 用 できない .
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1. 神経生理学の基礎
不応期
ニューロン では一個のインパルスがおこると,
これが完 全に終わ
るまで 新 たな 刺 激 に 対 する興 奮 性は ,低 下 ま た は 消 失してい
ふ おう き
る.
この期間を不 応 期といい,
これは以下のようにわけることができ
る.
・ 絶対不応期
*
---------インパルスの 脱分極と再 分 極 の過程
で,新たな刺激に対する興 奮 性 がまったく失われている 時期を
いう.
・ 相対不応期
*
---------インパルスの 後 過 分 極の過 程で,新
たな刺 激に対 する興 奮 性 が 低下している時期をいう.
注)
絶 対 不 応 期: インパルスの 発 生 中 ,スパイク 状 の 脱 分 極と再 分 極 の 過 程 では ,電 位は 閾
値をこえているため,全 か 無 の 法 則にしたがうニューロン では ,絶 対 不 応 期となる.
注)
相 対 不 応 期: スパイク 状 の 電 位 変 化につづく後 過 分 極 の 状 態 では ,膜 電 位 が 静 止 状 態
よりも負にある.
このときにインパルスを引きおこすためにはより大きな 刺 激 が 必 要 で あ
る.
したがってこの 時 期 ,ニューロン の 閾 値は 高くなっており,ニューロン の 相 対 不 応 期
となる.
不減衰伝導
ニューロン内をつたわるインパルスは”全 か 無 の 法 則 ”
にしたが
ふ おう き
う.
また ニューロンには一 定の長さの不 応 期 がある.
このため ,神
*
経突起 が非常に長 い場合 や途中 で分 枝 している場 合でも,
イン
パ ル スは 途 中 で 大きさや 速 度をかえることなく,確実につたえら
ふ げ んす いで んど う
れる.興奮伝導におけるこのような 特徴を不 減 衰 伝 導という.
注)
分 枝: ニューロン の 軸 索は ,末 端 部 で 分 枝し 複 数 の 神 経 終 末をつくることがある.
これら
の分 枝においても ,興 奮 伝 導は 全 か 無 の 法則にしたがい,分 枝 部 で 電 気 的な 興 奮 の
レ ベ ル が 下 がることはない.
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1. 神経生理学の基礎
ニューロン内の興奮伝導
興奮伝導とは
一個のニューロン内では,
インパルスが細胞膜にそって 波及する
ことによって情報がつたえられる.
このように 細胞の一部でおこった
インパルスが細胞内から軸 索 末 端につたわっていく現象を興 奮 伝
導という.
絶縁性伝導
ニューロンの軸索のほとんどの部分は,非ニューロン性細胞がつ
くる被 膜におおわれており,軸 索と被 膜によって神 経 線 維 が形づ
くられている.
非 ニューロン 性 細 胞 がつくる 被 膜 は 電 気をとおさないため,
ニューロン の軸索は被 膜におおわれることにより電気的にも保護さ
れる.
このため神経線維の束の中で,一本 の 軸 索を伝わるインパ
ル スが 隣 接 する軸 索に 興 奮を引きおこすことはない .
このような
ぜ つえ んせ い
特徴を絶 縁 性 伝 導という.
神経線維における興奮伝導
無髄線維と有髄線維
ず いし ょ う
しょう
神経線維の被膜には,髄 鞘 またはミエリン 鞘 とよばれる特殊
な構造物がみられることがある.髄鞘(ミエリン鞘)
は非ニューロン性
細胞のつくる被膜が発達したものである.神経線維は,
この髄鞘の
有無によって以下のように 有 髄 神 経 線 維と無 髄 神 経 線 維とに分
けられる.
なお 有 髄 線 維と無髄線維 の構造 の差は ,神経線維にお
けるインパルスの伝わり方の 違いとなってあらわれ,
さらに神経線
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1. 神経生理学の基礎
維における伝導速度を決めている.
1. 有髄神経線維(有髄線維)
髄鞘(ミエリン 鞘)
をもつ 神 経 線 維を有 髄 神 経 線 維(有髄線維)
という.髄鞘(ミエリン鞘)
は非ニューロン性細胞の細胞膜が発達し,
軸索の周 囲にロールペーパー状に巻きついた多層 の被膜構造物
*
である.末 梢 神 経 系 における髄 鞘(ミエリン 鞘 )
はシュワン 細 胞
がつくっている.
2. 無髄神経線維(無髄線維)
髄 鞘(ミエリン 鞘 )
をもたない神 経 線 維を無 髄 神 経 線 維(無髄
線維)
という.ただし 無髄神経線維であっても,非ニューロン性細胞
がつくる(ロールペーパー状の構 造をもたない)一 層 の 被膜にゆる
やかにおおわれている.末梢神経系における無 髄 神 経 線 維の被
しょう
膜はシュワン細 胞 がつくっており,
これをシュワン 鞘 という.
注)
末 梢 神 経 系: 中 枢 神 経 系に お い て は 希 突 起 膠 細 胞 が 髄 鞘を形 成 する.
□ 末 梢 神 経 系の無 髄 神 経 線 維と有 髄 神 経 線 維 の断面
無髄線維における興奮伝導
無髄神経線維において 軸索の膜上に達したインパルスは,その
部分のイオンチャネルで膜 電 位を逆転させる.
このとき局所的に発
*
生する電流は,すぐとなりのイオンチャネル を脱分極させる.
これが
*
膜上で規 則 的に 繰りかえしおこる ため,
インパルスは神経線維の
末端にむかって 順 次 移 動していく.
注)
イオンチャネル: ニューロン の 膜 で の 電 位 変 化がおこるイオンチャネルは ,膜 上にほぼ 一
定 間 隔にならんでいる.
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1. 神経生理学の基礎
膜上 で 規 則 的に 繰りかえしおこる: 無 髄 神 経 線 維は ,一 層 の被膜にゆるやかにおおわれ
注)
るのみである.
このため軸 索 周 囲にまで 細 胞 外 液 が 入りこんでおり,軸 索 の 膜 上にな
らぶイオンチャネルからナトリウムイオンが 流 れこむことができる.
このため無 髄 神 経 線
維 では ,有 髄 神 経 線 維 のような 跳 躍 伝 導はおこらない .
有髄線維における興奮伝導
有 髄 神 経 線 維 の 軸 索は,そ の 長 軸 方 向に 一 定 間 隔(0 . 0 8 ∼
0.6mm)でならぶ髄鞘(ミエリン 鞘 )
に取りかこまれている.
この髄鞘
こ うり ん
*
の切れめ(継ぎ め)
をランヴィエ の 絞 輪 という.
有髄神経線維において髄 鞘は軸索にきつく巻きつき,電 気 的に
絶 縁 体 であるため,軸索 が細胞外液と接しているのはランヴィエ
の絞輪の 部位のみである.軸 索における電 気 的 興 奮もイオンチャ
ネルにおけるナトリウムの流入によっておこるため,有 髄 線 維を伝
こ うり ん
わるインパルスは ,
ランヴィエ の 絞 輪 で の み お こ る.
ひとつの絞輪で 脱分極 がおきると,
この部 位の局所電流は隣接
する絞輪に 達して次の 脱分極をおこす.
このようにインパルスは一
ちょうやく
つの絞輪 から次の 絞輪へとみかけ上 ,跳 躍して伝わることから,
ちょうやく
*
有髄神経線維における興 奮 伝 導を 跳 躍 伝 導 という.
このため
有 髄 神 経 線 維 の 伝 導 速 度はきわめて 速 い .
注)
ランヴィエ の 絞 輪( Ranvier's node)
: 有 髄 神 経 線 維に お い て軸 索 表 面 が 露 出し て い
る部 分 であるともいえる.
注)
跳躍伝導: 有髄神経線維の 髄 鞘 が 何らかの原 因によってうしなわれ,軸 索 のみになる疾
患がある.
これらを脱髄疾患といい,
これには 多 発 性 硬 化 症・急性播種性脳脊髄炎・視
神 経 脊 髄 炎などがある.脱 髄 疾 患に お い て髄 鞘 崩 壊 がみられるのは 中 枢 神 経 系 の
白 質 であり,
インパルスは そ の 部 分 で 伝 導しなくなり,
さまざまな 症 状を引きおこす .そ
の 原 因は 不 明 であるが ,
ウイルス感 染または自 己 免 疫 疾 患 ではないかと 考えられて
いる.
□ 無 髄 神 経 線 維と有 髄 神 経 線 維の興 奮 伝 導
15
1. 神経生理学の基礎
神経線維 の分類
すべての神経線維は,その太さと伝導速度のちがいによりA・B・C
あるふぁ
べーた
がんま
でるた
線 維に分類され ,A線維はさらに α ・ β ・ γ ・ δ に細 分さ
れる.
なお神 経 線 維の太さは,軸 索をかこむ被膜 の厚さによってき
まる.
このうちA線維がもっとも太く,
これにB線維がつぐ .
これらが有 髄
神 経 線 維 であり,
もっとも細 いC 線 維は無 髄 神 経 線 維 である.
神経線維 の太さと伝導速度との間には比例関係が 成りたち,神
経 線 維 が 太 いほど 伝 導 速 度は 速 い .すなわち神経線維のうちA
α 線 維(I群 線 維 )がもっとも太く,か つ伝導速度が 速い.いっぽう
C 線 維(I V 群 線 維 )がもっとも細く,かつ 伝導速度が 遅い.
なお各種の神経線維へ の電気刺激や圧 迫 刺 激に対してもっとも
ま すい
*
感受性が 高いのはA 線維 であるが,局 所 麻 酔 剤に 対しては無 髄
*
神経線維にのほうが 感 受 性 が 高い .
□ 神 経 線 維の太さと伝 導 速 度
注)
圧 迫 刺 激に 対してもっとも感 受 性 が 高 いのは A線 維: この 現 象は 臨 床においても ,
しばし
ばみられる.たとえば,ある種 の 絞 扼 性 神 経 障 害( 末梢神経線維が そ の 走 行 中に 骨 や
軟部組織に 圧 迫されておこる 末 梢 神 経 障 害)では 痛 みを感じないにもかかわらず ,運
動 麻 痺 があらわれることがある .
これは ,痛 みをつたえるC線 維よりも,運 動をつかさど
るAα 線 維 のほうが 圧 迫 刺 激に 弱 いからである.
注)
局所麻酔剤に 対しては 無 髄 神 経 線 維にのほうが 感 受 性 が 高 い: たとえば歯 科 治 療 で 一
般 的におこなわれる局 所 麻 酔 では ,痛 覚は 消 失 するが ,触 圧 覚は 残 存 する.
これは 痛
覚をつたえるC線 維 のほうが ,触 圧 覚をつたえるAβ 線 維よりも局 所 麻 酔 剤に 弱 いから
である.
16
1. 神経生理学の基礎
求心性神経線維 の分類
前記のアルファベット分類とは 別に,末梢神経系における求 心 性
神 経 線 維は,I∼I V 群 線 維に分類される.
これらはそれぞれのア
ルファベット分 類に対応関係をもっている.
□ 神経線維 のアルファベット分 類と数 字 分 類
両方向性伝導
生理的な状態で のインパルスは ,感覚受容器や 樹状突起におこ
る.
しかし ,
ときに神経線維の 中途 でインパルスが発 生することが
ある.
これを異所性インパルスという.
このように 神経線維の中途でインパルスが発生した場合,
これは
軸索末端方向と細胞体方向の両方に伝わる.
これを両 側 性 伝 導と
じ ゅ んこ うせ い
いう.
なおこのときの軸索末端方向への興奮伝導を 順 行 性 伝 導
といい ,逆 方 向への 興 奮 伝 導を逆 行 性 伝 導という.
興奮伝導の特徴
興奮伝導の特徴
ニューロンにおける興奮伝導の特 徴をまとめると,以下のようにな
る.
17
1. 神経生理学の基礎
・ 個々の ニューロンは絶 縁 性 伝 導をおこなう.
・ ニューロンの興 奮は全 か 無 の 法 則にしたがう.
ふ おう き
・ インパルスには不 応 期 がある.
ふ げ んす いで ん ど う
・ インパルスは不 減 衰 伝 導をおこなう.
・ インパルスは両 側 性 伝 導 することがある.
・ 神 経 線 維における伝 導 速 度は,太 いものほど 速 い .
シナプスにおける興奮伝達
シナプスにおける情報伝達のメカニズム
シナプスとは
一個のニューロンが他 のニューロンまたは 筋・腺 細 胞に 接合し,
その情報を伝える部分をシ ナ プ スという.シナプスは以下のような
ものから 構成される.
すき ま
・ ニューロンと接合細胞 の間にある 隙 間 ---- ニューロンとこれ
が接合する他の 細胞の間には,わずかな隙間がある.
これをシ
かんげき
*
ナ プ ス 間 隙 という.
・ ニューロンの軸 索 末 端 部 ---------------ここはシ ナ プ ス
小 頭または神 経 終 末とよばれる.
またこれはシナプス間隙の前
段に位置 することから,
シ ナ プ ス前 終 末ともよばれる.
・ 神経終末 が接合 する細 胞の膜 -------- 神 経 終 末 が 接 合 す
こ うさ いぼ う
る細胞をシ ナ プ ス 後 細 胞という.
またシナプス後 細 胞 のうち ,
こう
シナプスが接 合している 部位をシ ナ プ ス 下 膜(シ ナ プ ス 後
まく
膜)
という.
注)
シナプス間 隙: 化 学シナプスに お い てシナプス間 隙に 20∼ 50nm程 度 の 隙 間 が あ い て
−9
いる.
な お 1 n mは 10 ( 10 億 分 の 1)
メートル.
18
1. 神経生理学の基礎
□ シナプスの構造
興奮伝達とは
一個のニューロン 内を電気的に情報 がつたわることを興 奮 伝 導
→というのに対し,細 胞 間にあるシナプスにおいて情報 がつたわ
ることを興 奮 伝 達という.
興奮伝達のしくみ
ほとんどのニューロンの場合,細 胞 内を伝導してきた電気的信号
であるインパルスは,シナプス前終末(神経終末)からシナプス間
隙に化 学 物 質を放 出させることにはたらく.
このように 化学物質に
*
よって興 奮 伝 達をおこなっているシナプスを化 学 シ ナ プ ス とい
い,興 奮 伝 達にもちいられる物質を神 経 伝 達 物 質(化 学 伝 達 物
質)
という.
化学シナプスにおける 興 奮 伝 達は以 下のようにおこなわれる.
・ シナプス前終末にはシナプス小 胞と呼ばれる小胞がある.
この
*
内部には 多量の神 経 伝 達 物 質(化学伝達物質)が 貯 蔵 され
ている.
・ 軸索内を伝 導してきたインパルスがシナプス前 終 末にいたる
と,
カルシウムチャネルが開く.
ここから膜内に流入したカルシウ
19
1. 神経生理学の基礎
ムイオンの作用により,シナプス小胞の 膜はシナプス前終末の
膜に密 着する.つ い でシ ナ プ ス小 胞 からシ ナ プ ス 間 隙 にむ
*
かって 神 経 伝 達 物 質 が開 口 放 出(開 口 分 泌)される.
・ シナプス下膜の 膜上には,放出された 神経伝達物質と特異的
に反応する受 容 体 →がある .
シナプス間隙に 放出さ れ た神経
伝達物質はこの受容体に結合し,
シナプス下膜に興奮性または
抑制性の膜電位の変化を引きおこす.
このシナプス下膜におこ
る電 位 変 化をシ ナ プ ス 後 電 位 →という.
・ シナプス下膜の 受容体に結合し た神 経 伝 達 物 質は,シナプス
*
*
間隙にふくまれる分解酵素 の作用をうけ,すみやかに 分解 さ
*
れその作 用を失う.分解された神 経 伝 達 物 質はシナプス前終
末に取りこまれ,ふたたび 神経伝達物質としてリサイクルされる.
□ シ ナ プ ス伝達
注)
化学シナプス: ごく一 部 のシナプスでは ,化 学 的な 信 号によらず電 気 的な 信 号 の 受け わ
たしによりシ ナ プ ス伝 達 がおこなわれている.
これを電 気シナプスという.
注)
神 経 伝 達 物 質( 化 学 伝 達 物 質 )が 貯 蔵: 大 部 分 の 神 経 伝 達 物 質は ,細 胞 体 から軸 索 輸
送によって供 給された物 質 や ,一 度シナプス間 隙に 放 出 され ,分 解をうけたものを原
料にして,
シ ナ プ ス前 終 末 の 細 胞 質で 合 成される.
注)
開口放出( 開 口 分 泌 )
: 開 口 放 出( 開 口 分 泌 )
とは ,分 泌 顆 粒 の 限 界 膜と細 胞 膜とが 融 合
し,つ い で 融 合 点 が 開 口し て 顆 粒 内 容 物 だけが細 胞 外 へ 出るメカニズムをいう.膜 の
融合にはカルシウムイオンが 重 要な 役 割を果 たしている.
これは ニューロンにおける神
経 伝 達 物 質 の 放 出 以 外 にも,腺 細 胞における分 泌 でみられる.
注)
分解酵素: アセチルコリン 分 解 酵 素 であるアセチルコリンエステラーゼはこの 代 表 例 で
ある.猛 毒 の 有 機リン 酸 系 化 合 物 であるサリン は ,
アセチルコリンエステラーゼ の 作
用を強 力に 阻 害し ,
シナプス間 隙にあるアセチルコリン を蓄 積させる.
この 結 果ア セ チ
ルコリン 受 容 体 の 興 奮 が 終 息 せ ず ,そ の 支 配 下にある器 官 の 異 常 興 奮をきたし ,呼
吸 困 難・倦 怠 感・多 量 の 発 汗・吐き気・嘔 吐・筋 肉 の 痙 攣・無 意 識 の 排 便・放 尿・ひきつ
20
1. 神経生理学の基礎
け・よろめき・頭 痛・錯 乱・眠 気・昏 睡・縮 瞳・視 力 低 下などがみられ,重 症になると 呼 吸
停 止 ,つ い で 死に 至る.
すみやかに 分 解: シナプス間 隙には 分 解 酵 素 があるため,放 出された神 経 伝 達 物 質 が
注)
受 容 体と結 合 する能 力 を保 持している時 間 は ,わ ず か 数ミリ秒 間といわれている.
そ の 作 用を失う: 神 経 伝 達 物 質 の 分 解と再 取り込 みは ,
シナプス下 膜に 対 する効 力を失
注)
わせることを意 味 する.
したがって ,そ の 分解と再 取り込 み が 抑 制されると ,
シナプス後
細胞 へ の 効 果は 長く持 続 する.ある種 の 抗うつ 剤はアミン 伝 達 物 質 の 再 取り込 みを抑
制 するものである .
神経伝達物質
神経伝達物質とは
*
神 経 伝 達 物 質(化 学 伝 達 物 質 )
とは,化 学シ ナ プ スにおいて ,
シ ナ プ ス前 終 末 のシナプス小胞からシ ナ プ ス間 隙に 放 出され,
シナプス下膜の受 容 体に 結 合し,
シ ナ プ ス後 電 位を 引きおこす
化学物質 である.
なお個々のニューロンは 固有の神 経 伝 達 物 質をもっており,
これ
をあらわすために,たとえばアセチルコリン を神 経 伝 達 物 質とする
ニューロンをコリン作動性ニューロン,
ノルアドレナリンを神経伝達物
質とするニューロンをアドレナリン 作 動 性 ニューロンなどという.
神経伝達物質 の分類
I.
シナプスの部位による分類
シナプスが中 枢 神 経 系 内にあるか ,末 梢 神 経 系 内にあるかに
よって,神経伝達物質は以下 のように分類される.
1. 末 梢 神 経 系
末梢神経に属するシナプスで分泌される神経伝達物質には,以
下のようなものがある.
*
・ アセチルコリン --------- α 運 動 ニューロン 末 端(骨 格 筋
終 板または神 経 筋 接 合 部 ),自 律 神 経 節 前 ニューロン 末 端
21
1. 神経生理学の基礎
(自 律 神 経 節 ),副 交 感 神 経 節 後 ニューロン 末 端など.
*
・ ノルアドレナリン -------- 交 感 神 経 節 後 ニューロン 末 端な
ど.
2. 中 枢 神 経 系
中枢神経系に属するシナプスで分泌される神経伝達物質として
*
は,
カテコラミン(アドレナリン ,
ノルアドレナリン ,
ドパミン ),
アセ
がんま
*
らくさん
*
*
チルコリン ,
グリシン ,γ アミノ酪 酸(G A B A ),
グルタミン 酸 ,
*
*
*
セロトニン ,
ヒスタミン ,
オピオイドペプチド →,
サブスタンスP( P
*
*
物質)→,
カルシトニン遺伝子関連 ペプチド(CGRP)→などがある.
II.
神経伝達物質の作用による分類
神 経 伝 達 物 質が受容体に作用したとき,
シナプス下 膜では興奮
性または抑 制 性 のシナプス後電位 がおこる .一般にこれは受容体
の性質によって決まるが,以下の 神経伝達物質はつねに興奮性ま
たは抑 制 性に の み作用 する.
・ 興 奮 性 神 経 伝 達 物 質 ---------グルタミン 酸
・ 抑 制 性 神 経 伝 達 物 質 ---------グ リ シ ン ,γ アミノ 酪 酸
(G A B A)
注)
神経伝達物質( 化 学 伝 達 物 質 )
: 神 経 伝 達 物 質とは ,ニューロン から分 泌されシナプス下
膜の 受 容 体に 対し て 作 用 する物 質をいうが,
これらはシナプス間 隙 だけに 放 出される
のではない.あるものは細 胞 外 液に 拡 散し ,
またあるものは血 液 中に 放 出( 神 経 分 泌 )
されて標 的 細 胞に 効 果をおよぼしている.たとえば視 床 下 部ホルモン や 下 垂 体 後 葉
ホルモンは ,ニューロンによって神 経 分 泌されている .
注)
アセチルコリン( acetylcholine;ACh〉
: アセチルコリン は 生 体 内 で 合 成され ,
コリン 作 動
性 神 経 内に 貯 蔵され ,神 経 伝 達 物 質としてはたらく.神 経・筋 接 合 部 および 腸 管など
一 部 の 平 滑 筋 では 興 奮 性にはたらくが,心 房 筋 膜 では 抑 制 性にはたらく .
注)
骨 格 筋 終 板または 神 経 筋 接 合 部: 運 動 ニューロン( 脊 髄 前 角 細 胞 )
は 中 枢 神 経 系( 脊 髄
前角など )
に 細 胞 体 があり,
そ の 軸 索は 末 梢 神 経 の 一 部として,筋 線 維( 骨 格 筋 細 胞 )
にシナプスをつくる.
このシナプス部 位を神 経 筋 接 合 部といい,筋 線 維にあるシナプス
下 膜を骨 格 筋 終 板という.
注)
ノルアドレナリン( norepinephrine,
ノルエピネフリン;norepirenamine)
: ノルアドレナ
リンはフェニルアラニン からチロシン,
ドパ,
ドパミン を経 て 生 合 成される.
アドレナリン
作 動 性 神 経 の 神 経 伝 達 物 質 であるとともに ,副 腎 髄 質 からもアドレナリン( エピネフリ
ン)
とともに分 泌される.末 梢 血 管 抵 抗 の 増 大させ 血 圧を上 昇させるなど,多 彩な 作 用
をもつ. 注)
カテコラミン( catecholamine)
: カテコラミンはカテコール核をもつ生 理 活 性アミン の 総 称
であり,
これにはドパミン ,
ノルアドレナリン(ノルエピネフリン ),
アドレナリン( エピネフ
リン )がふくまれる.三 者とも脳 内 神 経 伝 達 物 質(ドパミン は 黒 質 や 線 状 体に 多く,
ノル
22
1. 神経生理学の基礎
アドレナリン は 青 斑 核にとくに 多 い )
として存 在 する以 外に ,末 梢においてもノルアドレ
ナリンは 交 感 神 経 節 後 ニューロン の 神 経 伝 達 物 質として ,
またアドレナリン は 副 腎 髄
質ホルモンとして重 要 である.
□ おもな 神 経 伝 達 物 質
注)
グリシン( g l y c i n e)
: もっとも単 純な 天 然アミノ酸 である.
注)
γアミノ酪 酸( γ‐aminobutyric acid;G A B A)
: γアミノ酪 酸は ,おもに 中 枢 神 経 系 内に
あって抑制性神経伝達物質としてはたらくアミノ酸 である.
とくに黒 質 ,線 条 体 ,四 丘 体
( 中 脳 蓋 ),視 床 下 部などに 高 濃 度に 分 布し ,小 脳 ,海 馬 ,脊 髄などにも存 在している.
注)
グルタミン 酸( glutamic acid)
: グルタミン 酸は アミノ酸 の 一 種 で ,脳に 多 量にふくまれ
る.神 経 伝 達 物 質としてはたらくとともに ,γアミノ酪 酸 の 前 駆 体として重 要 である.
注)
セロトニン
( serotonin)
: セロトニン作 動 性 神 経は ,中 枢 神 経 系 では 視 床 下 部 ,縫 線 核 ,
松 果 体などにある.セロトニンは 錐 体 外 路 系に 対 する作 用 や 体 温 調 節 のほか,睡 眠 ,
摂 食 抑 制 ,催 吐 ,攻 撃 行 動 ,幻 覚などに 関 与してと考えられている.
また セロトニンは
末梢組織においては 腸 管 ,気 管 支などの平 滑 筋を収縮させ ,腸管運動に 重 要 である.
注)
ヒスタミン( histamine)
: ヒスタミンは 生 体 内 で L‐ヒスチジン から産 生される生 理 活 性ア
ミン のひとつである.ヒスタミンは 中 枢 神 経 系 内 では ,視 床 下 部 などに 存 在 する.
また
末 梢 組 織 では 抗 原 刺 激により肥 満 細 胞などから遊 離し ,炎 症 反 応に 関 与 する.
また ,
胃 粘 膜においては ,壁 細 胞 から遊 離し ,胃 酸 分 泌を促 進 する.
注)
オピオイドペプチド( opioid peptides)
: オピオイドペプチドとしては,エンケファリン 類 ,
エンドルフィン 類 およびダイノルフィン 類 が 確 認されている.中 枢 神 経 系 内 でこれらは
神 経 伝 達 物 質としてはたらき,鎮 痛 ,情 動 ,
ホルモン 分 泌に 関 与 するほか,消 化 管 運
動などにも影 響をあたえる.内 因 性 モルヒネ 様 物 質( 内 因 性 鎮 痛 物 質 )
ともよばれる.
23
1. 神経生理学の基礎
注)
サブスタンスP( P 物 質;s u b s t a n c e P)
: サブスタンスPはポリペプチド の 一 種 であり,血
管拡張,平 滑 筋 収 縮などの作 用をしめす.
また 脊 髄 後 角における侵 害 受 容 ニューロン
の 神 経 伝 達 物 質 であり,痛 覚 伝 達 に 関 与している.
注)
カルシトニン遺 伝 子 関 連 ペプチド( calcitonin gene-rerated peptide;C G R P)
: カル
シトニン遺 伝 子 関 連 ペプチド は サブスタンスPとともに侵 害 受 容 ニューロンにふくまれ,
末 梢 では 血 管 拡 張 などにはたらく.
受容体とその拮抗薬
受容体
神経伝達物質 の受容体は ,
シナプス後 細 胞 の細胞膜上,すなわ
ちシナプス下膜(シナプス後膜)にあって ,神経伝達物質を特異的
*
に認識 するタンパク質 である.
おもな神 経 伝 達 物 質 の 受容体には以下 のようなものがある.
*
・ アセチルコリン 受 容 体 ---------ムスカリン 受 容 体 ,
ニコチ
ン受 容 体
*
*
*
・ ノルアドレナリン 受 容 体 ----- α 受 容 体 →,β 受 容 体 →
・ オピオイドペプチド 受 容 体 -----オピオイド 受 容 体 →
注)
特 異 的に 認 識: ほとんどの場 合 ,ある受 容 体は 一 種 類 の 神 経 伝 達 物 質に 対し て の み 反
応 する.
注)
ムスカリン 受 容 体( muscarinic receptor)
: ムスカリン 受 容 体 はアセチルコリン 受 容 体
の サブタイプ のひとつである.
これは 中 枢 神 経 ,消 化 管 ,心 臓 などに 多く分 布 する.
注)
ニコチン 受 容 体( nicotinic receptor)
: ニコチン 受 容 体はアセチルコリン 受 容 体 の
サブタイプ のひとつである.
これは 中 枢 神 経,自 律 神 経 節 ,神 経 筋 接 合 部に 分 布 する.
注)
α 受 容 体( α‐receptor)
: 交 感 神 経 節 後 線 維より遊 離されるノルアドレナリン(ノルエピ
ネフリン ),
アドレナリン( エピネフリン )の 受 容 体 の サブタイプ のひとつである.
注)
β 受 容 体( β‐receptor)
: 交 感 神 経 節 後 線 維より遊 離されるノルアドレナリン(ノルエピ
ネフリン ),
アドレナリン( エピネフリン )の 受 容 体 の サブタイプ のひとつである.
注)
オピオイド 受 容 体( opioid receptor)
: エンケファリン 類 ,エンドルフィン 類 およびダイ
ノルフィン 類などのオピオイドペプチド( 内 因 性 モルヒネ様 物 質 )の 受 容 体 のひとつで
ある.
拮抗薬
ある種の化学物質をシナプス間隙に投 与することにより,神経伝
24
1. 神経生理学の基礎
*
達物質がシナプス下膜 の受容体に 結合することを妨害 し,
シナプ
ス下膜にシナプス後 電 位をおこさないようにすることができる.
このように 神経伝達物質のシナプス下膜に対するはたらきを妨害
きっ
し,受容体細胞に 反応をおこさせないようにはたらく化学物質を拮
こ うや く
そ がい
*
し ゃだ ん
抗 薬 という.拮 抗 薬は阻 害 薬または 遮 断 薬ともいわれ,さまざ
*
まな病気の治 療 薬 や生理学・生 化 学 の実験などにもちいられてい
る.
結 合 することを妨 害: シナプス前 終 末 から分 泌される神 経 伝 達 物 質は ,
シナプス下 膜 の
注)
受 容 体に 結 合し ,
シ ナ プ ス後 電 位を引きおこす .
このとき,そ の 受 容 体は 神 経 伝 達 物
質 のある部 分 の 立 体 構 造を識 別している.このため神 経 伝 達 物 質と非 常に 似 かよっ
た構 造をもつ拮 抗 薬は,そ の 受 容 体と結 合 することができる.
しかしこの場 合は 受 容 体
と結 合してもシナプス下 膜に 膜 電 位をおこすことはない.
このような 拮 抗 薬 がシナプス
間 隙 中に 存 在 すると,シナプス下 膜 の 受 容 体はこれらに 占 有されてしまう.
このため
シナプス前 終 末 から神経伝達物質が 放 出されても,受容体と結 合 することができずシ
ナプス後 電 位は 発 生しない.
拮 抗 薬: 神 経 系 の 細 胞 のみならず ,神 経 伝 達 物 質によって情 報を受けとる細 胞には ,そ
注)
の 受 容 体に 対 する拮 抗 薬 が 存 在 することが多 い .
さまざまな 症 候 の 治 療 薬: たとえばβ 受 容 体 の 拮 抗 薬 であるβ 遮 断 薬は ,抗 不 整 脈 薬・
注)
血 圧 下 降 薬 や 狭 心 症 予 防 薬として用 いられる.
また 神 経 系 以 外 ではたらくものとして
は,
ヒスタミン の H2受 容 体 の 拮 抗 薬 であるH2ブロッカーがある.
ヒスタミン が H2受 容 体に
結 合 すると,胃 の 塩 酸・ペプシン 分 泌を促 す が ,H2ブロッカーはこれを抑 制 する.
□ 神 経 伝 達 物 質と拮抗薬
おもな拮抗薬
神経系に 作用するおもな 拮抗薬としては ,以下のようなものがあ
る.
25
1. 神経生理学の基礎
・ アトロピン
*
-----------アセチルコリン がムスカリン 受 容 体
に結合することを阻害 する.
*
・ クラーレ -------------アセチルコリン が骨 格 筋 終 板( 神
経 筋 接 合 部 )の ニコチン 受 容 体 に結合 することを 阻害 する.
*
・ α 遮 断 薬 ------------ノルアドレナリンとアドレナリン がα
受 容 体に結合することを阻害 する.
*
・ β 遮 断 薬 ------------ノルアドレナリンとアドレナリン がβ
受 容 体に結合することを阻害 する.
・ ナロキソン → ----------- エンケファリン ,β エンドルフィ
ン,
ダイノルフィン などのオピオイド 受 容 体 →への結 合を阻害
する.
注)
アトロピン
( atropine)
: アトロピンは ,ベラドンナな ど の ナ ス科 植 物 の 根 や 葉にふくまれ
るアルカロイド からつくられる薬 剤 である.そ の 投 与により,副 交 感 神 経 節 後 線 維 支 配
器官に 対 するアセチルコリン の 作 用を競 合 的に 遮 断し ,散 瞳 ,遠 視 性 調 節 障 害 ,眼 内
圧上昇,消 化 管 の 運 動と消化液分泌の 抑 制 ,心 機 能 の 抑制と末 梢 血 管 の 抵 抗を低 下
させる.
注)
クラーレ( curare)
: クラーレは Chondodendron tomentosumという植 物 の 根 から抽 出さ
れる薬 物 で ,南 米 インディアンが 矢 毒として動 物 の 捕 獲に 使 用し て い た .
注)
α 遮 断 薬( α‐adrenergic blocking agent,α‐b l o c k e r)
: α 遮 断 薬はカテコラミン
のα 作 用( 血 管 収 縮 作 用など )
を阻 害 するため ,そ の 投 与により血 管を拡 張し ,血 圧を
低 下させ 末 梢 の 血 流 量を増 加させる.
このためα 遮 断 薬は ,薬 剤として高 血 圧 症 ,褐
色細胞腫,
ショック,心不全,
レイノー病 ,バージャー病 の 治 療にもちいられることがある.
注)
β 遮 断 薬( β‐adrenergic blocking agent,β‐blocker)
: β‐Blocker遮 断 薬はカテ
コラミン の β 作 用( 心収縮力増大,心 拍 数 の増 加など )
を阻 害 する.
このため抗 不 整 脈
薬 ,血 圧 下 降 薬 ,狭 心 症に 対 する予 防 薬としてもちいられる.
□ おもな 拮抗薬
26
1. 神経生理学の基礎
シナプス後電位
シナプス後電位
神経伝達物質の受容体の多くはイオンチャネルとしてはたらく.受
容体の細胞膜外にむいた部分は ,特定の神 経 伝 達 物 質に高い親
和性で結 合する.
ここに神経伝達物質 が結合 すると,
イオンチャネ
ルが開き,
ここから特 定のイオンを透過させる.
このときに 膜内外を移動するイオンの電荷により,
シナプス下膜で
は局所的な膜電位の変化がおこる.
これをシナプス後 電 位という.
シナプス後 電 位には,受容体にあるイオンチャンネルの 種類によっ
て以下の 二種類 のものがある.
*
・ 興 奮 性シ ナ プ ス 後 電 位(E P S P )-------- 受 容 体 の イオン
+
チャネルにおいて 細 胞 外 からナトリウムイオン(Na )やカルシウ
2+
ムイオン
(Ca )
などの陽イオンが流入する.
これによっておこる電
位変化は脱 分 極 性 であり,
シ ナ プ ス後 細 胞 の 興 奮 性 を高 め
る.
*
・ 抑 制 性シ ナ プ ス 後 電 位(I P S P )-------- 受 容 体 の イオン
-
チャネルにおいて 細 胞 外から塩素イオン
(Cl )
などの陰イオンが
流入する.
これによっておこる電位変化は過 分 極 性であり,
シナ
プ ス後 細 胞 の 興 奮 性 を抑 制 する.
注)
興 奮 性シナプス後 電 位( excitatory post-synaptic potential;EPSP)
注)
抑 制 性シナプス後 電 位( inhibitory postsynaptic potential;IPSP)
加重
興奮性細胞に複数個の 刺激をあたえたときに ,刺激効果が重な
*
りあってあらわれることを加 重 という.
注)
加重: 複 数 のニューロン が 一個 の ニューロンにシナプス
( 収束 )する場 合に,複 数 の ニュー
ロン からのシナプス後 電 位によっておこるものを空 間 的 加 重という.
また 一 個 のシ ナ
プスに お い て 短 時 間 の 間にくりかえしもたらされるシナプス後 電 位によっておこるもの
を時 間 的 加 重という.
27
1. 神経生理学の基礎
シナプス後電位とインパルスの発生
一個のニューロンは,その樹状突起に多数のニューロンからシナ
プスを受けている.
これらのシナプスにより樹状突起に 発生する電
位変化には ,興奮性シナプス後 電 位と抑 制 性シナプス後電位とが
あり,
これら局所電位 の変化は加重される.
これらシナプス後電位は細胞体部分につたえられ,
ここに集まっ
た電位変化の総 和が閾値以上である場 合に一定の活 動 性インパ
ルスが発 生する.ただし 加重 がおこった場 合でも,その 和が閾値
に達しなければ活動性インパルスはおこらず,
インパルス自体が加
重されることもない
( 全か無 の法則 →).
□ ニューロン各部 の機能
興奮伝達の特徴
興奮伝達の特徴
シナプスにおける興 奮 伝 達には以 下のような 特徴がある.
1. 一 方 向 伝 達
興奮伝達において ,情報はシ ナ プ ス前 終 末 からシ ナ プ ス後 細
胞 へ の 一 方 向に の み 伝 わる.
シナプスにおけるこのような特性を
*
一 方 向 伝 達 という.
28
1. 神経生理学の基礎
2. シナプス遅延
電気的におこなわれる興奮伝導にくらべ,興奮伝達における化学
物質の分 泌には時 間を要 する.
このため神 経 系を つ た わ る情 報
の 速 度は ,
シ ナ プ ス の 部 位 で 落ちる.
シナプスにおけるこのよう
ち えん
*
な特性をシ ナ プ ス 遅 延 という.
3. シナプス可塑性
シナプス伝 達 効 率は,シナプスの活 動やさまざまな化学物質の
作用により大きく変化する.その効 果は,変化をもたらした作用の消
失後もしばらくつづく性質がある.
このようにシナプス伝達の機能が
か
そ せい
変化することをシ ナ プ ス可 塑 性 という.
シナプスの可塑性は,神経
系によっていとなまれる学習 ,記憶,運 動などに ,大きな役割をはた
している.
・ 短期的なシナプス可塑性 ---- 一個のニューロンに短 時 間 の
刺 激を反 復してくわえると,そのシ ナ プ ス前 終 末 からの 神 経
伝 達 物 質 の 放 出 効 率 が 数秒から数分のあいだ上 昇 する.
こ
*
の現象を反 復 刺 激 後 増 強 という.
・ 抑制性のシナプス可塑性 ------- シ ナ プ スに お け る 刺 激 が
短時間のうちに繰りかえしおこると,
神経伝達物質の再合成が
間にあわなくなることがある.
このような場合,神経伝達物質が
充分に供給されるようになるまで興奮伝達は抑制される.
シナプ
い
ひ ろう
スにおけるこのような 特性を易 疲 労という.
・ 長期のシナプス可塑性 --------- 一 個 の ニューロンに 高 頻
度に 連 続 刺 激 をあたえると ,短 期 的には 易 疲 労がおこるが,
その後,神経伝達物質が充分に供給されるようになり,数時間か
ら数日にわたってシ ナ プ ス 後 細 胞 にそれまでよりも 大きなシ
*
ナ プ ス 後 電 位 がおこるようになる.
この現 象を長 期 増 強 とい
う.
29
1. 神経生理学の基礎
4. その 他
*
シナプス伝達は酸 素 不 足 や 薬 物 の 影 響 を受け や す い .
一方向伝達: 同 一 ニューロン内 で の 興 奮 伝 導は ,両 方 向 性である.
しかし 逆 行 性 伝 導は
注)
ニューロン の 末 端にシナプス小 胞と神 経 伝 達 物 質 が 存 在しなければ ,そ の 部 位 で 消
滅し 他 の 細 胞には 何 の 影 響もおよぼさない.
シナプス遅 延: ニューロン が 静 止 状 態にあるとき,
シ ナ プ ス前 終 末 のシナプス小 胞には
注)
特 殊なタンパク質による開 口 分 泌 抑 制 機 構 がはたらいており,そ の 開 口 部 分は 閉じ
2+
られている.
ここにインパルスが 伝 導されると 細 胞 外 液 中 の Ca が 瞬 間 的に 流 入し ,
これにより開 口 分 泌 抑 制 機 構 がとれて,
シナプス小 胞 の 開 口 が 起こる.
シナプス伝 達
がおこなわれるとき,
シナプス前 終 末 ではこの 一 連 の 過 程を経るため,
シナプス遅 延
がおこる.
またボツリヌス毒などの神 経 毒 は ,
この 開 口 放 出を 阻 害 する作 用をもつ.
2+
反復刺激後増強: インパルスによりシナプス前 終 末 の 膜 内に 流 入し たCa の一 部 が ,次
注)
のインパルスまでに 膜 外に 排 出されずに 残 存し ,
これに 次 のインパルスにより流 入 す
2+
るCa を加え て 伝 達 物 質 の 開 口 分 泌にはたらくことによる.
長 期 増 強: 長 期 増 強は 中 枢 神 経 系 で の 学 習 や 記 憶 の 機 序 の 基 礎 過 程と考えられてお
注)
り,海 馬 や 大 脳 皮 質 のシ ナ プ スのほか,末 梢 交 感 神 経 節 シナプスなどでみられる.
こ
れはシナプス後 細 胞 の 細 胞 内 情 報 伝 達 系 が 関 与 する一 連 の 機 序 が 活 性 化されるこ
とによりおこる.
薬 物 の 影 響: たとえばボツリヌスが 産 生 す る毒 素( ボツリヌス毒 素 )
は,
コリン 作 動 性
注)
ニューロン の 末 端 に 作 用し ,
アセチルコリン の 開 口 放 出を阻 害 する.
□ 興 奮 伝 導と興 奮 伝 達 の特徴
ニューロン回路の基本様式
収束と発散
一個 のニューロンは 複数 のニューロンとシナプスを形 成してい
る.
このとき,一個の ニューロンが 多くの ニューロンからのシナプス
*
結合をうけている状態を収束 という.
また一個 のニューロンが軸索
末端部を分枝し,複数の ニューロンにシナプスしている状 態を発
*
散 という.
このように 神経系は収束と発散により,複雑なニューロン
30
1. 神経生理学の基礎
回路を形 成し,高度な機能を実現している.
□ 収束と発 散
収 束: ひとつのニューロンは ,多 数 の ニューロン からシナプスをうけ ,そ の 樹 状 突 起 領 域
注)
では ,多くの 興 奮 性シナプス後 電 位 や 抑 制 性シナプス後 電 位 がおこる.
これらは 空 間
的 ,時 間 的に 加 重されることによって統 合され ,全 か 無 の 法 則にしたがって ,
インパル
スがおこるか 否 か が 決まる.たとえば,
ひとつの脊 髄 運 動 神 経 細 胞には ,平 均6,000個
のシナプスが 収 束し ,
またひとつの小 脳プ ル キ ン エ細 胞には 18万 個 のシナプスが 収
束 するといわれている.
発散: たとえば,
ひとつの脊 髄 運 動 神 経 細 胞は ,そ の 軸 索 末 端 で 分 枝し ,数 本 から100本
注)
程 度 の 骨 格 筋 線 維( 骨 格 筋 細 胞 )
にシ ナ プ ス結 合をつくり,
これらを支 配している.
促通と閉塞
複数のニューロンが ,あるひとまとまりの ニューロン群 へシナプス
そくつう
へいそく
結合をしている回路においては ,促 通 や 閉 塞と呼ばれる現 象が
みられる.促通とは,興奮しているシナプス前ニューロン の数の和
よりも,
シナプスをうけるニューロン群でおこる興奮の和 の方が大き
くなる現 象をいう.
また 前者よりも,後 者の方が 小さくなることもあり,
これを閉塞という.
31
1. 神経生理学の基礎
□ 促通と閉 塞
シナプス前抑制とシナプス後抑制
あるニューロンおよびシナプスが興奮性の活動をしているとき,他
のニューロンからのシナプスがこの興 奮 性シナプスに対して抑制
*
をかけることがある.
この抑 制に関わるメカニズム は,神 経 系にお
いて重要な役割をはたしている.
この抑制性の入力には,
シナプス
*
*
後抑制 とシナプス前 抑 制 とが知られている .
注)
抑 制に 関 わるメカニズム: たとえば伸 張 反 射( 腱 反 射 )
に お い て ,伸 展 刺 激をうけた骨 格
筋は ,Ia群 線 維 からの 求 心 性 情 報 により収 縮 するが ,同 時 に そ の 拮 抗 筋 群は 弛 緩 す
る.
この 拮 抗 筋 群 の 弛 緩は ,Ia群 線 維 からのシナプスをうけた脊 髄 の 介 在 ニューロン
が ,拮 抗 筋 群 の 運 動 ニューロンに 対し 抑 制をおこなっていることによっておこる.四 肢
の屈 曲・伸 展における拮 抗 運 動は ,
このような メカニズムにより円 滑におこなうことがで
きる.
注)
シナプス後 抑 制: 他 からのシナプスをうけるニューロン の場 合 ,
これが閾 値に 達し 活 動 性
インパルスを発 するか 否 かは ,そ の ニューロンに 収 束 する複 数 のシナプスからの 入 力
の 加 重によって決まる.入 力 の 加 重は ,
シナプス下 膜におこる興 奮 性シナプス後 電 位
と抑 制 性シナプス後 電 位 の 総 和 である.たとえばシ ナ プ ス後 細 胞に 他 からの 興 奮 性
シナプス後 電 位 がおきているときに ,
シナプス下 膜 で 過 分 極 性の 膜 電 位( 抑 制 性シ ナ
プス後 電 位 )が 発 生 すると,
そ の 細 胞 体におこる電 位 変 化の 大きさは 抑 制される.
この
抑 制メカニズムをシナプス後 抑 制という.
注)
シナプス前 抑 制: シナプス前 終 末 からの 神経伝達物質の 分 泌を阻 止 することによる抑制
メカニズムをシナプス前 抑 制という.
シナプス前 終 末 からの 神 経 伝 達 物 質 の 分 泌を抑
制するものとしては,他 の ニューロン からのシナプスのほかに ,
ホルモンなどの液 性 因
子などがあることも 明 らかとなっている.
32
1. 神経生理学の基礎
□ シ ナ プ ス前 抑 制とシナプス後抑制
ニューロンの変性と再生
ニューロンの再生能力
*
ニューロン は生後しばらくは 神経幹細胞からの 分裂・増殖をみる
が,早い段 階でその分 化を終え,その後二度と分裂することなく個
体が死ぬまで 生きつづける非 常に寿 命 が 長 い 細 胞 である.
またニューロン の 細 胞 体 部分が強く障 害されるとニューロンは
*
死 滅し,ふたたびこれが再 生 することはほとんどない .
したがっ
て個体におけるニューロンの数は ,成 人 以 降では減少 の一途をた
どる.
しかし ニューロンの軸 索 部分には ,つよい 再 生 能 力 がある .す
なわち軸 索は終生活 発に 伸 長し,
また枝分 かれして適 切な 細 胞
にシ ナ プ スを形 成 する能力をもちつづける.
このため ,ニューロン
の軸 索 部 分は損 傷をうけても再生することがある.
注)
ニューロン: ヒトの 脳にあるニューロン の 個 数は 1000億とも2000億ともいわれるが ,ニュー
ロンは 他 の 種 類 の 細 胞とことなり,老 化し て 新し い 細 胞におきかわることがなく,そ の
寿 命は 他 の 細 胞とくらべてはるかに長 い .
注)
再 生 することはほとんどない: 近 年 ,実 験 的には 未 分 化 の 神 経 幹 細 胞 からニューロンに
分 化・増 殖させることができることが明 らかとなっている.
33
1. 神経生理学の基礎
ニューロンの変性
ニューロンの細胞体や 軸索が障害されると,ニューロンは以下の
*
ように 変性 する.
・ 順 行 性 変 性 ----------- ニューロンの 軸 索 が 切 断さ れ た場
合,細胞体からの 軸索輸送が絶たれるため,軸 索は 障 害 部 位
からシ ナ プ ス小 頭 側にむかって 変 性 が生ずる.
これをウォー
*
ラー変 性 という.
・ 逆 行 性 変 性 ----------- 細胞体 そのもの,あるいは細 胞 体に
近い軸索の損 傷では,細 胞 体 が障害され,細胞死をおこすこと
が多い.
注)
変性: 細 胞 の 変 性は ,何らかの原 因により細 胞 の 代 謝 が 異 常をきたし ,
これにより細 胞 が
形 態 学 的な 変 化をしめした状 態をいう.
注)
ウォーラー変 性( Wallerian degeneration)
: ウォーラー変 性においては ,時 間 経 過とと
もに 非 ニューロン 性 細 胞 のつくる 被 膜 にも変 性 がおこる.
軸索の再生
ニューロンの軸索が損傷された場 合は,損傷部位よりシナプス小
頭側の軸 索にはウォーラー 変 性 がおこる .
このとき末 梢 神 経 系 で
は,損傷部位の細 胞 体 側の軸索末端が,そ の豊富な再生能力にも
はつ が
とづき活発に伸長( 軸 索 発 芽 )
をはじめる.
このときシュワン細胞が
つくる管状の被膜が残っていれば,その管内にそって 軸索 が 再 生
*
される .
さらにこれが適当な細胞に新たなシナプスをつくると,他の
再生さ れ た軸 索は 消滅 する.
こうして末 梢 神 経 系では,損 傷 前と
まったく同じ神経結合 ができることがある.ただし 軸索の再生が中
*
枢 神 経 系 でおこることはない .
注)
軸 索 が 再 生される: 再 生 する経 過 中にある 軸 索 の 先 端 部は ,機 械 的 刺 激に 対し て 過 敏
となる.
このため四 肢 の 体 表 面の 浅 層をとおる末 梢 神 経 に 再 生 がおこりつつあるとき
には ,皮 膚 の 表 面を軽くたたいたときに 放 散 するような 激し い 痛 み が 感じられることが
ある.こ れ が日 時 の 経 過とともに末 梢 へ 移 行していく現 象をティネル徴 候( T i n e l
sign)
という.
注)
中枢神経系でおこることはない: 軸 索 の 再 生 が 中 枢 神 経 系におこらないメカニズムは 明
らかではない.
しかし 中 枢 神 経 系には ,軸索 の 再 生を阻 害 する何らかの構 造 あるいは
物質 があると 考えられている.
な お 最 近 では 中 枢 神 経 系においても ,不 十 分ながら広
義 の 再 生 がおこることが明らかとなっている.つまり,損 傷をうけた軸 索 が 再 生 するこ
34
1. 神経生理学の基礎
とはないが,損 傷をうけなかった健 全な 軸 索 から側 枝 の 発 芽 がおこり,
これが新 たな
シナプス結 合をつくることがある.
このような 現 象は 再 構 成とよばれ,神 経 系 の 可 塑 性
によっておこると 考えられている.
神経系の分類
末梢神経系の機能的分類
求心性神経と遠心性神経
末梢神経系の機能は末梢組織でおこる刺激を感受し,それを中
枢神経系へ送り届けることと,中枢神経系で発せられた命令を効果
器へ 伝えることである.
このように 末 梢 神 経 系は,情 報 の 向きに
よって 以下のように分 類 することができる .
・ 求 心 性 神 経 ---------- 末 梢 組 織でおこる刺 激を感受し,そ
れによっておこったインパルスを中枢神経系に送る末梢神経で
ある.
・ 遠 心 性 神 経 ---------- 中枢神経系で 発せられた命令をイン
パルスとして効 果 器につたえる末梢神経である.
□ 中 枢 神 経 系と末 梢 神 経 系
35
1. 神経生理学の基礎
体性神経と自律神経
末 梢 神 経 系は,
これが分 布 する組 織 の 種 類によって,以下のよ
うに体 性 神 経と自 律 神 経とに分 類することができる.
*
・ 体 性 神 経 --------- 体性組織に分布する末梢神経をいう.す
なわち体性組織におこる感覚をつかさどり,
また 体 性 組 織にぞ
くする効果器を支配する神経である.体性組織とは,内臓(平滑
筋・心筋・腺およびその表面にある 粘膜)以外のもの ,すなわち
皮 膚・骨・骨 格 筋とそれらに 関与 する結 合 織 ,およびこれらの
表面にある粘 膜などである.
*
・ 自 律 神 経 --------- 体性組織以外に分 布する末梢神経をい
う.すなわち平 滑 筋・心筋・腺およびその表 面にある粘膜(内臓
粘膜)の感覚をつかさどり,
これらに属する効果器を支配する末
梢神経である.自律神経系が分布する組織は,胸腔・腹腔内の
臓器ばかりでなく,体性組織に散在 する平 滑 筋または腺 からな
る組織・器官にもおよぶ .すなわち甲 状 腺 や副腎などの内分泌
腺,汗腺や涙腺などの外分泌腺,瞳孔散大・縮小筋,立毛筋,末
梢組織の 血管平滑筋などは体性組織の 間に存 在するが,
これ
らにも自 律 神 経は分 布し支 配している.
注)
体 性 神 経( somatic nerve)
: 体 性という語は 本 来「 身 体に 関 する 」
という意 味 である.
注)
自 律 神 経( autonomic nerve)
: 自 律 神 経 の 名は ,平 滑 筋・心 筋・腺 が 意 識 的( 随 意 的 )
な 制 御をうけないこと ,すなわち自 律 的( autonomic)
に 制 御されることからきている.
末梢神経系の分類
末梢神経系における 体性神経と自 律 神 経という分 類 法と,求心
性・遠心性神経という分類法を組みあわせると,末梢神経系は以下
の四種類に分類 することができる.
1. 体 性 神 経 系
・ 求心性 のもの ------ 体 性 感 覚 神 経(感覚神 経 )
という.体性
感覚神経のニューロンは,感覚受容器から中枢神経系にいたる
36
1. 神経生理学の基礎
まで原 則 的に一 個 の ニューロン で構成される.
・ 遠心性 のもの ------ 体 性 運 動 神 経(運 動 神 経 )
という.体性
運動神経のニューロンは,中枢神経系から効果器細胞にいたる
まで原 則 的に一 個 の ニューロン で構成される.
2. 自 律 神 経 系
・ 求心性 のもの ------ 内 臓 求 心 性 神 経という.内臓求心性神
経のニューロンは,感覚受容器 から中枢神経系にいたるまで 原
則的に一 個 の ニューロン で構成される.
・ 遠心性 のもの ------ 自 律 神 経 遠 心 路という.
これはさらにふ
たつに 分けられ,交 感 神 経 および 副 交 感 神 経とからなる.交感
神 経 および 副 交 感 神 経 のニューロンは ,中枢神経系 から効 果
器 細 胞にいたるまで 原 則 的 に二 個 の ニューロン で構 成され
る.
□ 末 梢 神 経 系の分類
37
1. 神経生理学の基礎
ニューロンの局在
ニューロンの細胞体と軸索の分布
ニューロンの細胞体部分と軸索部分は,神経組織内でそれぞれ
が特定部位に集まって分布している.
とくに中 枢 神 経 系において ,
もう
ニューロンの細 胞 体が存 在する部 位は,灰 白 質 →・神 経 核 →・網
よ うた い
様 体 →のいずれかであり,末 梢 神 経 系においては 神 経 節 →ま
し んけ いそ う
たは 神 経 叢 →のいずれかである.
このように ニューロンの細胞体は,特定部位にのみ局在し,
ここか
*
‚ç
’·
‚¢
Ž ² õを出して他 のニューロンにシナプスをつくり,
これらが
ネットワークを形づくることによって ,神 経 系は構 成されている.
注)
38
長 い 軸 索: 軸 索 の 長さは ,
ヒトの 場 合1m前 後におよぶものもある.