研究成果 休耕田の生き物の実態3 土の中に眠る貴重な植物 ― 水田および休耕田の埋土種子調査 ― 田んぼの環境の変化によって、かつて田んぼに生えていた植物が今や絶滅が危惧されるほどまでに心配 されている。田んぼから姿を消した植物たちは、本当に失われてしまったのだろうか。貴重な植物たちは、 再び田んぼに姿を見せることはないのだろうか。 休耕された棚田の土を掘り出し、容器に入れ、①水の状態を湛水水位 5cm、②湛水水 位 0cm、③土が湿った状態の 3 段階に設定し、土から発生する植物種の調査を行った。 その結果、今ではヨシに覆われてしまった休耕田の土の中から、イトトリゲモやマルミ スブタなど貴重な植物種が発生した。これらの植物は、種子の状態で土の中で眠り続け ていたのである。水生植物の種子は、発芽に適さない環境では、発芽の機会を待って長 棚田土壌から出現したミズオオバコとシャジクモ い間、休眠することが知られており、これらの種子は「埋土種子」と呼ばれている。休 耕田の土の中には、貴重な植物の埋土種子が眠っていたのである。 この現象は休耕田だけでなく、水田でも確認された。棚田や水田から採取した土の中 からは、地上への発生が見られないミズオオバコやミズマツバなど貴重な水生植物の発 生が確認されたのである。また、静岡県内の 3 ヵ所で実施した冬期に水を張る冬期湛水 のモデル水田のうち、2 ヵ所では絶滅危惧種のシャジクモの発生が見られた。この原因 は明らかではないが、冬期に乾燥する現代の水田環境が、シャジクモの発生を妨げてい 棚田土壌から出現したイトトリゲモ たことが推察される。 田んぼや休耕田の中には、まさに宝が眠っているのである。これらの埋土種子を活用 すれば、休耕田や水田に再び多様性豊かな水草の世界を取り戻せる可能性は十分にある ことをこの結果は示しているだろう。 (稲垣栄洋 富士常葉大学・静岡大学との共同研究) 22
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