資料表示(PDF) - ヨコミネ式教育法

脳科学からみる「ヨコミネ式教育法」
横峯吉文は 30 年間の経験から「ヨコミネ式」を作り出しました。2009 年の春、フジテレビ
系列の番組「エチカの鏡」で放映され、全国に大きな反響となり、今や全国 360 ヶ所の保育園・
幼稚園が導入しています。さらに、韓国・インドネシアなどアジア諸国にも広がりを見せてい
ます。ところで、私はこの「ヨコミネ式教育法」を、脳科学や脳育成学の視点から検証したい
と思いました。
さて、人間の脳に関する研究がいま飛躍的に進歩しています。これまでの脳研究は動物実験
や亡くなった脳をもとにした脳研究に頼っていました。しかし、最近になって PET や MRI な
ど画期的な計測装置により人間の脳の様子が詳細に観察することができるようになったからで
す。これらの装置を用いると、何をしているときに、脳のどの部分がどのように動くか等、複
雑な脳の構造と機能が飛躍的に解明されるようになったのです。脳教育研究で有名な、人間性
脳科学研究所所長・元北海道大学教授澤口俊之先生は、著書「脳教育 2.0」の中で、「8 歳までが
勝負、読み・書き ・ 算盤+音楽で子どもの脳は劇的に変わる」と述べています。1999 年出版さ
れた「幼児教育と脳」の中では、「脳科学なしには教育は語れない」とも述べています。
また、脳科学と子育て研究会(8 名)は、著書「6 歳までにわが子の脳を育てる 90 の方法」の中で、
「6 歳までに脳を育てることが大切だ」と記しています。
澤口氏や脳科学と子育て研究会によると次のようなことが記されています。
(1)脳の基礎は5〜6歳までにつくられる
ア) 脳は生後から 6 歳頃までに急速に成長します。生後 400 グラムから 5 歳から 6 歳頃までに
1250 グラムに成長します。普通の成人の脳は 1350 グラムですから、約 90 パーセントにな
ります。赤ちゃんの脳は大人より多くの神経細胞があり、そこで大規模な選別活動が行われ
ています。情報処理に必要な神経細胞回路がつくられるが、要らないものは捨てられていき
ます。生まれてきた脳は柔らかく固まるまでに時期があります。これを臨界期といいます。
この時期は、脳は環境や行動によってさまざまに変化する「可塑性」を持っています。可塑
性とはある物質がある形に変化する柔らかさを持ち、後々までつながっていくことです。勿
論、その後も少しは変化しますが 12 歳頃で成人レベルになります。
ヨコミネ式は 3 歳から 10 歳を臨界期と捕らえ、その臨界期は一度しかなく、臨界期に経験
した事や置かれた環境が一生を左右するという理念のもと、「読み・書き・計算・音楽・体操・
生活習慣・山学校体験」などに取り組んでいます。
イ) 神経細胞「ニューロン」と「シナプス」 脳は、生まれた時からすさまじい「分裂」「消滅」が繰り広げられます。大人よりたくさん
の神経細胞があり、日々「淘汰」されていきます。神経細胞は「ニューロン」と呼ばれます。
ニューロンから出力用繊維と入力用の樹状の突起物が出て、これらを伸ばして「神経回路」
をつくっています。そして、各ニュー
ロン同士が電気信号を出し合いイン・
アウトで情報交換をしているのです。
信号を伝える接合部をシナプスとい
います。生後から 8 歳ぐらいは驚異
的なスピードで増加し、その後は消
滅していきます。消滅とは、ニュー
ロンやシナプスや神経回路は使われ
るものは育ち、使わない物は消滅さ
せていくことです。このことはニュー
ロンやシナプスでは特に重要なこと
です。臨界期がどんなに大事な時期
であることかが分かります。
(2)大脳と前頭前野
約 20 年前から、人間の脳の働きを調べる機械が発明されました。それまで、動物の脳や亡く
なった人の脳を研究してきました。しかし、
MRI と光トポグラフィという機械が発明され
て脳の構造・機能が明確に分かるようになっ
たのです。
ア) 大脳の4つの部屋
大脳(右脳・左脳)は、それぞれ 4 つの
部屋に分かれ、それぞれ違った役割をし
ています。
イ)頭頂葉
両手を頭の天辺にのせるとその部分が頭頂葉
です。
・感覚野〜触ったり、触られたりする時働く
・頭 頂連合野〜どこどこまでの場所・方向の時
働く
・角回〜言葉・計算の時働く
ウ)側頭葉
両耳の奥当たりに側頭葉があります。
・聴覚野〜音や声の出入りの時働く
・ウ ェルニッケ野〜だれかの言葉の意味を理解
する時働く
エ)後頭葉
頭の後ろに手を当てた所にあります。
・視覚野〜ものを見る時働く
オ)前頭葉
おでこの後ろにあります。
・運動野〜手足や体の筋肉を動かす時働く
・前頭前野〜カ)にて説明
・ブローカ野〜言葉をつくりだす時働く
カ) 前頭前野の刺激が脳を鍛える
東北大学教授 川島隆太先生は MRI や光トポグラフィを使って前頭前野の実験をしました。
著書「脳を育て、夢をかなえる」の中で、次のようなことを書かれています。
① 人間の脳が他の動物に比べて大きいのは前頭前野が大きいから。
② 前頭前野の働き
・人の気持ちを推測する ・ものを覚える時、繰り返し練習しようという気持ち
・やる気を出す ・してはいけないと思う ・我慢する
・発明しようとする ・集中する ・2 つ 3 つ同時に進める
・人の話を聞いたり、本を読んで自分の考えや意見をきちんという
・応用問題を解く ・スポーツをする時
これらは、すべて前頭前野の働きです。
③ 「読み・書き・計算」で脳は活性化する。繰り返すことで、脳が鍛えられます。繰り返すことで、
想像力やコミュニケーション力が身に付きます。
④ 「読み・書き・計算」は、基礎基本の学習となり、繰り返すことで身に付きます。
これは、東京医科歯科大学の入来先生グループのサルを使った実験です。サルの手の届かな
い場所にバナナを置きます。長い棒を置きます。サルは棒を使って捕ります。しかし、2 週間
の訓練が必要です。サルはあまり前頭前野が発達していません。次に、バナナと長い棒を手が
届かない場所に置きます。近くに短い棒を置いておきます。
2 週間の訓練をしたサルは、短い棒で長い棒を使ってバナナを捕りました。しかし、訓練し
ていないサルは捕れませんでした。訓練により基礎基本が大切だということが分かりました。
⑤ 学習して、すらすらできるようになったものを繰り返すと前頭前野は働く。つまり、予習よ
り復習が大事。
⑥ 熟読より音読、しかも「ことばや数」で、前頭前野は活性化し鍛えられる。
⑦ コンピュータゲームでは脳はあまり働かない。
⑧ 前頭前野も体の一部、きちんとご飯を食べ、睡眠を十分取ることが大事。
川島先生は、「読み・書き・計算」が脳を活性化する。繰り返すことで、想像力・コミュニケー
ション能力が身に付く。そのことで前頭前野が働くことを強調しています。ヨコミネ式の考え
は川島先生の研究からも裏付けられます。
(3)多重知能とヨコミネ式教育法
脳は多重知能と呼ばれ 6 つの領域に分かれます。
アメリカの心理学者ガードナーは脳を次のように分類しています。
1 言語的知能〜会話や読書、文章を書くときなどに用いられる知能。言葉を見たり、聞いたり
して記憶したり、操ったりする役目を担う。
2 空間的知能〜自分や物体がどの位置に、どのくらいの速さで、どういう位置関係で存在して
いるかを認識・記憶する知能。
3 論理・数学的知能〜計算や暗算、論理的な思考をするときに使われる知能。さまざまな数学的・
論理的な記号を記憶し、理解して、それを操作する。
4 音楽的知能〜歌を歌ったり、楽器を演奏したり、音楽を鑑賞したりするときに使われる知能。
音の並びからメロディを聴き取り、記憶し、その知識や経験をもとに歌ったり演奏したりする
ときに働く。
5 絵画的知能〜絵や図形を見て理解したり、描いたりするときに用いられる知能。
6 身体運動的知能〜手を細かく使ったり、道具を使ったり、スポーツをしたりするというような、
身体動作を意図的に行うときに働く知能。
日本の教育が混迷・混乱しているのは、「理論」が明確になっていないからだと思います。アメ
リカの教育は「多重知能理論」に基づいています。小学校の授業科目はおおむね対応しています。
「国
語・算数・理科・社会・体育・音楽・図工」といった具合です。
空間的知能は「算数・音楽」によって培われます。
記憶には大きく「知識」と「経験」に区分されます。脳は記憶なくして動作ができません。脳
は「学習器」なのです。シナプスの可塑性からみても、脳は常に学習しその結果としての知識と
経験を蓄え続けます。シナプスの可塑性が最も高いのは幼少期です。そのため、学習能力は幼少
期で最も高く、従ってたくさんの知識を覚えさせることはとても重要なのです。「理解したことを
記憶する」という能力は成人でも維持されますが、「理解しないで暗記する能力」は幼少期で最も
高いのです。そのため、幼少期こそ「詰め込み教育」「暗記もの」をたくさんすべきです。また、
一見意味のない事柄を記憶することは、意味がないと思われますが、「記憶する能力」「記憶する
過程・方法を記憶する能力(メタ記憶)」も脳機能です。そうした能力自体を育成するためには「必
要最小限のことを記憶させる」より「多くのことを記憶化させる」という訓練が大切です。「多重
知能を伸ばす」・
「記憶を増やす」・「記憶力をつける」ことは重要なことなのです。多重知能は並
列しています。従ってある知能を育てるべく教育し、その知能が伸びても他の知能には大して影
響はありません。故に、おのおのの知能をまんべんなく幼児期から伸ばすことが大切です。しかし、
2 歳児の「乳児期」では多重知能を意識的に伸ばす必要はありません。脳機能は遺伝と環境の相互
関係によって発達します。遺伝要因そのものを生後に変化させることはできないが環境はさまざ
まであり、遺伝と環境もさまざまです。従って、幼少期の脳育成の基本は「適切な環境」を用意
してあげるべきなのです。その環境は、それぞれの多重知能のフレームの性質からして異なります。
例えば、音楽的知能を育てるには、良質な音楽を聴かせるという環境は当然です。楽器を演奏
することも大切です。このようにすれば「絶対音感」も獲得することができます。つまり、臨界
期にきちんとした音楽的訓練を施す必要があるのです。臨界期を過ぎたら、いくら絶対音感を学
習しようとしてもほとんど不可能です。
シナプスの可塑性とは…記憶 ・ 学習など人の脳の機能を実現するために神経回路が物理的 ・ 生理的に、
その性質を変化させる事のできる能力の事。アポトーシス(細胞の自然死)に
よるニューロンの減少と発芽によるシナプス接合部の増加という物理的な変化
と長期増強によって信号の通りが良くなる。
絵画的知能を育てるには、良質の絵画の環境があれば最適です。また、画用紙・絵の具・クレ
ヨンで、多彩な色を使って自由に描かせることで絵画的知能が育ちます。
空間的知能は積み木やレゴのようなもので、これらをさまざまに組み合わせ、工夫しながら立
体物をつくると空間的知能が育ちます。かくれんぼ遊びや迷路遊びも空間認知の能力が育ちます。
言語的知能や論理・数学的知能でもそれなりの環境が必要です。
このように、多重知能理論に基づく教育は、多くの知能があるので、それらをまんべんなく伸
ばすことがとても大事なことです。
さて、多重知能理論は小学校・中学校でされており、就学前は意識していなかった。しかし、
問題はその教育をはじめる時期である。現在の小学校からは遅いのです。脳育成学からみれば遅
くとも 3 歳児〜 4 歳児頃から教育を始めるべきです。基本である「読み・書き・算盤」・「体操」
は最低限教えるべきであり、ヨコミネ式では「音楽」を加えています。このことは、キューバの
国家的実験でも明らかであります。また、体系だった調査研究でも明らかであります。現在、シ
ンガポールでも取り組まれています。
幼児期の良好な効果は、その後の成人に続くことは、神経回路の発達過程や臨界期を踏まえて
も当然のことです。「読み・書き・算盤・体操・音楽」等を幼児教育で展開することは当然です。
(4)脳の良し悪しは遺伝より環境が大きい
以前は脳の良し悪しは遺伝的な要因が大きいと考えられていた。しかし、脳科学の発達により、
子どもの能力は育つ環境や経験・刺激によって決定される部分が大きいということが分かってき
ました。昔から、「頭のよい子は親がいいから」、「足が速い子どもは親が速いから」、「やっぱり氏
なんだ」と言われてきました。しかし、脳科学の発達により「遺伝より育ちが大きい」とする考
えが大半を示すようになったのです。
そのことをカナダの脳科学者がある実験で実証しました。
「子どもの世話をするラットと世話をしないラットに子育てをさせました。世話をするラットの
子どもは世話をするように育ち、世話をしないラットに育てられたラットは世話をしないラット
に育ちました。これは、遺伝だと思われますが、この実験はさらに続きます。世話をしないラッ
トに育てられたラットを世話をするラットに里子にだしました。すると、世話をするラットに成
長したのです。世話をする親に育てられた経験・環境があったからそうなった「遺伝ではない」、
負の連鎖を経験が断ち切ったということになったのです。ということは、脳の良し悪しは遺伝よ
り環境が大きいといえるのです。
ヨコミネ式は「氏より環境」の考えのもと、導き出した教育法で脳科学の視点からも的を得た
教育法といえます。
これらのことからヨコミネ式教育法は、脳科学・脳発達学から学問から裏付けられた教育方法
だといえるのです。